特許第5946671号(P5946671)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5946671
(24)【登録日】2016年6月10日
(45)【発行日】2016年7月6日
(54)【発明の名称】コチニール色素製剤
(51)【国際特許分類】
   A23L 17/00 20160101AFI20160623BHJP
   A23L 13/00 20160101ALI20160623BHJP
   C09B 61/00 20060101ALI20160623BHJP
【FI】
   A23L17/00 101C
   A23L13/00 D
   C09B61/00 Z
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-73357(P2012-73357)
(22)【出願日】2012年3月28日
(65)【公開番号】特開2013-201949(P2013-201949A)
(43)【公開日】2013年10月7日
【審査請求日】2015年3月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】390010674
【氏名又は名称】理研ビタミン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】高田 昌彦
(72)【発明者】
【氏名】藤原 和広
【審査官】 川合 理恵
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭59−120075(JP,A)
【文献】 特開平01−225460(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 17/00
A23L 13/00
C09B 61/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/FSTA/FROSTI(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化カルシウムを含有することを特徴とするコチニール色素製剤。
【請求項2】
コチニール色素製剤および酸化カルシウムを添加することを特徴とする畜肉水産練り製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コチニール色素製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
コチニール色素は、耐熱性・耐光性に優れ、明るい赤色に着色できるため、かまぼこや魚肉ソーセージに代表される畜肉・水産練り製品の着色に広く用いられている。しかし、このような製品に含まれるカルシウム片(例えば、骨片、貝殻、卵殻など)がコチニール色素により染着され、製品中に赤い斑点となって現れ、その商品価値を損なうという問題があった。
【0003】
この問題に対し、コチニール色素とメタリン酸ナトリウムを含有することを特徴とする畜肉水産練り製品用の着色料製剤が提案されている(特許文献1)。しかし、メタリン酸ナトリウムなどのリン酸塩を使用すると食品の物性に影響を与えることが懸念される場合がある。また、リン酸塩は水に対する溶解性が低いため、製剤を水に溶解して使用する際にリン酸塩が白色の沈殿物となり、リン酸塩を食品に均一に含有せしめることが困難な場合がある。
【0004】
また、カルシウム片の染着抑制を目的とし、油溶性コチニール色素製剤、又は二重乳化型水溶性コチニール色素製剤により畜肉水産練り製品を着色する方法も提案されている(特許文献2)。しかし、このような形態の色素製剤は、色ムラなく均一に着色することや、色伸び良く効率的に着色することが比較的難しい。
【0005】
一方、畜肉水産練り製品の中でも、かまぼこやなると巻きなどはコチニール色素により部分的に赤色に着色されることが多く、このような製品は、その製造途中または保存中に着色部分から非着色部分へ色素が移行し外観が劣化する現象(色流れ、色移り、色にじみなどと呼ばれる)が発生し易いという問題もあった。
【0006】
この問題に対しては、コチニール色素と、粉末状の難溶性カルシウム含有物質の混合物よりなる着色剤が提案されている(特許文献3)。しかし、このような着色剤は、水に溶解して使用する際に難溶性カルシウム含有物質が沈殿物となり、難溶性カルシウム含有物質を食品に均一に含有せしめることが困難な場合がある。また、このような着色剤では、色移りの問題は解決できても、カルシウム片の染着の問題の解決は困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−109722号公報
【特許文献2】特開2007−104930号公報
【特許文献3】特開平01−225460号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、魚骨等のカルシウム片がコチニール色素により染着される現象を抑制し、且つコチニール色素により部分的に着色される畜肉水産練り製品中の色素の移行を抑制する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、酸化カルシウムを添加することにより、上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成した。
即ち、本発明は、
(1)酸化カルシウムを含有することを特徴とするコチニール色素製剤、
(2)コチニール色素製剤および酸化カルシウムを添加することを特徴とする畜肉水産練り製品の製造方法、を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明のコチニール色素製剤および製造方法により畜肉水産練り製品を着色すると、製品に含まれる魚骨等のカルシウム片に色素が染着して生じる赤色斑点が抑制される。
本発明のコチニール色素製剤および製造方法により畜肉水産練り製品を部分的に着色すると、製品の着色部分から非着色部分への色素の移行が抑制される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のコチニール色素製剤は、少なくともコチニール色素および酸化カルシウムを含有する。
【0012】
本発明に用いられるコチニール色素は、アントラキノン系色素のカルミン酸を主成分とする赤色素であって、カイガラムシ科エンジムシ(Coccus cacti L.)の乾燥体より、水および/またはエタノールで抽出することにより得られる。コチニール色素の形態としては、コチニール色素を含有するコチニール色素水/アルコール溶液を自体公知の方法で粉末化したコチニール色素粉末であることが好ましい。コチニール色素粉末としては、例えばCA−90(商品名;クリスチャンハンセン社製)等が商業的に製造・販売されており、本発明ではこれらを用いることができる。
【0013】
本発明に用いられる酸化カルシウムは、酸化カルシウムとして一般に市場で流通しているものであれば特に制限はない。なお、酸化カルシウムを主成分とする焼成カルシウムは、本発明に用いられる酸化カルシウムに含まれる。このような焼成カルシウムとしては、例えば、うに殻焼成カルシウム、貝殻焼成カルシウム、造礁サンゴ焼成カルシウム、卵殻焼成カルシウムなどが挙げられる。
【0014】
本発明のコチニール色素製剤は、上述のコチニール色素と酸化カルシウムの他に、本発明の効果を妨げない範囲において、従来コチニール色素の製剤に使用されている硫酸アルミニウムカリウム(ミョウバン)、有機酸およびこれらの塩類をはじめ、他の着色料、甘味料、酸味料、保存料、酸化防止剤、蛋白、アミノ酸および糖類等通常色素製剤に使用されている成分を添加し、自体公知の方法により調製することができる。
【0015】
具体的には、例えばデキストリン、乳糖、粉末水飴等を担体(賦形剤)とし、これをコチニール色素の溶液または粉末に配合し、粉状、顆粒状、錠剤状または丸剤状等に成形してなる乾燥(固形)状態の色素製剤として調製することができる。
【0016】
本発明のコチニール色素製剤100質量%中のコチニール色素および酸化カルシウムの含有量に特に制限はないが、コチニール色素(色価1500換算)が通常0.05〜15質量%、好ましくは0.1〜10質量%であり、酸化カルシウムが通常コチニール色素の含有量(色価1500換算)の1.0〜15倍量、好ましくは2.0〜10倍量である。
【0017】
本発明のコチニール色素製剤の使用対象に特に制限はないが、該製剤により、畜肉水産練り製品中の魚骨等のカルシウム片がコチニール色素により染着される現象が抑制されるため、畜肉水産練り製品の着色に好ましく使用できる。畜肉水産練り製品は、魚肉のすり身、畜肉等を原材料とした蛋白質性食品であれば特に制限はないが、水産練り製品としては、例えばカマボコ、魚肉ソーセージ、なると巻きの他、竹輪、はんぺん、簀巻き等が挙げられ、また、畜肉練り製品としては、例えばテリーヌやハム、ソーセージ、ウインナー等が挙げられる。
【0018】
また、本発明のコチニール色素製剤により部分的に着色した畜肉水産練り製品は、着色部分から非着色部分への色素の移行(色流れ、色移り、色にじみなど)が抑制されるため、本発明のコチニール色素製剤は、部分的に赤色に着色してなるカマボコ(例えば、板付きカマボコ、カニ足またはエビの外観を模して製造されるカニ足様カマボコまたはエビ様カマボコなど)やなると巻きなどの着色に好ましく使用できる。
【0019】
本発明のコチニール色素製剤の使用方法に特に制限はないが、畜肉水産練り製品を着色する場合には、例えば、コチニール色素製剤の水溶液を畜肉水産練り製品に噴霧または塗布する、或いはコチニール色素製剤の水溶液を畜肉水産練り製品の素材に練り込み調製する等、自体公知の方法を任意に採用することができる。また、コチニール色素製剤の添加量に特に制限はないが、畜肉水産練り製品100質量%に対し、通常約0.01〜5.0質量%、好ましくは約0.02〜3.0質量%となるように添加することができる。
【0020】
ここで、本発明に係る酸化カルシウムは、必ずしもコチニール色素製剤中に含有されている必要はなく、コチニール色素製剤により畜肉水産練り製品を着色して製造する際に酸化カルシウムを添加して畜肉水産練り製品を製造する方法(コチニール色素製剤および酸化カルシウムを添加することを特徴とする畜肉水産練り製品の製造方法)も本発明に含まれる。具体的には、コチニール色素製剤の水溶液に酸化カルシウムを添加した後に該水溶液を畜肉水産練り製品に噴霧または塗布する、或いは該水溶液を畜肉水産練り製品の素材に練り込む方法や、またコチニール色素製剤の水溶液を畜肉水産練り製品の素材に練り込む際に、該素材に酸化カルシウムを併せて練り込む方法などを実施することができる。
【0021】
このような畜肉水産練り製品の製造方法におけるコチニール色素製剤の添加量に特に制限はないが、畜肉水産練り製品100質量%に対し、コチニール色素製剤が通常約0.01〜5.0質量%、好ましくは約0.02〜3.0質量%である。また、酸化カルシウムの添加量は、畜肉水産練り製品に添加されるコチニール色素製剤中のコチニール色素の含有量(色価1500換算)の1.0〜15倍量、好ましくは2.0〜10倍量とすることができる。
【0022】
以下に本発明を実施例に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0023】
[コチニール色素製剤の調製]
(1)原材料
1)コチニール色素粉末(商品名:CA−90;クリスチャンハンセン社製;色価1500)
2)酸化カルシウム(貝殻焼成カルシウム;商品名:貝殻焼成カルシウム;カワイマテリアル社製;酸化カルシウム含有量91%)
3)乳酸カルシウム(商品名:乳酸カルシウム;太平化学産業社製)
4)硫酸アルミニウムカリウム(商品名:タイエースK−150;大明化学工業社製)
5)リンゴ酸ナトリウム(商品名:DL−リンゴ酸ナトリウム;扶桑化学工業社製)
6)炭酸ナトリウム(商品名:炭酸ナトリウム;高杉製薬社製)
7)デキストリン(商品名:パインデックス#2;松谷化学工業社製)
【0024】
(2)製剤の配合
上記原材料を用いて調製したコチニール色素製剤1および2の配合組成を表1に示した。この内、製剤1は本発明に係る実施例であり、製剤2はそれに対する比較例である。
【0025】
【表1】
【0026】
(3)製剤の調製方法
表1に示した原材料の配合割合に基づいて、全ての原材料を均一に混合し、粉状のコチニール色素製剤1および2各100gを調製した。
【0027】
[試験例1]
[魚骨片への直接の染着性試験]
(1)試験液の調製
コチニール色素製剤1若しくは2または酸化カルシウムを含有しない市販のコチニール色素製剤(下記市販品AおよびB)各10gに80℃の水40mLを各々加え、同温度の温水浴中でマグネチックスターラーを用いて、2時間攪拌・溶解し、色素液1〜4を得た。得られた色素液に20℃の水を加えて希釈し、各30gの試験液1〜4を得た。なお、希釈の割合は表2に従い、試験液1〜4の色価が同一になるよう調整した(ただし、色素液4は希釈せずにそのまま試験液4とした)。
【0028】
<市販のコチニール色素製剤>
市販品A:リケカラーCP−61(商品名;理研ビタミン社製)
市販品B:五色の華(桜)CP−400(商品名;理研ビタミン社製)
【0029】
【表2】
【0030】
(2)魚骨片の調製
シャークボーン・フォルテ(乾燥鮫軟骨)粉末タイプ(商品名;吉切鮫の中骨粉末;カラーズ社製)10gを0.1w/v%水酸化ナトリウム水溶液100mLに24時間浸漬して脱色処理した後、水洗いして自然乾燥し、魚骨片9.5gを得た。
【0031】
(3)魚骨片の着色
(1)で得た試験液1〜4各20gに対し、(2)で得た魚骨片0.1gを添加し、30秒間攪拌した後、室温にて24時間静置した。その後、分析用ろ紙No.2(直径125mm;アドバンテック社製)で自然ろ過し、該ろ紙上に残った魚骨片の染着の程度を目視にて確認した。結果を表3に示す。
【0032】
【表3】
【0033】
表3の結果から、本発明のコチニール色素製剤1を使用することにより、魚骨片に対する直接の染着が抑制されることが明らかである。これに対し、比較例の製剤(コチニール色素製剤2並びに市販品AおよびB)は、いずれもかなりの染着がみられた。
【0034】
[試験例2]
[着色すり身中での魚骨片の染着性試験]
(1)着色すり身の調製
冷凍魚肉すり身(大冷社製)を解凍したもの100gに対し、試験例1で得た魚骨片0.1gを加え、ゴムベラで均一になるまで混合し、さらに試験例1で得た色素液1〜4を各々加えてゴムベラで均一になるまで混合した。得られた混合物をレトルトパウチに入れてプレート状(約7cm×12cm)に整形して充填密封し、120℃、4分間レトルト加熱処理して着色すり身1〜4各約95gを得た。なお、着色すり身100質量部に対する色素液1〜4の添加量は表4に従い、着色すり身1〜4の着色の程度が同一になるよう調整した。
【0035】
【表4】
【0036】
(2)評価方法および結果
(1)で得た着色すり身1〜4をレトルトパウチに入れたまま5℃の冷蔵庫内で1週間保存し、着色すり身の表面上の染着した魚骨片(赤色斑点)の数を確認し、その単位面積当たりの数(個/cm)を算出した。結果を表5に示す。
【0037】
【表5】
【0038】
表5の結果から、本発明のコチニール色素製剤1の使用により着色すり身中の赤色斑点の発生が抑制されることが明らかである。これに対し、比較例の製剤(コチニール色素製剤2並びに市販品AおよびB)では、いずれもかなりの赤色斑点が確認された。
【0039】
[試験例3]
[魚肉ソーセージ中での魚骨片の染着性試験]
(1)魚肉ソーセージの調製
表6の配合処方に従い、解凍した冷凍魚肉すり身とその他の各原材料をゴムベラで均一になるまで混合し、さらに試験例1で得た色素液1〜4を各々加えてゴムベラで均一になるまで混合した。得られた混合物をポリエチレン製の袋に入れて脱気し、着色すり身各約100gを得た。得られた着色すり身を袋から取り出して塩化ビニル製ケーシングに充填したものを120℃、4分間でレトルト加熱処理して、魚肉ソーセージ1〜4を得た。なお、原材料100質量部に対する色素液1〜4の添加量は表7に従い、魚肉ソーセージ1〜4の着色の程度が同一になるよう調整した。
【0040】
【表6】
【0041】
【表7】
【0042】
(2)評価方法および結果
(1)で得た魚肉ソーセージ1〜4をケーシングから取り出して、魚肉ソーセージの長手方向に対して垂直にカットし、その切断面上の染着した魚骨片(赤色斑点)の数を確認し、その単位面積当たりの数(個/cm)を算出した。結果を表8に示す。
【0043】
【表8】
【0044】
表8の結果から、本発明のコチニール色素製剤1の使用により魚肉ソーセージ中の赤色斑点の発生が抑制されることが明らかである。これに対し、比較例の製剤(コチニール色素製剤2並びに市販品AおよびB)では、いずれもかなりの赤色斑点が確認された。
【0045】
[試験例4]
[着色カマボコの色流れ試験]
(1)着色カマボコの調製
表9の配合処方に従い、解凍した冷凍魚肉すり身とその他の各原材料をサイレントカッターに入れ、らい潰・調味し、カマボコベースを得た。このカマボコベースの一部に試験例1で得られた色素液1〜3を各々加えてゴムベラで均一になるまで混合して着色すり身とした。なお、カマボコベース100質量部に対する色素液1〜3の添加量は、表10に従い、着色すり身の着色の程度が同一になるよう調整した。
続いて、未着色のカマボコベースを箱型のステンレス枠に充填して厚さ20mmに成形し、その上部分約3mmを削り取り、そこへ着色すり身を各々載せ、スチームオーブンにて95℃で30分間蒸しあげた後、冷却して、着色カマボコ1〜3を得た。
【0046】
【表9】
【0047】
【表10】
【0048】
(2)評価方法および結果
(1)で得た着色カマボコ1〜3を着色面に対して垂直に切り分け、真空包装し、80℃で20分間殺菌した後、冷凍、解凍し、着色部分と非着色部分との境界面の色のにじみを目視にて観察し、色流れを評価した。結果を表11に示す。
【0049】
【表11】
【0050】
表11の結果から、本発明のコチニール色素製剤1の使用により着色かまぼこの色流れが抑制されることが明らかである。これに対し、比較例の製剤(コチニール色素製剤2および市販品A)では色流れが確認された。