特許第5946690号(P5946690)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5946690ガスタービン燃焼器のパージ方法及びパージ装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5946690
(24)【登録日】2016年6月10日
(45)【発行日】2016年7月6日
(54)【発明の名称】ガスタービン燃焼器のパージ方法及びパージ装置
(51)【国際特許分類】
   F02C 7/232 20060101AFI20160623BHJP
   F02C 7/22 20060101ALI20160623BHJP
   F23R 3/00 20060101ALI20160623BHJP
   F23R 3/36 20060101ALI20160623BHJP
   F02C 3/30 20060101ALI20160623BHJP
【FI】
   F02C7/232 C
   F02C7/22 A
   F23R3/00 A
   F23R3/36
   F02C3/30 B
【請求項の数】9
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2012-105016(P2012-105016)
(22)【出願日】2012年5月2日
(65)【公開番号】特開2013-231415(P2013-231415A)
(43)【公開日】2013年11月14日
【審査請求日】2015年3月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】514030104
【氏名又は名称】三菱日立パワーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】誠真IP特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】落合 啓明
【審査官】 佐藤 健一
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/026982(WO,A1)
【文献】 特開2001−059427(JP,A)
【文献】 特開平11−350978(JP,A)
【文献】 特開2002−138855(JP,A)
【文献】 特開平11−324715(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0193741(US,A1)
【文献】 特開2007−327338(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02C 7/22、232
F02C 3/30
F23R 3/00、36
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油燃料が流れる油燃料ラインおよびガス燃料が流れるガス燃料ラインに連通し、前記油燃料と前記ガス燃料との間で噴射燃料を切換え可能なノズルを備えたガスタービン燃焼器のパージ方法であって、
前記油燃料から前記ガス燃料への噴射燃料の切換え直後に、少なくとも水を用いて前記油燃料ラインのパージを行う第1パージステップと、
前記ガス燃料から前記油燃料への噴射燃料の切換え直前に、少なくとも水を用いて前記油燃料ラインのパージを行う第2パージステップとを備えることを特徴とするガスタービン燃焼器のパージ方法。
【請求項2】
前記第2パージステップは、前記ガス燃料から前記油燃料への噴射燃料の切換えの準備信号に応答して、前記ガス燃料から前記油燃料への噴射燃料の切換え前に行われることを特徴とする請求項1に記載のガスタービン燃焼器のパージ方法。
【請求項3】
前記第2パージステップでは、前記油燃料ラインに水を流す水パージを行った後、前記油燃料ラインに気体を流す気体パージを行うとともに、
前記水パージ及び前記気体パージは、前記ガス燃料から前記油燃料への噴射燃料の切換え前に完了させることを特徴とする請求項1又は2に記載のガスタービン燃焼器のパージ方法。
【請求項4】
前記ノズルは、パイロット油燃料ラインおよびパイロットガス燃料ラインに連通し、前記油燃料と前記ガス燃料との間で噴射燃料が切換え可能な一本のパイロットノズルと、該パイロットノズルを囲むように設けられ、メイン油燃料ラインおよびメインガス燃料ラインに連通し、前記油燃料と前記ガス燃料との間で噴射燃料が切換え可能な複数本のメインノズルとを含み、
前記第1パージステップ及び前記第2パージステップにおいて前記少なくとも水を用いたパージが行われる前記油燃料ラインは、各メインノズルと連通する前記メイン油燃料ラインであり、
前記第2パージステップでは、前記メイン油燃料ラインに水を流す水パージを行った後、前記メイン油燃料ラインに気体を流す気体パージを行うとともに、
前記パイロット油燃料ラインは、前記噴射燃料として前記ガス燃料が選択されているとき、連続的に気体を流す気体パージのみが行われることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のガスタービン燃焼器のパージ方法。
【請求項5】
前記メインノズルは複数のグループに分類されており、
前記第2パージステップにおける前記水パージは、各グループに属するメインノズルに連通するメイン油燃料ラインについて、グループごとに異なるタイミングで開始されることを特徴とする請求項4に記載のガスタービン燃焼器のパージ方法。
【請求項6】
前記第2パージステップにおける前記水パージの開始時、各グループに属するメインノズルに連通するメイン油燃料ラインについて、前記水パージの水量を段階的に増大させることを特徴とする請求項5に記載のガスタービン燃焼器のパージ方法。
【請求項7】
前記第1パージステップ及び前記第2パージステップにおいて前記パージのために前記油燃料ラインに水を流している間、前記パイロットノズルから噴射される燃料流量の全燃料流量に対する比であるパイロット比を一時的に増大させることを特徴とする請求項4乃至6のいずれか一項に記載のガスタービン燃焼器のパージ方法。
【請求項8】
前記第1パージステップ及び前記第2パージステップにおいて、前記パージのために前記油燃料ラインに流す水量は、ガスタービンの出力に応じて失火限界値以下に決定されることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載のガスタービン燃焼器のパージ方法。
【請求項9】
油燃料が流れる油燃料ラインおよびガス燃料が流れるガス燃料ラインに連通し、前記油燃料と前記ガス燃料との間で噴射燃料を切換え可能なノズルを備えたガスタービン燃焼器のパージ装置であって、
パージ用の水が貯留された水タンクと、
前記水タンクを前記油燃料ラインに連通させるパージ水供給路と、
前記パージ水供給路に設けられたパージ水供給バルブと、
前記パージ水供給バルブを開閉制御するコントローラとを備え、
前記コントローラは、
前記油燃料から前記ガス燃料への噴射燃料の切換え信号に応答して、前記ガス燃料への噴射燃料の切換え直後に前記油燃料ラインの第1パージが行われるように、前記パージ水供給バルブを開いて前記油燃料ラインに前記水タンクから水を流すとともに、
前記ガス燃料から前記油燃料への噴射燃料の切換えの準備信号に応答して、前記ガス燃料から前記油燃料への噴射燃料の切換え直前に、前記パージ水供給バルブを開いて前記油燃料ラインに前記水タンクから水を流して第2パージを行うことを特徴とするガスタービン燃焼器のパージ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油燃料とガス燃料との間で噴射燃料を切換え可能なノズルを備えたデュアル式のガスタービン燃焼器のパージ方法及びパージ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、軽油、重油、液化石油ガス(LPG)等の液状の油燃料や、天然ガス、石炭ガス等のガス燃料を含む多様な燃料に対応すべく、油燃料とガス燃料との間で使用燃料を切換え可能にしたデュアル方式のガスタービン燃焼器が知られている。
【0003】
デュアル方式のガスタービン燃焼器では、通常、油燃料からガス燃料に使用燃料を切り換えた後、ノズルに油燃料を導くための流路(油燃料ライン)内に油燃料が不可避的に残留する。この残留油は、ガス燃料の燃焼に起因した高温環境下に曝されてコーキング(Coking)が起こり、ノズルの閉塞の原因となる。また、ノズルの閉塞に至らないとしても、ノズルからの燃料噴射量が要求値からずれる事象が起こり、燃焼振動の発生や排ガス環境規制値(NOx量やCO量)の管理範囲からの逸脱等の原因となる。このようなノズルの閉塞や燃料噴射量の要求値からのズレ等の不具合が一旦生じると、当該不具合が生じたノズルを取り外して洗浄する必要に迫られ、一時的なガスタービンの運転停止を余儀なくされることがあり、発電機会を逸失してしまう。
【0004】
そこで、油燃料からガス燃料に使用燃料を切り換えた直後に、メイン油燃料系統及びパイロット油燃料系統に対して水又は気体を用いたパージを時分割で行うことで、各系統に残留する油を排出するパージ技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
このパージ技術によって、油焚きでの運転からガス焚きでの運転に切り替えた直後にパージを行うことで、油燃料系統内に残留した液状の油燃料(コーキングが起きる前の残留油)をパージにより強制的に排出して、残留油のコーキングに起因した上記不具合(ノズル閉塞や燃料噴射量の要求値からのズレ)を防止できると考えられていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4317628号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、近年、環境規制が厳しくなる傾向にあり、デュアル式のガスタービン燃焼器を用いる場合において排ガス環境規制値が管理範囲から逸脱する問題が顕在化しつつある。
【0007】
本発明者は、デュアル式のガスタービン燃焼器を備えたガスタービンにおいて時折発生する排ガス環境規制値の管理範囲からの逸脱の原因を究明するために検討を重ねた結果、従来の認識に反して、特許文献1に記載のパージ技術を実施しても、油燃料ラインから残留油を完全に除去できていない場合があるとの知見を得た。このように、特許文献1記載のパージ技術に倣って油焚きでの運転からガス焚きでの運転に切り替えた直後に水又は空気によるパージを行っても、油燃料ラインに残留した油燃料を完全に除去できないのは次のような理由によると考えられる。
すなわち、油焚きでの運転からガス焚きでの運転に切り替えた直後のパージによって大部分の液状油燃料を油燃料ラインから排出できたとしても、油燃料ライン(油溜りも含む)のうち流れの淀み部分には液状の油燃料が少なからず残留する。そして、流路内に僅かに残留した燃料油が存在すると、ガス焚きでの運転時の高温環境下に曝され、ガス焚きへの運転に切り替えた直後から残留油が高粘度物質(例えば酸化、劣化、重合、乾燥、炭化等が進行してゲル状になった物質)へと変化していく。この高粘度物質は粘性が高いため、仮に油焚きでの運転からガス焚きでの運転に切り替えた直後に水又は気体を用いたパージを繰り返しても油燃料ラインから高粘度物質を完全に除去することは困難である。そして、この状態でガス焚き運転が行われると、高温環境下に長時間曝された高粘度物質が乾燥して固化物(又は半固化物)となり、油焚きでの運転に再び切り換えられたときに、ノズルからの燃料噴射の不具合が発生し、排ガス環境規制値の管理範囲からの逸脱の原因となる。
【0008】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、デュアル式のガスタービン燃焼器を用いる場合において排ガス環境規制値の管理範囲からの逸脱を効果的に防止しうるガスタービン燃焼器のパージ方法及びパージ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るガスタービン燃焼器のパージ方法は、油燃料が流れる油燃料ラインおよびガス燃料が流れるガス燃料ラインに連通し、前記油燃料と前記ガス燃料との間で噴射燃料を切換え可能なノズルを備えたガスタービン燃焼器のパージ方法であって、前記油燃料から前記ガス燃料への噴射燃料の切換え直後に、少なくとも水を用いて前記油燃料ラインのパージを行う第1パージステップと、前記ガス燃料から前記油燃料への噴射燃料の切換え直前に、少なくとも水を用いて前記油燃料ラインのパージを行う第2パージステップとを備えることを特徴とする。
【0010】
このガスタービン燃焼器のパージ方法によれば、油燃料からガス燃料への噴射燃料の切換え直後に第1パージステップを行うことで、油燃料ラインに残留した液状の油燃料の大部分が除去される。とはいえ、第1パージステップだけで全ての油燃料を除去することは実際上困難であり、例えば油燃料ラインのうち流れの淀み部分に少なからず油燃料が残留してしまう。しかも、第1パージステップによって除去できず僅かに油燃料ラインに残留した油燃料は、ガス焚き運転への切換え直後から高温環境下に曝されて少量の高粘度物質に変化しており、この状態でパージ(第1パージステップ)を繰り返しても高粘度物質を除去することは難しい。
一方、第2パージステップが行われる時点(すなわち、ガス燃料から油燃料への噴射燃料の切換え直前)では、上記少量の高粘度物質はさらにガス焚き運転による高温環境下に長時間曝されて乾燥が進行して固化物(又は半固化物)になっている。また、この時点では、油燃料ラインは、ガス焚き運転への切換え後から油燃料ラインが保有する熱を奪う油燃料が長らく流れていないため、水の沸点以上の高温になっている。この状態で第2パージステップが開始されると、第2パージステップの初期段階において、高温の油燃料ラインに導入されたパージ用の水が蒸発して水蒸気が発生する。この水蒸気によって、固化物(又は半固化物)となった少量の高粘度物質が油燃料ラインの流路内壁面から浮き上がり剥離され、その後に導入されるパージ用の水とともに油燃料ラインから排出される。このとき、油燃料ラインが保有する熱を受け取って高温になったパージ用の水(又は水蒸気)が、固化物(又は半固化物)に変化している高粘度物質と接触して固化物(又は半固化物)の加水分解が起こり、固化物(又は半固化物)の油燃料ラインからの剥離及び排出が促進されると考えられる。
このように、パージメカニズムが異なる2種類の第1パージステップと第2パージステップを組み合わせることで、油燃料ラインからの残留油の除去を確実に行って、排ガス環境規制値の管理範囲からの逸脱を効果的に防止することができる。
なお、第1パージステップが行われる時点(すなわち、油燃料からガス燃料への噴射燃料の切換え直後)では、油燃料ラインには油燃料が直前まで流通しており油燃料ラインから油燃料への伝熱が起きていたため、油燃料ラインはそれほど高温になっていない。そのため、第1パージステップにおいては、第2パージステップとは異なり、上述したパージ用の水からの水蒸気の発生や高温の水又は水蒸気との接触による固化物(又は半固化物)の加水分解は殆んど起きていないと考えられる。
【0011】
前記第2パージステップは、前記ガス燃料から前記油燃料への噴射燃料の切換えの準備信号に応答して、前記ガス燃料から前記油燃料への噴射燃料の切換え前に行ってもよい。
これにより、ガス燃料から油燃料への噴射燃料の切換え直前の適切なタイミングで第2パージステップを行って、油燃料ラインの残留油(固化物又は半固化物)を除去したうえで油焚き運転を開始することができる。よって、排ガス環境規制値の管理範囲からの逸脱を効果的に防止することができる。
【0012】
上記ガスタービン燃焼器のパージ方法において、前記第2パージステップでは、前記油燃料ラインに水を流す水パージを行った後、前記油燃料ラインに気体を流す気体パージを行うとともに、前記水パージ及び前記気体パージは、前記ガス燃料から前記油燃料への噴射燃料の切換え前に完了させてもよい。
このように第2パージステップにおいて水パージ、気体パージの順に行うことで、水パージによって油燃料ライン内の残留油(固化物又は半固化物)を除去した後、油燃料ラインに残存する水(残留油のパージに用いられ、残留油で汚れた水)を気体パージによって排出することができる。しかも、ガス燃料から油燃料への噴射燃料の切換え前に水パージ及び気体パージを完了させることで、油燃料ラインにパージ用の水が残留していない状態で油焚き運転を開始することができる。よって、油焚き運転の初期段階に油燃料ラインに溜まっていた水(残留油のパージに用いられた水)が一挙に噴射されて安定な燃焼が阻害される事態を防止できる。
【0013】
上記ガスタービン燃焼器のパージ方法において、前記ノズルは、パイロット油燃料ラインおよびパイロットガス燃料ラインに連通し、前記油燃料と前記ガス燃料との間で噴射燃料が切換え可能な一本のパイロットノズルと、該パイロットノズルを囲むように設けられ、メイン油燃料ラインおよびメインガス燃料ラインに連通し、前記油燃料と前記ガス燃料との間で噴射燃料が切換え可能な複数本のメインノズルとを含み、前記第1パージステップ及び前記第2パージステップにおいて前記少なくとも水を用いたパージが行われる前記油燃料ラインは、各メインノズルと連通する前記メイン油燃料ラインであり、前記第2パージステップでは、前記メイン油燃料ラインに水を流す水パージを行った後、前記メイン油燃料ラインに気体を流す気体パージを行うとともに、前記パイロット油燃料ラインは、前記噴射燃料として前記ガス燃料が選択されているとき、連続的に気体を流す気体パージのみが行われもよい。
パイロットノズルは、周囲が複数本のメインノズルで囲まれているためメインノズルよりも高温になる傾向があり、特に残留油のコーキングが起きやすい。そこで、パイロットノズルについては、ガス焚き運転中、気体パージを連続的に行うことで残留油のコーキングが防止される。もちろん、連続的に気体パージを行うと、パージを行うために必要な気体供給量が増加するが、パイロットノズルは一本のみであるから、気体供給量の増加は許容できる程度である。一方、メインノズルは複数本設けられているから、仮にメインノズルについても連続的な気体パージを行うと、必要な気体供給量は莫大となり、パージ用の気体を供給するためのコンプレッサの消費エネルギーが増大するだけでなく、場合によってはパージ専用のコンプレッサを設置する必要が生じる。そこで、上述のように、パイロットノズルに比べて低温でコーキングが起こりにくいメインノズルについては連続的な気体パージを行わずに、第1パージステップ及び第2パージステップによる間欠的なパージを行うことで、気体供給量の増加を抑制しながらパイロットノズル及びメインノズルのパージを効果的に行うことができる。
【0014】
また、前記メインノズルは複数のグループに分類されており、前記第2パージステップにおける前記水パージは、各グループに属するメインノズルに連通するメイン油燃料ラインについて、グループごとに異なるタイミングで開始されてもよい。
パージ用の水は、少なからず燃焼安定性に影響を与える。特に、メイン油燃料ラインを介したメインノズルからのパージ用の水の噴射が突然に始まる水パージ開始直後は安定な燃焼が阻害されやすい。そこで、上述のように、第2パージステップにおける水パージを全てのメイン油燃料ラインについて一斉に開始するのではなく、メインノズルのグループごとに水パージの開始タイミングを異ならせることによって、燃焼安定性を維持しやすくなる。
【0015】
さらに、前記第2パージステップにおける前記水パージの開始時、各グループに属するメインノズルに連通するメイン油燃料ラインについて、前記水パージの水量を段階的に増大させてもよい。
このように、第2パージステップにおける水パージの開始時、メイン油燃料ラインについて水パージの水量を段階的に増大させることで、水パージ開始直後における安定な燃焼をより一層維持しやすくなる。
【0016】
また、前記第1パージステップ及び前記第2パージステップにおいて前記パージのために前記油燃料ラインに水を流している間、前記パイロットノズルから噴射される燃料流量の全燃料流量に対する比であるパイロット比を一時的に増大させてもよい。
このように、燃焼安定性に影響を及ぼす可能性がある水パージを行っている間、燃料を拡散燃焼させるパイロットノズルからの燃料噴射量の全燃料流量に占める割合(パイロット比)を一時的に増大させることで、水パージ実施中の燃焼安定性を維持しやすくなる。
【0017】
また上記ガスタービン燃焼器のパージ方法では、前記第1パージステップ及び前記第2パージステップにおいて、前記パージのために前記油燃料ラインに流す水量は、ガスタービンの出力に応じて失火限界値以下に決定されてもよい。
水パージで流す水量には、失火を招くことなく安定燃焼を維持できる失火限界値が存在し、この失火限界値はガスタービンの出力に依存する。そこで、ガスタービンの出力に応じて、水パージで流す水量を失火限界値以下に設定することで、安定燃焼を阻害しない範囲内でガスタービンの出力に応じて適切な水パージの水量を選択して、油燃料ラインからの残留油の除去をより確実に行うことができる。水パージで流す水量は、安定燃焼の維持と残留油の除去を両立する観点から、例えば、失火限界値をFthとしたとき0.5Fth以上0.98Fth以下(好ましくは0.8Fth以上0.95Fth以下)の範囲内で設定してもよい。
【0018】
本発明に係るガスタービン燃焼器のパージ装置は、油燃料が流れる油燃料ラインおよびガス燃料が流れるガス燃料ラインに連通し、前記油燃料と前記ガス燃料との間で噴射燃料を切換え可能なノズルを備えたガスタービン燃焼器のパージ装置であって、パージ用の水が貯留された水タンクと、前記水タンクを前記油燃料ラインに連通させるパージ水供給路と、前記パージ水供給路に設けられたパージ水供給バルブと、前記パージ水供給バルブを開閉制御するコントローラとを備え、前記コントローラは、前記油燃料から前記ガス燃料への噴射燃料の切換え信号に応答して、前記ガス燃料への噴射燃料の切換え直後に前記油燃料ラインの第1パージが行われるように、前記パージ水供給バルブを開いて前記油燃料ラインに前記水タンクから水を流すとともに、前記ガス燃料から前記油燃料への噴射燃料の切換えの準備信号に応答して、前記ガス燃料から前記油燃料への噴射燃料の切換え直前に、前記パージ水供給バルブを開いて前記油燃料ラインに前記水タンクから水を流して第2パージを行うことを特徴とする。
【0019】
このガスタービン燃焼器のパージ装置によれば、油燃料からガス燃料への噴射燃料の切換え信号に応答してガス燃料への燃料切換え直後に第1パージを行うことで、油燃料ラインに残留した液状の油燃料の大部分が除去される。また、ガス燃料から油燃料への噴射燃料の切換えの準備信号に応答して第2パージを油燃料への燃料切換え直前に行うことで、第1パージを行っても除去しきれずに僅かに残留した油燃料がガス焚き運転による高温環境下に長時間曝されて生じた固化物(又は半固化物)を排出できる。このとき、油燃料ラインが保有する熱を受け取って高温になったパージ用の水(又は水蒸気)が、固化物(又は半固化物)に変化している高粘度物質と接触して固化物(又は半固化物)の加水分解が起こり、固化物(又は半固化物)の油燃料ラインからの剥離及び排出が促進されると考えられる。
このように、パージメカニズムが異なる2種類の第1パージと第2パージを組み合わせることで、油燃料ラインからの残留油の除去を確実に行って、排ガス環境規制値の管理範囲からの逸脱を効果的に防止することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、ガス燃料への燃料切換え直後に行う第1パージステップと、油燃料への燃料切換え直前に行う第2パージステップとを組み合わせることで、油燃料ラインからの残留油の除去を確実に行って、排ガス環境規制値の管理範囲からの逸脱を効果的に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】デュアル式のガスタービン燃焼器の構成例を示す図である。
図2】デュアル式のガスタービン燃焼器のパージ装置の全体構成例を示す図である。
図3】パージ装置による水パージ及び空気パージのタイミングチャートの一例を示す図である。
図4】ガスタービン出力とパージ水量の失火限界値との相関の一例を示すグラフである。
図5】ガスタービン燃焼器のパージ方法の手順の一例を示すフローチャートである。
図6】実施例並びに比較例1及び2に関する排ガスCO濃度の分析結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面に従って本発明の実施形態について説明する。ただし、この実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、特定的な記載がない限り本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0023】
以下では、最初に本発明の実施形態に係るパージ装置及びパージ方法の適用対象であるガスタービン燃焼器の構成について説明した後、本実施形態に係るパージ装置及びパージ方法について説明する。
【0024】
図1は、デュアル式のガスタービン燃焼器の構成例を示す図である。同図に示すように、ガスタービン燃焼器1(以下、単に「燃焼器1」と称する。)は、一本のパイロットノズル2を中心として、その周囲に複数本(例えば8本)のメインノズル4が配置された構成を有する。なお、燃焼器1は、各ガスタービンについて複数個(例えば20個)設けられる多缶型であってもよいし、各ガスタービンについて1個だけ設けられる単缶型であってもよい。
【0025】
パイロットノズル2の先端には、パイロット油燃料ライン14及びパイロットガス燃料ライン16を介して、パイロット油燃料10及びパイロットガス燃料12の一方が選択的に供給されるようになっている。(なお、ここでいうパイロット油燃料ライン14及びパイロットガス燃料ライン16とは、パイロットノズル2の外部に設けられて燃料供給装置に連通する外部流路と、パイロットノズル2の内部に設けられて噴射口3A,3Bに至るまでの内部流路(油燃料分配流路)とを含む燃料供給流路全体を指す。)パイロット油燃料10は、パイロット油燃料ライン14を通って、パイロットノズル2の先端に設けられた噴射口3Aから噴射される。一方、パイロットガス燃料12は、パイロット油燃料ライン14の周りに設けられたパイロットガス燃料ライン16を通り、パイロットノズル2の先端に設けられた噴射口3Bから噴射される。
パイロットノズル2の噴射口3A,3Bから噴射されたパイロット油燃料10又はパイロットガス燃料12は、燃焼用空気を用いて燃焼されて噴射口3A,3Bの下流側に拡散火炎を形成する。そして、この拡散火炎からの高温燃焼ガスは、後述のメインノズル4による予混合火炎の保炎点としての役割を果たす。このように、パイロットノズル2は予混合火炎の安定性向上に寄与するから、パイロットノズル2からの噴射燃料の全燃料流量に対する比(パイロット比)を大きくすると、燃焼器1全体としての燃焼安定性が向上する。
【0026】
各メインノズル4の先端には、メイン油燃料ライン24及びメインガス燃料ライン26を介して、メイン油燃料20及びメインガス燃料22の一方が選択的に供給されるようになっている。(なお、ここでいうメイン油燃料ライン24及びメインガス燃料ライン26とは、メインノズル4の外部に設けられて燃料供給装置に連通する外部流路と、メインノズル4の内部に設けられて噴射口5A,5Bに至るまでの内部流路(油燃料分配流路)とを含む燃料供給流路全体を指す。)メイン油燃料20は、メイン油燃料ライン24を通って、油溜り25を経て、メインノズル4の先端に設けられた噴射口5Aから噴射される。一方、メインガス燃料22は、ガス溜り27を含むメインガス燃料ライン26を通って、メインノズル4の先端に設けられた噴射口5Bから噴射される。
メインノズル4の噴射口5A,5Bから噴射されたメイン油燃料20又はメインガス燃料22は、燃焼用空気(メイン空気)と予め混合されて予混合気となる。この予混合気は、パイロットノズル2の噴射口5A,5Bの下流側に形成される拡散火炎からの高温燃焼ガスによって着火燃焼され、予混合火炎を形成する。なお、メインノズル4は、予混合気を燃焼させて予混合火炎を形成するものであるため、局所的な温度上昇を抑制してNOxを低減することができる。
【0027】
図2は、燃焼器1のパージ装置の全体構成例を示す図である。
同図に示すように、パージ装置30は、水タンク32、パージ水供給路36(36A,36B)、パージ水供給バルブ37(37A,37B)、空気タンク34、パージ空気供給路38(38P,38A,38B)パージ空気供給バルブ39(39P,39A,39B)及びコントローラ40を備えている。
なお、ここでは、複数のメインノズル4はグループAとグループBとに分類されており、詳細は図3を用いて後述するが、グループ間において水パージの開始タイミングを異ならしめている。グループAに属するメインノズルをメインノズル4Aと称し、メインノズル4Aに関連するパージ水供給路、パージ水供給バルブ、パージ空気供給路及びパージ空気供給バルブには、それぞれ、符号36A,37A,38A,39Aを付している。同様に、グループBに属するメインノズルをメインノズル4Bと称し、メインノズル4Bに関連するパージ水供給路、パージ水供給バルブ、パージ空気供給路及びパージ空気供給バルブには、それぞれ、符号36B,37B,38B,39Bを付している。さらに、パイロットノズル2に関連するパージ空気供給路及びパージ空気供給バルブには、それぞれ、符号38P,39Pを付している。
【0028】
水タンク32にはパージ用の水が貯留されており、水タンク32はパージ水供給路36(36A,36B)を介して各メインノズル4A,4Bのメイン油燃料ライン24に連通するようになっている。また、各メインノズル4A,4Bに対応するパージ水供給バルブ37A,37Bは、各パージ水供給路36A,36Bに設けられている。各パージ水供給バルブ37A,37Bは、コントローラ40によって開閉制御される。
【0029】
空気タンク34にはパージ用の空気が貯留されており、空気タンク34はパージ空気供給路38(38P,38A,38B)を介して各ノズル2,4A,4Bの油燃料ライン14,24に連通するようになっている。また、各ノズル2,4A,4Bに対応するパージ空気供給バルブ39P,39A,39Bは、各パージ空気供給路38P,38A,38Bに設けられている。各パージ空気供給バルブ39P,39A,39Bは、コントローラ40によって開閉制御される。
【0030】
図3は、パージ装置30による水パージ及び空気パージのタイミングチャートである。同図に示すように、時刻tにおいて、燃焼器1の運転状態が油焚きからガス焚きに切り換えられ、油燃料10,20からガス燃料12,22への燃料切換えを知らせる信号SG1がコントローラ40に入力される。
【0031】
コントローラ40は、燃料切換信号SG1に応答してバルブ37A,37B,39A,39Bを開閉制御して、ガス燃料22への燃料切換え直後(時刻t〜t)に各メインノズル4A,4Bについて第1パージを実施する。
ここで、第1パージとは、少なくとも水パージを含むパージ処理をいい、水パージと空気パージとを組み合わせたものであってもよい。例えば、図3に示すように、第1パージとして、水パージ50を複数回(図3の例では3回)行った後、空気パージ52を行ってもよい。このように水パージ50の後に空気パージ52を行うことで、パージ水と残留油との混合液(油燃料ライン24の洗浄を行った後の残留油で汚れた水)を油燃料ライン24から排出して、燃焼器1のガス焚き運転中において混合液の水分が蒸発して多量の固化物が油燃料ライン24に残ることを防止できる。
【0032】
第1パージが水パージ50及び空気パージ52の組み合わせからなる場合、水パージ50の実施中、コントローラ40による制御下でパージ水供給バルブ(37A,37B)が開かれ、水タンク32からのパージ水がメイン油燃料ライン24に供給され、油燃料ライン24内の残留油がパージ水によって排出される。同様に、空気パージ52の実施中、コントローラ40による制御下でパージ空気供給バルブ(39A,39B)が開かれ、空気タンク34からのパージ空気がメイン油燃料ライン24に供給され、メイン油燃料ライン24内のパージ水と残留油との混合液がパージ空気によって排出される。
【0033】
また、各メイン燃料ライン24について水パージ50を行う際、燃焼安定性を維持する観点から、グループA,Bごとに異なるタイミングで水パージ50を開始してもよい。例えば、図3に示すように、グループAに属する各メインノズル4Aに連通する各メイン油燃料ライン24に対する水パージ50を時刻tで開始し、グループBに属する各メインノズル4Bに連通する各メイン油燃料ライン24に対する水パージ50を時刻tで開始してもよい。
このように、第1パージにおける水パージ50を全てのメイン油燃料ライン24について一斉に開始するのではなく、メインノズル4のグループA,Bごとに水パージ50の開始タイミング(t,t)を異ならせることによって、水パージ50の開始直後における燃焼安定性を維持しやすくなる。
なお、第1パージにおいて水パージ50を複数回実施する場合、燃焼安定性の低下は最初の水パージ50の開始直後に最も起こりやすいから、複数回の水パージ50のうち最初の水パージの開始タイミングのみ各グループA,B間で異ならせれば、燃焼安定性の維持に寄与できる。したがって、それ以降の水パージの開始タイミングは各グループA,Bについて同一であってもよい。あるいは、制御ロジックの簡素化の観点から、図3に示すように各グループA,Bについての毎回の水パージ50のタイミングチャートを共通化すべく、最初の水パージの開始タイミングだけでなく、それ以降の水パージの開始タイミングも各グループA,B間で異ならせてもよい。
【0034】
また、各グループA,Bについての水パージ50の開始時、図3に示すように各水パージ50の水量を段階的(図3に示す例では2段階)に増大させてもよい。このように、水パージ50の開始時、メイン油燃料ライン24に供給する水パージの水量を段階的に増大させることで、水パージ50の開始直後における安定な燃焼をより一層維持しやすくなる。
なお、第1パージにおいて水パージ50を複数回実施する場合、燃焼安定性の低下は最初の水パージ50の開始直後に最も起こりやすいから、複数回の水パージ50のうち最初の水パージの開始時のみ段階的にパージ水量を増大させれば、燃焼安定性の維持に寄与できる。したがって、それ以降の水パージ50の開始時におけるパージ水量は必ずしも段階的に増大させる必要はない。あるいは、制御ロジックの簡素化の観点から、図3に示すように各グループA,Bについての毎回の水パージ50のタイミングチャートを共通化すべく、最初の水パージの開始時だけでなく、それ以降の水パージの開始時においてもパージ水量を段階的に増大させてもよい。
【0035】
また、コントローラ40はパイロットガス燃料ライン16及びメインガス燃料ライン26にそれぞれ設けられた流量調整弁を開度制御して、水パージ50の実施中、燃料を拡散燃焼させるパイロットノズル2からの燃料噴射量の全燃料流量に占める割合(パイロット比)を一時的に増大させてもよい。これにより、水パージ50の実施中における燃焼安定性を維持しやすくなる。例えば、水パージ50の実施中、水パージ50を実施していない場合におけるパイロット比をベース値として、その1〜5%をベース値に加算したものをパイロット比としてもよい。
【0036】
さらに、水パージ50の実施時にメイン油燃料ライン24に流すパージ水の量Yは、ガスタービン出力Xに応じて失火限界値Fth以下に決定してもよい。
水パージ50で流す水量には、失火を招くことなく安定燃焼を維持できる失火限界値Fthが存在し、この失火限界値Fthはガスタービンの出力Xに依存する。すなわち、図4に示すように、失火限界値はFth=f(X)で表される。そこで、ガスタービンの出力Xに応じて、水パージ50で流す水量を失火限界値Fth以下(図4における許容エリア内)に設定することで、安定燃焼を阻害しない範囲内でガスタービンの出力Xに応じて適切な水パージ50の水量を選択して、油燃料ライン24からの残留油の除去をより確実に行うことができる。なお、水パージ50で流す水量は、安定燃焼の維持と残留油の除去を両立する観点から、例えば、0.5Fth以上0.98Fth以下(好ましくは0.8Fth以上0.95Fth以下)の範囲内で設定してもよい。
【0037】
時刻tにおいて第1パージを完了した後、図3に示すように、時刻tにおいてガス燃料12,22から油燃料10,20への燃料切換えの準備信号SG2がコントローラ40に入力されるまでの間、各メインノズル4A,4Bのパージは行わなくてもよい。あるいは、メイン油燃料ライン24からの残留油の排出をより確実に行う観点から、後述する第2パージとは別に、時刻t〜tにおける任意のタイミングで追加的な第3パージを手動又は自動で行ってもよい。例えば、時刻t〜tの期間において、所定時間経過するごとに第1パージと同様な内容の第3パージを追加的に行ってもよい。例えば、所定時間経過するごとにコントローラ40に入力される信号に応答してコントローラ40によりバルブ37A,37B,39A,39Bを開閉制御して、時刻t〜tの期間において各メインノズル4A,4Bについて第3パージを実施してもよい。
【0038】
上記第1パージによって大部分の油燃料をメイン油燃料ライン24から排出できるが、第1パージだけで全ての油燃料を除去することは実際上困難であり、メイン油燃料ライン24には少なからず油燃料が残留してしまう。特に、メイン油燃料ライン24のうちメインノズル4内の油燃料分配流路(図1参照)や油溜り25には、油燃料が残留しやすい傾向にある。また、第1パージによって除去できず僅かにメイン油燃料ライン24に残留した油燃料は、ガス焚き運転への切換え直後(時刻t以降)から高温環境下に曝されて少量の高粘度物質に変化しており、この状態で第1パージを繰り返しても高粘度物質を除去することは難しい。
【0039】
そこで、時刻tにおいて燃料切換えの準備信号SG2がコントローラ40に入力されると、コントローラ40は、信号SG2に応答してバルブ37A,37B,39A,39Bを開閉制御して、メインガス燃料22からメイン油燃料20への噴射燃料の切換え直前(時刻t〜t)に各メインノズル4A,4Bについて第2パージを実施する。
ここで、第2パージとは、少なくとも水パージを含むパージ処理をいい、水パージと空気パージとを組み合わせたものであってもよい。また、制御ロジックの簡素化の観点から、第2パージを第1パージと同一内容としてもよい。
【0040】
例えば、図3に示すように、第2パージとして、水パージ60を複数回(図3の例では3回)行った後、空気パージ62を行ってもよい。このように水パージ60の後に空気パージ62を行うことで、水パージ60によってメイン油燃料ライン24内の残留油(固化物又は半固化物)を除去した後、油燃料ライン24に残存する水(残留油のパージに用いられた水であり、残留油で汚れた水)を空気パージ62によって排出することができる。しかも、メインガス燃料22からメイン油燃料20への噴射燃料の切換え前(時刻t以前)に水パージ60及び空気パージ62を完了させることで、メイン油燃料ライン24にパージ用の水が残留していない状態で油焚き運転を開始することができる。よって、油焚き運転の初期段階にメイン油燃料ライン24に溜まっていた水(残留油のパージに用いられた水)が一挙に噴射されて、安定な燃焼が阻害される事態を防止できる。
【0041】
第2パージが水パージ60及び空気パージ62の組み合わせからなる場合、水パージ60の実施中、コントローラ40による制御下でパージ水供給バルブ37A,37Bが開かれ、水タンク32からのパージ水がメイン油燃料ライン24に供給され、油燃料ライン24内の残留油がパージ水によって排出される。同様に、空気パージ62の実施中、コントローラ40による制御下でパージ空気供給バルブ39A,39Bが開かれ、空気タンク34からのパージ空気がメイン油燃料ライン24に供給され、メイン油燃料ライン24内のパージ水と残留油との混合液がパージ空気によって排出される。
【0042】
また、各メイン燃料ライン24について水パージ60を行う際、燃焼安定性を維持する観点から、グループA,Bごとに異なるタイミングで水パージ60を開始してもよい。例えば、図3に示すように、グループAに属する各メインノズル4Aに連通する各メイン油燃料ライン24に対する水パージ60を時刻tで開始し、グループBに属する各メインノズル4Bに連通する各メイン油燃料ライン24に対する水パージ60を時刻tで開始してもよい。
このように、第2パージにおける水パージ60を全てのメイン油燃料ライン24について一斉に開始するのではなく、メインノズル4のグループA,Bごとに水パージ60の開始タイミング(t,t)を異ならせることによって、水パージ60の開始直後における燃焼安定性を維持しやすくなる。
なお、第2パージにおいて水パージ60を複数回実施する場合、燃焼安定性の低下は最初の水パージ60の開始直後に最も起こりやすいから、複数回の水パージ60のうち最初の水パージの開始タイミングのみ各グループA,B間で異ならせれば、燃焼安定性の維持に寄与できる。したがって、それ以降の水パージの開始タイミングは各グループA,Bについて同一であってもよい。あるいは、制御ロジックの簡素化の観点から、図3に示すように、各グループA,Bについての毎回の水パージ60のタイミングチャートを共通化すべく、最初の水パージの開始タイミングだけでなく、それ以降の水パージの開始タイミングも各グループA,B間で異ならせてもよい。
【0043】
また、各グループA,Bについての水パージ60の開始時、図3に示すように各水パージ60の水量を段階的(図3に示す例では2段階)に増大させてもよい。このように、水パージ60の開始時、メイン油燃料ライン24に供給する水パージの水量を段階的に増大させることで、水パージ60の開始直後における安定な燃焼をより一層維持しやすくなる。
なお、第1パージにおいて水パージ60を複数回実施する場合、燃焼安定性の低下は最初の水パージ60の開始直後に最も起こりやすいから、複数回の水パージ60のうち最初の水パージの開始時のみ段階的にパージ水量を増大させれば、燃焼安定性の維持に寄与できる。したがって、それ以降の水パージ60の開始時におけるパージ水量は必ずしも段階的に増大させる必要はない。あるいは、制御ロジックの簡素化の観点から、図3に示すように、各グループA,Bについての毎回の水パージ60のタイミングチャートを共通化すべく、最初の水パージの開始時だけでなく、それ以降の水パージの開始時においてもパージ水量を段階的に増大させてもよい。
【0044】
また、コントローラ40はパイロットガス燃料ライン16及びメインガス燃料ライン26にそれぞれ設けられた流量調整弁を開度制御して、水パージ60の実施中、パイロット比を一時的に増大させてもよい。これにより、水パージ60の実施中の燃焼安定性を維持しやすくなる。水パージ60の実施中、水パージ60を実施していない場合におけるパイロット比をベース値として、その1〜5%をベース値に加算したものをパイロット比としてもよい。
【0045】
さらに、第1パージにおける水パージ50の水量と同様に、第2パージにおける水パージ60の実施時にメイン油燃料ライン24に流すパージ水の量Yは、ガスタービン出力Xに応じて失火限界値Fth以下に決定してもよい。例えば、水パージ60で流す水量は、安定燃焼の維持と残留油の除去を両立する観点から、0.5Fth以上0.98Fth以下(好ましくは0.8Fth以上0.95Fth以下)の範囲内で設定してもよい。
【0046】
上述のように、メインノズル4A,4Bについては第1パージ及び第2パージを行う。これに対し、パイロットノズル2については、図3に示すように、ガス焚き運転中(時刻t〜t)、空気パージ54を連続的に行ってもよい。これは、パイロットノズル2は、周囲が複数本のメインノズル4A,4Bで囲まれているためメインノズル4A,4Bよりも高温になる傾向があり、特に残留油のコーキングが起きやすいためである。ガス焚き運転中、空気パージ54を連続的に行うことで、パイロット油燃料ライン14内における残留油のコーキングを効果的に防止できる。
そして、時刻tにおいてガス燃料(12,22)から油燃料(10,20)への燃料切換えを知らせる信号SG3がコントローラ40に入力されると、パイロット油燃料ライン14に対する空気パージ54は終了される。
【0047】
図5は、本実施形態における燃焼器のパージ方法の手順を示すフローチャートである。なお、このフローチャートは、燃焼器1が油焚き運転を行っているときから、燃焼器1がガス焚き運転に切り換えられた後、再び油焚き運転に戻るまでの間におけるパージ方法の手順を示している。
【0048】
図5に示すように、燃焼器1の油焚き運転からガス焚き運転への切換え信号SG1がコントローラ40に入力されたか否かが判定される(ステップS2)。このステップS2は、切換え信号SG1がコントローラ40に入力されるまで繰り返される。そして、切換え信号SG1がコントローラ40に入力された場合(ステップS2のYES判定)、ステップS4に進んで、コントローラ40による制御下でバルブ37A,37B,39A,39Bを開閉制御して、ガス燃料22への燃料切換え直後(図3の例における時刻t〜t)に各メインノズル4A,4Bについて第1パージを実施する。また、パイロット油燃料ライン14については、コントローラ40による制御下でバルブ39Pを開閉制御して空気パージ54を開始する(ステップS6)。
【0049】
その後、燃焼器1のガス焚き運転から油焚き運転への切換えの準備信号SG2がコントローラ40に入力されたか否かが判定される(ステップS8)。このステップS8は、準備信号SG2がコントローラ40に入力されるまで繰り返される。そして、準備信号SG2がコントローラ40に入力された場合(ステップS8のYES判定)、ステップS10に進んで、コントローラ40による制御下でバルブ37A,37B,39A,39Bを開閉制御して、メインガス燃料22からメイン油燃料20への噴射燃料の切換え直前(図3の例における時刻t〜t)に各メインノズル4A,4Bについて第2パージを実施する。
【0050】
続いて、燃焼器1のガス焚き運転から油焚き運転への切換え信号SG3がコントローラ40に入力されたか否かが判定される(ステップS12)。このステップS12は、切換え信号SG3がコントローラ40に入力されるまで繰り返される。そして、切換え信号SG3がコントローラ40に入力された場合(ステップS12のYES判定)、ステップS6にて開始したパイロット油燃料ライン14に対する空気パージ54は終了される(ステップS14)。
【0051】
以上説明したように、本実施形態によれば、油燃料20からガス燃料22への噴射燃料の切換え直後(時刻t〜t)に第1パージを行うことで、油燃料ライン24に残留した液状の油燃料の大部分が除去される。とはいえ、第1パージだけで全ての油燃料を除去することは実際上困難であり、例えば油燃料ライン24のうち流れの淀み部分に少なからず油燃料が残留してしまう。しかも、第1パージによって除去できず僅かに油燃料ライン24に残留した油燃料は、ガス焚き運転への切換え直後から高温環境下に曝されて少量の高粘度物質に変化しており、この状態でパージ(第1パージ)を繰り返しても高粘度物質を除去することは難しい。
一方、第2パージが行われる時点(すなわち、ガス燃料22から油燃料20への噴射燃料の切換え直前)では、上記少量の高粘度物質はさらにガス焚き運転による高温環境下に長時間(典型的には数日〜数週間)曝されて乾燥が進行して固化物(又は半固化物)になっている。また、この時点では、油燃料ライン24は、ガス焚き運転への切換え後から油燃料ライン24が保有する熱を奪う油燃料20が長らく流れていないため、水の沸点以上の高温になっている。この状態で第2パージが開始されると、第2パージの初期段階(時刻t付近)において、高温の油燃料ライン24に導入されたパージ用の水が蒸発して水蒸気が発生する。この水蒸気によって、固化物(又は半固化物)となった少量の高粘度物質が油燃料ライン24の流路内壁面から浮き上がり剥離され、その後に導入されるパージ用の水とともに油燃料ライン24から排出される。このとき、油燃料ライン24が保有する熱を受け取って高温になったパージ用の水(又は水蒸気)が、固化物(又は半固化物)に変化している高粘度物質と接触して固化物(又は半固化物)の加水分解が起こり、固化物(又は半固化物)の油燃料ライン24からの剥離及び排出が促進されると考えられる。
このように、パージメカニズムが異なる2種類の第1パージと第2パージを組み合わせることで、油燃料ライン24からの残留油の除去を確実に行って、排ガス環境規制値の管理範囲からの逸脱を効果的に防止することができる。
なお、第1パージが行われる時点(すなわち、油燃料20からガス燃料22への噴射燃料の切換え直後)では、油燃料ライン24には油燃料20が直前まで流通しており油燃料ライン24から油燃料20への伝熱が起きていたため、油燃料ライン24はそれほど高温になっていない。そのため、第1パージにおいては、第2パージとは異なり、上述したパージ用の水からの水蒸気の発生や高温の水又は水蒸気との接触による固化物(又は半固化物)の加水分解は殆んど起きていないと考えられる。
【0052】
また本実施形態によれば、残留油に起因したノズル4A,4Bの閉塞や燃料噴射量の要求値からのズレ等の不具合を回避できるため、ノズルを燃焼器1から取り外しての洗浄を基本的には行わなくて済むようになる。よって、ノズル洗浄時におけるガスタービンの運転停止に起因した発電機会の逸失を防止できる。また、ノズル洗浄中にガスタービンを運転させたい場合を想定して、予備のノズルを準備しておく必要も基本的にはなくなる。
【0053】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明はこれに限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変形を行ってもよいのはいうまでもない。
【0054】
例えば上述の実施形態では、各メインノズル4A,4Bに対する第1パージ及び第2パージの具体的な内容について図3に示す例を挙げたが、油燃料からガス燃料への噴射燃料の切換え直後に少なくとも水を用いた第1パージと、ガス燃料から油燃料への噴射燃料の切換え直前に少なくとも水を用いた第2パージステップを何れかのノズルの油燃料ラインに対して行う限り、第1パージ及び第2パージの具体的な内容は特に限定されない。例えば、パージによる洗浄効果を最大限に享受できるように、水パージ50,60及び空気パージ52,62のパージ水又はパージ空気の流量、パージ水又はパージ空気の圧力、パージ時間、パージ回数等を適宜調節してもよい。
また、上述の実施形態において、第1パージ及び第2パージが空気パージ52,62を含む例について説明したが、空気パージ52,62に替えて、空気以外の任意の種類の気体(例えば窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガス)を各メインノズル4A,4Bに流す気体パージを行ってもよい。気体パージの具体的な実施条件は、空気パージ52,62と同様であってもよい。
【0055】
また、上述の実施形態では、燃焼器1がパイロットノズル2及びメインノズル4A,4Bを備える例について説明したが、燃焼器1の構成はこの例に限定されない。例えば、燃焼器1は一種類のノズルのみを有していてもよく、この場合にはそのノズルのパージ処理を行う際に、油燃料からガス燃料への噴射燃料の切換え直後に少なくとも水を用いた第1パージと、ガス燃料から油燃料への噴射燃料の切換え直前に少なくとも水を用いた第2パージステップとを行ってもよい。
【0056】
[実施例]
上述の実施形態に係る燃焼器のパージ方法が排ガス環境規制値に与える影響について検討するために、次のような実験を行った。すなわち、デュアル式の燃焼器1を備えたガスタービンについて、実施例、比較例1及び比較例2の3種類のパージ処理を実施し、排ガス中の成分を分析し、基準O2濃度15%における排ガスCO濃度[ppm]を求めた。各パージ方法の詳細は次のとおりである。排ガスCO濃度の分析結果にはバラツキが存在するため、実施例並びに比較例1及び2の条件にてパージ処理を行った後に排ガスCO濃度を分析するという操作を複数回繰り返して、排ガスCO濃度の分析結果に関するデータを収集した。
【0057】
実施例並びに比較例1及び2におけるパージ処理の条件は以下のとおりである。
実施例では、図3に示す第1パージ及び第2パージの両方を実施した。具体的には、油燃料20からガス燃料22への噴射燃料の切換え直後(時刻t〜t)に各メインノズル4A,4Bについて第1パージを行った。また、メインガス燃料22からメイン油燃料20への噴射燃料の切換え直前(時刻t〜t)に各メインノズル4A,4Bについて第2パージを実施した。なお、第1パージ及び第2パージは、いずれも、図3の例に示すように、水パージ50,60を3回行った後、空気パージ52,62を一回行うという内容とした。また、各水パージ50,60は、パージ水流量は24,000lb/hであり、水パージ時間は10分とした。
比較例1では、図3に示す第1パージのみを実施した。第1パージの具体的な内容は実施例と同様である。また比較例2では、図3に示す第2パージのみを実施した。第2パージの具体的な内容は実施例と同様である。
【0058】
図6は、実施例並びに比較例1及び2に関する排ガスCO濃度の分析結果を示すグラフである。このグラフから明らかなように、第1パージ及び第2パージの両方を行った実施例では排ガスCO濃度が管理範囲上限を超えることは一度もなかったのに対し、第1パージと第2パージのいずれか一方のみを行った比較例1及び2では排ガスCO濃度のバラツキが大きく、一度も管理範囲内に収まることはなかった。
【0059】
以上から、上記実施例のように、ガス燃料への燃料切換え直後に行う第1パージステップと、油燃料への燃料切換え直前に行う第2パージステップとを組み合わせることで、油燃料ラインからの残留油の除去を確実に行って、排ガス環境規制値の管理範囲からの逸脱を効果的に防止することができることが確認された。
【0060】
なお、第1パージのみを行った比較例1において排ガスCO濃度のバラツキが大きく、一度も管理範囲内に収まらなかったのは、第1パージのみでは油燃料ラインから残留油を完全に除去できておらず、ノズルの閉塞や燃料噴射量の要求値からのズレ等の不具合が燃焼器に生じたためと考えられる。
また、第2パージのみを行った比較例2において排ガスCO濃度のバラツキが大きく、一度も管理範囲内に収まらなかったのは、油焚き運転からガス焚き運転に切り換えた際に油燃料ラインに残留した多量の油燃料がガス焚き運転中の高温環境下に長時間曝されてコーキングを起こして油燃料ラインの流路内壁面への固着が進行しており、第2パージのみでは残留油(固着物)を完全に除去できず、ノズルの閉塞や燃料噴射量の要求値からのズレ等の不具合が燃焼器に生じたためと考えられる。
【符号の説明】
【0061】
1 ガスタービン燃焼器
2 パイロットノズル
3A 噴射口
3B 噴射口
4 メインノズル
5A 噴射口
5B 噴射口
10 パイロット油燃料
12 パイロットガス燃料
14 パイロット油燃料ライン
16 パイロットガス燃料ライン
20 メイン油燃料
22 メインガス燃料
24 メイン油燃料ライン
25 油溜り
26 メインガス燃料ライン
27 ガス溜り
30 パージ装置
32 水タンク
34 空気タンク
36A,36B パージ水供給路
37A,37B パージ水供給バルブ
38A,38B,38P パージ空気供給路
39A,39B,39P パージ空気供給バルブ
40 コントローラ
50 水パージ
52 空気パージ
54 空気パージ
60 水パージ
62 空気パージ


図1
図2
図3
図4
図5
図6