特許第5946697号(P5946697)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5946697
(24)【登録日】2016年6月10日
(45)【発行日】2016年7月6日
(54)【発明の名称】ガスタービン高温部の冷却システム
(51)【国際特許分類】
   F02C 7/18 20060101AFI20160623BHJP
   F02C 6/18 20060101ALI20160623BHJP
   F01K 23/10 20060101ALI20160623BHJP
【FI】
   F02C7/18 E
   F02C6/18 A
   F01K23/10 T
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-119507(P2012-119507)
(22)【出願日】2012年5月25日
(65)【公開番号】特開2013-245604(P2013-245604A)
(43)【公開日】2013年12月9日
【審査請求日】2015年3月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】514030104
【氏名又は名称】三菱日立パワーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】誠真IP特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】上田 正和
(72)【発明者】
【氏名】中村 愼祐
【審査官】 佐藤 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−112274(JP,A)
【文献】 特開平10−299509(JP,A)
【文献】 特開2006−029162(JP,A)
【文献】 特開2008−215184(JP,A)
【文献】 特開2003−120217(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02C 7/12−18
F01D 11/00−24
F01K 23/10
F02C 6/18
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスタービンの排熱を利用して排熱回収ボイラにおいて給水を加熱して蒸気を生成し、該蒸気によって蒸気タービンを駆動するコンバインドサイクル発電プラントに用いられるガスタービン高温部の冷却システムであって、
前記ガスタービンの高温部の冷却に用いられる冷媒を前記給水との熱交換によって冷却するクーラと、
前記クーラへの前記給水の供給量を調節する流量調節弁と、
前記ガスタービンの出力に応じて決定される前記供給量の目標値に、前記ガスタービンの前記出力に対する、前記熱交換に起因した前記ガスタービン高温部の冷却量の応答遅れに応じて決定される補正値を加算して前記供給量の設定値を求め、該設定値に基づいて前記流量調節弁を制御するコントローラとを備えることを特徴とするガスタービン高温部の冷却システム。
【請求項2】
前記コントローラは、前記ガスタービンによって駆動される発電機の電力系統に対する併入及び解列時に、前記補正値の加算を無効化し、前記補正値が加算されていない前記目標値を前記設定値として用い、前記流量調節弁の制御を行うことを特徴とする請求項1に記載のガスタービン高温部の冷却システム。
【請求項3】
前記コントローラは、
前記ガスタービンの前記出力と、一次遅れ要素による一次遅れ処理が施された前記出力との偏差に基づいて前記補正値を決定し、該補正値を前記目標値に加算して前記設定値とする先行制御部と、
前記供給量の検出値と前記設定値との偏差に基づいて、前記流量調節弁の開度をフィードバック制御するフィードバック制御部と、
前記発電機と前記電力系統との間に設けられた遮断器の開閉信号に基づいて、前記一次遅れ要素をオフにして、前記先行制御部による前記補正値の加算を無効化する先行制御無効化部とを含むことを特徴とする請求項2に記載のガスタービン高温部の冷却システム。
【請求項4】
前記先行制御無効化部は、前記遮断器の開閉信号を受け取ってから所定の期間、前記一次遅れ要素をオフにすることを特徴とする請求項3に記載のガスタービン高温部の冷却システム。
【請求項5】
前記コントローラは、
前記ガスタービンの前記出力と、一次遅れ要素による一次遅れ処理が施された前記出力との偏差に基づいて前記補正値を決定し、該補正値を前記目標値に加算して前記設定値とする先行制御部と、
前記供給量の検出値と前記設定値との偏差に基づいて、前記流量調節弁の開度をフィードバック制御するフィードバック制御部と、
を含み、
前記一次遅れ要素の時定数は、前記ガスタービンの出力に対する前記ガスタービンの前記高温部の冷却量の応答性に応じて決定されることを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載のガスタービン高温部の冷却システム。
【請求項6】
前記時定数は、前記ガスタービンの出力のステップ状の入力に対する前記ガスタービンの前記高温部の冷却量のステップ応答が、該冷却量の最終的な変化量の63.2%に到達するまでの時間であることを特徴とする請求項5に記載のガスタービン高温部の冷却システム。
【請求項7】
空気圧縮機と、
前記空気圧縮機からの圧縮空気を燃焼用空気として用い燃料を燃焼させるように構成された燃焼器と、
前記燃焼器からの燃焼ガスにより駆動されるように構成されたタービンと、
を備えるコンバインドサイクル発電プラント用のガスタービンであって、
前記ガスタービンの高温部を前記コンバインドサイクル発電プラントの前記排熱回収ボイラにおける前記給水との熱交換によって冷却した冷媒により、前記ガスタービンの高温部を冷却するように構成された請求項1乃至6の何れか一項に記載の冷却システムを備えることを特徴とするコンバインドサイクル発電プラント用ガスタービン。
【請求項8】
蒸気タービンと、
請求項7に記載のガスタービンと、
前記ガスタービンからの排ガスを熱源として前記蒸気タービンを駆動するための蒸気を生成するように構成された排熱回収ボイラと、を備えることを特徴とするコンバインドサイクル発電プラント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンバインドサイクル発電プラントに用いられるガスタービン高温部の冷却システムに関する。なお、ガスタービン高温部とは、例えば、ガスタービンの動静翼、ロータ等を指す。
【背景技術】
【0002】
コンバインドサイクル発電プラントは、ガスタービン及び蒸気タービンを組み合わせたプラントであり、高い発電効率を達成しうる発電方式として知られている。この発電プラントは、ガスタービンからの高温排ガスの排熱を利用して排熱回収ボイラで蒸気を生成し、この蒸気によって蒸気タービンを駆動するようになっている。
【0003】
ここで、ガスタービンの出力に応じてタービン温度が変化すると、タービンの回転部(タービン動翼等)と静止部(ケーシング等)との間のクリアランスが変動してしまう。タービンの回転部と静止部とのクリアランスは、大きすぎると燃焼ガスの漏れに起因する効率低下を招き、小さすぎると回転部と静止部の接触のリスクが高まる。よって、ガスタービンの出力にかかわらずタービンの回転部と静止部との間の上記クリアランスを適切な範囲内に維持するため、タービン温度を設定温度に制御する必要がある。
【0004】
そこで、排熱回収ボイラへの給水との熱交換により冷媒を冷却し、該冷媒を用いて、ガスタービンの高温部を冷却するようにしたコンバインドサイクル発電プラントが知られている(特許文献1及び2参照)。このように、ガスタービン高温部の冷却用の冷媒を排熱回収ボイラへの給水とクーラにて熱交換させることで、ガスタービン高温部の冷却を効果的に行うとともに、給水への熱回収によりプラント全体の熱効率を改善することができる。
なお、特許文献1には、ガスタービンの圧縮機の途中から抽気された圧縮空気をガスタービン高温部の冷却用の冷媒として用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3716188号公報
【特許文献2】特開2000−227031号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、ガスタービンの高温部を適切に冷却するためには、ガスタービンの出力が高いほど、ガスタービン高温部の冷却用の冷媒をより多くの給水と熱交換させることが望まれる。そのため、ガスタービン出力に応じて決まるクーラを通過する給水流量の目標値と、流量計によるクーラを通過する給水流量の検出値との偏差に基づいて、給水流量をフィードバック制御することが考えられる。
【0007】
しかしながら、本発明者らは、鋭意検討の結果、上述の手法によりクーラを通過する給水流量を制御した場合、ガスタービン出力に対するガスタービン高温部の冷却量(ガスタービン高温部と冷媒との熱交換量)の応答性が低いために、タービンの回転部と静止部との間のクリアランスが一時的に管理範囲を逸脱しうるとの知見を得た。
なお、ガスタービン出力に対してガスタービン高温部と冷媒との熱交換量が遅れるのは、次のような理由によると考えられる。すなわち、ガスタービン出力が変動すると、これに伴ってクーラを通過する給水流量の目標値が更新される。この新たな給水流量の目標値と、流量計によるクーラを通過する給水流量の検出値との偏差に基づくフィードバック制御によって、クーラにおける給水流量を調節するための流量調節弁の開度が変更され、クーラにおける給水流量が変化する。ところが、クーラにおける給水流量が変化しても、流量が変更された給水と冷媒とのクーラにおける熱交換によって、冷媒温度が実際に変化するまでの熱伝達の過程を経なければ、クーラへの給水供給量の変更の影響がガスタービン高温部の冷却量の変化として表れることがない。よって、上記クーラにおける熱伝達の過程が主な原因となり、ガスタービンの出力に対して、ガスタービン高温部と冷媒との熱交換量(冷却量)は遅れを持って追従することになると考えられる。
【0008】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、ガスタービン出力の変動に迅速に応答してガスタービン高温部の冷却量を調節し、タービンの回転部と静止部との間のクリアランスの管理範囲からの一時的な逸脱を防止しうるガスタービン高温部の冷却システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るガスタービン高温部の冷却システムは、ガスタービンの排熱を利用して排熱回収ボイラにおいて給水を加熱して蒸気を生成し、該蒸気によって蒸気タービンを駆動するコンバインドサイクル発電プラントに用いられるガスタービン高温部の冷却システムであって、前記ガスタービンの高温部の冷却に用いられる冷媒を前記給水との熱交換によって冷却するクーラと、前記クーラへの前記給水の供給量を調節する流量調節弁と、前記ガスタービンの出力に応じて決定される前記供給量の目標値に、前記ガスタービンの前記出力に対する、前記熱交換に起因した前記ガスタービン高温部の冷却量の応答遅れに応じて決定される補正値を加算して前記供給量の設定値を求め、該設定値に基づいて前記流量調節弁を制御するコントローラとを備えることを特徴とする。
【0010】
このガスタービン高温部の冷却システムでは、ガスタービン出力に応じて決定される給水供給量の目標値に、ガスタービン出力に対するガスタービン高温部の冷却量の応答性に応じて決定される補正値を加算して給水供給量の設定値を求め、該設定値に基づいて流量調節弁を制御するようになっている。そのため、ガスタービン出力に変動が生じても、補正値の加算により先行的に給水供給量の調節が行われるため、ガスタービン出力の変動に迅速に応答してガスタービン高温部の冷却量を調節することができる。よって、タービンの回転部と静止部とのクリアランスの管理範囲からの一時的な逸脱を防止することができる。
【0011】
上記ガスタービン高温部の冷却システムにおいて、前記コントローラは、前記ガスタービンによって駆動される発電機の電力系統に対する併入及び解列時に、前記補正値の加算を無効化し、前記補正値が加算されていない前記目標値を前記設定値として用い、前記流量調節弁の制御を行ってもよい。
電力系統に対する発電機の併入及び解列時に、ガスタービンの負荷は不安定であり、大きく急激に変動する。そのため、このような場合においても給水供給量の目標値への補正値の加算を行えば、補正値の加算が外乱となって、ガスタービン高温部の冷却量の適切な制御が却って妨げられるおそれがある。そこで、上述のように、発電機の併入及び解列時に、給水冷却量の目標値への補正値の加算を無効化し、補正値が加算されていない目標値を給水冷却量の設定値として用いることで、発電機の併入及び解列時においてもガスタービン高温部の冷却量を適切に制御できる。
【0012】
発電機の併入及び解列時に補正値の加算を無効化する場合、前記コントローラは、前記ガスタービンの前記出力に一次遅れ処理を施す一次遅れ要素と、前記ガスタービンの前記出力と、前記一次遅れ処理が施された前記出力との偏差に基づいて前記補正値を決定し、該補正値を前記目標値に加算して前記設定値とする先行制御部と、前記供給量の検出値と前記設定値との偏差に基づいて、前記流量調節弁の開度をフィードバック制御するフィードバック制御部と、前記発電機と前記電力系統との間に設けられた遮断器の開閉信号に基づいて、前記一次遅れ要素をオフにして、前記先行制御部による前記補正値の加算を無効化する先行制御無効化部とを含んでいてもよい。
これにより、一次遅れ要素、先行制御部、フィードバック制御部及び先行制御無効化部という簡単な構成で、ガスタービンの状態(発電機の併入及び解列時であるか否か)に応じて、給水冷却量の目標値への補正値の加算の有無を切り換えて、ガスタービン高温部の冷却量を適切に制御できる。
【0013】
また、この場合、前記先行制御無効化部は、前記遮断器の開閉信号を受け取ってから所定の期間、前記一次遅れ要素をオフにしてもよい。
これにより、コントローラの構成を複雑化することなく、遮断器の開閉信号を受け取った後のガスタービン負荷が不安定である所定期間(発電機の併入又は解列後の所定の期間)、一次遅れ要素をオフにして、給水供給量の目標値への補正値の加算を無効化できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ガスタービン出力に応じて決定される給水供給量の目標値に、ガスタービン出力に対するガスタービン高温部の冷却量の応答性に応じて決定される補正値を加算するようにしたので、ガスタービン出力に変動が生じても、補正値の加算により先行的に給水供給量の調節が行われるため、ガスタービン出力の変動に迅速に応答してガスタービン高温部の冷却量を調節することができる。よって、タービンの回転部と静止部とのクリアランスの管理範囲からの一時的な逸脱を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】コンバインドサイクル発電プラントの全体構成例を示す図である。
図2】空気圧縮機からの圧縮空気の一部を冷却する冷却システムの詳細例を示す図である。
図3】流量調節弁(回収弁又はダンプ弁)の開度制御を行う際のコントローラの制御ロジックを示すブロック図である。
図4】先行制御部による補正値の加算の技術的意義を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面に従って本発明の実施形態について説明する。ただし、この実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、特定的な記載がない限り本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0017】
図1は、コンバインドサイクル発電プラント(以下、発電プラントと称する)の全体構成例を示す図である。
同図に示すように、発電プラント1は、主として、ガスタービン2と、蒸気タービン10と、排熱回収ボイラ20と、ガスタービン高温部の冷却システム30とを備えている。
【0018】
発電プラント1は、ガスタービン2及び蒸気タービン10のロータが共通である1軸型であってもよいし、ガスタービン2及び蒸気タービン10のロータが互いに独立である多軸型であってもよい。なお、図1には、1軸型の発電プラント1を示した。
【0019】
ガスタービン2及び蒸気タービン10のロータには、発電機8が連結されている。そして、ガスタービン2及び蒸気タービン10のロータが回転することで、発電機8が駆動されて電力が生成されるようになっている。なお、発電機8の電気的出力は電力量計35によって計測される。電力量計35の計測結果は後述のコントローラ50に送られ、流量調節弁(回収弁37又はダンプ弁39)の開度制御に用いられる。
また、発電機8は、遮断器34を介して電力系統9に連系される。遮断器34の開閉信号は、コントローラ50に送られ、流量調節弁(回収弁37又はダンプ弁39)の開度制御に用いられる。
【0020】
ガスタービン2は、空気圧縮機3、タービン4及び燃焼器5を有している。空気圧縮機3は、大気を吸入して圧縮し、燃焼器5に供給する。燃焼器5では、空気圧縮機3から供給された圧縮空気を燃焼用空気として用い、燃料ガスを燃焼させる。燃焼器5における燃焼によって生成された燃焼ガスは、タービン4に供給され、タービン4を駆動する。タービン4を通過した後の燃焼ガス(排ガス)は、排熱回収ボイラ20に導かれて、排熱回収ボイラ20における蒸気生成用熱源として利用された後に排気される。
なお、空気圧縮機3で生成される圧縮空気の一部は、空気圧縮機3の途中で抽気され、後述する冷却システム30におけるTCAクーラ31によって冷却されてタービン冷却空気とされ、タービン4の高温部(例えば動静翼やロータ)の冷却に用いられる。
【0021】
排熱回収ボイラ20内には、低圧節炭器27、中圧節炭器28、高圧節炭器29、低圧蒸発器24、中圧蒸発器25及び高圧蒸発器26が配置されている。低圧蒸発器24には低圧ドラム21が付属されている。中圧蒸発器25には中圧ドラム22が付属されている。高圧蒸発器26には高圧ドラム23が付属されている。
【0022】
蒸気タービン10は、高圧タービン11、中圧タービン12及び低圧タービン13を備えている。高圧タービン11には、高圧ドラム23からの飽和蒸気を排熱回収ボイラ20内の高圧過熱器(不図示)で過熱した高圧蒸気が供給される。高圧タービン11に供給された高圧蒸気は、高圧タービン11で仕事をした後、排熱回収ボイラ20内の再熱器(不図示)に送られる。
【0023】
排熱回収ボイラ20の再熱器には、高圧タービン11で仕事をした後の高圧蒸気(再熱前の低温蒸気)に加えて、中圧ドラム22からの飽和蒸気を排熱回収ボイラ20内の中圧過熱器(不図示)で過熱した蒸気も供給される。そして、再熱器で昇温された蒸気は、再熱蒸気として、中圧タービン12に供給される。中圧タービン12に供給された再熱蒸気は、中圧タービン12で仕事をした後、低圧タービン13に供給される。
【0024】
低圧タービン13には、中圧タービン12で仕事をした後の再熱蒸気に加えて、低圧ドラム21からの飽和蒸気を排熱回収ボイラ20内の低圧過熱器(不図示)で過熱した蒸気も供給される。
【0025】
低圧タービン13からの排気は、復水器15に導かれて復水される。復水器15で生成された水は、低圧給水ポンプ16により、低圧節炭器27に導入される。低圧節炭器27を通過した水は、一部が低圧ドラム21に給水され、残りは高中圧給水ポンプ17に導かれる。高中圧給水ポンプ17は、高圧節炭器29を介して高圧給水を高圧ドラム23に供給するとともに、中圧節炭器28を介して中圧給水を中圧ドラム22に供給する。高圧ドラム23、中圧ドラム22及び低圧ドラム21に導かれた給水は、それぞれ、高圧蒸発器26、中圧蒸発器25及び低圧蒸発器24においてタービン4からの排ガスと熱交換されて蒸発し、各ドラム(23,22,21)に飽和蒸気として溜まるようになっている。
【0026】
さらに、発電プラント1には、空気圧縮機3からの圧縮空気の一部を冷却してタービン冷却空気(「冷媒」に相当)とする冷却システム30が設けられている。図2は、冷却システム30の詳細例を示す図である。
同図に示すように、冷却システム30は、高中圧給水ポンプ17と高圧ドラム23との間において、ECO側給水ライン32とクーラ側給水ライン42とを有している。ECO側給水ライン32は、TCAクーラ31の上流側の分岐点Aにおいてクーラ側給水ライン42から分岐し、回収弁37よりも下流側の合流点Bにおいてクーラ側給水ライン42と合流する。
なお、ECO側給水ライン32には、排熱回収ボイラ20の高圧節炭器29が設けられている。
【0027】
クーラ側給水ライン42には、空気圧縮機3からの圧縮空気の一部(「冷媒」に相当)を冷却するTCAクーラ31(「クーラ」に相当)が設けられている。TCAクーラ31では、空気圧縮機3からの圧縮空気の一部が、TCAクーラ31内を流れる高圧給水との熱交換によって冷却されるようになっている。TCAクーラ31で冷却された圧縮空気は、タービン冷却空気として、タービン4の高温部の冷却に用いられる。
【0028】
クーラ側給水ライン42のTCAクーラ31よりも下流側には、ECO側給水ライン32との合流点Bに向かって回収ライン33が延びている。この回収ライン33は、TCAクーラ31を通過した後の高圧給水を回収して、高圧ドラム23に送るための配管である。なお、回収ライン33には、回収ライン33を流れる高圧給水の流量を調節するための回収弁37が設けられている。
【0029】
また、TCAクーラ31の下流側には、回収ライン33とは別に、TCAクーラ31を通過した後の高圧給水を復水器15にダンプ(排出)するダンプライン38が設けられている。このダンプライン38には、ダンプライン38を流れる高圧給水の流量を調節するためのダンプ弁39が設けられている。
【0030】
なお、TCAクーラ31を通過する高圧給水の流量は、TCAクーラ31の上流側に設けた流量計36によって計測可能である。
【0031】
上述のように回収ライン33とは別にダンプライン38を設けるのは、高圧ドラム23が要求する高圧給水の流量と、TCAクーラ31が要求する高圧給水の流量とが一致しない場合において、両者の要求を同時に満たすためである。
例えば、発電プラント1の起動時や低負荷運転時には排熱回収ボイラ20における高圧給水の蒸発量が少ないため、この少ない蒸発量に応じて、高圧ドラム23への高圧給水の供給量を減らす必要がある。一方、タービン4の高温部の冷却を確実に行うためには、TCAクーラ31における高圧給水の流量をある程度は確保しなければならない。このような状況下では、回収弁37の開度を小さくし、ダンプ弁39の開度を大きくすることで、TCAクーラ31がガスタービン高温部の冷却のために要求する高圧給水の流量を維持しながら、少ない蒸発量に見合った適量の高圧給水を高圧ドラム23に供給することができる。逆に、発電プラント1の高負荷運転時には、回収弁37の開度を大きくし、ダンプ弁39の開度を小さくすることで、TCAクーラ31が要求する高圧給水の流量を維持しながら、多い蒸発量に見合った適量の高圧給水を高圧ドラム23に供給することができる。
【0032】
回収ライン33の回収弁37及びダンプライン38のダンプ弁39は、コントローラ50の制御下で開度が調節される。この際、回収弁37及びダンプ弁39の両方について、TCAクーラ31を通過する高圧給水の流量(流量計36による検出値)に基づくフィードバック制御を行ってもよい。
あるいは、回収弁37及びダンプ弁39の一方のみについてTCAクーラ31における高圧給水の流量(流量計36による検出値)に基づくフィードバック制御を行い、回収弁37及びダンプ弁39の他方についてはガスタービン2の出力(電力量計35による検出値)と弁開度との関係を示す関数を用いて制御を行ってもよい。このように、上記フィードバック制御の対象を回収弁37とダンプ弁39のいずれか一方のみとすることで、回収弁37とダンプ弁39の制御干渉を防止できる。なお、回収弁37とダンプ弁39の制御干渉とは、TCAクーラ31を通過する高圧給水の流量という1つの制御因子に基づいて回収弁37及びダンプ弁39という2つの弁を制御する場合に各弁の開度制御が互いに干渉し合い、制御上の不都合が生じることをいう。
【0033】
図3は、回収弁37及びダンプ弁39の少なくとも一方の弁(「流量調節弁」に相当)について上記フィードバック制御を行う際のコントローラ50の制御ロジックを示すブロック図である。
同図に示すように、コントローラ50は、主として、ガスタービン2の出力に応じてTCAクーラ31における高圧給水の流量の目標値を決定する関数発生器52と、該目標値に先行制御用の補正値を加算して、TCAクーラ31における高圧給水の流量の設定値を求める先行制御部60と、該設定値と流量計36の検出値との偏差に基づいて流量調節弁(回収弁37及びダンプ弁39の少なくとも一方の弁)を制御するフィードバック制御部54とで構成してもよい。
【0034】
関数発生器52は、ガスタービン2の出力(電力量計35による検出値)と、TCAクーラ31における高圧給水の流量の目標値との関係を規定する関数を発生させ、ガスタービン2の出力に応じた上記目標値を決定する。
【0035】
先行制御部60は、ガスタービン2の出力(電力量計35による検出値)に対するガスタービン2の高温部の冷却量の応答性に応じて、関数発生器52により求めた上記目標値に加算すべき補正値を算出し、上記目標値と補正値との和をTCAクーラ31における高圧給水の流量の設定値とする。
【0036】
図4は、先行制御部60による補正値の加算の技術的意義を説明するための図である。
同図のグラフG1で示したように、時刻t〜tにおいてガスタービン出力が上昇する場合、ガスタービン2の高温部の温度を適切な範囲内に維持するために必要な冷却量もガスタービン出力に応じて増加する。ところが、関数発生器52により決定されたTCAクーラ31における高圧給水の流量の目標値と、流量計36の検出値との偏差に基づいて流量調節弁(回収弁37及びダンプ弁39の少なくとも一方の弁)をフィードバック制御部54で制御しても、ガスタービン2の出力に対してガスタービン高温部の冷却量は遅れて追従する(図4のグラフG2参照)。そこで、先行制御部60によって、ガスタービン2の出力(電力量計35による検出値)に対するガスタービン2の高温部の冷却量の応答性に応じて決定される補正値を関数発生器52により求めた上記目標値に加算して、TCAクーラ31における高圧給水の流量の設定値を求める。
【0037】
先行制御部60は、図3に示すように、ガスタービン2の出力(電力量計35による検出値)に対して一次遅れ処理を施す一次遅れ要素62と、一次遅れ要素62からの出力値とガスタービン2の出力(電力量計35による検出値)の偏差を算出する減算器64と、減算器64からの出力値に応じた補正値を求めるための関数を発生させる関数発生器66と、関数発生器66により得られた補正値を関数発生器52から出力された上記目標値に加算する加算器68とにより構成してもよい。
なお、一次遅れ要素62の時定数Tは、ガスタービン2の出力(電力量計35による検出値)に対するガスタービン2の高温部の冷却量の応答性に応じて決定してもよい。例えば、ガスタービン2の出力のステップ状の入力に対するガスタービン2の高温部の冷却量の応答(ステップ応答)が、前記冷却量の最終的な変化量の約63.2%に到達するまでの時間から一次遅れ要素62の時定数Tを決定してもよい。
【0038】
また、ガスタービン2の出力に対するガスタービン2の高温部の冷却量の応答性がむだ時間を含んでいる場合、一次遅れ要素62とむだ時間要素との組み合わせからの出力値を減算器64に入力し、関数発生器52から出力された上記目標値に加算すべき補正値を関数発生器66にて求めてもよい。
【0039】
フィードバック制御部54は、先行制御部60で得られたTCAクーラ31における高圧給水の流量の設定値と、流量計36による検出値との偏差を算出する減算器56と、該偏差に基づいて流量調節弁(回収弁37及びダンプ弁39の少なくとも一方の弁)の弁開度指令値を算出する制御器58とで構成してもよい。なお、制御器58として、例えば図3に示すように、PI制御器を用いることができる。
【0040】
ところで、電力系統9に対する発電機8の併入及び解列時に、ガスタービン2の負荷は不安定であり、急激に大きく変動する。そのため、このような場合においても先行制御部60による上記目標値への補正値の加算を行えば、補正値の加算が外乱となって、ガスタービン2の高温部の冷却量の適切な制御が却って妨げられるおそれがある。
そこで、電力系統9に対する発電機8の併入及び解列時に、先行制御部60による上記目標値への補正値の加算を無効化し、関数発生器52から出力された上記目標値をそのままTCAクーラ31における高圧給水の流量の設定値として用い、流量調節弁(回収弁37及びダンプ弁39の少なくとも一方の弁)の開度制御を行ってもよい。
【0041】
発電機8の併入及び解列時に先行制御部60による補正値の加算を無効化する場合、コントローラ50は、遮断器34の開閉信号に基づいて一次遅れ要素62をオフにする(言い換えると、一次遅れ要素62の働きを無効化する)先行制御無効化部70を備えていてもよい。先行制御無効化部70は、図3に示すように、遮断器34の開閉信号を受け取ってから所定時間経過するまでの間、シグナルジェネレータ74から得たゼロの値を減算器64に入力し、それ以外は一次遅れ要素62からの出力値を減算器64に入力する切換器72を備えていてもよい。これにより、遮断器34の開閉信号を受け取ってから所定時間経過するまでの間(ガスタービン2の出力が安定するまでの間)、先行制御部60による補正値の加算を無効化して、発電機8の併入及び解列時においてもガスタービン2の高温部の冷却量を適切に制御できる。
【0042】
以上説明したように、本実施形態では、ガスタービン2の出力に応じて関数発生器52により決定されるTCAクーラ31への給水供給量の目標値に、ガスタービン2の出力に対するガスタービン高温部の冷却量の応答性に応じて関数発生器66にて決定される補正値を加算してTCAクーラ31への給水供給量の設定値を求め、該設定値に基づいて流量調節弁(回収弁37及びダンプ弁39の少なくとも一方の弁)をフィードバック制御部54により制御するようになっている。そのため、ガスタービン2の出力に変動が生じても、補正値の加算により先行的に給水供給量の調節が行われるため、ガスタービン2の出力の変動に迅速に応答してガスタービン高温部の冷却量を調節することができる。よって、タービン4の回転部と静止部とのクリアランスの管理範囲からの一時的な逸脱を防止し、該クリアランスを介した燃焼ガスの漏れを抑制して発電効率を高く維持するとともに、タービン4の回転部と静止部との接触を防止することができる。
【0043】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明はこれに限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変形を行ってもよいのはいうまでもない。
【0044】
例えば上述の実施形態では、空気圧縮機3から抽気した圧縮空気をTCAクーラ31にて冷却して、これをガスタービン2の高温部の冷却用の冷媒(タービン冷却空気)とする例について説明したが、ガスタービン2の高温部を冷却するための冷媒は、排熱回収ボイラへの給水との熱交換によって冷却された媒体であれば特に限定されず、例えば蒸気タービン10を駆動するための蒸気であってもよい。
【0045】
また上述の実施形態では、回収ライン33の回収弁37及びダンプライン38のダンプ弁39の少なくとも一方の弁(「流量調節弁」に相当)をコントローラ50によって図3に示すロジックにて開度制御する例について説明したが、図3に示すロジックによる開度制御の対象は、クーラ(TCAクーラ31)への給水供給量を調節可能であれば特に限定されない。例えば、ダンプライン38を有しない発電プラント1の場合、回収弁37を図3に示すロジックで開度制御してもよい。また、流量調節弁が設けられる位置も特に限定されず、例えば流量調節弁をクーラ(TCAクーラ31)の上流側に設けてもよい。
【0046】
さらに上述の実施形態では、高中圧給水ポンプ17によってクーラ(TCAクーラ31)に供給される高圧給水と、空気圧縮機3から抽気した圧縮空気(「冷媒」に相当)とを熱交換させる例について説明したが、ガスタービン2の高温部の冷却用の冷媒は排熱回収ボイラ20への他の給水(低圧給水や中圧給水等)と熱交換させてもよい。
【符号の説明】
【0047】
1 コンバインドサイクル発電プラント
2 ガスタービン
3 空気圧縮機
4 タービン
5 燃焼器
8 発電機
9 電力系統
10 蒸気タービン
11 高圧タービン
12 中圧タービン
13 低圧タービン
20 排熱回収ボイラ
21 低圧ドラム
22 中圧ドラム
23 高圧ドラム
24 低圧蒸発器
25 中圧蒸発器
26 高圧蒸発器
27 低圧節炭器
28 中圧節炭器
29 高圧節炭器
30 冷却システム
31 TCAクーラ(クーラ)
32 ECO側給水ライン
33 回収ライン
34 遮断器
35 電力量計
36 流量計
37 回収弁
38 ダンプライン
39 ダンプ弁
42 クーラ側給水ライン
50 コントローラ
52 関数発生器
54 フィードバック制御部
56 減算器
58 PI制御器
60 先行制御部
62 一次遅れ要素
64 減算器
66 関数発生器
68 加算器
70 先行制御無効化部
72 切換器
74 シグナルジェネレータ
図1
図2
図3
図4