(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第2端板部の外周部には、前記キャリアを前記外筒に対して相対回転可能に支持する主軸受部の転動体が配置される軌道面が設けられている、請求項1〜4のいずれか1項に記載の偏心揺動型歯車装置。
前記主軸受部が前記第2端板部と前記外筒との間に設けられている一方で、前記第1端板部と前記外筒との間には主軸受部は設けられていない、請求項5に記載の偏心揺動型歯車装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に、第1端板部と第2端板部とは同種の材料により形成されている。しかし、これら第1端板部と第2端板部は、互いに異種の材料により形成したい場合もある。例えば、外筒に対してキャリアを相対回転可能に支持する軸受部の軌道面が、一方の端板部の外周部に設けられる場合が挙げられる。この場合、前記一方の端板部は硬度の高い材料により形成されることが好ましいが、他方の端板部は必ずしも前記一方の端端部と同種の材料により形成されなくてもよく、例えばより安価な異種の材料により形成されてもよい。
【0007】
しかしながら、第1端板部が第2端板部と異種の材料により形成されている場合に上記のような同時加工をすると、必ずしも両方の部材に適した条件で加工できるとは限らない。
【0008】
本発明の目的は、第1端板部と第2端板部を同時加工するときに、第1端板部と第2端板部の両方を適切な条件で加工できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の偏心揺動型歯車装置は、内歯が設けられた外筒と、偏心部を有し、前記外筒内において軸回りに回転可能に設けられたクランク軸と、前記偏心部が挿入される貫通孔を有するとともに、外歯を有し、前記外歯が前記内歯に噛み合いながら前記偏心部の偏心回転に連動して揺動回転する揺動歯車と、軸方向の両側から前記揺動歯車を挟むように配置された第1端板部と第2端板部とを含み、前記揺動歯車の揺動回転が伝達されることにより前記外筒に対して相対回転するキャリアと、を備える。
【0010】
前記クランク軸の一端部側の部位は、前記第1端板部に設けられた第1取付孔に第1クランク軸受部を介して取り付けられ、前記クランク軸の他端部側の部位は、前記第2端板部に設けられた第2取付孔に第2クランク軸受部を介して取り付けられている。前記第1端板部は、軸受支持部と、端板部本体とを含む。前記軸受支持部は、前記第1取付孔の少なくとも一部を構成するとともに前記第1クランク軸受部が取り付けられる。前記端板部本体には、前記軸受支持部が取り付けられる。前記軸受支持部は、前記第2端板部と同種の材料により形成されており、前記端板部本体は、前記第2端板部とは異種の材料により形成されている。
【0011】
この構成では、第1端板部が端板部本体と軸受支持部とを含み、この軸受支持部が第1取付孔の少なくとも一部を構成するとともに第1クランク軸受部の取り付け部位として機能する。この軸受支持部は、第2端板部と同種の材料により形成されているので、同時加工して第1取付孔と第2取付孔を形成する際にはこれらの取付孔が形成される軸受支持部と第2端板部の両方の部材に適した条件で加工することが可能になる。
【0012】
前記偏心揺動型歯車装置において、前記軸受支持部は、前記第2端板部と同じ材料により形成されている場合には、同時加工時における加工条件を最適化することが可能になる。
【0013】
前記偏心揺動型歯車装置において、前記軸受支持部は、軸方向の両側が開口する円筒形状を有しているのが好ましい。このような円筒形状の軸受支持部は安価に作製できる。
【0014】
前記偏心揺動型歯車装置において、前記軸受支持部は、前記端板部本体に固定され、軸方向に沿って延びる円筒部と、前記円筒部に接続され、前記クランク軸及び前記第1クランク軸受部よりも軸方向外側に位置する底部と、を有する構造であってもよい。
【0015】
この構成では、クランク軸及び第1クランク軸受部よりも軸方向外側において底部が第1取付孔の開口を塞ぐことにより底部の内側と外側とを仕切ることができるので、液体(機械油や外部からの水など)が底部の内側と外側との間で行き来するのを抑制できる。この場合、前記軸受支持部と前記端板部本体との間には、シール剤やOリング等のシール部材を配置することが好ましい。
【0016】
前記偏心揺動型歯車装置において、前記第2端板部の外周部には、前記キャリアを前記外筒に対して相対回転可能に支持する主軸受部の転動体が配置される軌道面が設けられている形態が例示できる。
【0017】
この構成では、転動体が配置される軌道面を有する第2端板部は硬度の高い材料により形成される必要がある一方で、第1端板部は必ずしも第2端端部と同種の材料により形成されなくてもよく、例えばより安価な異種の材料により形成されてもよい。これにより、コストダウンを図ることができる。
【0018】
さらに、前記偏心揺動型歯車装置において、前記主軸受部が前記第2端板部と前記外筒との間に設けられている一方で、前記第1端板部と前記外筒との間には主軸受部は設けられていない形態が例示できる。
【0019】
この構成では、第1端板部側において主軸受部を省略することにより、さらなるコストダウンを図ることができる。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、本発明によれば、材料コストを低減し、クランク軸が取り付けられる一対の取付孔の同軸精度を維持し、かつ工具の寿命の低下を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一実施形態に係る偏心揺動型歯車装置1について図面を参照して詳細に説明する。歯車装置1は、例えばロボットの旋回胴や腕関節等の旋回部、各種工作機械の旋回部等に減速機として適用されるものである。
【0023】
図1及び
図2に示すように、本実施形態に係る歯車装置1は、外筒2と、クランク軸3と、揺動歯車(外歯歯車)4と、キャリア5とを備える。この歯車装置1は、クランク軸3に設けられた偏心部30の回転に連動させて揺動歯車4を揺動回転させることにより、外筒2とキャリア5とを相対的に回転させる偏心揺動型の歯車装置である。歯車装置1は、クランク軸3の偏心部30に連動して揺動歯車4を揺動回転させることにより入力回転から減速した出力回転を得るように構成されている。
【0024】
図1に示すように、外筒2は、歯車装置1の外面を構成するものであり、略円筒形状を有している。外筒2の内周面には、多数のピン溝21が形成されている。各ピン溝21は、外筒2の軸方向に延びているとともに、軸方向に直交する断面において半円形の断面形状を有している。これらのピン溝21は、外筒2の内周面に周方向に等間隔で並んでいる。各ピン溝21には、内歯ピン22が嵌め込まれている。
【0025】
各内歯ピン22は、円柱形状を有しており、対応するピン溝21において外筒2の軸方向に延びる姿勢で配置されている。ピン溝21において、各内歯ピン22はその軸回りに回転可能である。これらの内歯ピン22には、揺動歯車4が噛み合う。
【0026】
キャリア5は、外筒2と同軸上に配置された状態で外筒2の径方向内側に配置されている。キャリア5は、外筒2に対して同じ軸回りに相対回転する。具体的に、キャリア5は、主軸受部61によって外筒2に対して相対回転可能に構成されている。
【0027】
一般の歯車装置では、キャリアは、軸方向に互いに離間して設けられた一対の主軸受部(図示省略)によって外筒に対して相対回転可能に構成されるが、本実施形態では、キャリア5は、単一の主軸受部61によって外筒2に対して相対回転可能に構成されている。したがって、本実施形態において用いられる主軸受部61としては、1つの軸受部でキャリア5及び外筒2からの負荷に耐えうるような軸受構造、すなわち1つの軸受部で大きな負荷に耐えうるような軸受構造を採用するのが好ましい。具体的に、主軸受部61としては、例えば4点接触玉軸受、クロスローラ軸受などの軸受構造を採用することができる。
図1に示す本実施形態では、主軸受部61として4点接触玉軸受の軸受構造を採用している。
【0028】
主軸受部61は、外輪部61bと、転動体61cとを含む。第2端板部52の外周部には、キャリア5を外筒2に対して相対回転可能に支持する主軸受部61の転動体61cが配置される内輪部61aが設けられている。内輪部61aは、転動体61cが配置される軌道面(レース面)を有する。転動体61cは、第2端板部52の内輪部61aと、主軸受部61の外輪部61bとの間に配置されている。外輪部61bは、外筒2の内周面に固定されている。
【0029】
4点接触玉軸受の軸受構造を採用する本実施形態では、外輪部61bは、2つに分割されているが、これに限定されない。外輪部61bは、分割された構造でなくてもよい。
【0030】
キャリア5は、基部50と、第2端板部52とを備える。基部50は、第1端板部51と、少なくとも1つのシャフト部53とを含む。本実施形態では、
図2に示すように複数のシャフト部53が設けられている。
【0031】
第1端板部51は、端板部本体51aと、軸受支持部51bとを含む。軸受支持部51bは、後述するようにクランク軸3を支持する第1クランク軸受部63が取り付けられる部位に設けられる部材であり、端板部本体51aは、第1端板部51のうち軸受支持部51b以外の部分である。軸受支持部51bが設けられる目的及びその機能については後述する。
【0032】
第1端板部51は、外筒2の軸方向一端部側に配置されている。この第1端板部51の径方向中央部には円形の貫通孔5aが設けられている。貫通孔5aの周囲には、複数の第1取付孔5bが周方向に等間隔で設けられている。
【0033】
第2端板部52は、第1端板部51に対して軸方向に離間して設けられており、外筒2の軸方向他端部側に配置されている。第2端板部52の径方向中央部には貫通孔5cが設けられている。貫通孔5cの周囲には、複数の第2取付孔5dが、第1端板部51の複数の第1取付孔5bと軸方向に対応する位置に設けられている。外筒2内には、第2端板部52と第1端板部51の互いに対向する双方の内面と、外筒2の内周面とで囲まれた閉空間が形成されている。
【0034】
複数のシャフト部53は、第1端板部51に一体的に設けられており、第1端板部51から第2端板部52側へ直線的に延びている。複数のシャフト部53は、周方向に等間隔で配設されている(
図2参照)。各シャフト部53は、固定手段としてのボルト5eによって第2端板部52に締結されている(
図1参照)。これにより、基部50と第2端板部52が一体化されている。ボルト5eの近傍には、基部50と第2端板部52とを位置決めするための位置決めピン5fが設けられている。なお、シャフト部53は、必ずしも第1端板部51と一体的に形成されていなくてもよく、第1端板部51とは別体であってもよい。また、シャフト部53は、第2端板部52と一体的に形成されていてもよい。
【0035】
複数のクランク軸3は、外筒2内において外筒2の軸心の周囲に等間隔で配置されている(
図2参照)。各クランク軸3は、対応する第1端板部51の第1取付孔5bと第2端板部52の第2取付孔5dにそれぞれ取り付けられている(
図1参照)。
【0036】
各クランク軸3の一端部側の部位は、第1端板部51の第1取付孔5b内に第1クランク軸受部63を介して取り付けられている。各クランク軸3の他端部側の部位は、第2端板部52の第2取付孔5d内に第2クランク軸受部64を介して取り付けられている。これにより、各クランク軸3は、一対のクランク軸受部63,64によりキャリア5に対して軸回りに回転可能に支持されている。
【0037】
各クランク軸3は、偏心部30を有する。偏心部30は、一対のクランク軸受部63,64によって支持された部分の間に設けられている。本実施形態では、偏心部30は、複数の偏心部31,32を含む。具体的に、偏心部30は、軸方向に並んで配置された第1偏心部31と第2偏心部32とを含む。
【0038】
第1偏心部31と第2偏心部32は、それぞれ略円柱形状を有している。第1偏心部31と第2偏心部32は、それぞれクランク軸3の軸心から所定の偏心量で偏心しており、互いに所定角度の位相差を有するように配置されている。また、クランク軸3の他端部には、伝達歯車81が取り付けられている。
【0039】
伝達歯車81の外周面には外歯が設けられており、この外歯には、図略の入力軸の外周面に設けられた入力ギアが噛み合う。この入力軸は図略のモータによって回転する。入力軸は、例えば第2端板部52の貫通孔5c及び第1端板部51の貫通孔5aに挿入される。入力軸は、その軸心が外筒2及びキャリア5の軸心と一致するように配置される。
【0040】
揺動歯車4は、外筒2内の前記閉空間に配置されている。揺動歯車4は、軸方向の両側から第1端板部51と第2端板部52に挟まれた位置に設けられている。本実施形態では、揺動歯車4は、第1揺動歯車41と第2揺動歯車42とを含むが、これに限定されない。揺動歯車4は、単一の揺動歯車により構成されていてもよく、この場合には偏心部30も単一の偏心部により構成される。
【0041】
図1に示すように、第1揺動歯車41は、各クランク軸3の第1偏心部31に例えばころ軸受などの図略の軸受部を介して取り付けられている。第1揺動歯車41は、各クランク軸3が回転して第1偏心部31が偏心回転すると、この偏心回転に連動して内歯ピン22に噛み合いながら揺動回転する。
【0042】
第1揺動歯車41は、外筒2の内径よりも少し小さい大きさを有している。第1揺動歯車41は、第1外歯41aと、中央部貫通孔41bと、複数の偏心部挿通孔41cと、複数のシャフト部挿通孔41dとを有している。
【0043】
第1外歯41aは、第1揺動歯車41の外周面に設けられている。第1外歯41aの歯面は、軸方向に直交する断面において、周方向全体にわたって滑らかに連続する波形状を有している。第1外歯41aの歯数は、内歯ピン22の数よりも若干少なく設定されている。本実施形態では、第1外歯41aの歯数は、内歯ピン22の数よりも1つ少なく設定されている。
【0044】
中央部貫通孔41bは、第1揺動歯車41の径方向中央部に設けられている。中央部貫通孔41bには、前記入力軸を挿入することができる。
【0045】
複数の偏心部挿通孔41cは、第1揺動歯車41において中央部貫通孔41bの周囲に周方向に等間隔で設けられている。各偏心部挿通孔41cには、例えばころ軸受などの図略の軸受部が介装された状態で各クランク軸3の第1偏心部31がそれぞれ挿通されている。
【0046】
複数のシャフト部挿通孔41dは、第1揺動歯車41において中央部貫通孔41bの周りに周方向に等間隔で設けられている。各シャフト部挿通孔41dは、周方向において、複数の偏心部挿通孔41c間の位置にそれぞれ配設されている。各シャフト部挿通孔41dには、対応するシャフト部53が遊びを持った状態で挿入されている。
【0047】
第2揺動歯車42は、外筒2内の前記閉空間に配設されているとともに各クランク軸3の第2偏心部32に例えばころ軸受などの図略の軸受部を介して取り付けられている。第1揺動歯車41とこの第2揺動歯車42は、第1偏心部31と第2偏心部32の配置に対応して軸方向に並んで設けられている。第2揺動歯車42は、各クランク軸3が回転して第2偏心部32が偏心回転すると、この偏心回転に連動して内歯ピン22に噛み合いながら揺動回転する。
【0048】
第2揺動歯車42は、外筒2の内径よりも少し小さい大きさを有している。第2揺動歯車42は、第2外歯42a、中央部貫通孔42b、複数の偏心部挿通孔42c及び複数のシャフト部挿通孔42dを有している。これらは、第1揺動歯車41の第1外歯41a、中央部貫通孔41b、複数の偏心部挿通孔41c及び複数のシャフト部挿通孔41dと同様の構造を有している。各偏心部挿通孔42cには、例えばころ軸受などの図略の軸受部が介装された状態でクランク軸3の第2偏心部32が挿通されている。
【0049】
各伝達歯車81は、前記入力軸の外周面に設けられた入力ギアの回転を対応するクランク軸3に伝達するものである。各伝達歯車81は、対応するクランク軸3の端部にそれぞれ外嵌されている。各伝達歯車81は、クランク軸3の回転軸と同じ軸回りにこのクランク軸3と一体的に回転する。
【0050】
次に、
図1〜
図3を参照して第1端板部51の軸受支持部51bについて説明する。軸受支持部51bが設けられる目的及びその機能は次の通りである。
【0051】
本実施形態では、上述したようにキャリア5が一つの部材ではなく基部50と第2端板部52とにより構成されており、基部50と第2端板部52とはボルト5eによって一体化されている。さらに、本実施形態では、キャリア5は、主軸受部61によって外筒2に対して回転可能に支持されている。この主軸受部61は、第2端板部52の外周部と外筒2との間に設けられているが、第1端板部51と外筒2との間に軸受部は設けられていない。すなわち、本実施形態では、主軸受部61が、第1端板部51と第2端板部52のうち第2端板部52側にのみ設けられている。
【0052】
このような構成を採用する本実施形態では、主軸受部61の転動体61cが配置される軌道面(レース面)を有する第2端板部52の材質には、主軸受部61から受ける負荷に耐えうる物性が要求される。このため第2端板部52の材料として、例えば高硬度の材料が使用される。具体的に、第2端板部52の材料としては、例えば炭素鋼(S55C)、軸受鋼(SUJ)などを使用することができる。これらの材料は、比較的高価な材料である。なお、第2端板部52の材料は、炭素鋼(S55C)、軸受鋼(SUJ)に限定されず、主軸受部61から受ける負荷に耐えうる物性を有する他の材料を用いることもできる。一方、外筒2との間に主軸受部が設けられない基部50の材質としては、第2端板部52のような物性は必ずしも必要とされない。
【0053】
そこで、本実施形態では、上記のように主軸受部61を、基部50と第2端板部52のうち第2端板部52側にのみ設け、第1端板部51側には設けないことによってコストダウンを図り、さらに、後述するように、基部50の大半を占める部分(端板部本体51a及びシャフト部53)を第2端板部52とは異種の材料により形成することにより、さらなるコストダウンを図っている。
【0054】
すなわち、外筒2との間に主軸受部が設けられない基部50の材料としては、炭素鋼(S55C)、軸受鋼(SUJ)などの材料に比べて硬度の低い材料を用いることも可能である。具体的に、このような材料としては、例えばダクタイル鋳鉄(FCD)などの鋳鉄を使用することができる。このような鋳鉄を用いることによって基部50(具体的には後述する端板部本体51a及びシャフト部53)を鋳造により形成することができる。したがって、基部50の材料として第2端板部52と同じ材料(例えば炭素鋼(S55C)、軸受鋼(SUJ)などの材料)を用いる場合に比べて、基部50の作製にかかるコストを低減することができる。なお、前記材料は、鋳鉄に限定されず、第2端板部52と同じ材料を用いる場合に比べてコストダウン可能なものであれば他の材料を用いることもできる。
【0055】
ところで、上述したように、各クランク軸3は、第1端板部51の第1取付孔5b内に設けられた第1クランク軸受部63と、第2端板部52の第2取付孔5d内に設けられた第2クランク軸受部64とによって支持されている。第1取付孔5b及び第2取付孔5dのそれぞれは、軸方向に直交する断面の形状が円形であり(
図2参照)、これらの円の中心は、歯車装置1の寿命の観点で軸方向に延びる同一の直線上に位置しているのが好ましい。すなわち、第1取付孔5bの中心を通る軸線と第2取付孔5dの中心を通る軸線とはできるだけ一致している(同軸である)のが好ましい。
【0056】
第1取付孔5bと第2取付孔5dの同軸精度を高めるためには、基部50と第2端板部52とをボルト5eによって一体化した状態で孔開け加工して第1取付孔5bと第2取付孔5dを同時に形成する(同時加工する)のが好ましい。
【0057】
しかしながら、基部50が第2端板部52とは異種の材料により形成されている場合には、上記のように同時加工すると、加工に用いる工具の寿命が低下するという不具合が生じる。すなわち、工具は、材料に適したものが選択され、材料に適した加工条件(工具の送り量、加工時間など)で用いられるのが好ましい。したがって、基部50の材料と第2端板部52の材料の何れかに適した工具が選択され、その工具が何れかに適した加工条件で用いられると、工具の寿命が低下することがある。また、例えば、基部50の材料として鋳鉄が用いられ、第2端板部52の材料に適した工具が選択されると、鋳物には内部に巣が存在することがあるので基部50の孔開け加工時に基部50に割れが生じる場合がある。
【0058】
そこで、本実施形態では、上記のようにコストダウンを図りつつ、第1取付孔5bと第2取付孔5dの同軸精度を維持して歯車装置1の寿命の低下を抑制し、さらに工具の寿命の低下、基部50の割れなどの不具合を抑制することを目的に、軸受支持部51bを設けている。
【0059】
図3に拡大して示すように、軸受支持部51bは、第1クランク軸受部63が取り付けられる部位である。軸受支持部51bは、端板部本体51aとともに第1端板部51を構成する。軸受支持部51bは、第1クランク軸受部63が取り付けられる部位に設けられる部材であり、端板部本体51aは、第1端板部51のうち軸受支持部51b以外の部分であり、軸受支持部51bを支持する。
【0060】
本実施形態における軸受支持部51bは円筒形状の部材である。軸受支持部51bの内周面5b2は、軸方向に直交する断面形状が円形である。軸受支持部51bは、軸方向の両側が開口しているが、これに限定されず、
図4に示す変形例のように軸方向の一方が閉じていてもよい。
【0061】
第1端板部51の第1取付孔5bの少なくとも一部は、軸受支持部51bにより構成されている。本実施形態では、第1取付孔5bは、軸受支持部51bと、端板部本体51aの一部とにより構成されている。具体的に、第1取付孔5bのうち第2端板部52側の部位は、軸受支持部51bにより構成されており、軸方向の反対側の部位は、端板部本体51aの一部、すなわち端板部本体51aに設けられた孔により構成されている。
【0062】
本実施形態では、端板部本体51aの前記孔の内周面5b1は、軸受支持部51bの内周面5b2と段差がない状態で連続している。すなわち、軸受支持部51bの内径と端板部本体51aの前記孔の内径は同じである。
【0063】
なお、端板部本体51aの孔の内周面5b1は、軸受支持部51bの内周面5b2と段差を設けてもよい。特に、端板部本体51aの孔の内径(内周面5b1)の方が、軸受支持部51bの孔の内径(内周面5b2)よりも大きければ、軸受支持部51bの内周面5b2の仕上げ加工がし易くなる。
【0064】
すなわち、軸受支持部51bの内周面5b2が端板部本体51aの内周面5b1よりも径方向内側に位置している場合には、工具で軸受支持部51bを仕上げ加工する際に、工具が端板部本体51aの内周面5b1に接触するのを抑制できる。
【0065】
ただし、軸受支持部51bの形態はこれに限定されない。軸受支持部51bの内径は、端板部本体51aの前記孔の内径よりも大きくてもよく、小さくてもよい。
【0066】
端板部本体51aは、軸受支持部51bを取り付けるための取付部5gを有する。本実施形態では、取付部5gは、端板部本体51aの前記孔よりも内径の大きな部分であり、端板部本体51aの前記孔よりも第2端板部52側に設けられている。この取付部5gは、軸受支持部51bの外周面と対向する内周面5hと、軸受支持部51bの軸方向の一端面が対向する係止面5iとを有する。係止面5iは、取付部5gの内周面5hと、端板部本体51aの前記孔の内周面5b1とを接続する環状の部位である。
【0067】
本実施形態では、取付部5gの内径は、軸受支持部51bの厚みと同じ寸法だけ端板部本体51aの前記孔の内径よりも大きい。これにより、内周面5b2と内周面5b1とが段差のない状態で連続される。
【0068】
本実施形態では、軸受支持部51bの軸方向の一端面が取付部5gの係止面5iに当接しているので、軸受支持部51bが端板部本体51aに対して正確に位置決めされる。また、係止面5iは、上述した同時加工の際に、例えば工具を第2端板部52側から第1端板部51側に移動させる場合には、軸受支持部51bが工具から受ける力を係止面5iにおいて受け止めて軸受支持部51bと端板部本体51aとの相対位置の変動を防止するストッパーの役割を果たす。
【0069】
本実施形態では、軸受支持部51bは、取付部5g内に圧入されることにより取付部5gに固定されているが、これに限定されない。軸受支持部51bは、例えば溶接、接着などの圧入以外の方法によって取付部5gに固定されていてもよい。
【0070】
軸受支持部51bの内周面5b2には第1クランク軸受部63の外輪部63bが固定されており、クランク軸3の一端部の外周面には第1クランク軸受部63の内輪部63aが固定されている。内輪部63aと外輪部63bとの間には第1クランク軸受部63の転動体63cが配置されている。
【0071】
基部50を構成する部分のうち軸受支持部51bを除く部分(本実施形態では端板部本体51a及びシャフト部53)は、第2端板部52とは異種の材料により形成されている。本実施形態では、端板部本体51a及びシャフト部53は、第2端板部52の材料に比べて硬度の低い材料、具体的には、例えばダクタイル鋳鉄(FCD)などの鋳鉄により形成されている。
【0072】
一方、軸受支持部51bは、第2端板部52と同種の材料により形成されている。本実施形態において、第2端板部52と同種の材料には、端板部本体51aの材料よりも硬度が高く、かつ、同時加工時に工具の寿命が低下するのを抑制できる材料が含まれる。したがって、軸受支持部51bの材料は、第2端板部52と同じ材料でなくてもよい。また、第2端板部52と同種の材料としては、鋳鉄などの材料に比べて、同時加工時に材料に割れが生じるのを抑制できる材料であるのが好ましい。
【0073】
軸受支持部51bは、同時加工時の工具寿命低下や材料割れを抑制する効果をより高める観点で、第2端板部52の材料と同程度の高硬度材料により形成されているのが好ましい。特に、軸受支持部51bは、同時加工時の工具寿命低下や材料割れを抑制する効果を最大限に高める観点で、第2端板部52と同じ材料により形成されているのが好ましい。具体的に、軸受支持部51bは、例えば炭素鋼(S55C)、軸受鋼(SUJ)などの材料により形成される。
【0074】
以上のように、本実施形態では、第1クランク軸受部63が取り付けられる部位に軸受支持部51bを設けることにより、キャリア5の第2端板部52をスペックの高い材料(コストの高い材料)により形成し、端板部本体51aをスペックの低い材料(コストの安い材料)により形成しつつ、第1取付孔5bと第2取付孔5dを同時に形成する(同時加工する)ことができる。要求されるスペックに応じた材料を選択することができるため、材料コストを抑えることができる。
【0075】
なお、本実施形態では、この同時加工の前に、第2端板部52の該当箇所に下孔をあけておき、端板部本体51aの該当箇所にも下孔をあけるとともに円筒形状の軸受支持部51bを取付部5gに固定するので、上記した同時加工は、第1取付孔5bと第2取付孔5dの仕上げ加工に相当する。
【0076】
次に、同時加工工程について説明する。まず、基部50において第1取付孔5bが設けられる部位に下孔を形成し、第2端板部52において第2取付孔5dが設けられる部位に下孔を形成する。基部50の下孔には取付部5gも形成する。ついで、取付部5gに軸受支持部51bを圧入などの方法により取り付ける。ついで、基部50と第2端板部52とをボルト5eにより一体化して仮組体をつくる。
【0077】
次に、第2端板部52の材料に適した孔あけ用の工具を用いて、仮組体の下孔を加工する。この加工工程は、単一の工程であってもよく、複数種の工具を用いた段階的な複数工程であってもよい。これにより、仮組体における第1取付孔5bと第2取付孔5dが仕上げ加工される。なお、第1取付孔5bは、軸方向の全体が同時加工される必要はなく、軸受支持部51bの部分だけ同時加工されればよい。
【0078】
次に、仮組体のボルト5eを一旦取り外し、外筒2、クランク軸3、揺動歯車4、キャリア5などの部品を組み立てて再度ボルト5eによって固定することにより、歯車装置1が完成する。
【0079】
次に、歯車装置1の動作について説明する。まず、例えば図略のモータの駆動によって前記入力軸に回転が入力される。この入力軸の回転は、各伝達歯車81を介して各クランク軸3に伝達される。そして、各クランク軸3が回転するのに伴って各クランク軸3の第1偏心部31及び第2偏心部32が偏心回転する。これにより、第1偏心部31の偏心回転に連動して第1揺動歯車41が内歯ピン22に噛み合いながら揺動回転するとともに、第2偏心部32の偏心回転に連動して第2揺動歯車42が内歯ピン22に噛み合いながら揺動回転する。第1揺動歯車41及び第2揺動歯車42の揺動回転は、各クランク軸3を通じてキャリア5に伝達され、キャリア5全体が前記入力回転から減速された回転数で外筒2に対して相対回転する。
【0080】
以上説明したように、本実施形態に係る歯車装置1では、第1端板部51が端板部本体51aと軸受支持部51bとを含み、この軸受支持部51bが第1取付孔5bの少なくとも一部を構成するとともに第1クランク軸受部63の取り付け部位として機能する。この軸受支持部51bは、第2端板部52と同種の材料により形成されているので、同時加工して第1取付孔5bと第2取付孔5dを形成する際に工具の寿命が低下するのを抑制することができる。すなわち、同時加工によって一対の取付孔5b,5dの同軸精度を維持しつつ材料コストを低減することができる。しかも、端板部本体51aは、第2端板部52とは異種の材料により形成することができるので、例えば第2端板部52よりも安価な材料を選択してコストダウンを図ることができる。
【0081】
また、本実施形態では、軸受支持部51bが軸方向の両側が開口する円筒形状を有しているので軸受支持部51bを安価に作製できる。
【0082】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で種々変更、改良等が可能である。
【0083】
前記実施形態では、軸受支持部51bが円筒形状の部材により構成され、軸方向の両側が開口している場合を例示したが、これに限定されない。軸受支持部51bは、例えば
図4に示す変形例1のように軸方向の一方が閉じていてもよい。
図4に示すようにこの変形例1では、軸受支持部51bは、円筒部51b1と、底部51b2とを有する。底部51b2は、クランク軸3及び第1クランク軸受部63よりも軸方向外側に設けられている。この軸受支持部51bでは、円筒部51b1は、端板部本体51aに対して軸受支持部51bを固定するための機能を果たす。一方、底部51b2は、クランク軸3及び第1クランク軸受部63よりも軸方向外側において第1取付孔5bの開口を塞ぎ、底部51b2の内側と外側とを仕切る機能を果たす。これにより、液体(機械油や外部からの水など)が底部51b2の内側と外側との間で行き来するのを抑制できる。
【0084】
前記実施形態では、主軸受部61が、第1端板部51と第2端板部52のうち第2端板部52側にのみ設けられている場合を例示したが、これに限定されない。例えば
図5に示す変形例2では、主軸受部61が第2端板部52側に設けられ、主軸受部71が第1端板部51側に設けられている。この主軸受部71は、内輪部71aと、外輪部71bと、これらの間に配置される転動体71cとを有する。内輪部71aは、第1端板部51の端板部本体51aに固定されており、外輪部71bは、外筒2に固定されている。
【0085】
この変形例2においても、軸受支持部51bは、端板部本体51aとともに第1端板部51を構成する。軸受支持部51bは、第1クランク軸受部63が取り付けられる部位に設けられる部材であり、端板部本体51aに支持されている。
【0086】
第1端板部51側の主軸受部71の内輪部71aは、第1端板部51の端板部本体51aとは別体であるので、端板部本体51aの材料としては、必ずしも第2端板部52のような高硬度の材料を用いる必要はなく、上述したような鋳鉄などの材料を用いることができる。
【0087】
また、前記実施形態では、第1取付孔5bが軸受支持部51bと端板部本体51aの一部とにより構成される場合を例示したが、これに限定されない。例えば、第1端板部51において軸受支持部51bが軸方向全体に設けられていてもよい。
【0088】
また、前記実施形態では、複数のクランク軸が設けられている場合を例示したが、例えば1つのクランク軸がキャリア5の径方向のセンターに設けられた形態であってもよい。
【0089】
また、キャリア5と外筒2は、どちらが固定されていてもよい。すなわち、キャリア5を固定して外筒2がキャリア5に対して相対的に回転する形態であってもよく、外筒2を固定してキャリア5が外筒2に対して相対的に回転する形態であってもよい。