特許第5946728号(P5946728)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本特殊陶業株式会社の特許一覧

特許5946728軸部材のセンタレス研削方法、及び円軸部材の製造方法
<>
  • 特許5946728-軸部材のセンタレス研削方法、及び円軸部材の製造方法 図000002
  • 特許5946728-軸部材のセンタレス研削方法、及び円軸部材の製造方法 図000003
  • 特許5946728-軸部材のセンタレス研削方法、及び円軸部材の製造方法 図000004
  • 特許5946728-軸部材のセンタレス研削方法、及び円軸部材の製造方法 図000005
  • 特許5946728-軸部材のセンタレス研削方法、及び円軸部材の製造方法 図000006
  • 特許5946728-軸部材のセンタレス研削方法、及び円軸部材の製造方法 図000007
  • 特許5946728-軸部材のセンタレス研削方法、及び円軸部材の製造方法 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5946728
(24)【登録日】2016年6月10日
(45)【発行日】2016年7月6日
(54)【発明の名称】軸部材のセンタレス研削方法、及び円軸部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B24B 5/20 20060101AFI20160623BHJP
【FI】
   B24B5/20
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-196151(P2012-196151)
(22)【出願日】2012年9月6日
(65)【公開番号】特開2014-50908(P2014-50908A)
(43)【公開日】2014年3月20日
【審査請求日】2015年6月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097434
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和久
(72)【発明者】
【氏名】倉野 博司
【審査官】 亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】 欧州特許出願公開第01681137(EP,A1)
【文献】 特開2002−283195(JP,A)
【文献】 特開2010−046761(JP,A)
【文献】 特開昭53−090091(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 5/00 − 5/20
B24D 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
砥石層がダイヤモンド砥石からなる砥石車を用いる軸部材のセンタレス研削方法であって、
この砥石車の前記砥石層の外周面に、その周方向に延びる溝、自身の回転軸方向に間隔をおいて複数、設けられるように、
前記砥石車は、回転軸方向において、複数の分割砥石車を重ねてボルト締めによって固定してなる分割可能の組立て体から構成されており、回転軸方向において重ねられて隣り合う分割砥石車相互の間に前記溝が形成されるように、前記分割砥石車に、金属製の分割車本体とその外周面においてその幅より狭く形成された前記砥石層とを有する分割砥石車を含んでいるものとしたことを特徴とする軸部材のセンタレス研削方法。
【請求項2】
砥石層がダイヤモンド砥石からなる砥石車を用いる軸部材のセンタレス研削方法であって、
この砥石車の前記砥石層の外周面に、自身の回転軸回りに螺旋状に延びる溝を設けておくことを特徴とする軸部材のセンタレス研削方法。
【請求項3】
前記溝は、その溝の幅が研削後の前記軸部材の外径より小さいことを特徴とする、請求項1又は2に記載の軸部材のセンタレス研削方法。
【請求項4】
前記砥石車は、回転軸方向において、複数分割砥石車を重ねて固定してなる分割可能の組立て体から構成されており、回転軸方向において重ねられて隣り合う分割砥石車相互の間に前記溝が形成されるように、前記分割砥石車に、金属製の分割車本体とその外周面においてその幅より狭く形成された前記砥石層とを有する分割砥石車を含んでいることを特徴とする、請求項2に記載の軸部材のセンタレス研削方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の、軸部材のセンタレス研削方法を用いた研削工程を含む、円軸部材の製造方法。
【請求項6】
前記軸部材の研削前における横断面の形状が多角形又は非円形であることを特徴とする、請求項5に記載の円軸部材の製造方法。
【請求項7】
前記軸部材がセラミックを主成分とするものであることを特徴とする、請求項5又は6に記載の円軸部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作物(ワーク)である軸部材を、その両端のセンタにおいて支持することなく研削する、軸部材のセンタレス研削方法、及びその方法を用いる円軸部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
軸部材、とくにそれが難削材である場合のセンタレス研削(心なし研削)においては、研削部位等の冷却、ないし発熱の防止、洗浄、研削面の精度の維持などを図るため、そして、研削の円滑化や、砥石車等の長寿命化のため、研削液(冷却液)の供給が極めて重要である。したがって、この種の研削(又は研磨)においては、供給配管等を介して研削液をその砥石車の砥石層の表面、ないし研削部位に供給し続けるというのが普通である(例えば、特許文献1)。特に、セラミックのような難削材の軸部材(ワークともいう)をセンタレス研削する際には、高価なダイヤモンド砥石を用いることになることから、研削液を砥石層の表面(外周面)の全体に、しかも、研削部位に効率的に行き渡るように供給することが重要である。
【0003】
ところが、このようなセンタレス研削においては、研削を担う砥石層の表面(円筒の外周面)のうち、回転軸に平行な部位は直線であり、ここに押付けられて円筒研削される軸部材の表面(円筒の外周面)についても、同様である。このため、研削液を砥石車の外周面、すなわち、砥石層の表面の全体に供給することはできるとしても、その外周面と、ここに押付けられるワークの外周面の実際の研削部位に、研削液を十分に回り込ませることは容易でない。すなわち、通常のセンタレス研削においては、このような研削部位に研削液の円滑な供給が行えないというのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−138187号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
こうしたことから、従来のセンタレス研削においては、その研削部位の冷却性が不十分であり、砥石車(以下、単に砥石とも言う)が高温となりがちのため、早期に砥粒の摩滅や、結合剤(ボンド)の焼け等の不具合が発生し、それによる砥石の切れ味低下や、砥粒の脱落によるその短寿命化を招いていた。しかも、上記したように、ワークがセラミックなどの難削材であったりすると、砥石への負担は大きく、したがって、こうした問題が発生しがちであった。具体的には次のようである。すなわち、こうした問題を砥石について見ると、例えば、ワークを回転軸方向に送る通常のスルーフィールド(通し送り)法にて研削する場合には、砥石のうち、ワークの投入側(入口側)における研削抵抗ないし研削負荷が、その排出側(出口側)よりも確実に大きい。このため、その砥石の表面のうち、投入側が早期に摩耗する偏摩耗ないし局部磨耗が発生しがちとなり、切れ味低下を早く招きやすい。この結果、バランス維持のための砥石の端面(投入側)の変更(交代)が早期に必要となる上、その表面精度の維持(目立て)のための補正(ツルーイング)も早期に必要となるなどから、その砥石層(ダイヤモンド)の摩滅が早くなりがちで、結果として砥石の寿命低下を招いていた。しかも、支持刃(ブレード)の焼き付き等による問題もある。
【0006】
また、ワークがセラミックで、焼成直後の焼き肌状態のもので、しかも、横断面形状が、いびつな円や、多角形のもの(等径丸物でないもの)である場合には、研削抵抗が大きく、偏摩耗等の問題が顕在化しやすい。例えば、ワークが、隣接するワーク相互の外周面が接してホットプレスされて焼成され、焼成後において、ワーク相互間において折り取るなどにより切断して個別化されることで製造される、多数個取りのワークでは、外周面の両側に切断時の破断面を有するものとなる。このように横断面状態が悪いワークは、必然的に研削抵抗も大きく、砥石に対する偏摩耗等の問題を顕在化させやすい。しかも、研削抵抗が大きいことから、その研削過程で、ワーク自体に、折れ、ワレ等の不良が発生しやすく、歩留まり低下の要因ともなっていた。しかも、このようなワークの研削においては、その横断面形状ゆえに、不円滑な研削となるから、騒音の増大という問題もあった。
【0007】
本発明は、前記した問題点に鑑みてなされたもので、セラミックのような難削材からなるワーク(軸部材)の、ダイヤモンド砥石によるセンタレス研削において、研削液(冷却液)が、砥石の外周面のうち、実際にワークを研削している研削部位(実際に研削に預かる部位)に、有効かつ十分に行き渡るようにすることのできる技術を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の本発明は、砥石層がダイヤモンド砥石からなる砥石車を用いる軸部材のセンタレス研削方法であって、
この砥石車の前記砥石層の外周面に、その周方向に延びる溝、自身の回転軸方向に間隔をおいて複数、設けられるように、
前記砥石車は、回転軸方向において、複数の分割砥石車を重ねてボルト締めによって固定してなる分割可能の組立て体から構成されており、回転軸方向において重ねられて隣り合う分割砥石車相互の間に前記溝が形成されるように、前記分割砥石車に、金属製の分割車本体とその外周面においてその幅より狭く形成された前記砥石層とを有する分割砥石車を含んでいるものとしたことを特徴とする。
請求項2に記載の本発明は、砥石層がダイヤモンド砥石からなる砥石車を用いる軸部材のセンタレス研削方法であって、
この砥石車の前記砥石層の外周面に、自身の回転軸回りに螺旋状に延びる溝を設けておくことを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の本発明は、前記溝は、その溝の幅が研削後の前記軸部材の外径より小さいことを特徴とする、請求項1又は2に記載の軸部材のセンタレス研削方法である。
請求項4に記載の本発明は、前記砥石車は、回転軸方向において、複数分割砥石車を重ねて固定してなる分割可能の組立て体から構成されており、回転軸方向において重ねられて隣り合う分割砥石車相互の間に前記溝が形成されるように、前記分割砥石車に、金属製の分割車本体とその外周面においてその幅より狭く形成された前記砥石層とを有する分割砥石車を含んでいることを特徴とする、請求項2に記載の軸部材のセンタレス研削方法である。
【0010】
請求項5に記載の本発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の、軸部材のセンタレス研削方法を用いた研削工程を含む、円軸部材の製造方法である。
請求項6に記載の本発明は、前記軸部材の研削前における横断面の形状が多角形又は非円形であることを特徴とする、請求項5に記載の円軸部材の製造方法である。
請求項7に記載の本発明は、前記軸部材がセラミックを主成分とするものであることを特徴とする、請求項5又は6に記載の円軸部材の製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明のセンタレス研削方法、及び同方法を用いた研削工程を含む円軸部材の製造方法によれば、その方法に用いられる、砥石車の砥石層の外周面に、前記溝が設けられているため、それが設けられていない砥石車を用いるセンタレス研削方法による場合に比べると、それが設けられている分、研削過程で供給される研削液が、砥石の外周面の研削部位に回り込み易い。このため、冷却効果ないし放熱効果等の優れた円滑な研削が行われる。これにより、例えば、スルーフィールド方式で、軸部材を砥石車の一端側(ワークの供給側)から他端側(ワークの排出側)へと、その軸方向に次々と供給して研削するときでも、研削負荷の大きいその砥石車の供給側の偏摩耗(局部摩耗)を低減できる。これにより、砥石の端側の変更(交代)の回数、及びその作業時間を減らすことができる。また、砥石の切れ味低下を遅延させることができる。これらにより、砥石のツルーイングの回数が低減でき、砥石の長寿命化が図られるなどの効果が得られる。なお、周方向に延びる溝を、自身の回転軸方向に間隔をおいて複数、設けるとき、その各溝は、研削液が砥石の幅方向の表面全体に行き渡るように、その幅方向において等間隔で、なるべく多く設けるのが良い。
【0012】
また、研削されるワークである軸部材についてみると、前記溝がある分、冷却効果ないし放熱効果が高い円滑な研削が行われるため、脆性なセラミックからなるもので、横断面形状が非円形(非等径丸物)などであっても、折れ等の研削不良を発生させにくく、歩留まり低下の防止にも有効である。しかも、軸部材がこのようにその横断面形状が悪く、砥石車に対する過酷な研削条件となり、その寿命低下や研削騒音の増大を招くような場合でも、本発明によれば、前記溝がある分、研削液の砥石の外周面への回り込み性に優れることから、こうした問題の発生防止にも有効である。
【0013】
本発明において、前記砥石層の外周面の溝の断面形状は、矩形、V形、U形など、適宜の断面形状とすることができる。また、その溝の数、又はピッチ(螺旋状(スパイラル)の溝とする場合には、そのリード)、溝の幅や深さは、研削するワークの材質、寸法、さらには、ワークの送り速度や、ワークの表面状態、砥石の砥粒の粒度や研削液の供給流量等の研削条件に応じて、適宜に設定すればよい。すなわち、砥石車の外周面(砥石の表面における幅方向の全体)に研削液が広く、かつ、実際の研削部位に効率的に回り込めるように、研削条件に基づいて設定すればよい。本発明では、通常は、ワークに回転軸方向の送りがかかるように、調整車に、上下の傾きを付与する、スルーフィールド法によるセンタレス研削となるが、インフィールド法による研削を行う場合にも適用できる。
【0014】
なお、螺旋状の溝とする場合には、研削液の回り込み性を高めることができるため、研削液を砥石車の幅方向に、広く容易に行き渡らせることができる。このような螺旋状の溝とする場合、1条の螺旋としてもよいが、2条以上の螺旋としてもよい。また、上記もしたように、溝の幅は、研削条件に応じて適宜に設定すればよいが、セラミック製の細長い軸部材は折れ易いため、溝の幅寸法次第では、破断片が溝に嵌り込む可能性がある。この嵌り込みの発生防止のため、溝の幅は、請求項3に記載のように、研削後の軸部材の外径より小さくしておくのが好ましい。溝の深さは、研削液の入り込み性や流れ込み性のよさからして深いほうが良い。一方、溝が深いと、破断片の嵌り込みの可能性が高くなる。このため、溝の幅は、その深さにもよるが、研削する軸部材の外径よりなるべく小さく、好ましくは80%以下に、特に好ましくは60%以下とするのがよい。ただし溝の幅は、研削液の入り込み性や目詰まり防止の上からして、最小でも、1.0mm以上とするのが好ましい。なお、溝の深さは、ダイヤモンド砥石層の厚みと同じとするのが、砥石車の製造上において効率的である。この場合には、ダイヤモンドの砥石層がないところが溝であるから、したがって、前記溝をなさない部位にのみ、その砥石層を形成すればよい。
【0015】
請求項1又は請求項4に記載の組立て体構造の砥石車によれば、溝はその組み立て過程で形成されるので、砥石車の製造が容易となる。しかも、砥石車自体の幅を、分割砥石車の数次第で、容易に変更、ないし選択できるし、砥石の部分的な交換もできるので、使い勝手もよい。なお、本明細書においては、回転軸方向において重ねて固定してなる組立て体からなる砥石車を構成する、複数に分割可能の砥石車の個々を、分割砥石車といい、その1つの分割砥石車を構成する砥石層を除く砥石車本体を分割車本体と言うものとしている。
【0016】
センタレス研削で、例えば、スルーフィールド法でセラミック製の軸部材を、焼成直後の焼き肌状態のものから、高度の表面粗さ、高精度の丸棒に仕上げるためには、研削工程は、複数の研削工程(例えば、2〜5工程)を要する。とくに、ワークをなす軸部材が、上記もしたよう、焼成直後のもので、その外周面に、個別に折り取る(切断する)際に生じた破断面を有するなど、横断面状態が悪く、多角形又は非円形の物であり、これを円軸部材に仕上げる場合には、特に1回目の研削に使用される砥石の負担が大きい。それ故、砥石の寿命が短くなるような場合であるとしても、本発明によれば、前記溝がある分、それがない場合に比べると、研削部位への研削液の回り込み性が向上するため、砥石の長寿命化が図られるし、騒音の低減防止にも有効である。このため、本発明の円軸部材の製造方法によれば、とくに、軸部材がセラミックを主成分として含むようなもので、横断面状態が悪いものである場合には、大きな効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明とは別の参考発明を具体化した、センタレス研削方法を用いた円軸部材の製造方法(参考形態例)を説明する、センタレス研削盤における主要部であるところの、砥石車、調整車、及び支持刃(ブレード)等の配置を示した概略構成図であり、Aはその立面図、Bはその平面図。
図2図1のAにおいて、その研削液の供給配管を省略して斜め上から見た斜視図。
図3】軸部材の横断面形状を説明する図。
図4図2において、砥石車に設けた溝を螺旋状のものとした別例の斜視図。
図5図1の砥石車を複数の分割砥石車からなるものとした説明図であって、上図(A)は分割状態を説明する図であり、下図(B)は組立て後の砥石車の説明図。
図6】組立て体からなる砥石車の別例を説明する図であって、Aはその半断面図、及び部分拡大図、BはAの右側面図。
図7】組立て体からなる砥石車のさらなる別例を説明する図であって、その半断面図、及び部分拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明を具体化した実施の形態例を説明する前に、本発明とは別の参考発明の参考形態例として、センタレス研削方法、及びこれを用いた研削工程を含む円軸部材の製造方法(参考例)を、図1図3を参照しながら詳細に説明する。図1、2は、センタレス研削盤における主要部であるところの、砥石車10と調整車20、そして、この両者に平面視、挟まれるように配置された支持刃(ブレード)30等を示したものである。すなわち、砥石車10と調整車20とはその回転軸11,21間の中心距離が調節可能に、平面視、平行に配置され、その間に、位置を調節可能に配置された支持刃(ブレード)30が設けられている。また、図1−Aに示したように、砥石車10の上方には、研削液供給用の供給用配管40におけるその先端(吐出口)41が、研削液を砥石車10の外周面、すなわち、砥石層15の外周面16のうち、ワークである軸部材101寄り部位に浴びせかけれるように下向きで開口されている。これにより、研削液を砥石車10と、軸部材101との間(研削部位)に供給できるように設定されている。ただし、その配管40の先端41は、砥石車10の回転軸11に沿って間隔をおいて複数(本参考例(以下、本例ともいう)では2個所)開口されるように設けられており、研削液が砥石車10の幅方向の全体に供給されるよう設定されている。なお、研削中の軸部材101を軸方向へ送る(推進力の付与)ため、ワークである軸部材101に押付けられる調整車20(例えば、外周面がゴム製)の回転軸21は、砥石車10の回転軸11に対し、横から見たときは図示はしないが、微小角度傾けられている。以上、砥石車10等の配置は、従来公知のセンタレス研削盤におけるそれと同じであり、相違するのは砥石車10の構成のみである。このため、以下、この相違点を中心として、研削方法等について説明する。
【0019】
ただし、本例で研削されるワークである軸部材101は、セラミック製(窒化珪素製)の棒材とする。具体的には、ディーゼルエンジンの着火の促進に使用されるグロープラグ用のセラミック製のヒータ部材である。このものは、図1、2中においては説明を容易とすため、単に短い円柱状のものとして示しているが、実際には、図示しない抵抗発熱体が埋没状に設けられており、例えば長さが40mmで、最終的な仕上げ後の外径がφ3.5mmの細長い丸棒を呈している。なお、この軸部材101は、焼成時には、図3に示したように、その一端側から見たときは、多数をその外周面をなす両側面において連ねてなる集合体100とされており、焼成後、これをその各部位の側面において折り取る(破断する)ことで個別に分割された後の横断面形状は、同図中において拡大して示したようなものである。すなわち、研削前の出発素材である軸部材101は、その横断面が、多角形又は非円形とでもいうべき不整形状で、真っ直ぐに長く延びる棒材である。
【0020】
一方、本例において使用する砥石車10は、金属製の砥石車本体13の外周面に、ダイヤモンドを砥粒として用い、結合材等を含んで層状に形成された砥石層15を有するもので、その砥石層15のなす外周面16における砥石車10の外径が200mm、その幅が100mmのものとされている。なお、本例では、その砥粒は粒度が、120番のものとされている。また、砥石層15の厚みは、1〜10mmの範囲内で設定されている。このような砥石車10は、図1−B、図2に示したように、その砥石層15の外周面16において、その周方向に周回状に連なって延びる溝18が、母線方向において、所定の等間隔をおいて複数切り込まれた形で形成されている。ただし、この溝18は、例えば、その断面形状が、幅の狭い矩形溝をなしており、幅Wが1mm(又は2mm)、深さDが5mmとされている。ただし、溝18相互のピッチは10mmとされている。本例では、このような砥石車10に対し、スルーフィールド法にて、軸部材101を連続的に供給して、外周面16を円筒研削するため、上記した調整車20、及び支持刃30の位置が調節され、保持されている。
【0021】
しかして、このような砥石車10、及び調整車20に、図中矢印で示したように同方向で、異なる回転数の回転を付与しつつ、相対的に高速で回転する砥石車10の外周面16(砥石層15)に、供給用配管40の先端から研削液を吐出させる。この状態の下で、砥石車10の一方の端面(図1−Bの下、図2の左)側から、軸部材101を次々と供給し、これを押え部材35で上から弾性的に押える。こうすることで、各軸部材101は回転が与えられ、砥石車10により研削が行われる。そして、各軸部材101は、調整車20で軸方向への送り(推進力)が与えられるため、円筒研削されながら、砥石車10の一側(図1−Bの下、図2の左)から、他側に送られて排出される。このようにして、ワークである軸部材101はスルーフィールド方式で、次々とその研削が行われる。そして、2回目以降、所望とする回数、研削を繰り返し行うことで、最終的に所望とする円形の横断面形状、外径寸法の円軸部材、すなわち、セラミック製のヒータ部材(円筒研削終了品)が得られる。
【0022】
上記研削工程においては、供給用配管40の先端41から吐出する研削液は、砥石車10の外周面16と共に、その外周面16と軸部材101の研削部位に供給され、その中で研削が行われる。この研削工程において本例では、その砥石車10の砥石層15(ダイヤモンドの砥石層15)の外周面16に、上記したように複数の溝18が設けられている。このため、研削液は、砥石層15の外周面16に供給され、その溝18に入り込んで周方向に回り込む。これにより、このような砥石車10を用いた本例のセンタレス研削方法によれば、砥石車10に上記のような溝18がない従来の砥石車を用いた研削による場合に比べると、その溝18がある分、研削液は、砥石車10(砥石層15)の外周面16、及び砥石車10とワークの間の研削部位に、確実に、しかも良く行き渡ることになる。このため、従来の研削法による場合に比べると、研削液が十分に多くある中で、それに洗われる状態の下で研削が行われるから、次のような特有の効果が得られる。
【0023】
すなわち、本例によるセンタレス研削方法を用いた研削工程を含む円軸部材の製造方法においては、砥石車10の円筒をなす砥石層15の外周面16に溝18が設けられていることから、外周面に溝がない砥石車を用いる従来の研削法による場合に比べると、その溝18がある分、研削液が研削部位に効率的に供給される。このため、その分、放熱効果が高い円滑な研削が行われる。これにより、軸部材101をスルーフィールド方式で研削するとしても、砥石車10の外周面16のうち、軸部材101の投入側(図1−Bの下側、図2の左側)の端面側(寄り部位)において発生しがちの偏摩耗(局部摩耗)も低減できる。この結果、砥石車10の投入側の変更(砥石車10における端面の入れ替え)の回数を減らせるし、研ぎ直し回数も低減できる。このように、本例の研削方法、及びこれを用いる円軸部材の製造方法によれば、研削効率が高められる上に、砥石車10の長寿命化が図られる。因みに、本願発明者らによる実測結果からすると、1つの砥石車10で研削できる軸部材101の数は、溝18なしの従来の砥石車を使用した場合に比べると、平均でも2倍以上、すなわち、砥石車10の寿命が2倍以上となった。
【0024】
また、本例のように研削されるワークが、細長く、脆性なセラミックからなる軸部材101であるとしても、上記砥石車10を用いることで、研削液が研削部位に良好に行き渡り、回り込むことから、放熱効果が高められだけでなく、円滑な研削が行われることから、軸部材101に折れ等の破損を発生させにくい。これにより、研削不良の発生の防止、歩留まり低下の防止も図られる。しかも、本例のように、軸部材が焼成後において、上記したように破断されたもので、その横断面形状が不整形状のものである場合には、砥石車10にとっては極めて過酷な負荷、条件下での研削となるところ、上記溝18による研削液の、砥石層15の表面への円滑な行き渡りにより、その負担軽減が図られる。それゆえ、このような研削においては従来、発生する騒音も非常に大きいものとなっていたのに対し、その騒音の減小も図られる。
【0025】
さらに、本例のような、脆性なセラミック材からなる軸部材のセンタレス研削では、その研削過程で、折れ、割れ等が不可避的に発生しやすく、その切断片が、その溝18に嵌り込む形で、食い付いて嵌合してしまうこともあるところ、上記本参考例では、その溝18の幅Wを、軸部材101の外径(φ3.5mm)より、十分小さく、1mm(又は2mm)としている。このため、こうした不具合の発生を略確実に防止できる。これにより、嵌り込んだ切断片による研削不具合や、その除去のための研削作業の中断も回避することができる。なお、溝18の深さDは、研削液の流れ性の確保のためからは深い方が良い。一方で、破断片の嵌り込み防止のため、溝18の幅Wは、ワークである軸部材101の外径よりも、できるだけ小さくするのが好ましい。
【0026】
上記本参考例では、砥石車10の外周面16に設けた溝18を、円周をなす独立した溝18とし、これを複数有するものとして具体化したが、本発明の実施形態例に用いられる砥石車10おいては、螺旋状の溝として、図4に示した別例のように、溝18Sを、砥石層15の外周面16に、回転軸方向に螺旋状に連続して延びるものとして形成してもよい。このような螺旋状の溝18Sとする場合には、砥石車10の外周面16の幅方向において、その溝18Sを連続して存在させることができる。このため、研削部位におけるその幅方向に、研削液を一層、広く回り込ませることができる。これにより、このような螺旋状の溝18Sによれば、研削液による研削部位の冷却性、及び研削の円滑性が一層高められる。図4に示した本発明の実施形態例に用いられる砥石車10の例では、溝18Sを螺旋状とした点にのみが、前記例と異なるのみであるため、同一部位には同一の符号を付すに止める。なお、溝を、上記参考例におけるように円周をなす独立した溝18とする場合、その溝18は、回転軸に垂直な1仮想平面を通るように設けるのが基本であるが、この1仮想平面を通らない状態で設けることもできる。
【0027】
ところで、上記参考例及び図4において使用した砥石車10は、金属製の1つの砥石車本体13の外周面に、その幅方向に間隔をおいて、周方向に沿って延びる溝18(円周溝18)が複数、又は螺旋状の溝18sが存在するように、ダイヤモンドからなる砥石層15が形成されているものとしている。しかし、本発明においてこのような砥石車10は、図5−Aに示したように、幅の狭い(厚みの薄い)複数の砥石車(分割砥石車)50bに分割しておき、これを、図5−Bに示したように、その回転軸11方向に重ねて固定してなる組合せ体からなる砥石車10として具体化することとしてもよい。なお、固定手段は図示しないが、後述するようにボルト締めなどで行えばよい。このものでは、分割砥石車50bに、金属製の分割車本体53とその外周面においてその幅(分割車本体53の厚み)より狭く形成された砥石層15とを有する分割砥石車を、複数用いている。しかして、このような分割砥石車50bを同図に示したように、一定向きで重なり合うようにして組み立てることで、重なって隣合う分割砥石車50bの砥石層15相互の間に、溝18が形成される。このものでは、砥石車10自体の幅を、分割砥石車の数次第で、容易に変更、ないし選択できるし、部分的な交換もできるので便利である。なお、図5においては、左端の分割砥石車は、その幅全体に砥石層15が形成されている。なお、この分割砥石車からなる組立て式の砥石車の改良例としては、図6に示したものが例示される。
【0028】
図6に示した砥石車50は、同一の複数の分割砥石車50bの集合体からなり、各分割砥石車50bは、それぞれ分割車本体53と、その外周面54aに形成された砥石層15とから形成されている。このうち、分割車本体53は、一定厚さの金属製の円板本体53aにおいて、同心異径をなすように、その一端面側が、その円板本体53aの外径より小さい(一回り小さく)外径で、一定の高さで隆起する形の凸円部53bを備えている。これにより、この分割車本体53は径の異なる2つの円筒をなす外周面54a,54bを有している。そして、砥石層15は、この分割車本体53の凸円部53bより大径の円板本体53aの外周面54aの幅全体に、所定の厚みで、ダイヤモンド(砥粒)からなる砥石層15が形成されている。他方、円板本体53aにおけるその他端面側には、この凸円部53bが嵌合可能の、一定の内径寸法で、かつ、その凸円部53bの隆起高さ(突出量)より浅く(小さく)、一定の深さで陥没する凹円部53cを同心で備えている。
【0029】
なお、分割車本体53の中心には、これらを組立てて構成される砥石車50の回転軸を取り付けるための軸穴51が設けられている。また、分割車本体53には、分割砥石車50bを、複数、その軸方向に重ねて固定するためのボルト穴52が、その軸穴51と同心円上において等角度間隔で、例えば8箇所設けられている。
【0030】
しかして、本例の砥石車50は、上記した分割砥石車50bを複数、用意し、隣り合う分割砥石車50bの一方の凹円部53cに、他方の凸円部53bを嵌合させてこれらを重ね、かつ、ボルト穴52を一致させる。そして、このボルト穴52にボルト60を通して、ナット62締めして固定することで組立てられる。このようにして組立てられてなる砥石車50は、凹円部53cの深さが、凸円部53bの隆起高さより浅いため、その差分が、砥石層15における溝18(溝18の幅)となる。このものは、分割車本体53を重ねる際、上記嵌合構造をなしているため、その固定における安定性が高いし、溝18が砥石層15の厚みより大きくされているため、研削液の流路断面が大きく確保される。そして、このものでも、ワークの長さに応じて、重ねる分割砥石車50bの数を調整することで、その砥石車50、すなわち、砥石層15の全体の幅を調整できる。
【0031】
なお、図6の砥石車50をさらに改良した別例を図7に示す。このものは、前例において、別途、前記分割砥石車50bにおいて凹円部53cを設けない分割砥石車50bを1つと、前記分割砥石車50bにおいて凸円部53bを設けない分割砥石車50bを1つ用意し、上記組立て構造の砥石車50において、これらを各端に嵌合させて組み立てたものである。すなわち、このものでは、図7に示したように、別途用意した前者の分割砥石車50bを前記砥石車50の図示右端において、後者の分割砥石車50bをその左端において、それぞれ回転軸方向に重ねて、前例と同様に凸円部53bと凹円部53cを嵌合して固定したものである。なお、図7に示した砥石車50では、例えば、最外側の一方の分割砥石車50b(図示右端)のボルト穴52に、ざぐりを設けておき、最外側の他方の分割砥石車50b(図示左端)のボルト穴に代えて、ネジ穴52bを設けておき、図示のように六角穴付きボルト70を通して、直接ねじ込んで固定すると、両端面に凸部(突起)や凹部もなくなり、砥石車50全体しての形状のシンプル化が図られる。
【0032】
本発明は、上記した各例のものに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、適宜に変更して具体化できる。砥石車について上記例では、砥石層に設ける溝を、その断面が矩形(正方形、又は長方形)とした場合を例示したが、その溝の形状は、上記もしたように、研削液の流れ性(回り込み性)に支障がない限り、V形、U形など、適宜の断面形状とすることができる。また、溝の幅、深さ、溝相互間のピッチ等は、ワークの難削性、外径等に応じて設定すればよい。なお、本発明の研削方法、製造方法における軸部材(又は円軸部材)は、中実の軸部材だけでなく、中空の軸部材(筒)であってもよいことは明らかである。また、研削される軸部材、又は製造される円軸部材の研削される前の軸部材の断面は、円形の丸棒(等径丸物)であってもよい。さらに、これらワークは、窒化珪素以外のセラミック、その他の難削材(超硬合金)であってもよい。
【符号の説明】
【0033】
10、50 砥石車
11 回転軸
15 砥石層
18,18s 溝
16 砥石層の外周面
50b 分割砥石車
53 分割車本体
54a、54b 分割車本体の外周面
101 軸部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7