(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、高齢者や身体障害者の入浴を介助するための入浴装置が種々開発されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
特許文献1には、浴槽に付設され昇降可能なマスト部と、マスト部上部に取り付けられ回動可能なアーム部と、アーム部に取り付けられた椅子部を有する入浴装置が開示されている。当該入浴装置により高齢者や身体障害者などの要介護者を入浴させる場合、まず椅子部に要介護者を着座させ、マスト部を伸長して要介護者が着座した椅子部を上昇させる。そして、アーム部を水平旋回させた後、マスト部を収縮させて椅子部を下降させることによって、要介護者を椅子部に着座させたままの状態で入浴させることができる。
【0004】
しかし、この種の入浴装置では、アーム部に作用するモーメントが大きくなるという問題がある。これは、マスト部を移動させることなく、椅子部を洗い場と浴槽間で水平回動させるためには、アーム部を長くする必要があることに起因する。アーム部が長くなるとモーメントが大きくなるため、大きな駆動力が必要とされ、駆動源には油圧装置が利用されたり、100Vまたは200V級電源を使う電動装置が利用されていた。
【0005】
しかるに、油圧装置を使うとパッキン摩耗等により作動油の漏れが不可避的に発生するが、浴室内に油が漏れると入浴ができなくなり後始末に大変な労力を要する。
また、電動装置を使うと、水の飛沫や湯気によって漏電が発生しやすくなり、漏電が起こると高齢者や身体障害者などには重大事故につながってしまう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記事情に鑑み、高齢者や身体障害者などの要介護者の入浴を安全に、また介護者の負担が軽い入浴装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1発明の入浴装置は、浴槽に付設され、要介護者を該浴槽の内外間で移動させる入浴装置であって、前記浴槽の一端側に付設される基台と、前記基台上に設けられ、前記浴槽に対して水平方向に移動可能な横移動手段と、前記横移動手段上に設けられ、前記浴槽に対して上下方向に移動可能な昇降手段と、前記昇降手段に取付けられた座浴用椅子を着脱自在に係着する椅子係着部とを備えており、前記横移動手段
が、フレーム機構と水圧シリンダとガイド機構とからなり、前記フレーム機構は、基台上に取付けられた基端フレームと、該基端フレームに対し横移動自在な中間フレームと、該中間フレームに対して横移動自在な先端フレームとからなり、前記ガイド機構は、中間フレームに取付けられたガイドバーが、基端フレームに取付けられたガイドローラと先端フレームに取付けられたガイドローラで挟まれており、先端フレームは基端フレームに取付けられた固定ローラでガイドされるガイド構造であり、前記昇降手段が
フレーム機構と水圧シリンダとガイド機構とからなり、前記フレーム機構は、下段フレームと該下段フレームに対して昇降自在な上段フレームとからなり、前記ガイド機構は、前記下段フレームに取付けたガイドローラで、前記上段フレームに取付けたガイドバーを挟んでガイドするガイド構造からなり、前記水圧シリンダの駆動源が電池であることを特徴とする。
第
2発明の入浴装置は、第
1発明において、前記横移動手段が機枠を有しており、該機枠に前記水圧シリンダの駆動媒体である水を入れるタンクと、前記水圧シリンダの駆動用の制御ボックス、および前記電池が付設されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
第1発明によれば、以下の効果を奏する。
a)横移動手段も昇降手段も水圧シリンダを用いているので、たとえパッキン等の摩耗によりシリンダ内の水が漏れ出ても浴室内を汚すことがないので、介護者の負担が軽い。
b)要介護者を椅子に着座させた状態で昇降手段によって椅子を上昇させ、横移動手段によって浴槽の内外間を水平移動させた後、昇降手段によって降下させることができる。このように、縦横移動のみで、高齢者や身体障害者などの入浴を行えるので、入浴が安全かつ容易にし得る。また、従来のように椅子を水平回動させることがないため、椅子に着座している要介護者が目眩などの不調を訴えることもない。
c)横移動手段の水圧シリンダによって昇降手段を浴槽の外側(洗い場側)に移動させることができるため、介護者の労力が軽減できる。
d)停電時でも水圧シリンダを駆動することができる。また、従来の交流電源を使用する場合に比べて、漏電による感電のおそれがなく、高齢者や身体障害者にとって特に重要な安全性の向上が図られる。
第
2発明によれば、入浴装置の椅子を水平旋回させないで、横移動と昇降を組合せた動きをするのでモーメントの作用は小さく必要な動力源は小型化できる。このため、作動に必要な水タンクも制御ボックスも電池も小型のものでよいので、機枠に取付けることができ、装置全体をコンパクトにできる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
本発明の入浴装置は、浴槽に付設され、高齢者や身体障害者などの要介護者を入浴させるための装置である。
【0012】
図1〜
図3において、Aは本実施形態に係る入浴装置、Bは浴槽、Cは浴槽Bに隣接する洗い場である。本実施形態の入浴装置Aは、浴槽Bに付設され、要介護者を浴槽Bの内外間、つまり浴槽B内と洗い場C間で移動させる装置である。なお、Dは座浴用の椅子である。
【0013】
入浴装置Aの主な構成をまず説明する。
入浴装置Aは、横移動手段1と昇降手段2が基台3上に設けられた構造である。
基台3は、浴槽Bの長手方向の一端側に付設される。
図2に示すように、基台3は浴槽Bの短手方向の長さと略同じ長さに設定されている。なお、浴槽Bに基台3を付設する際、
図2における基台3の右側にスペースを確保する必要は無く、浴室の壁に隣接して基台3を設置することができる。
【0014】
基台3上には、横移動手段1が設けられている。また、この横移動手段1上には昇降手段2が設けられており、昇降手段2には、座浴用の椅子Dの椅子係着部7が取付けられている。
【0015】
横移動手段1は、当該昇降手段2を浴槽Bに対して接近離間するように移動させる機能を有する。つまり、横移動手段1により昇降手段2は、
図2に示す使用位置Uと準備位置Sとの間で移動できる。なお、使用位置Uとは椅子Dを浴槽B内に降ろせる位置であり、準備位置Sとは椅子Dを洗い場Cに降ろせる位置である。
【0016】
昇降手段2は
図1および
図3に示すように、椅子係着部7を降下位置Lと上昇位置Hとの間で昇降させる機能を有している。降下位置Lは浴槽B内や洗い場Cで椅子Dを下した位置であり、上昇位置Hは椅子Dを浴槽Bのヘリを乗り越える位置である。
【0017】
つぎに、各部材の詳細を説明する。
横移動手段1の構成を
図4〜
図6に基づいて説明する。横移動手段1は、
フレーム機構と水圧シリンダとガイド機構からなる。フレーム機構は、基台3上に取り付けられた基端フレーム11と、中間フレーム12と先端フレーム13とを有して
いる。基端フレーム11の基端部(図中の左端)と先端フレーム13の先端部(図中の右端)との間には水圧シリンダ14が取付られている。
【0018】
フレーム機構の詳細とガイド機構を以下に説明する。
前記基端フレーム11は、左右一対の立板と底板とからなる。この基端フレーム11の左右一対の立板における上段部と下段部のそれぞれにおいて、ガイドローラ11rが複数個づつ取付けられている。複数個のガイドローラ11rは先端フレーム13の移動方向に沿って間隔をあけて取付けられている。
基端フレーム11の底板上には固定ローラ10rが複数個取付けられている。複数個の固定ローラ10rは先端フレーム13の走行方向に沿って設けられており、先端フレーム13を走行自在に支持している。
【0019】
前記中間フレーム12は、前後2枚の端面板12eを有し、それらの間に上下一対のガイドバー12gを左右に備えて構成されている。
【0020】
前記先端フレーム13は、左右一対の立板と先端側の端面板とからなる。先端フレーム13における左右一対の立板の中段部において、上段部と下段部のそれぞれに、ガイドローラ13rが複数個づつ取付けられている。複数個のガイドローラ13rは先端フレーム13の移動方向に沿って間隔をあけて取付けられている。
【0021】
中間フレーム12のガイドバー12gは基端フレーム11のガイドローラ11rと先端フレーム13のガイドローラ13rで上下から挟まれており、中間フレーム12が基端フレーム11に対し伸縮自在であり、先端フレーム13も固定ローラ10r上で伸縮自在である。本明細書では、この構造をガイド機構10という。
【0022】
前記水圧シリンダ14は、水を加圧媒体とするシリンダ装置である。水圧シリンダ14のシリンダは基端フレーム11の基端に取付けられ、ロッドは先端フレーム13の先端に取付けられているが、取付け方はこの逆であってもよい。
【0023】
水圧シリンダ14を伸長させると、
図5に示すように、先端フレーム13も中間フレームにも伸長し、先端フレーム13の先端部はローラ15で支えられ、後端部は中間フレーム12で支えられる。水圧シリンダ14を収縮させると、
図7に示すように、先端フレーム13も中間フレーム12も基端フレーム11内に収められる。
図2に示す使用位置Uは
図7に示す収縮状態であり、準備位置Sは
図4および
図5に示す伸長状態に対応している。
【0024】
前記横移動手段1の上には、昇降手段2が立設されている。昇降手段2は、
フレーム機構と水圧シリンダとガイド機構からなる。フレーム機構は、下段フレーム21と上段フレーム22
とから構成されている。下段フレーム21は横断面U型のフレームであり、上段フレーム22も横断面U型のフレームである。そして、下段フレーム21の下端と上段フレーム22の上端との間に水圧シリンダ30が取付けられている。
【0025】
下段フレーム21と上段フレーム22との間には、ガイド機構20が設けられている。このガイド機構20は横移動手段1のガイド機構10と実質同様のもので、下段フレーム21側に取付けたガイドローラ21rと上段フレーム22に取付けたガイドバー21bとから構成されている
。
【0026】
図5および
図6に示すように、水圧シリンダ30は、外側シリンダ31、内側シリンダ32、およびロッド33の2段式のシリンダで構成されている。
水圧シリンダ30に多段シリンダ型を用いると、伸長ストロークは大きくとれながら、収縮時の寸法を小さくすることができる。
本実施形態では、ロッド側を下にして、ロッド33を下段フレーム21の底端に取付け、外側シリンダ31を上段フレーム22の上端に取付けているが、これを逆にしてもよい。
【0027】
水圧シリンダ30を伸長させて、昇降手段2を伸長させた状態が
図5および
図6に示され、収縮させて昇降手段2を収縮させた状態が
図7および
図8に示されている。
図5の伸長状態では
図1に示す上昇位置Hとなり、
図7及び
図8の収縮状態では
図1に示す降下位置Lに対応する。
【0028】
図4〜
図8に示すように、昇降手段2の上段フレーム22の前面(浴槽Bに面する側)には、椅子係着部7が取付けられている。
図1〜
図3に示すように、この椅子係着部7に椅子Dの係着金具を引っ掛けると、椅子Dを上段フレーム22に取付けた状態となる。
【0029】
横移動手段1の水圧シリンダ14および昇降手段2の水圧シリンダ30は、加圧媒体に水を使っている。水を使用しているとパッキンの摩耗等が原因で漏洩が生じても、もれ出るのは水だけであるので、油圧シリンダから油漏れが生じたときのような浴室の汚れは生じない。
【0030】
水圧シリンダ14,30の水圧回路を
図9に基づき説明する。
40は水タンク、41はポンプ、42はポンプ駆動用モータである。ポンプ41の吐出管は二手に分かれ、一方の管路43は水圧シリンダ14用であり、他方の管路51は水圧シリンダ30用となっている。管路43には第1電磁開閉弁44が介装され、この第1電磁開閉弁44が開弁すると水圧シリンダ14を動作させ、閉弁するともう一方の水圧シリンダ30を動作させることができる。
【0031】
管路43と、水圧シリンダ14のピストン側室に電磁切換弁45が、ロッド側室には電磁切換弁46がそれぞれ介装されている。この2個の電磁切換弁45,46のポート切換えを組合せることによって、水圧シリンダ14を伸縮制御することができる。
【0032】
水圧シリンダ30には前記管路51と別の管路52が接続されている。管路51は供給用であって、逆止弁53が介装されている。この逆止弁53は供給が順方向であり、逆流を阻止するものである。
管路52は排出用であり、電磁開閉弁54が介装されている。電磁開閉弁54を閉にして水圧を供給すれば、水圧シリンダ30は伸長し、電磁開閉弁54を開にすれば、水圧シリンダ30は負荷自重で収縮する。
【0033】
本発明では、昇降手段2は横移動手段1によって水平移動されるため、従来の水平回動させるものに比べてモーメントが小さく、低圧での昇降動作が可能となる。しかも、水圧シリンダ14,30の水圧回路は閉回路でよいので、使用する水量は少量でよい。このため、水圧ユニットを小型化することができる。
【0034】
水圧シリンダ14,30の駆動用モータの電源は電池である。このため、停電時でも水圧シリンダ14、30を駆動することができるので好ましい。また、電池式とすることによって、従来の交流電源を使用する場合に比べて、漏電による感電のおそれがなく、安全性の向上も図られる。
図10は、水圧シリンダ14,30の駆動ユニットの外観を示している。上記のごとく、使用水量は少なくてよいので、水タンク40は5リットル位のものを2個、計10リットル位で足りる。また、ポンプの吐出能力を小さくしてよいので、ポンプ41やポンプ駆動用モータ42は小型でよく、電池も24V程度の小容量のものでよい。
そして、これらを一体にまとめた水圧駆動ユニット50はコンパクトであるので、
図7に示すように、機枠上のスペース60等に設置する事が可能である。
【0035】
本実施形態に係る入浴装置Aによると、以下の手順によって要介護者の入浴を安全かつ容易にし得る。
図1〜
図3に基づき説明する。
まず、椅子Dに要介護者を着座させた状態で、浴室の洗い場Cに移動させる。そして、横移動手段1を準備位置Sに移動させる。
図3に示すように、専用台車Eに取り付けた椅子Dの背面側を昇降手段2の前面に向けて配置し、昇降手段2が備える椅子係着部7に椅子Dを係着する。
【0036】
そして、昇降手段2によって椅子Dを上昇させる。このとき、椅子Dの下面が浴槽Bの上端を超える位置まで椅子Dを上昇させれば、次の水平移動が可能となる。したがって、椅子Dを必要以上に上昇させる必要がないため、椅子Dに着座している要介護者に、床面からの高さによる恐怖心を与えることを回避できる。
【0037】
昇降手段2によって椅子Dを上昇させたら、その状態のままで横移動手段1によって椅子Dを水平方向に横移動させる。つまり、
図2に示すように、使用位置Uへ水平移動させる。
最後に、昇降手段2によって椅子Dを降下させることにより、椅子Dに着座したままの要介護者を簡単に入浴させることができる。
【0038】
本実施形態の入浴装置Aによると、要介護者を椅子Dに着座させた状態で昇降手段2によって椅子Dを上昇させ、横移動手段1によって浴槽Bの内外間を水平移動させた後、昇降手段2によって降下させることができる。このため、高齢者や身体障害者などの要介護者の入浴を、安全かつ容易にし得る。特に、椅子Dを水平移動させる構成とすることによってモーメントは小さくなるため、昇降手段2の圧力を小さくすることができる。
【0039】
また、従来のように椅子Dを水平回動させることがないため、椅子Dに着座している要介護者が目眩などの不調を訴えることもない。
さらに、横移動手段1の水圧シリンダ14によって昇降手段2を浴槽B外の洗い場C側に移動させることができるため、介護者の労力を軽減できる。また、浴槽Bの横に入浴装置Aの保守・点検作業を行うスペースを別途確保する必要がない。
【解決手段】浴槽Bに付設され、要介護者を浴槽Bの内外間で移動させる入浴装置Aであって、浴槽Bの一端側に付設される基台3と、基台3上に設けられ、浴槽Bに対して水平方向に移動可能な横移動手段1と、横移動手段1上に設けられ、浴槽Bに対して上下方向に移動可能な昇降手段2と、昇降手段2に取付けられた座浴用椅子Dを着脱自在に係着する椅子係着部7とを備えており、横移動手段1および昇降手段2が水圧シリンダ14,30で構成されている。水圧シリンダ14,30により要介護者を椅子Dにのせて入浴させることができる。また、パッキン等の摩耗によりシリンダ内の水が漏れ出ても浴室内を汚すことがない。