(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5947068
(24)【登録日】2016年6月10日
(45)【発行日】2016年7月6日
(54)【発明の名称】接着方法
(51)【国際特許分類】
C09J 131/04 20060101AFI20160623BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20160623BHJP
B27D 5/00 20060101ALI20160623BHJP
【FI】
C09J131/04
C09J11/06
B27D5/00
【請求項の数】2
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2012-57885(P2012-57885)
(22)【出願日】2012年3月14日
(65)【公開番号】特開2013-189573(P2013-189573A)
(43)【公開日】2013年9月26日
【審査請求日】2015年1月8日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000100698
【氏名又は名称】アイカ工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】櫛田 貢
【審査官】
澤村 茂実
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−035580(JP,A)
【文献】
特開2001−011410(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00−201/10
B27D 1/10,5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基含有酢酸ビニル系樹脂エマルジョン(A)100重量部に対して、2以上のカルボジイミド基を有する化合物(B)を2〜10重量部含有する接着剤組成物を厚み3mm以下の木質基材に塗布後、100〜140℃に設定した熱板により圧締を行うまでの時間が60分以上であることを特徴とする接着方法。
【請求項2】
請求項1に記載の接着方法により接着された木質材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は接着剤を被着体に塗布した後の堆積時間が長い条件においても、優れた耐水性が得られる接着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酢酸ビニル系樹脂エマルジョン接着剤は木工、紙工などの分野で幅広く用いられているが、他の接着剤と比較して耐水性が劣るという欠点を有している。そこで、樹脂中に官能基を導入したり、架橋剤を添加することによって耐水性を改善した種々の接着剤が知られている。
【0003】
例えば、アセトアセチル基を有するポリビニルアルコールを使用したり、アセトアセチル基を有する単量体を酢酸ビニルと共重合させることによってアセトアセチル基を導入する方法や、イソシアネート化合物を添加する方法などがよく用いられている。しかしながら、接着剤の保存性が低下したり、可使時間が低下するなど、一液型酢酸ビニル系樹脂エマルジョン接着剤が有している幅広い作業性には制約が生じてしまっている。
【0004】
また、突き板接着などにおいては接着剤を被着体に塗布後、長時間堆積(放置)された後に熱圧締する方法(熱戻し接着)が用いられる場合がある。変性されていない酢酸ビニル系樹脂エマルジョン接着剤であれば、このような接着方法でも問題なく接着できるものの、未変性ゆえに耐水性が低いという問題がある。また、前述のような架橋タイプでは耐熱性に優れるため熱をかけても接着剤の流動性が回復せず、本来の接着力が得られないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
特許文献1には、耐水性及び耐熱性が改良された、安定性に優れる接着剤が開示されている。しかし、熱戻し接着性については開示されていない。
【特許文献1】特開2004-169024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、接着剤を被着体に塗布した後の堆積時間が長い条件においても、優れた耐水性が得られる接着方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、特定の接着剤を使用した場合のみ熱戻し接着性と耐水性を両立できることを見出し、本発明を完成させた。
本発明は、カルボキシル基含有酢酸ビニル系樹脂エマルジョン(A)
100重量部に対して、2以上のカルボジイミド基を有する化合物(B)を
2〜10重量部含有する接着剤組成物を
厚み3mm以下の木質基材に塗布後、
100〜140℃に設定した熱板により圧締を行うまでの時間が60分以上であることを特徴とする接着方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の接着方法は耐水性に優れ、さらに熱戻り接着性に優れる為、長い堆積時間を確保することができ、例えば化粧単板貼りや突板貼りにおいて複雑な形状の化粧貼りを行なう際に堆積時間の制約が少ない。また、製造ラインにおいてトラブルによるライン停止の際に堆積時間オーバーによって破棄される材料を減らすなど、作業改善が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明で用いるカルボキシル基含有酢酸ビニル系樹脂エマルジョン(A)は、ポリビニルアルコールなどの水溶性高分子を保護コロイドとして、酢酸ビニルやその他の単量体をポリビニルアルコールの存在下で乳化重合することによって得られるものである。カルボキシル基を含有させる方法としては、乳化重合の際にカルボキシル基を有するポリビニルアルコールを使用したり、酢酸ビニルとアクリル酸のようなカルボキシル基含有単量体を共重合するなどの方法が挙げられる。
【0010】
また、必要に応じて酢酸ビニル系樹脂エマルジョンの乳化重合の際に界面活性剤等の乳化剤を併用したり、エチレン、バーサチック酸ビニル、アセトアセトキシエチルメタクリレート(AAEM)などの単量体を用いても良い。また、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョンやアクリル系樹脂エマルジョンなどの存在下において酢酸ビニル、不飽和カルボン酸および必要に応じてその他の共重合可能な単量体を重合することも可能である。
【0011】
2以上のカルボジイミド基を有する化合物(B)として、具体的には日清紡ケミカルズ社製の商品名カルボジライトV-02、V-04、E-02などが挙げられる。配合量としては、前記樹脂エマルジョン(A)100重量部に対して2〜10重量部が好ましく、3〜8重量部がより好ましい。2重量部以上とすることで耐水性が顕著に向上するが、10重量部を超えて配合しても耐水性は頭打ちとなる。
【0012】
本発明の接着剤組成物には前記(A)成分、(B)成分の他、可塑剤、増粘剤、pH調整剤、粘着付与樹脂、界面活性剤、防腐剤、消泡剤、防錆剤、顔料などの公知の添加剤を配合してもよい。
【0013】
本発明の接着方法では、前記接着剤組成物を被着体に塗布した後、熱圧締を行う。熱圧締の方法は特に制限されず、圧締をしながら接着剤層に高周波を照射して加熱するような方法や、熱板で被着体を圧締することによって被着体を通して接着剤層を加熱する方法が挙げられる。後者の場合、被着体の厚みは制限されるが、化粧単板や突板のように厚み3mm以下の木質基材であれば何ら問題はない。また、熱板の温度は100〜140℃に設定することが好ましい。
【0014】
本発明の接着方法は熱戻し性に優れるため、接着剤組成物を被着体に塗布した後の堆積時間が長くなっても十分な接着性能を発揮できる。通常の接着剤では堆積時間が60分以上となると接着性能は顕著に低下するが、本発明の接着方法では堆積時間が60分以上となってもほとんど接着性能が低下しない。したがって、化粧単板貼りや突板貼りなどのように段取りに時間がかかる工程でも使用できる。また、トラブルによってラインが停止してしまった場合であっても、圧締されないまま長時間堆積された仕掛かり品を廃棄することなく利用できる。
【0015】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例に制限されるものではない。
【実施例】
【0016】
カルボキシル基含有酢酸ビニル系樹脂エマルジョンの合成
攪拌機、温度計、加熱ヒーター、還流冷却管を備えたフラスコ中に水455重量部、ポリビニルアルコールとしてH−24(電気化学工業株式会社製、平均重合度約2400、ケン化度95.5%、商品名)17重量部、B−24(電気化学工業株式会社製、平均重合度約2400、ケン化度88%、商品名)9重量部とを仕込んで80℃にて1時間撹拌して溶解した。その後、アクリル酸11重量部、ソーダ灰の30%水溶液10重量部、過硫酸アンモニウムの2.5%水溶液20重量部を加えた後、酢酸ビニルモノマー410部、過硫酸アンモニウムの2.5%水溶液20部を、4時間で滴下して乳化重合を行い、さらに80℃で1時間熟成後、可塑剤としてフェニルグリコール51部を加え、カルボキシル基含有酢酸ビニル系樹脂エマルジョン(アクリル酸変性酢ビ)を得た。
【0017】
実施例1
前記カルボキシル基含有酢酸ビニル系樹脂エマルジョン100重量部に対し、日清紡ケミカルズ株式会社製カルボジライトV-04を2重量部混合することにより、実施例1の接着剤組成物を得た。
【0018】
実施例2
実施例1において、カルボジライトV-04の添加量を10重量部とした他は実施例1と同様に行い、実施例2の接着剤組成物を得た。
【0019】
比較例1
前記カルボキシル基含有酢酸ビニル系樹脂エマルジョンをそのまま比較例1の接着剤組成物とした。
【0020】
比較例2
前記カルボキシル基含有酢酸ビニル系樹脂エマルジョンの製造において、アクリル酸を添加しなかった他は同様に製造を行い、カルボキシル基を含有しない酢酸ビニル系樹脂エマルジョン(未変性酢ビ)を得た。カルボキシル基を含有しない酢酸ビニル系樹脂エマルジョン100重量部に対してカルボジライトV-04を10重量部混合することにより、比較例2の接着剤組成物を得た。
【0021】
比較例3
前記カルボキシル基含有酢酸ビニル系樹脂エマルジョン100重量部に対し、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)10部添加を混合することにより、比較例3の接着剤組成物を得た。
【0022】
比較例4
前記カルボキシル基含有酢酸ビニル系樹脂エマルジョンの製造において、アクリル酸を添加せず、酢酸ビニルモノマーとアセトアセトキシエチルメタクリレート20重量部を同時に滴下した他は同様に製造を行い、アセトアセチル基含有酢酸ビニル系樹脂エマルジョン(AA化変性酢ビ)を得た。これを比較例4の接着剤組成物とした。
【0023】
熱戻り接着性、接着性能
9mm厚のJAS1類合板に各接着剤組成物を110g/m
2塗布して、60℃乾燥機内で60分乾燥、その後2.7mm厚MDFと貼り合わせ、110℃に設定した熱板にて0.5MPaの圧力で2分間熱圧締した。1時間後、接着体を強制破壊にてMDFの材破率を確認することによって熱戻り接着性を評価した。さらに3日間養生した別の試験体にて、JAS1類浸せきはく離試験を行い、合否を判定した。
【0024】
ポットライフ
各接着剤組成物を調製2時間後、合板に塗布できる状態であるかを判定した。問題なく塗布できるものを○、増粘が激しく塗布が困難なものを×と評価した。
【0025】
【表1】
熱戻り接着性:MDF材破率 %
接着性能:タイプI
【0026】
比較例1、2の接着剤組成物は架橋点が無いので耐水性に劣る。比較例3、4は熱戻り接着性に劣り、十分な接着性能(耐水性)を発揮できない。実施例1、2の接着剤は熱戻り接着性に優れ、耐水性も良好である。