【実施例1】
【0018】
以下、本発明を適用した可変ダクトの実施例1について説明する。
実施例1の可変ダクトは、例えば、乗用車等の自動車の車体前端部に設けられるものである。
図1は、実施例1の可変ダクトを有する車両の車体前端部を車幅方向中央で鉛直面で切って見た模式的断面図であって、衝突前かつ可変ダクトを開いた状態を示す図である。
車体前部には、バンパフェイス10、バンパビーム20、ラジエータ30、コンデンサ40、ラジエータパネル50、エネルギ吸収材(EA材)60、可変ダクト100等を有して構成されている。
【0019】
バンパフェイス10は、車体前端部に設けられる外装部材であって、例えばPP等の樹脂材料によって一体に形成されている。
バンパフェイス10は、本体部11、エアダム部12等を有して構成されている。
本体部11は、図示しないフロントグリル、ヘッドランプ等の下部に配置される部分である。
エアダム部12は、本体部11の下側に、本体部11に対して間隔を隔てて配置されている。
本体部11とエアダム部12との間は、冷却用の走行風が導入される開口となっている。
【0020】
本体部11は、前面部11a、上面部11b、下面部11cを有して構成されている。
前面部11aは、車両前方側に配置され上下方向にほぼ沿って配置された面部である。
上面部11bは、前面部11aの上端部から後方へ伸びて配置された面部である。
下面部11cは、前面部11aの下端部から後方へ伸びて配置された面部である。
下面部11cは、ほぼ水平に配置され、可変ダクト100の上部が固定される。
【0021】
エアダム部12は、前面部12a、上面部12b、下面部12cを有して構成されている。
前面部12aは、車両前方側に配置され上下方向にほぼ沿って配置された面部である。
上面部12bは、前面部12aの上端部から後方へ伸びて配置された面部である。
下面部12cは、前面部12aの下端部から後方へ伸びて配置された面部であって、可変ダクト100の下部が固定される。
【0022】
バンパビーム20は、バンパフェイス10の本体部11の後方側に配置され、車幅方向にほぼ沿って伸びた梁状の部材である。
バンパビーム20は、実質的に矩形状の閉断面を有して構成されている。
【0023】
ラジエータ30は、図示しないエンジンの冷却水を、走行風との熱交換によって冷却するものである。
ラジエータ30は、冷却水が通過するチューブの周囲に多数のフィンを配置して構成されている。
【0024】
コンデンサ40は、図示しないエアコンディショナの気相冷媒を、走行風との熱交換によって冷却し、凝縮させて液相とするものである。
コンデンサ40は、冷媒が通過するチューブの周囲に多数のフィンを配置して構成されている。
コンデンサ40は、ラジエータ30の前方に配置されている。
【0025】
ラジエータパネル50は、ラジエータ30及びコンデンサ40の周囲に設けられた枠状の車体構造部材であって、これらを支持するものである。
ラジエータパネル50の下部には、一対の板金パネルをモナカ状に接合して閉断面状に構成されたラジエータパネルロワ51が形成されている。
【0026】
EA材60は、エアダム部12の後方に配置され、衝突時にエアダム部12から入力される荷重を吸収しつつ車体側へ伝達するものである。
EA材60は、車両の前後方向に配列され上下方向にほぼ沿って伸びた複数のリブを、上面部で連結して構成され、例えば樹脂材料によって一体に形成されている。
EA材60の前端部は、エアダム部12の内部に挿入され、EA材60の下部は、ラジエータパネル50の下部に配置されている。
【0027】
可変ダクト100は、バンパフェイス10の開口に設けられ、開口を実質的に開閉するものである。
可変ダクト100は、枠体110、アッパルーバ120、ロワルーバ130、リンク140、図示しないアクチュエータ等を備えて構成されている。
枠体110は、開口の内周縁部にほぼ沿って形成され、車両前方側から見た平面形が実質的に矩形状に形成されている。
枠体110の内部は、可変ダクト100を開いた際に走行風が通過する空気流路となっている。
【0028】
アッパルーバ120及びロワルーバ130は、車幅方向にほぼ沿って延び、枠体110の左右側端部間にわたして設けられた帯板状の部材である。
アッパルーバ120及びロワルーバ130は、上下方向に離間して配置されるとともに、その長手方向にほぼ沿って配置された回転軸121,131回りに回動可能となっている。
回転軸121,131は、アッパルーバ120、ロワルーバ130の幅方向における中央部に配置されている。
アッパルーバ120及びロワルーバ130は、その本体部が実質的に水平に配置された全開状態と、実質的に上下方向に沿って配置された全閉状態との間で回動する。
この全閉状態においては、アッパルーバ120及びロワルーバ130は、枠体110の内部を実質的に閉塞するようになっている。
【0029】
アッパルーバ120及びロワルーバ130は、これらが全開状態にある場合に、回転軸121,131に対して上方かつ後方側に突き出したアーム部122,132を備えている。
アーム部122,132は、アッパルーバ120、ロワルーバ130とそれぞれ一体に形成されている。
リンク140は、アッパルーバ120及びロワルーバ130のアーム部122,132の先端部間を、アッパルーバ120及びロワルーバ130の後方側で連結し、かつ、アーム部122,132に対して回動可能に接続されている。
【0030】
アクチュエータは、アッパルーバ120近傍における枠体110の側部に設けられ、図示しない可変ダクト制御ユニットからの指令に応じて、アッパルーバ120を駆動するものである。
アクチュエータは、例えば、電動モータ及び減速ギヤ機構等を有して構成される。
アクチュエータは、車両前方から見た位置が、ラジエータ30及びコンデンサ40からオフセットして配置されている。
アッパルーバ120がアクチュエータによって駆動され回動すると、ロワルーバ130はリンク140によってアッパルーバ120と連動して回動する。
可変ダクト制御手段は、図示しないエンジン制御ユニット、空調制御ユニット等から冷却負荷に関する情報を取得し、これに基いて、冷却負荷が所定値以下である場合には、可変ダクト100を閉塞する。
可変ダクト100は、開状態におけるアッパルーバ120及びロワルーバ130の前端部が回転軸121,131に対してほぼ真下となるまで回動することによって、枠体110の内部がアッパルーバ120、ロワルーバ130によって実質的に閉塞される。
【0031】
実施例1において、アッパルーバ120には、以下説明する突出部123が設けられている。
突出部123は、
図1に示す可変ダクト100の全開状態において、アッパルーバ120の他の部分に対して車両前方側に突出して形成されている。
また、このとき突出部123の先端部の高さ方向における位置は、回転軸121に対して下方となるように配置されている。このため、突出部123の先端部に後向きの荷重が入力された場合には、アッパルーバ120には閉じ方向へのモーメントが発生するようになっている。
突出部123は、アッパルーバ120と一体に形成されるとともに、アッパルーバ120の車幅方向における一箇所又は複数箇所に設けられる。なお、突出部123は、各ルーバが閉状態となった際、車両後方側へ突出するため、車両前面視においてラジエータ30、コンデンサ40とオフセットして配置するとよい。
また、車幅方向に間隔をおいて配列された複数の突出部123の先端部間を車幅方向に連結する荷重入力部を形成し、荷重が入力される範囲を拡大するようにしてもよい。
例えば、このような荷重入力部を、アッパルーバ120のほぼ全長にわたって形成し、車幅方向の如何なる箇所に入力があった場合でも、突出部123によるアッパルーバ120の回動を可能としてもよい。
【0032】
以下、上述した実施例1の可変ダクトの衝突時の動作について説明する。
図2は、車両の車体前端部を車幅方向中央で鉛直面で切って見た模式的断面図であって、衝突による車体変形中の状態を示す図である。
図3は、車両の車体前端部を車幅方向中央で鉛直面で切って見た模式的断面図であって、衝突による車体変形後の状態を示す図である。
図2に示すように、障害物Bと前面衝突し、障害物Bがアッパルーバ120の突出部123の先端部に当接すると、突出部123は、その先端部が回転軸121よりも下方に存在するため、アッパルーバ120を閉じ方向(
図2における反時計方向)に回動させるモーメントを発生する。
これによって、アッパルーバ120は閉じ方向への回動を開始し、ロワルーバ130もリンク140によって連動して閉じ方向への回動を開始する。
その後、
図3に示すように、障害物Bが車体に対してさらに相対的に後退すると、アッパルーバ120及びロワルーバ130は全閉状態となる。
また、アッパルーバ120及びロワルーバ130の回動と連動して、リンク140も車両前方側(回転軸121,131に近づく方向)に移動する。
【0033】
これによって、可変ダクト100がラジエータ30、コンデンサ40側へ移動した場合であっても、可変ダクト100の枠体110に対するアッパルーバ120、ロワルーバ130、リンク140等の後方側への突出量が低減するため、これらの各部位がラジエータ30、コンデンサ40等と干渉してこれらに損傷を与えることを防止できる。
このため、軽衝突時の修理に要するコスト、工数などを低減することができ、また、修理までの間、車両の走行性能や空調性能を最低限確保することができる。
【実施例2】
【0034】
次に、本発明を適用した可変ダクトの実施例2について説明する。
なお、以下説明する各実施例において、従前の実施例と実質的に同様の箇所については同じ符号を付して説明を省略し、主に相違点について説明する。
図4は、実施例2の可変ダクトの駆動制御システムの模式的ブロック図である。
駆動制御システム200は、アクチュエータ210、エンジン制御ユニット220、空調制御ユニット230、可変ダクト制御ユニット240等を備えて構成されている。
なお、これらの各構成要素は、上述した実施例1においても同様に備えられている。
【0035】
アクチュエータ210は、可変ダクト100の枠体110の側部に設けられ、アッパルーバ120を回転軸121回りに回転駆動するものである。
アクチュエータ210は、例えば、電動モータ及び減速用ギヤ機構等を有して構成されている。
エンジン制御ユニット220は、図示しない車両のエンジン及びその補機類を統括的に制御するものである。
エンジン制御ユニット220は、現在のエンジンの冷却水温等のエンジンの運転状態に関する情報を可変ダクト制御ユニット240に伝達する。
空調制御ユニット230は、車両の図示しないエアコンディショナ装置を統括的に制御するものである。
空調制御ユニット230は、現在の空調負荷の状況や冷媒温度、圧力等に関する情報を可変ダクト制御ユニット240に伝達する。
【0036】
可変ダクト制御ユニット240は、エンジン制御ユニット220、空調制御ユニット230等から伝達される情報に基いて、現在の冷却負荷状況を推定し、ラジエータ30、コンデンサ40への走行風の導入が必要な場合には、可変ダクト100のアッパルーバ120、ロワルーバ130を開くようアクチュエータ150を駆動する。
一方、負荷が低く走行風の導入が不要である(開口以外からの冷却用空気の導入で足りる)場合には、車両の空力性能向上を優先するため、可変ダクト100のアッパルーバ120、ロワルーバ130を閉じるようにアクチュエータ150を駆動する。
【0037】
また、可変ダクト制御ユニット240には、衝撃センサ250が接続されている。
衝撃センサ250は、衝突に起因する車体の衝撃を検出するものであって、例えば、フロントバンパ内に配置された前後加速度センサを用いることができる。
このような衝撃センサ250として、例えば、エアバッグ等の乗員保護装置の制御に用いられる加速度センサを共用することが可能である。
【0038】
実施例2においては、衝撃センサ250が車両の衝突に起因する衝撃を検出した場合には、可変ダクト制御ユニット240は、直ちにアクチュエータ210を駆動して、可変ダクト100のアッパルーバ120、ロワルーバ130を強制的かつ急速に閉じる。
以上説明した実施例2においては、車両の衝突を検出後、強制的に可変ダクト100を閉じることによって、上述した実施例1の効果と実質的に同様の効果を得ることができる。