特許第5947079号(P5947079)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5947079
(24)【登録日】2016年6月10日
(45)【発行日】2016年7月6日
(54)【発明の名称】自動車の乗員保護構造
(51)【国際特許分類】
   B60R 7/06 20060101AFI20160623BHJP
   B60R 21/045 20060101ALI20160623BHJP
【FI】
   B60R7/06 G
   B60R21/045 F
   B60R21/045 G
   B60R21/045 J
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-76552(P2012-76552)
(22)【出願日】2012年3月29日
(65)【公開番号】特開2013-203317(P2013-203317A)
(43)【公開日】2013年10月7日
【審査請求日】2015年1月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】富士重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000383
【氏名又は名称】特許業務法人 エビス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉川 満晴
【審査官】 森本 哲也
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−182851(JP,A)
【文献】 特開2009−012514(JP,A)
【文献】 米国特許第03964578(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 7/04−7/06
B60R 21/045
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室内の座席に座った乗員の膝部の前方位置にパネルが設けられた自動車の乗員保護構造であって、
前記パネルの前記乗員の膝部よりも下方の位置に配設されて車室幅方向に延びる軸部を中心として前記パネルの上部が前方に回動自在に支持され、
前記軸部よりも下方の位置の前記パネルの下部は、前記パネルの上部よりも強度が大きく、
前記パネルは、前記車室の座席前方位置に設けられたグローブボックスのリッドである
ことを特徴とする自動車の乗員保護構造。
【請求項2】
前記パネルの下部は、前記自動車の前突時に前記乗員の下肢の前方向の移動を抑え、
前記パネルの上部は、前記軸部を中心として前方側へ傾斜して前記乗員の膝部の上方への移動をフリーにする
ことを特徴とする請求項1に記載の自動車の乗員保護構造。
【請求項3】
前記パネルの上部の車室内側と反対側には、エネルギ吸収部材が設けられている
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の自動車の乗員保護構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車室内の座席に座った乗員の膝部の前方位置にパネルが設けられた自動車の乗員保護構造に関する。
【背景技術】
【0002】
乗員が乗った自動車が前突した場合に、車両用物入れとしてのグローブボックスに乗員の膝部が衝突する際に作用する衝撃荷重を低減する乗員保護構造が提案されている(特許文献1参照)。この特許文献1に記載に記載の乗員保護構造は、グローブボックスの乗員側に面する前壁部とグローブボックスの奥側に配設された後壁部の各幅方向両側間を繋ぐ一対の側壁部の強度が、前壁部及び後壁部よりも弱くなるように設定されている。このため、自動車の前突時にグローブボックスの前壁部に乗員の膝部が衝突すると、側壁部が最初に変形して膝部に作用する衝撃エネルギを吸収することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−101985号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、この従来のグローブボックスの前壁部は、車室内側へ延びるに従って上方へ傾斜して延びているので、自動車の前突時に膝部が前壁部に衝突すると、前壁部が変形し、この変形した前壁部によって膝部の上方への移動が拘束されながら、膝部がグローブボックスの前壁部に沿って下方へ移動しようとして、膝部から下方へ延びる下肢を介して足首に圧縮方向の軸力が作用する虞がある。さらに、膝部が前壁部を変形しながら前側へ移動すると、下肢の足首に曲げモーメントが作用する虞がある。また、このグローブボックスは最初に側壁部が変形するため、グローブボックス内に収容物があると、側壁部の変形が困難になり、衝撃エネルギを吸収することができなくなる。
【0005】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、グローブボックス内に収容物があっても、自動車の前突時に、乗員の足首に作用する軸力や曲げモーメントを低減可能な自動車の乗員保護構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために本発明は、車室内の座席に座った乗員の膝部の前方位置にパネル(実施の形態におけるリッド30)が設けられた自動車の乗員保護構造であって、パネルの乗員の膝部よりも下方の位置に配設されて車室幅方向に延びる軸部を中心としてパネルの上部(実施の形態における上側アウタパネル33)が前方に回動自在に支持され、軸部よりも下方の位置のパネルの下部(実施の形態における下側アウタパネル33)は、パネルの上部よりも強度が大きく、パネルは、車室の座席前方位置に設けられたグローブボックスのリッドであることを特徴とする(請求項1)。
【0007】
また、本発明のパネルの下部は、自動車の前突時に乗員の下肢の前方向の移動を抑え、パネルの上部は、軸部を中心として前方側へ傾斜して乗員の膝部の上方への移動をフリーにすることを特徴とする(請求項2)。
【0008】
また、本発明のパネルの上部の車室内側と反対側には、エネルギ吸収部材が設けられていることを特徴とする(請求項3)。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように、本発明に係わる自動車の乗員保護構造によれば、上記特徴を有することで、グローブボックス内に収容物があっても、自動車の前突時に、乗員の足首に作用する軸力や曲げモーメントを低減可能な自動車の乗員保護構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施の形態に係わる自動車の乗員保護構造が設けられた自動車の助手席側の車室前側の斜視図を示す。
図2】助手席に座った乗員の下肢とグローブボックスとの位置関係を説明するための側面側説明図を示す。
図3】自動車の前突時に乗員の膝部がグローブボックスに衝突する前後の状態を説明する説明図を示し、同図(a)は比較対象となる乗員保護構造を有しないグローブボックスの場合の説明図であり、同図(b)は本願の乗員保護構造を有したグローブボックスの場合の説明図である。
図4】同図(a)は、自動車の前突時における経過時間に対する足首に作用する軸力の変化を示し、同図(b)は自動車の前突時における経過時間に対する足首に作用するモーメントの変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の自動車の乗員保護構造の好ましい実施の形態を図1から図4に基づいて説明する。先ず、図1図2図3を参照して、自動車の乗員保護構造が設けられる車室の前側について概説する。
【0013】
図1は、自動車1の助手席側の車室3の前側の斜視図を示したものである。車室3の前側には、図1に示すように、インストルメントパネル4が車室幅方向に延びて設けられ、このインストルメントパネル4の助手席の前方には、小物を収容可能なグローブボックス10及びリッド30が設けられている。
【0014】
図2は、グローブボックス10を上下方向に切断した断面を記載し、また助手席に座った乗員Hの下肢Lの側面側を記載した説明図である。グローブボックス10は、図2に示すように、前後方向に延びる板状の上面部10aと、上面部10aの下方に配置されて前後方向に延びる下面部10bと、乗員Hから離反した位置に配設された裏面部10cと、上面部10a及び下面部10bの幅方向両側に接続されて前後方向に延びる一対の側面部10dと、乗員H側に面するように配置された前面部10eとを有して箱状に形成されている。車室3内に開口するグローブボックス10の図示しない開口部は、前面部10eに設けられている。この開口部はリッド30により開閉される。前面部10eは、側面視において上方へ延びるに従って後方側へ傾斜する下側前面部10e1と、下側前面部10e1の上端部に繋がって上方へ延びて下側前面部10e1よりも後方側への傾き角度が小さい上側前面部10e2とを有してなる。
【0015】
インストルメントパネル4の前方には、車両幅方向に延在するステアリングサポートビーム6が配設され、このステアリングサポートビーム6にブラケットを介してグローブボックス10が固定されている。
【0016】
次に、本願発明の乗員保護構造を有したリッド30について説明する。リッド30は、グローブボックス10の前面部10e側を覆うように配置されるインナパネル31と、車室3側に配置されてインナパネル31に対向配置されるアウタパネル33とを有して構成される。リッド30の下部には、図示しない摺動部が形成されている。この摺動部はグローブボックス10の下面部10bに設けられた図示しない軸部と係合してメインヒンジ部を形成している。このため、リッド30はメインヒンジ部の軸部を中心として前後方向に回動自在に支持されている。
【0017】
リッド30の上部前側には図示しない係止突起部が設けられ、インストルメントパネル4の下部には、係止突起部を係止可能な図示しないクリップが設けられて、リッド30の上部が係止可能になっている。
【0018】
インナパネル31は、リッド30の上部がクリップに係止された状態で、下側前面部10e1に沿って延びる下側インナパネル31aと、上側前面部10e2に沿って延びる上側インナパネル31bとを有してなる。
【0019】
アウタパネル33は、インナパネル31の下側インナパネル31aに沿って延びる下側アウタパネル33aと、上側インナパネル31bに沿って延びる上側アウタパネル33bとを有してなる。上側アウタパネル33bの上部33b1は、水平面に対する傾斜角度θが上側アウタパネル33bの下部33b2よりも大きくなるように屈曲している。図面では上側アウタパネルの上部33b1の傾斜角度θは約70°〜約90°を有している。
【0020】
上側アウタパネル33bと下側アウタパネル33aとの間には、サブヒンジ部35が設けられている。サブヒンジ部35は、上側アウタパネル33bの下部に設けられた図示しない摺動部と、下側アウタパネル33aの上部に設けられた軸部35aとを有してなり、軸部35aに対して摺動部が摺動することで、上側アウタパネル33bが矢印A方向(前側)に回動可能である。
【0021】
サブヒンジ部35の上下位置は、助手席に座った乗員Hの下肢Lの膝部Nの上下位置よりも下方に配設されている。このため、自動車1が前突した場合に、乗員Hの膝部Nがリッド30に衝突した際に、膝部Nをリッド30の上側アウタパネル33bに衝突させることができ、また膝部Nよりも下方の下肢Ldを下側アウタパネル33aに当接させることができる。乗員Hの膝部Nや下肢Ldがリッド30に衝突した場合のリッド30の変形の詳細については後述する。
【0022】
上側アウタパネル33bは、側面視において上側に延びるに従って上側インナパネル31bから離反する方向に延びて、上側インナパネル31bと上側アウタパネル33bとの間に隙間37が形成されている。この隙間37には、衝撃エネルギを吸収可能なエネルギ吸収部材39が設けられている。
【0023】
下側アウタパネル33aの強度は上側アウタパネル33bの強度よりも大きくなるように形成されている。強度を相違させる手段は、例えば、強度の異なる材料を選択したり、同一材料で厚さを変えたり、また下側アウタパネル33aの前側にリブを設けて強度を向上させるようにしてもよい。
【0024】
次に、図3(a)及び図3(b)を参照しながら、自動車1が前突したときの乗員保護構造を有したリッド30の作動について説明する。なお、図3(a)は本願発明の比較対象となる乗員保護構造を有しないリッド50の作動を説明するための説明図であり、図3(b)は本願発明に拘わる乗員保護構造を有するリッド30の作動を説明するための説明図である。なお、比較対象としたリッド50は、その強度が上下位置に拘わらず略一定になるように形成され、リッド50の側面視における傾き角度は本願のリッド30と略同一角度を有して傾斜している。また、図3(a)及び図3(b)は、自動車1が前突した時から所定時間経過後の乗員Hの下肢Lやリッド30,50の変形の様子を示したものである。先ず、比較対象とした乗員保護構造を有しないリッド50の作動ついて説明する。
【0025】
自動車1が前突すると、図3(a)の左図に示すように、助手席に座った乗員Hは車室3に対して前方側に相対移動する。そして、自動車1の前突時から所定時間が経過すると、図3(a)の中央図に示すように、乗員Hの下肢Lの膝部N及び膝部Nよりも下方の下肢Ldがリッド50に衝突して、リッド50は前側に向けて変形する。そして、時間がさらに経過すると、図3(a)の右図に示すように、変形したリッド50によって膝部Nの上方への移動が拘束されながら、膝部Nはリッド50に沿って下方へ移動する。また膝部Nよりも下方の下肢Ldが前方へ移動しようとしてリッド50をさらに前側に変形させる。
【0026】
このため、膝部Nよりも下方へ延びる下肢Ldには前方斜め下方へ向く軸力Fが作用し、この軸力Fが足首Lnに作用する。また膝部Nはその上方への移動が拘束されるとともに、前方へ移動する。このため、乗員Hの足首Lnに曲げモーメントMが作用する。従って、乗員Hの傷害値が悪化する。
【0027】
これに対して本願発明の乗員保護構造を有したリッド30の場合では、自動車1が前突すると、図3(b)の左図に示すように、助手席に座った乗員Hは車室3に対して前方側に相対移動する。そして、自動車1の前突時から所定時間が経過すると、図3(b)の中央図に示すように、乗員Hの下肢Lの膝部Nが上側アウタパネル33bに衝突し、膝部Nよりも下方の下肢Ldが下側アウタパネル33aに衝突する。そして、時間がさらに経過すると、強度の大きい下側アウタパネル33aは変形することなく下肢Ldの下側アウタパネル33aに対する前側への相対移動を拘束する。これと同時に膝部Nは上側アウタパネル33bへの衝突に伴ってサブヒンジ部35の軸部35aを中心として上側アウタパネル33bを前側へ回動させる。このため、上側アウタパネル33bの上部は膝部Nから前側に離れる方向に移動するので、膝部Nは上方への移動がフリーな状態になる。従って、上側アウタパネル33bと上側インナパネル31bとの間に設けられたエネルギ吸収部材39によって、膝部Nの衝突エネルギが吸収される。
【0028】
また、膝部Nは上方への移動がフリーな状態にあるので、リッド30に沿って下方へ移動しようと動作が抑えられる。このため、膝部Nから下方へ延びる下肢Ldを介して足首Lnに作用する圧縮方向の軸力の大きさを低減することができる。また膝部Nから下方へ延びる下肢Ldは、強度の大きい下側アウタパネル33aによって前側への移動が拘束されるので、下肢Ldの前側への移動が抑制されて、足首Lnに作用する曲げモーメントの大きさを低減することができる。
【0029】
図4(a)は、自動車1の前突時において、経過時間Tに対する足首Lnに作用する軸力Fの変化を示し、図4(b)は自動車1の前突時において、経過時間Tに対する足首Lnに作用するモーメントMの変化を示している。図4(a)に示すように、実線で示す乗員保護構造を有した本願発明の場合のピーク時の軸力Fは、破線で示す比較対象のピーク時の軸力Fよりも小さくなることが判る。
【0030】
また、図4(b)に示すように、実線で示す本願発明の場合のピーク時のモーメントMは、破線で示す乗員保護構造のない比較対象のピーク時のモーメントMよりも小さくなることが判る。
【0031】
このように、本願発明は、自動車1が前突した場合、前述したように助手席に載った乗員Hの足首Lnに作用する軸力や曲げモーメントを低減することができ、乗員Hの傷害値を低減することができる。
【0032】
また、自動車1の前突時に乗員Hの下肢Lがリッド30に衝突すると、膝部Nよりも下方の下肢Ldは強度の大きい下側アウタパネル33aによって前側への移動が拘束されるが、下肢Lの膝部Nは前側に移動可能であるので、膝部Nの衝突エネルギがエネルギ吸収部材39によって吸収される。このため、乗員Hの下肢Lがリッド30に衝突したときのエネルギの多くがエネルギ吸収部材39によって吸収される。また、乗員保護構造はリッド30内に設けられている。従って、グローブボックス10が変形して容量が減少する虞はない。
【0033】
なお、前述した実施例では、助手席の前方のグローブボックス10の前面側を覆うリッド30に乗員保護構造が設けられた例を示したが、運転席の前方のパネルに乗員保護構造を設けてもよい。また、車室内の助手席及び運転席に座る乗員Hの膝部Nに対向する位置に設けられて前突時に膝部を拘束しながら変形して衝撃エネルギを吸収可能なニーブラケットに、乗員保護構造が設けられてもよい。
【符号の説明】
【0034】
1 自動車
3 車室
30 リッド(パネル)
33a 下側アウタパネル(パネルの下部)
33b 上側アウタパネル(パネルの上部)
35a 軸部
39 エネルギ吸収部材
H 乗員
N 膝部
図1
図2
図3
図4