(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5947105
(24)【登録日】2016年6月10日
(45)【発行日】2016年7月6日
(54)【発明の名称】PCa型枠の固定構造
(51)【国際特許分類】
E04B 2/86 20060101AFI20160623BHJP
【FI】
E04B2/86 611L
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-114347(P2012-114347)
(22)【出願日】2012年5月18日
(65)【公開番号】特開2013-241746(P2013-241746A)
(43)【公開日】2013年12月5日
【審査請求日】2014年11月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078695
【弁理士】
【氏名又は名称】久保 司
(72)【発明者】
【氏名】吉田 早智子
(72)【発明者】
【氏名】本田 智昭
(72)【発明者】
【氏名】古市 耕輔
(72)【発明者】
【氏名】山野辺 慎一
(72)【発明者】
【氏名】一宮 利通
(72)【発明者】
【氏名】平 陽兵
(72)【発明者】
【氏名】河野 哲也
(72)【発明者】
【氏名】大窪 一正
【審査官】
新井 夕起子
(56)【参考文献】
【文献】
特開平09−328850(JP,A)
【文献】
特開平08−060769(JP,A)
【文献】
特開2007−154592(JP,A)
【文献】
特開2005−188194(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 2/86
E02D 27/01 − 27/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
PCa型枠の内面側に、フランジ部を波型に成形し、その谷部を機械式定着具が係合する凹部として断続的に形成したアングル金具を設け、せん断補強鉄筋の先端に設けた機械式定着具をアングル金具の凹部に係止して、PCa型枠を支承し、アングル金具の凹部間の凸部山頂同士に架け渡すようにして棒状部材をアングル金具に沿わせ、この棒状部材で凹部を閉塞したことを特徴とするPCa型枠の固定構造。
【請求項2】
PCa型枠の内面側に、機械式定着具が係合する凹部をアングル金具の内側を区画形成して断続的に形成したアングル金具を設け、せん断補強鉄筋の先端に設けた機械式定着具をアングル金具の凹部に係止して、PCa型枠を支承したことを特徴とするPCa型枠の固定構造。
【請求項3】
アングル金具の内側には楔を介在させ、せん断補強鉄筋の先端に設けた機械式定着具は楔によりアングル金具内に締結する請求項1または請求項2記載のPCa型枠の固定構造。
【請求項4】
楔は、アングル金具の内側に機械式定着具に添わせて打込む板体である請求項3記載のPCa型枠の固定構造。
【請求項5】
アングル金具は、チャンネル金具の半身をPCa型枠内に埋設してなる請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のPCa型枠の固定構造。
【請求項6】
アングル金具は、チャンネル金具の半身をPCa型枠内面にボルト止めしてなる請求項1ないし請求項5のいずれかに記載のPCa型枠の固定構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄筋コンクリートまたは無鉄筋コンクリートの構造物を構築する際に用いるPCa型枠(プレキャスト型枠)の固定構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
PCa型枠(プレキャスト型枠)は残存型枠であり、コンクリートを打設する際に背面(コンクリートを打設しない側)からの支保工が不要であったり、型枠の脱型作業が不要となる、など省力化施工や急速施工に適している。
【0003】
そして、PCa型枠は、コンクリートの打設した際の圧力で動かないように固定して使用するが、固定方法は大きく分けて3つある。
型枠背面側(コンクリートを打設しない側)から、単管パイプなどを用いて、型枠を固定する。
型枠内面側から、セパレーターやフックを付けた金具などを用いて固定する。
型枠に貫通する孔を設けておき、セパレーターを通す。セパレーターで、型枠背面側の単管パイプと、型枠内面側の鉄筋や鋼材を結ぶことで、型枠の1箇所に作用する力を分散させつつ、固定する。
【0004】
また、下記特許文献1のように、PCa型枠の全部の貫通孔にセパレーターの前端部を1本宛貫通させ、ナットとフォームタイ(登録商標)でセパレーターに固定するには手数と時間が非常にかかるとして、各段のセパレーターの前端間に取り付けた直線ガイド部材とPCa型枠の幅の全長にわたり取り付けた長尺スライド部材との係合によるものがある。
【特許文献1】特開2000−240076号公報
【0005】
この特許文献1では、直線ガイド部材には、断面形状がT形のCT鋼を使用し、CT鋼を横にし、T形の主片の各端部を上と下に向け、該片と直交する脚片を同じ段の各セパレーターの前端部に固定している。
【0006】
また、スライド部材としてはC形断面のリップ溝形鋼材を使用し、PCa型枠を成形する際に予めPCa型枠の内部に配列する鉄筋の、上下方向に間隔を保ったスライド部材を取り付けるべき部分をPCa型枠の裏面に向かって曲げ、この部分にスライド部材のリップ溝形鋼材を水平に溶接などで固定し、それから前記リップ溝形鋼材が裏面の各段から水平に突出するようにPCa型枠をコンクリートで成形している。
【0007】
下記特許文献2は、既存コンクリート壁の前面にセパレーターを介してPCa型枠を配置し、該PCa型枠と前記既存コンクリート壁面との間にコンクリートを打設して一体化する打込み型枠工法において、前記既存コンクリート壁に基端部側を固定したセパレーターの先端部側に受け金具を設ける一方、該既存コンクリート壁面に対面する該PCa型枠の内側面に該受け金具に係止される連結金具を突出させて設け、前記PCa型枠の配置時に、該連結金具を該受け金具上に落とし込んで、該PCa型枠を前後および左右に位置調整可能に係止させ、該連結金具と該受け金具とをグラウト剤で結着して位置決め固定するものである。
【特許文献2】特許第3148138号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記特許文献1や特許文献2は、既存コンクリート壁の前面にセパレーターを介してPC型枠を配置し、該PC型枠と前記既存コンクリート壁面との間にコンクリートを打設して一体化するものであり、セパレーター等PCa型枠を固定する金物は、構造物の設計計算上は考慮されず、PCa型枠を固定するためにのみ設置される。
【0009】
また、鉄筋コンクリート構造物では、設計上、必要な鉄筋が多数配置された状態となっているところに、セパレーター等PCa型枠を固定する金物を設置する必要があり、作業性が悪く、コンクリートを充填するために確保される空間が阻害されてしまう。
【0010】
前記特許文献1では、PCa型枠の裏面に固定したスライド部材を、セパレーターの前端部に水平に固定した直線ガイド部材に一端から嵌合し、PCa型枠の下端を床版に接触させて順番にPCa型枠を直線ガイド部材の他端に向かって摺動させることにより雨戸を閉めるようにして多数枚のPCa型枠を一列に隣接させて鉄筋組立体の前に立て並べるものであるが、このような端からの嵌合および摺動では作業性が悪い。
【0011】
前記特許文献2は、連結金具と該受け金具とをグラウト剤で結着するものであり、固定に時間がかかる。
【0012】
本発明の目的は前記従来例の不都合を解消し、PCa型枠の固定金物が横方向鉄筋と兼用となることで、全体の鋼材量を減らすことができ、設計上必要な鉄筋を避けてセパレーターを配置する手間が省略でき、しかも、簡単かつ迅速に固定を行うことができるPCa型枠の固定構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記目的を達成するため請求項1記載の本発明は、PCa型枠の内面側に、
フランジ部を波型に成形し、その谷部を機械式定着具が係合する凹部として断続的に形成したアングル金具を設け、せん断補強鉄筋の先端に設けた機械式定着具をアングル金具の凹部に係止して、PCa型枠を支承し、
アングル金具の凹部間の凸部山頂同士に架け渡すようにして棒状部材をアングル金具に沿わせ、この棒状部材で凹部を閉塞したことを要旨とするものである。
【0014】
請求項1記載の本発明によれば、せん断補強鉄筋をセパレーターとして用いるので、セパレーターとしての鋼材量を減らすことができ、セパレーターを設計上必要な鉄筋を避けて配置する手間も省略できる。また、せん断補強鉄筋の先端に設けた機械式定着具を引っ掛けるという簡単な方法で確実に固定できる。特に、位置の選定においては、アングル金具に凹部が断続的に形成されており、そのどれかを選択することで、簡単にせん断補強鉄筋の配置位置を決めることができる。
【0015】
また、アングル金具の凹部は、フランジ部を波型に成形し、その谷部であるので、この凹部にせん断補強鉄筋を機械式定着具をアングル金具内に差し入れるようにして引っ掛ければ掛止めることができる。また、先端に機械式定着具を取り付けたせん断補強鉄筋のアングル金具の凹部からの飛び出しを棒状部材で簡単に押えることができる。
【0016】
請求項
2記載の本発明は、PCa型枠の内面側に、機械式定着具が係合する凹部を
アングル金具の内側を区画形成して断続的に形成したアングル金具を設け、せん断補強鉄筋の先端に設けた機械式定着具をアングル金具の凹部に係止して、PCa型枠を支承したことを要旨とするものである。
【0017】
請求項
2記載の本発明によれば、アングル金具の凹部は、内側を区画形成してなるので、凹部の形成が仕切り板をアングル金具の内側に設けるなどして簡単に行うことができる。
【0018】
請求項
3記載の本発明は、アングル金具の内側には楔を介在させ、せん断補強鉄筋の先端に設けた機械式定着具は楔によりアングル金具内に締結すること、請求項
4記載の本発明は、楔は、アングル金具の内側に機械式定着具に添わせて打込む板体であることを要旨とするものである。
【0019】
請求項
3記載の本発明によれば、楔効果により機械式定着具をしっかりとアングル金具に固定できる。請求項
4記載の本発明によれば、楔は板体であり、これを機械式定着具に添わせて打込むことにより簡単に機械式定着具とアングル金具との締結が得られる。
【0020】
請求項
5および請求項
6記載の本発明は、アングル金具は、チャンネル金具の半身をPCa型枠内に埋設してなること、および、アングル金具は、チャンネル金具の半身をPCa型枠内面にボルト止めしてなることを要旨とするものである。
【0021】
請求項
5記載の本発明によれば、PCa型枠の内面側に、機械式定着具を引っ掛けるための凹部を断続的に形成したアングル金具を設けるのに、アングル金具は、チャンネル金具の半身をPCa型枠内に埋設してなるので、PCa型枠成形の際に簡単に埋設でき、しかも、堅牢にPCa型枠に取り付けることができる。
【0022】
請求項
6記載の本発明によれば、PCa型枠成形後にアングル金具をPCa型枠内面にボルト止めして取り付けることができ、事後の設置が可能である。
【発明の効果】
【0023】
以上述べたように本発明のPCa型枠の固定構造は、PCa型枠の固定金物が横方向鉄筋と兼用となることで、全体の鋼材量を減らすことができ、設計上必要な鉄筋を避けてセパレーターを配置する手間が省略でき、しかも、簡単かつ迅速に固定を行うことができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図面について本発明の実施の形態を詳細に説明する。
図1は本発明のPCa型枠の固定構造および固定方法の1実施形態を示す斜視図で、図中1はPCa型枠(プレキャスト型枠)である。
【0025】
PCa型枠1の内面側に、ネジふし鉄筋のせん断補強鉄筋4の先端に設けた機械式定着具5を引っ掛けるための凹部3を断続的に形成したアングル金具2を設ける。
【0026】
該アングル金具2は、
図2に示すようにC形断面のリップ溝形鋼材などのチャンネル金具8の半身をPCa型枠1内に埋設してなるものとし、PCa型枠1を成形する際に予めチャンネル金具8の半身をPCa型枠1の内部に配列させ、それから前記アングル金具2が裏面から水平に突出するようPCa型枠1をコンクリートで成形する。
【0027】
アングル金具2の凹部3の形状はせん断補強鉄筋4が入り込むものであれば特に限定はなく、図示のようにアングル金具2のフランジ部11を波型に成形し、その谷部を凹部3とし、凹部3間の凸部9を山部としたものの他、凹部3を矩形溝、縦長溝、三角形溝とすることもできる。
【0028】
機械式定着具5を設けたせん断補強鉄筋4は、
図3に示すように、鉄筋端部に機械式定着具5として長円形のプレートを設けるもので、摩擦圧接(プレートの高速回転により鉄筋と接着)、またはフラッシュ(火花)により溶接する場合や、ねじ節鉄筋を使用し、端部に鉄製のプレートをねじ込み、樹脂等で固定する場合などがある。
【0029】
後者は、ねじ節鉄筋の端部に長円形のプレートをねじ込み、樹脂等で固定したもので、現地で組み立て、設置する。両側主筋を組立てた後、その間を通して最外鉄筋とほぼ隙間無く設置することが可能であり、施工性、品質に優れている。
【0030】
前者は、普通鉄筋の端部に長円形もしくは長方形のプレートを摩擦圧接(プレートの高速回転により鉄筋と接着)、またはフラッシュ(火花)により溶接する。後者と同様に、現地での施工性、品質に優れている。
【0031】
この他に、定着プレート方式に似たものとして、鉄筋の端部を高周波誘導により加熱した後、台に押し付けることにより円形に膨らせてプレート状にする工法がある。
【0032】
かかるせん断補強鉄筋4を横方向鉄筋として、機械式定着具5をアングル金具2内に差し入れ、凹部3に係止する。このように、機械式定着具5を係止するようにしてせん断補強鉄筋4を前記アングル金具2のフランジ部11の凹部3に引っ掛けて、PCa型枠1を固定する。
【0033】
また、鉄筋等の棒状部材6をアングル金具2の凹部3間の凸部9の山頂同士に架け渡すようにしてアングル金具2に沿わせ、この棒状部材6で凹部3を閉塞する。これにより、せん断補強鉄筋4の凹部3からの飛び出しを押えることができる。
【0034】
棒状部材6の固定は溶接でもよいが、凸部9に孔7を設け、結束線10か番線等で、結束する。なお、棒状部材6は、打設するコンクリート内の構造用の鉄筋を兼ねたものでもよい。
【0035】
図4は第2実施形態を示すもので、アングル金具2はC形断面のリップ溝形鋼材などのチャンネル金具8の半身をもってなるが、該チャンネル金具8はPCa型枠1内に埋設してなるではなく、PCa型枠1の内面にアンカーボルト12などでボルト固定するものとした。
【0036】
このようにすれば、成形後のPCa型枠1に事後にアングル金具2を取り付けることができる。
【0037】
図5、
図6は本発明の第3実施形態を示すもので、アングル金具2のせん断補強鉄筋4の先端に設けた機械式定着具5を引っ掛けるための凹部13の形成をアングル金具2の内側2aを区画形成することにより得るようにした。
【0038】
区画の方向は問わないが、仕切板14をアングル金具2の内側2aに溶接するなどして、この仕切板14同士の間を凹部13とする。
【0039】
なお、図示は省略するが、この仕切板14の配置を等間隔で行い凹部13を所定間隔で断続的に形成するようにすれば、そのどれかを選択することで、簡単にせん断補強鉄筋の配置位置を決めることができる。
【0040】
図7、
図8は第4、第5実施形態を示すもので、アングル金具2の内側には楔を介在させ、せん断補強鉄筋4の先端に設けた機械式定着具5は楔によりアングル金具2内に締結するようにしたものであり、前記第3実施形態の場合に比較して機械式定着具5をしっかりと固定できる。
【0041】
本発明の第4実施形態は、
図7に示すように、仕切板14同士の間を凹部13とする場合に、この凹部13の側方内面をテーパー面18aとして縦方向の楔挿入用凹部18を形成するようにした。
【0042】
これに合わせて、機械式定着具5の左右端をこの縦方向の楔挿入用凹部18に挿入するように楔形5aとする。
【0043】
左右端を楔形5aとして機械式定着具5は、縦方向の楔挿入用凹部18に入り込むことで、機械式定着具5はアングル金具2の内側2aでしっかりと係止できる。
【0044】
本発明の第5実施形態は、
図8に示すように、楔は、アングル金具2の内側に機械式定着具5に添わせて打込む楔板体19であるとする。該楔板体19の幅は機械式定着具5と同程度でもよく、もしくは、アングル金具2のフランジ部11に添うような横長の帯板としてもよい。
【0045】
機械式定着具5をアングル金具2の内側に差入れてから、上から楔板体19を打ち込むことで、機械式定着具5をアングル金具2の内にしっかり締結できる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【
図1】本発明のPCa型枠の固定構造の第1実施形態を示す斜視図である。
【
図2】本発明のPCa型枠の固定構造の第1実施形態を示す側面図である。
【
図3】機械式定着具を設けたせん断補強鉄筋の斜視図である。
【
図4】本発明のPCa型枠の固定構造の第2実施形態を示す側面図である。
【
図5】本発明のPCa型枠の固定構造の第3実施形態を示す斜視図である。
【
図6】本発明のPCa型枠の固定構造の第3実施形態を示す側面図である。
【
図7】本発明のPCa型枠の固定構造の第4実施形態を示す斜視図である。
【
図8】本発明のPCa型枠の固定構造の第5実施形態を示す側面図である。
【符号の説明】
【0047】
1…PCa型枠 2…アングル金具
2a…内側 3…凹部
4…せん断補強鉄筋
5…機械式定着具 5a…楔形
6…棒状部材 7…孔
8…チャンネル金具 9…凸部
10…結束線 11…フランジ部
12…アンカーボルト 13…凹部
14…仕切板 16…楔挿入用凹部
17…貫通孔
18…楔挿入用凹部 18a…テーパー面
19…楔板体