特許第5947566号(P5947566)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5947566
(24)【登録日】2016年6月10日
(45)【発行日】2016年7月6日
(54)【発明の名称】血流計測装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/0285 20060101AFI20160623BHJP
   A61B 5/026 20060101ALI20160623BHJP
   A61B 5/16 20060101ALI20160623BHJP
   A61B 5/02 20060101ALI20160623BHJP
【FI】
   A61B5/02 840H
   A61B5/02 800D
   A61B5/16
   A61B5/02ZDM
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-46368(P2012-46368)
(22)【出願日】2012年3月2日
(65)【公開番号】特開2013-180086(P2013-180086A)
(43)【公開日】2013年9月12日
【審査請求日】2014年9月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000230962
【氏名又は名称】日本光電工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092956
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 栄男
(74)【代理人】
【識別番号】100101018
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 正
(72)【発明者】
【氏名】永田 鎮也
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 孝夫
【審査官】 湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/114398(WO,A1)
【文献】 特開2000−116611(JP,A)
【文献】 特開2006−055504(JP,A)
【文献】 特表2008−522185(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0105994(US,A1)
【文献】 特開2004−337605(JP,A)
【文献】 特開2011−067501(JP,A)
【文献】 特開平10−311801(JP,A)
【文献】 特開平03−043903(JP,A)
【文献】 特開2010−140888(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/0285
A61B 5/02
A61B 5/026
A61B 5/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドップラー効果を利用して血流を計測する装置であって、
対象物に対して照射を発し、その反射を受けて、ドップラー効果に基づいて対象物の移動を検出するモジュールと、
皮膚に当接する当接面から所定間隔を空けて当該モジュールを内部に保持し、照射を反射する反射部材を当該モジュールを覆うように有する反射保持体と、
前記モジュールからの出力を受けて、少なくとも血流速に関連する処理を行う処理回路とを備え、
前記処理回路は、血流速を周波数解析することにより、被験者の興奮度を判定することを特徴とする血流計測装置。
【請求項2】
請求項1の血流計測装置において、
前記反射保持体は、反射部材が楕円体を分断した一方の部分楕円体の形状をしており、
前記モジュールは、当該一方の部分楕円体の焦点近傍に保持され、
前記一方の部分楕円体に対応する想像上の他方の部分楕円体の焦点近傍に、対象物が位置するように構成されていること
を特徴とする血流計測装置。
【請求項3】
ドップラー効果を利用して血流を計測する装置であって、
対象物に対して照射を発し、その反射を受けて、ドップラー効果に基づいて対象物の移動を検出するモジュールと、
皮膚に当接する当接面から所定間隔を空けて当該モジュールを内部に保持し、照射を反射する反射部材を当該モジュールを覆うように有する反射保持体と、
前記モジュールからの出力を受けて、少なくとも血流速に関連する処理を行う処理回路とを備え、
前記反射保持体は、反射部材が楕円体を分断した一方の部分楕円体の形状をしており、
前記モジュールは、当該一方の部分楕円体の焦点近傍に保持され、
前記一方の部分楕円体に対応する想像上の他方の部分楕円体の焦点近傍に、対象物が位置するように構成されていること
を特徴とする血流計測装置。
【請求項4】
ドップラー効果を利用して血流を計測するためのプローブであって、
対象物に対して照射を発し、その反射を受けて、ドップラー効果に基づいて対象物の移動を検出するモジュールと、
皮膚に当接する当接面から所定間隔を空けて当該モジュールを内部に保持し、照射を反射する反射部材を当該モジュールを覆うように有する反射保持体とを備え、
前記反射保持体は、反射部材が楕円体を分断した一方の部分楕円体の形状をしており、
前記モジュールは、当該一方の部分楕円体の焦点近傍に保持され、
前記一方の部分楕円体に対応する想像上の他方の部分楕円体の焦点近傍に、対象物が位置するように構成されていること
を特徴とするプローブ。
【請求項5】
請求項2〜4いずれかの血流計測装置または血流計測用プローブにおいて、
前記他方の部分楕円体の焦点位置を変更可能なように、前記反射保持体の径または長さが変更可能に構成されていること
を特徴とする血流計測装置または血流計測用プローブ。
【請求項6】
請求項2〜4のいずれかの血流計測装置または血流計測用プローブにおいて、
前記反射保持体は、焦点を共通にする複数の一方の部分楕円体を接続して構成され、複数の他方の部分楕円体の焦点を有すること
を特徴とする血流計測装置または血流計測用プローブ。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかの血流計測装置または血流計測用プローブにおいて、
前記モジュールは、マイクロ波ドップラーモジュールであることを特徴とする血流計測装置または血流計測用プローブ。
【請求項8】
ドップラー効果を利用して血流を計測する方法であって、
対象物に対して照射を発し、その反射を受けて、ドップラー効果に基づいて対象物の移動を検出するモジュールを、前記照射を反射する反射部材にて覆うようにして計測を行う方法において、
前記反射部材は、楕円体を分断した一方の部分楕円体の形状をしており、
前記モジュールは、当該一方の部分楕円体の焦点近傍に保持され、
前記一方の部分楕円体に対応する想像上の他方の部分楕円体の焦点近傍に、対象物が位置するように構成されていること
を特徴とする方法。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、血流を計測する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、血流の測定には、電磁血流計や超音波ドップラー血流計などが用いられている。電磁血流計は、血管の周囲に励磁コイルと電極を設け、励磁コイルによる磁界を横切る血流によって生じる起電力を計測することで、血流量を測定するものである。
【0003】
超音波ドップラー血流計は、血流に対して超音波を放射し、その反射波の周波数変化に基づいて流速を計測するものである。
【0004】
また、光やマイクロ波を照射して血流を計測する装置も提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−79589
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電磁血流計では、血流計のプローブを血管に装着しなければならず、被験者に負担が大きいという問題があった。また、超音波ドップラー血流計では、センサーを皮膚に圧着させなければならず、これも被験者の負担が大きかった。
【0007】
また、特許文献1に記載のものは、皮膚へ密着する代わりに、皮膚から所定間隔離してプローブを保持するための筐体を有している。しかし、周囲に動くもの(手をかざすなど)があると、これによる外乱の影響を受けて正確な測定を行うことが困難であるという問題があった。
【0008】
この発明は、上記の問題を解決して、被験者に対する負担が少なく、外乱による影響を受けにくい装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)この発明に係る血流計測装置は、ドップラー効果を利用して血流を計測する装置であって、対象物に対して照射を発し、その反射を受けて、ドップラー効果に基づいて対象物の移動を検出するモジュールと、皮膚に当接する当接面から所定間隔を空けて当該モジュールを内部に保持し、照射を反射する反射部材を当該モジュールを覆うように有する反射保持体と、前記モジュールからの出力を受けて、血流速に関連する処理を行う処理回路とを備えている。
【0010】
したがって、外乱の影響を排除してより正確に血流の計測を行うことができる
(2)この発明に係る血流計測装置は、処理回路が、血流速を周波数解析することにより、被験者の興奮度を判定することを特徴としている。
【0011】
したがって、被験者の興奮度を容易に取得することができる。
【0012】
(3)この発明に係る血流計測用プローブは、ドップラー効果を利用して血流を計測するためのプローブであって、対象物に対して照射を発し、その反射を受けて、ドップラー効果に基づいて対象物の移動を検出するモジュールと、皮膚に当接する当接面から所定間隔を空けて当該モジュールを内部に保持し、照射を反射する反射部材を当該モジュールを覆うように有する反射保持体とを備えている。
【0013】
したがって、外乱の影響を排除してより正確に血流の計測を行うことができる。
【0014】
(4)この発明に係る血流計測装置は、反射保持体の反射部材が楕円体を分断した一方の部分楕円体の形状をしており、モジュールが、当該一方の部分楕円体の焦点近傍に保持され、一方の部分楕円体に対応する想像上の他方の部分楕円体の焦点近傍に、対象物が位置するように構成されていることを特徴としている。
【0015】
したがって、より感度を高めることができる。
【0016】
(5)この発明に係る血流計測装置は、他方の部分楕円体の焦点位置を変更可能なように、反射保持体の径または長さが変更可能に構成されていることを特徴としている。
【0017】
したがって、測定対象に応じて、焦点を変更し、より感度の高い計測を行うことができる。
【0018】
(6)この発明に係る血流計測装置は、反射保持体が、焦点を共通にする複数の一方の部分楕円体を接続して構成され、複数の他方の部分楕円体の焦点を有することを特徴としている。
【0019】
したがって、異なる位置にある測定対象のいずれに対しても、感度良く計測を行うことが可能である。
【0020】
(7)この発明に係る血流計測装置は、モジュールが、マイクロ波ドップラーモジュールであることを特徴としている。
【0021】
(8)この発明に係る血流計測方法は、ドップラー効果を利用して血流を計測する方法であって、対象物に対して照射を発し、その反射を受けて、ドップラー効果に基づいて対象物の移動を検出するモジュールを、前記照射を反射する反射部材にて覆うようにして計測を行うことを特徴としている。
【0022】
したがって、外乱の影響を排除してより正確に血流の計測を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】一実施形態による血流計測プローブの構成を示す図である。
図2】血流計測装置の機能ブロック図である。
図3図1に示す血流計測プローブの使用状況を示す図である。
図4】他の実施形態による血流計測プローブの構成を示す図である。
図5】人体側の焦点位置を変更可能とした実施形態を示す図である。
図6】人体側に複数の焦点位置を有するように構成した実施形態を示す図である。
図7】体表に対して、斜め方向の深さに焦点位置を有するように構成した実施形態を示す図である。
図8】計測された血流速の時間的変化を示す図である。
図9】HF、LFの算出を説明するための図である。
図10】ラットによる実験例である。
図11】外乱の影響を判断するための実験データである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
1.第一の実施形態
この発明の一実施形態による血流計測プローブ2の構成を、図1に示す。図1Aが平面図、図1Bが側断面図である。プラスチック材で構成された四角錐台状の反射保持体4の内部は、空洞となっている。反射保持体4の下面は開口となっている。また、反射保持体4の下部は、皮膚への当接面4aとなる。
【0025】
反射保持体4の内部表面にはアルミニウム6がメッキされている。また、反射保持体4の上部平面の内側には、マイクロ波ドップラーセンサ8が固定されている。マイクロ波ドップラーセンサ8への電力供給ならびに、マイクロ波ドップラセンサー8からの出力の取り出しは、ライン10を介して行われる。
【0026】
図2に、図1の血流計測プローブ2を用いた血流計測装置全体の回路ブロック図を示す。マイクロ波ドップラーセンサ8の送信部8aは、マイクロ波(たとえば、4.2GHzの電磁波)をアンテナ8bから放射する。このマイクロ波は、被験者の皮膚を介して計測対象である血管に達し、対象物(血流)にて反射する。この反射を、アンテナ8bを介して、受信部8cにて受信する。制御部8dは、上記送信部8a、受信部8cを制御するとともに、送信波と受信波の位相差を検出することによって、対象物(血流)の速度を算出して出力する。
【0027】
出力された速度信号は、ライン10を介して処理回路12に与えられる。処理回路12においては、受信した速度信号に基づいてグラフ表示処理や拍動検出などを行なう。
【0028】
図3に、この血流計測プローブ2を人体に当てて、血流の計測を行う場合の状態を示す。図に示すように、アンテナ8bは、マイクロ波ドップラーセンサ8の下面に設けられている。反射保持体4の当接面4aが、人体20の測定部位に当接される。測定部位としては、心臓と重ならない下行大動脈の部分(腹部大動脈)などが好ましい。心臓においては、多くの血流が乱れており測定が困難だからである。また、心臓から余りにも離れた血管では、血流速度の変化が顕著に表れないからである。
【0029】
この実施形態では、反射保持体4の内面にアルミニウム6がメッキされているので、対象物である血流以外の移動物体からの反射波(ノイズ)を受信するおそれがない。アルミニウム6によってマイクロ波が反射されるので、所望の方向(人体に向けた方向)以外にはマイクロ波が放出されず、さらに、所望の方向以外からのマイクロ波を受信しないからである。たとえば、計測中に、周囲で手の平などを移動させてたとしても、これによるノイズを受けることはない(あるいは、受けたとしてごく小さい)。また、血流に対して非接触にて測定を行うのもであるから、接触インピーダンスや分極の影響を受けない。
【0030】
2.第二の実施形態
図4に、第二の実施形態による血流計測プローブ22の構成を示す。図4Aが平面図、図4Bが側断面図である。図1の血流計測プローブ2に対応する部分には同一の符号を付している。この実施形態は、第一の実施形態と同様の構成であるが、アルミニウム6にてメッキされた内面の形状が楕円体の一部になっている点が大きく異なっている。
【0031】
マイクロ波ドップラーセンサ8は、棒状のステー9によって反射保持体4に保持されている。なお、マイクロ波ドップラーセンサ8は、前記内面形状による楕円体の一方の焦点F1にアンテナ8bが位置するように保持されている。一方、対象物である下行大動脈24の位置に、当該楕円体の他方の焦点F2が位置するように、楕円体の形状が設計されている。
【0032】
このように構成したことにより、外来ノイズを防ぐだけでなく、図のα、β、γに示すように、いずれの方向に照射されたマイクロ波も対象物である下行大動脈に到達することになる。同様に、下行大動脈において所定の角度内に反射された反射波であれば、マイクロ波ドップラーセンサ8のアンテナ8bに受信されることになる。したがって、計測精度を高めることができる。
【0033】
3.その他の実施形態
(1)上記実施形態では、プラスチック材の内面にアルミニウム6をメッキしている。しかし、マイクロ波を反射する材料であれば、アルミニウム以外にも金、プラチナなどをメッキしてもよい。また、メッキ以外に蒸着や貼り付けなどを行ってもよい。さらに、反射保持体4の外表面や中間部にこれらの部材を設けるようにしてもよい。
【0034】
また、反射保持体4自体をアルミニウムなどのマイクロ波を反射する材料で構成するようにしてもよい。
【0035】
(2)上記実施形態では、マイクロ波を照射して計測を行っているが、その他の周波数の電磁波、超音波、光などを照射するようにしてもよい。この場合、それぞれの照射に適合した反射材を用いることが好ましい。
【0036】
(3)上記実施形態では、人体からマイクロ波ドップラーセンサ8までの距離は予め定められたものとしていた。しかし、対象物によりその位置を変えることができるようにしてもよい。たとえば、図5に示すように、第一の反射保持体40に対し、上下にスライド調整可能な第2の反射保持体42を設け、これらによって反射保持体を構成するようにしてもよい。第2の反射保持体42を上下に調整することにより、対象物に適合するように焦点を移動させることが可能となる。また、長さではなく、径を変更できるようにしてもよい。
【0037】
(4)また、図6に示すように、一方の焦点F1を共通にする複数の楕円体の一部5a、5b、5cを組み合わせて反射保持体4を構成するようにしてもよい。これにより、3つの位置F21、F22、F23にある対象物の計測を行うことが可能となる。
【0038】
(5)上記実施形態では、楕円体を短軸に平行にほぼ中央で分断して、反射保持体4を構成している。しかし、図7に示すように、短軸に対して角度を有する面にて分断し、反射保持体4を構成するようにしてもよい。このようにすることで、斜めに指向性を持たせることが可能となり、対象物の直上にマイクロ波を反射するような部位があったとしても計測が可能となる。
【0039】
4.処理回路12の詳細について
処理回路12においては、上記のマイクロ波ドップラーセンサ8からの速度信号を受けて、種々の処理を行うことができる。いくつかの例を以下に示す。
【0040】
本発明に係る血流計測装置によって、血流の有無を確認し、心臓マッサージの必要性などを判断することができる。この場合、処理回路12においては、血流速の時間的推移を表すグラフを生成し、これをディスプレイなどで表示する。表示例を、図8A、Bに示す。図8Aに示すように、流速に大きな変化(拍動)があり適切に心臓から血液が送り出されている場合に比べて、図8Bに示すように流速が低く一定している場合には、血液が送り出されていないと判断できる。したがって、医師は、心臓マッサージなどの処置が必要であることを知ることができる。これは、心電図を監視することによっても判断可能であるが、心臓が動いているにも拘わらず(不適切な動作をしているため)血液が送り出されない場合もあるので、直接的に血流を監視することが好ましい。
【0041】
また、興奮度を計測することもできる。この場合、処理回路12においては、血流速の時間的変化に基づいて、拍動間隔を算出する。たとえば、図8Aの場合であれば、隣接するピーク間t1、t2、t3・・・が拍動間隔である。興奮度は、この拍動間隔の揺らぎの度合いによって求めることができる。具体的には、以下のような処理を、処理回路12のCPUがプログラムにしたがって実行することにより、興奮度を得ることができる。
【0042】
まず、CPUは、拍動間隔の時間的変動を算出しプロットする(図9A参照)。横軸に対するプロットの時間間隔は、実際の一拍の時間に対応するようにすればよい。拍動間隔の時間的変動は、一拍ごとの離散的な値となっているので、図9Aに示すように、スプライン補完などにより、滑らかな曲線で結ぶ。これにより、拍動間隔変動波形を得ることができる。
【0043】
次に、CPUは、生成した拍動間隔変動波形に基づいて、一拍よりも細かい時間間隔(たとえば、数十ms)にてリサンプリングして、拍動間隔の時系列データを得る。この時系列データを周波数解析し、各周波数成分ごとの値を算出する。この周波数解析による値は、リサンプリングの単位時間間隔ごとに算出する。
【0044】
図9Bにこのようにして得られた周波数解析の波形を示す。縦軸はパワースペクトル密度(単位は、msec2・Hz)であり、横軸は周波数(単位は、Hz)である。低い周波数に現れたピークを有する波をVLF、その次のピークを有する波をLF、その次のピークを有する波をHFと呼ぶ。
【0045】
次に、CPUは、次のようにしてHF値を算出する。まず、0.15Hz〜0.4Hz(2Hzまでとしてもよい)の間にある極大値を見いだす(図9のP1参照)。次に、図9Cに示すように、この極大値から前後0.15Hzの区間の波形を抽出し、最小値を基線としてその面積を算出する。この面積を、周波数幅(0.3Hz)で割ることにより、平均値を算出する。これが、拍動間隔HF値である。
【0046】
CPUは、リサンプリングの単位時間ごとに算出した拍動間隔HF値の5秒間の平均値を算出し記録する。
【0047】
CPUは、拍動間隔LF値についても、上記と同様にして算出を行う。
【0048】
CPUは、拍動間隔LF/拍動間隔HFを算出することで、興奮度を得ることができる。このようにして算出した興奮度は、たとえば、ゲーム装置などに情報として与えることにより、興奮度に応じて展開の変わるゲーム装置などを実現することができる。なお、本発明によれば、電極の貼り付けなどを要さずに、血流計測プローブを当てるだけで血流速を計測することができるという利点がある。
【0049】
また、眠っている場合にはHFが低くなるという点を用いて、運転者などの居眠り防止に利用することも可能である。
【0050】
さらに、他方の焦点の深さを徐々に変化させながら測定することにより(たとえば、図5のような構造の血流計測プローブ22を用いることにより)、血流の立体画像を再構成することも可能である。
【実施例】
【0051】
1.実験1
マイクロ波ドップラーセンサ8を用いて、血流速を計測可能であることを実験した。
【0052】
麻酔ラットの股動脈へ一端を挿入したカニューレを対外導出し、その他端を頚部大動脈に挿入した。したがって、カニューレ中には血流が生じることになる。また、カニューレは血圧による物理的な変形がないような強度のポリエチレンチューブを使用した。これは、カニューレ自体の物理的変化を計測してしまうのを防ぐためである。このカニューレに対し、血流計測プローブ22を近接させた際におけるマイクロ波ドップラーセンサ8の出力の時間的変化を示すのが図10Aである。拍動を見て取ることができ、血流速が測定されていることがわかる。
【0053】
図10Bは、上記においてカニューレを取り除いたときのマイクロ波ドップラーセンサ8の出力の時間的変化である。
【0054】
2.実験2
図4に示す血流計測プローブ22(マイクロ波ドップラーセンサ8は実験1と同じものを使用)を用いて、外乱の影響を実験した。反射保持体4の高さは約20cm、直径は約15cmのものを使用した。ただし、反射保持体4自体が金属であるものを用いた。測定対象は下行大動脈とし、腹部に血流計測プローブ22をあてて計測を行った。
【0055】
図11A図11Bがその測定結果である。また、図11Cは、反射保持体4で覆わずにマイクロ波ドップラーセンサ8をむき出しとした場合の測定結果である。図11B図11Cにおいては、時点t10からグラフの最後まで、血流計測プローブ22の前面(つまり被験者の背面)にて、被験者以外の人間が手を動かした。両グラフの比較から明らかなように、反射保持体4にて覆った場合の方が、手を動かすという大きな外乱に対しても影響を受けにくいことが明瞭である。また、手を動かすという明確な外乱がない状態においても、外乱の影響を受けていないことも明らかである(領域ε参照)。
【0056】
なお、図11Aにおいては、時点t10からグラフの最後まで、血流計測プローブ22の背面(被験者の前面)にて、被験者以外の人間が手を動かした。この場合においても、反射保持体4にて覆うことにより外乱の影響を受けていない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11