(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5947593
(24)【登録日】2016年6月10日
(45)【発行日】2016年7月6日
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池正極集電体用アルミニウム箔の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/66 20060101AFI20160623BHJP
B21B 1/40 20060101ALI20160623BHJP
B21B 3/00 20060101ALI20160623BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20160623BHJP
C22F 1/04 20060101ALN20160623BHJP
【FI】
H01M4/66 A
B21B1/40
B21B3/00 J
!C22F1/00 622
!C22F1/00 630A
!C22F1/00 630K
!C22F1/00 661C
!C22F1/00 682
!C22F1/00 683
!C22F1/00 685Z
!C22F1/04 K
!C22F1/00 691B
!C22F1/00 691C
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-79245(P2012-79245)
(22)【出願日】2012年3月30日
(65)【公開番号】特開2013-211127(P2013-211127A)
(43)【公開日】2013年10月10日
【審査請求日】2015年1月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000176707
【氏名又は名称】三菱アルミニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100089037
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100129403
【弁理士】
【氏名又は名称】増井 裕士
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 貴史
(72)【発明者】
【氏名】中西 茂紀
(72)【発明者】
【氏名】崔 祺
【審査官】
宮田 透
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−150637(JP,A)
【文献】
国際公開第2013/128685(WO,A1)
【文献】
特開2012−230778(JP,A)
【文献】
特開2012−230777(JP,A)
【文献】
特開2005−002371(JP,A)
【文献】
特開2005−222936(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0269609(US,A1)
【文献】
特開2008−115428(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/64− 4/84
C22F 1/00
C22F 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
箔上に残留した圧延油がアルミニウム箔全幅において4mg/m2以下であることを特徴とするリチウムイオン二次電池正極集電体用アルミニウム箔の製造方法であって、圧延工程後のアルミニウム箔に対して、表面および裏面をそれぞれ100〜200℃で加熱したロールに接触させる脱脂処理を施すことを特徴とするリチウムイオン二次電池正極集電体用アルミニウム箔の製造方法。
【請求項2】
箔上に残留した圧延油がアルミニウム箔全幅において4mg/m2以下であることを特徴とするリチウムイオン二次電池正極集電体用アルミニウム箔の製造方法であって、圧延後、巻き取られてコイル状態のアルミニウム箔に対して、水素雰囲気下100〜160℃の温度で50時間以上の熱処理による脱脂処理を施すことを特徴とするリチウムイオン二次電池正極集電体用アルミニウム箔の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池正極集電体用アルミニウム
箔の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、ノートパソコン等の携帯用電子・通信機器および電気動力を有する自動車等に用いられる非水電解液二次電池の代表として、リチウムイオンの吸蔵・放出が可能な炭素材料等を負極活物質とし、リチウム選移金属複合酸化物を正極活物質とするリチウムイオン二次電池が実用化されている。上記のようなリチウムイオン二次電池の正極集電体には、正極活性剤等のペーストが塗布されたアルミニウム箔が用いられている。
【0003】
しかし正極活性剤等のペースト塗布の際に、アルミニウム箔上に残留した圧延油がアルミニウム箔のぬれ性を阻害し、ペーストの均一塗布に対して悪影響を与えることがある。その結果、塗布後に行われる圧延工程において、ペーストの過剰な高密度化によるキレや脱落が発生し、最終的には電池性能を低下させるおそれがある。そのため、電極用基材として用いられるアルミニウム箔の残留圧延油を脱脂する必要が生じるが、一般的な方法である洗浄液による洗浄では、脱脂に手間がかかり、また箔上に洗浄液が残留するとペーストの塗布性および密着性を低下させるという問題がある。一方焼鈍による脱脂では、箔が軟化してリチウムイオン二次電池の正極集電体として必要な強度を維持することができないという欠点がある。
【0004】
そこでアルミニウム箔の強度低下が起こらない脱脂処理に関する研究が各所でなされている。例えば、アルミニウム箔製造工程のセパレータ又は圧延上りの箔のスリッターから巻き取り機の間の工程において、アルミニウム箔をコロナ放電処理する方法が知られている(特許文献1参照)。また圧延工程後のアルミニウム箔に100〜200℃で5〜15分間保持する低温熱処理を施すことにより脱脂する方法が知られている(特許文献2参照)。さらに、圧延油を用いて箔圧延を行った後のアルミニウム箔に80〜130℃で1時間以上保持する低温熱処理を施すことにより脱脂する方法が知られている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−263282号公報
【特許文献2】特開2008−159297号公報
【特許文献3】特開2011−134718号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の技術では、コロナ放電によりアルミニウム箔を脱脂する方法が示されているが、この技術ではぬれ性の若干の改善は見られるものの、塗布性の改善には不十分であり、残油低減の効果が薄いと思われる。
【0007】
特許文献2に記載の5分〜15分の低温熱処理を行う方式では、残油量を減らすことができ、塗布性の改善がみられるが、処理設備は大規模となり、またラインの運転速度を考慮すると生産性に乏しい。
【0008】
特許文献3に記載の1時間以上の低温熱処理を行う方式では、低温熱処理で箔のぬれ性を改善しているが、大気中で箔をコイルに巻いた状態でバッチ処理する際、アルミニウム箔の幅方向の中央部に近い部分ほど残油量が多くなり、活物質塗布性がばらつく問題がある。
本発明は以上のような問題を解消するものである。つまり、本発明はアルミニウム箔全幅において圧延油の残油量を塗布不良の生じない値に規制し、かつ機械的性質の劣化はなく、生産性にも優れたリチウムイオン二次電池正極集電体
用アルミニウム箔
の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者が、前記課題であるアルミニウム箔への正極活性剤等のペースト塗布性を改善するために鋭意検討を重ねた結果、箔上の残油量と活物質の塗布性の相関が明らかになった。それによると、アルミニウム箔上の残油量はアルミニウム箔コイル全幅で4mg/m
2以下である時、正極活性剤等のペースト塗布性が製造要求項目を満たす。したがって、本発明にかかるリチウムイオン二次電池正極集電体用アルミニウム箔
の製造方法は、箔上に残留した圧延油がアルミニウム箔全幅において4mg/m2以下であることを特徴とするリチウムイオン二次電池正極集電体用アルミニウム箔の製造方法であって、圧延工程後のアルミニウム箔に対して、表面および裏面をそれぞれ100〜200℃で加熱したロールに接触させる脱脂処理を施すことを特徴とする。
【0010】
本発明
は、箔上に残留した圧延油がアルミニウム箔全幅において4mg/m2以下であることを特徴とするリチウムイオン二次電池正極集電体用アルミニウム箔の製造方法であって、圧延後、巻き取られてコイル状態のアルミニウム箔に対して、水素雰囲気下100〜160℃の温度で50時間以上の熱処理による脱脂処理を施すことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明
の製造方法によるリチウムイオン二次電池正極集電体用アルミニウム箔は、箔上に残留した圧延油を4mg/m
2以下に規制したため、正極活性剤等のペーストの密着性および均一塗布性に優れている。
加熱ロールでアルミニウム箔を加熱する本発明にかかる製造方法において、
圧延後のアルミニウム箔に対して表面および裏面をそれぞれ100〜200℃で加熱したロールに接触させることでも連続生産可能な脱脂方法を提供し、高い生産性をあげることができる。
また、水素置換された加熱炉
での100〜160℃の温度で50時間以上の熱処理を行う本発明の製造方法によれば、同時に大量のアルミニウム箔コイルを脱脂処理可能であるため、高い生産性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明におけるアルミニウム箔の実施形態を説明するための模式図である。
【
図2】本発明におけるアルミニウム箔の脱脂方法の一例を説明するための模式図である。
【
図3】本発明におけるアルミニウム箔の脱脂方法の他の例を説明するための模式図である。
【
図4】アルミニウム箔コイルに対し140℃×50時間の熱処理を大気中と水素雰囲気下で実施した場合のコイル幅方向の残油量の分布を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明にかかるリチウムイオン二次電池正極集電体用アルミニウム箔およびその製造方法について説明する。なお、本明細書における「アルミニウム」の語はアルミニウムおよびその合金を含む意味で用いる。
【0015】
図1は第一実施形態のリチウムイオン二次電池正極集電体用アルミニウム箔1をコイル状に巻き取った一例を示すもので、この例のアルミニウム箔コイル2は所定幅で所定厚さのアルミニウム箔1をコイル状に巻きつけて構成されている。本実施形態のアルミニウム箔1はアルミニウム、又はアルミニウム合金を、既知の半連続鋳造法や連続鋳造圧延法などの常法により溶製する。ここで、半連続鋳造により得られる鋳塊は、必要に応じて均質化処理を行ってもよい。その後、熱間圧延によりアルミニウム合金板が得られ、連続鋳造圧延法によっては、そのままアルミニウム合金板を得ることができる。次いで、必要に応じて中間焼鈍を行い、その後、冷間圧延を行うことにより所望の幅と厚さに加工し、所定の長さごとに巻き取られて
図1に示すリチウムイオン二次電池正極集電体用アルミニウム箔コイル2とされる。
【0016】
また、これらの圧延工程においてはロールと被圧延材の潤滑や冷却を目的として圧延油が使用される。圧延油は脂肪酸を添加した石油系炭化水素を用いることが一般的であり、特に本実施形態においてはパラフィン系油に添加材として高級脂肪酸、アルコール、エステルを添加したもので蒸留終点は300℃以下であるものを用いる。
【0017】
ここでアルミニウム箔1の幅であり、アルミニウム箔コイルを円柱立体とみなした時の高さwをアルミニウム箔の全幅と呼ぶこととする。
【0018】
アルミニウム箔1の厚みは6〜30μmの範囲が好ましい。これは、6μm未満では箔の強度の低下により圧延時、又は電池製造時の破断が懸念され、30μmを超えると、重量および体積といった点で、製品段階での実使用上好ましくない。ここではコイルの巻き方向に対して内側面を表面(
図1中の1a)、外側面を裏面(
図1中の1b)と呼ぶこととする。
【0019】
本実施形態におけるアルミニウム箔1の化学組成は特に限定されることはなく、例えばJIS A1085、A1N30等の1000系合金(純アルミニウム系)、A3003、A3004等の3000系合金(Al−Mn系)、A8079、A8021等の8000系合金(Al−Fe系)等の各種のものを用いれば良い。これらのアルミニウム箔は一般的にリチウムイオン二次電池の電極用基材として用いることができる材料である。
【0020】
本実施形態においてアルミニウム箔1への正極活性剤等のペースト塗布性を高めるために、アルミニウム箔上の残油量はアルミニウム箔コイル全幅で4mg/m
2以下とする。この条件下であるならば、正極活性剤等のペースト塗布性が製造要件を満たすとの発明者の知見をもとにしている。ここで、箔上の残油量分析は、厚みが既知である試料の測定箇所を一定の大きさに切り出し重量を測定後、炭素量分析装置にて炭素量を分析し、厚みと重量から試料の正確な表面積を求め、圧延油成分と分析した炭素量から算出することができる。したがって、残油量とは切り出した測定箇所のアルミニウム箔の表面1aおよび裏面1bに付着した残油量の合計である。
【0021】
図2は本発明にかかる製造方法の一例を実施するために用いる脱脂装置の一例を示すものである。圧延されたアルミニウム箔コイルを取り付けた巻き出しローラー22が一定速度で回転しながらアルミニウム箔1の巻き出しを行い、各種役割をもったローラーを経て最終的に巻き出しローラー22と同期回転する巻き取りローラー21によって、再度アルミニウム箔1をコイル状に巻き取る構成を持つ。巻き出しローラー22と巻き取りローラー21の間には巻き出しローラー22に近い側から順にテンションローラー41、42、43、案内ローラー31、加熱ローラー11、12、案内ローラー32、導入ローラー44、45が設けられている。41、42、43はテンションローラーであって、しわや破れを防ぐために適切なテンションをかけながらアルミニウム箔を導くために設けられたローラーであり、31、32は巻き出されたアルミニウム箔を所定の方向に案内する役割を担う案内ローラーである。11、12は加熱ローラーであって、ヒーターを内蔵し外部電源によって表面温度が100〜200℃に保たれている。導入ローラー44、45はアルミニウム箔を巻き取りローラー21に導入する役割を持つ。
【0022】
アルミニウム箔1が加熱ローラー11、12を通る際に裏面、表面をそれぞれ加熱することにより脱脂が施される。アルミニウム箔1の加熱ローラーへの接触時間は表面、裏面ともにそれぞれ0.5秒以上6秒以下が望ましい。接触時間が0.5秒未満では脱脂効果に乏しく残油量が4mg/m
2を下回らず、また接触時間を長くしても脱脂効果が飽和するだけである。そのため、接触時間は処理効率を鑑みて6秒以下に設定されることが好ましい。
【0023】
加熱ローラー11、12の表面の温度は100℃未満であるとき、脱脂効果に乏しく残油量が4mg/m
2を下回らない。また、200℃を超えると、箔が軟化して強度が低下してしまう。そのため100℃以上、200℃以下の温度範囲で熱処理を行うものとする。このように構成された
図2で示される装置を用いた脱脂方法によれば、バッチ処理のように処理サイクルの長さや、部位による表面状態のばらつきについて問題になることがなく、短時間の処理で均一な脱脂処理を行うことができる。
【0024】
図3は本発明の製造方法の第二の例を実施している状態の一例を示す図である。ここで圧延後所定の長さに巻き取られたアルミニウム箔コイル2を加熱炉5に格納する。加熱炉5は炉内を少なくとも100℃、好ましくは160℃までの加熱による温度調節が可能であり、また炉内を水素置換するために、排気管7から排気し、給気管6より水素を導入する構成にされている。加熱炉5に格納するアルミニウム箔コイル2の数量は空間的に許容される範囲で任意である。
【0025】
アルミニウム箔コイル2を加熱炉5内に格納後、加熱炉5内を圧力100Pa以下になるように真空引きを行い、その後窒素ガスで複圧しさらに水素ガスを濃度約80%以上になるように供給する。次に加熱炉5内を100〜160℃まで昇温し50時間以上その温度で保持し、その後冷却工程を経てアルミニウム箔コイル2を取り出す。保持温度は100℃以上160℃以下が好ましく、保持時間は50時間以上が好ましい。本実施形態では、アルミニウム合金の金属組成に影響を与えるものではないため、昇温速度および冷却速度は限定されないが、冷却時に冷却装置等で急冷を行うとアルミニウム箔にしわが発生しやすくなるため、自然放熱による冷却が望ましい。また保持温度が100℃未満では長時間の処理を施しても脱脂効果に乏しく残油量が4mg/m
2を下回らない。160℃を超えると、箔が軟化して強度が低下してしまう。
【0026】
また処理時間が50時間未満では脱脂効果に乏しく、コイル全幅において残油量が4mg/m
2を下回らないため、50時間以上とすることが好ましい。本発明は100〜160℃の低温熱処理であるからして長時間処理しても材料強度が低下するおそれはなく、処理時間の上限に制限はない。これらの熱処理を水素雰囲気下で行うことで、コイルの全幅において均一に残油を取り除くことができる。
【0027】
本実施形態においては、箔をコイルに巻いたアルミニウム箔コイルの状態でバッチ処理することで、簡単な装置で大量のアルミニウム箔を同時に脱脂処理することができ、処理効率が良い。
【0028】
上に示されたように本発明は、アルミニウム箔上の残油量4mg/m
2を実現するための脱脂処理の実施形態として加熱ローラー11、12を用いる方法と加熱炉5を用いる方法の二通りの脱脂方法を提供する。これらの方法はいずれもアルミニウム箔コイル全幅で残油量を4mg/m
2以下にできる方法であって、製造ライン、納期等を鑑みていずれの方法を選択してもよい。
【0029】
以上、本発明にかかるリチウムイオン二次電池正極集電体用アルミニウム合金箔およびその製造方法の実施形態について説明したが、それらは本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することができる。
【実施例】
【0030】
以下に、本発明の具体的実施例について説明するが、本願発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0031】
「実施例1〜実施例6、比較例1〜比較例6」
供試材として鋳塊を熱間圧延、冷間圧延を経て製造された幅600mm、厚さ15μmのJIS A3003硬質箔、H18材相当のコイルを用いた。なお、冷間圧延および箔圧延においては、圧延油としてパラフィン系油で蒸留終点温度が300℃以下のものを用いた。また、
図2で示される脱脂装置を用いてアルミニウム箔に脱脂処理を施した。表1の、実施例1〜6ならびに比較例2〜5の各欄に示した条件において脱脂処理を行い、特に比較例2〜6に関しては加熱ロールの温度、加熱ロールへの接触時間、残油量のいずれかを所定範囲外にて実施した。また脱脂効果を比較するため未脱脂処理のアルミニウム箔である比較例1を用意した。
【0032】
「実施例7〜実施例10、比較例7〜比較例11」
供試材として鋳塊を熱間圧延、冷間圧延を経て製造された幅600mm、厚さ15μmのJIS A3003硬質箔、H18材相当のコイルを用いた。なお、冷間圧延および箔圧延においては、圧延油としてパラフィン系油で蒸留終点温度が300℃以下のものを用いた。また、
図3で示された脱脂装置を用いて脱脂処理を行った。表2の実施例7〜10ならびに比較例7〜11の各欄に示した条件において脱脂処理を行い、特に比較例7〜11に関しては加熱炉の温度、保持時間、残油量を所定範囲外にて実施した。またここでも脱脂効果を比較するため、表2中に未脱脂処理のアルミニウム箔である比較例1を掲載した。
【0033】
〔活物質塗布性の評価方法〕
幅250mmのアルミ箔上に正極活物質スラリーを厚み50μmになるようにドクターブレード法により片面塗布した。一つの試料に対し50回の塗布試験を実施し、スラリーのはじきが生じた回数をカウントした。塗布不良発生回数0を◎、1〜4を○、5回以上を×と評価した。コイルの状態で熱処理した箔はコイル幅方向中央部を使用した。活物質スラリーは以下の物質の混合物である。
・正極活物質:LiCoO
2やLiMnO
2、LiFePO
4
・導電材:アセチレンブラック(AB)
・バインダ:ポリビニリデンフルオライド(PVDF)
・希釈剤:N−メチル−2−ピロリドン(NMP)
【0034】
〔引張強度の評価試験〕
強度について本発明では特に範囲を規定していないが、脱脂処理前の箔と比較して強度が殆ど低下してないものは◎、低下しているが使用上問題ないものは○、20MPa以上低下したものを×とした。引張り強度は、脱脂処理後のアルミニウム箔から、幅15mm、長さ200mmの試験片を採取し、万能引張試験機で引張り速度5mm/sで破断時の荷重を測定した。伸び率は、引張り強度試験において破断したときの伸びから伸び率を求めた。
【0035】
【表1】
【0036】
表1に示すように、本発明の条件範囲内である実施例1〜6において
図1に示す加熱ローラーを用いた熱処理することによって、熱処理をしない比較例1と比較して、機械的性質を低下させることなく脱脂することができた。一方、比較例2、3に示すように100℃未満では十分に脱脂されず、また比較例4に示すように接触時間0.5秒未満の加熱処理では残油量が4mg/m
2以下にはならず、残油量の基準を満たせなかった。また、200℃を超える温度で熱処理した比較例5、6では、脱脂されたものの機械的性質が低下した。
【0037】
【表2】
【0038】
表2に示すように、100〜160℃の温度で50時間以上の熱処理することによって、熱処理をしない表1の比較例1と比較して、機械的性質を低下させることなく脱脂することができた。一方、比較例7、8で示されたように、100℃未満または50時間未満の加熱処理では脱脂が不十分であり、160℃を超える温度で熱処理した比較例9では、脱脂されたものの機械的性質が低下した。また、大気中で熱処理を行った比較例10、比較例11では、コイル全幅に対して端部では脱脂されたものの、中央部において脱脂が不十分であり、水素雰囲気下での熱処理の優位性が確認された。
【0039】
図4に大気中と水素雰囲気下での140℃×50時間の熱処理を実施した際のコイルの幅方法に対する残油量の分布を示す。比較例10、11のように大気中の熱処理ではコイル全幅の端部からコイル中央部に近づくにしたがって残油量が上昇し、やがて基準値である4mg/m
2を超えているのに対して、水素雰囲気下では全幅においてほぼ一定の値を示しており、コイル全幅にわたり常に4mg/m
2以下の残油量となっていることから脱脂は均一に行われていることがわかる。
【符号の説明】
【0040】
1…アルミニウム箔
1a…アルミニウム箔表面
1b…アルミニウム箔裏面
2…アルミニウム箔コイル
w…アルミニウム箔全幅
21…巻き取りローラー
22…巻き出しローラー
31、32…案内ローラー
41、42、43…テンションローラー
44、45…導入ローラー
5…加熱炉
6…吸気口
7…排気口