特許第5947733号(P5947733)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5947733
(24)【登録日】2016年6月10日
(45)【発行日】2016年7月6日
(54)【発明の名称】高速炉の炉心
(51)【国際特許分類】
   G21C 5/18 20060101AFI20160623BHJP
   G21C 1/02 20060101ALI20160623BHJP
   G21C 3/328 20060101ALI20160623BHJP
   G21C 3/28 20060101ALI20160623BHJP
   G21C 3/62 20060101ALI20160623BHJP
   G21F 9/00 20060101ALI20160623BHJP
   G21G 1/02 20060101ALI20160623BHJP
【FI】
   G21C5/18GDF
   G21C1/02 Z
   G21C3/30 T
   G21C3/28 K
   G21C3/62 G
   G21C3/62 N
   G21F9/00 N
   G21G1/02
【請求項の数】1
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-36619(P2013-36619)
(22)【出願日】2013年2月27日
(65)【公開番号】特開2014-163862(P2014-163862A)
(43)【公開日】2014年9月8日
【審査請求日】2015年3月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】藤村 幸治
(72)【発明者】
【氏名】澤田 周作
(72)【発明者】
【氏名】林 正明
(72)【発明者】
【氏名】糸岡 聡
【審査官】 青木 洋平
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−294676(JP,A)
【文献】 特開2013−029403(JP,A)
【文献】 特開2011−174838(JP,A)
【文献】 特開平02−271294(JP,A)
【文献】 特開2000−329884(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21C 3/30−3/62
G21C 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内側炉心領域及び前記内側炉心領域を取り囲む外側炉心領域を有する炉心燃料領域と、前記外側炉心領域を取り囲み、前記外側炉心領域に隣り合った放射線遮蔽体領域とを備え、
ウラン酸化物及びプルトニウム酸化物を含む混合酸化物燃料を充填した複数の第1燃料棒、及び不活性母材及び超ウラン元素を含むイナートマトリックス燃料を充填した複数の第2燃料棒が、前記内側炉心領域及び前記外側炉心領域にそれぞれ装荷されており、前記外側炉心領域の平均プルトニウム富化度が前記内側炉心領域の平均プルトニウム富化度よりも大きくなっており、
燃料棒として複数の前記第1燃料棒のみを有する複数の第1燃料集合体が、前記内側炉心領域及び前記外側炉心領域のそれぞれに装荷されており、燃料棒として複数の前記第2燃料棒のみを有する複数の第2燃料集合体が、前記内側炉心領域及び前記外側炉心領域のそれぞれにおいて、前記第1燃料集合体の間に装荷されていることを特徴とする高速炉の炉心。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高速炉の炉心及び核燃料再処理の前処理方法に係り、特に、不活性母材及び超ウラン元素(以下、TRUという)を含むイナートマトリックス燃料を装荷した高速炉の炉心及び核燃料再処理の前処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高速炉の燃料集合体、炉心に関しては、平川直弘、岩崎智彦著「原子炉物理入門」(東北大学出版会、2003年10月30日、p279〜286)に記載されている。一般的に、高速増殖炉は、原子炉容器内に炉心を配置しており、冷却材である液体ナトリウムを原子炉容器内に充填している。その炉心に装荷される燃料集合体は、プルトニウムを富化した劣化ウラン(U−238)を封入した複数の燃料棒、束ねられた複数の燃料棒を取り囲むラッパ管、これらの燃料棒の下端部、及び燃料棒の下方に位置する中性子遮へい体を支持するエントランスノズル、及び燃料棒の上方に位置する冷却材流出部を有する。
【0003】
高速増殖炉の炉心は、内側炉心領域及びこの内側炉心領域を取り囲む外側炉心領域を有する炉心燃料領域、炉心燃料領域を取り囲むブランケット燃料領域及びブランケット領域を取り囲む遮へい体領域を有する。標準的な均質炉心の場合、外側炉心領域に装荷される燃料集合体のPu富化度は、内側炉心領域に装荷される燃料集合体のPu富化度よりも高くなっている。この結果、炉心の半径方向における出力分布が平坦化される。
【0004】
燃料集合体の各燃料棒に収納される核燃料物質の形態としては、金属燃料、窒化物燃料及び酸化物燃料がある。これらのうち、酸化物燃料が最も実績が豊富である。
【0005】
Pu及び劣化ウランのそれぞれの酸化物を混合した混合酸化物燃料、すなわち、MOX燃料のペレットが、燃料棒内で軸方向の中央部において80〜100cm程度の高さに充填される。さらに、燃料棒内には、劣化ウランで作られた複数の二酸化ウランペレットを充填した軸方向ブランケット領域が、MOX燃料の充填領域の上方及び下方にそれぞれ配置されている。内側炉心領域に装荷される内側炉心燃料集合体及び外側炉心領域に装荷される外側炉心燃料集合体は、そのように、MOX燃料の複数のペレットを充填した複数の燃料棒を有する。外側炉心燃料集合体のPu富化度は、内側炉心燃料集合体のそれよりも高くなっている。
【0006】
炉心燃料領域を取り囲むブランケット燃料領域には、劣化ウランで作られた複数の二酸化ウランペレットを充填した複数の燃料棒を有するブランケット燃料集合体が装荷される。炉心燃料領域に装荷された燃料集合体内で生じる核分裂反応で発生した中性子のうち、炉心燃料領域から漏れた中性子が、ブランケット燃料領域に装荷されたブランケット燃料集合体の各燃料棒内のU−238に吸収される。この結果、ブランケット燃料集合体の各燃料棒内で核分裂性核種であるPu−239が新たに生成される。
【0007】
また、高速増殖炉の起動時、停止時及び原子炉出力の調節時には、制御棒が用いられる。制御棒は、炭化ホウ素(BC)ペレットをステンレス製の被覆管に封入した複数の中性子吸収棒を有し、これらの中性子吸収棒を、内側炉心燃料集合体及び外側炉心燃料集合体と同様に、横断面が正六角形をしたラッパ管に収納されて構成される。制御棒は、主炉停止系及び後備炉停止系の独立した2系統の構成となっており、主炉停止系及び後備炉停止系のいずれか一方のみで高速増殖炉の緊急停止が可能になる。
【0008】
一方、軽水炉から取り出された使用済燃料集合体に含まれる使用済核燃料には、Pu及びマイナーアクチニド等のTRUが含まれている。TRUには半減期が長い放射性核種が含まれており、長半減期の放射性核種を安定に処分する方法の確立が急務の課題となっている。長半減期の放射性核種、すなわち、長寿命放射性廃棄物のうち、高レベル廃棄物に区分されるマイナーアクチニドを核燃料再処理によって取り出し、このマイナーアクチニドを高速増殖炉における核燃料物質として有効活用することが提案されている。
【0009】
Y. Croixmarie, et al., “Fabrication of transmutation fuels and targets: the ECRIX and CAMIX-COCHIX experience”, Journal of Nuclear Materials 320 (2003), pp.11-17は、TRU、例えば、アメリシウムの酸化物と不活性母材であるMgOを混合して作成したイナートマトリックス燃料を高速増殖炉で燃焼させ、TRUを消滅できることを記載している。また、O. N. Nikitin, et al., “Results of post-irradiation examinations of inert matrices fuels irradiated in BOR-60 reactor up to 19 at% of burn-up in frame of Russian-French BORA-BORA experiment”, Proceedings of International Conference on Fast Reactors and Related Fuel Cycles (FR09), 7-11 Dec. 2009, Kyoto, Japanは、Pu酸化物及びMgOを含むイナートマトリックス燃料を記載している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】平川直弘、岩崎智彦著「原子炉物理入門」、東北大学出版会、pp.279―286、2003年10月30日。
【0011】
【非特許文献2】Y. Croixmarie, et al., “Fabrication of transmutation fuels and targets: the ECRIX and CAMIX-COCHIX experience”, Journal of Nuclear Materials 320 (2003), pp.11-17
【非特許文献3】O. N. Nikitin, et al., “Results of post-irradiation examinations of inert matrices fuels irradiated in BOR-60 reactor up to 19 at% of burn-up in frame of Russian-French BORA-BORA experiment”, Proceedings of International Conference on Fast Reactors and Related Fuel Cycles (FR09), 7-11 Dec. 2009, Kyoto, Japan
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
不活性母材としてMgOを用い、TRUOx及びMgOを含むイナートマトリックス燃料を充填した複数の燃料棒を有する複数の燃料集合体のみを、炉心に装荷した高速炉では、TRUの核変換率(=(TRUIN−TRUOUT)/TRUIN)が、通常のMOX燃料集合体を炉心に装荷した高速炉よりも大きくなり、それだけ、TRUが短半減期の放射性核種に核変換されやすくなる。
【0013】
しかしながら、イナートマトリックス燃料を有する燃料集合体のみで炉心燃料領域を構成したのでは、高速炉の炉心において、核燃料物質が充填されている領域のTRU富化度が100wt%になる。このため、炉心の半径方向の出力分布をTRU富化度の違いで制御できないために、高速炉の炉心の半径方向の出力分布が、J0分布(0次のベッセル関数)となり、平坦化されない。これでは、TRUの短半減期核種への核変換、すなわち、TRUの消滅の割合を増大させることができない。
【0014】
本発明の目的は、超ウラン元素の短半減期の放射性核種への核変換割合を増大させることができる高速炉の炉心及び核燃料再処理の前処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記した目的を達成する本発明の特徴は、内側炉心領域及びこの内側炉心領域を取り囲む外側炉心領域を有する炉心燃料領域と、外側炉心領域を取り囲み、外側炉心領域に隣り合った放射線遮蔽体領域とを備え、
ウラン酸化物及びプルトニウム酸化物を含む混合酸化物燃料を充填した複数の第1燃料棒、及び不活性母材及び超ウラン元素を含むイナートマトリックス燃料を充填した複数の第2燃料棒が、内側炉心領域及び外側炉心領域にそれぞれ装荷されており、外側炉心領域の平均プルトニウム富化度が内側炉心領域の平均プルトニウム富化度よりも大きくなっていることにある。
【0016】
外側炉心領域の平均プルトニウム富化度が内側炉心領域の平均プルトニウム富化度よりも大きくなっている状態で、複数の第2燃料棒が、内側炉心領域及び外側炉心領域にそれぞれ装荷されているので、炉心の半径方向における平均燃焼度の分布が平坦化される。このため、内側炉心領域に存在する第2燃料棒内の超ウラン元素だけでなく、外側炉心領域に存在する第2燃料棒内の超ウラン元素も、短半減期の放射性核種に核変換される。このため、超ウラン元素の短半減期の放射性核種に核変換される割合が増大し、超ウラン元素の消滅率が大きくなる。
【0017】
上記した目的は、ウラン酸化物及びプルトニウム酸化物を含む混合酸化物燃料を充填した複数の第1燃料棒、及び不活性母材及び超ウラン元素を含むイナートマトリックス燃料を充填した複数の第2燃料棒を有する複数の第1燃料集合体が、内側炉心領域に装荷されており、複数の第1燃料棒及び複数の第2燃料棒を有し、内部に存在する全燃料棒の本数に対する第2燃料棒の本数の割合が、第1燃料集合体のその割合よりも小さくなっている複数の第2燃料集合体が、内側炉心領域に装荷されていることによっても達成される。
【0018】
ウラン酸化物及びプルトニウム酸化物を含む混合酸化物燃料を充填した複数の第1燃料棒、及び不活性母材及び超ウラン元素を含むイナートマトリックス燃料を充填した複数の第2燃料棒を有する使用済の燃料集合体において複数の第1燃料棒及び複数の第2燃料棒の束を取り囲んでいるラッパ管を切断して取り除き、燃料集合体の第1燃料棒と第2燃料棒を分離することによって、第1燃料棒内の混合酸化物燃料、及び第2燃料棒内のイナートマトリックス燃料を別々に再処理することができる。このため、燃料集合体内の核燃料物質の再処理を容易に行うことができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、高速炉の炉心において、超ウラン元素の短半減期の放射性核種への核変換割合を増大させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の好適な一実施例である実施例1の高速炉の炉心の横断面図である。
図2図1に示す高速炉の炉心の縦断面図である。
図3図1に示す高速炉の炉心に装荷された、イナートマトリックス燃料を有する燃料集合体の横断面図である。
図4図1に示す高速炉の炉心の半径方向における平均燃焼度分布を示す説明図である。
図5】本発明の他の好適な実施例である実施例2の高速炉の炉心の横断面図である。
図6図5に示す高速炉の炉心の内側炉心領域に装荷される内側炉心燃料集合体の横断面図である。
図7図5に示す高速炉の炉心の外側炉心領域に装荷される外側炉心燃料集合体の横断面図である。
図8図6及び図7に示す各燃料集合体の縦断面図である。
図9図6及び図7に示すイナートマトリックス燃料を含む燃料集合体の核燃料再処理における前処理方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施例を以下に説明する。
【実施例1】
【0022】
本発明の好適な一実施例である実施例1の高速炉の炉心を、図1及び図2を用いて説明する。
【0023】
本実施例の高速炉の炉心1は、高速炉の原子炉容器(図示せず)内に配置され、内側炉心領域2及びこの内側炉心領域2を取り囲む外側炉心領域3を有する炉心燃料領域、第1放射線遮へい体領域4及び第2放射線遮へい体領域5を有する。炉心1の半径方向において、第1放射線遮へい体領域4が炉心領域を取り囲んで炉心燃料領域と隣り合っており、第2放射線遮へい体領域5が第1放射線遮へい体領域4を取り囲んでいる(図1参照)。この炉心1は半径方向及び軸方向においてブランケット領域を配置していない。炉心1の軸方向において、上部放射線遮へい体領域13及び下部放射線遮へい体領域14が、内側炉心領域2及び外側炉心領域3のそれぞれの上方及び下方に配置される(図2参照)。
【0024】
炉心1が適用される高速炉は、冷却材として液体ナトリウムを用いる。液体ナトリウムは原子炉容器内に充填されている。
【0025】
炉心1の炉心燃料領域(内側炉心領域2及び外側炉心領域3を含む)には、Pu酸化物(PuO2)及び劣化ウランの酸化物(UO2)を混合した混合酸化物(以下、MOX燃料という)を含む複数の内側炉心燃料集合体6、MOX燃料を含む複数の外側炉心燃料集合体7及びイナートマトリックス燃料を含む複数の燃料集合体(以下、イナートマトリックス燃料集合体という)8が装荷されている。
【0026】
イナートマトリックス燃料集合体8は、図3に示すように、束ねられた複数の燃料棒11を、下端部がエントランスノズルに取り付けられた、横断面が正六角形の筒状のラッパ管12によって取り囲んで構成される。各燃料棒11は、イナートマトリックス燃料を内部に充填している。燃料棒11の、イナートマトリックス燃料を充填している燃料有効長は約140cmである。このイナートマトリックス燃料は、TRU酸化物(TRUOX)不活性母材であるMgOを混合したものを用いており、TRUOXが75wt%であり、MgOが25wt%である。なお、イナートマトリックス燃料集合体8はウランを含んでいない。不活性母材として、MgO以外にZrO2またはAl23を用いてもよい。複数のイナートマトリックス燃料集合体8が、図1に示すように、内側炉心領域2及び外側炉心領域3のそれぞれに、均等な間隔で分散装荷されている。
【0027】
内側炉心燃料集合体6及び外側炉心燃料集合体7も、イナートマトリックス燃料集合体8と同様に、束ねられた複数の燃料棒を、下端部がエントランスノズルに取り付けられた、横断面が正六角形の筒状のラッパ管12によって取り囲んで構成される。内側炉心燃料集合体6及び外側炉心燃料集合体7の各燃料棒は、燃料棒11と異なり、MOX燃料を充填している。内側炉心燃料集合体6及び外側炉心燃料集合体7の各燃料棒の、MOX燃料を充填している燃料有効長も、約140cmである。内側炉心領域2に装荷された、燃焼度が0GWd/tの内側炉心燃料集合体6の各燃料棒に充填されたMOX燃料のPu富化度は11.4wt%であり、外側炉心領域3に装荷された、燃焼度が0GWd/tの外側炉心燃料集合体7の各燃料棒に充填されたMOX燃料のPu富化度は15.8wt%である。
【0028】
イナートマトリックス燃料集合体8内のイナートマトリックス燃料に含まれるTRUは、軽水炉から取り出された使用済燃料集合体の再処理によって得られたものである。内側炉心燃料集合体6及び外側炉心燃料集合体7に含まれるPuも、軽水炉から取り出された使用済燃料集合体の再処理によって得られたものである。
【0029】
複数の内側炉心燃料集合体6が内側炉心領域2に配置される。内側炉心燃料集合体6は外側炉心領域3に配置されていない。複数の外側炉心燃料集合体7が外側炉心領域3に配置され、外側炉心燃料集合体7は内側炉心領域2に配置されていない。
【0030】
イナートマトリックス燃料集合体8は、各燃料棒11の下端とエントランスノズルの上端の間でラッパ管12内に下部放射線遮へい体(図示せず)を設けており、各燃料棒11の上端より上方でラッパ管12内に上部放射線遮へい体(図示せず)を設けている。内側炉心燃料集合体6及び外側炉心燃料集合体7のそれぞれも、各燃料棒の下端とエントランスノズルの上端の間でラッパ管12内に下部放射線遮へい体を設けており、各燃料棒の上端より上方でラッパ管12内に上部放射線遮へい体を設けている。内側炉心燃料集合体6、外側炉心燃料集合体7及びイナートマトリックス燃料集合体8の各下部放射線遮へい体には、エントランスノズルから供給される液体ナトリウムを燃料棒相互間に供給する第1ナトリウム通路が形成される。内側炉心燃料集合体6、外側炉心燃料集合体7及びイナートマトリックス燃料集合体8の各上部放射線遮へい体には、燃料棒相互間を上昇した液体ナトリウムを排出する第2ナトリウム通路が形成される。
【0031】
上部放射線遮へい体領域13が、内側炉心燃料集合体6、外側炉心燃料集合体7及びイナートマトリックス燃料集合体8の各上部放射線遮へい体によって形成される。下部放射線遮へい体領域14が、内側炉心燃料集合体6、外側炉心燃料集合体7及びイナートマトリックス燃料集合体8の各下部放射線遮へい体によって形成される。
【0032】
複数のステンレス鋼の丸棒を横断面が正六角形の筒状体であるラッパ管で取り囲んで構成された複数のステンレス鋼放射線遮へい体9が、第1放射線遮へい体領域4に配置されている。中性子吸収材であるB4Cを内部に充填した複数の中性子吸収棒を横断面が正六角形の筒状体であるラッパ管で取り囲んで構成された複数のB4C放射線遮へい体10が、第2放射線遮へい体領域5に配置されている。
【0033】
ある運転サイクルにおける高速炉の起動時において、炉心1に挿入されている制御棒(図示せず)の一部が炉心1から全引き抜きされ、残りの制御棒が炉心1に挿入された状態で、高速炉が、定格の原子炉出力で運転される。原子炉容器内において液体ナトリウムが、内側炉心燃料集合体6、外側炉心燃料集合体7及びイナートマトリックス燃料集合体8のそれぞれに供給される。内側炉心燃料集合体6及び外側炉心燃料集合体7内では、Puの核分裂によって発生した熱で液体ナトリウムが加熱され、液体ナトリウムの温度が上昇する。換言すれば、内側炉心燃料集合体6及び外側炉心燃料集合体7内の各燃料棒が液体ナトリウムによって冷却される。
【0034】
イナートマトリックス燃料集合体8内では、核分裂性TRUの核分裂によって発生した熱で液体ナトリウムが加熱される。換言すれば、イナートマトリックス燃料を充填した各燃料棒が冷却される。イナートマトリックス燃料集合体8内のTRUは、核変換によって短半減期の放射性核種に変換される。すなわち、イナートマトリックス燃料集合体8内のTRUは、高速炉の運転中において消滅する。
【0035】
本実施例の高速炉の炉心1では、外側炉心領域3に装荷された燃焼度0GWd/tの外側燃料集合体7のPu富化度が内側炉心領域2に装荷された燃焼度0GWd/tの内側燃料集合体6のPu富化度よりも高いため、炉心1の半径方向の出力分布が平坦化される。このため、外側炉心領域3における平均燃焼度が増大し、炉心1の半径方向における平均燃焼度の分布は、図4に示す実線15のように、平坦化される。ちなみに、核燃料物質として50wt%のTRUOX及び50wt%のMgOを含むイナートマトリックス燃料のみを含むイナートマトリックス燃料集合体8だけを、内側炉心領域2及び外側炉心領域3を含む炉心燃料領域に装荷した高速炉の炉心では、外側炉心領域の平均燃焼度が内側炉心領域のそれよりもちいさくなり、この炉心の半径方向における平均燃焼度の分布は、図4に示す破線16のようになる。本実施例の高速炉の炉心1の、炉心半径方向における平均燃焼度の分布は、イナートマトリックス燃料集合体8だけを炉心燃料領域に装荷した高速炉の炉心に比べて平坦化される。
【0036】
本実施例の高速炉の炉心では、半径方向における平均燃焼度の分布が平坦化されるので、内側炉心領域2に装荷されたイナートマトリックス燃料集合体8に含まれるTRUだけでなく、外側炉心領域3に装荷されたイナートマトリックス燃料集合体8に含まれるTRUも、短半減期の放射性核種に核変換される。このため、本実施例の炉心1では、TRUが短半減期の放射性核種に核変換される割合(TRUの消滅率)が、破線16で示されたイナートマトリックス燃料集合体8だけを炉心燃料領域に装荷した、高速炉の炉心に比べて大きくなる。
【0037】
本実施例では、炉心1の半径方向の出力分布が、イナートマトリックス燃料集合体8だけを炉心燃料領域に装荷した、高速炉の炉心におけるその出力分布よりも平坦化されるため、炉心1は、後者の高速炉の炉心よりもサイズを小さくすることができ、それだけ、中性子の漏えいが増大する。この結果、炉心1の炉心燃料領域におけるTRUの富化度を増大でき、それだけ、TRUの、短半減期の放射性核種への核変換割合が増加する。
【0038】
以上により、本実施例の炉心1における超ウラン元素の短半減期の放射性核種(短寿命の核分裂生成物)への核変換割合(TRUの消滅率)が増大する。
【実施例2】
【0039】
本発明の他の好適な実施例である実施例2の高速炉の炉心を、図5を用いて説明する。
【0040】
本実施例の高速炉の炉心1Aは、実施例1の高速炉の炉心1において内側炉心領域2を内側炉心領域2Aに、外側炉心領域3を外側炉心領域3Aにそれぞれ置き換えた構成を有する。炉心1Aの他の構成は炉心1と同じである。
【0041】
本実施例の炉心1Aでは、複数の内側炉心燃料集合体6Aが内側炉心領域2Aに装荷され、複数の外側炉心燃料集合体7Aが外側炉心領域3Aに装荷される。各内側炉心燃料集合体6Aは、図6に示すように、複数の燃料棒17及び複数の燃料棒18を下端部がエントランスノズルに取り付けられたラッパ管12によって取り囲んで構成される。燃料棒17は内部にMOX燃料が充填されている。燃料棒18は内部に50wt%のTRUOX及び50wt%のMgOを混合したイナートマトリックス燃料を充填している。各外側炉心燃料集合体7Aは、図7に示すように、複数の燃料棒17A及び前述の複数の燃料棒18を下端部がエントランスノズルに取り付けられたラッパ管12によって取り囲んで構成される。燃料棒17Aは内部にMOX燃料が充填されている。
【0042】
内側炉心燃料集合体6A及び外側炉心燃料集合体7Aでは、図8に示すように、イナートマトリックス燃料を充填している燃料棒18の軸方向の長さは、MOX燃料を充填している燃料棒17の軸方向の長さよりも短くなっている。燃料棒18の軸方向の長さが短くなる理由は以下のとおりである。燃料棒18内に充填されたイナートマトリックス燃料は、MOX燃料と比べるとMgOのような不活性母材を含み、燃料(重金属)インベントリーが小さいので、核分裂で発生する核分裂生成物の量が少なく、また、核分裂生成物のうち燃料棒内のガスプレナムに放出される希ガスの量が少なくなる。このため、燃料棒18内で核燃料物質充填領域の上方に形成されるガスプレナムの長さが、燃料棒17内のガスプレナムの長さよりも短くなり、結果的に、燃料棒18の軸方向の長さが燃料棒17のそれよりも短くなる。なお、実施例1においても、イナートマトリックス燃料集合体8内の燃料棒11は、内側炉心燃料集合体6及び外側炉心燃料集合体7内の各燃料棒よりも軸方向の長さが短くなる。
【0043】
内側炉心燃料集合体6A及び外側炉心燃料集合体7Aは、内側炉心燃料集合体6及び外側炉心燃料集合体7と同様に、各燃料棒の下端とエントランスノズルの上端の間でラッパ管12内に下部放射線遮へい体(図示せず)を設けており、各燃料棒の上端より上方でラッパ管12内に上部放射線遮へい体(図示せず)を設けている。
【0044】
内側炉心燃料集合体6A内の燃料棒17と燃料棒18の合計本数は、外側炉心燃料集合体7A内の燃料棒17Aと燃料棒18の合計本数と同じである。内側炉心燃料集合体6Aにおける全燃料棒の本数に対するイナートマトリックス燃料を含む燃料棒18の本数比が、外側炉心燃料集合体7Aにおける全燃料棒の本数に対するイナートマトリックス燃料を含む燃料棒18の本数比よりも大きくなっている。換言すれば、外側炉心燃料集合体7Aにおけるその本数比が、内側炉心燃料集合体6Aにおけるその本数比よりも小さくなっている。内側炉心燃料集合体6A及び外側炉心燃料集合体7AのPu富化度は、共に、13.3wt%である。
【0045】
本実施例では、内側炉心燃料集合体6Aにおける全燃料棒の本数に対する燃料棒18の本数比が、外側炉心燃料集合体7Aにおける全燃料棒の本数に対する燃料棒18の本数比よりも大きくなっているので、炉心1Aの半径方向における出力分布が平坦化され、炉心1Aの半径方向における平均燃焼度も平坦化される。
【0046】
本実施例は実施例1で生じる各効果を得ることができる。実施例1では、炉心の半径方向における出力分布は、MOX燃料を含んでいないイナートマトリックス燃料集合体8が配置された位置で局所的に低下する。本実施例では、内側炉心燃料集合体6A及び外側炉心燃料集合体7AがMOX燃料を充填した燃料棒17を含んでおり、内側炉心燃料集合体6A及び外側炉心燃料集合体7Aにおけるイナートマトリックス燃料を充填した燃料棒18の本数がイナートマトリックス燃料集合体8における燃料棒11の本数よりも少なくなっているため、実施例1のように、炉心の半径方向の出力分布が局所的に低下することを抑制でき、実施例1よりも、超ウラン元素の短半減期の放射性核種への核変換割合がさらに増大する。
【実施例3】
【0047】
本発明の他の好適な実施例である核燃料再処理の前処理方法を、図9を用いて説明する。
【0048】
実施例2の高速炉の炉心1Aに装荷された内側炉心燃料集合体6A及び外側炉心燃料集合体7Aは、それぞれ、寿命に到達したときに使用済燃料集合体として炉心1Aから取り出されてさらに原子炉容器外に取り出されて、再処理される。燃料棒17に充填されたMOX燃料、及び燃料棒18に充填されたイナートマトリックス燃料に含まれるTRUOXは、従来のピューレックス法で再処理を行うことができる。しかしながら、使用済の内側炉心燃料集合体6A及び使用済の外側炉心燃料集合体7Aをそのまま切断すると、全ての燃料棒18内のイナートマトリックス燃料に含まれたMgOと、全ての燃料棒17内に存在する、MgOを含まないMOX燃料が混在した状態で再処理されることになる。再処理法としてはピューレックス法または改良ピューレックス法が適用される。この場合、MgOは不純物の取り扱いとなる。MgOは、ピューレックス法で使用済核燃料を溶解する硝酸に溶けるので、核燃料物質であるTRUの回収後に廃液に移行し、廃棄物となる。
【0049】
ピューレックス法による再処理において、燃料棒17及び燃料棒18を硝酸によって溶かし、その溶液から核燃料物質であるTRUを回収する際に、イナートマトリックス燃料に含まれるMgOが全ての燃料棒17及び全ての燃料棒18を溶解した溶液に存在する場合よりも、MgOを含むイナートマトリックス燃料の溶融工程と、MgOを含まないMOX燃料の溶融工程を分離した方が、MgOを含む溶融物の全体積が少なくて済み、再処理を合理化することができる。
【0050】
このため、発明者らは、使用済の内側炉心燃料集合体6A及び外側炉心燃料集合体7Aのそれぞれを再処理する前に、これらの使用済燃料集合体において、燃料棒17と燃料棒18の長さの違いを利用して、予め、燃料棒17と燃料棒18を分離すれば良いとの考えに至った。このような考え方を適用した核燃料再処理の前処理方法を以下に説明する。
【0051】
使用済の内側炉心燃料集合体6Aに対して、まず、ラッパ管12のみを切断して取り除く。その後、前述したように、燃料棒18の軸方向の長さが燃料棒17のそれよりも短いことを利用して、ラッパ管12を除去した内側炉心燃料集合体6Aから燃料棒18を分離する。燃料棒18の分離には、図9に示す燃料棒取り外し装置19が用いられる。燃料棒取り外し装置19は、自立している支柱21、及び上下方向に移動可能に支柱21に取り付けられたアーム20を有する。支柱21は上下方向に伸びており、アーム20は支柱21に対して垂直に配置される。複数の燃料棒把持具(図示せず)がアーム20に設けられる。
【0052】
ラッパ管12が取り除かれて複数の燃料棒17及び複数の燃料棒18を支えているエントランスノズルを、燃料棒取り外し装置19の掴み装置(図示せず)で掴み、エントランスノズルで支えられた各燃料棒17及び各燃料棒18を支柱21と並行になるように上下方向に配置する。支柱21に沿ってアーム20を下降させ、アーム20に取り付けられた各燃料棒把持具によって、長さが長く、一列に配置された複数の燃料棒17の上端部をそれぞれ把持する。アーム20を上昇させることによって、各燃料棒把持具に把持された各燃料棒17が持ち上げられ、エントランスノズルから取り外される。このようなアーム20及び燃料棒把持具の操作により、列ごとに、複数の燃料棒17がエントランスノズルから取り外され、やがて、全ての燃料棒17がエントランスノズルから取り外される。エントランスノズルに支持された燃料棒は、イナートマトリックス燃料を充填した燃料棒18のみとなる。
【0053】
使用済の外側炉心燃料集合体7Aに対しても、使用済の内側炉心燃料集合体6Aと同様に、燃料棒17と燃料棒18が分離される。
【0054】
このようにして、分離された、MOX燃料を充填した燃料棒17がピューレックス法により再処理される。また、燃料棒17の再処理工程とは別の再処理工程において、イナートマトリックス燃料を充填した燃料棒18を硝酸で溶解する。イナートマトリックス燃料が溶解している硝酸溶液から核燃料物質であるTRU(Pu及びマイナーアクチニド)を回収するために、硝酸溶液に溶けたPu及びマイナーアクチニドを選択的に抽出できる抽出材を用いる。硝酸溶液に溶けたMgOは廃液側に移行し、廃棄物となる。
【0055】
本実施例によれば、使用済燃料集合体にMOX燃料を充填した燃料棒17及びイナートマトリックス燃料を充填した燃料棒18が含まれているとき、燃料棒17と燃料棒18を分離し、分離した燃料棒17に含まれたMOX燃料と分離した燃料棒18に含まれるイナートマトリックス燃料を別々に再処理するので、核燃料物質(MOX燃料及びTRUOX)の再処理を容易に行うことができる。
【0056】
以上に述べた実施例1〜3は酸化物の核燃料物質を用いて説明したが、これらの実施例は窒化物の核燃料物質に対しても適用することができる。
【符号の説明】
【0057】
1,1A…炉心、2,2A…内側炉心領域、3,3A…外側炉心領域、4…第1放射線遮へい体領域、5…第2放射線遮へい体領域、6…内側炉心燃料集合体、7…外側炉心燃料集合体、8…イナートマトリックス燃料集合体、9…ステンレス鋼放射線遮へい体、10…B4C放射線遮へい体、11,17,18…燃料棒、19…燃料棒取り外し装置、20…アーム、21…支柱。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9