(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記検査部は、前記第1の領域で前記受光部によって受光される戻り光の平均強度および前記第2の領域で前記受光部によって受光される戻り光の平均強度に基づいて、前記ワークの溶接部の溶接状態を検査するようになっている、請求項1から4のいずれか一項に記載の溶接部の検査装置。
前記第2のステップにおいて、前記第1の領域で受光された戻り光の平均強度および前記第2の領域で受光された戻り光の平均強度に基づいて、前記ワークの溶接部の溶接状態を検査する、請求項6から9のいずれか一項に記載の溶接部の検査方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されているレーザ溶接品質判定システムによれば、所定の異なる2方向からレーザ反射光と溶接光を同時に受光し、それぞれの受光信号強度と適宜に設定された閾値を比較することによって、たとえば鋼板間の隙間を埋めるために溶接ビードが窪んでしまう引け溶接(アンダーフィル)、鋼板間の隙間が過大であるために上下の鋼板同士が接合しない未接合溶接、やはり鋼板間の隙間が過大であるためにビードが陥没する落ち溶接、熱バランスの変動などに起因して突発的にビードが無くなる溶断溶接、穴あき溶接などといった多様な形態の溶接不良のいずれか一つが生じていることを判定することができる。
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示されているレーザ溶接品質判定システムにおいては、たとえばレーザトーチとワーク(鋼板)とが離間している場合に、受光されたレーザ反射光や溶接光から得られる電気信号が微弱となるため、溶接不良の判定精度が低下する可能性がある。特に、レーザ溶接時にビードが陥没する落ち溶接などにおいては、溶接不良に起因する電気信号の変化が小さくなるため、ワークの溶接不良を精緻に検出することができないといった問題が生じ得る。さらに、ワークの溶融蒸発によって生じる蒸気発光やワークの溶融池から放射される熱放射光はワーク温度に応じて変化し、受光されたレーザ反射光や溶接光から得られる電気信号およびレーザ溶接品質を判定するための閾値がワーク温度に応じて変化することが知られており、レーザ溶接時のワーク温度の変動が大きい場合には、ワークの溶接不良の判定精度が更に低下するといった問題が生じ得る。
【0007】
本発明は上記する課題に鑑みてなされたものであり、たとえばレーザトーチとワークを離間して溶接するリモート溶接において、ワークの溶接部の溶接状態を精緻に検査することができる溶接部の検査装置とその検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成すべく、本発明による溶接部の検査装置は、複数のワーク同士を溶接する際に形成される溶接部の溶接状態を検査する溶接部の検査装置であって、ワーク同士を溶接するために該ワークに設定された溶接軌跡に沿って溶接用レーザ光を照射する、もしくは、溶接用レーザ光によって溶融されたワークの溶融池に設定された走査軌跡に沿って検査用レーザ光を照射する照射部と、前記照射部によって照射された溶接用レーザ光もしくは検査用レーザ光によるワークの溶融池からの反射光、ワークの溶融蒸発によって生じる蒸気発光、およびワークの溶融池から放射される熱放射光の少なくとも一つを含む戻り光を受光する受光部と、前記ワークの溶融池内の任意の点に対して相対的に近接した第1の領域で前記受光部によって受光される戻り光の強度および前記任意の点に対して相対的に離間した第2の領域で前記受光部によって受光される戻り光の強度に基づいて、前記ワークの溶接部の溶接状態を検査する検査部と、を備えているものである。
【0009】
上記する溶接部の検査装置によれば、ワークに形成される溶融池内の任意の点に対して相対的に近接した第1の領域で受光される戻り光の強度および任意の点に対して相対的に離間した第2の領域で受光される戻り光の強度に基づいて、ワークの溶接部の溶接状態を検査することによって、たとえば照射部とワークを離間して溶接するリモート溶接において、受光部で受光される戻り光から得られる電気信号が微弱となる場合や、受光部で受光される戻り光の強度がワーク温度の変化に応じて変化する場合であっても、ワークの溶接部の溶接状態を精緻に検査することができる。
【0010】
ここで、前記検査部は、前記第1の領域で前記受光部によって受光される戻り光の強度と前記第2の領域で前記受光部によって受光される戻り光の強度の比率に基づいて、前記ワークの溶接部の溶接状態を検査することが好ましい。
【0011】
上記する溶接部の検査装置によれば、第1の領域で受光される戻り光の強度と第2の領域で受光される戻り光の強度の比率に基づいてワークの溶接部の溶接状態を検査することによって、たとえば受光部で受光される戻り光から得られる電気信号が微弱となる場合や、受光部で受光される戻り光の強度がワーク温度の変化に応じて変化する場合であっても、略一定の判定基準に基づいてワークに形成される溶接部の溶接状態を判定することができ、ワークの溶接部の溶接状態をより精緻に検査することができる。
【0012】
また、前記検査部は、前記第1の領域で前記受光部によって受光される戻り光の平均強度および前記第2の領域で前記受光部によって受光される戻り光の平均強度に基づいて、前記ワークの溶接部の溶接状態を検査することが好ましい。
【0013】
上記する溶接部の検査装置によれば、第1の領域で受光される戻り光の平均強度および第2の領域で受光される戻り光の平均強度に基づいて、ワークの溶接部の溶接状態を検査することによって、たとえば受光部で受光される戻り光の強度がワーク温度の変化や溶融池の液面の周期的な振動に応じて変化する場合であっても、略一定の判定基準に基づいてワークに形成される溶接部の溶接状態を判定することができ、ワークの溶接部の溶接状態をより一層精緻に検査することができる。
【0014】
なお、第1の領域で受光部によって受光される戻り光の平均強度とは、第1の領域で受光部によって受光される戻り光の強度の総和を、たとえば第1の領域でレーザ光が走査する長さや第1の領域の面積、第1の領域でレーザ光が走査する時間などで除して得られた単位長さ当たりや単位面積当たり、単位時間当たりの戻り光の強度である。また、第2の領域で受光部によって受光される戻り光の平均強度とは、同様に、第2の領域で受光部によって受光される戻り光の強度の総和を、たとえば第2の領域でレーザ光が走査する長さや第2の領域の面積、第2の領域でレーザ光が走査する時間などで除して得られた単位長さ当たりや単位面積当たり、単位時間当たりの戻り光の強度である。
【0015】
また、本発明による溶接部の検査方法は、複数のワーク同士を溶接する際に形成される溶接部の溶接状態を検査する溶接部の検査方法であって、ワーク同士を溶接するために該ワークに設定された溶接軌跡に沿って溶接用レーザ光を照射し、もしくは、溶接用レーザ光によって溶融されたワークの溶融池に設定された走査軌跡に沿って検査用レーザ光を照射し、前記溶接用レーザ光もしくは検査用レーザ光によるワークの溶融池からの反射光、ワークの溶融蒸発によって生じる蒸気発光、およびワークの溶融池から放射される熱放射光の少なくとも一つを含む戻り光を受光する第1のステップと、前記ワークの溶融池内の任意の点に対して相対的に近接した第1の領域で受光された戻り光の強度および前記任意の点に対して相対的に離間した第2の領域で受光された戻り光の強度に基づいて、前記ワークの溶接部の溶接状態を検査する第2のステップと、からなる方法である。
【0016】
上記する溶接部の検査方法によれば、ワークに形成される溶融池内の任意の点に対して相対的に近接した第1の領域で受光された戻り光の強度および任意の点に対して相対的に離間した第2の領域で受光された戻り光の強度に基づいて、ワークの溶接部の溶接状態を検査することによって、たとえばレーザ照射部とワークを離間して溶接するリモート溶接において、受光された戻り光から得られる電気信号が微弱となる場合や、受光される戻り光の強度がワーク温度の変化に応じて変化する場合であっても、ワークの溶接部の溶接状態を精緻に検査することができる。
【発明の効果】
【0017】
以上の説明から理解できるように、本発明の溶接部の検査装置やその検査方法によれば、複数のワーク同士を溶接する際に、ワークの溶融池内の任意の点に対して相対的に近接した第1の領域で受光された戻り光の強度および任意の点に対して相対的に離間した第2の領域で受光された戻り光の強度に基づいて、ワークの溶接部の溶接状態を検査するという簡便な構成により、たとえば戻り光から得られる電気信号が微弱となる場合や戻り光の強度がワーク温度の変化に応じて変化する場合であっても、ワークの溶接部の溶接状態を精緻に検査することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の溶接部の検査装置とその検査方法の実施の形態を説明する。
【0020】
[溶接部の検査装置の実施の形態1]
まず、
図1〜
図3を参照して、本発明の溶接部の検査装置の実施の形態1を説明する。
【0021】
図1は、本発明の溶接部の検査装置の実施の形態1の全体構成を模式的に示した全体構成図である。また、
図2は、
図1で示す検査装置の溶接用照射部による溶接用レーザ光の照射の形態を説明した上面図であり、
図3は、検査用照射部による検査用レーザ光の照射の形態を説明した上面図である。
【0022】
図1に示す検査装置100は、主に、溶接用照射部1、検査用照射部5、受光部2、変換部3、アンプ4、検査部6、およびCRT(Cathode Ray Tube)7から構成されている。
【0023】
溶接用照射部1は、重ね合わされた若しくは僅かに離間して配置された二枚のワーク(たとえば鋼板など)W1、W2同士を溶接するために、二枚のワークW1、W2に対して溶接用レーザ光(たとえば所定のレーザ波長を有するYAGレーザ)L1を照射する。具体的には、溶接用照射部1は、
図2で示すように、ワークW1に設定された半径R11を有する略円形状の溶接軌跡C11に沿って溶接用レーザ光L1の焦点F1を複数回回転させ、その溶接軌跡C11上で溶接用レーザ光L1を複数回照射する。次いで、溶接用レーザ光L1の焦点F1を溶接軌跡C11の内側へ移動させ、半径R11よりも小さい半径R12を有し且つ溶接軌跡C11と同心である略円形状の溶接軌跡C12に沿って溶接用レーザ光L1の焦点F1を複数回回転させ、その溶接軌跡C12上で溶接用レーザ光L1を複数回照射する。このような溶接用レーザ光L1の照射工程を繰り返すことによって、ワークW1、W2に略円形状の溶接部を形成してワークW1、W2同士を溶接接合する(Laser Screw Weldingともいう)。なお、溶接軌跡C11や溶接軌跡C12の中心C0が、ワークW1、W2に形成される溶接部の溶接中心となる。
【0024】
ここで、溶接用照射部1による溶接用レーザ光L1の照射によって、溶接用レーザ光L1の進行方向に対して当該溶接用レーザ光L1の左右や後方には、ワークW1、W2が溶融された溶融池Y1が形成される。本実施の形態1では、上記するように略円形状の溶接軌跡C1、C2に沿って溶接用レーザ光L1が照射されるため、ワークW1、W2に略円形状の溶融池Y1が形成されることとなる。
【0025】
検査用照射部5は、
図1で示すように、光学系8と受光部2を介してその溶融状態の溶融池Y1に対して検査用レーザ光L5を照射する。具体的には、検査用照射部5は、
図3で示すように、溶融池Y1の外縁の内側に設定された半径R51を有する略円形状の走査軌跡C51に沿って検査用レーザ光L5の焦点F5を略一定速度で複数回回転させ、その走査軌跡C51上で検査用レーザ光L5を複数回照射する。次いで、検査用レーザ光L5の焦点F5を走査軌跡C51の内側へ移動させ、半径R51よりも小さい半径R52を有し且つ走査軌跡C51と同心である略円形状の走査軌跡C52に沿って検査用レーザ光L5の焦点F5を複数回回転させ、その走査軌跡C52上で検査用レーザ光L5を複数回照射する。このような検査用レーザ光L5の照射工程を繰り返すことによって、検査用照射部5は、ワークW1、W2に形成された略円形状の溶融池Y1全体に検査用レーザ光L5を照射する。なお、走査軌跡C51、C52の中心は、たとえば上記する溶接軌跡C11、C12の溶接中心C0に設定されている。
【0026】
受光部2は、
図1で示すように、検査用照射部5から溶融池Y1に対して検査用レーザ光L5を照射しながら、検査用レーザ光L5によるワークW1、W2の溶融池Y1からの反射光やワークW1、W2の溶融蒸発によって生じる蒸気発光(プラズマ光)、ワークW1、W2の溶融池Y1から放射される熱放射光(赤外光)などを含む戻り光L2を受光する。
【0027】
変換部3は、受光部2で受光され、光学系8と集光レンズ9を介して集光された戻り光L2を電気信号へ変換し、その電気信号をアンプ4へ出力する。アンプ4は、変換部3から出力された電気信号の信号強度を増幅して検査部6へ送信する。
【0028】
検査部6は、アンプ4から送信された電気信号を信号処理してワークW1、W2に形成される溶接部の溶接状態を検査する。具体的には、検査部6は、溶融池Y1の外縁の内側の溶接中心C0に対して相対的に近接した領域(たとえば走査軌跡C52上であって、溶接中心C0に対して相対的に内側の軌跡)で受光部2によって受光された戻り光L2の平均強度と溶接中心C0に対して相対的に離間した領域(たとえば走査軌跡C51上であって、溶接中心C0に対して相対的に外側の軌跡)で受光部2によって受光された戻り光L2の平均強度を算出し、双方の戻り光L2の平均強度の比率に基づいてワークW1、W2に形成される溶接部の溶接状態を検査する。また、検査部6は、アンプ4から送信された電気信号の信号処理結果をCRT7へ送信し、CRT7は検査部6から送信された信号処理結果を表示する。
【0029】
[溶接部の検査方法の実施の形態1]
次に、
図4〜
図9を参照して、
図1で示す溶接部の検査装置100を用いた本発明の溶接部の検査方法の実施の形態1を説明する。
【0030】
図4は、
図1で示す検査装置100の検査部6へ送信される戻り光の強度の一例を時系列で示した図である。また、
図5Aは、溶接部の溶接状態が正常である場合の溶融池と検査用レーザ光の焦点および走査軌跡の関係の一例を説明した上面図であり、
図5Bは、
図5AのA5−A5矢視図である。また、
図6Aは、溶接部の溶接状態が正常である場合の溶融池と検査用レーザ光の焦点および走査軌跡の関係の他例を説明した上面図であり、
図6Bは、
図6AのA6−A6矢視図である。また、
図7Aは、溶接部の溶接状態が不良である場合の溶融池と検査用レーザ光の焦点および走査軌跡の関係の一例を説明した上面図であり、
図7Bは、
図7AのA7−A7矢視図である。また、
図8Aは、溶接部の溶接状態が不良である場合の溶融池と検査用レーザ光の焦点および走査軌跡の関係の他例を説明した上面図であり、
図8Bは、
図8AのA8−A8矢視図である。また、
図9は、溶接部の溶接状態が正常である場合と溶接部の溶接状態が不良である場合の戻り光の平均強度の比率の一例を示した図である。
【0031】
溶接部の溶接状態が正常である場合(ワークW1、W2同士が正常に溶接される場合)、溶融池Y1に設定された略円形状の走査軌跡C51に沿って検査用レーザ光L5の焦点F5を複数回回転させ、その走査軌跡C51上で検査用レーザ光L5を複数回照射した場合(
図5Aおよび
図5B参照)と走査軌跡C51よりも小さい半径を有する略円形状の走査軌跡C52に沿って検査用レーザ光L5の焦点F5を複数回回転させ、その走査軌跡C52上で検査用レーザ光L5を複数回照射した場合(
図6Aおよび
図6B参照)を比較すると、ワーク温度の上昇などに起因して、走査軌跡C52上で検査用レーザ光L5を照射した場合の方が戻り光L2の強度が大きくなる。そのため、
図4の点線で示すように、走査軌跡C51上で検査用レーザ光L5を照射した場合(
図4中、丸1区間)よりも、走査軌跡C51に引き続いて走査軌跡C52上で検査用レーザ光L5を照射した場合(
図4中、丸2区間)の方が、受光部2によって受光され、変換部3やアンプ4を介して検査部6へ送信される戻り光L2の強度が大きくなる。
【0032】
一方で、溶接部の溶接状態が不良である場合(たとえば双方のワークが溶け落ちた穴あき溶接の場合)には、溶融池Y1に設定された走査軌跡と溶接不良部X1の位置関係によって、検査用照射部5から照射される検査用レーザ光L5の一部もしくは全部がワークW1やワークW2を通過し(
図8B参照)、ワーク温度の上昇が抑制される。そのため、
図4の実線で示すように、溶融池Y1に設定された略円形状の走査軌跡C51に沿って検査用レーザ光L5の焦点F5を複数回回転させ、その走査軌跡C51上で検査用レーザ光L5を複数回照射した場合(
図7Aおよび
図7B参照)(
図4中、丸1区間)には、検査部6へ送信される戻り光L2の強度が溶接部の溶接状態が正常である場合の戻り光L2の強度と同等であるにも関わらず、たとえば走査軌跡C51よりも小さい半径を有する略円形状の走査軌跡C52に沿って検査用レーザ光L5の焦点F5を複数回回転させ、その走査軌跡C52上で検査用レーザ光L5を複数回照射した場合(
図8Aおよび
図8B参照)(
図4中、丸2区間)には、検査部6へ送信される戻り光L2の強度が溶接部の溶接状態が正常である場合の戻り光の強度よりも低下する。
【0033】
実施の形態1の検査方法によれば、
図4で示す丸1区間(溶融池Y1内の溶接中心C0に対して相対的に離間した領域)で受光部2によって受光された戻り光L2の強度やその平均強度と丸2区間(溶融池Y1内の溶接中心C0に対して相対的に近接した領域)で受光部2によって受光された戻り光L2の強度やその平均強度とを検査部6で比較することによって、たとえば戻り光L2から得られる電気信号が微弱となる場合や戻り光L2の強度がワーク温度の変化に応じて変化する場合であっても、溶融池Y1の外縁の内側に溶接不良部X1が存在するか否か、すなわちワークW1、W2に形成される溶接部に溶接不良が発生するか否かを検査することができる。より具体的には、
図4で示す丸1区間で受光部2によって受光された戻り光L2の平均強度と丸2区間で受光部2によって受光された戻り光L2の平均強度を算出し、
図9で示すように、算出された双方の平均強度の比率(たとえば丸2区間/丸1区間)を所定の閾値と比較することによって、溶融池Y1の外縁の内側に溶接不良部X1が存在するか否か、すなわちワークW1、W2に形成される溶接部に溶接不良が発生するか否かを検査することができる。
【0034】
特に、本実施の形態1では、溶融池Y1に対して略円形状の走査軌跡C51、C52に沿って検査用レーザ光L5が照射されるため、溶融池Y1内の溶接中心C0近傍に略円形状の溶接不良部X1が存在するか否かを精緻に検査することができる。
【0035】
また、本実施の形態1によれば、溶接用レーザ光L1の照射によって形成される溶融池Y1に設定された走査軌跡C51、C52に沿って検査用レーザ光L5を照射し、受光部2によって受光された戻り光L2の強度に基づいて溶接部の溶接状態を検査することにより、たとえば溶接用レーザ光の焦点位置と溶接不良部X1の発生位置が離間する場合であっても、検査用レーザ光L5の走査条件(走査軌跡など)を適宜調整することができるため、ワークに形成される溶接部の溶接状態を精緻に検査することができる。
【0036】
なお、
図4中の実線の丸1区間や点線の丸2区間における戻り光L2の強度の周期的な変動は、たとえば溶接用レーザ光L1の照射によってワークW1、W2に形成される溶融池Y1の液面の周期的な振動に起因すると考えられる。また、
図4中の実線の丸2区間では、検査用照射部5から照射される検査用レーザ光L5の一部もしくは全部がワークW1、W2を通過したため、戻り光L2の強度に周期的な変動が発生しなかったと考えられる。
【0037】
[溶接部の検査装置の実施の形態2]
次に、
図10を参照して、本発明の溶接部の検査装置の実施の形態2を説明する。
【0038】
図10は、本発明の溶接部の検査装置の実施の形態2の全体構成を模式的に示した全体構成図である。
図10で示す実施の形態2の検査装置100Aは、
図1で示す実施の形態1の検査装置100に対して、溶接用照射部から照射される溶接用レーザ光による反射光を用いて溶接部の溶接状態を検査する点が相違しており、その他の構成は実施の形態1の検査装置100とほぼ同様である。したがって、実施の形態1と同様の構成については、同様の符号を付してその詳細な説明は省略する。
【0039】
図示する検査装置100Aは、主に、溶接用照射部1A、受光部2A、変換部3A、アンプ4A、検査部6A、およびCRT7Aから構成されている。
【0040】
溶接用照射部1Aは、重ね合わされた若しくは僅かに離間して配置された二枚のワークW1、W2同士を溶接するために、光学系8Aと受光部2Aを介して二枚のワークW1、W2に対して溶接用レーザ光L1Aを照射する。溶接用照射部1Aによる溶接用レーザ光L1Aの照射によって、溶接用レーザ光L1Aの進行方向に対して当該溶接用レーザ光L1Aの左右や後方には、ワークW1、W2が溶融された溶融池Y1が形成される。
【0041】
受光部2Aは、溶接用照射部1Aから照射される溶接用レーザ光L1AによるワークW1、W2の溶融池Y1からの反射光やワークW1、W2の溶融蒸発によって生じる蒸気発光(プラズマ光)、ワークW1、W2の溶融池Y1から放射される熱放射光(赤外光)などを含む戻り光L2Aを受光する。
【0042】
変換部3Aは、受光部2Aで受光され、光学系8Aと集光レンズ9Aを介して集光された戻り光L2Aを電気信号へ変換し、その電気信号をアンプ4Aへ出力する。アンプ4Aは、変換部3Aから出力された電気信号の信号強度を増幅して検査部6Aへ送信する。
【0043】
検査部6Aは、アンプ4Aから送信された電気信号を信号処理してワークW1、W2に形成される溶接部の溶接状態を検査する。具体的には、検査部6Aは、溶融池Y1の外縁の内側の溶接中心C0に対して相対的に近接した領域で受光部2Aによって受光された戻り光L2Aの平均強度と溶接中心C0に対して相対的に離間した領域で受光部2Aによって受光された戻り光L2Aの平均強度を算出し、双方の戻り光L2Aの平均強度の比率に基づいてワークW1、W2に形成される溶接部の溶接状態を検査する。また、検査部6Aは、アンプ4Aから送信された電気信号の信号処理結果をCRT7Aへ送信し、CRT7Aは検査部6Aから送信されたその信号処理結果を表示する。
【0044】
溶接部の溶接状態が不良である場合、すなわち溶融池Y1内に溶接不良部X1が形成される場合(たとえば穴あき溶接の場合)には、たとえばワークW1、W2に対して溶接用照射部1Aから溶接用レーザ光L1Aを照射する際に当該溶接用レーザ光L1Aの一部がワークW1やワークW2を通過したり、ワークW1、W2の一部が欠落し、ワーク温度の上昇が抑制されるため、上記する実施の形態1と同様、検査部6Aへ送信される戻り光L2Aの強度が溶接部の溶接状態が正常である場合の戻り光の強度よりも低下する。そのため、本実施の形態2によれば、溶融池Y1内の溶接中心C0に対して相対的に近接した領域で受光された戻り光L2Aの平均強度と溶接中心C0に対して相対的に離間した領域で受光された戻り光L2Aの平均強度を検査部6Aで比較することによって、上記する実施の形態1と同様、たとえば戻り光L2Aから得られる電気信号が微弱となる場合や戻り光L2Aの強度がワーク温度の変化に応じて変化する場合であっても、溶融池Y1の外縁の内側に溶接不良部X1が形成されるか否か、すなわちワークW1、W2に形成される溶接部に溶接不良が発生するか否かを検査することができる。
【0045】
なお、上記する実施の形態1では、検査用レーザ光の走査軌跡の中心が溶接用レーザ光の溶接軌跡の溶接中心に設定される形態について説明したが、検査用レーザ光の走査軌跡の中心は、溶接用レーザ光の照射によって形成される溶融池内(溶融池の外縁の内側)の適宜の位置に設定することができる。
【0046】
また、上記する実施の形態では、溶接用レーザ光の溶接軌跡や検査用レーザ光の走査軌跡が略円形状である形態について説明したが、溶接用レーザ光の溶接軌跡や検査用レーザ光の走査軌跡は、たとえば楕円形状や多角形状の閉ループ形状、渦巻き形状などであってもよい。また、溶接部の溶接不良が発生し易い箇所を予測し得る場合には、溶接用レーザ光の溶接軌跡や検査用レーザ光の走査軌跡は、その箇所を通過するように設定することが好ましい。なお、溶接用レーザ光の溶接軌跡が略円形状である場合には、溶接中心はその溶接軌跡の中心であり、溶接用レーザ光の溶接軌跡が楕円形状や多角形状の閉ループ形状である場合には、溶接中心は例えば溶接軌跡の重心などとすることができ、溶接用レーザ光の溶接軌跡が渦巻き形状である場合には、溶接中心は溶接軌跡の渦巻きの中心とすることができる。
【0047】
また、上記する実施の形態では、溶融池内の溶接中心に対して相対的に近接した領域で受光された戻り光の強度と溶接中心に対して相対的に離間した領域で受光された戻り光の強度を比較する形態について説明したが、戻り光の強度を比較するための基準点は、溶接用レーザ光の照射によって形成される溶融池内の適宜の位置に設定することができる。
【0048】
また、上記する実施の形態では、主に溶融池内の溶接中心に対して相対的に近接した領域で受光された戻り光の平均強度と溶接中心に対して相対的に離間した領域で受光された戻り光の平均強度を比較する形態について説明したが、たとえば溶融池内の溶接中心に対して相対的に近接した領域で受光された戻り光の強度の一部と溶接中心に対して相対的に離間した領域で受光された戻り光の強度の一部同士を比較してもよい。
【0049】
また、上記する実施の形態では、所定位置に固定したワークに溶接用レーザ光や検査用レーザ光を照射する形態について説明したが、たとえば溶接用レーザ光や検査用レーザ光の焦点位置を固定してワークを適宜移動させながらワーク同士をレーザ溶接してもよいし、ワークと溶接用レーザ光や検査用レーザ光の焦点位置との双方を相対的に移動させながらワーク同士をレーザ溶接してもよい。
【0050】
[検査用試料による戻り光の平均強度の比率と溶接部の溶接状態の関係を評価した実験とその結果]
本発明者等は、溶接状態が異なる2種類の検査用試料(実施例1、2)を作製し、それぞれの検査用試料からの戻り光の強度測定を実施し、戻り光の平均強度の比率と溶接部の溶接状態の関係を評価した。
【0051】
<検査用試料の作製方法と検査用試料による戻り光の強度の測定方法>
まず、検査用試料の作製方法と検査用試料による戻り光の強度の測定方法を概説すると、厚さが0.7mmのSCGA440からなる二枚のワークを重ね合わせ、半径が約2.5mmの略円形状の溶接部が形成されるように、ワークに対して溶接用レーザ光を略円形状の溶接軌跡に沿って照射した。次いで、ワークに形成された溶融池を通過するように、検査用レーザ光(出力が1000Wで走査速度が90m/min)を半径が約1.7mmの略円形状(溶接中心を中心とする)の走査軌跡に沿って10周回照射した。次に、その検査用レーザ光の焦点を約1.4mmだけ移動させ、その検査用レーザ光を半径が約0.3mmの略円形状(溶接中心を中心とする)の走査軌跡に沿って10周回照射した。そして、検査用レーザ光によるワークの溶融池からの反射光やワークの溶融蒸発によって生じる蒸気発光、ワークの溶融池から放射される熱放射光などを含む戻り光を受光し、受光された戻り光を電気信号へ変換してその信号強度を測定した。なお、本実験では、戻り光のうち特にワークの溶融池から放射される熱放射光(赤外光)の信号強度を測定した。
【0052】
<検査用試料による戻り光の平均強度の比率と溶接部の溶接状態の関係を評価した結果>
図11Aは、検査用試料による実施例1の溶接部を拡大して示した上面図であり、
図11Bは、
図11AのA11−A11矢視図であり、
図11Cは、検査用試料による実施例1の戻り光の強度を時系列で示した図である。また、
図12Aは、検査用試料による実施例2の溶接部を拡大して示した上面図であり、
図12Bは、
図12AのA12−A12矢視図であり、
図12Cは、検査用試料による実施例2の戻り光の強度を時系列で示した図である。
【0053】
図11A〜
図11Cで示すように、実施例1(溶接状態が正常)の検査用試料では、半径が約1.7mmの走査軌跡に沿って検査用レーザ光を照射した区間(約0.44〜約0.46sec)R1で測定された戻り光の強度よりも、半径が約0.3mmの走査軌跡に沿って検査用レーザ光を照射した区間(約0.58〜約0.60sec)R2で測定された戻り光の強度が相対的に大きいことが確認された。また、実施例1の検査用試料では、区間R2で測定された戻り光の強度が周期的な変動を含んでいることが確認された。
【0054】
一方、
図12A〜
図12Cで示すように、実施例2(二枚のワークの双方が溶け落ちた穴あき溶接)の検査用試料では、半径が約1.7mmの走査軌跡に沿って検査用レーザ光を照射した区間(約0.44〜約0.46sec)R1で測定された戻り光の強度と半径が約0.3mmの走査軌跡に沿って検査用レーザ光を照射した区間(約0.58〜約0.60sec)R2で測定された戻り光の強度が同等であることが確認された。すなわち、実施例2の検査用試料では、実施例1の検査用試料と比較して、区間R2で測定された戻り光の強度が相対的に小さいことが確認された。また、実施例2の検査用試料では、区間R1で測定された戻り光の強度が周期的な変動を含んでいるものの、区間R2で測定された戻り光の強度が周期的な変動をほぼ含んでいないことが確認された。
【0055】
図13は、検査用試料による実施例1、2の戻り光の平均強度の比率を示した図である。ここで、検査用試料による実施例1、2の戻り光の平均強度の比率は、半径が約0.3mmの走査軌跡に沿って検査用レーザ光を照射した区間(約0.58〜約0.60sec)R2で測定された戻り光の平均強度(単位時間当たりの戻り光の強度)を半径が約1.7mmの走査軌跡に沿って検査用レーザ光を照射した区間(約0.44〜約0.46sec)R1で測定された戻り光の平均強度(単位時間当たりの戻り光の強度)で除して算出した。なお、
図13では、実施例1、2のそれぞれに対して10個の検査用試料を作製し、それぞれの検査用試料について算出した戻り光の平均強度の比率を示している。
【0056】
図13で示すように、実施例1(溶接状態が正常)の10個の検査用試料と実施例2(穴あき溶接)の10個の検査用試料はそれぞれ、溶接部の溶接状態に応じた略同一の平均強度の比率を有していることが確認されるとともに、実施例1の検査用試料の戻り光の平均強度の比率は、実施例2の検査用試料の戻り光の平均強度の比率よりも相対的に大きいことが確認された。
【0057】
この実験結果より、溶融池内の溶接中心に対して相対的に近接した領域(区間R2に対応)で受光された戻り光の平均強度と溶接中心に対して相対的に離間した領域(区間R1に対応)で受光された戻り光の平均強度を算出し、双方の平均強度の比率を所定の閾値と比較するという簡便な方法によって、たとえば受光部で受光される戻り光の強度がワーク温度の変化(たとえば溶接時のワーク温度の上昇や外気温の変化によるワーク温度の変化)に応じて変化する場合や受光部で受光される戻り光の強度が溶融池の液面の周期的な振動に応じて変化する場合であっても、溶接中心近傍の穴あき溶接や片落ち溶接などの溶接不良を含む溶接部の溶接状態を精緻に検査できることが実証された。
【0058】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。