特許第5947769号(P5947769)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5947769
(24)【登録日】2016年6月10日
(45)【発行日】2016年7月6日
(54)【発明の名称】2液型水系塗料組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 175/04 20060101AFI20160623BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20160623BHJP
【FI】
   C09D175/04
   C09D5/02
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-200953(P2013-200953)
(22)【出願日】2013年9月27日
(65)【公開番号】特開2014-80607(P2014-80607A)
(43)【公開日】2014年5月8日
【審査請求日】2015年3月18日
(31)【優先権主張番号】特願2012-215834(P2012-215834)
(32)【優先日】2012年9月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000103976
【氏名又は名称】オリジン電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】可兒 聡
【審査官】 増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−284480(JP,A)
【文献】 特開平09−328654(JP,A)
【文献】 特開2012−173728(JP,A)
【文献】 特開2006−257367(JP,A)
【文献】 特開2006−282959(JP,A)
【文献】 特開平02−024373(JP,A)
【文献】 特開2004−002749(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 175/04
C09D 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主樹脂、かつ、分散質としてアクリルポリオール樹脂、助剤としてアルコール及び分散媒として水を含有する第一液と、
硬化剤としてポリイソシアネート樹脂を含有する第二液と、を含有し、
前記アルコールは、オクタノール/水分配係数が3.00未満である第1級アルコール、オクタノール/水分配係数が3.47未満である第2級アルコール、又は第3級アルコールのうち少なくとも一種であり、
前記アクリルポリオール樹脂の酸価は、10〜25mgKOH/gであり、
前記アクリルポリオール樹脂が有する水酸基のモル当量1に対する前記ポリイソシアネート樹脂が有するイソシアネート基のモル当量が1.5〜3であり、
前記第一液と前記第二液とを混合して硬化反応を進めることを特徴とする2液型水系塗料組成物。
【請求項2】
前記アルコールの沸点は、170℃以下であることを特徴とする請求項1に記載の2液型水系塗料組成物。
【請求項3】
前記アクリルポリオール樹脂は、コロイダルディスパージョンタイプであることを特徴とする請求項1又は2に記載の2液型水系塗料組成物。
【請求項4】
前記コロイダルディスパージョンタイプのアクリルポリオール樹脂は、乳化剤を使用せず、ポリマー粒子そのものに親水性を付与して、水に分散させた樹脂であることを特徴とする請求項3に記載の2液型水系塗料組成物。
【請求項5】
前記第3級アルコールのオクタノール/水分配係数が0.4以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の2液型水系塗料組成物。
【請求項6】
前記アルコールは、前記ポリイソシアネート樹脂の水への分散性を補助する助剤、前記2液型水系塗料組成物のポットライフを延長させるための助剤又は前記第一液の粘度を調整する助剤の少なくともいずれか一つとして作用することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一つに記載の2液型水系塗料組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポットライフ性に優れた2液型水系塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
VOC(volatile organic compounds)は、大気汚染の一因と考えられており、排出量の抑制が求められている。VOC排出抑制対策の一つとして、溶剤系塗料から水系塗料への切替えが行われている。2液型水系塗料は、例えば、主剤として水酸基を有するポリオール樹脂と硬化剤としてイソシアネート基を有するイソシアネート樹脂とを混合する塗料が知られている(例えば、特許文献1を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−284480号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
イソシアネート基は、水分子に対して高い反応性を有する。このため、水系塗料では、イソシアネート樹脂が、ポリオール樹脂と十分に反応せず、十分な塗膜物性が得られない場合があった。また、イソシアネート樹脂と水との反応によって、塗料が増粘し、可使時間(ポットライフ)が短くなる傾向にあった。
【0005】
本発明の目的は、溶剤系塗料と同等の塗膜物性を有し、かつ、ポットライフ性に優れた2液型水系塗料組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る2液型水系塗料組成物は、主樹脂、かつ、分散質としてアクリルポリオール樹脂、助剤としてアルコール及び分散媒として水を含有する第一液と、硬化剤としてポリイソシアネート樹脂を含有する第二液と、を含有し、前記アルコールは、オクタノール/水分配係数が3.00未満である第1級アルコール、オクタノール/水分配係数が3.47未満である第2級アルコール、又は第3級アルコールのうち少なくとも一種であり、前記アクリルポリオール樹脂の酸価は、10〜25mgKOH/gであり、前記アクリルポリオール樹脂が有する水酸基のモル当量1に対する前記ポリイソシアネート樹脂が有するイソシアネート基のモル当量が1.5〜3であり、前記第一液と前記第二液とを混合して硬化反応を進めることを特徴とする。
【0007】
本発明に係る2液型水系塗料組成物では、前記アルコールの沸点は、170℃以下であることが好ましい。
【0008】
本発明に係る2液型水系塗料組成物では、前記アクリルポリオール樹脂は、コロイダルディスパージョンタイプであることが好ましい。貯蔵安定性を更に延長することができる。また、得られる塗膜の平滑性をより向上することができる。
【0009】
本発明に係る2液型水系塗料組成物では、前記コロイダルディスパージョンタイプのアクリルポリオール樹脂は、乳化剤を使用せず、ポリマー粒子そのものに親水性を付与して、水に分散させた樹脂である形態を包含する。
【0010】
本発明に係る2液型水系塗料組成物では、前記第3級アルコールのオクタノール/水分配係数が0.4以下であることが好ましい。
【0011】
本発明に係る2液型水系塗料組成物では、前記アルコールは、前記ポリイソシアネート樹脂の水への分散性を補助する助剤、前記2液型水系塗料組成物のポットライフを延長させるための助剤又は前記第一液の粘度を調整する助剤の少なくともいずれか一つとして作用することが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、溶剤系塗料と同等の塗膜物性を有し、かつ、ポットライフ性に優れた2液型水系塗料組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に説明する実施形態は本発明の実施例であり、本発明は、以下の実施形態に制限されるものではない。本発明の効果を奏する限り、種々の形態変更をしてもよい。
【0014】
本実施形態に係る2液型水系塗料組成物は、主樹脂、かつ、分散質としてアクリルポリオール樹脂、助剤としてアルコール及び分散媒として水を含有する第一液と、硬化剤としてポリイソシアネート樹脂を含有する第二液と、を含有し、前記アルコールは、オクタノール/水分配係数が3.00未満である第1級アルコール、オクタノール/水分配係数が3.47未満である第2級アルコール、又は第3級アルコールのうち少なくとも一種であり、前記第一液と前記第二液とを混合して硬化反応を進める。
【0015】
第一液は、主樹脂としてアクリルポリオール樹脂、助剤としてアルコール及び分散媒として水を含有する。
【0016】
主樹脂としてのアクリルポリオール樹脂は、分子中に水酸基を有するアクリル樹脂である。アクリルポリオール樹脂は、例えば、水酸基含有アクリル単量体とその他のアクリル系又は非アクリル系ビニル単量体との共重合体である。また、水酸基含有アクリル単量体の重合体を包含する。水酸基含有アクリルモノマーは、例えば、2‐ヒドロキシエチルアクリレート、2‐ヒドロキシプロピルアクリレート、4‐ヒドロキシブチルアクリレート、2‐ヒドロキシエチルメタクリレート、2‐ヒドロキシプロピルメタクリレート、4‐ヒドロキシブチルメタクリレートなどの水酸基を有するモノマー類、2‐ヒドロキシエチルメタクリレートへのγ‐ブチロラクトンの開環付加物、2‐ヒドロキシエチルアクリレートへのε‐カプロラクトンの開環付加物である。
【0017】
その他のアクリル系又は非アクリル系ビニル単量体は、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n‐ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、t‐ブチルアクリレート、n‐アミルアクリレート、イソアミルアクリレート、n‐ヘキシルアクリレート、2‐エチルヘキシルアクリレート、n‐オクチルアクリレート、デシルアクリレート、ドデシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、イソボルニルアクリレート、ステアリルアクリレートなどのアクリル酸エステル、メチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、n‐ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、t‐ブチルメタクリレート、n‐アミルメタクリレート、n‐ヘキシルメタクリレート、n‐オクチルメタクリレート、2‐エチルヘキシルメタクリレート、デシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、ステアリルメタクリレートなどのメタクリル酸エステル、アクリル酸、メタクリル酸などのカルボキシル基含有モノマー、スチレン、α‐メチルスチレン、ビニルトルエン、パラメチルスチレン、クロロスチレンなどのスチレン誘導体、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル、塩化ビニル、塩化ビニリデンなどのハロゲン化ビニルモノマー、アクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、N‐メチロールアクリルアミド、アクリロニトリル、メタクリルアミド、メタクリロニトリルなどの窒素含有ビニル系モノマーである。これらは、任意の1種を単独で、又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。本実施形態は、モノマーの種類及び重合方法に制限されない。
【0018】
アクリルポリオール樹脂は、コロイダルディスパージョンタイプであることが好ましい。コロイダルディスパージョンタイプとすることで、貯蔵安定性を更に延長することができる。また、得られる塗膜の平滑性をより向上することができる。本明細書において、コロイダルディスパージョンタイプとは、乳化剤を使用せず、ポリマー粒子そのものに親水性を付与して、水に分散させたものであり、水溶液とエマルションとの中間状態にあるものをいう。その外観は、半透明〜乳白色である。また、コロイダルディスパージョンタイプのアクリルポリオール樹脂では、平均粒子径が、10nm以上200nm以下であることが好ましい。より好ましくは、50nm以上170nm以下であり、特に好ましくは100nm以上160nm以下である。平均粒子径が10nm未満では、得られる塗膜の耐水性が劣る場合がある。200nmを超えると、貯蔵安定性が劣る場合がある。また、得られる塗膜の平滑性が劣る場合がある。本明細書において、平均粒子径とは、レーザ回折法で測定したメディアン径をいう。また、コロイダルディスパージョンタイプのアクリルポリオール樹脂では、数平均分子量(Mn)が、1,000〜1,000,000であることが好ましく、2,000〜50,000であることがより好ましい。
【0019】
アクリルポリオール樹脂の数平均分子量(Mn)は、1,000〜1,000,000であることが好ましく、2,000〜50,000であることがより好ましく、2,000〜30,000であることが特に好ましい。アクリルポリオール樹脂のMnが1,000未満では、塗膜の強度が不足する場合がある。1,000,000を超えると、塗料の粘度が高くなりすぎて、均一な塗膜を形成できない場合がある。本明細書において、数平均分子量は、数1から求めた数値である。
(数1)Mn=(56100/OHV)・fn
数1において、OHVはJIS K 1557‐1:2007「プラスチック−ポリウレタン原料ポリオール試験方法−第1部:水酸基価の求め方」に従って求めた水酸基価である。また、fnは、1分子当たりの平均官能基数である。
【0020】
アクリルポリオール樹脂の水酸基価(OHV)は、20〜200mgKOH/gであることが好ましく、20〜150mgKOH/gであることがより好ましい。アクリルポリオール樹脂のOHVが20mgKOH/g未満では、架橋反応点が少ないため、架橋密度が小さくなり、十分な塗膜強度が得られない場合がある。その結果、基材への付着性が低下する傾向にあり、特に高湿条件下でその影響が顕著である。200mgKOH/gを超えると、架橋反応による硬化収縮が大きく、基材への付着性が劣る場合がある。本明細書において、水酸基価(OHV)は、JIS K 1557‐1:2007に従って求めた数値である。
【0021】
アクリルポリオール樹脂の酸価は、10〜35mgKOH/gであることが好ましく、15〜25mgKOH/gであることがより好ましい。アクリルポリオール樹脂の酸価が10mgKOH/g未満では、水への分散性が劣る場合がある。アクリルポリオール樹脂の酸価が35mgKOH/gを超えると、得られる塗膜の耐水性及び耐久性が劣る場合がある。
【0022】
アクリルポリオール樹脂のガラス転移点(Tg)は、20〜100℃であることが好ましく、50〜80℃であることがより好ましい。アクリルポリオール樹脂のTgは、低いほど、最低造膜温度(MFT、Minimum Film Forming Temperature)が低くなるため、乾燥温度が低温で良好な造膜性を有する傾向にある。しかし、アクリルポリオール樹脂のTgが20℃未満では、得られる塗膜の耐水性が不足する場合がある。一方、Tgが100℃を超えると、MFTが高くなるため、乾燥温度を高くしなければ、架橋反応が十分に進行せず、得られる塗膜の強度が不足する場合がある。また、乾燥温度を高くすると、ランニングコストの増加又は基材の変形が起こる場合がある。
【0023】
助剤としてのアルコールは、ポリイソシアネート樹脂の水への分散性を補助し、結果としてポリイソシアネート樹脂の水への分散状態を安定化する役割をもつ。また、アルコールは、2液型水系塗料組成物のポットライフを延長させるための助剤及び/又は前記第一液の粘度を調整する助剤として作用する場合がある。アルコールは、第1級アルコール、第2級アルコール、第3級アルコールを包含する。第1級アルコールは、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n‐プロピルアルコール、n‐ブチルアルコール、イソブチルアルコールである。第2級アルコールは、例えば、イソプロピルアルコールである。第3級アルコールは、例えば、tert‐ブチルアルコール、ダイアセトンアルコール(DAA)である。また、助剤として水酸基を含む2つ以上の官能基を有する溶剤も含有してもよい。水酸基を含む2つ以上の官能基を有する溶剤は、例えば、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルなどのエーテル基を併せ持つエーテルアルコール類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコールなどの水酸基を2つ有するグリコール類などである。
【0024】
アルコールが第1級アルコールであるとき、オクタノール/水分配係数(以降、logPowという。)は、3.00未満であることが好ましく、1.00以下であることがより好ましい。第1級アルコールのlogPowが3.00以上であると、ポットライフ性が劣る場合がある。アルコールが第2級アルコールであるとき、logPowは、3.47未満であることが好ましく、1.00以下であることがより好ましい。第1級アルコールのlogPowが3.47以上であると、ポットライフ性が劣る場合がある。アルコールが第3級アルコールであるとき、logPowに関わらずポットライフ性に優れた塗料組成物とすることができるが、0.40以下であることがより好ましく、0.10以下であることが特に好ましい。
【0025】
アルコールの沸点は、170℃以下であることが好ましく、166℃以下であることがより好ましい。アルコールの沸点が170℃を超えると、得られる塗膜の耐水性が劣る場合がある。
【0026】
アルコールの含有量は、アクリルポリオール樹脂100質量部に対して、5〜60質量部であることが好ましく、10〜50質量部であることがより好ましい。5質量部未満では、ポリイソシアネート樹脂の水への分散性を補助する効果に乏しい場合がある。また、樹脂の成膜性を補助する効果に乏しく、成膜が十分に進行せず、得られる塗膜の強度が不足する場合がある。60質量部を超えると、VOCの抑制とはいい難い。
【0027】
分散媒としての水の含有量は、アクリルポリオール樹脂100質量部に対して、50〜300質量部であることが好ましく、70〜250質量部であることがより好ましい。50質量部未満では、粘度が高くて均一な塗膜が形成できない場合がある。300質量部を超えると、固形分濃度が少ないため、効率的に塗膜を形成できない場合がある。
【0028】
第一液は、主樹脂としてのアクリルポリオール樹脂、助剤としてのアルコール及び分散媒としての水以外に、各種添加剤を含有してもよい。各種添加剤は、例えば、硬化反応を促進するための触媒、表面調整剤、潤滑剤、消泡剤、増粘剤、造膜助剤である。このうち、触媒の含有量は、アクリルポリオール樹脂100質量部に対して5質量部以下であることが好ましく、1質量部以下であることがより好ましい。5質量部を超えるとイソシアネート樹脂と水との反応も促進される場合があり、結果として塗膜の基材への付着性が劣る場合がある。また、各種添加剤の含有量の合計量は、アクリルポリオール樹脂100質量部に対して、20質量部以下であることが好ましく、5質量部以下であることがより好ましい。
【0029】
第二液は、硬化剤としてポリイソシアネート樹脂を含有する。
【0030】
硬化剤としてのポリイソシアネート樹脂は、疎水性ポリイソシアネート樹脂、親水性ポリイソシアネート樹脂を包含する。疎水性ポリイソシアネート樹脂は、分子中に親水性基を有さないイソシアネート樹脂であり、溶剤系塗料で一般的に使用されるものを使用できる。疎水性ポリイソシアネート樹脂を含有することで、耐水性の高い塗膜を得ることができる。一方、親水性ポリイソシアネート樹脂は、親水性基を有する化合物で、イソシアネート基を変性したイソシアネート樹脂である。親水性ポリイソシアネート樹脂は、親水基が導入されているため、水分散性及びポリオール樹脂との相溶性が、疎水性ポリイソシアネート樹脂よりも良好である。このため、親水性ポリイソシアネート樹脂を含有することで、高外観の塗膜を得ることができる。ポリイソシアネート樹脂として、疎水性ポリイソシアネート樹脂だけを使用する、若しくは親水性ポリイソシアネート樹脂だけを使用するか、又は疎水性ポリイソシアネート樹脂及び親水性ポリイソシアネート樹脂を併用してもよい。
【0031】
親水性ポリイソシアネート樹脂は、例えば、エチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ドデカメチレンジイソシアネート、1,6,11‐ウンデカントリイソシアネート、2,2,4‐トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2,6‐ジイソシアナトメチルカプロエート、ビス(2‐イソシアナトエチル)フマレート、ビス(2‐イソシアナトエチル)カーボネート、2‐イソシアナトエチル‐2,6‐ジイソシアナトヘキサノエートなどの脂肪族ポリイソシアネート化合物;イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ジシクロヘキシルメタン‐4,4’‐ジイソシアネート(水添MDI)、シクロヘキシレンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート(水添TDI)、ビス(2‐イソシアナトエチル)‐4‐シクロヘキセン‐1,2‐ジカルボキシレート、2,5‐ノルボルナンジイソシアネート、2,6‐ノルボルナンジイソシアネートなどの脂環式ポリイソシアネート化合物;m‐キシリレンジイソシアネート(XDI)、p‐キシリレンジイソシアネート(XDI)、α,α,α’,α’‐テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)などの芳香脂肪族ポリイソシアネート化合物;1,3‐フェニレンジイソシアネート、1,4‐フェニレンジイソシアネート、2,4‐トリレンジイソシアネート(TDI)、2,6‐トリレンジイソシアネート(TDI)、粗製TDI、2,4’ビフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、4,4’‐ビフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、4,4'‐ジイソシアナトビフェニル、3,3’‐ジメチル‐4,4’‐ジイソシアナトビフェニル、3,3’‐ジメチル‐4,4’‐ジイソシアナトジフェニルメタン、粗製MDI、1,5‐ナフチレンジイソシアネート、4,4’,4”‐トリフェニルメタントリイソシアネート、m‐イソシアナトフェニルスルホニルイソシアネート、p‐イソシアナトフェニルスルホニルイソシアネートなどの芳香族ポリイソシアネート化合物;ウレタン変性MDI、カルボジイミド変性MDI、トリヒドロカルビルホスフェート変性MDIなどの変性MDI、ウレタン変性TDI、ビウレット変性HDI、イソシアヌレート変性HDI、イソシアヌレート変性IPDIなどのポリイソシアネートの変性物である。これらは、1種だけ使用するか、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。2種の組み合わせは、例えば、変性MDIとウレタン変性TDI(イソシアネート基含有プレポリマー)との併用である。
【0032】
親水性ポリイソシアネート化合物の市販品としては、アクアネート100、アクアネート110、アクアネート200及びアクアネート210(いずれも商品名、日本ポリウレタン工業社製);バイヒジュールTPLS−2032、SUB−イソシアネートL801、バイヒジュールVPLS−2319、バイヒジュール3100、VPLS−2336及びVPLS−2150/1(いずれも商品名、住化バイエルウレタン社製);タケネートWD−720、タケネートWD−725、タケネートWD−220(いずれも商品名、三井武田ケミカル社製);レザミンD−56(商品名、大日精化工業社製)などが挙げられ、これらは1種だけで使用するか、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
疎水性ポリイソシアネート化合物は、通常溶剤系において使用されるものが好ましく、例えば、デスモジュールN3400、デスモジュールN3600、デスモジュールVPLS2294(いずれも商品名、住化バイエルウレタン社製)、タケネートD−170HN(商品名、三井武田ケミカル社製)である。これらは1種だけで用いるか、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
ポリイソシアネート樹脂の含有量は、第一液が含有する水酸基(−OH)のモル当量1に対するイソシアネート基(−NCO)のモル当量の比が1.2〜3となる量であることが好ましい。より好ましくは、1.5〜2である。ここで、第一液が含有する水酸基のモル当量は、アクリルポリオール樹脂が有する水酸基のモル当量であり、アルコールが有する水酸基のモル当量は含まない。水酸基のモル当量1に対するイソシアネート基のモル当量の比が1.2未満では、得られる塗膜の強度が不足する場合がある。3を超えると、基材に対する付着性が不足する場合がある。
【0035】
本実施形態に係る2液型水系塗料組成物は、第一液と第二液とを混合して、基材上に塗布して、硬化反応を進める。
【0036】
基材は、例えば、各種プラスチックである。プラスチックは、例えば、ポリカーボネート(PC)、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体(ABS)、ポリアセタール(POM)、ポリアミド(PA)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリプロピレン(PP)である。本発明は、基材の種類に制限されない。
【0037】
塗布方法は、特に限定されず、例えば、浸漬塗り、刷毛塗り、ロール刷毛塗り、スプレーコート、ロールコート、スピンコート、ディップコート、バーコート、フローコート、静電塗装、ダイコートである。
【0038】
硬化方法は、塗装面を加熱して硬化反応を進める方法、若しくは室温で放置して硬化反応を進める方法、又はこれらの方法を組み合わせる方法のいずれであってもよい。本発明は塗膜の硬化方法に制限されない。
【0039】
塗膜の厚さは、用途に応じて適宜設定すればよく特に限定されないが、例えば、15〜50μmであることが好ましく、20〜30μmであることが好ましい。
【実施例】
【0040】
以下、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例に何ら限定されるものではない。
【0041】
(実施例1)
コロイダルディスパージョンタイプのアクリルポリオール樹脂(バーノックWD−551,DIC社製、酸価19mgKOH/g)100質量部と、純水39.2質量部と、ダイアセトンアルコール(オクタノール/水分配係数(以降、logPowという。):−0.41、沸点:166℃)6.8質量部と、増粘剤(アデカノールUH−541VF、アデカ社製)2.0質量部とを十分に撹拌混合して第一液を得た。この第一液に、第二液として親水化ポリイソシアネート樹脂(Bayhydur3100、バイエル社製)28.0質量部を加え、ディスパーを用いて撹拌混合し、塗料組成物を得た。
【0042】
(実施例2)
実施例1において、ダイアセトンアルコール6.8質量部を、t‐ブチルアルコール(logPow:0.40、沸点:82.4℃)6.8質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして塗料組成物を得た。
【0043】
(比較例1)
実施例1において、ダイアセトンアルコール6.8質量部を、純水6.8質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして塗料組成物を得た。
【0044】
(比較例2)
実施例1において、ダイアセトンアルコール6.8質量部を、テキサノール(logPow:3.47、沸点:255〜260℃)6.8質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして塗料組成物を得た。
【0045】
得られた実施例又は比較例の塗料組成物について、次の評価を行った。
【0046】
(粘度変化率及びポットライフ性評価)
第一液と第二液とを混合した直後、1時間後、3時間後及び5時間後の塗料組成物について、それぞれ、粘度計(TVB−10M、東機産業社製)を用いて粘度を測定した。そして、混合直後の塗料組成物の粘度に対する1時間後、3時間後及び5時間後の塗料組成物の粘度の比率を粘度変化率とした。ポットライフ性の評価基準は、1時間後、3時間後及び5時間後の粘度変化率がいずれも300%以下である場合を実用レベル(○)とし、1時間後、3時間後及び5時間後の粘度変化率のうち、少なくとも一つが300%を超える場合を実用不可レベル(×)とした。評価結果を表1に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
(塗膜性能評価)
実施例又は比較例の塗料組成物について、第一液と第二液とを混合した直後、1時間後、3時間後及び5時間後の塗料組成物を用いて、それぞれ、基材(材質:ABS、寸法:縦150mm、横60mm、厚さ20mm)の表面にスプレーガンを用いて塗装した。得られた塗装面を80℃で30分静置して硬化反応を進め、厚さ25μmの塗膜を形成した。その後、室温で7日間放置し、硬化反応を完全に進行させた。得られた塗膜について、次の評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0049】
(希釈の必要性)
粘度が上昇して塗装に適さなくなった塗料組成物は、水を追加して粘度を調整したものを用いて、塗膜性能評価に記載した方法と同様に塗膜を形成した。評価基準は次のとおりである。実施例1及び実施例2は5時間後であっても希釈が不要であった。これに対して、比較例1及び比較例2は3時間以上では希釈の必要があった。
無:希釈しなくても塗装できた(実用レベル)。
有:希釈しないと塗装できないため、水で希釈した(実用不適レベル)。
【0050】
(外観)
得られた塗膜の外観を目視で確認した。評価基準は次のとおりである。
○:平滑性が良好で、実用上問題がない(実用レベル)。
×:うねりがあり、実用上問題がある(実用不適レベル)。
【0051】
(60°光沢度)
JIS K−5400:1990「塗料一般試験方法」に準じて、塗膜表面の60°光沢度を測定した。光沢度は、光沢計(型式 micro‐TRI‐gloss、BYKガードナー社製)を用いて測定した。光沢度は、値が大きいほど光沢が高いことを意味する。
【0052】
(初期付着性)
JIS K5600−5−6:1999「クロスカット法」に準じて、1mm×1mmの碁盤目状の切込みを100個入れ、粘着テープによる剥離試験を行った。評価基準についても同規格に準じて評価を行った。
○:剥離なし(実用レベル)。
×:1升以上の剥離(実用不適)。
【0053】
(耐湿付着性)
雰囲気温度50℃及び雰囲気湿度95%RHの恒温恒湿槽中に240時間静置後、粘着テープによる剥離試験を行った。試験方法並びに判定基準は初期付着性と同様である。
【0054】
(耐水付着性)
40℃の温水に240時間浸漬後、粘着テープによる剥離試験を行った。試験方法並びに判定基準は初期付着性と同様である。
【0055】
【表2】
【0056】
(実施例3)
実施例1において、ダイアセトンアルコール6.8質量部を、n‐ブチルアルコール(logPow:0.9、沸点:117℃)6.8質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして塗料組成物を得た。
【0057】
(実施例4)
実施例1において、ダイアセトンアルコール6.8質量部を、イソプロピルアルコール(logPow:0.05、沸点:82℃)6.8質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして塗料組成物を得た。
【0058】
(実施例5)
実施例1において、ダイアセトンアルコール6.8質量部を、エチレングリコールモノブチルエーテル(logPow:0.8、沸点:171℃)6.8質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして塗料組成物を得た。
【0059】
(実施例6)
実施例1の塗料組成物を、実施例6とした。
【0060】
(比較例3)
実施例1において、ダイアセトンアルコール6.8質量部を、n‐オクタノール(logPow:3.0、沸点:194℃)6.8質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして塗料組成物を得た。
【0061】
(比較例4)
実施例1において、ダイアセトンアルコール6.8質量部を、イソデカノール(logPow:3.94、沸点:215〜225℃)6.8質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして塗料組成物を得た。
【0062】
実施例3〜5及び比較例3,4の塗料組成物について、実施例1と同様に各評価を行った。評価結果を表3、表4に示す。
【0063】
【表3】
【0064】
【表4】
【0065】
ポットライフ性評価が良好であった、実施例5,6について、追加評価として耐水性の評価を行った。耐水性評価は、実施例5,6の塗料組成物であって、第一液と第二液とを混合した5時間後の塗料組成物を用いて、それぞれ、基材(材質:ABS、寸法:縦150mm、横60mm、厚さ20mm)の表面にスプレーガンを用いて塗装した。得られた塗装面を80℃で30分静置して硬化反応を進め、厚さ25μmの塗膜を形成した。その後、室温で7日間放置し、硬化反応を完全に進行させた。得られた塗膜について、60℃の温水に12時間浸漬後、試験片の外観変化を確認した。評価基準は次のとおりである。評価結果を表5に示す。
〇:異常なし
×:白化あり
【0066】
【表5】