(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
内燃機関のブローバイガスからオイルミストを分離し、分離後のガスを吸気系へ供給するとともに、分離したオイルをドレインパイプを通して内燃機関の内部へ排出するオイルミストセパレータのオイルドレイン構造において、
上記ドレインパイプの下端にオイル排出孔が該ドレインパイプの軸方向に沿って貫通形成されるとともに、このオイル排出孔を開閉する逆止弁を有し、
この逆止弁は、
上記ドレインパイプの下端よりも下方に位置し、上記オイル排出孔を下面側から開閉する弁体と、
上記ドレインパイプ内にオリフィスとなる微小間隙を介して嵌合し、かつ上記ドレインパイプの軸方向に移動可能な球形をなす弁頭部と、
上記オイル排出孔を貫通して延び、上記弁体と上記弁頭部とを連結した軸部と、
を備えてなるオイルミストセパレータのオイルドレイン構造。
上記弁頭部が上記オイル排出孔上端の着座部に着座した状態においてオイルが排出されるように、上記着座部に補助オイル排出通路が形成されている、請求項1〜3のいずれかに記載のオイルミストセパレータのオイルドレイン構造。
【背景技術】
【0002】
周知のように、内燃機関のヘッドカバーには、燃焼室からクランクケースに吹き抜けたブローバイガス中のオイルミストを分離・除去するオイルミストセパレータが設けられる。このオイルミストセパレータは、衝突板等を用いてブローバイガスからオイルミストを分離し、分離後のガスを吸気系へ供給するとともに、分離したオイルをドレインパイプを通して内燃機関の内部へ戻すようになっている。
【0003】
ここで、吸気負圧が作用するオイルミストセパレータの内部と機関内部との圧力差が大きくなると、機関内部からドレインパイプを通してオイルミストセパレータの内部へオイルが逆流したり、ブローバイガスによる吸気系へのオイルの持ち出しや吹き出しを生じるおそれがある。
【0004】
その対策として、特許文献1には、ドレインパイプの下端開口部つまりオイル排出孔を開閉する逆流防止弁を設けたオイルセパレータが開示されている。上記逆流防止弁は、ドレインパイプの外周に設けられた複数のガイド部材にスライド自在に係合する複数のアーム部材を介してドレインパイプの下端に接離可能に装着されている。
【0005】
この特許文献1では、機関停止時のように、オイルミストセパレータと機関内部との圧力差が小さいときには、オイルの自重により逆流防止弁が押し下げられてオイル排出孔が開放される一方、内燃機関の運転中には、吸気負圧により逆流防止弁が吸引されてオイル排出孔を塞ぐことでオイルの逆流が防止され、かつ、ドレインパイプ内にオイルが溜まると、オイルのヘッド圧により逆流防止弁が押し下げられてオイルが排出された後、負圧により逆流防止弁が再び吸引されてオイル排出孔が閉塞される、と記載されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1の逆流防止弁は、ドレインパイプ下端のオイル排出孔を外側つまり下側から閉塞する円板状の弁体以外には上記圧力差に応答する部材を具備しておらず、弁体自体が圧力差を受けて上方へ移動することとなる。従って、このような逆流防止弁では、開弁状態での逆流防止弁とドレインパイプの下端部との隙間が大きい場合や、オイルミストセパレータ内の吸気負圧が小さく、オイルミストセパレータ内部と機関内部との圧力差が小さい場合には、逆流防止弁が吸引されることなく自重により開かれたままとなることが懸念される。
【0007】
また、弁体に油滴が付着して逆流防止弁の自重が増加したような場合には、さらに、その開閉動作が不安定となる虞がある。
【0008】
本発明の目的は、オイルミストセパレータと機関内部との圧力差ならびに溜まったオイルの自重により所期の開閉動作が確実に得られる逆止弁を備えたオイルミストセパレータのオイルドレイン構造を提供することにある。
【発明の概要】
【0010】
本発明は、内燃機関のブローバイガスからオイルミストを分離し、分離後のガスを吸気系へ供給するとともに、分離したオイルをドレインパイプを通して内燃機関の内部へ排出するオイルミストセパレータのオイルドレイン構造において、
上記ドレインパイプの下端にオイル排出孔が該ドレインパイプの軸方向に沿って貫通形成されるとともに、このオイル排出孔を開閉する逆止弁を有し、
この逆止弁は、
上記ドレインパイプの下端よりも下方に位置し、上記オイル排出孔を下面側から開閉する弁体と、
上記ドレインパイプ内にオリフィスとなる微小間隙を介して嵌合し、かつ上記ドレインパイプの軸方向に移動可能な弁頭部と、
上記オイル排出孔を貫通して延び、上記弁体と上記弁頭部とを連結した軸部と、
を備えている。
【0011】
好ましい一つの態様では、上記弁頭部は、ドレインパイプ内で傾いたとしてもオリフィスとなる微小間隙が変化しないように球形をなしている。
【0012】
また、好ましい一つの態様では、上記ドレインパイプは、少なくとも上記弁頭部の移動範囲においては一定断面形状を有している。
【0013】
このような本発明の逆止弁においては、例えば、弁体がオイル排出孔の下端開口よりも下方に離間して逆止弁が開いている状態で、機関運転中の吸気系の負圧がオイルミストセパレータ内に作用すると、ドレインパイプ内にオリフィスとなる微小間隙を介して配置された弁頭部が吸気負圧により上方へ吸引されるために、逆止弁を閉弁方向へ確実に作動させることができる。
【0014】
つまり、ドレインパイプ内壁面と弁頭部との間には、微小間隙が存在するため、オイルミストセパレータで分離されたオイルの通流が可能である一方、機関内部の圧力とオイルミストセパレータ内部の負圧との圧力差によるオイル排出孔を通したブローバイガスの流れ(逆流)に対しては、上記微小間隙が一種のオリフィスとなり、ドレインパイプ内において弁頭部の上下の間に圧力差が生じる。この圧力差によって弁頭部が上方へ確実に付勢され、軸部を介して連結されている弁体が、オイル排出孔を下面側から閉塞する。
【0015】
なお、通常は、上記微小間隙は油滴ないし油膜によってさらに通路断面積が狭められているので、ブローバイガスが殆ど逆流しない間に逆止弁が閉作動する。
【0016】
そして、一旦閉じた状態では、オイル排出孔を閉塞している弁体にも圧力差が作用するので、閉弁状態が保持される。
【0017】
一方、この閉弁状態でドレインパイプ内にオイルが溜まり、その油面高さが上昇してくると、オイルの重力が逆止弁に下向きに作用し、いずれ逆止弁が下方へ移動して弁体がオイル排出孔を開放する。これにより、ドレインパイプ内のオイルが排出される。そして、オイルの排出後は、再び圧力差によって逆止弁が閉作動する。従って、内燃機関の運転中は、逆止弁が閉じた状態でオイルが適当量まで溜まっては逆止弁が開いてオイルが排出される、という動作を繰り返す形となり、ドレインパイプ内にオイルが過度に溜まることなく、逆止弁を概ね閉弁状態に維持することが可能となる。
【0018】
一つの態様では、上記弁頭部の密度がオイルの密度よりも低く、ドレインパイプ内に溜まったオイル中で弁頭部が浮子として機能する。従って、この場合には、オイル中で弁頭部により生じる浮力が、上記の圧力差とともに、逆止弁を上方(閉方向)へ付勢する力となる。
【0019】
なお、上記弁頭部の密度がオイルの密度よりも高い場合でも、弁頭部がオイル中にあれば、相応の浮力が生じ、自重による逆止弁を下方(開方向)へ付勢しようとする力が部分的に相殺される。
【0020】
上記のように弁頭部と弁体とが軸部を介して連結されてなる逆止弁は、軸部がオイル排出孔を貫通した状態で組み付けられる。好ましい一つの態様では、上記逆止弁は、弁頭部および弁体の一方が弾性変形可能なゴムからなり、かつ他方が合成樹脂からなり、ゴム部分を変形させつつ上記オイル排出孔に挿入される。
【0021】
また、ドレインパイプのオイル排出孔の下方に位置する弁体に油滴が付着すると、逆止弁の重力による下方(開方向)への力が増加し、所期の圧力差での閉作動が損なわれる懸念がある。好ましい一つの態様では、上記弁体の下端面が、下方へ突出した円錐面ないし湾曲面をなしており、これによって、油膜の落下が促進される。
【0022】
このように、本発明によれば、簡素な構成でありながら、機関内部からオイルミストセパレータへのドレインパイプを通したブローバイガスの逆流が確実に抑制される。従って、吸気系へのオイルの持ち出しや吹き出しが抑制される。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図示実施例により本発明を説明する。
図1に示すように、オイルミストセパレータ1は、内燃機関のシリンダヘッドの上部に取り付けられるヘッドカバーの内部に設けられており、クランク室からブローバイガスが導入されるガス導入部2と、導入されたブローバイガスからオイルミストを分離するオイルミスト分離部3と、オイルミスト分離後のガスを吸気系へ供給するガス出口部4と、分離されたオイルを内燃機関のシリンダヘッドの内部へ排出するドレインパイプ5と、を備えている。オイルミスト分離部3では、例えばブローバイガスを衝突板に衝突させることにより気液分離が行われる。ドレインパイプ5は、車両搭載状態でオイルミストセパレータ1の下壁部より概ね鉛直下方へ延びており、その下端がシリンダヘッドの内部に開放し、オイルミストセパレータ1内のオイルをシリンダヘッド内へ滴下するように構成されている。そして、このドレインパイプ5の下端部に逆止弁10が取り付けられている。
【0025】
次に、
図2〜
図5を参照して、本実施例の要部をなすドレインパイプ5及び逆止弁10を含むドレイン構造について説明する。なお、
図2は上下に移動する逆止弁10が最も下方に位置する開弁状態の断面図、
図3は逆止弁10が最も上方にある閉弁状態の断面図であり、
図4はドレインパイプ5の下端部を示す
図3のA−A線に沿う断面図である。
【0026】
ドレインパイプ5は、合成樹脂材料によりオイルミストセパレータ1の少なくとも一部と一体的に形成されるもので、オイルミストセパレータ1の下壁部より下方へ延びる円筒状の筒部6を主体としている。このドレインパイプ5の下端部内側には、下向きに凸な略円錐状の面をなす着座部7が設けられており、この着座部7の中央に、筒部6よりも小径のオイル排出孔8がドレインパイプ5の軸方向に沿って貫通形成されている。
【0027】
また、オイル排出孔8の周囲に位置する上記の着座部7には、径方向に延びる4本の補助オイル排出通路9が周方向に等間隔置きに形成されている。各補助オイル排出通路9は、径方向に延在するスリット状に形成されており、従って、着座部7は実質的に4つの円弧状部分に分割されている。
図2に示すように、後述する逆止弁10の弁頭部12が着座部7に着座している状態において、ドレインパイプ5内に溜まったオイルが補助オイル排出通路9を通してオイル排出孔8から排出可能である。
【0028】
逆止弁10は、ドレインパイプ5の下端部よりも下方に配置された円板状の弁体11と、ドレインパイプ5の筒部6内にオリフィスとなる微小間隙ΔDを隔てて嵌合した弁頭部12と、両者を一体的に連結する棒状をなす軸部13と、から構成されている。筒部6内に収容された上記弁頭部12は、上記微小間隙ΔDの存在によりドレインパイプ5の軸方向に移動可能であり、かつ軸部13は、オイル排出孔8よりも小径であって、同様に、ドレインパイプ5の軸方向に移動可能な状態でオイル排出孔8を貫通している。従って、逆止弁10は、全体として、ドレインパイプ5の軸方向つまり上下方向に所定量移動可能である。逆止弁10の下端に位置する弁体11は、逆止弁10が最も鉛直上方に位置する
図5(B)に示す閉弁状態のときに、オイル排出孔8の下端開口を閉塞・シールし、逆止弁10が下降することによって、オイル排出孔8よりも下方に離間して、このオイル排出孔8を開放するように構成されている。
【0029】
弁頭部12は、所定半径の球形をなす。本実施例では、弁頭部12は、オイル中で浮子として機能するように、オイルよりも密度が小さく設定されており、例えば合成樹脂材料により中空形状に形成されている。この弁頭部12の半径は筒部6の半径よりも微小間隙ΔD分だけ短く設定されている。また、弁頭部12は、
図2に示すように、逆止弁10が最も下方に位置する開弁状態のときに、ドレインパイプ5下端のオイル排出孔8の周縁に設けられた着座部7の上面に着座するようになっている。この開弁状態では、
図2の矢印Y1で示すように、ドレインパイプ5内に溜まっているオイルが、弁頭部12と筒部6との間の微小間隙ΔD及び補助オイル排出通路9を経由して下方の機関内部へと排出される。
【0030】
微小間隙ΔDは、筒部6に嵌合した弁頭部12の上下の間で圧力差を保持し得るように十分に小さく設定されており、例えば、ドレインパイプ5の半径の1/10以下、具体的には1mm以下に設定されている。上記筒部6は、少なくとも上記弁頭部12が移動する範囲においては一定通路断面の単純な円筒形に構成されており、従って、弁頭部12の上下位置に拘わらず、微小間隙ΔDは一定に与えられる。
【0031】
次に、
図5を参照して、逆止弁10に作用する力及びその動作について説明する。逆止弁10に作用する主な力としては、逆止弁10の自重による下向きの力F1と、ドレインパイプ5内に溜まったオイルの重力による下向きの力F2と、ドレインパイプ5に溜まったオイルから主に弁頭部12に作用する浮力からなる上向きの力F3と、吸気負圧が作用するオイルミストセパレータ1内の圧力(負圧)と機関内部の圧力との圧力差により弁頭部12に作用する上向きの力F4と、がある。従って、逆止弁10は、主として下向きの力(F1+F2)と上向きの力(F3+F4)との大小関係に応じて作動することとなる。
【0032】
ここで、逆止弁10の自重による力F1は一定であり、オイルの重力による力F2及び浮力による力F3は油面14の高さに応じて変化し、また力F4は圧力差に応じて変化するため、逆止弁10は、油面高さと圧力差とに応じて作動することとなる。
【0033】
図5(A)は、油面高さと圧力差に応じた逆止弁10の作動状態を示す説明図である。図中、逆止弁「閉」の領域は、逆止弁10が最も上方に位置する閉弁状態となる領域であり、逆止弁「開」の領域は、逆止弁10が閉弁状態よりも下方に位置する状態(
図2,
図3参照)となる領域である。
【0034】
機関停止状態では、補助オイル排出通路9を通してドレインパイプ5内のオイルが最終的には完全に排出されるために、オイルによる力F2や力F3が生じず、また吸気負圧が作用しないために圧力差による力F4も生じない。従って、逆止弁10は自重による力F1によって最も下方に位置する開弁状態となる。
【0035】
このような機関停止状態での開弁状態から内燃機関の運転を開始すると、オイルミストセパレータに作用する吸気負圧によって圧力差が大きくなり、ドレインパイプ5内にオリフィスとなる微小間隙ΔDを介して配置された弁頭部12の上下に圧力差が生じて、上方へ作用する力F4が逆止弁10の自重による力F1を上回るために、逆止弁10が上方へ速やかに作動して、
図3および
図5(B)に示す閉弁状態となる。なお、逆止弁10がオイル排出孔8を閉じると、圧力差による力F4は、弁体11に作用する。
【0036】
このような閉弁状態で、ドレインパイプ5内にオイルが溜まり、その油面14の高さ位置が上昇してくると、オイルの重力による下向きの力F2と浮力による上向きの力F3とが逆止弁10に作用する。油面高さが閉弁状態での弁頭部12下端よりも低い範囲α1では、油面14が弁頭部12に達していないために浮力(力F3)はほとんど発生せず、油面高さの上昇に伴って下向きの力F2が大きくなるために、
図5(A)に示すように、油面高さの上昇に応じて逆止弁10はやや開き易くなるが、運転中の圧力差が極端に小さくない限りは、逆止弁10は開作動しない。
【0037】
閉弁状態における油面高さ位置が弁頭部12と交差する範囲α2では、油面高さの上昇に伴って、弁頭部12が油面下に沈む体積が大きくなるために、浮力による上向きの力F3の増加分が、オイルの重力による下向きの力F2の増加分を上回る形となる。従って、
図5(A)に示すように、油面高さの上昇に伴って逆止弁10は開きにくくなり、逆止弁「閉」領域が拡大する。つまり、弁頭部12の浮力が、圧力差による力F4に加えて、オイルをドレインパイプ5内に適当な高さまで保持することに寄与する。
【0038】
閉弁状態における油面高さ位置が弁頭部12よりも高い範囲α3では、既に弁頭部12が完全に油面下に沈んでいるために、浮力によるF3は一定である。そして、油面高さの上昇に伴ってオイルの重力による下向きの力F2が増加していくため、
図5(A)に示すように、油面高さの上昇に伴って逆止弁10は開き易くなり、圧力差による力F4に対して、(F1+F2)>(F3+F4)の関係となった段階で、逆止弁10が開く。
【0039】
実際の機関運転状態では、オイルミストセパレータ1から排出されるオイルによる油面高さの変動に加えて、吸気脈動等の影響により上記の圧力差も変動することから、ドレインパイプ5内にオイルがある程度溜まっている状態で、逆止弁「開」領域と「閉」領域とが頻繁に切り換わり、逆止弁10の開閉作動が繰り返されることとなる。
【0040】
なお、
図5は、横軸を圧力差として示しているが、オリフィスとなる微小間隙ΔDによって弁頭部12に上向きに作用する力F4はブローバイガスの流量に依存するので、例えばブローバイガス発生量が少ないアイドル時には逆止弁10が開いており、ブローバイガス発生量が多い高速高負荷側の領域で逆止弁10が閉作動するように設定することも可能である。
【0041】
このような本実施例によれば、弁頭部12と弁体11とを両端に備えた逆止弁10がオイル排出孔8に組み付けられた簡素な構成でありながら、機関運転状態では、ドレインパイプ5内に少量のオイルが残存する状態で逆止弁10の開閉作動が繰り返されて、逆止弁10を概ね閉弁状態に維持することができ、機関内部からのオイル排出孔8を通したブローバイガスの逆流を抑制することができる。従って、ブローバイガスによる吸気系へのオイルの持ち出しや吹き出しの発生を抑制することができる。
【0042】
特に、オイル排出孔8を外側から開閉する弁体11とは別に、ドレインパイプ5の筒部6内に微小間隙ΔDを介して嵌合した弁頭部12を具備し、この弁頭部12が圧力差による力F4を確実に受けるので、例えば、逆止弁10が開弁している機関停止状態から機関運転状態へ移行した際に、逆止弁10が確実に閉弁状態に移行する。つまり、圧力差と油面高さとによる所期の開閉動作をより安定的に得ることができる。
【0043】
なお、油面高さと圧力差との関係で逆止弁10が開き、ドレインパイプ5内部のオイルが排出されたとき(
図2参照)には、油面高さの低下に対し、弁頭部12に作用する圧力差による力F4によって逆止弁10が直ちに上方(閉方向)へ作動しようとするので、オイル排出孔8は速やかに再び閉塞される。従って、機関内部からのブローバイガスの逆流ひいてはオイルの逆流は確実に抑制される。
【0044】
また、上記実施例では、弁頭部12が球形であるために、仮に逆止弁10が軸方向に対して傾斜する方向に傾いても、弁頭部12とドレインパイプ5との間の微小間隙ΔDにおける流路断面積が変化することはなく、上述した特性を安定して得ることができる。
【0045】
このような本実施例の構造を適用した場合、ドレインパイプ5内に過度にオイルが溜まることがないために、ドレインパイプ5を短かくすることができる。これによって、オイルミストセパレータ1の大きさが抑制され、搭載性が向上するとともに、製品の小型化により流通過程での費用を削減することが可能となるなど、実用上多大な効果を奏することができる。
【0046】
更に、ドレインパイプ5の高さを抑えられるために、レイアウトの自由度が高くなる。従って、高効率な(通気抵抗が大きい)オイルミストセパレータにも対応でき、寸法的な条件の厳しい場合でもドレインパイプ5を付加することが可能である。
【0047】
次に、
図6に基づいて、本発明の第2実施例を説明する。この第2実施例は、ドレインパイプ5および逆止弁10の基本的な形状は前述した実施例と同様であり、ドレインパイプ5の主体をなす筒部6の下端部には、着座部7、オイル排出孔8、補助オイル排出通路9、がそれぞれ形成されている。なお、この実施例では、3本の補助オイル排出通路9が等間隔に形成されており、従って、着座部7は実質的に3つの円弧状部分に分割されている。
【0048】
また逆止弁10は、前述した実施例と同様に、オイル排出孔8を下側つまり外側から開閉する円板状の弁体11と、筒部6内に微小間隙ΔDを介して嵌合した球形をなす弁頭部12と、オイル排出孔8を貫通して延び、かつ上記の弁体11と弁頭部12とを連結した棒状の軸部13と、を備えている。
【0049】
ここで、本実施例では、弁体11と軸部13の一部とを含む逆止弁10の下半部10Aが弾性変形可能なゴムから構成されており、弁頭部12と軸部13の一部とを含む逆止弁10の上半部10Bが硬質合成樹脂から構成されている。これらの下半部10Aと上半部10Bとは、軸部13の中間に位置する接合面21において一体に接合されている。なお、軸部13においては、接合面21よりもさらに下方まで硬質合成樹脂からなる小径の中心軸部22が延長されており、この中心軸部22の外周にゴムからなる下半部10Aの軸部13部分が設けられている。
【0050】
例えば、弁頭部12を含む上半部10Bを予め硬質合成樹脂にて成形した後、これを下半部10Aを成形するための金型内にセットし、この金型を用いてゴム材料にて下半部10Aを成形することで、ゴム製の下半部10Aが合成樹脂製の上半部10Bに加硫接着されている。
【0051】
このような構成の逆止弁10によれば、筒部6とは別に逆止弁10を製造した後に、筒部6の内側に逆止弁10を挿入し、かつ強く押し込むことで、円板状の弁体11が弾性変形しつつオイル排出孔8を通過することができる。従って、筒部6先端部を半割構造としたり、弁体11と弁頭部12とを軸部13の挿入後に一体に接合するなどの複雑な工程を用いることなく、軸部13の両端に弁体11と弁頭部12とを備えた逆止弁10をオイル排出孔8に容易に組み付けることができ、オイルミストセパレータ1全体の組立工程が簡素なものとなる。
【0052】
また、筒部6内で上下動する弁頭部12は硬質合成樹脂製のものであるので、逆止弁10全体をゴム製とした場合に比較して、摺動に伴う摩耗が比較的少ないものとなる。
【0053】
ここで、上記実施例の弁頭部12は、硬質合成樹脂材料から中実に成形されているので、その密度はオイルの密度よりも高い。このような場合には、弁頭部12は浮子としては機能しないが、弁頭部12がオイル中にあるときに弁頭部12の浮力による力F3が作用し、これによって逆止弁10の自重の一部が相殺される点では、前述した実施例と変わりがなく、基本的に前述した
図5と同様の特性が得られる。
【0054】
より詳しくは、この第2実施例は、ドレインパイプ5および逆止弁10が比較的小型の構成に適しており、逆止弁10全体の絶対的な重量が比較的小さい。従って、ブローバイガスが微小間隙ΔDを流れることにより生じる上向きの力F4によって容易に逆止弁10が閉作動し、さらに、前述した浮子としての作用に依存せずに、圧力差によってある程度の油面高さまでは、オイルが蓄えられる。
【0055】
一つの具体的な実施例では、筒部6の内径が6mmであるときに、直径5mmの弁頭部12を有する逆止弁10が数gの重量のものとして構成され得る。このように重量が小さな逆止弁10では、ブローバイガスが微小間隙ΔDを流れることにより生じる上向きの力F4に逆止弁10が敏感に応答して動作するので、例えば、ブローバイガス発生量が少ないアイドル時には逆止弁10が開いており、ブローバイガス発生量が多い高速高負荷側の領域で逆止弁10が閉作動するように設定することが容易となる。
【0056】
次に、
図7は、逆止弁10の第3実施例を示しており、この実施例では、上記第2実施例とは逆に、弁体11と軸部13の一部とを含む逆止弁10の下半部10Aが硬質合成樹脂から構成されており、弁頭部12と軸部13の一部とを含む逆止弁10の上半部10Bが弾性変形可能なゴムから構成されている。なお、この場合、中心軸部22は、硬質合成樹脂製の下半部10Aの一部として形成されており、接合面21からゴム製の上半部10Bの内部へと延びている。
【0057】
このような第3実施例では、弁頭部12が弾性変形可能であるので、筒部6の外側から弁頭部12を変形させつつオイル排出孔8に押し込むことで、オイル排出孔8内に組み付けることができる。特に、筒部6の外側から挿入作業を行える点は、第2実施例に比べて有利となる。
【0058】
次に、
図8および
図9は、逆止弁10の第4実施例および第5実施例をそれぞれ示している。これらの実施例は、オイル排出孔8を開閉する弁体11の下面31を円錐面としたものであり、第4実施例は中心軸線に対する傾斜角θが60°であり、第5実施例は同傾斜角θが45°である。
【0059】
図示例では、逆止弁10全体が硬質合成樹脂からなり、弁体11と弁頭部12とを別々に成形した後に、オイル排出孔8を通して両者が一体に組み立てられている。具体的には、軸部13が弁体11と一体に成形されているとともに、球形をなす弁頭部12に軸部13上端が嵌合する取付孔32が凹設されており、軸部13をオイル排出孔8に挿通させた状態で、例えば接着剤を介して軸部13先端が取付孔32内に固定されている。
【0060】
このように弁体11の下面31を円錐面とした構成では、この下面31に付着した油滴が傾斜によって滴下し易くなり、過度に大きな油滴に成長することがない。そのため、油滴の重量による逆止弁10の開閉特性の変化が抑制される。特に、数g程度の軽量な逆止弁10では、油滴の重量による挙動の変化が大きなものとなるが、下面31を傾斜面として大きな油滴の付着を防止することで、その影響が抑制される。
【0061】
次に、
図10は、第4,第5実施例の変形例として、逆止弁10の第6実施例を示している。この実施例では、弁体11の下面31がやはり円錐面をなしているが、この円錐面の周囲に、平坦なフランジ面34が環状に形成されている。このような構成においても、前述した第4,第5実施例と同様に、円錐面によって油滴の滴下が促進され、逆止弁10の挙動を安定したものとすることができる。
【0062】
ここで、第6実施例においては、やはり逆止弁10全体が硬質合成樹脂から構成されているが、軸部13が弁頭部12と一体に成形されており、弁体11側に凹設した取付孔35に軸部13下端が嵌合し、接着剤等で固定されている。
【0063】
また、
図11は、第6実施例の変形例となる第7実施例を示している。この実施例では、弁体11の下面31が、直線的な円錐面ではなく、湾曲面、具体的には半球面をなしている。このような構成においても、油滴の滴下が促進される。
【0064】
次に、
図12は、逆止弁10の第8実施例を示している。この実施例は、第2実施例と同様に、弁体11と軸部13の一部とを含む逆止弁10の下半部10Aが弾性変形可能なゴムから構成されており、弁頭部12と軸部13の一部とを含む逆止弁10の上半部10Bが硬質合成樹脂から構成されている。そして、第5実施例と同様に、油滴の滴下を促進するために、弁体11の下面31が円錐面に形成されている。
【0065】
ここで、上記弁体11の上面つまりオイル排出孔8を開閉するシール面41には、円錐面に沿った周縁部を残して中央部分に肉抜き部42が形成されている。換言すれば、弁体11は、シール面41が実質的に環状となった傘状の形状をなしている。
【0066】
このような構成によれば、前述したように弁体11を変形させつつオイル排出孔8に挿入する際に、弁体11が細く変形しやすくなり、オイル排出孔8への挿入が容易となる。