特許第5947823号(P5947823)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5947823
(24)【登録日】2016年6月10日
(45)【発行日】2016年7月6日
(54)【発明の名称】医療用ガスケットの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/315 20060101AFI20160623BHJP
【FI】
   A61M5/315
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-14698(P2014-14698)
(22)【出願日】2014年1月29日
(65)【公開番号】特開2015-139593(P2015-139593A)
(43)【公開日】2015年8月3日
【審査請求日】2015年3月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】岩野 慎也
【審査官】 金丸 治之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−305307(JP,A)
【文献】 特表2004−525011(JP,A)
【文献】 特開2012−147859(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/315
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンジ用外筒内を摺動可能なガスケット本体の後端に、シリンジ用プランジャーの先端部が取り付くプランジャ取付け孔を設けた医療用のガスケットの製造方法であって、
並列する複数のガスケットの後端部間が、シート状の継ぎ部によって連結された成形シートを形成する成形シート形成工程と、
前記成形シートから、各ガスケットを環状の上下の打抜き刃を用いて打ち抜いて切り離す打抜き工程とを具え
前記下の打抜き刃内には位置決めピンが同心に配置され、かつ該位置決めピンは、その上端が前記下の打抜き刃の上端よりも下方に控える下降位置と、上端が前記下の打抜き刃の上端よりも上方に突出する上昇位置との間を昇降自在に支持されるとともに、
前記打抜き工程は、
前記成形シートの各プランジャ取付け孔に、前記上昇位置の位置決めピンをそれぞれ挿入させることにより各ガスケット前記上下の打抜き刃に対して同心に位置決めする位置決めステップと、
前記位置決めピンの挿入状態のまま、各ガスケットを、前記上下の打抜き刃を用いて前記継ぎ部から切り離す打抜きステップとを具えることを特徴とする医療用のガスケットの製造方法。
【請求項2】
前記位置決めピンは、プランジャ取付け孔よりも大径であることを特徴とする請求項1記載の医療用のガスケットの製造方法。
【請求項3】
前記位置決めピンは、プランジャ取付け孔に挿入されるピン本体と、前記ガスケットの後端を受ける台座とを同心に具えることを特徴とする請求項1又は2記載の医療用のガスケットの製造方法。
【請求項4】
記打抜き工程は、前記位置決めピンが、前記下降位置に下降することにより、切り離されたガスケットから位置決めピンを抜き取る抜取りステップを有することを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の医療用のガスケットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形シートからガスケットを切り離す打抜き工程において、ガスケットの外周面への傷の発生を抑制した医療用ガスケットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、薬剤の取り違えなどの医療事故を防止できるという観点から、予め薬液をシリンジ(注射器)内に充填したプレフィルドシリンジが多用されている。このプレフィルドシリンジでは、シリンジ用外筒内に配されるガスケットと、注射針取り付け用のノズル部に配されるキャップとの間で薬液が密閉される。そして投与の際には、前記ノズル部に注射針を取り付けるとともに、シリンジ用プランジャーを押し込んで前記ガスケットと連結しかつ前方側に摺動させることにより、注射液が投与される。
【0003】
前記ガスケットの製造方法としては、例えば下記の特許文献1に記載されるように、成形金型を用いた真空プレス成形によって成形シートを形成し、その後、この成形シートからガスケットを切り離すことが行われる。
【0004】
図6(A)、(B)に示すように、成形シートaからのガスケットa1切り離しは、下の打抜き刃b1内に、成形シートaの各ガスケットa1を挿入して位置決めかつセットを行い、しかる後、上の打抜き刃b2を下降することで行われる。
【0005】
しかしながら、図7に示すように、成形シートaに剛性がないため、成形シートaをセットする際、ガスケットa1が下の打抜き刃b1内に斜めに挿入される傾向がある。このとき、ガスケットa1の外周面に、打抜き刃b1の刃先が当たって傷が生じ、シリンジ用外筒との密封性を損ねるという問題が生じる。
【0006】
特に、ガスケットa1の後端部がシート状の継ぎ部a2によって連結された成形シートaの場合、継ぎ部a2からのガスケットa1の突出高さが大となるため、刃先に接触しやすくなり、傷の発生がより顕著となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2013-49236号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで発明は、ガスケットのプランジャ取付け孔を位置決め部として使用することを基本として、ガスケットの外周面における傷の発生を抑制しうる医療用ガスケットの製造方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、シリンジ用外筒内を摺動可能なガスケット本体の後端に、シリンジ用プランジャーの先端部が取り付くプランジャ取付け孔を設けた医療用のガスケットの製造方法であって、
並列する複数のガスケットの後端部間が、シート状の継ぎ部によって連結された成形シートを形成する成形シート形成工程と、
前記成形シートから、各ガスケットを環状の上下の打抜き刃を用いて打ち抜いて切り離す打抜き工程とを具え
前記下の打抜き刃内には位置決めピンが同心に配置され、かつ該位置決めピンは、その上端が前記下の打抜き刃の上端よりも下方に控える下降位置と、上端が前記下の打抜き刃の上端よりも上方に突出する上昇位置との間を昇降自在に支持されるとともに、
前記打抜き工程は、
前記成形シートの各プランジャ取付け孔に、前記上昇位置の位置決めピンをそれぞれ挿入させることにより各ガスケット前記上下の打抜き刃に対して同心に位置決めする位置決めステップと、
前記位置決めピンの挿入状態のまま、各ガスケットを、前記上下の打抜き刃を用いて前記継ぎ部から切り離す打抜きステップとを具えることを特徴としている。
【0010】
本発明に係る前記医療用のガスケットの製造方法では、前記位置決めピンは、プランジャ取付け孔よりも大径であることが好ましい。
【0011】
本発明に係る前記医療用のガスケットの製造方法では、前記位置決めピンは、プランジャ取付け孔に挿入されるピン本体と、前記ガスケットの後端を受ける台座とを同心に具えることが好ましい。
【0012】
本発明に係る前記医療用のガスケットの製造方法では前記打抜き工程は、前記位置決めピンが、前記下降位置に下降することにより、切り離されたガスケットから位置決めピンを抜き取る抜取りステップを有することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明は叙上の如く、成形シートから各ガスケットを切り離す打抜き工程において、成形シートの各プランジャ取付け孔に位置決めピンを挿入させる位置決めステップを具える。この位置決めステップでは、各ガスケットを、正確な位置でかつ直立状態で安定して保持しうる。
【0014】
従って、打抜き刃による打ち抜きに際して、ガスケットの外周面と打抜き刃との接触を抑えることができ、傷の発生及びこの傷によるシリンジ用外筒との密封性の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】(A)は本発明の製造方法によって形成されるガスケットの一例を示す断面図、(B)はそれを用いたプレフィルドシリンジの一例を示す断面図である。
図2】(A)、(B)は成形シート形成工程を示す断面図である。
図3】位置決めステップを示す断面図である。
図4】位置決めステップの部分拡大図である。
図5】(A)は打抜きステップの部分拡大図、(B)は抜取りステップの部分拡大図である。
図6】(A)、(B)は、従来の打抜き工程を示す断面図である。
図7】その問題点を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
図1(A)は本発明の製造方法によって形成されるガスケット1の一例を示す断面図、図1(B)はそれを用いたプレフィルドシリンジ2の一例を示す断面図である。同図に示すように、ガスケット1は、シリンジ用外筒2A内を摺動可能なガスケット本体3の後端に、シリンジ用プランジャー2Bの先端部2B1が取り付くプランジャ取付け孔4を具える。
【0017】
プレフィルドシリンジ2では、前記ガスケット1と、注射針取り付け用のノズル部2A1に配されるキャップ5との間で薬液Jが密閉されており、薬液投与の際、シリンジ用プランジャー2Bの先端部2B1とガスケット1のプランジャ取付け孔4とが連結される。プランジャ取付け孔4としては、前記先端部2B1と螺合するためのネジ孔が好適に採用される。
【0018】
前記ガスケット本体3の外周面Saは、シリンジ用外筒2Aの内周面と摺動可能かつ気密に接触する摺動面をなす。本例では、摺動抵抗を減じるために、前記外周面Saには周方向にのびる少なくとも1本の周溝6が形成されている。又、ガスケット本体3の外周面Sa及び前端面Sbは、不活性の樹脂フィルムからなる被覆層3Aで覆われる。
【0019】
被覆層3Aは、耐薬品性の向上及び摺動抵抗の低減を目的としたもので、例えばテトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリクロロテトラフルオロエチレン(PCTFE)からなる群より選択される少なくとも1種のフッ素樹脂、及び/又は例えば超高分子量ポリエチレン(UHMWPE))等のオレフィン系樹脂が好適に採用しうる。被覆層3Aの厚さとしては、例えば5〜150μmが好適である。
【0020】
次に、ガスケット1の製造方法を説明する。本発明の製造方法は、
(1)並列する複数のガスケット1の各後端部間が、シート状の継ぎ部7によって連結された成形シート8を形成する成形シート形成工程S1(図2に示す)と、
(2)前記成形シート8から、各ガスケット1を打ち抜いて切り離す打抜き工程S2(図3〜5に示す)とを具える。
【0021】
図2(A)、(B)に示すように、成形シート形成工程S1では、一対(本例では上下)の成形金型10U、10Lを用いた真空プレス成形が好適に採用される。具体的には、未加硫のゴムシート11Aと不活性の樹脂フィルム11Bとを重ねて、成形金型10U、10L間にセットし、真空プレスで加熱圧縮を行う。この加熱圧縮により、ゴムシート11Aと樹脂フィルム11Bとが加硫接着され、かつ複数のガスケット1が継ぎ部7によって一体連結された前記成形シート8が形成される。一方(本例では下)の成形金型10Lにはガスケット1の外形形状に合う凹部10Laが形成され、他方(本例では上)の成形金型10Uにはプランジャ取付け孔4の外形形状に合う凸部10Uaが形成される。
【0022】
又打抜き工程S2は、位置決めピン12を用いた位置決めステップS2Aと、成形シート8の一方面側、他方面側にそれぞれ配される環状の打抜き刃13U、13Lを用いた打抜きステップS2Bとを具える。
【0023】
図3、4に示すように、位置決めステップS2Aでは、成形シート8の各プランジャ取付け孔4に、位置決めピン12をそれぞれ挿入させて成形シート8の位置決めを行う。これにより、成形シート8の各ガスケット1は、正確な位置でかつ直立状態にて保持される。本例では、成形シート8が、プランジャ取付け孔4を下向きとした状態で保持され、かつ各プランジャ取付け孔4に位置決めピン12が下方から挿入される場合が示される。
【0024】
前記位置決めピン12は、下の打抜き刃13L内に同心に配置される。又位置決めピン12は、その上端が、下の打抜き刃13Lの上端よりも下方に控える下降位置PL(図5(B)に示す)と、位置決めピン12の上端が下の打抜き刃13Lの上端よりも上方に突出する上昇位置PU(図3、4に示す)との間を、昇降自在に支持される。前記位置決めピン12では、プランジャ取付け孔4に挿入されるピン本体12Aと、前記ガスケット1の後端を受ける台座12Bとを同心に具えることが好ましい。この台座12Bにより、ガスケット1を前記直立状態にてより安定して保持することが可能となる。
【0025】
図5(A)に示すように、打抜きステップS2Bでは、位置決めされた前記成形シート8の各ガスケット1を、上下の打抜き刃13U、13Lを用いて継ぎ部7から切り離す。本例では上の打抜き刃13Uが下降し、下の打抜き刃13Lの外エッジEoと上の打抜き刃13Uの内エッジEiとの間で継ぎ部7が切断される。このとき、継ぎ部7は、その根元部分7aが引っ張られながら切断されるため、継ぎ部7の切断残りは極めて小である。従って本例の如く、ガスケット1の後端に周溝6の溝底が形成され、溝底から継ぎ部7がのびる場合には、継ぎ部7の切断残りを周溝6内に納めることができ、ガスケット1の外周面Saからのはみ出しを防止しうる。
【0026】
又打抜き工程S2では、図5(B)に示すように、打抜きステップS2Bにより切り離されたガスケット1から位置決めピン12を抜き取る抜取りステップS2Cが含まれる。この抜取りステップS2Cでは、前記位置決めピン12が、前記下降位置PLまで下降することにより行われる。なお下の打抜き刃13Lの内孔13Lhの径は、ガスケット1の外径よりもであり、従って、切り離されたガスケット1が下の打抜き刃13L内に落ち込むことはない。
【0027】
このように打抜き工程S2では、プランジャ取付け孔4に位置決めピン12を挿入する位置決めステップS2Aを具えるため、各ガスケット1を正確な位置でかつ垂直な直立状態にて保持できる。その結果、打抜きステップS2Bにおいて、ガスケット1の外周面Saが上の打抜き刃13Uと接触して傷が発生するのを抑制することができる。
【0028】
ここで、前記ピン本体12Aの直径D1(図4に示す)は、プランジャ取付け孔4の内径D2よりも大であることが好ましい。D1≦D2の場合、ピン本体12Aとプランジャ取付け孔4との間でガタが生じ、ガスケット1がふらついたりして位置決め精度の低下を招き、傷の発生を十分に防ぐことが難しくなる。このような観点から、前記直径D1は、内径D2の105%以上、さらには110%以上が好ましい。又直径D1が大きすぎると、ピン本体12Aをプランジャ取付け孔4に挿入できなくなったり、又挿入できた場合にもガスケット1が膨らんで、上の打抜き刃13Uと接触して傷が発生する傾向を招く。このような観点から、前記直径D1は内径D2の125%以下、さらには120%以下が好ましい。なおプランジャ取付け孔4の内径D2とは、取付け孔4に内接しうる真円の直径を意味し、例えばネジ孔の場合には、その下穴部分(ネジ溝のない部分)での内径に相当する。
【0029】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【実施例】
【0030】
表1に示す仕様の打抜き工程を用いて、成形シートから各ガスケットを打ち抜き、それによって得たガスケットの傷付き性及び液漏れ性を互いに比較した。
【0031】
各成形シートは、図2に示す成形シート形成工程に従い、未加硫のゴムシート(塩素化ブチルゴム製:加硫後のJIS A 硬さ60度)と、不活性の樹脂フィルム(PTFEフィルム:厚さ70μm)とを重ねて、上下の成形金型間にセットし、真空プレスで160℃で15分間加熱圧縮を行うことにより形成された。
【0032】
(1)傷付き性:
ガスケットの外周面を、外観カメラ検査機にて検査し、長さ0.5mm以上の傷が発生したものを不良品と判定した。これを1000個のガスケットに対して行い、不良品の発生率で評価した。数値が小な方が優れている。
【0033】
(2)液漏れ性:
「滅菌済み注射筒基準(平成10年12月11日、医薬発1079号厚生省医薬安全局長通知)」に準じ、以下のように実施した。
・ガスケットのプランジャ取付け孔(ネジ孔)に、この取付け孔よりも長い治具を勘合させた状態で、接液側を上にして置き、シリンジ用外筒(注射筒)を真っ直ぐに挿入して打栓した。シリンジ用外筒として、容量(1mL)、内径(6.3mm)、シリンジ材質(COP樹脂)のものを使用。
・次に、ノズル部から、メチレンブルーで着色した水を公称容量目盛りの3/4の位置まで充填した。
・ノズルキャップ、プランジャーを取り付け、シリンジ用外筒を下に向けてプランジャーに規定の圧力(490kPa)を10秒かけ、1日放置後、シリンジを10倍に拡大して観察して、ガスケットの周溝内への漏れの有無を、20本のシリンジに対して判定した。
判定基準は以下の通りである。
○:漏れが認められない。
△:筋状の微妙な漏れが認められる。
×:明らかな漏れが認められる。
【0034】
【表1】
【0035】
表のように、実施例は、ガスケットの傷付き性及び液漏れ性が改善されているのが確認できる。
【符号の説明】
【0036】
1 ガスケット
2A シリンジ用外筒
2B シリンジ用プランジャー
2B1 先端部
3 ガスケット本体
4 プランジャ取付け孔
7 継ぎ部
8 成形シート
12 位置決めピン
12A ピン本体
12B 台座部
13U、13L 上下の打抜き刃
S1 成形シート形成工程
S2 打抜き工程
S2A 位置決めステップ
S2B 打抜きステップ
S2C 抜取りステップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7