(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5948023
(24)【登録日】2016年6月10日
(45)【発行日】2016年7月6日
(54)【発明の名称】異常検出機能を備えた絶対位置検出装置
(51)【国際特許分類】
G01D 5/244 20060101AFI20160623BHJP
【FI】
G01D5/244 K
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2011-152084(P2011-152084)
(22)【出願日】2011年7月8日
(65)【公開番号】特開2013-19726(P2013-19726A)
(43)【公開日】2013年1月31日
【審査請求日】2014年3月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000149066
【氏名又は名称】オークマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柴田 伸二
【審査官】
吉田 久
(56)【参考文献】
【文献】
特開平4−297817(JP,A)
【文献】
特開平7−209420(JP,A)
【文献】
実開平5−17570(JP,U)
【文献】
特開平4−279817(JP,A)
【文献】
特開平7−167946(JP,A)
【文献】
特開平9−89589(JP,A)
【文献】
特開平6−123605(JP,A)
【文献】
特開2005−147733(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01D 5/00−5/38
G01B 7/00−7/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶対位置検出用センサの出力θ2と当該絶対位置検出用センサよりも高分解能の高分解能位置検出用センサの位置出力θ1とを組合せて前記高分解能位置検出用センサの分解能を持つ高分解能絶対位置を求める絶対位置検出装置であって、両位置出力θ1,θ2の相対誤差量Eに基づいて異常を検出する機能を備えた絶対位置検出装置であって、
クロック信号が示すタイミングで、絶対位置検出用センサの出力θ2と高分解能位置検出用センサの位置出力θ1との相対誤差Eを算出する相対誤差演算回路と、
相対誤差Eが、予め規定された異常判定値を超えるか否かを判断し、超える場合にはHi、それ以外の場合はLowとなる異常検出信号を出力する異常判定器と、
異常検出信号がHiのときはノイズ発生周期よりも短い周期の高速側クロックを、異常検出信号がLowの時は低速側クロックを、クロック信号として出力するクロック切替器と、
クロック信号を基に異常検出信号でHiが継続する時間を計測し、当該継続する時間が前記ノイズ発生周期を越えた場合にアラームを出力する計数器と、
を備え、
前記ノイズ発生周期を有するノイズは、前記絶対位置検出装置の周辺に設置されるインバータのスイッチングノイズであり、
前記低速側クロックの周期は、前記インバータのスイッチング周期の整数倍である、
ことを特徴とする絶対位置検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械の送り軸の制御等に用いられる絶対位置検出装置に関し、特に異常検出機能を備えた絶対位置検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、工作機械の送り軸の制御等に用いられる絶対位置検出装置が知られている(例えば特許文献1など)。かかる絶対位置検出装置では、軸の絶対位置を検出する絶対位置検出用センサと、絶対位置検出用センサよりも高分解能で位置を検出する高分解能検出用センサとを備えている。そして、この二種類のセンサからの出力値に基づいて、高分解能の絶対位置を算出している。
【0003】
しかしながら、温度ドリフトやアナログ部品で構成された内装回路の温度特性に起因して、絶対位置検出用センサの出力値と、高分解能検出用センサの出力値との間に、周期的に変動する角度誤差成分が発生することが知られている。従来技術では、この角度誤差成分を相対誤差として求め、当該相対誤差が過度に大きい場合には、異常が生じていると判断していた。
【0004】
図4は、こうした異常検出機能を備えた従来の絶対位置検出装置のブロック図である。また、
図5は、異常検出処理時のタイミングチャートである。
【0005】
4Xのレゾルバである高分解能位置検出用センサ2と、1Xのレゾルバである絶対位置検出用センサ3は、回転位置検出器であり、軸1によって図示しないモータに機械的に結合される。1Xのレゾルバである絶対位置検出用センサ3は、軸1が1回転する毎に検出信号の位相が360°変調される。一方、4Xレゾルバである高分解能位置検出用センサ2は、軸1が1/4回転する毎に検出信号の位相が360°変調される。内挿回路4は、同期信号CLに同期し絶対位置検出用センサ3に励磁信号を送り、位置に応じて変調された2相信号を内挿し、8ビットで表現される角度θ2を出力する。なお、同期信号CLは、発信器7からの同期信号CHを1/4分周器8で1/4に分周した信号である。内挿回路5は、同様にして発信器7からの同期信号CHに同期し高分解能位置検出用センサ2の信号を内挿し、8ビットで表現される角度θ1を出力する。
【0006】
高分解能側角度θ1は、一般に図示しないカウンター回路と桁合わせし、一回転絶対値化された位置検出値として高速にサンプルされ制御装置に送られる。絶対値検出側角度θ2は、電源ON時に前記カウンター回路の初期値を作る際に用いられる。通常動作時は、低速にサンプルされ異常検出に用いられる。
【0007】
次に異常検出の方法を説明する。相対誤差演算回路6は、角度θ1と角度θ2から、以下式1,2にしたがって、相対誤差Eを算出する。
X=(θ2・4−θ1)/2
8 ・・・式1
E=|X−INT(X)−0.5| ・・・式2
【0008】
なお、INT()は、かっこ内の数字の数値を超えない最大の整数を返す関数である。したがって、例えば、INT(1.9)=1であり、INT(−1.9)=−2である。異常判定器9は、相対誤差Eが異常判定基準値を超えると異常検出信号AFを出力する。異常判定基準値は、予め設定される値であり、例えば、0.3などを設定することができる。
【0009】
このように構成された絶対位置検出装置は、モータに内蔵され、工作機械の送り軸のボールねじにカップリングを介して結合される。近年、工作機械の小型化が進み、工作機械の主軸動力線がこの送り軸のモータに近接し配置されることが多くなった。また、この主軸動力線は主軸減速時の回生動作において大きなインバータスイッチングノイズによる電磁波が発生することが知られている。
【0010】
このノイズが位置検出装置の誤差になる様子を説明する。
図3において破線は、ノイズが無い場合の相対誤差Eを示している。一般的に、上述したようなノイズは、
図3に示すように、高周波で断続的に発生するため、位置検出装置のセンサ信号のサンプリングする時(相対誤差Eの縦線のタイミング)に、このノイズが重畳すると、この誤差が重畳し実線のようなランダムな波形になる。
【0011】
この電磁波が、送り軸モータに内蔵された絶対位置検出装置内のレゾルバに干渉すると、位置検出値がバタツキ、誤差が発生する。そして、結果として、相対誤差Eの値が、前記異常判定基準を超え、異常検出信号AFがでる場合があった。このように発生する異常は、本来の目的である異常検出により発生するものではないため、本来であれば、無視すべきものである。しかし、従来の装置では、相対誤差Eが基準値を超過した原因が、スイッチングノイズに起因するものか、異常に起因するものかを区別できず、いずれの場合でもアラームが出力されていた。
【0012】
また、
図3のように、一般に相対誤差Eの検出周期は、インバータのスイッチング周期より遅く、このスイッチング周期の整数倍となってしまうことがある。これにより、相対誤差検出時と同期して、このスイッチングノイズが入ることとなり、常にノイズの影響を受けるため、異常判定基準を超える確率が高かった。
【0013】
ここで、それぞれのレゾルバ精度を向上し相対誤差が小さくなるように設計・組立することで、上述の問題は、一応、低減することができるが、その場合、絶対位置検出装置の製造コストを上げざるを得ないという問題が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2003−35566号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
そこで、本発明では、異常をより高精度に検知でき得る絶対位置検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の絶対位置検出装置は、絶対位置検出用センサの出力θ2と当該絶対位置検出用センサよりも高分解能の高分解能位置検出用センサの位置出力θ1とを組合せて前記高分解能位置検出用センサの分解能を持つ高分解能絶対位置を求める絶対位置検出装置であって、両位置出力θ1,θ2の相対誤差量Eに基づいて異常を検出する機能を備えた絶対位置検出装置であって、クロック信号が示すタイミングで、絶対位置検出用センサの出力θ2と高分解能位置検出用センサの位置出力θ1との相対誤差Eを算出する相対誤差演算回路と、相対誤差Eが、予め規定された異常判定値を超えるか否かを判断し、超える場合にはHi、それ以外の場合はLowとなる異常検出信号を出力する異常判定器と、異常検出信号がHiのときはノイズ発生周期よりも短い周期の高速側クロックを、異常検出信号がLowの時は低速側クロックを、クロック信号として出力するクロック切替器と、クロック信号を基に異常検出信号でHiが継続する時間を計測し、当該継続
する時間が前記ノイズ発生周期を越えた場合にアラームを出力する計数器と、を備え、前記
ノイズ発生周期を有するノイズは、前記絶対位置検出装置の周辺に設置されるインバータのスイッチングノイズであり、前記低速側クロック
の周期は、前記インバータのスイッチング周期の整数倍である、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の絶対位置検出装置は、相対誤差Eが異常判定基準を超えるとノイズ発生周期よりも短い周期で位置検出し、相対誤差演算し、異常がノイズ発生周期以上継続した場合を異常としている。そのため、ノイズが無いときに位置検出し、異常判定が入るため、異常継続の条件が揃わなくなり、このノイズでは異常にならない。また、回生時の時間は短いため、本来の異常検出の目的も達成できる。さらに、異常判定基準を超えた場合のみ高速側に切り替えるため、異常検出のための消費電力も少ない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施形態である絶対位置検出装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】異常が生じていない場合における異常検出のタイミングチャートの一例である。
【
図3】異常が生じている場合における異常検出のタイミングチャートの一例である。
【
図4】従来の絶対位置検出装置の構成を示すブロック図である。
【
図5】従来の装置による異常検出のタイミングチャートの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施形態である絶対位置検出装置の構成を示すブロック図である。
図1において、要素1
〜3,5〜10の機能は、
図4に示す従来の絶対位置検出装置における要素1
〜3,5〜10と同様である。また、
図2、
図3は、本装置での異常検出時のタイミングチャートである。
内装回路4は、同期信号CLまたは同期信号CHに同期し、絶対位置検出用センサ3に励磁信号を送り、位置に応じて変調された2相信号を内挿し、8ビットで表現される角度θ2を出力する。
【0020】
クロック切替器11は、異常検出信号AFがHiの時はモータ制御のインバータのスイッチング周期よりも短い周期の高速側クロックCHを出力する。また、異常検出信号AFがLowの時は低速側クロックCLを出力する。計数器12は、異常検出信号AFがHiの時の信号C1を計数することにより、異常検出信号AFが継続する時間を計測する。そして、計数器12は、異常検出信号AFの継続時間が、前記スイッチング周期を越えるとアラーム信号AOを出力する。
【0021】
次に
図2を用いて、相対誤差Eの値が正常で、かつ、ノイズが重畳した場合における異常検出の流れについて説明する。
図2における破線は、ノイズが無い場合の相対誤差Eを示している。異常検出信号AFがLowの場合、信号C1として、低速側クロックCLが出力される。相対誤差演算回路6は、この信号C1の立ち上がりエッジでセンサ信号をサンプリングし相対誤差Eを求める。この時、ノイズが信号C1の立ち上がりエッジと同期していると、相対誤差Eはノイズ分だけ破線(本来の相対誤差Eの値)からずれることになる。
図2において、最初の信号C1の立ち上がりエッジでは、相対誤差Eが異常判定基準0.3を越えないため異常検出信号AFはLowのままである。2回目の信号C1の立ち上がりエッジでは、ノイズが重畳し相対誤差Eが0.3を超える。この場合、異常検出信号AFがHiとなる。異常検出信号AFがHiに切り替われば、信号C1が、スイッチング周期よりも短い周期の高速側クロックCHに切り替わる。また、計数器12は異常検出信号AFがHiなので、2回目の信号C1の立ち下がりエッジでカウントアップする。その結果、内部のカウント値が「0」から「1」になる。
【0022】
また、3回目の信号C1の立ち上がりエッジは、スイッチング周期よりも短い周期で発生する。したがって、この3回目の信号C1の立ち上がりエッジにおいては、ノイズがないので、相対誤差Eは、破線(本来の相対誤差Eの値)と同じになり、異常判定基準0.3以下になる。そのため、異常検出信号AFはLowとなり、信号C1が、低速側クロックCLに切り替わる。計数器12は異常検出信号AFがLowなので、3回目のC1の立ち下がりエッジでカウントクリアし、内部のカウント値が「0」になる。
【0023】
次に
図3を用いて、相対誤差Eの値が異常で、かつ、ノイズが重畳した場合における異常検出の流れについて説明する。
図3における破線は、ノイズが無い場合の相対誤差Eを示している。
【0024】
1回目と2回目の信号C1の立ち上がりエッジの動作は
図2の場合と同じなので説明を省略する。3回目の信号C1の立ち上がりエッジでは、ノイズがないので、相対誤差Eは破線(本来の相対誤差Eの値)と同じになる。本例では、本来の相対誤差Eが、異常判定基準0.3以上であるため、サンプリングされる相対誤差Eも異常判定基準0.3以上となる。その結果、異常検出信号AFはHiのままとなり信号C1も高速側クロックCHのままとなる。計数器12は異常検出信号AFがHiなので、3回目の信号C1の立ち下がりエッジでカウントアップし内部のカウント値が「1」から「2」になる。このカウント値が「2」になったときに、計数器12は、アラーム信号AOをHiとする。
【0025】
このように、相対誤差Eが異常判定基準を超えた場合にのみ、相対誤差Eのサンプリング周期を、ノイズの影響を受けない周期に変更し、その変更後の相対誤差Eの値をみることで、ノイズの影響を受けることなく異常判定することができる。
【0026】
なお、本実施形態では、ノイズ発生源として主軸動力線の例を説明したが、その他に放電加工機の放電時のノイズについても同様の効果が得られる。また、位置検出用センサとして、レゾルバの例を説明したが、本発明はレゾルバに限定されず、その他の光学式エンコーダ等のセンサでも同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0027】
1 軸、2 高分解能位置検出用センサ、3 絶対位置検出用センサ、4,5 内挿回路、6 相対誤差演算回路、7 演算器、8 1/4分周器、10 異常判定器、11 クロック切替器、12 計数器。