特許第5948054号(P5948054)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5948054
(24)【登録日】2016年6月10日
(45)【発行日】2016年7月6日
(54)【発明の名称】園芸施設
(51)【国際特許分類】
   A01G 9/24 20060101AFI20160623BHJP
【FI】
   A01G9/24 M
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2011-285394(P2011-285394)
(22)【出願日】2011年12月27日
(65)【公開番号】特開2013-132256(P2013-132256A)
(43)【公開日】2013年7月8日
【審査請求日】2014年8月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006781
【氏名又は名称】ヤンマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】特許業務法人あーく特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中園 徹
【審査官】 竹中 靖典
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−193765(JP,A)
【文献】 特開2009−240303(JP,A)
【文献】 特開2009−108820(JP,A)
【文献】 特開昭52−136731(JP,A)
【文献】 特開2011−236750(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 9/14−9/24
A01G 7/02
F01N 3/00−3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
施設本体内の温度を、エンジン駆動するヒートポンプによって調整するように構成された園芸施設であって、
エンジンの排気ガス経路には、当該排気ガス経路に設けられた触媒の上流側と下流側との温度を測定するセンサが設けられ、当該触媒の下流側には、施設本体内または屋外に排気ガスを排出する切替バルブが設けられ、
前記センサによって測定される触媒の上流側と下流側との温度差が所定値以上の場合には施設本体内に排気ガスを導入し、所定値未満となった場合には警報を発するとともに、屋外に排気ガスを排出するように前記切替バルブを制御する制御部を有し、
制御部は、エンジンによって作動される圧縮機の入口および出口の負荷から算出されるエンジン負荷と、エンジン回転数との関係から作成された、排気ガス中の有毒排気ガス成分量の制御マップを基に、有毒排気ガス成分が低い濃度の場合には施設本体内に排気ガスを導入し、高い濃度の場合には前記温度差に基づく切替バルブの制御に関係無く屋外に排気ガスを排出するように前記切替バルブを制御するようになされたことを特徴とする園芸施設。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスエンジンを利用した園芸施設に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ビニルハウス等の園芸施設においては、ガスエンジンを用いたヒートポンプ装置によってビニルハウス内部の温度管理をすることが行われている。また、このような園芸施設内では、栽培される農作物の生産効率を向上させるために、ビニルハウス内で重油を燃焼させて、光合成に必要なCOガスの豊富化を図ることも行われている。
【0003】
しかし、ガスエンジンを用いたヒートポンプ装置を使用し、かつ、重油を燃焼させるとなると、エネルギー効率が悪くなってしまう。
【0004】
そこで、従来より、ガスエンジンの排気ガスをCOガスの豊富化に使用することが考えられている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
この際、排気ガス中のCO、NO、ハイドロカーボン等の有毒排気ガス成分が少なくなるように、ガスエンジンの空燃費制御を理想空燃費よりも若干燃料が濃くなる所定のλウインドウの範囲内となるように正確に制御するとともに、排気ガスを触媒で浄化することで、COガスの豊富化を図っていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表平11−500203号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記従来の園芸施設において、触媒が劣化してしまった場合、有毒排気ガス成分が除去されずに、このような有毒排気ガス成分を有する排気ガスが園芸施設内に流入してしまうことになる。その結果、COやNOは、園芸施設内で作業する作業者を危険に晒すこととなり、ハイドロカーボンは、園芸施設内で育てている農作物を枯らしてしまうことになってしまう。
【0008】
本発明は、触媒の劣化を検知して園芸施設内での作業員の安全を確保することができる園芸施設を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明の園芸施設は、施設本体内の温度を、エンジン駆動するヒートポンプによって調整するように構成された園芸施設であって、エンジンの排気ガス経路には、当該排気ガス経路に設けられた触媒の上流側と下流側との温度を測定するセンサが設けられ、当該触媒の下流側には、施設本体内または屋外に排気ガスを排出する切替バルブが設けられ、前記センサによって測定される触媒の上流側と下流側との温度差が所定値以上の場合には施設本体内に排気ガスを導入し、所定値未満となった場合には警報を発するとともに、屋外に排気ガスを排出するように前記切替バルブを制御する制御部を有し、制御部は、エンジンによって作動される圧縮機の入口および出口の負荷から算出されるエンジン負荷と、エンジン回転数との関係から作成された、排気ガス中の有毒排気ガス成分量の制御マップを基に、有毒排気ガス成分が低い濃度の場合には施設本体内に排気ガスを導入し、高い濃度の場合には前記温度差に基づく切替バルブの制御に関係無く屋外に排気ガスを排出するように前記切替バルブを制御するようになされたものである。
【発明の効果】
【0011】
以上述べたように、本発明によると、排気ガス中のCO、NO、ハイドロカーボン等の有毒ガス成分の浄化をモニターして触媒の劣化を検出することができるので、施設本体内の作業員の安全確保や農作物の枯れ防止が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に係る園芸施設の全体の概略を示す構成図である。
図2】本発明に係る園芸施設のガスエンジンの排気ガス経路に設けた触媒部分の構成を示す概略図である。
図3】触媒の上流側と下流側との温度差と、平均有効圧力との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
【0014】
図1は本発明に係る園芸施設1を示し、図2は同園芸施設1のヒートポンプ3を駆動するガスエンジン31の排気ガス経路32に設けられた触媒33部分の構成を示している。
【0015】
この園芸施設1は、施設本体2内の温度を、ガスエンジン31で駆動するヒートポンプ3によって調整するように構成された園芸施設1であって、ガスエンジン31の排気ガス経路32に設けられた触媒33の上流側と下流側とに温度センサ34a、34bが設けられ、さらにその下流側には、施設本体2内または屋外に排気ガスを排出する切替バルブ35が設けられ、前記温度センサ34a、34bによって測定される触媒33の上流側と下流側との温度差Dが所定値以上の場合には施設本体2内に排気ガスを導入し、所定値未満となった場合には警報を発するとともに、屋外に排気ガスを排出するように前記切替バルブ35を制御する制御部10を有するものである。
【0016】
施設本体2は、農作物や植物が栽培可能な耕地21を取り囲んで、内部環境を制御可能な閉鎖空間を形成するように構成されている。耕地21は、土壌などの固定培地であってもよいし、水耕培地などの溶液培地であってもよい。また、施設本体2は、内部に太陽光を採光可能なように、屋根部22または壁部23の一部または全部が透光性のある素材で形成されている。この施設本体2の具体的なものとしては、ビニルハウスまたはグラスハウスが挙げられる。
【0017】
また、施設本体2は、屋根部22に、換気可能な開閉式の天窓22aが設けられている。この天窓22aは、壁部23に設けられたものであってもよい。また、この天窓22aに替えて、強制換気可能な換気ファンなどが設けられたものであってもよい。
【0018】
施設本体2の屋根部22の直下には、遮光したり、風除けとなるカーテン24が設けられている。このカーテン24によって、太陽光を遮ることで、日照量を調整したり、所望の位置にカーテン24を広げることで、天窓22aを開けた際に天窓22aから取り込まれる風の風向きや風速を調整できる。
【0019】
なお、施設本体2は、太陽光を使用せずにLED光などを利用して人工光栽培する場合であってもよい。この場合、屋根部22や壁部23は、前記したような透光性のある素材で無くてもよいし、カーテン24を省略してもよい。したがって、人工光栽培の場合、施設本体2は、住宅、ビル、工場、地下施設の一部に構成されていても良く、植物工場として専用に構成された建物であってもよい。また、施設本体2の規模としては特に限定されるものではなく、大量生産可能な工場規模のものであってもよく、家庭菜園レベルの小規模のものであってもよい。
【0020】
ヒートポンプ3は、ガスエンジン31によって圧縮機(図示省略)を駆動して作動するように構成されている。ヒートポンプ3は、施設本体2内に室内機36を設けて、当該室内機36からの冷風または温風によって、施設本体2内の温度管理を行うことができるようになされている。
【0021】
このヒートポンプ3の駆動源であるガスエンジン31は、一台の圧縮機を負荷に応じて駆動させて一つのヒートポンプサイクルを作動させるものであってもよいし、負荷に応じて複数台または一台の圧縮機を駆動させて複数または一つのヒートポンプサイクルを切替作動させるものであってもよい。
【0022】
ガスエンジン31からの排気ガス経路32には、触媒33が設けられている。触媒33の上流側と下流側とには、それぞれ温度センサ34a、34bが設けられている。
【0023】
温度センサ34a、34bは、触媒33の上流側と下流側との温度を測定することによって、触媒33を通過する前後の排気ガスの温度差Dを測定するようになされている。この測定結果は、制御部10に送られ、温度差Dが所定値か否かを検知するようになされている。この触媒33のさらに下流側の排気ガス経路32は、排気ガスを屋外に導く経路32aと、施設本体2内に導く経路32bとに分岐しており、この分岐点に設けられた切替バルブ35によって、排気ガスを屋外に排気するか施設本体2内に排気するか切り替えることができるようになされている。
【0024】
触媒33では、排気ガス中の有毒ガス成分が酸化反応等によって分解される。すなわち、排気ガス中のCOは、酸化反応によって、COに分解され、ハイドロカーボンは、水とCOに分解される。排気ガス中のNOは、反応によって、Nに分解される。この際、反応熱を生じるので、触媒33を通過した後の下流側の温度センサ34bによって検知される温度は、触媒33へ流入する前の上流側の温度センサ34aによって検知される温度よりも高くなる。したがって、この温度センサ34a、34bによって測定される触媒33の上流側と下流側との温度差Dの関係は、図3に示すように、触媒33が有効に機能している限り、ガスエンジン31の平均有効圧力に対して一定の温度差Dを保つ。しかし、触媒33の機能が劣化すると、排気ガス中の有毒ガス成分は酸化反応等によって分解されずに反応熱が無くなるため、温度差Dは小さくなる。したがって、排気ガス中の有毒ガス成分は、温度差Dが所定値の場合は、触媒33で処理されて低濃度となり、所定値未満の場合は、触媒33が劣化して処理されず高濃度となる。この温度差Dは、ガスエンジン31の回転数、負荷、空気過剰率、点火時期に応じて変化する。
【0025】
制御部10は、図3に示すような温度差Dに関する情報が入力されており、上記温度差Dが所定値の場合は、切替バルブ35の切替を行ってエンジン31からの排気ガスを施設本体2内に取り入れ、所定値未満の場合は、切替バルブ35の切替を行ってエンジン31からの排気ガスを屋外に排気するように制御される。また、制御部10は、温度差Dが所定値未満の場合に、触媒33が劣化してその後の使用も出来ないので、警報を発する。この警報としては、ランプの点灯によるものであってもよいし、警報音の発生によるものであってもよいし、制御パネルに表示するものであってもよいし、ヒートポンプ3またはガスエンジン31の停止によるものであってもよい。さらに、これらの警報の複数を組み合わせたものであってもよい。
【0026】
このようにして構成される園芸施設1は、触媒33で処理してCOが豊富化した排気ガスを、切替バルブ35を切り替えることによって施設本体2内に取り入れることができるので、施設本体2内の農作物や植物の成長を促進することができる。
【0027】
また、制御部10によって、触媒33が劣化して有毒ガス成分の分解が出来なくなったことを警報によって報知することができるので、施設本体2内で作業する作業員の安全を確保しながら排気ガスを施設本体2内に取り入れることができる。
【0028】
なお、本実施の形態においては、CO、ハイドロカーボン、NOに対応する触媒33を用いているが、使用燃料やエンジンの31の運転状況等によっては、これら全てに対応する触媒33でなくても良い。例えば、リーン運転のエンジン31の場合、NOの発生は問題にならないので、COとハイドロカーボンとに対応する触媒33を用いることができる。この場合であっても、CO、ハイドロカーボン、NOに対応する触媒33と同様に、温度をモニターして当該触媒33の劣化を検出することができる。
【0029】
また、本実施の形態においては、触媒33を用いてCO、ハイドロカーボン、NOを酸化反応等によって除去するようになされているが、この触媒33に替えて、COとハイドロカーボンとを分解する触媒と、NOを分解する触媒とをそれぞれ別に設け、これら触媒の上流側と下流側とに温度センサ34a、34bをそれぞれ設けて温度差Dからそれぞれの触媒の劣化を別に見分けるようにしてもよい。この場合、触媒33で対応できない燃焼条件においても、触媒劣化による排気ガスの未処理を検出することができる。また、触媒の劣化状況をより詳細に確認することができる。
【0030】
ただし、排気ガス中のNOは、運転状態によっては、触媒33を用いても分解処理することができなくなってしまう。したがって、排気ガス中のNOが分解処理できない運転状況の場合には、上記した触媒33の劣化と関係無く、切替バルブ35を切り替えて排気ガスを屋外に排気させる。このNOが分解処理できるか否かの状況は、エンジン31から排出される排気ガス中のNOの量を、エンジン31の回転数と負荷との関係からあらかじめ制御部10に制御マップとして入力しておき、この制御マップを基に判断する。この制御マップとしては、排気ガス中のNOの濃度を基準にしたものに限定されるものではなく、例えば、排気ガス中のCOの濃度を基準にしたものであってもよいし、排気ガス中のハイドロカーボンの濃度を基準にしたものであってもよい。COの濃度を基準にした制御マップの場合は、作業者が高濃度のCOガスに晒される危険から保護することができ、本実施の形態に示すNOの濃度を基準にした制御マップと同様に、作業者の安全性の向上を図ることができる。また、ハイドロカーボンの濃度を基準にした制御マップの場合は、施設本体2内で栽培している農作物や植物が高濃度のハイドロカーボンに晒されて枯れるのを防止することができる。
【0031】
また、制御部10は、これらNOの制御マップ、COの制御マップ、ハイドロカーボンの制御マップを併用して制御するものであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明に係る園芸施設は、各種農作物や植物の栽培に用いられる。
【符号の説明】
【0033】
1 園芸施設
10 制御部
2 施設本体
3 ヒートポンプ
31 ガスエンジン
32 排ガス経路
33 触媒
34a 温度センサ
34b 温度センサ
35 切替バルブ
図1
図2
図3