特許第5948066号(P5948066)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5948066
(24)【登録日】2016年6月10日
(45)【発行日】2016年7月6日
(54)【発明の名称】車両用灯具及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   F21S 8/10 20060101AFI20160623BHJP
   F21V 7/04 20060101ALI20160623BHJP
   B29C 45/37 20060101ALI20160623BHJP
   F21Y 115/10 20160101ALN20160623BHJP
【FI】
   F21S8/10 181
   F21S8/10 182
   F21V7/04 110
   B29C45/37
   F21Y115:10
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-16399(P2012-16399)
(22)【出願日】2012年1月30日
(65)【公開番号】特開2013-157177(P2013-157177A)
(43)【公開日】2013年8月15日
【審査請求日】2014年12月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001133
【氏名又は名称】株式会社小糸製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】特許業務法人 信栄特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 宏弥
(72)【発明者】
【氏名】木幡 隆宏
(72)【発明者】
【氏名】池田 利正
【審査官】 當間 庸裕
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−071556(JP,A)
【文献】 特開2009−006654(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F21S 8/10
F21V 7/04 − 7/22
B29C 45/37
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源の周囲に配置された、結晶性樹脂で形成される樹脂部品を備えた車両用灯具であって、
前記樹脂部品は、灯具外部から観察可能な意匠面を有し、
前記意匠面は、
微小凹凸からなるシボ面と、
前記シボ面の外縁近傍に前記シボ面から突出するように形成され、成形収縮率が10/1000〜20/1000となる前記結晶性樹脂の樹脂成形時に金型に支持されて前記シボ面の面収縮を抑制する突出部と、が設けられていることを特徴とする車両用灯具。
【請求項2】
少なくとも一対の前記突出部が、前記シボ面を挟んで対向する位置に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の車両用灯具。
【請求項3】
前記意匠面には、複数の前記シボ面が形成されており、
それぞれの前記シボ面の境界に前記突出部が設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の車両用灯具。
【請求項4】
前記突出部の高さは、0.2mm以上かつ、前記シボ面の形成された部位の前記樹脂部品の厚み以下であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の車両用灯具。
【請求項5】
意匠面にシボ面と突出部とを備えた、車両用灯具の結晶性樹脂で形成される樹脂部品の製造方法であって、
微小凹凸面と、前記微小凹凸面の外縁に設けられ前記微小凹凸面から凹んだ凹部とを備えた意匠面側金型と、前記意匠面側金型との間に前記樹脂部品を形成するキャビティを形成する非意匠面側金型とを用意する金型用意工程と、
前記キャビティを形成するように前記意匠面側金型と前記非意匠面側金型とを配置する金型配置工程と、
前記キャビティ内に結晶性樹脂を流し込んで、前記微小凹凸面を転写して前記シボ面を形成するシボ面形成工程と、
前記結晶性樹脂を冷却して前記樹脂部品を硬化させる成形収縮率が10/1000〜20/1000となる冷却工程と、を備え、
前記冷却工程において、前記意匠面側金型を前記凹部により形成される前記突出部に当接させて、前記樹脂部品の冷却に伴う前記シボ面の収縮を抑制することを特徴とする車両用灯具の樹脂部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、意匠面にシボが形成された樹脂製品を備えた車両用灯具及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、外観の異なる車両用灯具が様々に提案されている。近年では、光源の配置やリフレクタの形状といった車両用灯具の構成を変更するほかに、エクステンション等の灯具前方に露出する部材の意匠面にシボを形成し、意匠性が高めることが提案されている。シボとは、表面に微小凹凸が形成された部位であり、光を乱反射することにより艶消し感を呈する。
【0003】
特許文献1は、このようなシボをリフレクタやエクステンションといった樹脂製品の樹脂成形時に、微小凹凸面を備えた金型を用い、金型の微小凹凸面を樹脂製品に転写することによりシボを形成することを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-71556号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1のようにシボを形成すると、樹脂製品にシボムラが発生してしまうことがあった。シボムラが発生してしまうと見栄えが悪く、樹脂製品の歩留まりが低下してしまう。
【0006】
そこで本発明は、シボムラの発生が抑制された樹脂製品を備えた車両用灯具及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために本発明によれば、
光源の周囲に配置された樹脂部品を備えた車両用灯具であって、
前記樹脂部品は、灯具外部から観察可能な意匠面を有し、
前記意匠面は、
微小凹凸からなるシボ面と、
前記シボ面の外縁近傍に前記シボ面から突出するように形成され、樹脂成形時に金型に支持されて前記シボ面の面収縮を抑制する突出部と、が設けられていることを特徴とする車両用灯具が提供される。
【0008】
また、本発明によれば、上記の車両用灯具において、
少なくとも一対の前記突出部が、前記シボ面を挟んで対向する位置に設けられていてもよい。
【0009】
また、本発明によれば、上記の車両用灯具において、
前記意匠面には、複数の前記シボ面が形成されており、
それぞれの前記シボ面の境界に前記突出部が設けられていてもよい。
【0010】
また、本発明によれば、上記の車両用灯具において、
前記突出部の高さは、0.2mm以上かつ、前記シボ面の形成された部位の前記樹脂部品の厚み以下としてもよい。
【0011】
また、本発明によれば、
意匠面にシボ面と突出部とを備えた、車両用灯具の樹脂部品の製造方法であって、
微小凹凸面と、前記微小凹凸面の外縁に設けられ前記微小凹凸面から凹んだ凹部とを備えた意匠面側金型と、前記意匠面側金型との間に前記樹脂部品を形成するキャビティを形成する非意匠面側金型とを用意する金型用意工程と、
前記キャビティを形成するように前記意匠面側金型と前記非意匠面側金型とを配置する金型配置工程と、
前記キャビティ内に原料樹脂を流し込んで、前記微小凹凸面を転写して前記シボ面を形成するシボ面形成工程と、
前記原料樹脂を冷却して前記樹脂部品を硬化させる冷却工程と、を備え、
前記冷却工程において、前記意匠面側金型を前記凹部により形成される前記突出部に当接させて、前記樹脂部品の冷却に伴う前記シボ面の収縮を抑制することを特徴とする車両用灯具の樹脂部品の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る車両用灯具によれば、突出部が、成型時に樹脂の冷却に伴って発生するシボ面の面収縮を抑制するように作用する。したがって、樹脂成形時の冷却に伴う収縮によって生じるシボムラの発生を抑制することができる。
【0013】
また、本発明に係る車両用灯具の樹脂部品の樹脂成形用金型によれば、微小凹凸面から凹んだ凹部によって、成型時に樹脂の冷却に伴って発生するシボ面の面収縮を抑制するシボムラ突出部が形成される。したがって、シボムラの発生を抑制することのできる樹脂成型用金型を提供することができる。
【0014】
また、本発明に係る車両用灯具の樹脂部品の製造方法によれば、凹部によって形成された突出部が、樹脂製品の冷却に伴うシボ面の収縮を抑制するので、シボ面の収縮によって生じるシボムラを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態に係る車両用灯具の斜視図である。
図2図1に示す車両用灯具のロービーム灯具ユニットを含む面の断面図である。
図3】シボムラの発生メカニズムを説明する模式図である。
図4図1に示す車両用灯具のエクステンションの部分拡大図である。
図5図4に示すエクステンションの製造工程を示す模式図である。
図6図1に示す車両用灯具のエクステンションの部分拡大図である。
図7】本発明の第一変形例に係る車両用灯具のエクステンションの部分拡大図である。
図8】本発明の第二変形例に係る車両用灯具のエクステンションの部分拡大図である。
図9】本発明の第三変形例に係る車両用灯具のエクステンションの部分拡大斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(全体構成)
以下、本発明の実施形態に係る車両用灯具を、図1,2を参照して説明する。
【0017】
図1は本発明の実施形態に係る車両用灯具の斜視図である。図1に示すように、車両用灯具は、灯具前方に開口する開口部を有するランプボディ1と、透明樹脂製のアウターカバー2とを備えている。アウターカバー2は、ランプボディ1の開口部を前方から閉塞するように配置されており、ランプボディ1とアウターカバー2との間に灯室が形成されている。
【0018】
灯室内には、ハイビームを照射可能なハイビーム灯具ユニット3と、ロービームを照射可能なロービーム灯具ユニット4とが配置されている。図2はロービーム灯具ユニット4を含む断面での車両用灯具の垂直断面図である。図2に示すように、ロービーム灯具ユニット4はプロジェクタ型の灯具ユニットであり、LED等からなる光源4bと、投影レンズ4a、リフレクタ4c等を備えている。なお、ハイビーム灯具ユニット3(図1参照)も、ロービーム灯具ユニット4と同様に構成される。また、図1に示すように、灯室内の車幅方向の端部近傍には、ターンシグナルランプ5が設けられている。
【0019】
灯室内には、図1に示すように、灯具正面側から見てハイビーム灯具ユニット3の投影レンズ3a、ロービーム灯具ユニット4の投影レンズ4a及びターンシグナルランプ5を露出させた状態でランプボディ1を覆うエクステンション10(樹脂部品)が設けられている。エクステンション10は、PBT(ポリブチレンテレフタレート)やPET(ポリエチレンテレフタレート)などの結晶性樹脂から形成された樹脂部材である。
【0020】
エクステンション10の灯具前方側に露出する面は意匠面10aとされている。この意匠面10aは灯具外部から観察可能な面である。この意匠面10aには、平滑で光沢感のある鏡面部20と、光沢の低いシボ面21と、シボ面21の近傍に設けられたリブ(突出部)22が形成されている。シボ面21は微小凹凸面として形成されており、光を乱反射させることにより、艶消し感を呈する。シボ面21は、例えば、点刻状の微小突起と微小凹部とから構成することもできるし、一方向に延びる微小な畝と谷により構成してもよい。なお、本実施形態においては、エクステンション10の意匠面10aのほぼ全域が鏡面部20として形成されており、意匠面10aの一部にシボ面21が形成されている。またリブ22は複数のシボ面21を区画するように、複数のシボ面21の間にシボ面21から突出するように形成されている。
【0021】
図1,2に示すように、エクステンション10は、ロービーム灯具ユニット4の投影レンズ4a及びハイビーム灯具ユニット3の投影レンズ3aやターンシグナルランプ5が露出される底面部11と、底面部11を囲ってその外縁から前方に向かって延びる傾斜部12と、を備えている。
また、底面部11には、それぞれハイビーム灯具ユニット3の投影レンズ3a及びロービーム灯具ユニット4の投影レンズ4aを囲み、底面部11から前方に向かって突出する第一円筒部13及び第二円筒部14が設けられている。この第一円筒部13及び第二円筒部14の意匠面10aは、投影レンズ3a,4aから前方に向かって拡径する傾斜面とされている。
【0022】
第一シボ面21aは、第二円筒部14の意匠面10aの複数箇所に略長方形状に形成されている。これら複数の第一シボ面21aは、灯具正面から見た場合に、ロービーム灯具ユニット4の光軸に対して放射状に配置されている。また、これら複数の第一シボ面21aは、複数のリブ22によって放射状に区切られている。このように、意匠面10aに盛り上がるように形成されたリブ22によって第一シボ面21aが区切られているため、第一シボ面21aが強調された見栄えの良いエクステンション10を形成することができる。
【0023】
また第二シボ面21bは、枠状の傾斜部12のうち、第一円筒部13及び第二円筒部14の下方に位置する領域の一部に設けられている。複数の矩形状の第二シボ面21bは車幅方向に配列されており、矩形状の第二シボ面21bを区切るようにリブ22が形成されている。第二シボ面21bは、第一シボ面21aと表面粗さが異なり、第一シボ面21aとは異なった外観を呈する。
【0024】
このように、本実施形態に係る車両用灯具においては、エクステンション10の意匠面10aに鏡面部20と第一シボ面21a及び第二シボ面21bとを混在させたことにより、車両用灯具の見栄えが向上されている。なお、以降の説明では特に第一シボ面21a、第二シボ面21bとを区別しない場合は、単にシボ面21と呼ぶ。
【0025】
(シボムラの発生メカニズム)
以上のように構成される車両用灯具において、シボ面21にシボムラが発生すると車両用灯具の見栄えを損なうので好ましくない。一般に、シボ面21は、エクステンション10等の樹脂製品の樹脂成型時に、金型に設けた微小凹凸を樹脂製品に転写することにより形成される。シボ面21を形成する際に所望の微小凹凸が転写されないと、シボ面21で均一に光の乱反射が起こらず、特定方向に強く光が反射し、周囲の正常なシボ面21との反射率の差異によって濃淡の筋状の縞模様が見えてしまう場合がある。この意図せずに見えてしまう縞模様をシボムラと呼んでいる。
【0026】
そこで本発明者らは、シボムラは以下のメカニズムによって発生していることを見出した。図3は、比較例に係るエクステンション10を樹脂成形する様子を示した模式図である。
【0027】
一般に、エクステンション10等の樹脂製品は樹脂成形により作製される。樹脂成形の際に、金型30のキャビティ内に注入した液状樹脂を硬化させるために樹脂を冷却すると、樹脂に収縮が生じる。エクステンション10は板状の部材として形成されるため、厚み方向よりも面方向(図中の左右方向)の寸法が大きい。このため、樹脂には面方向に大きな収縮力が作用することになる。
【0028】
このような樹脂成形中に、樹脂が部分的に金型30の表面に強く張り付いてしまうことがある(図中の領域A)。例えば、金型の一部が低温であると金型30の低温領域に樹脂が固着してしまったり、注入口近傍で流速の高い樹脂が金型30の表面に強く押し付けられたりすると、樹脂の一部が金型30の表面に強く張り付いてしまう。特に、シボ面21を形成する微小凹凸からなるシボ転写部31は樹脂との接触面積が大きく、樹脂が固着しやすい。このため、シボ転写部31で樹脂の金型30への張り付きが生じやすい。
【0029】
キャビティ内の樹脂が冷却し収縮する時、金型30の表面に強く張り付いた部位に向かって引き寄せられるように樹脂が変形し移動する。このように樹脂が移動すると、形成されたシボ面21のうちの凸部21sが、金型30のシボ転写部31の凸部31aに接触して変形する。その結果、図3に示すように、引き寄せられた側の凸部21sが傾いた状態に形成されてしまう。このように傾斜して形成された凸部21sは特定方向に光を反射してしまう。その結果、傾斜した凸部21sの領域が筋状の縞模様からなるシボムラとして視認されてしまう。
【0030】
特に、上述したようにシボ面21は金型30のシボ転写部31へ張り付きやすいので、樹脂はシボ面21を中心に集まろうと移動する。この場合は、金型30へ張り付いた領域を中心とする同心円状のシボムラがシボ面21に生じる。同心円状のシボムラは目立ちやすいので、エクステンション10の外観を大きく損ねる。このほか、金型30の温度のばらつき等によって樹脂全体が不均一に収縮すると、収縮量の異なる領域ごとに異なった角度に凸部21sが変形する。この場合は、収縮量の異なる領域ごとに特定方向へ光が反射され、全体として筋状のシボムラが視認される。
【0031】
なお、シボムラは、シボ面21の微小な凸部21sが変形することにより生じるので、鏡面部20で樹脂の移動が生じても、シボムラが生じない。平滑な表面を有する鏡面部20では、樹脂が金型30に接触しながら移動してもその表面が変形しないからである。
【0032】
(リブの作用)
そこで本発明者らは、樹脂の冷却速度や、金型内で樹脂を一定圧力に保持する圧力、金型内への樹脂の射出速度等の成型条件を様々に変えて実験を行い、シボムラを抑制する条件を見出そうとした。しかし、成型条件を種々に設定しても、効果的にシボムラの発生を抑制することができなかった。そこで本発明者らは成型条件を変更するのではなく、シボ面21の面収縮を抑制する構造物をエクステンション10に付加することを検討した。
【0033】
図4は、図1に示すエクステンション10の第二円筒部14に設けた意匠面10aの一部の正面図である。
図4に示すように、エクステンション10の第二円筒部14の意匠面10aには、ロービーム灯具ユニット4の光軸に対して放射状に延びるように略長方形状の第一シボ面21aが形成されている。また、この第一シボ面21aの外縁近傍に第一シボ面21aを囲むように線状のリブ22が設けられている。また、このリブ22は第一シボ面21aを挟んで対向するように設けられている。
【0034】
図5を用いて、本実施形態に係る製造方法を適用した第一シボ面21aを備えたエクステンション10の製造方法を説明する。図5図4のV−V線矢視断面図であり、図中の矢印F1,F2はエクステンション10の成型時に樹脂に加わる応力を示している。なお、図5では金型のシボ転写部41の微小凹凸を誇張し、実際よりも大きく描いている。
【0035】
エクステンション10を作製するために、シボ転写部41とリブ形成凹部42とを備えた上金型(意匠面側金型)40と、上金型40との間にキャビティCを形成する下金型50(非意匠面側金型)とを用意する。シボ転写部41は微小凹凸面からなり、リブ形成凹部42はシボ転写部41の外側に微小凹凸面からから凹んだ形状に形成されている。次にこの上金型40と下金型50とを組み合わせてキャビティCを形成し、キャビティCの内部に原料樹脂を流し込み、樹脂を冷却硬化させてエクステンション10を作製する。
【0036】
図5に示すように、樹脂の冷却時には、シボ転写部41によりシボ面21が形成され、リブ形成凹部42によりリブ22が形成され、これらがエクステンション10として一体として形成される。エクステンション10の意匠面10aにおいて、第一シボ面21aは一対のリブ22により挟まれている。これにより、冷却時に樹脂に作用する圧縮力F1に対して、一対のリブ22により反力F2が生じる。なお、一対のリブ22は、その間に挟まれた上金型40の側壁43によって強固に支持されているので、リブ22は圧縮力F1によって変形することがない。
【0037】
したがって、図示したように樹脂全体を面収縮させるように圧縮力F1が作用しても、リブ22がシボ面21の移動を妨げるように反力F2を生じさせる。これにより、圧縮力F1は反力F2で打ち消され、樹脂の移動に伴うシボ面21の凸部の変形が生じない。したがって本実施形態に係る車両用灯具のエクステンション10によれば、リブ22によりシボムラの発生を抑制することができる。なお、面収縮とは、エクステンション10の肉厚方向と垂直な方向への収縮のことである。
【0038】
特に、本実施形態に係る車両用灯具のエクステンション10によれば、図4に示すように、一対のリブ22がシボ面21に関して対称に設けられ、シボ面21が一対のリブ22に挟まれている。これにより、シボ面21の一部が金型に張り付いてしまい、シボ面21を中心に引き寄せられるように圧縮力が樹脂に作用しても、一対のリブ22がそれぞれの側から反力を生じさせることができる。これにより、シボ面21全体に亘ってシボムラの発生を抑制することができる。
【0039】
なお、リブ22の外表面は鏡面とすることが好ましい。上述したように、鏡面であれば、冷却に伴う樹脂の移動が生じても、その表面外観に影響が生じないからである。したがって、リブ22を装飾的に見せることにより、シボ面21と合わせて意匠性に優れたエクステンション10を提供することができる。
【0040】
また、リブ22の高さl(図5参照)は、0.2mm以上かつ、シボ面21の形成された部位のエクステンション10の厚みT以下であることが好ましい。リブ22の高さlが0.2mmより小さいとリブ22によって圧縮力F1を受け止めることができない。また、エクステンション10の厚みTよりも大きいと、樹脂成形時に意匠面10aの裏面にリブ22に対応する位置にヒケが発生してしまい、リブ22の強度が確保できないからである。また、エクステンション10の厚みTよりもリブ22の高さlが大きい場合、リブ22に対応する部分の意匠面10aに凹みが形成されてしまうことがある。この凹みが視認されてしまうと、エクステンション10の外観品質が悪化してしまう。このため、リブ22の高さlをエクステンション10の厚みTより小さくすることが好ましい。
【0041】
また、エクステンション10を、成型収縮率が10/1000〜20/1000と比較的大きい結晶性樹脂により形成する場合は、樹脂が収縮しやすいのでシボムラが発生しやすい。しかし、本実施形態に係る車両用灯具のエクステンション10のように、リブ22を形成することにより、効果的にシボムラの発生を抑制することができる。また、結晶性樹脂を用いると、樹脂の粘度が低いため、エクステンション10を薄肉に形成することができる。
【0042】
また、シボ面21を表面粗さRa(算術平均表面粗さ)で1〜200μmの微小凹凸面として形成する場合は、シボムラが生じた場合に特にシボムラが目立って見えてしまう。このため、従来はシボ面21の表面粗さの設計に制約が生じていた。ところが、本実施形態に係る車両用灯具のエクステンション10によれば、シボムラが発生しにくいので、このような設計上の制約が生じない。したがって、多様なデザインのエクステンション10を設計できる。また、この表面粗さに設定すると、シボ面21の微小凹凸の転写性がよく、見栄えの良いシボ面21が得られる。シボ面21の表面粗さRaは1〜100μmが好ましく、更に好ましくはRaが5〜50μmである。
【0043】
また、リブ22が上金型40の側壁43に確実に支持されるように、リブ22は意匠面10aから垂直に設けられていることが好ましい。
【0044】
(第二シボ面)
なお、シボムラを抑制するリブ22の形状や形成位置は、上述の例に限られない。図6は、エクステンション10の傾斜部12の一部に形成された第二シボ面21bの近傍を拡大して示す図である。
【0045】
図2,6に示すように、第二シボ面21bの近傍に設けられるリブ22は、複数の第二シボ面21bを区切るように灯具の前後方向に延びるように形成されている。このようなリブ22によっても、エクステンション10の成型時に作用する面方向の圧縮力F1が複数のリブ22間で受け止めるので、シボムラの発生を抑制することができる。
【0046】
(第一変形例)
図7は本実施形態の第一変形例に係る車両用灯具のエクステンション10の部分拡大図である。本実施形態においては、意匠面10aに、外観の異なる2種類のシボ面21c,21dと、鏡面部20と、リブ22が設けられている。シボ面21c,21dを囲むようにリブ22が設けられ、シボ面21c,21dとリブ22との間に鏡面部20が設けられている。本実施形態のように、シボ面21c,21dとの間に鏡面部20が設けられるようにリブ22を形成してもよい。
【0047】
また、本実施形態によれば、リブ22によってシボ面21cの全周を囲んでいるので、シボ面21cを中心に引き寄せようと樹脂に作用する圧縮力F1に対して、リブ22によって全方向から反力F2を作用させることができる。これにより、シボ面21c全体に亘ってシボムラが生じることを効果的に抑制することができる。
【0048】
また、図示したように、外観の異なる2種類のシボ面21c,21dの境界にリブ22を設けても良い。異なるシボ面21c,21dの境界にリブ22を設けることにより、それぞれのシボ面21c,21dが強調されたエクステンション10を提供することができる。
【0049】
(第二変形例)
上述の実施形態では、略矩形状のシボ面21を挙げて説明したが、本発明はこの例に限られない。図8は、本発明の第二変形例に係る車両用灯具のエクステンション10の部分拡大図である。図8に示したエクステンション10のシボ面21eは略楕円形状に形成されており、リブ22はこのシボ面21eの外郭形状に沿って設けられている。このようにシボ面21eに沿った形状のリブ22を設けることにより、どのような形状のシボ面21eをデザインしても、シボムラの発生を抑制することができる。
【0050】
また図示したように、リブ22は、シボ面21eに対応する領域の外郭形状を連続的に囲むように形成せず、間欠的に囲むように形成してもよい。あるいは、意匠面10a上に延びる線状のリブ22に代えて、シボ面21eを囲むようにドーム状の突起を複数個形成してもよい。このようにリブ22や突起を形成しても、シボムラの発生を抑制することができる。
【0051】
(第三変形例)
また、上述の実施形態では、同一面上にシボ面21が設けられた例を挙げて説明したが、本発明はこの例に限られない。図9は、本実施形態の第三変形例に係る車両用灯具のエクステンション10の部分拡大斜視図である。
【0052】
図9に示す第三変形例に係る車両用灯具のエクステンション10には、意匠面10aが屈曲部17で交わる二つの面から構成されている。このように屈曲部17を介して接続された二つの意匠面10aのそれぞれにシボ面21f,21gを形成する場合には、屈曲部17の意匠面10a側にリブ22を設けてもよい。なお、本変形例では屈曲部17の山側を意匠面10aとし山側にリブ22を設けた例を挙げたが、屈曲部17の谷側を意匠面10aとし谷側から突出するようにリブ22を設けても良い。
【0053】
また、本変形例では、シボ面21f,21gを挟むようにリブを設けず、シボ面21f,21gの一辺側にのみリブ22を設けている。このようにリブ22を形成してもシボムラの発生を抑制できる。この場合、樹脂成形時には、冷却による圧縮力F1によってシボ面21f,21g全体がリブ22に向かって移動し、シボ面21f,21g全体に亘ってシボ面21f,21gの凸部21sが変形する。したがって、凸部21sが一様に変形するので、変形した凸部21sがシボムラとして視認されない。
【0054】
以上、本発明を実施形態及び第一〜三変形例を例に挙げて説明したが、本発明はこれらの例に限定されない。例えば、上述の例では、シボムラを抑制する部位にリブ22を用いたが、樹脂成形時の収縮力に対して反力を生じさせることができれば、リブ22に代えて突起や凸部を用いるようにしてもよい。
【0055】
また、上述の例では、樹脂製のリフレクタの表面をそのまま意匠面10aとして用いる例を挙げて説明したが、鏡面部20やシボ面21を備えるように形成された意匠面10aに金属蒸着処理を施し、光沢感を高めてもよい。
【0056】
また、上述の例では樹脂部品としてエクステンション10を例に挙げて説明したが、本発明は、インナーレンズやアウターレンズ、リフレクタ、ランプボディなど、光源の周囲に配置されて意匠面10aにシボ面21が形成される樹脂部品一般に適用できる。例えば、パラボラ光学系の車両用灯具において、リフレクタの配光に寄与しない領域にシボ面およびリブを設けても良い。あるいは、ランプボディの内面を灯具前方に露出させる場合には、意匠面としてのランプボディの内面にシボ面およびリブを設けても良い。このような場合にも、リブを設けることにより、シボ面にシボムラが生じることを抑制できる。
【0057】
また、上述の如くシボムラの発生を抑制するリブ22に、エクステンション10の外観意匠性を高めたり、あるいは、エクステンション10の剛性を補強する機能を持たせてもよい。
【0058】
また、上述の説明では本発明を車両用前照灯に適用した例を挙げて説明したが、車両用標識灯や車両用室内灯に適用してもよい。
【0059】
また、本実施形態に係る車両用灯具は4輪の車両に適用することもできるし、3輪や2輪の車両にも適用することができる。
【符号の説明】
【0060】
1:ランプボディ、2:アウターカバー、3:ハイビーム灯具ユニット、3a:投影レンズ、4:ロービーム灯具ユニット、4a:投影レンズ、4b:LED、4c:リフレクタ、5:ターンシグナルランプ、10:エクステンション、10a:意匠面、10b:非意匠面、11:底面部、12:傾斜部、13:第一円筒部、14:第二円筒部、20:鏡面部、21:シボ面、22:リブ、21a:第一シボ面、21b:第二シボ面、30:金型、31:シボ転写部、31a:凸部、40:下金型、41:シボ転写部、42:リブ形成凹部、43:側壁、50:上金型
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9