(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第2緊締部(2)が、体幹背面の中心位置にあたる胸椎11・12番、腰椎1・2・3番を中心として、体幹上方部を構成する胸郭両側方へ上向きの矢尻形状、及び骨盤側方に下向きの矢尻形状を成す様に、体幹背面の胸椎4〜12番、腰椎及び仙骨尾骨を被う範囲に配置されることを特徴とする請求項1記載のクライミング用トップス。
前記強緊締部が、腹直筋の中央から恥骨結合までの縦の範囲で、下方端は鼠脛靭帯に沿って恥骨結合まで、上方端は腹筋群の中心から腹斜筋の下方部で腸骨に付着する範囲に配置される第14緊締部(14)を有していることを特徴とする請求項4記載のクライミング用ボトムス。
第15緊締部(15)が、前方面が腸骨稜から上前腸骨棘と下前腸骨棘を含み、小転子の上方を押さえつつ、大腿前方を斜めに通過させ、膝関節の鵞足までの範囲で、膝関節の内側部全範囲を被うように配置されることを特徴とする請求項4又は5記載のクライミング用ボトムス。
第1緊締部(1)が、肘の上方、中心、下方の範囲にある腕橈骨関節、腕尺関節を円筒状に囲む範囲を含むように配置されることを特徴とする請求項1乃至3いずれか一つに記載のクライミング用トップス。
前記中緊締部が、脊柱起立筋が走行する胸背部の第9、10、11、12胸椎、第1腰椎の範囲で、その配置下にあるそれぞれの棘突起にあたる位置を縦長の楕円状に被うように配置される第10緊締部(10)を有することを特徴とする請求項1乃至3いずれか一つ又は8記載のクライミング用トップス。
前記中緊締部が、膝関節の中心位置で、大腿骨関節面の中心位置下にある膝蓋骨を、膝関節の内側部の中間から、側方に位置する膝蓋骨の中心を通過し、膝関節外側部の中間辺りまでの範囲を被うように配置される第23緊締部(23)を有し、
前記強緊締部が、大腿四頭筋が最も細くなり膝蓋骨を有する腱へ移行する位置を被うように膝蓋骨上方に三角形の形状に配置される第24緊締部(24)と、第24緊締部(24)とは膝頭と対象位置に配置される逆三角形の形状の第25緊締部(25)とを有し、
前記最強緊締部が、第23緊締部(23)、第24緊締部(24)及び第25緊締部(25)を側方から挟み込むように隣接して配置される第21緊締部(21)及び第19緊締部(19)を有していることを特徴とする請求項4乃至7いずれか一つに記載のクライミング用ボトムス。
さらに、前記強緊締部が、第23緊締部(23)、第24緊締部(24)及び第25緊締部(25)を側方から挟み込むように隣接して配置される第20緊締部(20)及び第22緊締部(22)を有していることを特徴とする請求項10記載のクライミング用ボトムス。
前記最強緊締部が、股関節の上方・中心・下方を含む範囲を被うように配置される第14緊締部(14)を有し、前記強緊締部が、腸骨の内側で仙骨を含む範囲に配置される第16緊締部(16)を有していることを特徴とする請求項10又は11記載のクライミング用ボトムス。
前記強緊締部が、大腿部後面の近位から中央の範囲を被うように配置される第18緊締部(18)と、大腿後方にあるハムストリング筋の半腱様筋、半膜様筋の中間辺りを被うように配置される第26緊締部(26)とを有し、
前記中緊締部が、大腿後面の中央部の遠位辺りで第18緊締部(18)と第26緊締部(26)によって上下から挟まれる位置に配置される第27緊締部(27)を有し、
前記最強緊締部が、第14緊締部(14)と股関節後方で繋ぎ目なく配置され、その位置から坐骨上と大殿筋下方部の一部を通過し、そのまま同幅を保ちながら恥骨結合下にある恥骨筋、短内転筋の全域を被い、その直下にある長内転筋、大内転筋、薄筋の上方部を被う位置に配置される第15緊締部(15)と、膝関節の後方部を全域被うように配置される第17緊締部(17)とを有し、
第15緊締部(15)、第18緊締部(18)、第27緊締部(27)、第26緊締部(26)、第17緊締部(17)の順で途切れることなく配置されることを特徴とする請求項12記載のクライミング用ボトムス。
前記最強緊締部が、膝関節の後方部を全域被うように配置される第17緊締部(17)と、アキレス腱からその上方の筋腱移行部上方辺りまでを被うように配置される第28緊締部(28)とを有し、
前記中緊締部が、第28緊締部(28)の上方で筋腹が最も多い位置を被うように配置される第30緊締部(30)を有し、
前記強緊締部が、第30緊締部(30)の上方で筋腹が小さくなる位置を被うように配置される第29緊締部(29)を有し、
第17緊締部(17)、第29緊締部(29)、第30緊締部(30)、第28緊締部(28)の順で途切れることなく配置されることを特徴とする請求項12又は13記載のクライミング用ボトムス。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、本発明に係るクライミング用トップス及びクライミング用ボトムスについて、図面を参照しながら説明する。
【0043】
(トップス)
本発明のクライミング用トップスは、着用者の上半身及び腰部を被覆して着用者の体表面にフィットするとともに、緊締力の大きさが異なる複数の領域を備えている。
この複数の領域は、少なくとも、中緊締力(B)を有する中緊締部、強緊締力(A)を有する強緊締部、最強緊締力(G)を有する最強緊締部を含み、中緊締力(B)、強緊締力(A)、最強緊締力(G)は、G>A>Bの関係を満たしている。
【0044】
本実施形態のトップスは
図1及び
図3に示すように、胴体部と胴体部に縫合された左右一対の腕部を持つシャツ型のクライミング専用コンディショニングウェアである。
本トップスは、脱着しやすいように襟首から胸元にかけて縦方向にファスナーを縫合し、取り付けることに成功しているが、襟首からトップスの最下部まで縦方向に取り付けることも可能であり、ファスナーはあってもなくても良く、また、着用後にファスナーを締めれば、このファスナーの取り付けによって、本トップスの機能効果が左右されることはない。
【0045】
本実施形態のボトムスは
図2及び
図4に示すように、腰部と、腰部に隣接する左右一対の脚部を持つ履き込み型のパンツである。
図2に示すボトムスは、ファスナーを取り付けてはいないが、下腹部中心の前方に縦方向に縫合し、取り付けることは技術的に可能である。
【0046】
<最強緊締力(G)、強緊締力(A)、中緊締力(B)、弱緊締力(C)の形成方法>
本実施形態のトップス及びボトムスは、いずれも伸縮性を持つ編地からなる衣料であり、人体の体表面にフィットして人体の所定の部位に緊締力を付与する。ここで、本発明における「緊締力」とは、生地の伸縮力によって生じる着圧のことを指し、着用者の筋肉や靭帯を締めつけて筋肉や靭帯、及び筋肉や靭帯が付着する骨格を制動するような力のことを言うものである。
本明細書において、弱緊締力(C)を有する弱緊締部は、編地を10cm四方に切り取り編地の上端の左右を固定し、下端に150gのクリップ式のマグネットを挟み、最も伸び難い縦方向の編地がマグネットの重みで何mm垂れ下がるか、つまり、縦方向の伸張力を測定したときの伸びが35〜40mmであり、中緊締力(B)を有する中緊締部は弱緊締部の60〜80%の伸び、強緊締力(A)を有する強緊締部は弱緊締部の40〜70%の伸び、最強緊締力(G)を有する最強緊締部の伸びは弱緊締部の20〜50%の伸びである。
【0047】
本実施形態に使用された編地はナイロン系繊維、ポリエステル系繊維、ポリウレタン系繊維を素材とする混合繊維であり、本実施形態のトップス及びボトムスに使用された編地は、全て縦方向に伸縮し難く、横方向にやや伸縮しやすく、斜め方向に伸縮しやすいように設定されている。
本実施形態のトップス及びボトムスは、
図1〜
図4に示すように、互いに伸縮度合いの
異なる4種類の緊締部を備えている。即ち、最強の伸縮力を持つ最強緊締力(G)を持つ最強緊締部、強の伸縮力を持つ強緊締力(A)を持つ強緊締部、中の伸縮力を持つ中緊締力(B)を持つ中緊締部、弱の伸縮力を持つ弱緊締力(C)を持つ弱緊締部を備えており、緊締力の強さの関係がG>A>B>Cとなっている。
【0048】
本実施形態のトップス及びボトムスの生地は、無縫製横型編機によって製造される。そして、当該無縫製横型編機による生地の製造工程において、4種類の編分けを行うことにより、完成させた生地に互いに伸縮度合いが異なる4種類の緊締部が形成される。
【0049】
本実施形態のトップス及びボトムスは、上記無縫製横型編機による製造に限定されるものではなく、生地の伸縮度合いの異なる緊締力を持つ緊締部を備える生地であれば、他の製造方法であってもよい。
また、素材の生地は該混合繊維に限定されるものではなく、伸縮度合いの異なる緊締力を持つ緊締部を備えることが可能であれば、他の生地であってもよい。
【0050】
クライミングで考慮しなければならないポイントの第一は、人間の特徴とする2本の脚での立脚での体重移動手段ではなく、四つ脚、いわゆる四肢を使って四つ這い前傾姿勢での体重移動となることである。その四つ這い前傾姿勢での体重移動も平坦な地面ではなく、傾斜角を持つ斜面であるところに、四肢への仕事量が2本脚での歩行による移動より増幅される点である。
そして、クライミングの特徴である「四肢を活用して岩壁を登ること」は、傾斜角が鋭角であればあるほど大きな力を必要とし、また体重を重力に抗して運ぶことを必要とする。
よって、クライミング用トップスに求められる第1の機能は、その荷重ストレスを受ける肩後方面の安定力と肘周囲の安定力を連係させた安定機能を保護することである。
【0051】
[実施形態1]
以下、肩後方面の安定力の向上について、実施形態1のクライミング用トップスにて説明する。
【0052】
肩後方面の安定力を向上させるためには、肩運動の円滑さと、強い肩の保持が求められる。肩運動に関わるアウターマッスルは僧帽筋と広背筋、三角筋などである。
【0053】
図13の(a)は、上半身の筋肉の正面図であり、
図13の(b)は、その背面図である。
図14の(a)は、上半身の骨格の正面図であり、
図14の(b)は、その背面図である。
僧帽筋(M1)は上部線維(M1a)・中部線維(M1b)・下部線維(M1c)に分かれ、それぞれの付着部が異なることから、その働きも異なっている。上部線維(M1a)は肩甲骨(B1)の挙上、中部線維(M1b)は肩甲骨(B1)の内・外転、下部線維(M1c)は肩甲骨(B1)の下制に作用している。その中でも僧帽筋下部線維(M1c)は、腕の挙上時に肩甲骨(B1)を上方回旋する重要な役割を担っている。従って、上腕の挙上の円滑さは、上腕骨(B2)の受け皿としての作用を成す肩甲骨(B1)の上方回旋の良好さがカギとなる。このことから、肩挙上動作が主体となるクライミングで最も重要なのは、僧帽筋下部線維(M1c)の筋収縮力向上であると言える。
【0054】
図1の(a)は、本発明の実施形態1のクライミング用トップスの正面図であり、
図1の(b)はその背面図である。
僧帽筋下部線維(M1c)の筋収縮力向上のために、本発明のクライミング用トップスは、僧帽筋下部線維(M1c)を被う範囲に最強緊締力(G)を有する第2緊締部(2)を配置している。
これにより、僧帽筋下部線維(M1c)の収縮力をサポートすることができ、肩甲骨(B1)の上方回旋を円滑化し、上腕骨(B2)の挙上に対して肩甲骨関節窩(B3)も対応しやすくなる。
【0055】
本発明のクライミング用トップスは、僧帽筋上部線維(M1a)及び中部線維(M1b)と、三角筋の後部線維(M3c)及び三角筋の前部線維(M3a)とを被う範囲に配置される第1a緊締部(1a)を備えており、第1a緊締部(1a)は強緊締力(A)を備えている。
尚、
図1〜12において、左右片側のみ符号を付しているが、左右対称位置の領域も同じ緊締部である。
【0056】
肩甲骨(B1)は、前傾姿勢により胸郭面から離れる外転と上方回旋を成す。
しかし、最強緊締力(G)を有する第2緊締部(2)及び強緊締力(A)を有する第1a緊締部(1a)により、肩甲骨(B1)の下角(B1b)から斜め上方の肩峰(B1a)の方向の肩甲骨の全面積を上方から押さえることができる。これにより、肩甲骨(B1)の上方回旋と僧帽筋下部線維(M1c)の収縮作用をサポートすることが可能となる。また、肩甲骨(B1)の上方回旋を起こしやすく、元に戻るときの同筋肉の伸張性収縮力から生まれる下方回旋も同時に起こしやすくすることができる。
【0057】
肩挙上動作と前方屈曲位で岩などの突起物を掴み、体重を上方へ移動させるクライミングにとって、肩の過度な挙上を制御し、肩の安定にとって大切な肩甲骨関節窩(B3)に上腕骨(B2)をはめ込むゼロポジション近位置へ導くことが求められる。
上記ゼロポジション近位置とは、肩甲骨関節窩面(B3)に上腕骨(B2)の骨頭(B1c)がはまり、支点としての肩の位置が安定し、肩周囲のインナーマッスルによって求心的な力を引き出せ、上腕骨(B2)が動きやすくなる位置を言い、肩外転約90度から約120度の範囲を指す。
【0058】
肩挙上動作時にゼロポジション近位置を外れる要因の一つに、肩甲骨関節窩(B3)より上腕骨頭(B1c)が挙がり過ぎ、外れることが考えられる。
そこで、強緊締力(A)を有する第1a緊締部(1a)が僧帽筋上部線維(M1a)及び中部線維(M1b)と、三角筋の後部線維(M3c)及び三角筋の前部線維(M3a)とを被う範囲に配置されることにより、肩甲骨(B1)上方から肩関節(B15)の上方にある三角筋全域を押さえることができ、これにより、肩甲骨関節窩(B3)から上腕骨頭(B1c)が上方へずれる作用を制御する効果が得られ、肩挙上運動の円滑性が引き出すことが可能となる。
【0059】
上記の肩運動を安定させ、円滑にする効果が腕の挙上動作の土台となる肩甲骨(B1)の上方回旋と下方回旋をしやすくさせるとともに、肩甲骨の下角(B1b)を斜めに押さえる最強緊締力(G)を有する第2緊締部(2)を配置したことで、胸郭から肩甲骨(B1)が離れる肩甲骨外転運動を制御し、円背姿勢の改善も可能にした。
【0060】
また、上記の円背姿勢の改善効果と、肩甲骨(B1)の上方回旋と下方回旋を良好にし、腕の挙上動作を軽快にする第1a緊締部(1a)の配置設定は、クライミングの胸部姿勢を安定させ、腕を体幹の前、即ち肩屈曲位で力を発揮し、岩などを登る時に必要とする力を発揮する肩後方面の棘下筋(M5)、僧帽筋中部線維(M1b)及び下部線維(M1c)のエキセントリック収縮をサポートすることを可能にした。
これらの作用は、岩などを登る時の四肢(両上肢と両下肢)を安定させるとともに、疲労を軽減させ、上肢の力をクライミングに活用しやすくする効果が期待できると言える。
【0061】
さらに、上記の効果が、過度な腕の挙上動作で招くインピンジメント症候群を予防し、肩上方にある棘上筋(M6)への圧迫リスクを緩和させることができる。よって、クライミングによる肩のスポーツ障害予防が期待できる。
【0062】
僧帽筋上部線維(M1a)辺りは、下部線維(M1c)に配置した第2緊締部(2)の最強緊締力(G)よりも緊締力の弱い、強緊締力(A)を持つ第1a緊締部(1a)を配置した。この設定は、僧帽筋上部線維(M1a)に最強緊締力(G)を持つ編地を配置した場合、肩甲骨(B1)が挙上し過ぎ、肩すくめ状態に陥るからである。
また、上記の僧帽筋上部線維(M1a)への第1a緊締部(1a)の配置は、肩甲骨(B1)を上方から押さえるレベルの範囲とし、筋収縮力を必要以上に発揮させ、肩甲骨挙上を過度に誘導するレベルとはしない。
このことを考慮し、僧帽筋上部線維(M1a)の拮抗方向に作用する僧帽筋下部線維(M1c)には、最強緊締力(G)を持つ第2緊締部(2)の編地を配置した。その上と下の緊締力の差と変化により、上腕骨(B2)の挙上にともなう肩甲骨(B1)の上方回旋を円滑化させる効果を引き出すことができる。
【0063】
次に、肘周囲の安定力の向上について説明する。
【0064】
本発明のクライミング用トップスは、上記の肩安定機能に加え、肘関節(B21)の安定性を図る機能を搭載している。
クライミングにおいて、肘は、岩などの突起物を掴む時に肘関節(B21)の回内運動が求められ、常に肘伸展位から肘屈曲位という屈伸運動が必要となる。
【0065】
上記の肘屈伸運動の円滑性と、手で突起物を掴む肘の回内運動をサポートする設定として、肩運動に関わる僧帽筋上部線維(M1a)及び中部線維(M1b)と、三角筋の後部線維(M3c)及び前部線維(M3a)を被う範囲に配置した強緊締力(A)を持つ編地(第1a緊締部(1a))の該緊締力を途切れることなく上腕の外側を通過させ、肘周囲を取り巻きつつ前腕の内側を通過させ、手関節(B33)近傍まで繋ぎ、上腕骨(B2)上方から外側に繋がる肘周囲全域に強緊締力(A)を持つ編地を第1b緊締部(1b)として配置した。
この第1a緊締部(1a)及び第1b緊締部(1b)により、肘周囲の安定性を向上させることができる。
上記第2緊締部(2)、第1a緊締部(1a)及び第1b緊締部(1b)により、クライミング時に求められる上肢を使った体重移動で最も荷重ストレスがかかる肩後方面の安定力と肘周囲の安定力を連係させた安定機能が確保できる。
尚、肘に不安や故障歴のある人は、第1b緊締部(1b)を最強緊締力(G)を有する最強緊締部とすることがより好ましい。
【0066】
以下、骨盤の安定性の向上について説明する。
【0067】
クライミングは四肢、即ち両上肢と両下肢を交互に活用し、体幹のバランスをとりながら重力に抗して傾斜角のある壁面を登るスポーツである。この時、体幹は不安定となるが、両上肢または片上肢、両下肢または片下肢を使い、4点もしくはいずれか3点または片上肢と片下肢の2点で体を支えながら体重を上方へ運んで行く。
この特殊なスポーツで体幹の安定が損なわれれば、足は岩などの突起物を踏み外す危険性も生まれる。
よって、クライミング専用のトップスとしては、体幹を安定させる機能が必要である。
【0068】
体幹の安定を図る上で、骨盤の安定性を向上させることが必要となる。
骨盤は体幹の軸となる背骨の土台となる仙骨(B7)を有し、その仙骨(B7)の傾きは骨盤の傾きに委ねられている。また、骨盤の腸骨(B11)、坐骨(B28)、恥骨には体幹筋群が付着し、体幹筋群の筋力や柔軟性にとって、骨盤の安定性は大きな影響を与える特性を持っている。よって、骨盤の安定性を向上させることにより、体幹の安定性を向上させることができる。
【0069】
例えば、骨盤が歪んでいると、体幹筋群の背面にある脊柱起立筋(M7)の柔軟性が低下する。あるいは、体幹前方面にある腹筋群の筋力や柔軟性が低下することが知られている。この機能特性は、前屈動作や回旋に支障を来たし、可動域制限を起こすリスクを生じる。
【0070】
骨盤の安定性を引き出すには、体幹を安定させる矢状面・前額面・水平面(3D)で姿勢バランスを整えることが必要である。なぜなら、人間の動きは一つの体幹に対して両上肢と両下肢が同側に動く、対側に動くことで、様々な動作を作り出し、パフォーマンスを可能にしている。そこで、体幹を構築する背骨を中心とする前方(腹筋群)と後方(背筋群)の3対7のバランス(矢状面)、背骨を中心に左右5対5の筋バランス(前額面)、水平面は前述の2つの姿勢を構築する対比バランスが整うことで得られることから、矢状面と前額面の姿勢バランスを整える設定を発明した。
【0071】
図1(b)に示すように、本発明の実施形態1のクライミング用トップスには、体幹背面の中心位置にあたる胸椎(B14)11・12番、腰椎(B6)1・2・3番を中心として、体幹上方部を構成する胸郭両側方へ上向きの矢尻形状、及び骨盤側方に下向きの矢尻形状を成す様に、体幹背面の胸椎(B14)4〜12番、腰椎(B6)及び仙骨(B7)、尾骨(B8)を被う範囲に、最強緊締力(G)を有する第2緊締部(2)の編地を配置している。
【0072】
本発明の実施形態1のクライミング用トップスは、体幹前面側の胸骨(B9)から腰椎(B6)1番を被う範囲に配置される第4緊締部(4)を備えている。第4緊締部(4)は弱緊締力(C)を有し、中緊締力(B)>弱緊締力(C)の関係を満たしている。
そして、ウエスト周囲方向において体幹後面側の第2緊締部(2)から第4緊締部(4)へ向かうに従い、段階的に緊締力が小さくなるように構成している。
図1(b)に示されるように、本発明の実施形態1のクライミング用トップスは、縦方向は前面側の胸骨(B9)から腰椎(B6)の1番に相当する位置まで、及び横方向は胸骨(B9)の幅を被う範囲に弱緊締力(C)を有する第4緊締部(4)を配置し、前面側の肋骨(B10)第1〜7番を被う範囲に中緊締力(B)を有する第3緊締部(3)を配置している。
これにより、四つ這い前傾位をとることで招く胸郭後弯角の増強を抑制させることが可能となる。
【0073】
また、上記第2緊締部(2)の設定により、四つ這い前傾位をとることで招く腰背部筋の緩みに対し、腰椎(B6)1番から5番までを被う範囲から仙骨(B7)、尾骨(B8)までに配置した第2緊締部(2)の最強緊締力(G)が、腰背部筋の緩みを抑制するとともに、骨盤後弯角を抑制する効果を奏し、本来人間が示す腰椎部の弯曲である前弯角が得られることを可能にする。
【0074】
上記の胸郭後弯角の増強を抑制する設定と、骨盤後弯角の増強を抑制する設定を本発明のクライミング用トップスに搭載したことで、2つの矢状面の弯曲改善効果を発揮することができる。
この効果が、クライミングによる習慣性胸椎後弯角増強と骨盤後弯角増強、いわゆるスポーツ特性姿勢を改善する効果を引き出し、前方(腹筋群)と後方(背筋群)の3対7のバランス(矢状面)を整えることができる。これにより、骨盤の安定性及び体幹の安定性を向上させることができる。
また、クライミング以外の日常生活においては基本姿勢で示す胸椎・腰椎(B6)・仙骨(B7)の弯曲バランスを良好にし、健康的な生活が送れるサポートウェアとすることができる。
【0075】
また、前額面の姿勢の崩れは、左右の筋バランスの崩れから生まれる左右の胸部の位置の崩れ、つまり右肩下がりと左肩上がり、またはその逆の右肩上がりと左肩下がりとして表れる側弯を引き起こす。
体幹の土台となる骨盤には背骨を両サイドから支える背筋群と腰部筋群が付着し、その末端が胸部を構成する肋骨(B10)・胸骨(B9)・胸椎骨(B14)に付着している。
図1(a)に示すように、本発明の実施形態1のクライミング用トップスは、胸部の上方から骨盤の両側方にある腸骨(B11)までの縦の面積に対し、第1a緊締部(1a)から続くように胸郭部の両下方の側方に、強緊締力(A)を持つ第5緊締部(5)を配置した。
また、肩峰(B1a)から対角の腸骨(B11)へ斜め下方に間欠的に緊締力が発揮できるように、強緊締力(A)を持つ第6緊締部(6)を配置した。
【0076】
この対側の腸骨(B11)を側方より第6緊締部(6)の2つの強緊締力(A)が間欠的に作用するように設定したことにより、胸椎(B14)から胸部と骨盤を繋ぐ筋群が短縮性収縮力を発揮しやすくなった。
この左右の第6緊締部(6)の体側の強緊締力(A)が体幹の左右を支える腰背部筋の緊張を整える作用効果を示し、右肩下がり、または左肩下がりを改善し、骨盤の左右の高さを整える効果が生まれた。
【0077】
上記体幹の左右の筋バランスが良好になったことに加え、体幹側方のウエスト部分を一部分、強緊締力(A)よりも弱い中緊締力(B)を持つ第7緊締部(7)の編地を配置したことで、背骨を中心とする体幹回旋力が良好となり、水平面での骨盤バランスが良好となった。
よって、本発明の実施形態1のクライミング用トップスは、体幹を構築する背骨を中心とする前方(腹筋群)と後方(背筋群)の3対7のバランス(矢状面)、背骨を中心に左右5対5の筋バランス(前額面)、及び水平面は前述の2つの姿勢を構築する対比バランスを整えることができ、骨盤の安定性及び体幹の安定性を向上させることができる。
【0078】
さらに、最強緊締力(G)を持つ第2緊締部(2)の作用効果として、縦幅を背骨の10・11・12番の胸椎に位置する胸郭部に付着する脊柱起立筋(M7)から、その直下方向を脊柱起立筋(M7)の走行に沿って、腰椎(B6)1・2・3・4・5番、仙骨(B7)1・2・3・4・5番の全域を被い、横幅は背骨を中心に両側にある脊柱起立筋群(最長筋・腸肋筋・棘筋)を補う幅を持つ範囲に配置したことにより、この作用効果が、前傾姿勢時のエネルギーとなる収縮力(伸びながらも常に収縮する力)をサポートする効果が得られ、脊柱起立筋(M7)に求められる山登り体勢をキープしやすくすることを可能にした。
これは、前傾姿勢で脊柱起立筋(M7)は伸びながら力を発揮するエキセントリック収縮力を発揮するが、第2緊締部(2)の最強緊締力(G)がその筋収縮方向に拮抗する力として作用し、常に立位を基本とする方向にもどす力、即ち、短縮性収縮力として作用する力を生み出すからである。
【0079】
また、上記作用効果が、前傾姿勢により起こる脊柱起立筋(M7)の筋疲労軽減効果につながり、腰痛要因にもなる腰部筋の疲労緩和効果を得ることを可能にした。従って、前傾姿勢による筋疲労が引き金となる腰痛発生率の低下も期待できると言える。
【0080】
前傾姿勢を保ちつつ、手で岩などの突起物を掴み、登って行くクライミングでは、腕の挙上動作も加わり、手で上体の重みを運ぶ役割が求められる。この動作は、腕と腰部を繋ぐ広背筋(M8)の収縮力も必要となる。
【0081】
広背筋(M8)は腸骨(B11)の上縁から全腰椎(B6)と第6〜12の胸椎(B14)の棘突起、仙骨(B7)の棘突起から体側を走行し、胸郭の側方を通り、両腕の上腕骨小結節稜に付着している。広背筋(M8)は背骨を両側から支え、背骨と骨盤を安定させ、体幹バランスをとりつつ、体幹と腕を繋ぐ役割を果たしている。よって、前傾姿勢で挙上する動作も加われば、広背筋(M8)は脊柱起立筋(M7)とともに伸張性収縮力の持続力が求められる。
この機能特性から広背筋(M8)の伸張力をサポートすることも腕の力を軽快に発揮しつつ、肩の可動域を広める作用にも効果を示すと考え、脊柱起立筋(M7)と同収縮方向に作用する強緊締力(A)を持つ編地を第3緊締部(3)として配置し、最強緊締力(G)を持つ第2緊締部(2)と連係して作用するように繋げた。
【0082】
また、股関節(B48)及び腹斜筋(M12、M13)に作用するように、強緊締力(A)を有する第6a緊締部(6a)を配置した。
そして、腹直筋(M11)の緊張を促すとともに、腰背部の最強緊締部の配置に対し、矢状面のバランスをとるために、左右の第6a緊締部(6a)に挟まれた腹直筋(M11)が走行する腹部前方部は適圧となる中緊締力(B)を持つ第10緊締部(10)を配置した(
図1(a)参照)。
また、股関節(B48)及び大殿筋(M22)周囲に配置した左右の第6b緊締部(6b)は、強緊締力(A)を設定し、大殿筋(M22)の緊張を促すとともに、大殿筋(M22)を押さえ過ぎ、歩行動作に支障をきたさないように、後面側の仙骨(B7)の下部で尾骨(B8)の両側辺りは適圧となる中緊締力(B)を持つ第11緊締部(11)を配置した(
図1(b)参照)。
さらに、鎖骨運動と頚部の上下、左右の動きをしやすくするために、頸椎(B13)5・6・7番辺りで頚部筋のインナーマッスルと僧帽筋上部線維(M1a)が付着する辺りは、適圧となる中緊締力(B)を持つ第12緊締部(12)を配置した。鎖骨(B16)は肩運動にともない、上方・下方・回旋・前方・後方に動き、肩鎖関節(B18)を介して肩甲骨(B1)を動かしている。肩甲骨(B1)が動く時に作用する肩甲胸郭関節と、肩甲骨(B1)と鎖骨(B16)で成す肩鎖関節(B18)は重要な役割を担っており、その肩甲胸郭関節を円滑にするのが肩甲骨周囲の筋肉と鎖骨運動である。
また、上腕の内側部に配置した第8緊締部(8)は、上腕二頭筋(M9)の筋腹が膨張しやすいように適圧となる中緊締力(B)を設定した。
【0083】
(ボトムス)
以下、クライミング用ボトムスについて説明する。
【0084】
クライミングで活用する足で突起を踏み、次の突起を目指して登る動作は、股関節(B48)の屈曲・外転・外旋・内転・内旋などの柔軟な動きが求められる。特に、登る動作時は脚を上方へ踏み出す股関節屈曲筋と、その突起が体幹より外にあれば股関節外転筋と外旋筋も重要な筋肉として作用する。
大半は、この股関節屈曲筋と股関節外転・外旋筋により、突起を踏み、次の突起へ着地させる。この股関節屈曲位と股関節外転・外旋運動を連動させる複合的動作は、股関節(B48)の安定性にとって、欠かせない運動となる。
そこで、股関節(B48)の安定性を確保する機能を持たせることが、クライミング専用ボトムスにとって、第1の重要性を持つと考えられる。
【0085】
第2は、足で突起を踏み、次の突起へ足を運ぶ動作で膝を屈曲させ、その膝を軸に対側の足を運ぶ。この動作時での膝関節(B49)は、膝関節(B49)の組織にとって一番牽引・圧迫ストレスを受ける膝屈曲位で行われる。
そこで、膝屈曲位で膝関節(B49)を安定させる機能は、クライミングを円滑に行なうためにも重要な要素となる。
【0086】
第3のクライミングのポイントは、着地した突起を膝屈曲位で保持し、片側の脚で体重を支え、両腕でしっかり突起をつかみ、対側の脚を次の突起へ運ぶときに、大腿四頭筋が伸ばされながら収縮(エキセントリック収縮)し、体重を支えなければ対側の足を運ぶ動作が困難となり、クライミングのリズムが崩れる。
そこで、クライミング用のボトムスに求められる要素として挙げられるのが、大腿四頭筋のエキセントリック収縮時での保持力をサポートする機能である。
【0087】
また、大腿四頭筋のエキセントリック収縮の保持力と同等に重要なのが、股関節屈曲位で招く、殿筋群からハムストリング筋の上方部の筋群のエキセントリック収縮力である。この殿筋群からハムストリング筋の上方部の筋群のエキセントリック収縮時のサポートも、股関節屈曲動作を保ち、突起を踏み、軸脚となり、バランスをとる重心安定には欠かせない。従って、殿筋群からハムストリング筋の上方部の筋群のエキセントリック収縮力をサポートする機能がボトムスに求められる。
【0088】
クライミング時の股関節安定力、股関節(B48)の屈曲位にともなう殿筋からハムストリング筋の上方部の筋群のエキセントリック収縮力へのサポート機能、そして突起を踏み、対側の突起へ一方の足を踏み出す際の軸関節となる膝関節(B49)の安定機能、膝関節屈曲位で求められる大腿四頭筋のエキセントリック収縮力のサポート機能に加え、下肢の最下方となる足関節(B50)の安定と踏み出すときの突起の蹴りと着地時のコントロールをする足指筋がある下腿後面筋へのサポートをすることも重要である。
【0089】
また、クライミングで岩壁を登っていく際に求められる体幹の安定力は、骨盤に体幹筋(背筋・腹筋群)が付着することから重要となる。
骨盤がニュートラルな位置にない場合、骨盤上方に付着する体幹筋の左右どちらかに緊張性の差が生じていることを表し、非対称的に突起を踏み、対側の足を踏み出す時に体幹の側方への傾きが生じやすく、下肢機能の円滑性が望めなくなる。
その理由から、クライミングにとって最大のポイントとなる骨盤安定効果が得られる下記の設定を行った。
【0090】
骨盤を構成する腸骨(B11)・仙骨(B7)・恥骨・坐骨(B28)は、体幹筋の腹筋群と背筋群の起始部を持つ。その体幹筋は、骨盤の上方にある胸郭部の肋骨(B10)と骨盤、腰椎(B6)と骨盤を繋ぐ筋群から構成されている。背筋群の広背筋(M8)(腕骨小結節稜から胸椎及び腰椎(B6)へ斜め方向に走行)を除けば、前傾位での重要なパワーを出す脊柱起立筋(M7)などの筋群は縦走筋で、矢状方向に付着している。主にクライミングでは前傾位をとることから、伸展性の収縮力を常に発揮し、体勢を整えなければならない。また、前傾姿勢をとる動作と連動して、突起を足で踏み続ける脚の動作が、股関節屈曲位で行われる。この二つの要素の動作が重なり、骨盤は後弯角が増幅する。
従って、この骨盤後弯角の増幅は、骨盤上方に付着する脊柱起立筋(M7)などの筋群を伸ばしやすく、仙骨(B7)を中心に両腸骨(B11)で構成される仙腸関節(B22)への緩みを招きやすくなると考えられる。
【0091】
そこで、クライミングのボトムスに求められる骨盤安定機能は、仙腸関節(B22)の安定機能を引き出せる設定が必要である。骨盤の安定作用を引き出す考え方として、仙腸関節(B22)の緩みを制御する設定が必要であるので、仙骨面に対し両腸骨(B11)の上・下のずれを改善し、腸骨稜(B29)の上方線の左右差を整える。この腸骨稜(B29)の高さを整えることで、骨盤に付着する筋群(背筋群)も、左右ほぼ均等な力を発揮でき、クライミング時に求められる骨盤安定効果も得られ、クライミングに必要となる重心も安定させやすい専用ボトムスとして提供できる。
【0092】
[実施形態2]
以下、実施形態2のクライミング用ボトムスについて、図面を参照しながら説明する。
【0093】
図2の(a)は、本発明の実施形態2のクライミング用ボトムスの正面図であり、
図2の(b)は、その背面図である。
【0094】
仙骨(B7)中心から両側にある腸骨(B11)に対称に配置した第13緊締部(13)は、本ボトムスが課題とする腸骨(B11)の左右差のずれを制御することを可能とする。それは、仙骨(B7)と腸骨(B11)で成す仙腸関節(B22)の両側を上方より押さえる縦の長さを有し、第1仙椎から第5仙椎の棘突起を中心に両サイドへ対称的に最強の緊締力(G)の編地を配置した。
この第13緊締部(13)は、仙骨(B7)中心の棘突起を中心に両側の仙腸関節(B22)上を通し、後上腸骨棘(B38)から腸骨上方部の外唇(B12)を含む位置までの幅とした。縦幅は、中心部は仙骨(B7)上方から尾骨(第1〜3)を含む背骨の最下位置までとし、大殿筋(M22)の下方部で筋腹の少ない位置(強緊締力(A)を有する第17緊締部(17))は含まない範囲とした。第13緊締部(13)の外側で下方は、大殿筋(M22)の付着部である大腿骨殿筋粗面(B45)を一部含む範囲とした。
【0095】
第15緊締部(15)上方端は、腸骨稜(B29)の前方を全域被う範囲から腸骨稜(B29)の側方で腸骨稜(B29)の外唇(B12)に付着する中殿筋(M20)と大腿筋膜張筋(M30)の範囲とし、その下方にある大転子の上方、中心、下方、そして殿筋粗面(B45)の一部を押さえつつ腸脛靭帯(M31)の上方端の一部を保護し、腸脛靭帯(M31)の上方部で大腿外側の上方を含む長さに配置した。前方面は腸骨稜(B29)から上前腸骨棘(B34)と下前腸骨棘(B35)を含み、小転子(B31)の上方を押さえつつ、大腿前方を斜めに通過させ、膝関節(B49)の鵞足(B43)までとした。第15緊締部(15)の大腿部前方の幅は大腿直筋(M49)の上方から中間を斜めに圧力が加わる位置とし、その延長線上に第15緊締部(15)を延ばし、大腿内側部にある股関節内転筋群(恥骨筋(M27)・短内転筋(M16)・長内転筋(M53)・大内転筋(M37)・薄筋(M36))の全面積を被う位置に配置した。第15緊締部(15)の最下方は縫工筋(M14)の付着部の鵞足(B43)で止めたことで、その上方に位置する内側側副靭帯(B51)を全長被う位置となった。
【0096】
第15緊締部(15)の最下方は膝内側部を通し、鵞足(B43)で止めたことで、その配置下の内側側副靭帯(B51)をサポートした。また、鵞足(B43)に位置する第15緊締部(15)側部の配置面積は、膝蓋骨(B53)を含まず、内側側副靭帯(B51)を被う幅とした。膝蓋骨下では脛骨(B56)の上方で内顆全体を被う範囲に配置し、脛骨中心の脛骨粗面(B42)を含む位置とした。
【0097】
体幹が屈曲、伸展位をとる時、背骨の土台である仙骨(B7)は、腸骨面で上方、あるいは下方に滑りを成す。クライミング時の骨盤後弯角の増大は、骨盤から体幹が前屈し、腸骨(B11)に対して仙骨(B7)が上方へ滑る動きをする。この前屈に加え、体幹を左右に傾かせる動作が加われば、腸骨面で滑る仙骨(B7)の動きも制限され、体幹も傾き、腸骨(B11)の位置も変化する。
そこで、仙腸関節(B22)面で起こる仙骨(B7)の滑りを円滑に起こすために、腸骨面と仙骨面を固定させ、仙骨(B7)の動きにずれがうまれないように安定させる方法を考え、本ボトムスに仙腸関節(B22)ベルト効果を得るために、仙腸関節(B22)を周囲から取り巻く方法を用いた。
【0098】
仙骨(B7)と腸骨(B11)で成す仙腸関節(B22)の安定は、仙骨(B7)を挟むようにある腸骨(B11)の位置を安定させることにも繋がる。
従来から提供されている骨盤安定法の1つに仙腸関節ベルトや骨盤ベルトがある。その2つのベルトを骨盤周囲に装着することも日常生活においては骨盤安定効果を得る方法として良策かもしれない。しかし、クライミングでは脚を大きく上方へ振り上げる時の股関節屈曲位や、脚を側方に置き突起に足をかける時の股関節外転・外旋位など、骨盤を中心として両脚の位置を大幅に変化させなければならない。勿論、脚の位置変化とともに体勢の変化も生じて来る。このような脚使いや体勢使いがあるクライミングにおいては、骨盤周囲を取り巻く強い圧力を持つベルトは装着しにくく、ベルトの位置もずれやすい。また、骨盤の周囲を巻く装着型ゆえに、フィット性が弱く、ベルトと皮膚との間に腔を生じ、適圧を最も有効な位置にセットする困難性も生じていた。
そこで、本ボトムスが皮膚との密着性、いわゆる骨盤周囲に巻き付けるベルトの効果を持たせた圧力のフィット性が良好で、振り出し角度の変化や体勢の変化にも位置がずれず、適切な位置へベルト効果が得られる仙腸関節ベルト作用効果を搭載したボトムスを発明したのである。また、本ボトムスは骨盤周囲を取り囲む骨盤ベルト効果も追加した特徴を持たせている。
【0099】
体幹の重みを支える仙骨(B7)を中心とする両側の腸骨(B11)が、股関節(B48)の動き、いわゆる脚の動き(伸展・屈曲・外転・内転・内旋・外旋)に対応していると考えられる。このため、左右の股関節(B48)が非対称となることが多いクライミングの肢位にて、その腸骨(B11)の動きも非対称的に対応する。その要素は仙骨(B7)を挟み、両側にある腸骨(B11)の位置も仙骨(B7)に対して変化させる要因と考えられる。
そこで、クライミングを行う場合、かなりの非対称的な腸骨(B11)へのストレスが生じていると考えられ、仙腸関節ベルト効果を持つボトムスの提供が必要となる。
【0100】
この仙腸関節ベルト作用を搭載したことで、仙骨面に対し両腸骨(B11)が非対称的な動きを強いられる両脚の非対称運動時にも大幅な仙骨面での滑りを制御し、適切な位置へ腸骨(B11)をリセットできると考えた。
上記の効果が得られれば、両腸骨(B11)の位置も仙骨(B7)に対し整う。従って、骨盤のずれと呼ばれる仙骨(B7)を中心に左右にある腸骨(B11)の高さが整い、骨盤の歪みも整う。この状態は、骨盤を安定させる両腸骨(B11)に付着する体幹筋群の伸展力(柔軟性)や収縮力(力)が発揮しやすくなり、背骨の両側で支える体幹筋の作用を良好に導くことができる。それは、骨盤を正しい位置にリセットできる第1の要素にもなる。
上記の効果が得られるように仙腸関節安定ベルト効果を付与した機能を本クライミング専用ボトムスに搭載した。
【0101】
クライミング時の股関節(B48)の動きは、突起の位置により屈曲・伸展・外転・外旋・内転・内旋と様々な動きが求められるが、その動きも腸骨(B11)に連係する寛骨(B23)中の寛骨臼蓋(B36)に大腿骨頭(B37)がはめ込まれつつ行わなければならない。寛骨臼蓋(B36)から大腿骨頭(B37)がずれると亜脱臼状態に陥り、股関節(B48)に違和感が生じ、脚に力が入りにくくなる。
この症状を招かないようにクライミングの軸脚となる股関節(B48)にとって、股関節周囲筋の適切な対応力が重要となる。
【0102】
股関節周囲筋には屈曲(腸腰筋(M15))・伸展(大殿筋(M22))・外転(中殿筋(M20)・大腿筋膜張筋(M30))・内旋(中殿筋(M20)・大腿筋膜張筋(M30))・外旋(梨状筋(M21)・外閉鎖筋(M23)・大腿方形筋(M58)・双子筋)などがある。本ボトムスは上記の筋群が付着する大転子、小転子(B31)を中心と考えた。
何故なら、それぞれの股関節周囲筋が大腿骨頭(B37)を寛骨臼蓋(B36)に求心的にはめ込むように力を発揮しつつ、大腿骨(B24)をそれぞれの方向へ動かすからである。
そのメカニズムを考察し、大転子が側方から押さえられ、寛骨臼蓋(B36)にはめ込まれることにより起こる外転運動への安定方法は、腸骨稜外唇(B12)から大転子の上方、中心、下方を通し、その直下にある腸脛靭帯(M31)の上方部までの範囲を最強の緊締力を持つ第13緊締部(13)で押さえた。
【0103】
また、股関節(B48)の内・外旋運動に作用する梨状筋(M21)は、大転子に対してほぼ水平に位置する。
この梨状筋(M21)は第13緊締部(13)中央、つまり仙骨(B7)と大転子を水平に繋ぐ範囲を含ませたことで、梨状筋(M21)の筋収縮作用をサポートする作用が引き出せ、外旋運動を良好にさせた。
【0104】
また、この部位に配置した最強の緊締力(G)の持つ収縮目の方向が横にやや伸び難い特徴を持つことから、股関節内旋時には、この位置下の梨状筋(M21)は伸ばしながらのエキセントリック収縮力を発揮し、内旋位で突起を踏む股関節内旋位を実現する。この作用効果が生まれるように該緊締部を設定した。
上記緊締力の作用は、股関節(B48)の運動時で重要な作用を成すインナーマッスルの収縮作用をサポートし、大腿骨頭(B37)を寛骨臼蓋(B36)に求心方向にはめ込む力を強化させることが可能となった。
【0105】
股関節(B48)に対し、左右上下方向からのサポート力を生み出した求心性方向の力は、腸腰筋(M15)が作用し、その腸骨部の短収縮方向に位置する股関節外旋運動と、伸張性収縮による内旋運動に対し、腸腰筋(M15)の走行に沿って股関節小転子(B31)を含む腸骨上前腸骨棘(B34)をサポートした第15緊締部(15)の最強の緊締力(G)の作用と、その内側にあって骨盤前方の部分に配置した第14緊締部(14)の強の緊締力(A)との総合作用により、得られた。
【0106】
第15緊締部(15)の配置下にある小転子(B31)は腸骨稜(B29)とともに最強の緊締力(G)を配置し、腸腰筋(M15)の付着部からその上方にある筋腹の少ない部位をサポートした。
また、この配置に繋いだ第14緊締部(14)は、腸腰筋(M15)の一方の付着部である腸骨方向を幅広く押さえることから、緊締力を1段階下げた強(A)とした。
【0107】
第14緊締部(14)の緊締力を強(A)とすることで、下腹の圧迫感も和らげ、腹式呼吸もしやすく、本ボトムスを着用することでお腹への圧迫感も緩和できた。
【0108】
最強の緊締力(G)を持つ第13緊締部(13)の配置は、中心となる縦の範囲を仙骨(B7)から下方に位置する尾骨(B8)最下方までとし、横幅は腸骨外側を被った第15緊締部(15)の側方までとした。その配置下には大殿筋(M22)があり、大殿筋(M22)の上線から頂点となる筋腹の最大の膨らみまでを全体に被うように配置した。
【0109】
上記に示した第13緊締部(13)が腸骨(B11)の外側部で第15緊締部(15)と繋いだことで、腸骨(B11)が仙骨中心へ側方から押され、腸骨(B11)から仙骨(B7)の関節面方向に押す力となって作用する。この力は、仙骨上方の面に対して重なる腸骨面が離れたり、緩まないように腸骨側方から仙骨面への圧力を生み出し、仙腸関節(B22)の緩みを抑制する効果を示した。そして、仙腸関節(B22)の側方への緩みを抑制し、両側の仙腸関節機能を安定させつつ、両腸骨(B11)の位置が整えられた。
【0110】
第13緊締部(13)の第2の効果は、該緊締部の配置下にある大殿筋(M22)の上方から、筋腹中央、そして大腿骨(B24)に付着する殿筋粗面(B45)まで、最強の緊締力(G)を配置したことで、股関節屈曲時に求められる大殿筋(M22)の伸展しながらの力を発揮するエキセントリック収縮を縦伸びを強く抑制する収縮目の力が同位置下の筋収縮方向に拮抗し、常に短縮性筋収縮の力を生み出し、完全に伸び過ぎ、力を失うという危険な状態を回避させ、大殿筋(M22)のエキセントリック収縮力をキープする効果が得られた。この効果は突起を踏み、一歩足を他の突起へ踏み出す際の大殿筋(M22)の伸展力に対し、伸び過ぎず、大きな力を発揮するエキセントリック収縮をサポートする効果に繋がった。
【0111】
骨盤前方面に配置した第14緊締部(14)は、強の緊締力(A)を持ち、腹筋群の緊張を高め、骨盤前方から骨盤の傾きを支え、安定させた。また、この配置は第14緊締部(14)の配置下にある腸腰筋(M15)を前方から支え、腸腰筋(M15)に緊張を与えたことで、クライミング時の足の振り上げ動作を起こしやすくした。
【0112】
クライミングの岩壁を登る動作には、軸脚となる脚は、突起を足指で踏み、対側の脚を大きく踏み出す動きが発生するが、その軸脚となる脚が、股関節伸展位をとる。この股関節伸展位は、股関節屈曲筋である腸腰筋(M15)の伸びながらの力が求められる。
この動作を良好にする腸腰筋(M15)のエキセントリック収縮も第14緊締部(14)の持つ収縮作用によって円滑に作用させた。
【0113】
また、クライミング動作で重力の拮抗方向へ登るという動作時には、当然、骨盤腔の中にある内臓の重みは重力方向に落ちようとする。その重みを腹筋の中央あたりから恥骨結合(B27)までの縦の範囲で、下方は鼠脛靭帯に沿って恥骨結合(B27)までと、上方端は腹筋群の中心から腹斜筋の下方部で腸骨(B11)に付着する範囲まで、強の緊締力(A)を持つ第14緊締部(14)を配置したことで、下腹筋の緊張を引き出し、恥骨結合下に落ちようとする体重を支え、持ち上げる作用効果が得られた。この下腹筋の緊張は、骨盤の前後のブレを制御し、第13緊締部(13)とともに骨盤の安定効果にも寄与する設定となった。
【0114】
また、上記第15緊締部(15)の下方部では、鵞足(B43)までの長さとしたことで膝関節(B49)の内側部全範囲を被った。この第15緊締部(15)の配置下に大腿前方にある大腿直筋(M49)と中間広筋(M52)の全面積の約3分の2に相当する範囲を斜め上方から膝関節(B49)内側を含むことで、その上方にある大腿四頭筋の収縮作用を引き出し、膝屈曲位の体勢を保持する伸張しながらの力(エキセントリック収縮力)をサポートできた。
【0115】
第16緊締部(16)は、脛骨上方にある脛骨粗面(B42)を上端とし、脛骨内側部で第15緊締部(15)の最下方となる鵞足(B43)の下方へ途切れることなく繋ぎ、大腿骨(B24)と脛骨(B56)の連係性を持たせた。
【0116】
また、第16緊締部(16)は、膝関節(B49)の下から足関節(B50)上方までの縦方向の範囲で脛骨前方面を最強の緊締力(G)で被った。下腿後方においては下腿後方に設定した第22緊締部(22)と繋ぐ設定とし、下腿前方筋の前脛骨筋(M55)全範囲を下腿後方からもサポートする特徴を持たせた。
【0117】
上記第16緊締部(16)の効果は、下腿前方にある前脛骨筋(M55)へのエキセントリック収縮力をサポートし、クライミング時の蹴りに求められる力をサポートした。
【0118】
クライミングに求められる膝関節屈曲位は、内側方向、外側方向へのブレを制御する力が弱まる肢位だけに、前十字靭帯(B54)への牽引ストレスは大きくなる。そこで、前十字靭帯(B54)へのストレスを緩和する作用配置として、脛骨(B56)の前方を被った第16緊締部(16)と、膝関節内側部を被った第15緊締部(15)をEポイントで繋ぎ、内側への動揺性を制御した。外側への動揺性に対しての制御は膝関節外側部を被った第20緊締部(20)と第16緊締部(16)の外側部で脛骨外側のFポイントで繋いだ。
この特徴ある設定は、下肢屈曲位を前方から見て対称に大腿骨(B24)と脛骨(B56)を側方から支え合うバランス力となり、膝関節屈曲位で招く脛骨(B56)が前方へ倒れる前方滑りへの力に対し、制御する大腿四頭筋が伸びながら力を発揮するエキセントリック収縮をサポートする設定となった。
また、この効果は膝屈曲位で招く前十字靭帯(B54)に係る牽引ストレスを緩和する作用効果に繋がった。
【0119】
また、上記の効果をさらに確かな作用として安定させた設定が、第15緊締部(15)の最強の緊締力(G)により、大腿四頭筋の収縮作用が向上し、その大腿四頭筋が付着する脛骨粗面(B42)を被う範囲を有した第16緊締部(16)が、第15緊締部(15)と緊締力が弱まることのない連係によってEHラインで繋がり、強緊締力(A)を持つ第20緊締部(20)と第16緊締部(16)がFHラインで繋がり、さらにその第20緊締部(20)と第15緊締部(15)がHXラインで繋がることで、膝内側部では内側側副靭帯(B51)の作用効果と、その直下にある薄筋(M36)、縫工筋(M14)、半腱様筋(M32)、半膜様筋(M33)の作用を高め、大腿骨(B24)の直下に脛骨(B56)を保ちやすくなった。膝外側部では膝関節外側側副靭帯(B52)の作用と、その直下にある外側広筋(M50)の作用効果を高めた。その結果、前十字靭帯(B54)の作用である膝関節屈曲位で、脛骨(B56)が前方へ滑りすぎる動きを制御することに成功した。
【0120】
強の緊締力(A)を持つ第17緊締部(17)は、大腿骨(B24)外側部から、その中心部にあるハムストリング筋が付着する坐骨(B28)から、恥骨下の股関節内転筋の付着する範囲を上方部は有し、縦の範囲は内側の半腱様筋(M32)と半膜様筋(M33)、外側は大腿二頭筋の大腿部近位から中間を被う範囲に配置した。
【0121】
第17緊締部(17)は、第13緊締部(13)で被った大殿筋(M22)下方部に位置し、坐骨結節(B39)の上方で第13緊締部(13)と合流させた。
第17緊締部(17)の外側部には大腿二頭筋、内側部には半腱様筋(M32)と半膜様筋(M33)があり、この両側の筋肉を指してハムストリング筋と呼ぶ。このハムストリング筋に対し、第17緊締部(17)が持つ編地の収縮目は強の緊締力(A)で縦に伸び難い収縮方向の作用を成す。
上記の緊締力が膝屈曲の主動筋であるハムストリング筋のコンセントリック収縮方向へは編地の持つ収縮目の力(緊締力)と同方向となり、よりスピーディに短収縮方向、つまりコンセントリック収縮力を発揮しやすくなる。膝伸展位をとる時、ハムストリング筋はエキセントリック収縮をするが、その際、編地の収縮目の力(緊締力)は拮抗する方向に作用する。
その拮抗作用とは、ハムストリング筋が伸びようとする時に、伸びる力(伸展力)に抵抗を与え、常に縮む力を持ちながら膝を伸ばす作用を指す。この縮む力を持ちながら膝を伸ばすことで膝関節(B49)が安定し、膝伸展動作をスムーズにさせる。
上記の両作用が足で突起を踏む動作から次の突起に移動する時、つまり膝伸展させる動作をサポートすることになり、クライミング時の足運びを円滑にする。
【0122】
第19緊締部(19)は、最強の緊締力(G)を持ち、大腿後方面の第17緊締部(17)下方部と途切れることなく繋げ、半腱・半膜様筋(M33)の下方部から脛骨(B56)の上方を被っている第22緊締部(22)と途切れることなく繋いだ。
また、第19緊締部(19)は、大腿内側部の下方から膝関節内側側副靭帯(B51)を被った第15緊締部(15)と途切れることなく繋いだ。この設定が、第15緊締部(15)が示す内側側副靭帯(B51)の作用効果を更に高める効果に繋がった。
【0123】
第24緊締部(24)は、大腿後面にある膝屈曲位を主動とするハムストリング筋(半腱様筋(M32)、半膜様筋(M33)、大腿二頭筋)の中間あたりで、筋腹中央あたりに縦長の楕円形を形成した範囲に配置した。この配置範囲をQ円と呼ぶ。Q円を配置したことで、膝関節屈曲時にハムストリング筋の筋腹が膨張し膨らむが、Q円全域を中の緊締力(B)の編地を配置したことにより、短縮性収縮力、つまり筋走行に沿う縦方向への収縮での力を発揮する作用をサポートしつつ、筋を横断する方向への膨張を許す作用が働く。この特殊なQ円の配置により、ハムストリング筋の短縮性収縮時の締め付けも緩和され、心地よく力を発揮することができる。
【0124】
第20緊締部(20)は、大腿外側部の下方で、膝蓋骨(B53)を含まない位置で、幅は腸脛靭帯(M31)の下方部から、膝関節外側側副靭帯(B52)が始まる大腿骨(B24)外側部を被い、外側側副靭帯(B52)が付着する腓骨頭(B44)を被う縦の長さを持たせた。第20緊締部(20)の後方部は膝関節外側部で、外側側副靭帯を被う幅を有しつつ、膝蓋骨(B53)の外側方面を全域沿うような幅を有し、配置した。
上記第20緊締部(20)の配置下には、膝関節伸展位の安定性に関わる外側広筋(M50)の下方部と、膝関節外側側副靭帯(B52)上に配置され、膝伸展位での外側広筋(M50)の筋収縮作用をサポートする効果を示した。
【0125】
第21緊締部(21)は、膝関節(B49)後方の中心位置からハムストリング筋中心で筋腹が最も膨張する範囲、つまりハムストリング筋の全長に対し、中間あたりから膝後方面の下方まで細長く設けたI型ゾーンの縦面積に沿った膝関節(B49)の後方面の外側を被った。この第21緊締部(21)と第20緊締部(20)とを膝関節(B49)外側より後方に位置する大腿二頭筋付着部辺りで繋ぎ目なく繋いだことで、膝関節外側部を包むような力が生まれた。この外側から包むようにサポートさせた強の緊締力(A)は、膝関節屈曲位で外側方へのブレで招く内反膝を制御し、クライミング時の膝関節(B49)の側方への安定効果が得られた。膝関節(B49)の外側側副靭帯(B52)をサポートする効果が更に向上した。
【0126】
また、上記膝関節(B49)の外側に配置した第20緊締部(20)と、膝後方で外側部に配置した第21緊締部(21)を連係させた緊締力は、膝関節(B49)の側方へのブレを制御し、内反膝で招くO脚を予防する効果が増した。さらに第20緊締部(20)は、最強の緊締力(G)を有する第15緊締部(15)と共同し、膝関節(B49)の中心にある膝蓋骨(B53)を側方より挟む様な設定となった。
【0127】
この両側より膝蓋骨(B53)を挟む様に設定した最強の緊締力(G)を有する第15緊締部(15)と第20緊締部(20)の強の緊締力(A)が、膝蓋骨(B53)の側方のブレを制御する効果に繋がり、膝屈伸運動において上下運動を成す大腿骨(B24)関節面にはまりやすく、膝蓋骨(B53)の上方・下方への滑りの円滑性も得られ、膝屈曲・伸展運動の円滑性を引き出せた。この効果が膝屈曲から伸展位という動作の機敏さにも繋がり、膝蓋骨(B53)を持つ大腿四頭筋の短縮性筋収縮と伸張性筋収縮の円滑性を導いた。
その結果、突起上での膝屈曲位から次の突起に移動する際の膝伸展力のパワーも引き出しやすくなり、クライミングでの下肢動作をスムーズにできる要素を確保することが可能となった。
【0128】
下腿三頭筋が短縮性の筋収縮力で踵を持ち上げ、この踵の蹴り上げとともに、クライミングでは突起を踏む足指筋(長母指屈筋(M44)、長指屈筋(M43))も同時に短縮性収縮力を発揮する。
この筋肉はクライミングでの下肢機能を円滑にする作用だけではなく、体幹の重心をコントロールする膝関節(B49)の安定力を高めるなどの重要な役割を持つことから、その作用を向上させ、疲労軽減できる機能はクライミング専用ウェアにとって、重要な要素となる。
【0129】
上記下腿三頭筋の伸張性筋収縮力が弱まれば突起を踏む力も弱まり、次の動作となる一歩を次の突起へ送り出す際の踵の蹴り上げ動作、つまり短縮性筋収縮力に繋がらず、踵の蹴り上げ運動が困難となる。
そこで、下腿後面の第22緊締部(22)は最強の緊締力(G)とし、該緊締力の持つ縦に強く伸び難い編地が短縮性の収縮方向、つまり重力に抗する方向に作用し、踵の持ち上げ動作を良好にさせた。また、この短縮性の収縮方向に強く効果を示す編地は、つま先で突起をつかまえ、足関節(B50)が背屈位をとる時には伸張性筋収縮力を発揮する。
【0130】
上記のことから、下腿三頭筋に課せられる繰り返しのエキセントリック収縮に対応できる強さが求められるため、縦伸びを強く抑制しながら縮む力を発揮する最強の緊締力(G)を持つ編地を配置した。
【0131】
また、上記に示す下腿の運動時に、特につま先で突起を踏み込み、踵を持ち上げる際に筋腹が膨張する。その膨張を許すために、下腿三頭筋の中央で筋腹の膨らみが最も大きくなる位置あたりに縦長の楕円形に、弱の緊締力(C)を持つ第23緊締部(23)を配置した。
【0132】
第25緊締部(25)は、膝蓋骨(B53)の上方・中心・下方の全域を被う範囲とし、膝蓋大腿関節上で上下に滑動することを許す圧力が求められることから、一定の位置に固定しすぎない中緊締力(B)の編地を配置した。
上記の中緊締力(B)の編地の設定が、膝屈曲・伸展運動で成される膝蓋骨(B53)の上方・下方滑りを円滑に導き、第20緊締部(20)の強緊締力(A)と第15緊締部(15)の側方から安定させた最強緊締力(G)の効果とともに、膝蓋大腿関節上の円滑な滑り運動を可能にした。
【0133】
下腿三頭筋の両側面にあたる腓腹筋内側頭(M39)と外側頭(M38)の中間あたりに玉子型の形状を持たせ、弱緊締力(C)を持つ第26緊締部(26)を外側頭に配置し、同じく弱の緊締力(C)を有する第27緊締部(27)を内側頭に配置した。この位置に、弱緊締力(C)の編地を配置したことと、下腿三頭筋の中央に配置した第23緊締部(23)のI型の弱緊締力(C)とともに作用し、下腿三頭筋の筋腹が最大となる短縮性収縮時の横断面に対しての膨張をサポートしつつ、スムーズにさせた。
上記の設定は、筋腹の膨張はそれぞれの人の筋肉量や筋収縮量により変化することを考慮し、その膨張度の変化にも対応させる設定としたからである。
【0134】
第18緊締部(18)は、尾骨(B8)の直下に位置し、大殿筋(M22)の最下方にあたる位置で、坐骨(B28)を含まない骨盤の下方部の恥骨結合(B27)を略半円形の形状を構成し、中の緊締力(B)で押さえた。
何故なら、この配置下にある大殿筋(M22)の下方部は、股関節屈曲位で大腿骨(B24)が前方へ振り出される時、ハムストリング筋の付着部となる坐骨(B28)に近いことから、ハムストリング筋とともに、伸展性が大きく求められるからである。
【0135】
[実施形態3]
次に、本発明を実施するための上記実施形態(以下、実施形態1及び2という)とは別の実施形態(以下、実施形態3及び4という)について説明するが、ここで、本発明の理解を容易にするために、本発明の「原理」について詳しく説明する。
【0136】
本発明の目的とする「クライミング専用コンディショニングウェア」とは、前記したように、「四つ這い前傾姿勢で岩壁を登るスポーツ」、即ち、股関節屈曲と膝関節屈曲を常に強いられる前傾位で四肢を使い、岩壁などの傾斜地を重力に抗して体重移動をするという他のスポーツには見られない大きな特徴を持つクライミングというスポーツにおいて求められる体幹の安定と最も酷使される筋肉や関節に対して、人体に着用する衣料であって、衣料が人体に着用された際に、衣料の生地が持つ緊締力(生地の伸縮力によって着用者の筋肉に付与される力であって、着用者の筋肉を締め付けて該筋肉の伸張を抑制する力)を活かして、筋肉の収縮や関節の動きをサポートし、疲労軽減を図ることを目的として開発されたコンディショニングウェアである。
【0137】
その主たる発明は前記したように、第1に肩関節(B15)と肘関節(B21)の安定力を連係して保護する機能、第2に体幹及び骨盤を安定させる機能、第3に股関節(B48)と膝関節(B49)の安定機能、第4に大腿四頭筋、及び殿筋からハムストリング筋の上方部の筋群のエキセントリック収縮をサポートする機能を搭載したトップス及びボトムスである。
【0138】
そして、本発明の「原理」は、筋肉のエキセントリック収縮に対して、生地の収縮力を筋肉の伸展方向と拮抗する方向に配置すること、つまり、筋肉が伸びながら力を発揮しようとする方向に対して生地の収縮目の縮む力を利用して、該筋肉に抵抗(伸張を抑制する力)を与えることによって、該筋肉の筋力が発揮しやすくなるという筋収縮の生理を応用したものである。
【0139】
ここで、上記の筋収縮について説明すると、筋肉の収縮様式には、筋肉が縮みながら力を発揮するコンセントリック収縮(短縮性筋収縮)という収縮様式と、筋肉が伸びながら力を発揮するエキセントリック収縮(伸張性筋収縮)という収縮様式があり、この2つの収縮様式は、拮抗的に働く。他に、関節が静止した状態で力を発揮するアイソメトリック収縮がある。
例えば、膝を曲げてスクワットする時は、大腿前方にある大腿四頭筋はエキセントリック収縮し、拮抗面にある大腿後面のハムストリンング筋はコンセントリック収縮をする。反対に、膝を伸ばす時には大腿四頭筋はコンセントリック収縮し、拮抗面にあるハムストリンング筋はエキセントリック収縮する。
また、筋肉には筋力を発揮しやすい角度と、筋力を発揮し難い角度があり、例えば膝を曲げる時、大腿四頭筋であれば膝屈曲45度辺りから90度が筋力を出しやすい角度であり、膝を伸ばす時は膝伸展−30度辺りから完全伸展させた0度までの辺りが筋力を発揮しやすい角度である。
そして、筋肉は負荷や抵抗を与えることによって活動電位が高まり、筋力が発揮しやすくなるという生理学的特性が知られている。
【0140】
本発明を実現する手段は、前記したように、人体の筋肉や関節の働きに応じて、最強・強・中・弱の4種類の縦伸びを強く抑制する収縮力を持つ編地の緊締力を用いて、配置位置や配置面積を設定することによって得ようとするものである。つまり、クライミングという特殊なスポーツにおいて酷使される筋肉や関節に対して、生地の収縮目が縦に縮む力が最も強い「最強緊締力(G)」、最強の次に強い「強緊締力(A)」、強よりも弱い「中緊締力(B)」、最も弱い「弱緊締力(C)」の4種類の緊締力を持つ編地を、関節を動かす際に主に働く筋肉である主動筋に対し、編地の緊締力を付与することによって該筋肉の筋力を発揮しやすくするように、緊締力の配置する部位や配置する面積を変化させることによって上記機能を実現するものである。
従って、コンディショニングウェアを着用した状態と着用しない状態で同等の筋力を発揮した場合は、着用した方がより少ないエネルギー効率で済むことになり、その分、筋肉の疲労を軽減することが可能となる。
【0141】
従って、コンディショニングウェアは、(1)生地の緊締力の種類(強さの種類)、(2)緊締力を配置する部位(緊締部)、(3)緊締部の面積の3つを如何に設定(すなわちデザイン設計)するかによって、機能効果が得られるものであり、設定方法が正しくなければ着用効果が得られないどころか、むしろ逆効果を付与することは明らかである。ここに本発明の特許性があると考えるが、本発明の実施形態は上記実施形態1及び2に必ずしも限定されるものではない。よって、以下、本発明の実施形態3及び4について説明する。
(トップスの説明)
【0142】
実施形態3のトップスは、実施形態1のトップスの機能に加え、山登りやトレッキング動作をサポートする機能を付与したクライミング専用ウェアである。
クライミングは人工的に造られた岩壁を登るだけではなく、大自然の山の岩壁などを目標に登るケースもある。そのような場合には、傾斜角のある山道を前傾姿勢で登り、目標とする山の岩壁まで長時間歩くことも必要になってくる。
上記の山登りにおいては、上肢は前傾位を保持しながら体幹の捻れと肘を屈曲したままでの腕振り、あるいはステッキを使った歩行動作が求められる。
そこで、実施形態3のトップスは上記の動作も考慮した設定となっている。
【0143】
傾斜角のある山道を、前傾姿勢を保持しながら歩くには、体幹の左右バランスが求められる。また、肘を曲げたままの腕振りや、ステッキを使いながらの腕の動作は、体幹の軸を中心として常に捻じり動作で前に進まなければならないことから円背姿勢を招きやすく、体幹筋群の前後のバランスが崩れやすくなる。
体幹筋群の前後のバランスとは、腹部と背部の筋バランスを指し、ステッキを持たずに平地を進む通常の歩行やジョギングとは、腹部と背部の筋群の活用法が異なる。
例えば、ステッキを両手で持つことで腕が体幹の前方に位置し、後方にある体幹を足の運びとともに捻じりながら押し出していくようなトレッキング動作は、前傾姿勢をとることで、円背姿勢を作り出しやすくなる。
この円背姿勢は肩凝りや腰痛を招きやすいだけではなく、一歩前進していく足の振り出しを起こしにくくし、歩行スピードが遅くなりやすい。従って、長時間の前傾姿勢で招きやすい円背姿勢を改善し、体幹の左右バランスを保持する機能が必要だと考えた。
また、もう一つの機能は、ステッキを持ち、足の振り出しを補助する役割を担う肘と腕をサポートする設定である。
実施形態3のトップスは、四つ這い前傾姿勢による体重移動に加えて、山登りやステッキを使って山道を歩くトレッキング動作にも対応できる肘と腕の筋肉をサポートする機能を持たせる必要がある。
【0144】
そこでまず、本クライミング専用ウェアの主たる発明の1つである「人体の上肢の肢位にて最も荷重ストレスを受ける肩後方面の安定力と肘周囲の安定力を連係させて保護する手段として、肩運動に関わる僧帽筋上部線維(M1a)及び中部線維(M1b)と、三角筋の後部線維(M3c)及び前部線維(M3a)を被う範囲に強緊締力(A)を持つ編地(第1a緊締部(1a))を配置し、該緊締力を途切れることなく上腕の外側を通過させ、肘周囲を取り巻きつつ前腕の内側を通過させ、手関節(B33)近傍まで繋いだ第1b緊締部(1b)を備えたことを特徴とする」実施形態1のトップスの形状と実施形態3のトップスの形状の共通点と相違点について説明する。
【0145】
図3の(a)は、本発明の実施形態3のトレッキング用トップスの正面図であり、
図3の(b)は、その背面図である。
実施形態3のトップスは、実施形態1のトップスと同様に、僧帽筋上部線維(M1a)と「肩甲骨(B1)上方から肩関節(B15)の上方にある三角筋全域を強緊締力(A)を持つ第1a緊締部(1a)の編地で押さえる機能」を搭載している。
また、「僧帽筋下部線維(M1c)に対し、最強緊締力(G)を持つ第2緊締部(2)を配置し、僧帽筋下部線維(M1c)の収縮力をサポートすることによって、肩甲骨(B1)の上方回旋を円滑化し、上腕骨(B2)の挙上に対して肩甲骨関節窩(B3)も対応しやすくさせ」ている。
さらに、「肩運動を安定させ、円滑にする効果が腕の挙上動作の土台となる肩甲骨(B1)の上方回旋と下方回旋をしやすくさせるとともに、肩甲骨(B1)の下角(B1b)を斜めに押さえる強緊締力(A)を持つ第1a緊締部(1a)の編地を配置したことで、胸郭から肩甲骨(B1)が離れる肩甲骨外転運動を制御し、円背姿勢の改善も可能」にしている。
また、肘屈伸運動の円滑性と肘の回内運動をサポートする設定として、肩運動に関わる僧帽筋上部線維(M1a)及び中部線維(M1b)と、三角筋の後部線維(M3c)及び前部線維(M3a)を被う範囲に配置した強緊締力(A)を持つ編地である第1a緊締部(1a)と、該緊締力を途切れることなく上腕の外側を通過させ、肘周囲を取り巻き」、「上腕骨(B2)上方から外側に繋がる肘周囲全域に強緊締力(A)を持つ編地を第1b緊締部(1b)として配置」している。
従って、実施形態3のトップスは、実施形態1のトップスとデザイン的な形状の違いは若干あるものの、実施例1とほぼ同様の肩関節(B15)及び肘関節(B21)をサポートする機能を有していると言える。
【0146】
ここで肘関節を守る機能について説明する。
クライミングでは、上方にある突起物を腕を伸ばしながら掴む力は、肘伸展位で上腕三頭筋(M29)がエキセントリック収縮し、その拮抗面にある上腕二頭筋(M9)はコンセントリック収縮し、
肘が伸びた肢位で体重を支え、肘が完全伸展し過ぎないように制御している。この上腕の筋群の作用に加え、突起を掴む力は肘関節(B21)下の前腕筋群と指節筋群に委ねられる。
上記の筋群の動作解析をすると、突起を掴む手関節(B33)の背屈位で前腕部内側に在する手関節屈筋群(M62)とその深部にある浅指屈筋(M61)を初めとする指節屈筋群はエキセントリック収縮し、その背面にある背屈筋群はコンセントリック収縮する。
上腕部筋あるいは前腕部筋の収縮作用は、掴んだ突起を支点に体重を運ぶ際の位置、つまり体幹と突起の位置関係により、それぞれの筋群の収縮作用は変化していく。中でも上腕部筋は肘の屈曲角度により、その収縮作用は大きく変化する。
突起が高い位置にあり体重を支える時、上記の筋収縮作用を成すが、その作用は逆に上腕二頭筋(M9)がコンセントリック収縮し、上腕三頭筋(M29)がエキセントリック収縮し、肘屈曲位が過屈曲位にならないように肘関節(B21)を安定させている。
該筋群の作用を考慮しつつ、肘関節(B21)屈曲位で上方の突起物を掴む肢位での肘回内運動へのサポート機能を搭載した。
【0147】
上記の肘安定機能が肘周囲上方、中心、下方の範囲で前腕と上腕を筒状の形状を考案し、
肘の上方、中心、下方の範囲にある腕橈関節(B26)、腕尺関節(B30)を囲むように保護した。この部位は強緊締力(A)もしくは中緊締力(B)であることが望ましい。
【0148】
肘関節(B21)の回内運動は、軸となる尺骨(B20)の上で橈骨(B19)が尺骨(B20)の上方面を内側(回内)、外側(回外)に転がる。この転がり運動を起こす筋群は、回内動作は肘回内筋(円回内筋(M60)、方形回内筋)、回外動作は肘回外筋、及び上腕二頭筋(M9)が作用している。その付着部位は肘関節(B21)の中心部に近く、本トップスで設定した肘関節(B21)周囲内に付着している。
上記の肘ローテーション筋を強緊締力(A)を持つ編地でサポートした。このサポートは肘伸展位での上腕二頭筋(M9)がエキセントリック収縮時に牽引力がかかる橈骨(B19)、尺骨(B20)間の付着を固定する効果が作用し、牽引ストレスを緩和させる効果が期待できる。
【0149】
また、上記の緊締部内で肘回内・回外運動を行う時の機能解剖学的特性である尺骨(B20)上を橈骨(B19)が転がりつつ動きを成す作用に対し、制御している輪状靭帯の上方から橈骨(B19)を押さえる作用効果をサポートした。
上記の効果は、この部位の周囲へのテーピングを施したことで掌屈動作と握力が向上したことで、本トップスも同様、もしくはそれに近い効果が期待できる。
テーピングは常時巻き付けることで皮膚がかぶれるなどのリスクがあるが、本トップスの場合は、肘周囲に巻いたテーピングの実施例よりも幅を広め、強緊締力(A)を設定し、肘を安定させる作用効果を引き出した。
【0150】
上記の位置による肘バンドも開発されているが、上腕の上部から肘関節(B21)中心部、そして前腕下方部までを被うバンドとなり、本トップスが持つ肩から上腕を通り前腕下方部までの範囲に連係して配置した形状のバンドはなかった。
【0151】
また、バンドではないが、上記の範囲を固定するサポーターが提供されているが、単体でのサポーターでは得られない肩から上腕を通り前腕下方部までの範囲に連係して配置した設定が、さらなる肘関節(B21)の安定作用効果を引き出した。
【0152】
上記の肘関節サポート機能と肩関節(B15)・上腕・前腕を繋いだ方法は、三角筋を被って肩の挙上をサポートした第1a緊締部(1a)から螺旋状に導いた強緊締力(A)を途切れることなく繋いだことにより、肘屈曲位で突起を掴む時、掴んだ指節筋群と肩の位置により、肘関節(B21)は重力下に落ちる方向にあり、その肢位も肘屈曲位となる。その肘屈曲位では肘頭の持つ関節面(滑車切痕)が上腕骨滑車で滑りながら離れようとする。そして、離されようとしながら上腕骨滑車上で尺骨(B20)(滑車切痕)が円滑に滑り作用が行えるように下方から支える力となり、肘屈曲角度による突起を掴む力をサポートする設定となった。
【0153】
次に、実施形態1のトップスは、「体幹背面の中心位置にあたる胸椎11・12番、腰椎(B6)1・2・3番を中心として、体幹上方部を構成する胸郭両側方へ上向きの矢尻形状、及び骨盤側方に下向きの矢尻形状を成す様に、体幹背面の胸椎4〜12番、腰椎(B6)及び仙骨尾骨(B8)を被う範囲に配置されることを特徴」としている。
【0154】
これに対し、実施形態3のトップスは、縦幅は脊柱起立筋(M7)が走行する胸椎から仙骨(B7)までの全域、横幅は胸椎の両側にある肩甲骨(B1)の内側縁から肩甲骨中央に至る幅を持たせ、その幅は肩甲骨下角(B1b)を押さえる配置から、下後鋸筋(M17)の全域を被うように最強緊締力(G)を持つ第2緊締部(2)を配置した。
つまり、実施形態3のトップスは、実施形態1のトップスに比べて、胸背部から骨盤後方部にかけて最強緊締力(G)の配置面積を広くとり、背骨を中心に両側にある脊柱起立筋群(最長筋・腸肋筋・棘筋)を補う面積を広く配置し、前傾姿勢時のエネルギーとなる収縮力(伸びながらも常に短収縮する力)をサポートする効果をより高め、脊柱起立筋(M7)に求められる前傾体勢をよりキープしやすくすることを可能にするとともに、円背姿勢改善効果をより高めた設定となっている。
【0155】
同時に上記の設定は、脊柱起立筋(M7)の短縮性収縮力をより強め、体幹及び骨盤をより安定させるとともに、大胸筋(M2)の伸展力も高め、胸椎後弯角増幅をより抑制する設定を行ったのである。
何故なら、胸椎後弯角を作り出す筋作用は、胸椎背面にある僧帽筋中部線維(M1b)と菱形筋(M25)の緩みだけで構築されるのではなく、その拮抗面にある大胸筋(M2)の短収縮状態、つまり、大胸筋(M2)の緊張がその弯曲をさらに増幅させるからである。
【0156】
ただし、実施形態3のトップスは、大殿筋(M22)の上方部を中の緊締力(B)を持つ第12緊締部(12)を略三角形に左右対称に配置することによって、最強緊締力(G)を有する第2緊締部(2)を三方向に分岐させている。つまり、ウエストから骨盤全体を被う範囲は、実施形態1のトップスよりも最強緊締力(G)の配置面積を広くし、大きくしたことにより、歩行動作に支障をきたさないように大殿筋(M22)を押さえ過ぎないように工夫した。
【0157】
また、実施形態3のトップスは、脊柱起立筋(M7)が走行する胸背部の第9、10、11、12胸椎、第1腰椎の範囲で、その配置下にあるそれぞれの棘突起にあたる位置に、中緊締力(B)を持つ第10緊締部(10)を縦長の楕円状に配置した。その理由は、体幹回旋時に求められる水平方向への伸展力を確保する作用効果を持たせ、左右の体幹回旋力を高めるためである。
従って、実施形態1のトップスに比べて、実施形態3のトップスは、体幹及び骨盤の捻じりである左右回旋を確保しながら、体幹及び骨盤の安定機能をより高めた設定と言える。
【0158】
尚、脊椎の棘突起にあたる位置の着圧を変化させることも可能とする。
この位置は、胸郭後弯角で最も重心軸から弯曲が大きくなる第7、8胸椎の位置より下方で、第9、10、11、12胸椎の範囲とする。この胸椎の下方を腰椎(B6)で構成される弯曲は後弯角ではなく、腰椎(B6)の前弯に移行する位置である。
この配置下は、体幹の捻りの際に柔軟性が腰椎(B6)とともに求められる位置としても知られ、本アイテムの持つ脊柱起立筋(M7)の上方から中間、そして下方部、更に下方にあたる最下方まで一貫して最強緊締力(G)を持つ第2緊締部(2)を配置し、脊柱起立筋(M7)の伸張性筋収縮に対応するアイデアに加え、上記に示す胸背アーチを構成する範囲の棘突起の位置で縦の範囲は、第10、11、12胸椎、第1腰椎の範囲に最強より弱い中緊締力(B)を配置することも可能とすることで体幹回旋時に求められる水平方向への伸展力を確保する作用効果が得られる。
背筋力の強いクライマーやクライミングの突起の範囲が広く高低差があるハイレベルに臨むとき、体幹の回旋力が高ければ、体勢の変化が起こしやすくなると考える。
【0159】
また、前傾姿勢で腕の挙上動作に関わる広背筋(M8)のサポートに関しては、実施形態1のトップスに比べて、実施形態3のトップスの方が、強緊締力(A)を持つ第1a緊締部(1a)だけではなく、最強緊締力(G)を持つ第2緊締部(2)が広背筋(M8)の一部を被うため、脊柱起立筋(M7)とともに求められる広背筋(M8)の持続的な伸張性収縮力と肩の挙上動作のサポート力をやや高めた設定となっている。
【0160】
さらに、実施形態1のトップスと実施形態3のトップスは同様に、中の緊締力(B)を持つ第11緊締部(11)を頚部後方の胸椎1・2.3番辺りに略二等辺三角形の形状で下向きに配置し、頚部の上下、左右の動きをしやすくさせた。
【0161】
さらに、実施形態1のトップスと実施形態3のトップスは同様に、上記作用に加えて、前傾姿勢で招く肩甲骨外転が起きにくいように、肩甲骨内転に作用する僧帽筋中部線維(M1b)とその直下にある菱形筋(M25)の短縮性筋収縮力を発揮しやすくし、胸椎を中心に肩甲骨(B1)を引き寄せる力をサポートする効果が得られる設定とした。
【0162】
また、実施形態1のトップスと実施形態3のトップスは同様に、前傾姿勢では頭が前方に位置しようとするが、最強緊締力(G)を持つ編地を、頭を支える頚部筋群が走行する胸椎4・5・6番から下方部に走行する胸椎の7番から12番の縦の面積に配置(第2緊締部)することにより、その直下に走行する脊柱起立筋(M7)と頭板状筋(M26)、頸半棘筋などの頚部筋群の短縮性筋収縮を起こしやすいようにサポートした。その結果、頭部が体幹より前方に位置することで疲労しやすい頚部筋群のエキセントリック収縮力をサポートでき、頚部の疲労軽減効果が期待できる設定とした。
【0163】
同時に、上記設定は、胸椎に走行する筋群が前傾により緩むことで生まれる胸椎後弯に対し、拮抗する筋収縮方向、つまり短収縮性筋収縮力を補助し、頭部を下がり過ぎない位置に導き、その下方にある頸椎(B13)と胸椎で成すS字状の弯曲も良好に導きやすくした。
【0164】
また、実施形態1のトップスは、大胸筋(M2)が付着する胸部前方の中心にある胸骨(B9)から、大胸筋(M2)が最終的に付着する上腕骨(B2)外側までの長さに対し、大胸筋(M2)の中心辺りの胸骨(B9)から大胸筋(M2)の付着部である大結節稜の横の長さ全長に対し、中央辺りまでの範囲を弱緊締力(C)を持つ第4緊締部(4)を配置し、その弱緊締力(C)に対し、大胸筋(M2)の中央部から外側方向である遠位にある上腕骨(B2)近位部までの範囲を中緊締力(B)を持つ第3緊締部(3)と連係させ、さらに強緊締力(A)を持つ第1a緊締部(1a)に繋げ、連係させたことにより、その配置下の大胸筋(M2)遠位部を斜め側方から圧力を加える形にした。この設定により、胸郭部前方が横に広がり、胸郭が前方へ膨らむドーム型アーチを描きやすくさせた。
前方のドーム型アーチが作りやすくなったことは、大胸筋(M2)の横への伸展力が強まる作用を可能にし、胸郭後方面にあって拮抗作用を成す僧帽筋中部線維(M1b)と菱形筋(M25)がより、短縮性筋収縮を起こしやすくなることを示す。
【0165】
これが胸郭後弯角増幅を抑制し、円背改善には欠かせない設定である。
従来からある円背改善は、胸郭背面にある僧帽筋中部線維(M1b)と菱形筋(M25)に短縮性筋収縮をもたらす設定が中心であり、本ウェアのように拮抗作用向上型ウェアは新規である。
一部、同じ考えで設定したコンディショングウェアはあるが、完全に胸郭中心、いわゆる胸骨(B9)中心から大胸筋(M2)付着部にかけて肋骨全域の中心部に影響を与える範囲、つまり胸郭前方部を解放する考え方で緊締力を弱(C)とする設定はされていなかった。
上記の配置は胸郭を広め、呼吸筋でもある大胸筋(M2)の柔軟性を高め、胸部後弯改善を高めるとともに、有酸素運動となる山登りでの歩行やステッキを使って山道を登るトレッキング動作の呼吸改善に繋がると考えた。
【0166】
上記実施形態1のトップスに対し、実施形態3のトップスは、中緊締力(B)を持つ編地(第4緊締部(4))を胸郭部中心から同幅で骨盤前方へ導き、仙骨(B7)を前方から支える位置で、恥骨結合(B27)部上方までとした。幅は上記に示した胸骨(B9)から恥骨中心を結ぶ中心線を対称に、体幹の前方に位置する腹直筋(M11)の全長を含む位置とし、両腸骨稜の上前腸骨棘(B34)と下前腸骨棘(B35)は含まない位置とした。
上記の設定は、拮抗する背部の最強緊締力(G)の配置面積を広げた設定に対し、矢状面のバランスをとるためであり、作用効果としては、上記実施形態1のトップスと同様の作用効果を得ることを目的としている。
【0167】
上記のように、実施形態3のトップスは実施形態1のトップスの機能に加えて、人工的に造られた岩壁だけではなく、大自然の山の中でのクライミングも想定し、有酸素運動となる山登りやトレッキング動作にも対応可能な機能を付与したクライミング専用トップスとしての実施形態になっている。
【0168】
[上肢ウェアの胸郭部の応用]
胸郭部前方のドーム型アーチの広さは、胸郭部前方面にある大胸筋(M2)と胸郭部後方面にある僧帽筋(中部線維(M1b))と菱形筋(M25)の拮抗作用により成す。
実施例として、胸郭前方部(ここで表す胸郭前方部とは、胸骨(B9)を中心に鎖骨(B16)内側1/2と上腕骨大結節稜に付着する大胸筋(M2)を指す)の大胸筋(M2)は胸骨(B9)から、ほぼ水平方向に走行しているため、その伸展性を引き出すためには、上腕骨(B2)を後方へ動かす肩伸展運動か、後方に水平外転する動きが必要となることから、上腕骨(B2)を後方へ導く設定として、肩甲骨(B1)と上腕骨(B2)が連係する機能特性を生かし、肩関節(B15)を水平外転させ肩甲骨(B1)を内転させる機能特性を持たせることが重要である。
この手法として、上腕骨(B2)の前方から強い緊締力で後方へ押さえるように、いわゆる胸郭背面に対角クロスの力を生み出すように最強緊締力(G)を有する編地を配置し、両肩甲骨(B1)を内転させ上腕骨(B2)を伸展方向に導く。この力を引き出すアイデアは、両肩から物を担ぐランドセルを背負う形を持たせて導く。
もう1つの方法は、大胸筋(M2)の最先端を強緊締力(A)で肩上方から押さえ、その力を肩甲骨(B1)を内転させる力、胸郭後面で配置したY字パワーに繋ぎ、肩前方から圧力を加え、上腕骨(B2)を後方へ導く力を生み出す。この作用を生み出す胸郭前方に配置する緊締力と緊締力の強度を同じ大胸筋(M2)に対応する目的に応じ変化させた。その変化は、胸骨(B9)から大胸筋(M2)の付着部である上腕骨(B2)前方(大結節稜)までの全長に対し、最も筋腹を有する範囲の中間辺りまで弱緊締力(C)を配置し、その側方から上腕骨(B2)に付着する位置までを中心位置に配置した緊締力と反対の最強緊締力(G)又は強緊締力(A)を有する編地をを配置する。この設定が、より大胸筋(M2)の水平方向への伸びを高め、胸郭前方面を広げる作用をサポートする。
【0169】
[実施形態4]
次に、本実施形態4のボトムスの形状及び機能について説明する。
実施形態2のボトムスと実施形態4のボトムスは明らかに相違した形状となっている。
何故なら実施形態4のボトムスは、練習用の人工的に造られた岩壁を登るだけではなく、大自然の山の岩壁などを登るクライミングを想定し、傾斜角のある山道を登り、目標とする岩壁まで歩かなければならない「山登り」や「トレッキング」に対応する機能を付加したボトムスだからである。
接地面が斜めの角度を持つ山登りやトレッキングでは、常に膝屈曲位で着地し、その屈曲位から次の膝屈曲位へ移動する一歩を作り出す。一般的な歩行とは異なり、平坦な地面でのウォーキングだけではない特性を持っている。この動作を分析し、一番疲労を招きやすい筋肉が大腿四頭筋と、腓腹筋及びヒラメ筋(M40)で構成される下腿三頭筋であることが判明した。
そこで、実施形態4のボトムスは、実施形態2のボトムスの機能(第1に体幹及び骨盤の安定機能、第2に股関節(B48)と膝関節(B49)の安定機能、第4に大腿四頭筋、及び殿筋群からハムストリング筋上方部のエキセントリック収縮をサポートする機能)に加え、山登りの歩行で酷使される大腿四頭筋とともに、腓腹筋とヒラメ筋(M40)で構成される下腿三頭筋のエキセントリック収縮をサポートする機能を付加し、股関節(B48)と膝関節(B49)(膝関節(B49)の前・後十字靭帯(B55)をサポートする機能)の安定性を強化した機能を付加したボトムスとして開発した。
【0170】
まず、実施形態4のボトムスの股関節安定機能について説明する。
大自然の山の岩壁などを登るクライミングでは、傾斜角のある山道を登り、目標とする岩壁まで歩かなければならない。そのような山道は地面の形状に凸凹があり、踵接地期を作る股関節屈曲・内転・内旋時のコントロールが困難となりやすい。そこで、実施形態4のボトムスは上記に示す股関節屈曲・内転・内旋時の安定力を引出せる設定を重要な課題の1つとした。
【0171】
従来からある股関節(B48)の安定性をサポートするボトムスは、立脚期で迎える寛骨臼蓋(B36)と大腿骨頭(B37)のポジションを固定し、安定作用を高める中殿筋(M20)を主にサポートする考え方で、中殿筋(M20)全域あるいは、該筋肉の一部を被った緊締力を持つ編地を直下にある大転子の上方・中央・下方と繋ぎ、その下方にある腸脛靭帯(M31)の一部まで、その着圧力を保持させ、股関節(B48)の側方へ大腿骨頭(B37)が移動するリスクを制御させていた。
【0172】
本実施形態4のボトムスが特徴とする股関節安定機能は、立脚期での股関節(B48)を固定するための機能は当然持ちつつ、傾斜地のある山道などの歩行時に、コントロールを要する股関節屈曲位での股関節(B48)の機能向上であり、安定性確保である。そのためには、股関節屈曲運動をスムーズにさせ、股関節屈曲位で迎える着地動作を安定させることが求められることが判明した。
【0173】
実施形態4のボトムスは実施形態2のボトムスに比べて、股関節屈曲状態で着地した時に招きやすい股関節(B48)の不安定性に対し、サポート力を高め、股関節屈曲位で迎える着地期から立脚期に移る際の大腿骨(B24)の位置に対して、大腿骨頭(B37)をしっかり寛骨臼蓋(B36)にはめ込み、立脚位での安定力を更に高めさせ、軸足を安定させ、一方の脚の一歩出しを大きくさせ、振幅を広げる作用を引き出す機能を搭載した。
【0174】
ここで、股関節の機能について説明する。股関節(B48)の運動は、屈曲・伸展・内転・外転・内旋・外旋と多方向に動く機能を有し、人間が体重を運ぶ歩行時には、股関節(B48)を屈曲させ、脚を振り出し、その脚が後方にある時は伸展位をとる。また一歩踏み出す時は、一旦地面から離れ空中に足が浮く。その間を遊脚期といい、股関節外転・外旋運動を行う。その股関節外転・外旋運動後に、着地期に進む。その着地期には、股関節内転・内旋を経て、股関節屈曲運動を起こし、その股関節内転・内旋・屈曲位で片脚立脚が円滑となり、安定した立脚が得られる。
常に歩行時には、股関節(B48)は上記に示す股関節運動を構成し、寛骨臼蓋(B36)内で大腿骨頭(B37)が動く。この大腿骨頭(B37)の様々な動きを起こす筋群が、腸骨稜外唇(B12)から始まり、大転子に付着する中殿筋(M20)・大腿筋膜張筋(M30)、腸骨上方から殿筋粗面(B45)に付着する大殿筋(M22)、仙骨(B7)から大転子に付着する梨状筋(M21)、閉鎖孔周縁部(恥骨・坐骨(B28))から大転子に付着する外閉鎖筋(M23)などが主に作用し、複合的な運動も可能にしている。それだけに複雑な機能が求められ、歩行時の遊脚期は股関節(B48)の柔軟な対応、着地期には安定という2つの要素が求められる。
もし、この複合的作用の円滑性が欠けると、寛骨臼蓋(B36)から大腿骨頭(B37)は逸脱され、脱臼症状にみまわれることとなる。
【0175】
本実施形態4のボトムスの第14緊締部(14)は最強緊締力を有する編地で、第1、第2仙骨の中心にある棘突起を中心とし、その両側で骨盤を構成する腸骨(B11)の上方、つまり大殿筋(M22)が付着する後腸骨棘から腸骨稜(B29)上方部全域を通し、中殿筋(M20)、大腿筋膜張筋(M30)が付着する腸骨稜外唇(B12)を被う横幅と、股関節(B48)にある大転子の上方・中心・下方を側方より押さえる縦の幅を持たせた。
そして、大殿筋(M22)の上部と中殿筋(M20)及び大腿筋膜腸筋を被った横幅を有しつつ、大殿筋(M22)の付着部である後上腸骨棘(B38)から筋腹を斜めに被い、その延長線上にある股関節(B48)の上方を通過し、その下方にある殿筋粗面(B45)を被う範囲とした。この面積は、仙骨中心から両側に対称的に配置したことで腸骨全体を後方から見て2つの略三角形を側方部で作るように第14緊締部(14)上方を配置した。
この斜めに第14緊締部(14)上方を配置したことで、腸骨(B11)の後面に幅広く付着する大殿筋(M22)の上方部全域と、その下方にある大きな筋腹を持つ大殿筋(M22)の頂点の中心に近い辺りを斜めに通過させ、股関節(B48)の上方部から中心、下方を側方から押さえる幅を持たせ、最下方となる殿筋粗面(B45)を被う範囲まで走行させた。
上記の第14緊締部(14)の配置が、股関節(B48)の上方・中心・下方をも含むことから、その力が股関節(B48)を側方から押さえるパワーとなり、股関節(B48)を構成する寛骨臼蓋(B36)に大腿骨頭(B37)をしっかり側方から求心方向にはめ込ませる安定効果を引き出せた。
【0176】
第14緊締部(14)は、仙骨(B7)1・2番辺りを中心に両腸骨上方縁を通過させる方向にセパレートさせ、腸骨稜外唇(B12)に付着する中殿筋(M20)、大腿筋膜張筋(M30)を含む範囲を横幅とし、その腸骨外側の筋群の下方にある大転子上方・中心・下方(B32a・B32b・B32c)を側方から押さえ、腸脛靭帯(M31)の上方部までとした。仙骨(B7)1・2番から両側へ対称的に導く第14緊締部(14)が斜め下方で、骨盤の側方にある大転子上から、その下方にある殿筋粗面(B45)を含んで、仙骨(B7)から斜め下方に向かう腸骨(B11)の両内側にひし形に近い変形五角形の形状が生まれた。そのひし形に近い変形五角形の形状に配置した第16緊締部(16)の配置下には、大殿筋(M22)の内側から筋腹中心までの位置を被い、最下方では尾骨(B8)を含んだ。
上記第16緊締部(16)の範囲は大殿筋(M22)の付着部に近く、脚の振出し期で最も伸展される中心部をサポートする筋力の伸展力が求められる位置であり、上記の第14緊締部(14)より弱い緊締力(A)とした。
そして、実施形態2のボトムスにはなかった上記の設定を加えることで、大殿筋(M22)の伸展作用も広まり、山登りなどの歩行をしやすくさせた。
【0177】
ところで、股関節屈曲運動は単独の筋肉だけでなく、複合的な筋肉作用によって実現する。股関節屈曲運動は股関節内転・内旋運動が初期動作に行われて、初めて股関節屈曲方向に大腿骨(B24)が動くことで成立する。股関節屈曲運動を実現するにあたってカギとなるのが寛骨臼蓋(B36)内での大腿骨頭(B37)の転がり運動である。その転がり運動は、股関節屈曲時は寛骨臼蓋(B36)内で大腿骨頭(B37)が水平面で前方から後方に移動し、大腿骨(B24)を内転・内旋位に導くが、この内旋位は、股関節外旋筋が伸ばされる作用によって実現できる。このことから、この股関節外旋筋である梨状筋(M21)と外閉鎖筋(M23)の十分な伸展位の確保が内旋運動のポイントとなる。この内旋運動の円滑性は、外旋筋群が十分な伸展性と、伸展しながら力を発揮するエキセントリック収縮力が求められる。そこで、両筋肉の走行する位置及び範囲に、常に短縮する力が持てるよう、短縮性の収縮方向に最強緊締力(G)と強緊締力を有する編地(第15緊締部(15)及び第16緊締部(16))を設定した。
梨状筋(M21)と外閉鎖筋(M23)に対し、この第15緊締部(15)と第16緊締部(16)の短縮性収縮方向に縮む力を持つ編地を配置したことで、着地期での股関節外旋筋である梨状筋(M21)と外閉鎖筋(M23)が緩むことなく力を発揮し、内転・内旋方向に大腿骨頭(B37)が寛骨臼蓋(B36)内で過度に動くことによって起こる股関節屈曲位での過度な内転・内旋運動を制御させることを可能にした。
【0178】
何故、この内転・内旋位を迎える大腿骨頭(B37)に作用する梨状筋(M21)、外閉鎖筋(M23)へ、外転・外旋する方向に作用する力を設定し、最強緊締力(G)と強緊締力(A)を有する編地で制御する力を持ったせる設定を必要としたかと言うと、山道などの傾斜地では股関節屈曲角度も一定ではなく、体重を支える時、股関節屈曲位で起こりうる同筋肉の伸展し過ぎによって、エキセントリック収縮力が低下し、着地期の安定度が得られにくいからである。従って、股関節屈曲位で踵を接地し、体重を支える時、梨状筋(M21)と外閉鎖筋(M23)が完全に伸ばされた状態となり、その過度な伸展はエキセントリック収縮力が発揮しにくい状態に陥るという、筋収縮の生理を踏まえたからである。
【0179】
また、上記の屈曲・伸展運動の円滑性に欠かせないのが、矢状面での動きの確保である。この矢状面での股関節屈曲運動の円滑性が、次に起こる股関節伸展運動にも反映され、足の運びも推進方向へ運びやすくする作用を持つのである。
【0180】
そこで、第21緊締部(21)を両腸骨(B11)の後方から側方を通過し、腸骨前方に位置する方向、すなわち斜め下方へ導いたことで、背骨から両腸骨(B11)に伝わる荷重を支え、常に中心である背骨を両腸骨(B11)から支えるサイドバランス力を高めた。
【0181】
もし股関節内転筋が弱ければ、一歩踏み出す股関節屈曲時に体幹から脚が外へ離れる動きで、大腿骨頭(B37)が股関節外転方向に離れやすくなる。
そこで、第21緊締部(21)は、大腿内側部の恥骨筋(M27)と短内転筋(M16)の全面積と、長内転筋(M53)、大内転筋(M37)、薄筋(M36)の上方部を被う設定とした。この股関節内転筋群に対し、最強緊締力(G)を有する編み地を両腸骨(B11)の後方から斜め下方に配置し、その下方が脛骨(B56)まで到達させる位置まで、つまり股関節内転筋の上方部を被った設定が、大腿骨頭(B37)を股関節内転筋群の恥骨方向、つまり内転方向に引き寄せ、股関節内転作用を引き出した。
【0182】
次に大殿筋(M22)とハムストリング筋へのサポート機能について説明する。
股関節(B48)の屈曲運動は、歩幅により大きく変化する。大きく踏み出せば股関節屈曲角度は大きく、小さく踏み込めば股関節屈曲角度は小さくなる。
平地の歩行とは異なる山道や岩壁では、状況によって一歩の歩幅を大きくすることが求められる。そのため、股関節屈曲運動の制御は必須となる。
【0183】
前記したように、股関節ローテーション筋である梨状筋(M21)と外閉鎖筋(M23)とともに、股関節屈曲運動時に伸張性収縮を発揮するのが大殿筋(M22)である。この大殿筋(M22)の上方から中腹の中間から外側部、そして下方部を斜めに押さえた第14緊締部(14)が持つ縦伸びを強く止める編地の緊締力は、骨盤上方から大転子を越え、殿筋粗面(B45)辺りに作用させた。この配置下にある大殿筋(M22)は、中殿筋(M20)と同じ作用の側方への制御にも関わる範囲であることから、緊締力は最強(G)とした。また、同緊締部の範囲で筋腹を多く持ち、大殿筋(M22)の頂点となる位置、つまり後上腸骨棘(B38)の下方から大転子上を通過し、殿筋粗面(B45)全範囲に伸びる範囲の中間幅より内側で、仙骨(B7)付近は強緊締力(A)を有する第16緊締部(16)を配置し、中間幅から外側までの範囲の大殿筋(M22)をサポートする緊締力に対して、一段階緊締力を低くした。
上記の第14緊締部(14)が示す大殿筋(M22)への最強緊締力(G)と、その内側部の第16緊締部(16)の強緊締力(A)の変化は、筋肉のストレッチ性を高めるために、2段階に変化させた。この大殿筋(M22)への緊締部を2段階に設定したことで、股関節屈曲位の範囲を広めつつ、大殿筋(M22)の伸張力も向上し、股関節屈曲位で迎える踵接地期を安定させる効果に繋がった。
また、この2段階の大殿筋サポート構造として、一段階弱まる強緊締力(A)を有する第16緊締部(16)を配置したことで、股関節(B48)の矢状面での運動で最も作用し、十分な柔軟性を確保しつつ、股関節屈曲から立脚での伸展位への変換運動をスピーディに実現させることが可能となった。
【0184】
クライミング時の股関節屈曲運動は、突起の位置により、一歩踏み上げる高さ、いわゆる股関節屈曲角度は変化する。このことから、股関節屈曲時に最大の伸展力が求められる大殿筋(M22)の伸展性を引き出す設定方法は下記の通りである。
腸骨上方部から大殿筋(M22)の筋腹を持つ大殿筋(M22)の中心から下方部に渡り、弱あるいは中の力を配置する。この圧力は、編地であっても貼り付け生地であっても、骨盤の坐骨(B28)付近にある大殿筋(M22)を被う圧力より弱とする。
その弱に対して、一段階上の圧力を持たせ、その坐骨(B28)下から殿筋の下方部を占める圧力が、上方にある殿筋の伸展力を伸ばす力を与える圧力とする。
【0185】
また、恥骨下で股関節内転筋群である恥骨筋(M27)、短内転筋(M16)の全域と、長内転筋(M53)、大内転筋(M37)、薄筋(M36)の上方を、最強緊締力(G)を有する第15緊締部(15)で被った。その第15緊締部(15)を、斜め上方にあって坐骨(B28)を幅広く押さえ、更に第14緊締部(14)で被った大殿筋(M22)の中間辺りから下方部の範囲でつなぎ目なく合流させた。
この大転子に対し、第15緊締部(15)の作用が斜め下方から支える力と、第15緊締部(15)の配置幅が同筋肉を広く保護したことで、大転子の水平方向にある梨状筋作用も高まり、それらの筋群をしっかり押さえる設定となった。
【0186】
上記の設定は、第14・15・21緊締部の前方から求心方向へ、側方から求心方向へ、後方から求心方向へ生まれる、つまり3つの方向から寛骨臼蓋(B36)へ大腿骨頭(B37)を押し込む作用を作り出した。この股関節(B48)の安定筋と知られる中殿筋(M20)、梨状筋(M21)、外閉鎖筋(M23)の総合作用が股関節(B48)の側方へのブレを制御する力となり、股関節屈曲位での着地の安定と効果を様々な複雑な動きに柔軟に対応することが可能となった。
【0187】
次にハムストリング筋へのサポート機能について説明する。
第15緊締部(15)は、第14緊締部(14)と股関節後方で繋ぎ目なく配置し、その位置から坐骨(B28)上と大殿筋(M22)下方部の一部を通過し、そのまま同幅を保ちながら恥骨結合(B27)下にある恥骨筋(M27)、短内転筋(M16)の全域を被い、その直下にある長内転筋(M53)、大内転筋(M37)、薄筋(M36)の上方部を被う位置に配置した。この配置位置により、第15緊締部(15)の走行により、股関節(B48)から斜め内下方向へ向かう圧力が生まれた。この配置位置は、股関節外側の近傍辺りから大腿後方面の上部、坐骨(B28)に付着するハムストリング筋の上方部を通し、大腿内側の上方をしっかり最強緊締力(G)で押さえる設定となった。この配置下にある筋群の中でも、最もこの配置による筋収縮への影響を受けるのは、大殿筋(M22)下方部とハムストリング筋の付着部、そして股関節内転筋群である。
【0188】
第15緊締部(15)がどの様な作用効果をもたらすかを説明すると、ハムストリング筋の上方部と大殿筋(M22)の下方部は、繋がるような位置に解剖学的に配置されている。その位置は、クライミングでの一歩踏み出す時、互いに大きな伸展性と、その伸展位での力、つまりエキセントリック収縮力が求められる。この大きく伸張される大殿筋(M22)下方部からハムストリング筋の付着部近傍辺りに最強緊締力(G)で縦方向に最強に伸びにくい力を有する編地を配置したアイデアにより、大きな可動性、いわゆる伸展力が必要とされるが、過度に伸びすぎると逆に力を失う習性を持つ筋肉の特性に対し、強く伸び過ぎることを制御する方向に収縮方向を持つ最強緊締力(G)を持つ編地を配置した。この第15緊締部(15)に配置した最強圧力を有する縦伸びを抑制する外的な圧力を加えたことで、編地が常に最強の圧力を持つ短縮性収縮力を荷わせることとなり、一歩踏み出し、立脚位をとる動作時に起こり得る完全伸展での伸張力低下を抑制させ、一歩踏み出し着地する動作がスムーズとなった。
【0189】
また、この第15緊締部(15)がもたらすもう1つの作用効果は、一歩踏み出した股関節屈曲の後に、体重を乗せる動き、つまり立脚期(股関節伸展運動)では、同筋肉は短縮性筋収縮力の力を発揮しなければならない。その瞬間的筋収縮のスイッチの切り換え、いわゆる拮抗的変換に対し適切に反応し、股関節(B48)の屈曲・伸展の拮抗運動を良好にする効果を引き出すことに成功した。この効果は、一歩踏み出し着地期を迎えた後の蹴り動作を円滑にさせ、歩幅を広げ、スピードアップに繋がった。
【0190】
大腿後方面の中心から外側にあたる大腿二頭筋の筋腹を被った第18緊締部(18)により、大腿内側部を被った第15緊締部(15)の力を強くした特性も、内転作用を向上させる要因となった。何故なら、大腿部には内転と外転の2つの作用を持つ筋群があり、大腿内側面には、大腿を内側へ引き寄せる内転筋群があり、外側にはその拮抗する方向へ導く作用を持っている外転筋群がある。従って、股関節内転を重要とするとき、大腿内側部に緊締力の比率を高め、大腿骨(B24)を内側に入れる力を高めることができるという理論が成り立ち、緊締力の外側と内側のバランスを上記のように配置した。
上記の設定により、股関節(B48)の振出しと送り出しとが、推進方向で円滑に起これば、踵から接地し、その上にある膝の着地も股関節下に導きやすく、膝関節(B49)の安定作用にも間接的に効果を示す設定となった。
【0191】
股関節(B48)を屈曲させ、脚を一歩大きく振り出す時、大腿四頭筋の拮抗面にあるハムストリング筋は、骨盤付着部近傍は強い伸展力が求められることから、大腿部近位から中央の範囲を強の緊締力(A)を持つ編地(第18緊締部(18))を配置し、大腿中央部の遠位辺りで膝関節(B49)上方の辺りは、中緊締力を(B)持つ編地(第27緊締部(27))を配置し、緊締力を上方より弱める2段階設定とした。
上記の設定の特徴は、脚を前方へ送り出す際の大腿後面のハムストリング筋の柔軟性を良好にすることを大きな目的として、伸びながら力を発揮する収縮力、つまり、エキセントリック収縮力をサポートした点にある。上記の位置を特殊な編地の収縮目を持つ緊締力を2段階に減少させるサポート法を活用したことで、歩行における踵接地での股関節屈曲位を大腿後面から適圧で支え、着地を安定させ、歩幅を広める効果を示した。
【0192】
第26緊締部(26)は、大腿後方にあるハムストリング筋の半腱様筋(M32)、半膜様筋(M33)の中間辺りに配置した。第26緊締部(26)の持つ編地の力は強(A)とし、縦に伸び難く横にやや伸び難い特徴を持つ編地である。この第26緊締部(26)の下方部は膝関節(B49)の後方部を全域被った第17緊締部(17)と大腿内側中間辺りから合流し、そのまま膝関節の外顆上方で大腿外側部の下方まで斜め下方につなぎ目なく合流させた。また、第26緊締部(26)の上方に途切れることなく繋いだ第27緊締部(27)は、ハムストリング筋の中間から上方の一部を被い、緊締力の強さは中(B)とした。この配置により、ハムストリング筋が付着する膝関節下方辺りは、最強緊締力(G)を有する第17緊締部(17)を配置し、その上方で大腿後面の中間辺り(第26緊締部(26))は強(A)となり、段階的圧力を与える3段階圧力法を設定した。
【0193】
大腿後面の下方部を含む位置から膝関節(B49)後方部の脛骨内顆(B47)から外顆(B46)までの幅を有した第17緊締部(17)の内側部は、膝関節(B49)の内側部を保護する内側側副靭帯(B51)を後方部から支える位置上にあり、鵞足(B43)下方で脛骨内側部までとした。この配置を内側面とし、第21緊締部(21)と大腿の内側で遠位約3分の1辺りから膝内側部にかけて合流し、その下方の鵞足面で繋ぎ目を持たず、膝関節(B49)の内側部を被った第20緊締部(20)と、その下方で合流させた。
【0194】
第17緊締部(17)の外側面は第18緊締部(18)で保護した腸脛靭帯(M31)の下方部から腓骨頭(B44)を含む縦の長さを有し配置した。この外側面には、膝関節(B49)を外側から制御する外側側副靭帯(B52)もあり、膝関節(B49)の外側方向へ、つまりO脚を制御する作用をサポートさせた。
【0195】
また、第17緊締部(17)が膝関節(B49)の後方面で、坐骨(B28)から脛骨(B56)に付着する内側の半腱様筋(M32)、半膜様筋(M33)の下方部と付着部を、外側は同じく坐骨(B28)と大腿骨粗面から始まり腓骨頭(B44)に付着する大腿二頭筋の下方部から付着部を押えた。この設定と、その上方にある第26緊締部(26)と、その上方の第27緊締部(27)、そして、さらに上方となる第15緊締部(15)と18緊締部(18)が総合的に作用し、膝関節(B49)が伸展され、一歩踏み出し、着地する際のハムストリング筋のエキセントリック収縮力を効率良くサポートし、踵の接地を安定した位置に導く効果を示した。
このハムストリング筋に対する緊締力を多段階に順次減少させる方法は、2つの作用効果が期待できる。1つは遊脚期で膝を徐々に伸ばし、踵が地面に着地する際の足部への衝撃緩和作用と、踵の蹴り上げ運動で脛骨(B56)が大腿骨(B24)から前方へ倒れようとすることを制御する作用をサポートした。
上記の2つの作用効果を引き出した設定が、ハムストリング筋の起始部である坐骨結節(B39)近傍辺りを最強(G)に、次に強(A)、その下方を中(B)とする3段階の緊締力を設定したことで、膝を屈曲位から伸ばす際の、筋肉の伸展性に対応しやすい作用効果を生み出した。
【0196】
次に大腿四頭筋へのサポート機能と膝関節安定機能について説明する。
大腿前方にある大腿四頭筋は、大腿直筋(M49)、外側広筋(M50)、内側広筋(M51)、中間広筋(M52)で構成され、膝関節を伸展させる主動筋として作用し、膝を屈曲した体勢で体重をかけながらの動きを支えるとともに、重心を安定させる重要な筋肉である。
【0197】
大腿四頭筋のうち、大腿直筋(M49)は股関節(B48)と膝関節(B49)の2つの関節に作用する二関節筋である。大腿直筋(M49)は大腿前方の他の筋群と同じく膝屈伸に作用しつつ股関節の屈伸運動にも作用する。従って、大腿四頭筋の中で最も活動量が多く、疲労しやすい筋肉である。
また、大腿直筋(M49)とともに股関節(B48)と膝関節(B49)の作用に力を発揮する筋肉が縫工筋(M14)である。縫工筋(M14)は大腿前方面上を斜めに走行しており、股関節の屈曲・伸展、膝関節の屈曲・伸展にも作用する。
この2つの筋肉は、常に脚運びと膝屈曲時での着地で酷使されている。そして、大腿四頭筋が疲労すると膝屈曲位での荷重動作で膝関節(B49)は不安定になり、体幹の安定機能も弱まり、推進する歩幅は減少する。
この解剖学的特徴から、大腿四頭筋作用をサポートする設定を、大腿直筋(M49)と
縫工筋の2つの筋肉が始まる起始部から筋肉の付着する部位、あるいはその近傍までを保護する考えに至った。
【0198】
そこで、膝関節屈曲位で求められる大腿四頭筋のエキセントリック収縮の繰り返しに対して、編地の収縮目を、その筋収縮作用方向に拮抗させるように第21緊締部(21)を配置した。
第21緊締部(21)の配置位置は、腸骨稜(B29)の上方から、その下方にある上前腸骨棘(B34)、下前腸骨棘(B35)上を通過し、腸脛靭帯(M31)の前方を通し、大腿前方面の上方の外側部から中間、そして膝関節(B49)上方部を押さえ、そのまま緊締力を弱めることなく大腿内側の内転筋群全域を支えるように大腿前方部を斜め下方に被った。さらに、第21緊締部(21)は膝関節(B49)の内側側副靭帯(B51)の付着する大腿骨内顆(B40)を越えた位置までとした。
この第21緊締部(21)の編地の収縮目と圧力は、強く縦伸びを抑制する最強緊締力(G)を配置した。
【0199】
上記に示した第21緊締部(21)の配置位置下にあって、その最強緊締力(G)の作用を受ける重要な筋肉は、腸骨前方に位置する上前腸骨棘(B34)から始まる縫工筋(M14)と、下前腸骨棘(B35)から始まる大腿直筋(M49)、そして、大腿内側部に付着する恥骨筋(M27)、短内転筋(M16)、大内転筋(M37)、長内転筋(M53)、及び薄筋(M36)などの股関節内転筋である。
【0200】
第21緊締部(21)の縦伸びを強く抑制する編地の最強緊締力(G)の作用を受ける大腿直近(M49)に対しては、膝屈曲位では抵抗する方向への力となり、膝屈曲位で招きやすい過屈曲位での筋力が弱まり、脛骨(B56)が大腿骨から前方へ移動するリスクを回避させるエキセントリック収縮を向上させる設定となった。従って、膝を屈曲させ、クライミングから下山する動きでの膝屈曲位でのエキセントリック収縮をサポートし、大腿骨の下方に脛骨(B56)を引き寄せる力を向上させた。その効果は、股関節を安定させ、股関節下に膝関節を誘導しやすくなり、下山時の大腿四頭筋の筋収縮力を保持しやすくさせる効果に繋がった。
【0201】
また、縫工筋(M62)は、大腿部前面に縦に長く位置する大腿直筋(M49)、内側広筋(M51)、中間広筋(M52)、外側広筋(M50)の脛骨粗面(B42)までの長い筋走行に対し、大腿四頭筋を斜めに前方から押さえ、バンドのように大腿四頭筋を支え、大腿四頭筋の筋収縮力への圧力をかけている。
上記の縫工筋(M14)の圧力は、大腿四頭筋の短収縮方向に作用させた第21緊締部(21)の最強緊締力(G)を上から加えることにより、大腿四頭筋の筋収縮力をさらに向上させる設定となった。
【0202】
また、第21緊締部(21)が、恥骨結合(B27)から大腿骨(B24)、及び脛骨内側にある脛骨内顆に付着する筋群をサポートしたことで、大腿内側面にある股関節内転筋群(恥骨筋、短内転筋、長内転筋、大内転筋、薄筋)は、第21緊締部(21)が持つ縦伸び抑制作用により、内転筋群の起始部である恥骨方向に大腿骨(B24)を近づける動き、つまり股関節内転筋運動をサポートする機能を持たせた。
【0203】
上記の設定により、膝関節屈曲位で求められる大腿四頭筋のエキセントリック収縮の繰り返しに対して、編地の収縮目を該筋肉の短縮する筋収縮(コンセントリック収縮)作用方向に沿って配置した第21緊締部(21)の有する最強緊締力(G)が、大腿四頭筋の伸びようとするエキセントリック収縮に抵抗を与えることで、過伸展状態を抑制し、効率良く伸展性の筋力を発揮するこことができるようになり、当該筋肉の疲労軽減効果を生み出した。
【0204】
次に膝関節安定機能を説明する前に、ここで、膝関節について説明する。
膝関節は、太腿(ふともも)の大腿骨(B24),脛(スネ)の部分の脛骨(B56)、膝の表面を被う「お皿」と呼ばれる膝蓋骨(B53)の3つの骨で形成されている。それらの骨を繋ぎ合わせているのが、内側側副靭帯(B51)、外側側副靭帯(B52)、前十字靭帯(B54)、後十字靭帯(B55)で、膝関節が不安定にならないように支えている。
膝の外側には外側半月板(B57)、内側には内側半月板(B58)という軟骨組織があり、膝への衝撃を和らげるクッションのような役割を果たしている。
膝には伸展(伸ばす)、屈曲(曲げる)、外旋(外へ回す)、内旋(内へ回す)といった機能がある。
【0205】
屈曲位での膝関節(B49)の不安定を招く要因は、大腿骨関節面での膝蓋骨(B53)の側方への動揺性と、大腿骨(B24)に対し脛骨(B56)が前方へずれようとする滑りの力が生まれると、膝関節(B49)を介し脛骨(B56)に付着する大腿四頭筋の収縮作用が低下し、膝関節安定能力も弱まる。
また、常に膝を屈曲し姿勢を前傾する動作により、前十字靭帯(B54)は牽引ストレスを受ける。その前十字靭帯(B54)への牽引ストレスを緩和するアイデアを導入し、膝屈曲位での安定性を高める構造を持たせた。
それは大腿部後方のハムストリング筋の下方部をサポートした最強緊締力(G)を有する第17緊締部(17)の編地を膝内側部に配置した強緊締力(A)を有する第20緊締部(20)と繋ぎ、最強緊締力と連係させ、さらに、下腿前方の第19緊締部(19)の最強緊締力(G)で被われた脛骨粗面(B42)の内側方面で繋いだ。この膝内側部をサポートした第20緊締部(20)と第21緊締部(21)を大腿後方面にあるハムストリング筋の下方部を被った最強緊締力(G)を有する第17緊締部(17)と膝外側部で同じく最強緊締力(G)を有する第19緊締部(19)と途切れることなく繋いだ設定が生み出す膝内・外側部から脛骨前方面をサポートした設定は、脛骨前方を後方に押さえる力が生まれ、股関節屈曲で大腿骨下に脛骨(B56)を安定させる力となった。
この設定は、大腿後面から膝関節(B49)の両側に分岐させたサポート力を脛骨前方に合流させる効果を示し、脛骨(B56)が大腿骨(B24)に対し前方へ倒れるのを制御する前十字靭帯(B54)の作用を補助するハムストリング筋効果を生み出した。結果、膝屈曲時で求められる脛骨(B56)と大腿関節面の安定力を高め、膝安定力を高めることが可能となった。
【0206】
膝蓋骨(B53)中心辺りは中緊締力(B)を有する第23緊締部(23)を配置し、その上部に強の緊締力(A)を有する第24緊締部(24)と、下部に第25緊締部(25)を配置した。さらにその上部内側と下部外側に最強緊締力(G)を持つ編地(上部には第21緊締部(21)、下部には第19緊締部(19))を配置した。そして、下腿部後方(第28緊締部(28))から外側を通り、下腿前方にかけて最強緊締力(G)を有する第19緊締部(19)を配置し、第28緊締部(28)と下腿内側に配置した強緊締力(A)を有する第20緊締部(20)と合流させた。この設定により、更に膝関節(B49)の前・後十字靭帯(B55)をサポートする効果が得られた。
【0207】
膝関節(B49)の安定性と膝屈伸運動、つまり膝を曲げた状態から膝を伸ばす動作時に求められるのが、膝蓋骨(B53)と大腿骨面で成す膝蓋・大腿関節の安定性である。
従来から提供されている膝蓋骨安定機能は、衣料本体が持つ弾力性のある布地に膝蓋骨(B53)の上下の運動範囲を想定し、その範囲に別の伸縮性のある布地をあてがい、膝蓋骨(B53)の上下動の円滑性を図る設定が公開されている。しかしながら、この方法は、重なり合う生地の緩みや、重なる布により招く皮膚との空間が、大腿骨(B24)の関節面で様々な動作時に上下や側方へと動く膝蓋骨(B53)の動きを適切な位置で良好に作用させるにはフィット性が乏しく、膝蓋骨(B53)に対するコントロール不足を招いていた。
そこで、本実施形態4のボトムスは、上記のように衣料本体に重ねるように収縮パワーを持つ布地(パワーネット)を貼り付けるシステムとは異なり、膝蓋骨(B53)の上方・中心・下方を補う全ての範囲は一枚の生地となり、膝蓋骨(B53)の上方、中心、下方に対して圧力をそれぞれの作用を考慮し、変化させ配置した。それは伸縮力を有しつつ、着圧がある編み込み式で、膝蓋骨(B53)の上下に動く範囲を考慮し、膝蓋骨中心に適圧を与え、膝蓋骨(B53)を大腿骨(B24)の関節面上に導き、膝関節前方より押さえる力が発生するように、膝関節内側・中心・外側を途切れなく編地を配置したのである。
【0208】
膝蓋骨下方部で脛骨上方の脛骨粗面上で補う位置を頂点に、膝蓋骨(B53)の下方部を含むように膝関節内側部までの範囲に第20緊締部(20)を配置した。この配置形態から略三角形ゾーンを描く結果となり、膝蓋骨(B53)の下方部に第25緊締部(25)を配置した。この第20緊締部(20)及び第25緊締部(25)下の略三角形ゾーンには、膝蓋骨(B53)を含む大腿四頭筋の付着部である膝蓋腱(M54)がある。
この膝蓋腱は、膝屈曲位で脛骨粗面(B42)から引き抜かれようとする牽引力が生じ、スポーツ障害発生率も高い部位である。その牽引力は、クライミングやトレッキングで坂道を降りる時、常に膝関節屈曲位での着地が求められる。この膝関節屈曲位での着地は、
脛骨粗面(B42)に牽引ストレスが発生する。この牽引力は、上記動作を繰り返すことで、さらに誘引し、牽引ストレスを増幅し、脛骨粗面(B42)の炎症要因にもなりうる。
そこで、脛骨粗面(B42)に発生しやすいスポーツ障害を予防する設定が求められる。
【0209】
脛骨粗面(B42)に対し招きやすいスポーツ障害に、オスグッドシュラッテル病があるが、常に膝を屈曲位とするスポーツやランニングや着地期での膝屈曲位が大きなリスクとなることは、既に臨床的に知られている。
その対応として、シュラッテルバンドも提供されているが、装着位置を脛骨粗面(B42)に設定し、下腿上方部の周囲を取り巻き、一定の効果をもたらすものである。このバンドは、厚みがある装具のような形状から、皮膚との空間を広げやすく、適切な位置へフィットさせるという点では、改良の課題があると判断した。そこで本ウェアは、この脛骨バンドの固定効果を引き出しつつ、脛骨(B56)の膝屈曲時での膝蓋腱(M54)の柔軟性を保持しつつ、膝蓋骨(B53)の側方への移動を制御させ、適切な位置での膝関節屈曲運動を引き出す。つまり、大腿骨(B24)の関節面上で膝蓋骨(B53)がフィットし、滑らかに滑動し、その膝蓋骨(B53)を持つ大腿四頭筋の収縮作用を向上させ、大腿四頭筋に繋がる膝蓋腱(M54)への牽引ストレスを軽減させる作用も加える設定が、脛骨バンドのみより、更に脛骨粗面(B42)にかかる牽引ストレスを緩和できる効果があると考え設定した。
その緊締力の設定は、膝蓋腱(M54)上方と周囲は強緊締力(A)とし、膝蓋骨中心部から上方と下方は中緊締力(B)で押さえ(第23緊締部(23))、それぞれ膝蓋骨(B53)の上方と下方の第24緊締部(24)と第25緊締部(25)へ繋ぎ、強緊締力(A)で縦に伸び難い緊締力の編み地で押さえ、その牽引力を前方から押さえるように膝蓋骨(B53)の滑動範囲を被った。
【0210】
第23緊締部(23)の配置は、膝関節(B49)の中心位置で、大腿骨関節面の中心位置下にある膝蓋骨(B53)を、膝関節(B49)の内側部の中間から、側方に位置する膝蓋骨(B53)の中心を通過し、膝関節外側部の中間辺りまで、水平面でバンド効果が表れるような中緊締力(B)を持つ編地を配置した。
膝蓋骨中心に作用する水平バンドの効果が、膝関節屈曲位において膝蓋骨(B53)に生じる、大腿骨(B24)の関節面(顆間窩)で前方へ押し出される動きに対して、大腿骨(B24)の関節面(顆間窩)に膝蓋骨(B53)を押える作用が得られ、膝関節(B49)の屈曲・伸展運動の円滑性を引き出し、屈曲時にかかる脛骨粗面(B42)にかかる牽引ストレスも緩和する効果が期待できた。
【0211】
第24緊締部(24)は、大腿四頭筋の筋腹が最も細くなり膝蓋骨(B53)を有する腱へ移行する近位辺りをサポートできるように、膝蓋骨上方に三角形の形状で配置した。この配置下には大腿四頭筋下方部で筋肉が最も細くなる部位であることから、その範囲をサポートする緊締力は強の圧力を持ち、縦伸びを強く抑制する力を持たせた。この第24緊締部(24)の配置下にある大腿四頭筋の腱に移行する位置は、膝関節屈曲時に最大の力を発揮する大腿四頭筋の伸張性筋収縮の力を、腱を通し、膝蓋骨(B53)へ伝えるエネルギーの作用効果を高め、大腿四頭筋の収縮作用もサポートした。
上記の配置設定にあたり、スポーツ臨床で多くの故障者への対策として、この位置(脛骨上方部で脛骨粗面(B42)を押さえる位置)にテーピングを水平方向に巻くことで、膝伸展や屈曲運動が起こしやすいことは、既に判明していた。
このスポーツ臨床と検証結果を踏まえ、テーピング効果を持つ編地で実現できないかを考察し、この強の着圧を有する第25緊締部(25)の位置で逆三角形の形状を成し、膝関節(B49)を内側方から保護する強の第20緊締部(20)と、膝関節外側部を保護した最強の力を有する第19緊締力とつなぎ目なく連係させたアイデアと、膝外側部の第19緊締部(19)と膝関節後方面をサポートした第17緊締部(17)を合流させ、つまり膝関節後方面を被った第17緊締部(17)と膝の外側面を被った第19緊締部(19)を合流させたことで脛骨粗面(B42)と下腿上方部の周囲を固定する脛骨バンド作用効果が得られた。
また、大腿骨内顆(B40)と外顆辺りを被った緊締力、内側の最強緊締力(第21緊締部(21))と外側の強緊締力(第22緊締部)を合流させたことで、大腿遠位部で膝蓋骨上方を押える第24緊締力の効果が向上し、より膝蓋骨(B53)の上下運動の安定性と側方への移動を制御する効果に繋がった。この作用効果が全て膝屈曲・伸展運動での大腿四頭筋の収縮作用を高めた。
この効果は、後述する立ち幅跳びの検証結果でも実証された。
【0212】
次に、前脛骨筋(M55)と下腿三頭筋のサポート機能について説明する。
山や岩壁などの傾斜地を登る際に求められる前傾姿勢の歩行では、一歩踏み出す時の駆動力となる下腿筋の大きな活動量が必要とされる。中でも足関節(B50)の底背屈作用を担う下腿前方面の前脛骨筋(M55)と下腿後面の下腿三頭筋は互いに拮抗的に作用しながら、体重を運ぶ駆動力として働いている。
足にかかる体重を持ち上げる下腿三頭筋が短縮性筋収縮を成し、力を発揮する時、その拮抗面にある前脛骨筋(M55)は伸張性筋収縮をして力を発揮する。その両面にある筋肉が互いに適切な筋収縮作用を発揮しなければ、踵の持ち上げ動作におけるパワーは望めない。
この下腿筋の作用を円滑に起こす設定として、踵を持ち上げる作用の下腿三頭筋の筋肉量に対し、前脛骨筋(M55)の筋肉量が少ない点を考慮し、前脛骨筋(M55)の作用をサポートする設定を開発した。
【0213】
上記の前脛骨筋(M55)は下腿後面の下腿三頭筋が短縮性筋収縮を成す時、逆の伸張性筋収縮の力で踵を持ち上げ体重を支える。そこで、筋収縮時に筋肉のストレスを受けながら力を発揮する伸張性筋収縮作用を必要とする前脛骨筋(M55)の筋収縮に対し、伸びながら力を発揮する、いわゆる伸びる力とは常に縮む力を持ちつつ発揮することが求められることから、前脛骨筋(M55)に対し、最強緊締力を持つ(G)第19緊締部(19)を配置し、筋肉量の少ないことで必然的に招く弱い筋収縮力を前脛骨筋(M55)より強い収縮力を有する下腿三頭筋のサポート力で補う効果が期待でき、筋腹量の多い下腿三頭筋の収縮力とのバランスが良好となった。
その結果、下腿三頭筋の仕事量が軽減でき、踵を持ち上げる総合力が向上した。この設定は、クライミングの様に坂道を登る際の一歩踏み出す踵の蹴り動作を力強くサポートすることが可能になった。
【0214】
上記の効果は、長時間の登山やクライミングの足運びを軽快にし、前傾姿勢による踵の蹴り動作を円滑にさせた。つまり傾斜地の歩行やクライミングにより疲労が表れやすい下腿前方の前脛骨筋(M55)をサポートすることにより、疲労軽減効果が期待できる。
よって、前脛骨筋(M55)の疲労により、その筋肉の付着部である脛骨前外側面の筋膜の疲労性疾患であるシンスプリントや下腿三頭筋の筋損傷を予防する効果も期待できる。
つまり、実施形態4のボトムスは、まず第1に股関節、第2に膝関節、第3に下腿部、第4に着地期を支える大腿四頭筋、第5に骨盤の安定力をサポートする機能を搭載している。
また、下腿三頭筋はクライミング時の足指で突起をつかむ着地肢位をとる時、十分な伸展(背屈)動作が求められる。従って、この下腿三頭筋に最強緊締力(G)を全域に配置したとすれば、その背屈運動に対し拮抗する力が大きすぎる問題が発生する。そこで実施形態4のボトムスは、その足関節(B50)の背屈肢位への柔軟な対応策として、新たに発明した考え方は、背屈動作で最大の牽引力がかかるアキレス腱(M41)から、その上方の筋腱移行部上方辺りまでを最強緊締力を有する第28緊締部(28)で被い、その上方で筋腹が最も多い位置は、十分な伸展力が必要であることから、2段階圧力を下げる中緊締力を有する第30緊締部(30)を配置した。そして、その上方にあたる位置で内側部も含み、下腿上方で筋腹が小さくなる位置辺りに強の緊締力(A)を有する第29緊締部(29)を配置した。
この3段階に着圧を下方より順次途切れなく配置した設定により、求められる筋肉の伸展能力に適切に対応が可能となり、より背屈動作を安定させた。また、この順次筋肉の付着部のアキレス腱(M41)から伸展力が求められる下腿後面に拮抗する下腿前方面は、最強緊締力を付与し(第19緊締部(19))、常に短縮性筋収縮力を発揮しやすい設定とした。
【0215】
最後に、腹斜筋へのサポート機能について説明する。
上記の効果に加え、背筋群の収縮力を高め、持続的に収縮力を保持するアイデアとして、背筋群の拮抗面にある腹斜筋の収縮力を向上させることに成功した。
体幹の重みを重力に抗する方向へ持ち上げる作用を成す脊柱起立筋(M7)は、矢状面に短縮性と伸張性収縮を起こし、体幹の前屈(屈曲)と後屈(伸展))を起こす。その背骨を両腸骨側方から対側の肋骨(B10)や白線に向かい斜めに走行し、体幹を支えているのが腹斜筋(M12・M13)である。この腹斜筋は、胸郭部や内臓の重みを支え、骨盤の安定に作用する重要な筋肉であることから、腹斜筋の収縮力を向上させる設定として、強の緊締力(A)を有する第31緊締部(31)及び中緊締力(B)を有する第32緊締部(32)を2段階で配置した。中緊締力(B)を有する第32緊締部は、強緊締力(A)を有する第31緊締部(31)の斜め下方で、股関節(B48)近傍から、鼡径靭帯の下方を沿うように、大腿内側部まで、徐々に縦幅が広がるように配置した。
上記の第31緊締部(31)及び第32緊締部(32)を腹斜筋の走行に対して緊締力を2段階で配置したことで、腹斜筋の収縮力が向上し、上体が捻れやすくなり、回転力の向上が期待できる。
また、腹斜筋の収縮力は、胸部や腹部の重みを支える作用があり、体幹の中心にある背骨にかかる荷重を分散させる役割を担っている。
従って、背骨にかかる荷重を背骨に沿う形で付着している脊柱起立筋(M7)だけに委ねるのではなく、体幹前方にある重みを支える腹斜筋の力を向上させることで、脊柱起立筋(M7)への荷重ストレスを緩和でき、つまり腰部への荷重ストレスが緩和し、腰痛予防効果が期待できるのである。
【0216】
体幹の前方にある腹筋群の強弱により、中心軸となる背骨に沿う脊柱起立筋(M7)の力が発揮しやすくなるか、否かを背筋力を見ることで、本発明のボトムスが目指す腹筋群の収縮作用が向上し、脊柱起立筋(M7)の収縮作用を向上させ、背骨にかかる荷重を緩和している状態が把握できることから、背筋力計にて背筋群の力を測定した。
腹筋群の弱い人が背筋計を用いて背筋力を計測した場合、背筋力の数値は低い。また、腹筋群の強い人が背筋力を計測した場合、背筋力の数値は高くなることが知られている。それは、一般的に背骨を支えている荷重は腹筋群3、背筋群7の割合で支えられていると言われており、腹筋群の筋力が弱い場合、背筋群がその筋力を補うことになる。つまり腹筋群が弱いと背筋群の負担が大きくなり、背筋群は疲労を招きやすくなる。それは、背筋力の低下に繋がり、腰痛が発生しやすくなるのである。
従って、腹筋群の筋力を高めることは、背筋群に加わる荷重ストレスを少なくし、背部の疲労も緩和され、背筋力が高くなるという原理が成り立つ。また、腹筋力が高まることによって腰痛予防効果が期待できることはすでに知られている。
後記の背筋力の検証結果でも本実施例の上記の効果は実証された。
つまり、実施形態4のボトムスは、まず第1に股関節、第2に膝関節、第3に下腿部、第4に着地期を支える大腿四頭筋、第5に骨盤の安定力と回旋力をサポートする機能を搭載しているので、山登りやトレッキングなどの傾斜地の歩行にも適した機能を兼ね備えたクライミングウェアと言える。
【0217】
以上、上記の実施形態に基づき本発明のトップス及びボトムスについて説明したが、上記実施形態は本発明の一例に過ぎず、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれる。
【0218】
本ウェアは、アンダーウェアとしては勿論のこと、アウターウェアとしても着用が可能である。本発明の実施形態における外形形状(トップスは長袖、7分袖、半袖など、ボトムスは10分袖、7分袖、3分袖など、ファスナーの有無や位置及び長さなど)や、最強緊締部、強緊締部、中緊締部、弱緊締部の形状や配置に限定されるものではない。
【0219】
本発明のトップスは、上腕の上部から手首まで、或いは上腕の下部から手首までの部分を肘サポーターとして使用することもできる。
本発明のボトムスは、大腿部1/2から足首まで、或いは膝蓋骨(B53)の下から足首まで、或いは大腿部1/2から脛骨(B56)の下方までの部分を膝サポーターとして使用することもできる。
また、本発明のボトムスは、捻挫予防などのために、踵以外の足底及び足関節(B50)の外側と内側を被ってサポートする機能を持つようにすることもできる。
本発明のトップスとボトムスを併用する際には、腰部においてトップスとボトムスが重なって緊締力が強くなるので、トップス、ボトムス夫々の腰部の緊締力を弱くすることもできる。
【実施例】
【0220】
各緊締部の素材を縫合して作製した実施形態1〜4のクライミング用トップス並びにボトムスについて、それぞれの効果を確認するために、肩外転角度、肩屈曲角度、体幹回旋角度、背筋力、立位体前屈、SLR(膝伸展挙上)、体重バランス、歩幅及び立ち幅跳びの検証を行った。
【0221】
(肩外転角度の検証)
まず、肩外転について説明する。肩関節が正常値である180度外転するためには、肩甲骨が60度上方回旋し、上腕骨が120度外転する必要があり、これにより腕を180度側方へ挙上することができる(この肩甲骨1、上腕骨2の比率で動くことを肩甲・上腕リズムという)。
肩外転角度を検証することにより、肩外転に作用する棘上筋などのインナーマッスル、三角筋などのアウターマッスルが収縮する際の連動性と肩甲胸郭関節面での肩甲骨の動きを見る。例えば、円背姿勢や肩周囲筋の柔軟性が失われている場合などは、腕がスムーズに側方へ挙上できないだけでなく、可動域に制限が見られることになる。
【0222】
そこで、肩外転の可動域の測定を行った。測定方法は下記の通りである。
1.被験者は椅子に腰かけ、両手を体側に添わせて下ろす。
2.体の真横から片側の手掌を外側に向けたまま上げていく。
3.90度までは手掌を下、それ以降は手掌を上に向けて挙上していく。その際、腕と一緒に肩が上がらないように注意する。
4.腕が止まった位置で、ゴニオメーター(角度計側器)を使用し、可動域を測定する。
【0223】
被験者5名により、本実施形態のトップスを着用していない場合、及び実施形態1及び3のトップスを着用した場合における肩外転角度を、上記の測定方法にて行った。この測定により得られた肩外転の結果を下記表1A及び表1Bに示す。測定の単位は度である。
尚、表1A及び表1Bにおいて「未着用」は本実施形態のトップスを着用せずに測定を行った場合、「着用」は本実施形態のトップスを着用して測定を行った場合、「差」は着用時の数値から未着用時の数値を差し引いたものである。
【0224】
【表1】
【0225】
【表2】
【0226】
上記表1Aの結果から、被験者全員において、本実施形態1のトップスを着用した方が、未着用の場合よりも肩外転角度が平均で右14.0度、左16.0度広がった。また、正常値である180度以上の過度な肩外転は見られなかった。
また、上記表1Bの結果から、被験者全員において、本実施形態3のトップスを着用した方が、未着用の場合よりも肩外転角度が平均で左右とも16.0度広がった。また、正常値である180度以上の過度な肩外転は見られなかった。
【0227】
上記の結果から、本実施形態のトップスを着用した場合、肩外転角度が広がったことにより、腕が側方へ挙がりやすくなったことがわかる。これにより、円背などの姿勢が改善するとともに肩後方面が安定し、肩周囲筋の柔軟性と肩甲骨の動きを円滑にサポートする効果が実証された。
【0228】
(肩屈曲角度の検証)
次に、肩屈曲の可動域を測定した。肩屈曲角度の検証は、腕を前方挙上させるときの主動筋(三角筋前部線維・大胸筋)と、その拮抗筋(三角筋後部線維・小円筋・広背筋)の柔軟性を見るとともに、肩甲骨の外転運動(前鋸筋)と上方回旋運動(僧帽筋上部線維・僧帽筋下部線維)を見るためである。
【0229】
そこで、肩屈曲の可動域の測定を行った。測定方法は下記の通りである。
1.被験者は椅子に腰かけ、両手を体側に添わせて下ろす。
2.体の真横から片側の手背を前方に持ち上げていく。その際、腕と一緒に肩が上がらないように注意する。
3.腕が止まった位置で、ゴニオメーター(角度計)を使用し、可動域を測定する。
【0230】
被験者5名により、トップスを着用していない場合、本実施形態1及び3のトップスを着用した場合における肩屈曲角度を、上記の測定方法にて行った。この測定により得られた肩屈曲の結果を下記表2A及び表2Bに示す。尚、表2A及び表2Bにおいて「未着用」、「着用」、「差」の定義は表1と同様である。測定の単位は度である。
【0231】
【表3】
【0232】
【表4】
【0233】
上記表2Aの結果から、被験者全員において、本実施形態1のトップスを着用した方が、未着用の場合よりも肩屈曲角度が左右とも平均14.0度広がった。また、正常値である180度以上の過度な肩屈曲は見られなかった。
また、上記表2Bの結果から、被験者全員において、本実施形態3のトップスを着用した方が、未着用の場合よりも肩屈曲角度が左右とも平均13.0度広がった。また、正常値である180度以上の過度な肩屈曲は見られなかった。
【0234】
この検証により、本実施形態1のトップスを着用した場合、肩屈曲角度が広がったことにより、腕が前方へ挙がりやすくなったことがわかる。これにより、円背姿勢などの姿勢を改善するとともに肩後方面が安定し、肩周囲筋の柔軟性と肩甲骨の動きを円滑にサポートする効果が実証された。
【0235】
(体幹回旋角度の検証)
脊柱起立筋の左右バランスと体幹の捻れ度の左右バランスを見る。また、体幹の回旋に作用する腹斜筋の柔軟性と回旋力を見る。
【0236】
体幹回旋角度の測定方法は下記の通りである。
1.被験者の肩峰に印をつけ、肩峰と乳様突起を結ぶ直線と鼻の中心を通る直線が垂直に交わるところでゴニオメーター(角度計側器)を頭に設置する。
2.被験者は、背筋を伸ばし姿勢を正して、背もたれのない椅子に深く腰掛け、頭が動かないようにする。
3.足を肩幅と等間隔に開いて肩が前後に動かないよう脇を締め、手を肩にそえる形で左又は右に回旋し、最も回旋した時の角度を記録する。
【0237】
被験者5名により、トップス及びボトムスを着用していない場合、本実施形態1及び3のトップスを着用した場合、本実施形態2及び4のボトムスを着用した場合における左右の回旋角度を、上記の測定方法にて行った。この測定により得られた結果を下記表3A及び表3B、表4A及び表4Bに示す。
尚、表3において「未着用」、「着用」、「差」の定義は表1と同様である。測定の単位は度である。また、表4において「未着用」は本実施例のボトムスを着用せずに測定を行った場合、「着用」は本実施例のボトムスを着用して測定を行った場合、「差」は、着用時の数値から未着用時の数値を差し引いたものである。測定の単位は度である。
【0238】
【表5】
【0239】
【表6】
【0240】
【表7】
【0241】
【表8】
【0242】
上記表3Aの結果から、被験者全員において、本実施形態1のトップスを着用した方が、未着用の場合よりも体幹回旋角度が平均で右19.0度、左21.0度広がった。また、被験者5名中2名が左右の回旋角度が均等になり、1名が左右の回旋角度の差が5度に縮まった。
また、上記表3Bの結果から、被験者全員において、本実施形態3のトップスを着用した方が、未着用の場合よりも体幹回旋角度が平均で右17.0度、左15.0度広がった。また、被験者5名中3名が左右の回旋角度が均等になり、1名が左右の回旋角度の差が5度に縮まった。
【0243】
上記表4Aの結果から、被験者全員において、本実施形態2のボトムスを着用した方が、未着用の場合よりも体幹回旋角度が平均で左右とも14度広がった。また、未着用で回旋角度が均等な被験者1名を除き、被験者4名中1名が左右の回旋角度が均等になり、2名が左右の回旋角度の差が5度に縮まった。
また、上記表4Bの結果から、被験者全員において、本実施形態3のボトムスを着用した方が、未着用の場合よりも体幹回旋角度が平均で右12度、左14度広がった。また、未着用で回旋角度が均等な被験者1名を除き、被験者4名中2名が左右の回旋角度が均等になり、1名が左右の回旋角度の差が5度に縮まった。
【0244】
上記の検証は、本実施形態のトップス又はボトムスを着用した場合、体幹の左右の回旋角度が広がったことにより、頚椎・胸椎・腰椎の弯曲バランスが整い、体幹が回旋しやすくなり、また、左右の筋肉の筋緊張性が均等となった結果、左右バランスが整い、左右の回旋力の差異が減少したことを示している。同時に、体幹の回旋筋である腹斜筋の柔軟性と伸展力がサポートされることが実証された。さらに、本発明のトップスを着用した場合、習慣性円背改善効果及び習慣性側弯改善効果が期待できると言える。
【0245】
(背筋力の検証)
背筋力を測定することにより、脊柱起立筋や広背筋などの背筋群の前傾位(前屈)における伸展された筋収縮(エキセントリック収縮)状態から背骨を伸ばし、立位になる際(伸展)のコンセントリック収縮に変化する力を見ることができる。
【0246】
背筋力は背筋力計を用いて測定したものであって、その測定方法は下記の通りである。
1.両足を肩幅に広げ、軽く膝を曲げ、前傾位をとる。
2.上記の体勢で顎を引き、両手でしっかり背筋計のハンドルを持つ。
3.ハンドルを持った体勢から膝と背骨を伸展させながら両手で背筋力計のハンドルを引き上げる。
【0247】
そして、被験者各5名により、トップス及びボトムスを着用していない場合、本実施形態1及び3のトップスを着用した場合、本実施形態2及び4のボトムスを着用した場合における背筋力を、上記の測定方法にて行った。この測定により得られた背筋力の結果を下記表5A及び表5B、及び表6A及び6Bに示す。
尚、表5及び表6において「未着用」、「着用」、「差」の定義は表1及び表4と同じである。測定の単位はkgである。
【0248】
【表9】
【0249】
【表10】
【0250】
【表11】
【0251】
【表12】
【0252】
上記表5Aの結果から、被験者全員において、本実施形態1のトップスを着用した方が、未着用の場合よりも背筋力が平均で15.0kg上昇した。
また、上記表5Bの結果から、被験者全員において、本実施形態3のトップスを着用した方が、未着用の場合よりも背筋力が平均で10.6kg上昇した。
【0253】
上記表6Aの結果から、被験者全員において、本実施形態2のボトムスを着用した方が、未着用の場合よりも背筋力が平均で11.8kg上昇した。
また、上記表6Bの結果から、被験者全員において、本実施形態4のボトムスを着用した方が、未着用の場合よりも背筋力が平均で12.6kg上昇した。
【0254】
上記表5A及び表5Bの結果から、被験者全員について、本実施形態1及び3のトップスを着用した場合においては、脊柱起立筋や広背筋などが縦方向に伸展され、これらの筋肉に対応する位置に配置した編地の緊締力により、この編地が上記の如く縦方向に伸びた筋肉に伴って縦方向に伸びるとともに、前傾位のエキセントリック収縮から立位に変化する際に上記筋肉がコンセントリック収縮し、上記編地が元の張力に戻るキックバック時と同方向に筋収縮が作用するため、背筋力の向上が見られたと考えられる。
【0255】
上記表6A及び6Bの結果から、本実施形態2及び4のボトムスを着用した場合においては、骨盤がニュートラルな状態に導かれるとともに、その骨盤に付着する脊柱起立筋や広背筋などの停止部が編地の緊締力により固定され、矢状面方向の収縮、前傾位のエキセントリック収縮から立位に戻る際に上記筋肉がコンセントリック収縮運動を起こしやすくなったため、背筋力の向上が見られたと考えられる。
【0256】
上記の検証により、本実施形態1及び3のトップス又は実施形態2及び4のボトムスは背筋力を補助し、クライミング時に求められる四つ這い前傾姿勢の保持力をサポートし得る効果が期待できることが確認された。また、エネルギーの効率性から未着用時よりも着用時の方が、疲労軽減効果があると言える。
【0257】
(立位体前屈の検証)
次に、立位体前屈の測定を行った。この立位体前屈を行うことにより、下肢後面のハムストリング筋から大殿筋、そして脊柱起立筋などの腰背部筋の柔軟性と伸展力を見ることができる。即ち、骨盤の背面にある大殿筋と骨盤の坐骨から膝下方に着くハムストリング筋が立位から前屈させる時、下肢が固定された状態から骨盤が前傾し、その上方にある体幹が前方下方に倒れるための脊柱起立筋などの腰背部筋の柔軟性と連動性により前に前屈する角度が増大する。
【0258】
その前屈位が抑制されて可動域に制限が見られる場合、上記に示した脊柱起立筋などの腰背部筋、大殿筋、ハムストリング筋など柔軟性が弱まり、伸びながらの力(エキセントリック収縮)が発揮しにくいリスクが考えられる。
【0259】
立位体前屈の測定方法は下記の通りである。
1.床面に上面が水平な台を設置し、この台の上に立脚する。
2.立脚位の体勢は両足を揃え、つま先と両膝は前方に向け、両膝は伸ばす。
3.両方の手掌を大腿前方に配置するとともに、両腕から手指の先端まで伸ばしておく。
4.上記の体勢からゆっくり腰を前方に倒していく。
5.腰から上体を前方に折り曲げるように屈曲させた状態での両手指の先端の位置を最終域とする。
6.両手の先端から立脚している台の上面までの最短距離を測る。
【0260】
そして、被験者各5名により、本実施形態のトップス及びボトムスを着用していない場合、本実施形態1及び3のトップスを着用した場合、本実施形態2及び4のボトムスを着用した場合における立位体前屈を、上記の測定方法にて行った。この測定により得られた立位体前屈の結果を下記表7A及び表7B、表8A及び表8Bに示す。
尚、表7及び表8において「未着用」、「着用」、「差」の定義は表1及び表4と同じである。測定の単位はcmである。
また、上記測定数値は、台の上面を「0」とし、この台の上面よりも上方に手指の先端がある場合には、この手指の先端から台の上面までの距離を表す数値の前に「−」(マイナス)を付与している。一方、台の上面よりも下方に手指の先端がある場合には、この手指の先端から台の上面までの距離を表す数値の前に符号を付けずに表している。
【0261】
【表13】
【0262】
【表14】
【0263】
【表15】
【0264】
【表16】
【0265】
上記の表7Aの結果から、被験者全員において、本実施形態1のトップスを着用した方が、未着用の場合よりも立位体前屈の数値がプラスの方向に平均で4.4cm伸びた。
また、上記の表7Bの結果から、被験者全員において、本実施形態3のトップスを着用した方が、未着用の場合よりも立位体前屈の数値がプラスの方向に平均で3.5cm伸びた。
【0266】
上記の表8Aの結果から、被験者全員において、本実施形態2のボトムスを着用した方が、未着用の場合よりも立位体前屈の数値が平均で4.9cm伸びた。
上記の表8Bの結果から、被験者全員において、本実施形態4のボトムスを着用した方が、未着用の場合よりも立位体前屈の数値が平均で3.3cm伸びた。
【0267】
上記の検証により、本実施形態1及び3のトップスの着用時には前傾位における脊柱起立筋などの腰背部筋と大殿筋の伸展力のサポート力が得られたと言える。また、本実施形態2及び4のボトムスの着用時には前傾位におけるハムストリング筋と大殿筋、及び骨盤に付着する脊柱起立筋などの腰背部筋の伸展をサポートする力が得られたと言える。
【0268】
上記の検証により、本実施形態1及び3のトップス及び実施形態2及び4のボトムスはクライミング時に求められる骨盤の安定力、脊柱起立筋などの腰背部筋と大殿筋、及びハムストリング筋の柔軟性と伸展力をサポートし得る効果が実証された。また、未着用時よりも着用時の方が上記筋肉の柔軟性と伸展力が高まり、疲労軽減効果も期待できると言える。
【0269】
(SLRの検証)
次に、SLR(膝伸展挙上)の測定を行った。このSLRの測定は、骨盤周囲に位置する脊柱起立筋などの腰背部筋から大殿筋、そして、下肢後面のハムストリング筋の柔軟性と伸展力を見る機能テストである。このSLR測定は、腰痛罹患患者に対する「ラセグテスト」としても知られ、腰痛原因となる脊柱起立筋の筋緊張度を判定する際に用いられたり、腰背部筋から大殿筋、そしてハムストリング筋の柔軟性と伸展力があって可能となる股関節屈曲位がスムーズにできるか否かの判定、及び膝伸展位での股関節屈曲運動における腰椎神経根の圧迫度を判定する神経鑑別法としても知られている。
【0270】
膝伸展挙上の測定方法は下記の通りである。
1.背臥位で両脚を伸ばして揃え、両手は体側に置いて、つま先は底屈位とする。
2.片側の膝を伸ばしたままゆっくりと持ち上げて、最終位で背屈する。
3.この方法で持ち上げた膝関節伸展位での股関節屈曲角度を測定する。
4.股関節屈曲角度はゴニオメーター(角度計測定器)を用いて測定する。
【0271】
そして、被験者各5名により、本実施形態のトップス及びボトムスを着用していない場合、本実施形態1及び3のトップスを着用した場合、本実施形態2及び4のボトムスを着用した場合におけるSLRを、上記の測定方法にて行った。この測定により得られた股関節屈曲角度の結果を下記表9A及び表9B、表10A及び10Bに示す。尚、正常な場合の股関節屈曲角度は80度〜90度である。また、表9及び表10において「未着用」、「着用」、「差」の定義は表1及び表4と同じである。測定の単位は度である。
【0272】
【表17】
【0273】
【表18】
【0274】
【表19】
【0275】
【表20】
【0276】
上記表9Aの結果から、被験者全員において股関節屈曲角度が向上し、本実施形態1のトップスを着用した方が、未着用の場合よりも平均で右脚12度、左脚12度向上した。
上記表9Bの結果から、被験者全員において股関節屈曲角度が向上し、本実施形態3のトップスを着用した方が、未着用の場合よりも平均で右脚9度、左脚8度向上した。
【0277】
上記表10Aの結果から、被験者全員において、本実施形態2のボトムスを着用した方が、未着用の場合よりも平均で右脚14度、左脚17度向上した。
また、上記表10Bの結果から、被験者全員において、本実施形態4のボトムスを着用した方が、未着用の場合よりも平均で右脚11度、左脚15度向上した。
【0278】
この検証により、本実施形態1及び3のトップス又は実施形態2及び4のボトムスを着用することにより、骨盤の安定力が得られ、その骨盤に付着する脊柱起立筋などの腰背部筋と、大殿筋からハムストリング筋の柔軟性と伸展力を向上させることができたと言える。また、片側を持ち上げる際には体側の下腹筋の筋力が求められるが、本実施形態1及び3のトップス又は実施形態2及び4のボトムスを着用することで下腹筋の力が引き出しやすいものとなり、より片脚の挙上運動を起こしやすくしたと言える。同時に、未着用時よりも着用時の方が上記筋肉の柔軟性と伸展力が高まり、疲労軽減効果も期待できると言える。
【0279】
(体重バランスの検証)
次に体重バランスの測定を行った。この体重バランスの測定は、本実施形態1のトップス又は実施形態2のボトムスを着用することにより、体幹の左右バランスが整えられ、姿勢改善が見られるか否かの効果を確認するために行った。体重は、重心を保つ背骨の中心から骨盤を介し、両股関節に分かれて両下肢に伝わる。その両下肢が体重を支えることにより体幹重心が安定し、両脚への荷重分散が2分の1荷重となる。従って、左右の体重が均等もしくは体重差が2分の1に近づいていれば、体幹及び骨盤の左右バランスが整っていると言える。
【0280】
体重バランスの測定方法は以下の通りである。
1.同型の体重計を2台揃えて床面に配置する。
2.足を片方ずつ体重計に乗せ、設定された位置に両足を置く。
3.体幹に沿わせて手を置き、膝を伸ばし、つま先と膝関節は前方に向けて自然な状態で立つ。目線は目の高さの水平線上とする。
4.2台の体重計の目盛りが静止した時の重量を記録する。
【0281】
そして、被験者各5名により、本実施形態のトップス及びボトムスを着用していない場合、本実施形態1及び3のトップスを着用した場合、本実施形態2及び4のボトムスを着用した場合における左右の体重を、上記の測定方法にて行った。この測定により得られた体重バランスの測定結果を下記表11A及び11B、表12A及び12Bに示す。尚、表11及び表12において「未着用」、「着用」、「差」の定義は表1及び表4と同じである。また、左右差が少なくなった場合は数値に「−」(マイナス)を付与している。測定の単位はkgである。
【0282】
【表21】
【0283】
【表22】
【0284】
【表23】
【0285】
【表24】
【0286】
上記表11Aの結果より、被験者全員において、本実施形態1のトップスを着用した場合、未着用の場合平均で5.12kgあった左右差が平均で3.52kg少なくなり、平均で1.6kgの左右差に改善された。
また、上記表11Bの結果より、被験者全員において、本実施形態3のトップスを着用した場合、未着用の場合平均で4.68kgあった左右差が平均で3.12kg少なくなり、平均で1.56kgの左右差に改善された。
【0287】
上記表12Aの結果より、本実施形態2のボトムスを着用した方が、未着用の場合平均で5.32kgあった左右差が平均で4.08kg少なくなり、平均で1.24kgの左右差に改善された。
また、上記表12Bの結果より、被験者全員において、本実施形態4のボトムスを着用した場合、未着用の場合平均で4.84kgあった左右差が平均で3.68kg少なくなり、平均で1.16kgの左右差に改善された。
【0288】
上記の検証により、本実施形態1及び3のトップス又は実施形態2及び4のボトムスを着用することで、被験者全員の体重の左右差が少なくなり、両足に体重が乗る左右の体幹及び骨盤の偏りが改善され、本来の体重バランスに近づいたことが実証された。
【0289】
(歩幅の検証)
次に歩幅の測定を行った。本実施形態1及び3のトップス又は実施形態2及び4のボトムスを着用することにより、姿勢が改善され、腹斜筋の緊張を促し、体幹の捻れと骨盤回旋運動が良好になれば、歩行がスムーズになり、一歩当たりの歩幅は大きくなる。そこで、本実施形態1及び3のトップス又は実施形態2及び4のボトムスを着用することによる姿勢改善と、骨盤回旋運動の効果を、歩幅を測定することによって評価した。
【0290】
歩幅の測定方法は下記の通りである。
1.被験者は、予め定めた踏み切り位置に立ち、真っ直ぐ10歩、自然な状態で歩行する。
2.開始時の踵接地から、10歩目の踵接地までの歩行の距離を測定する。
3.その測定値から1歩あたりの歩幅を算出する。
【0291】
そして、被験者各5名により、本実施形態1及び3のトップス及び実施形態2及び4のボトムスを着用していない場合、トップスを着用した場合、ボトムスを着用した場合における10歩の歩行距離を、上記の測定方法にて行った。この測定により得られた結果を下記表13A及び13B、表14A及び表14Bに示す。
尚、表13及び表14において「未着用」、「着用」、「差」の定義は表1及び表4と同じである。測定の単位はcmである。
【0292】
【表25】
【0293】
【表26】
【0294】
【表27】
【0295】
【表28】
【0296】
上記表13Aの結果より、被験者全員において、本実施形態1のトップスを着用した方が、未着用の場合よりも10歩の歩行の距離が平均で36cm伸び、1歩当たりの歩幅が平均で7.2cm伸びた。
また、上記表13Bの結果より、被験者全員において、本実施形態3のトップスを着用した方が、未着用の場合よりも10歩の歩行の距離が平均で36.8cm伸び、1歩当たりの歩幅が平均で7.36cm伸びた。
【0297】
上記表14Aの結果より、被験者全員において、本実施形態2のボトムスを着用した方が、未着用の場合よりも10歩の歩行の距離が平均で39.6cm伸び、1歩当たりの歩幅が平均で7.92cm伸びた。
また、上記表14Bの結果より、被験者全員において、本実施形態4のボトムスを着用した方が、未着用の場合よりも10歩の歩行の距離が平均で32.4cm伸び、1歩当たりの歩幅が平均で6.48cm伸びた。
【0298】
この検証により、本実施形態1及び3のトップス又は本実施形態2及び4のボトムスを着用することで被験者全員の歩幅が広がったことにより、本実施形態1及び3のトップス又は本実施形態2及び4のボトムスは腹斜筋の緊張を促し、体幹の捻れと骨盤回旋運動を良好に導き、歩行がスムーズとなったことが実証された。
また、エネルギーの効率性から未着用時よりも着用時の方が、下肢筋の疲労軽減効果が期待できると言える。
【0299】
(立ち幅跳び)
最後に、立ち幅跳びの測定を行った。本実施形態2及び4のボトムスを着用することにより、大腿四頭筋と下腿三頭筋の膝屈曲位における伸展された筋収縮(エキセントリック収縮)状態から膝を伸ばし、立ち幅跳びした時のコンセントリック収縮に変化する力を見ることができる。骨盤と股関節、膝が安定し、大腿四頭筋と下腿三頭筋の短縮力が良好になれば、立ち幅跳びの距離が伸びる。そこで、本実施形態のボトムスを着用することによる立ち幅跳びを測定することによって評価した。
【0300】
立ち幅跳びの測定方法は下記の通りである。
1.被験者は、予め定めた踏み切り位置(ライン)に立ち、両足を肩幅に広げて立つ。
2.前傾位で膝と腰を曲げ、肘を曲げて腕を前後に振ると同日に下肢の屈伸力で前方へ
跳ぶ。
3.開始時の踏み切り位置(ライン)から、踵接地までの跳躍の距離を測定する。
【0301】
そして、被験者各5名により、本実施例のボトムスを着用していない場合、本実施形態2及び4のボトムスを着用した場合における立ち幅跳びの距離を、上記の測定方法にて行った。この測定により得られた結果を下記表15A及び表15Bに示す。
尚、表15において「未着用」「着用」「差」の定義は表4と同じである。測定の単位はcmである。
【0302】
【表29】
【0303】
【表30】
【0304】
上記表15Aの結果より、被験者全員において、本実施形態2のボトムスを着用した方が、未着用の場合よりも立ち幅跳びの距離が平均で13.4cm伸びた。
また、上記表15Bの結果より、被験者全員において、本実施形態4のボトムスを着用した方が、未着用の場合よりも立ち幅跳びの距離が平均で13.2cm伸びた。
【0305】
上記の検証により、本実施形態2及び4のボトムスを着用することで被験者全員の立ち幅跳びの距離が伸びたことにより、本実施形態2及び4のボトムスは骨盤と股関節、膝関節が安定し、大腿四頭筋と下腿三頭筋の短縮力が高まったことが実証された。
また、エネルギーの効率性から未着用時よりも着用時の方が、大腿四頭筋と下腿三頭筋の疲労軽減効果が期待できると言える。
【0306】
尚、上記検証は、本実施形態1〜4の比較を目的とするものではなく、それぞれの機能効果を実証することを検証の目的として実施したため、各測定項目における「被験者各5名」はできるだけ重ならないように配慮した。従って、被験者全員に機能効果が表れたことは特筆すべきことである。