特許第5948075号(P5948075)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5948075粘着シート及びその製造方法、接着用シート、光硬化型接着剤組成物並びに光学用部材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5948075
(24)【登録日】2016年6月10日
(45)【発行日】2016年7月6日
(54)【発明の名称】粘着シート及びその製造方法、接着用シート、光硬化型接着剤組成物並びに光学用部材
(51)【国際特許分類】
   C09J 7/00 20060101AFI20160623BHJP
   C09J 4/02 20060101ALI20160623BHJP
   C09J 7/02 20060101ALI20160623BHJP
   G06F 3/041 20060101ALI20160623BHJP
【FI】
   C09J7/00
   C09J4/02
   C09J7/02 Z
   G06F3/041 495
【請求項の数】11
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-30444(P2012-30444)
(22)【出願日】2012年2月15日
(65)【公開番号】特開2013-166846(P2013-166846A)
(43)【公開日】2013年8月29日
【審査請求日】2015年2月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000145079
【氏名又は名称】株式会社寺岡製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】戸高 勝則
(72)【発明者】
【氏名】土屋 靖史
(72)【発明者】
【氏名】田中 剛
【審査官】 富永 久子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−155974(JP,A)
【文献】 特開2011−168684(JP,A)
【文献】 特開2011−209716(JP,A)
【文献】 特開2010−150396(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルキル基が1〜14個の炭素原子を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体、及び脂環族又は芳香族を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体からなる群より選択される一種以上の単量体(a)40〜80質量部、及び、
水酸基含有(メタ)アクリ酸アルキルエステル単量体、(メタ)アクリルアミド、N−アルキル置換(メタ)アクリルアミド、N,N−ジアルキル置換(メタ)アクリルアミド、アクリロイルモルフォリン及びN−ビニル−2−ピロリドンからなる群より選択される一種以上の単量体(b)20〜50質量部
からなる単量体組成物又はその一部を重合した組成物100質量部と、
1分子中に2つ以上のアクリロイル基を有する多官能性アクリル単量体、多官能性アクリルオリゴマー又は多官能性アクリルポリマーからなる架橋剤(c)0.01〜5.0質量部と、
光ラジカル重合開始剤(d)0.1〜3.0質量部と、
ベンゾトリアゾール又はその誘導体(e)0.1〜3.0質量部と
を含有する光硬化型樹脂組成物を、光重合により硬化して皮膜状に賦形してなる粘着シートであって、
単量体(a)及び単量体(b)100質量%からなる重合体の理論Tg(ガラス転移温度)が−70〜−35℃である粘着シート。
【請求項2】
単量体(a)が、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチル−ヘキシル(メタ)アクリレート、イソオクチルアクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート及びベンジル(メタ)アクリレートからなる群より選択される一種以上の単量体である請求項1記載の粘着シート。
【請求項3】
単量体(b)が、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド及びアクリロイルモルフォリンからなる群より選択される一種以上の単量体である請求項1又は2に記載の粘着シート。
【請求項4】
成分(a)〜成分(e)を含有する光硬化型樹脂組成物が、(メタ)アクリル酸及びカルボキシル基含有ビニル化合物を含有しない請求項1から3のいずれか1項に記載の粘着シート。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の粘着シートの製造方法であって、
成分(a)及び成分(b)を含む単量体組成物の一部を重合した組成物中の重合体の重量平均分子量が100万〜200万であり、該組成物中の重合体の濃度が8〜20質量%である粘着シートの製造方法
【請求項6】
感圧接着性を有する請求項1から4のいずれか1項に記載の粘着シート。
【請求項7】
シート状基材の片面又は両面に、請求項1から4及び6のいずれか1項に記載の粘着シートを設けてなる接着用シート。
【請求項8】
剥離シート片面に、請求項1から4及び6のいずれか1項に記載の粘着シートを設けてなる接着用シート。
【請求項9】
アルキル基が1〜14個の炭素原子を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体、及び脂環族又は芳香族を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体からなる群より選択される一種以上の単量体(a)40〜80質量部、及び、
水酸基含有(メタ)アクリ酸アルキルエステル単量体、(メタ)アクリルアミド、N−アルキル置換(メタ)アクリルアミド、N,N−ジアルキル置換(メタ)アクリルアミド、アクリロイルモルフォリン及びN−ビニル−2−ピロリドンからなる群より選択される一種以上の単量体(b)20〜50質量部
からなる単量体組成物又はその一部を重合した組成物100質量部と、
1分子中に2つ以上のアクリロイル基を有する多官能性アクリル単量体、多官能性アクリルオリゴマー又は多官能性アクリルポリマーからなる架橋剤(c)0.01〜5.0質量部と、
光ラジカル重合開始剤(d)0.1〜3.0質量部と、
ベンゾトリアゾール又はその誘導体(e)0.1〜3.0質量部と
を含有する光硬化型接着剤組成物であって、
単量体(a)及び単量体(b)100質量%からなる重合体の理論Tg(ガラス転移温度)が−70〜−35℃である光硬化型接着剤組成物。
【請求項10】
請求項1から4及び6のいずれか1項に記載の粘着シート又は請求項9に記載の光硬化型接着剤組成物を用いて接着した積層構造を有する光学用部材。
【請求項11】
タッチパネルである請求項10に記載の光学用部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば光学用部材の接着用途などに用いられる粘着シート、接着用シート、光硬化型接着剤組成物及び光学用部材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年開発され市場に出回っているタッチパネルにおいて、上部電極板及び下部電極板に設けられた電極や引き回し回路は、Ag等の腐食し易い金属を含む金属層からなる。これら電極板は、粘着剤層等の絶縁層を介して対向する電極板と貼着、接合されている。ここで、粘着剤に起因する金属層の腐食や粘着剤の凝集力や粘着力不足による剥離が問題視されている(特許文献1)。
【0003】
光学的に透明な感圧性接着剤(OCA)には、光学ディスプレイに関する幅広い用途がある。例えば、偏光子を液晶ディスプレイ(LCD)のモジュールに結合させたり、光学フィルムを携帯ハンドヘルドデバイス(MHH)のガラスレンズへ付着させる為に使用される。
【0004】
タッチパネルは典型的には、インジウム酸化スズ(ITO)被覆ポリエチレンテレフタレートフィルム又はITO被覆ガラスを含む。典型的には、ITOは配線形態でありかつ導電性である。多くの場合、ITO被覆基材は、OCAを使用してディスプレイモジュールに取り付けられている。そして幾つかのタッチパネルデザインにおいては、OCAは導電性ITO配線に直接接触させる。この場合、OCAはITO配線と適合する必要がある(特許文献2)。
【0005】
タッチパネル等に使用される粘着剤が酸成分を含有すると、電極となるAgの腐食やITO膜の抵抗値上昇を引き起こす傾向が有る。しかし、粘着剤が酸成分を含有しないと、接着性が低下し、耐発泡性や加飾層の段差吸収性が劣る傾向が有る。そこで特許文献1では、酸成分に起因する金属腐食等の問題をベンゾトリアゾール等のトリアゾール系化合物の添加によって改善しようとしている。しかしながら、本願発明者らの検討によれば、特許文献1の粘着剤では耐湿熱白化性、耐銅板腐食性、耐発泡性が不十分であることが明らかとなった。
【0006】
特許文献3では、アクリル酸誘導体ポリマーを使用し、これをモノマーで希釈したものを分子量の大きい多官能性アクリレートで架橋している。しかし、ポリマー部分は架橋反応に関与せず、粘着シートとした際に、不安定な特性のものとなる。また高分子量の多官能性アクリレートを添加すると粘着特性が低下し、良好な接着性、耐湿熱発泡性が得られない。さらに、水酸基含有アクリレートに起因する金属腐食やITO膜の問題が生じる場合が有る。
【0007】
またタッチパネル等を高温高湿条件下におくと、フィルム貼り付け面の側端部から水分が浸入して粘着剤層が白濁し、透明性が低下し、常温に戻しても透明性が回復しない場合有る。この問題を解決するものとして、特定の飽和吸湿率を有する粘着剤が報告されている(特許文献4)。しかしながら、比較的Tgの高い、アクリル酸アルコキシエステルを主成分として60%以上も含有するので、粘着特性が低下する傾向にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2011−154700号公報
【特許文献2】特表2011−501767号公報
【特許文献3】特許4743493号公報
【特許文献4】特開2007−161909号公報2011-154700
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、各部材への充分な接着力を有し、透明性に優れ、高温高湿下でも白濁を生じず、耐金属腐食性、耐発泡性に優れた粘着シート、接着用シート、光硬化型接着剤組成物及び光学用部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らが鋭意検討した結果、酸成分の代わりに水酸基含有成分を使用することによって酸成分に起因する問題を回避し、同時に、従来は酸成分に対してのみ効果的と考えられていたベンゾトリアゾール又はその誘導体を添加することによって、比較的多量の水酸基含有成分を使用しても上記各物性の何れもが良好な粘着剤シートが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち本発明は、アルキル基が1〜14個の炭素原子を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体、及び脂環族又は芳香族を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体からなる群より選択される一種以上の単量体(a)40〜80質量部、及び、
水酸基含有(メタ)アクリ酸アルキルエステル単量体、(メタ)アクリルアミド、N−アルキル置換(メタ)アクリルアミド、N,N−ジアルキル置換(メタ)アクリルアミド、アクリロイルモルフォリン及びN−ビニル−2−ピロリドンからなる群より選択される一種以上の単量体(b)20〜50質量部
からなる単量体組成物又はその一部を重合した組成物100質量部と、
1分子中に2つ以上のアクリロイル基を有する多官能性アクリル単量体、多官能性アクリルオリゴマー又は多官能性アクリルポリマーからなる架橋剤(c)0.01〜5.0質量部と、
光ラジカル重合開始剤(d)0.1〜3.0質量部と、
ベンゾトリアゾール又はその誘導体(e)0.1〜3.0質量部と
を含有する光硬化型樹脂組成物を、光重合により硬化して皮膜状に賦形してなる粘着シートであって、
単量体(a)及び単量体(b)100質量%からなる重合体の理論Tg(ガラス転移温度)が−70〜−35℃である粘着シートである。
【0012】
また本発明は、シート状基材の片面又は両面に、上記の粘着シートを設けてなる接着用シート;及び剥離シート片面に、上記の粘着シートを設けてなる接着用シートである。
【0013】
また本発明は、上記の光硬化型樹脂組成物からなる光硬化型接着剤組成物である。
【0014】
また本発明は、上記の粘着シート又は上記の光硬化型接着剤組成物を用いて接着した積層構造を有する光学用部材である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、各成分(特に成分(b)と成分(e))を特定割合で併用することによって、各部材への充分な接着力を有し、透明性に優れ、高温高湿下でも白濁を生じず、耐金属腐食性、耐発泡性に優れた粘着シート、接着用シート及び光硬化型接着剤組成物を提供できる。これらは、タッチパネル等の光学ディスプレイ及びその他の光学用部材の積層構造の形成の為の接着用途に特に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に用いる成分(a)は、アルキル基が1〜14個の炭素原子を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体、及び脂環族又は芳香族を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体からなる群より選択される一種以上の単量体である。
【0017】
アルキル基が1〜14個の炭素原子を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体の具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリルレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、イソヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチル−ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、イソドデシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0018】
脂環族又は芳香族を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体の具体例としては、イソボルニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、フェノキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0019】
これらは一種を単独で、あるいは二種以上を組み合わせて使用できる。
【0020】
中でも、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチル−ヘキシル(メタ)アクリレート、イソオクチルアクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0021】
本発明に用いる成分(b)は、水酸基含有(メタ)アクリ酸アルキルエステル単量体、(メタ)アクリルアミド、N−アルキル置換(メタ)アクリルアミド、N,N−ジアルキル置換(メタ)アクリルアミド、アクリロイルモルフォリン及びN−ビニル−2−ピロリドンからなる群より選択される一種以上の単量体である。この成分(b)は、従来の酸成分に代えて接着性付与の為に使用するものである。そしてこの成分(b)は、後述する成分(e)と併用することによって、本願発明効果を奏することになる。
【0022】
水酸基含有(メタ)アクリ酸アルキルエステル単量体の具体例としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクレート、(メタ)アクリル酸とポリエチレングリコール又はポリプロピレングリコールとのモノエステル等が挙げられる。N,N−ジアルキル置換(メタ)アクリルアミドの具体例としては、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミドが挙げられる。これらは一種を単独で、あるいは二種以上を組み合わせて使用できる。
【0023】
中でも、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、アクリロイルモルフォリンが好ましい。
【0024】
成分(a)及び成分(b)の合計100質量部を基準として、成分(a)の割合は40〜80質量部であり、成分(b)の割合は20〜50質量部である。成分(b)の割合を20質量部以上とすることは、接着性と耐湿熱白化性の点で意義が有る。また、50質量部以下とすることは、耐金属腐食性の点で意義が有る。
【0025】
成分(a)及び成分(b)は単量体のまま使用しても良いし、成分(a)及び成分(b)からなる単量体組成物の一部を重合して得られるシロップ状組成物(アクリルシロップ)を使用しても良い。このシロップ状組成物は単量体と重合体からなるものであればよい。すなわち、このシロップ状組成物は、単量体組成物を部分重合して得られるものに限られず、予め得た重合体を単量体中に溶解した組成物をも意味する。
【0026】
特に、上述のシロップ状組成物を用いることは、組成物の塗工に適した粘度にする点で好ましい。この場合、組成物中の重合体の重量平均分子量(Mw)は100万〜200万が好ましい。シロップ状組成物中の重合体は、二重結合が存在する確率は殆ど無いので、架橋剤(c)との架橋反応には関与しない。したがって、粘着シートとなった際に十分な凝集力を得るには、この重合体がシロップ状組成物の段階である程度の凝集力を示す分子量であることが好ましい。このような観点から、重合体のMwを200万以下にすることは、必要な凝集力を発現し、安定した分子量を得る点で意義が有る。また、Mwの上記範囲は塗工に適した粘度を得る点でも意義が有る。この重合体のMwは、テトラヒドロキシフランを溶媒としたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による標準ポリスチレン換算の重量平均分子量である。
【0027】
また、シロップ状組成物中の重合体の濃度は8〜20質量%が好ましい。これも同様の理由であり、架橋反応に関与しない重合体の量を抑えることにより必要な凝集力を発現して特性のバランスを保つ点、また塗工性の点で意義が有る。
【0028】
成分(a)及び成分(b)100質量%からなる重合体の理論Tg(ガラス転移温度)は、−70〜−35℃が好ましい。この理論Tgを−70℃以上にすることは、打ち抜き加工等の加工性を向上する点で意義が有る。また−35℃にすることは、接着性、耐発泡性、加飾層の段差吸収性等の点で意義が有る。
【0029】
シロップ状組成物は、例えば、成分(a)及び成分(b)からなる単量体組成物を部分重合することにより得られる。また、溶液重合で重合体を生成して脱溶剤したものをさらに単量体で溶解して得ても良い。
【0030】
本発明に用いる成分(c)は、1分子中に2つ以上のアクリロイル基を有する多官能性アクリル単量体、多官能性アクリルオリゴマー又は多官能性アクリルポリマーからなる架橋剤である。
【0031】
1分子中に2つ以上のアクリロイル基を有する多官能性アクリル単量体の具体例としては、トリメチロ―ルプロパントリ(メタ)アクリレ―ト、ペンタエリスリト―ルテトラ(メタ)アクリレ―ト、1,2−エチレングリコ―ルジ(メタ)アクリレ―ト、1,6−ヘキサンジオ―ルジ(メタ)アクリレ―ト、1,12−ドデカンジオ―ルジ(メタ)アクリレ―トポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレ―ト、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレ―ト等の2官能以上の多価アルキルアクリレ―ト単量体が挙げられる。1分子中に2つ以上のアクリロイル基を有する多官能性アクリルオリゴマー及び多官能性アクリルポリマーの具体例としては、イソシアネート基やグリシジル基を複数有する化合物にアクリル酸や水酸基含有アクリレートを反応させてオリゴマー化又はポリマー化したウレタンアクリレートやエポキシアクリレート等が挙げられる。これらは一種を単独で、あるいは二種以上を組み合わせて使用できる。
【0032】
成分(c)の使用量は、成分(a)及び成分(b)の合計100質量部に対して、0.01〜5.0質量部である。
【0033】
本発明に用いる成分(d)は、光ラジカル重合開始剤である。その具体例としては、アセトフェノン系、ベンゾインエーテル系、ケタール系、フォスフィンオキシド系、ベンゾフェノン系、ベンゾイン系、ハロゲン化ケトン系、アシルフォスフォナート系等の各種の開始剤が挙げられる。これらは一種を単独で、あるいは二種以上を組み合わせて使用できる。
【0034】
成分(d)の使用量は、成分(a)及び成分(b)の合計100質量部に対して、0.1〜3.0質量部である。
【0035】
本発明に用いる成分(e)は、ベンゾトリアゾ−ル又はその誘導体である。この成分(e)を用いることにより、接着性を向上させる為に成分(b)を20質量部以上使用しても、耐金属腐食性が良好な粘着シートが得られる。具体的には、成分(e)を使用することなく成分(b)を20質量部以上使用すると耐金属腐食性(特に耐ITO導電劣化性、耐銅板腐食性)が低下してしまう。成分(e)であるベンゾトリアゾ−ル又はその誘導体は、このような成分(b)に起因する物性低下を抑制し、成分(b)を比較的多量使用した場合であっても、各特性をバランス良く保つことができるのである。
【0036】
成分(e)の具体例としては、ベンゾトリアゾ−ル、4−メチルベンゾトリアゾール、5−メチルベンゾトリアゾール、5−クロルベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、トリルトリアゾールのK塩、3−(N−サリチロイル)アミノ−1,2,4−トリアゾール等が挙げられる。ベンゾトリアゾ−ル及びその誘導体として、これらは一種を単独で、あるいは二種以上を組み合わせて使用できる。
【0037】
成分(e)の使用量は、成分(a)及び成分(b)の合計100質量部に対して、0.1〜3.0質量部である。
【0038】
本発明においては、少なくとも以上説明した各成分を配合して光硬化型樹脂組成物を調製する。ここで、光硬化型樹脂組成物は(メタ)アクリル酸及びカルボキシル基含有ビニル化合物を含有しないことが好ましい。例えば、この光硬化型樹脂組成物を支持体上に塗工し、紫外線等を照射すれば光重合して硬化し、皮膜状の硬化膜として賦形され、これにより感圧接着性を有する粘着シートが得られる。この粘着シートの厚さは特に限定されないが、通常は0.01mm〜1.0mmmmが好ましい。
【0039】
粘着シートは、シート自体を単独で接着用途に使用しても良いし、所望の基材の片面又は両面に粘着シートを設けてなる接着用シートとして使用しても良い。また、剥離シートの片面に粘着シートを設け、使用時に剥離シートを剥がす態様の接着用シートとして使用しても良い。また、以上説明した光硬化型樹脂組成物は、そのまま光硬化型接着剤組成物として使用することもできる。
【0040】
これら粘着シート、接着用シート及び光硬化型樹脂組成物は、タッチパネル等の光学ディスプレイ及びその他の光学用部材の積層構造の形成の為の接着用途に特に有用である。具体的には、これらを用いて例えば画像表示パネルと透明保護パネル等の板状体を良好に接着できる。粘着シートを用いる場合は、被着体の間に粘着シートを介在させて積層し、圧着すれば良い。液状の光硬化型樹脂組成物を用いる場合は、被着体の間に液状の光硬化型樹脂組成物を充填し、光硬化させて接着すれば良い。
【実施例】
【0041】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。以下の記載中、「部」は「質量部」を示す。
【0042】
<実施例1>
攪拌機、還流冷却器、温度計、UVランプ及び窒素ガス導入口を備えた反応容器に、(a)成分として2−エチルヘキシルアクリレート45部及びアクリル酸メチル30部、(b)成分として2−ヒドロキシエチルアクリレート25部、光重合開始剤(商品名ダロキュア1173、BASFジャパン社製)0.01部及び連鎖移動剤としてn−ドデシルメルカプタン0.01部を装入し、窒素雰囲気下でUV光を照射することにより単量体の一部を重合し、単量体と重合体からなるシロップ状の組成物を得た。この組成物中の重合体の濃度は約13質量%、重合体の重量平均分子量(Mw)は約150万であった。
【0043】
この組成物100部に対して、(c)成分の架橋剤としてヘキサンジオールジアクリレート(商品名NKエステルA−HD−N、新中村化学工業社製)0.08部、(d)成分として光重合開始剤(商品名ダロキュア1173、BASFジャパン社製)0.5部、(e)成分としてベンゾトリアゾ−ル(共同薬品社製BTZ−M)0.3部を添加して、撹拌混合した。混合時に混入した空気泡を脱泡操作により除去して、(a)成分〜(e)成分を含有する光硬化型樹脂組成物を得た。
【0044】
この光硬化型樹脂を、表面を離型剤処理した厚さ50μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に塗工し、その上をさらに厚さ50μmのPETフィルムで被覆し、紫外線照射により硬化し、厚さ0.10mmの粘着シートを得た。
【0045】
<実施例2>
成分(a)として2−エチルヘキシルアクリレート60部、成分(b)として2−ヒドロキシエチルアクリレート40部を用いたこと以外は、実施例1と同様にして厚さ0.10mmの粘着シートを得た。
【0046】
<実施例3>
成分(a)として2−エチルヘキシルアクリレート75部、成分(b)として2−ヒドロキシエチルアクリレート15部及びN,N−ジメチルアクリルアミド10部を用いたこと以外は、実施例1と同様にして厚さ0.10mmの粘着シートを得た。
【0047】
<比較例1>
(e)成分(ベンゾトリアゾ−ル)を使用しなかったこと以外は、実施例1と同様にして厚さ0.10mmの粘着シートを得た。
【0048】
<比較例2>
成分(a)として2−エチルヘキシルアクリレート25部、成分(b)として2−ヒドロキシエチルアクリレート10部、及び、他の単量体としてメトキシエチルアクリレート65部を用いたこと以外は、実施例1と同様にして単量体と重合体からなるシロップ状の組成物を得た。そしてこの組成物を用い、かつ(e)成分(ベンゾトリアゾ−ル)を使用しなかったこと以外は、実施例1と同様にして厚さ0.10mmの粘着シートを得た。
【0049】
<比較例3>
成分(a)として2−エチルヘキシルアクリレート55部及びイソボルニルアクリレート40部、成分(b)として2−ヒドロキシエチルアクリレート5部を用いたこと以外は、実施例1と同様にして単量体と重合体からなるシロップ状の組成物を得た。そしてこの組成物を用い、かつ(e)成分(ベンゾトリアゾ−ル)を使用しなかったこと以外は、実施例1と同様にして厚さ0.10mmの粘着シートを得た。
【0050】
<比較例4>
成分(a)として2−エチルヘキシルアクリレート68部及びメチルアクリレート30部、他の単量体としてアクリル酸2部を用い、かつ成分(b)を使用しなかったこと以外は、実施例1と同様にして厚さ0.10mmの粘着シートを得た。
【0051】
<参考例1>
シロップ状組成物中の重合体の濃度と分子量を変更する為に重合条件を調整したこと以外は、実施例1と同様にしてシロップ状組成物を得た。この組成物中の重合体の濃度は約35質量%、重合体のMwは約約40万であった。そしてこの組成物を用いたこと以外は、実施例1と同様にして厚さ0.10mmの粘着シートを得た。
【0052】
以上の各粘着シートに対して、以下の試験を行い評価した。その結果を表1に示す。
【0053】
[透明性]
粘着シートをカバーガラス(0.4mm厚)に貼り付け、粘着シート側からHazeメーターにてHazeを測定した。ΔE*abが3.2以下のものを合格「○」とし、3.
2を超えるものを不合格「×」とした。
【0054】
[耐湿熱白化性]
ITO蒸着PETフィルムとカバーガラス(0.4mm厚)とを粘着シートで積層し、85℃、85%RHの雰囲気下に250時間放置し、その後室温に1時間放置した。この試験前後のHazeを測定し、Haze値の変化が20%未満のものを合格「○」とし、20%を超えるものを不合格「×」とした。
【0055】
[耐ITO導電劣化性]
電極部分としてAgペーストを塗布したITO蒸着PETフィルム(東洋紡製300RK)に、基材無しの粘着シートを貼り合せ、反対側の面にPETフィルムを貼り合せてサンプルとした。これを65℃、90%RHの雰囲気下に500時間放置した。粘着シートを貼り合せていないITOフィルムをブランクとして、マルチメーターにて試験前後の抵抗値を測定し、ブランクとの抵抗値変化率が20%以内のものを合格「○」とし、20〜40%のものをやや合格「△」とし、40%を超えるものを不合格「×」とした。
【0056】
[耐銅板腐食性]
表面を磨き上げた銅板に粘着シートを貼り付け、85℃、85%RHの雰囲気下に250時間放置した。試験後の銅板の変色を目視にて確認し、変色が無いものを合格「○」とし、変色が有るものを不合格「×」とした。
【0057】
[耐発泡性]
表面をハードコート処理したポリカーボネート板(三菱ガス化学社製MR−58)に、基材無しの粘着シートを貼り付け、反対側の面にカバーガラスを貼り付けてサンプルとした。これを85℃、85%RHの雰囲気下に250時間放置した。試験後の積層部分を目視にて確認し、発泡や浮きが無いものを合格「○」とし、発泡や浮きが有るものを不合格「×」とした。
【0058】
【表1】
【0059】
表1中の略号は以下の化合物を示す。
「2EHA」:2−エチルヘキシルアクリレート(Tg=−70℃)
「MA」:メチルアクリレート(Tg=8℃)
「iBOA」:イソボルニルアクリレート(Tg=94℃)
「HEA」:2−ヒドロキシエチルアクリレート(Tg=−15℃)
「DMAA」:N,N−ジメチルアクリルアミド(Tg=119℃)
「AME」:メトキシエチルアクリレート(Tg=−50℃)
「AA」:アクリル酸(Tg=106℃)
なお、以上の各Tgは各単量体を用いた単独重合体の場合のTgである。
【0060】
[評価結果]
実施例1〜3では、透明性、耐湿熱白化性、耐ITO導電劣化性、耐銅板腐食性、耐発泡性の全てが良好であった。
【0061】
比較例1では、成分(e)であるベンゾトリアゾ−ルを使用しないので粘着シートが金属腐食性を示してしまい、耐ITO導電劣化性、耐銅板腐食性が劣っていた。
【0062】
比較例2では、成分(e)であるベンゾトリアゾ−ルを使用せず、その代わりに単量体としてメトキシエチルアクリレートを多量に使用し、成分(b)である水酸基含有単量体(2−ヒドロキシエチルアクリレート)の割合を低くしているので耐ITO導電劣化性、耐銅板腐食性は改善されたが、耐発泡性が劣っていた。
【0063】
比較例3では、成分(e)であるベンゾトリアゾ−ルを使用せず、その代わりにイソボルニルアクリレートをを多量に使用し、成分(b)である水酸基含有単量体(2−ヒドロキシエチルアクリレート)の割合を低くしているので耐ITO導電劣化性、耐銅板腐食性は改善されたが、耐湿熱白化性が劣っており、理論Tgも高くなるので耐発泡性が劣っていた。
【0064】
比較例4では、成分(b)である水酸基含有単量体(2−ヒドロキシエチルアクリレート)を使用せず、その代わりにアクリル酸を使用しているので耐湿熱白化性が劣っており、また(e)成分(ベンゾトリアゾ−ル)を使用しているが耐銅板腐食性、耐発泡性が劣っていた。
【0065】
参考例1では、シロップ状組成物の重合体のMwが40万と低く、濃度が35質量%と高いので、粘着シート中の架橋構造が偏り、粘着物性が崩れ、耐発泡性が劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の粘着シート、接着用シート及び光硬化型接着剤組成物は、透明性に優れ、高温高湿下でも白濁を生じず、耐金属腐食性(特に耐ITO導電劣化性、耐銅板腐食性)や耐発泡性にも優れているので、例えば光学用部材の接着用途、特にタッチパネル等の光学ディスプレイの製造用途において非常に有用である。