(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
周知のように、PMDとは、光ファイバ中の二つの直交する偏波モード成分間に伝搬時間差(遅延差)が生じる現象である。また、PMDが大きくなると、デジタル伝送においてファイバ中を伝送する信号光に波形劣化が生じて、隣り合うパルスの分離が困難となるため、伝送容量が制限されるなどの問題が生じる。そのため、PMDをできるだけ小さく抑制することが望まれている。
【0003】
また、PMDは、光ファイバの光学的異方性によって生じ、その発生要因は、光ファイバの内部の構造または材質などに由来して光学的異方性が生じる内部的要因と、光ファイバの外部からの応力などにより光学的異方性が生じる外部的要因とに大別される。
【0004】
前記内部的要因のうち、もっとも影響が大きい因子は、光ファイバの断面形状である。一方、光ファイバ素線の製造においては、どんなファイバ母材の製造方法、およびどんなファイバ母材を紡糸(線引き)して光ファイバ裸線を製造する方法を選択した場合であっても、光ファイバ素線のコア部分およびその周囲のクラッド部分を含め、完全な真円形の断面形状を実現することは実際上困難である。従って、実際の製品は、わずかながらも楕円形状又はその他の形状に歪んだ断面形状を有する。このような断面形状の異方性が大きくなると、断面における屈折率分布が完全な同心円状ではなくなり、複屈折が生じてPMDが大きくなる。
【0005】
一方、前記外部的要因のうち、影響の大きい因子としては、光ファイバにその外部から加えられる曲げもしくは側圧など、非等方的に加えられる応力が挙げられ、このような外部からくわえられる非等方的な応力によっても複屈折が生じてPMDが増加する。
【0006】
ところで、光ファイバのPMDの低減のためには、光ファイバ素線にねじれを加えておくことが有効であり、従来から特許文献1〜5に示されるような方法が提案されている。
【0007】
これらの特許文献のうち、特許文献1、特許文献2においては、光ファイバ裸線の紡糸時において、未だ光ファイバ母材が固化する前にねじれを加え、これによってねじれを永久的に固定する方法が示されている。上記の方法は、光ファイバ裸線に塑性変形としてのねじれ(塑性ねじれ)を与えることで、光ファイバ素線への外力が解放された状態でもねじれがそのまま維持される、すなわち永久変形としてねじれ状態を維持させる方法である。
以下、このような永久変形として残る塑性ねじれを、“スパン”と称する場合がある。
【0008】
一方、特許文献3〜5には、光ファイバが紡糸されて固化した後に、光ファイバ素線にねじれを与える方法が示されている。この場合のねじれは、弾性変形によって発生している。つまり、この場合のねじれは、外力が解放されて光ファイバ素線がフリー状態(外力解放状態)となれば、ねじれが戻る弾性ねじれである。この場合、弾性ねじれが保持された状態のまま、最終的にケーブルなどの最終使用形態の製品に使用すること、すなわち、ケーブルなどの最終使用形態の製品の内部に使用される光ファイバ素線として、弾性ねじれが保持された状態の光ファイバ素線を使用することを想定している。以下このような弾性ねじれを、“ツイスト”と称する場合がある。
【0009】
前述のようにPMDの発生原因は、内部的要因と外部的要因とに大別されるが、内部的要因によるPMDについては、特許文献1、特許文献2に示されるようなスパン(塑性ねじれ)を光ファイバ素線に与えておく方法が有効である。しかしながら、このようなスパンを光ファイバ素線に与える方法は、外部的要因によるPMDの増加抑制に対しては有効でないことが知られている(例えば特許文献3参照)。
【0010】
一方、特許文献3〜5に示すように、ツイスト(弾性ねじれ)を与えておく方法は、側圧又は曲げなどの外部的要因によるPMDの増加抑制に有効である。但し、このツイストは、外力が解放されれば、弾性的にねじれが戻ってしまう。ここで、ツイストを与えた光ファイバ素線を光ケーブルなどの最終使用形態の製品とするための、例えば着色工程、複数の光ファイバ素線をテープ状に配列させる工程、光ファイバケーブルを形成する工程などの実際の量産工程、及びその工程間などにおいては、光ファイバ素線に与えられている摩擦力などの外力が解放される、あるいは摩擦力などの外力が著しく小さくなることがある。その場合、ねじれが解放されてしまうか、またはねじれが著しく小さくなってしまい、外部的要因によるPMDの増加を抑制する効果が消失してしまう。そのため、ケーブルなどの最終製品において、外部的要因によるPMDの増加を確実かつ安定して抑制することが困難であるという問題があった。
【0011】
上述のように、従来は、光ファイバに加えられる側圧もしくは曲げなどの非等方的な外力などの外部的要因によるPMDの増加を、最終使用形態の製品において確実かつ安定して抑制することは困難であった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたもので、側圧または曲げなどの非等方的外力などの外部的要因に起因するPMDの増加を、ケーブルなどの最終使用形態の製品でも、確実かつ安定して抑制し得る光ファイバ素線、およびその製造方
法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者等は、前述の課題を解決するべく種々実験、検討を重ねた。その結果、加熱溶融された光ファイバ母材から線引きされて固化した光ファイバ裸線に、液体状態(未硬化)の硬化性樹脂を被覆して、その被覆樹脂を硬化させる際に、光ファイバ裸線が固化してから被覆樹脂が硬化するまでの間において光ファイバ裸線に弾性ねじれを付与することによって、その弾性ねじれが、硬化した被覆樹脂によって固定(保持)されることを見出した。さらに、光ケーブルなど最終使用形態の製品も内部に使用される光ファイバ素線においても、上述の光ファイバ素線を用いれば、弾性ねじれ(ツイスト)を保持することが可能となり、外部的要因によるPMDの増加を抑制し得ることを見出した。
【0015】
ここで、硬化した被覆樹脂も弾性を有しており、一般にそのヤング率はガラスよりも小さい。従って、前述のように光ファイバ裸線が固化してから被覆樹脂が硬化するまでの間において、光ファイバ裸線に弾性ねじれを付与しても、そのねじれをそのまま被覆樹脂によって固定すること、すなわち、弾性ねじれが復元力によってねじられる前の状態に戻る作用(ねじれの戻り)を被覆樹脂によって完全に防止することは困難である。また、ねじれ付与後に外力が解放されてフリー状態となれば、ある程度光ファイバ裸線部分のねじれが戻ることは避けられない。しかしながら、光ファイバ裸線部分のねじれが戻る(ねじられる前の状態に復元する)際には、光ファイバ裸線部分のねじれの戻りに伴って被覆樹脂層にその戻り方向(光ファイバ裸線部分がねじられる前の状態に復元する方向)のねじれが加えられる。その結果、この被覆樹脂層に与えられる戻り方向のねじれに対する被覆樹脂の弾性的反発力と、光ファイバ裸線部分のねじれの戻りの力(弾性ねじれがねじられる前の状態に戻ろうとする復元力)とが釣り合った状態で、光ファイバ裸線部分のねじれの戻りは停止する。したがって、ねじれ付与後に外力が解放される際の光ファイバ裸線部分の弾性ねじれは100%なくなるのではなく、被覆樹脂の弾性的反発力によって必ずある程度の割合で光ファイバ裸線部分のねじれが維持される。そして、この維持されたねじれが、外力解放状態でも被覆樹脂によって保持され、弾性ねじれ(ツイスト)として機能する。後述するように、通常は、与えた弾性ねじれのうち、少なくとも20〜30%程度のねじれは残留して、被覆樹脂によって保持されることが確認されている。そしてこのように被覆樹脂によって保持、固定された弾性ねじれ(ツイスト)は、さらに複数の光ファイバ素線をテープ状に配列させる工程、光ファイバケーブルを形成する工程などの過程を経て最終使用形態の製品とする際に、仮に外力が解放された場合であっても、弾性ねじれ(ツイスト)は確実に保持され、外部的要因によるPMDの増加の抑制に安定して有効となる。
【0016】
次に、本発明における各態様について説明する。
【0017】
本発明の第1態様の光ファイバ素線は、弾性ねじれが与えられている光ファイバ裸線部と、前記光ファイバ裸線部を被覆し、硬化性樹脂で形成され、前記光ファイバ裸線部に与えられている前記弾性ねじれを保持するように前記光ファイバ裸線部に生じる復元力に抗する弾性反発力を生じさせる被覆層と、を含む。
【0018】
上記の光ファイバ素線を用いることで、ファイバ裸線部分の弾性ねじれ(ツイスト)が、そのねじれの戻る(復元する)方向の力に抗する被覆層の弾性反発力によって保持されていて、最終使用形態である光ケーブルなどの状態でも、ファイバ裸線部分の弾性ねじれが確実かつ安定して保持される。従って、外部的要因によるPMDの増加を、確実かつ安定して抑制することができる。
【0019】
また、本発明の第1様態の光ファイバ素線においては、前記光ファイバ裸線部に与えられている弾性ねじれとして、光ファイバ素線の長手方向における所定長さ毎に、第一ねじれと、前記第一ねじれが生じる方向とは逆方向に生じる第二ねじれが、前記光ファイバ裸線部に交互に与えられていることが好ましい。
【0020】
上記の光ファイバ素線を用いることで、弾性ねじれとして、光ファイバ裸線部の長手方向の所定長さ毎に、第一ねじれと、前記第一ねじれが生じる方向とは逆方向に生じる第二ねじれが、前記光ファイバ裸線部に交互に与えられている場合には、一方向のみに連続して弾性ねじれが付与されている場合と比較して、外部的要因によるPMDの増加を、より確実かつ安定して抑制することができる。
【0021】
また本発明の第1様態の光ファイバ素線においては、前記被覆層が、相対的にヤング率が低い樹脂で形成される一次被覆層と、相対的にヤング率が高い樹脂で形成される二次被覆層とによって構成されていることが好ましい。
【0022】
上記の光ファイバ素線を用いることで、光ファイバ裸線の外周表面に接する一次被覆層としてヤング率が低い樹脂を使用して、光ファイバ裸線に対する被覆層の密着性を高めると同時に、外側の二次被覆層としてヤング率が高い樹脂を使用して、高い弾性反発力が得られる。それにより、光ファイバ裸線部分の弾性ねじれ(ツイスト)を被覆層により保持する上で有利となり、外部的要因によるPMDの増加を、より確実かつ安定して抑制することができる。
【0023】
また、本発明の第1様態の光ファイバ素線においては、光ファイバ裸線部に与えられている弾性ねじれが被覆層に生じる弾性反発力によって保持されている状態の前記光ファイバ裸線部における残留弾性ねじれの反転周期Tが5〜30mであり、かつ反転ねじれプロファイルにおける累積ねじれ角の最大振幅MAが100×T(°)〜1200×T(°)であることが好ましい。
【0024】
上記の光ファイバ素線を用いることで、ねじれの反転周期Tが上記の範囲であり、累積ねじれ角の最大振幅が上記の範囲内であることによって、残留する弾性ねじれが十分な量であるため、外部的要因によるPMDの増加を、確実かつ安定して抑制することができる。
【0025】
さらに、本発明の第2態様は、上述の第1態様の光ファイバ素線を製造する方法である。
【0026】
すなわち第2態様の光ファイバ素線の製造方法は、光ファイバ母材を加熱溶融し、溶融した光ファイバ母材から所定の径の光ファイバ裸線を引き出し、引き出された前記光ファイバ裸線を固化させ、前記光ファイバ裸線の引き出し方向における上流側に向けて、前記光ファイバ裸線に弾性ねじれを伝搬させることによって、固化後の前記光ファイバ裸線に弾性ねじれを付与し、固化した前記光ファイバ裸線の外周上を液体状態の硬化性樹脂で被覆することで固化前の被覆層を形成し、戦記弾性ねじれが付与された前記光ファイバ裸線の外周上に形成された前記被覆層を硬化することによって前記光ファイバ裸線の弾性ねじれが保持されるようにねじれが付与された光ファイバ素線を形成し、前記ねじれが付与された前記光ファイバ素線を引き取る。
【0027】
上記の光ファイバ素線の製造方法を用いることで、固化した光ファイバ裸線に付与された弾性ねじれ(ツイスト)が、硬化した被覆層によって保持された光ファイバ素線、すなわち外力を解放した後も弾性ねじれが光ファイバ裸線部に残る光ファイバ素線を製造することができる。
【0028】
また、本発明の第2様態の光ファイバ素線の製造方法においては、ねじれ付与装置を用いることによって、前記光ファイバ裸線にねじれを付与し、前記ねじれ付与装置よりも上流側に、前記光ファイバ裸線のねじれの伝搬を阻止する部材が存在しない状態で、前記光ファイバ裸線にねじれを付与することが好ましい。
【0029】
上記の光ファイバ素線の製造方法を用いると、ねじれ付与装置からねじれ付与装置の上流側に円滑にねじれが伝搬されるため、確実かつ安定して光ファイバ裸線に弾性ねじれを付与することができる。
【0030】
また本発明の第2様態の光ファイバ素線の製造方法においては、光ファイバ素線にねじれを付与する際に、前記光ファイバ裸線に付与されるねじれの方向を周期的に反転させることが好ましい。
【0031】
上記の光ファイバ素線の製造方法を用いると、付与されるねじれの方向が周期的に反転した光ファイバ素線を得ることができ、外部的要因によるPMDの増加を、より効果的に抑制することができる。
【0032】
さらに本発明の第2様態の製造方法においては、前記光ファイバ裸線に硬化性樹脂を被覆する際に、液体状態の前記硬化性樹脂の被覆時の粘度が0.1〜3Pa・secであることが好ましい。
【0033】
上記の光ファイバ素線の製造方法を用いると、被覆時の液体状態の樹脂の粘度が0.1Pa・sec以上であることによって、光ファイバ素線の被覆外径の変動を抑制して均一な被覆外径の光ファイバ素線を得ることができる。さらに、被覆時の液体状態の樹脂の粘度が3Pa・sec以下であることによって、液体状態の樹脂がねじれの伝搬の抵抗となることを防止し、特に、ねじれの方向を周期的に反転させる場合において、ねじれの伝搬とねじれ方向を確実に反転させることができる。
【0034】
さらに本発明の第2様態の光ファイバ素線の製造方法においては、光ファイバ素線の長手方向における光ファイバ素線に付与するねじれの反転周期Tが5〜30mであり、かつ反転ねじれプロファイルにおける累積ねじれ角の最大振幅MAが500×T(°)〜4000×T(°)であることが好ましい。
【0035】
上記の光ファイバ素線の製造方法を用いると、ねじれの反転周期Tが上記の範囲であり、累積ねじれ角の最大振幅が上記の範囲内であることによって、光ファイバ素線に対する外力が解放されたときに残留する弾性ねじれを十分に確保できる。さらに、過大な応力によって被覆層の剥離もしくは割れが発生することを防止できる。
【0036】
さらに本発明の第2様態の光ファイバ素線の製造方法においては、光ファイバ素線の長手方向における光ファイバ素線に付与する弾性ねじれが被覆層に生じる弾性反発力とによって保持されている状態の前記光ファイバ裸線部に残留しているねじれの反転周期Tが5〜30mであり、かつ反転ねじれプロファイルにおける累積ねじれ角の最大振幅MAが100×T(°)〜1200×T(°)であることが好ましい。
【0037】
上記の光ファイバ素線の製造方法を用いると、ねじれの反転周期Tが上記の範囲であり、累積ねじれ角の最大振幅が上記の範囲内であることによって、残留する弾性ねじれが十分な量であるため、外部的要因によるPMDの増加を、確実かつ安定して抑制することができる。
【0038】
さらに本発明の第3様態は、第1様態の光ファイバ素線を製造する装置である。
すなわち、本発明の第3様態の光ファイバ素線製造装置は、光ファイバ母材を加熱溶融させる紡糸用加熱炉と、紡糸用加熱炉から下方に向けて線状に引き出された光ファイバ裸線を強制冷却して固化させる冷却装置と、冷却・固化された前記光ファイバ裸線に保護被覆用の硬化性樹脂を被覆することで、被覆層を形成する被覆装置と、前記被覆装置により被覆された未硬化の被覆層を硬化させる被覆硬化装置と、前記光ファイバ裸線の引き出し方向における上流側に向けて、前記光ファイバ裸線に弾性ねじれを伝搬させることによって、固化後の光ファイバ裸線にねじれを与えるねじれ付与装置とを備える。
【0039】
上記の光ファイバ素線の製造装置を用いることで、固化した光ファイバ裸線に付与された弾性ねじれ(ツイスト)が、硬化した被覆層によって保持された光ファイバ素線、すなわち、外力解放後も弾性ねじれが光ファイバ裸線部に残る光ファイバ素線を製造することができる。
【発明の効果】
【0040】
本発明の光ファイバ素線によれば、光ファイバ裸線部分の弾性ねじれ(ツイスト)が、外力を解放した状態でもその弾性ねじれの戻る(復元する)方向の力に抗する被覆層の弾性反発力によって保持される。そのため、最終使用形態である光ケーブルなどの状態でも、ファイバ裸線部分の弾性ねじれを確実かつ安定して保持することができる。結果として、曲げ又は側圧などの外部的要因によるPMDの増加を、確実かつ安定して抑制することができる。
また本発明の光ファイバ素線の製造方法、製造装置によれば、上述のように曲げ又は側圧などの外部的要因によるPMDの増加を確実かつ安定して抑制し得る光ファイバ素線を、確実かつ容易に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、本発明の各実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0043】
図1には本発明の光ファイバ素線を製造するための装置の一例を示す。
図1において、光ファイバ素線製造装置10は、例えば石英系ガラスなどで形成される光ファイバ母材12を加熱溶融させる紡糸用加熱炉14と、紡糸用加熱炉14から下方に向けて線状に引き出された光ファイバ裸線16を強制冷却して固化させる冷却装置18と、冷却・固化された光ファイバ裸線16を、紫外線硬化性樹脂または熱硬化性樹脂などの保護被覆用の硬化性樹脂により被覆する被覆装置20と、前記被覆装置20により被覆された未硬化(液体状態)の硬化性樹脂を、紫外線照射または加熱などにより硬化させる被覆硬化装置22と、保護被覆用の硬化性樹脂が硬化された状態で光ファイバ素線24にねじれを与えるねじれ付与装置26と、ねじれが付与された光ファイバ素線24を、ガイドプーリ28もしくは図示しないダンサーローラを経て引き取る図示しない引取装置と、最終的に光ファイバ素線を巻き取る図示しない巻取装置とを備える。
【0044】
ここで、ねじれ付与装置26は、光ファイバ素線24に一定方向のねじれを連続して与える構成であってもよいが、通常は、後に改めて説明するように、周期的にねじれの方向(時計方向かまたは反時計方向か)が反転されるように構成することが望ましい。ねじれ付与装置26の具体的構成は特に限定されないが、例えば
図2A、
図2Bに示すようなねじれ付与装置(特許文献4の
図11に示されるねじれ付与装置と同様の装置)、あるいは
図3に示すようなねじれ付与装置(特許文献1の
図2、もしくは特許文献4の
図10に示されるねじれ付与装置と同様の装置)を適用すればよい。
【0045】
図2A、
図2Bに示すねじれ付与装置26は、光ファイバ素線24をその両側から挟みながら回転する2組各一対のねじれ付与ローラ26Aa、26Ab、26Ba、26Bbによって構成されている。第一の組のねじれ付与ローラ26Aa及び26Abの下流側(
図1におけるガイドプーリ28が設けられている側)の、第一の組のねじれ付与ローラ26Aa及び26Abに近い位置に、第二の組のねじれ付与ローラ26Ba、26Bbが設けられる。また、前記第二の組のねじれ付与ローラ26Ba、26Bbは、光ファイバ素線24の長手方向(線引き方向)に垂直な断面における中心を軸として、前記第一の組のねじれ付与ローラ26Aa、26Abに対して90°ずれて配置されている。そして各ねじれ付与ローラ26Aa、26Ab、26Ba、26Bbが、光ファイバ素線24をその両側から挟みながら回転する際、各ねじれ付与ローラ26Aa、26Ab、26Ba、26Bbの回転軸を、光ファイバ素線24の長さ方向に直交する方向に対して所定の小角度だけ傾斜させることによって、光ファイバ素線24にねじれを付与することができる。そして光ファイバ素線24に対する各ねじれ付与ローラ26Aa、26Ab、26Ba、26Bbの傾斜方向を反対方向に変えることによって、光ファイバ素線24に与えるねじれの方向を転換することができる。
【0046】
また
図3に示すねじれ付与装置26は、光ファイバ素線24が外周上に巻きかけられて、線引き方向に対して傾斜する回転軸を中心として回転するねじれ付与ローラ26Cと、その下流側に配設された、線引き方向に対して直交する回転軸を中心として回転する固定位置ローラ26Dとで構成される。また、光ファイバ素線24がねじれ付与ローラ26Cの外周上を回転軸線方向に沿って転動することによって光ファイバ素線24にねじれが付与され、かつ、ねじれ付与ローラ26Cの傾斜方向が反転するように揺動させることによって、ねじれ方向を反転させることができる。
【0047】
なお、ねじれ付与装置26は、冷却・固化された光ファイバ裸線16を保護被覆用の硬化性樹脂により被覆して、前記硬化性樹脂が硬化した後にねじれを付与できる位置に設置することが望ましい。ただし、前記ねじれ付与装置26よりも上流側には、光ファイバ素線24もしくは光ファイバ裸線16に接してねじれの伝達を阻止するような機構、部材を設けないことが望ましい。そして
図1に示す光ファイバ素線製造装置では、上記の条件を満たすべく、ねじれ付与装置26を、被覆硬化装置22とガイドローラ28との間に配置している。この場合、ねじれ付与装置26よりも上流側には、硬化性被覆樹脂を除いて、光ファイバ素線24もしくは光ファイバ裸線16の表面に物理的に接触する部材が存在しない。従って、ねじれ付与装置26により付与されたねじれをその上流側に連続的かつ円滑に伝搬させて、本発明で目的とする弾性ねじれ(ツイスト)を付与することが可能となる。但し、ある程度の溝幅を有する平溝プーリなど、光ファイバの転動が許容されるような部材であれば、その部材が接してもねじれの伝搬を阻害するおそれが少なく、そのような部材をねじれ付与装置26よりも上流側に設けることは許容される。
【0048】
また被覆装置20により被覆される硬化性樹脂は、1層でもよいが、一般には、一次被覆層(プライマリ材料)と二次被覆層(セカンダリ材料)との2層構造を採用することが多く、本発明の場合も、2層構造の樹脂被覆層を形成することが望ましい。すなわち、一次被覆層として、エポキシアクリレート樹脂またはウレタンアクリレート樹脂などの紫外線硬化性樹脂、あるいはシリコン樹脂などの熱硬化性樹脂で形成され、かつ硬化後のヤング率が5MPa程度以下の低ヤング率(一般には常温でのヤング率が0.3〜1,5MPa)のものを用いることが望ましい。一方、二次被覆層としては、エポキシアクリレート樹脂またはウレタンアクリレート樹脂などの紫外線硬化性樹脂、あるいは変性シリコン樹脂などの熱硬化性樹脂で形成され、かつ硬化後のヤング率が100MPa程度以上の高ヤング率(一般には常温でのヤング率が300〜1500MPa)のものを用いることが望ましい。このように一次被覆層として低ヤング率の材料を用いることにより、光ファイバ裸線に対して良好なクッション効果を示すとともに、光ファイバ裸線に対する被覆層の密着性を高めることができる。一方、二次被覆層として、高ヤング率の材料を用いることにより、外部からの損傷、摩擦、もしくは側圧などに対して十分に耐え得るようになる。特に、本発明の光ファイバ素線の場合、光ファイバ裸線部分に対する密着性を高めると同時に被覆層全体の見かけ上のヤング率を高めることが、被覆層により光ファイバ裸線部分の弾性ねじれ(ツイスト)を保持する上で有利となる。従って、その観点からも、上述のように硬化後のヤング率が異なる2層構造の被覆層を形成することが望ましい。
【0049】
なお、このような2層構造の被覆層を形成する場合の被覆方法および硬化方法としては、
図1に示しているように、被覆装置20および被覆硬化装置22を1箇所のみに設けて、1基の被覆装置20により2層被覆を行ない、得られた2層被覆層を3基の被覆硬化装置22により一括的に硬化させてもよい。あるいは、後に説明する
図8に示すように、被覆装置20および被覆硬化装置22をそれぞれ2箇所ずつ設けて、一次被覆層の樹脂を被覆してそれを硬化させてから、二次被覆層の樹脂を被覆し、硬化させてもよい。
なおまた、光ファイバ裸線に硬化性樹脂を被覆する際の液体状態の樹脂の粘度も弾性ねじれ(ツイスト)の付与状況などに影響を与えるファクターであるが、その説明については、後述する。
【0050】
次に上述の光ファイバ素線製造装置を用いて、本発明による弾性ねじれ(ツイスト)を付与した光ファイバ素線を製造する方法について説明する。
【0051】
上述のような光ファイバ素線製造装置によって光ファイバ素線を製造する場合、光ファイバ裸線の原料である石英系ガラス母材などの光ファイバ母材12を、紡糸用加熱炉14において2000℃以上の高温に加熱することで溶融し、前記紡糸用加熱炉14の下部から、高温状態で光ファイバ裸線16として伸長しながら下方に引き出し、前記光ファイバ裸線16を、冷却装置18により冷却することで固化する。冷却装置18により所要の温度まで冷却されて固化した光ファイバ裸線16には、例えば2層コーティング用の被覆装置20において、紫外線硬化性樹脂もしくは熱硬化性樹脂などの2種類の硬化性樹脂が液体状態で一次被覆層、二次被覆層として被覆される。さらに、得られた被覆樹脂が、被覆硬化装置22において加熱硬化あるいは紫外線硬化などの樹脂の種類に応じた適宜の硬化方法により硬化され、2層の被覆層を備えた光ファイバ素線24が得られる。さらに、得られた光ファイバ素線24に、例えば
図2A、
図2Bあるいは
図3に示したようなねじれ付与装置26によって、所定のねじれTW1、TW2が付与された後に、ガイドプーリ28を経て図示しない引取装置によって所定速度で引き取られ、さらに図示しない巻取装置により巻き取られる。
【0052】
図1に示す装置において、ねじれ付与装置26により光ファイバ素線24に加えられたねじれTW1、TW2は、
図1中の矢印Y1、Y2で示すように、ねじれ付与装置26の前後(上流側、下流側)に伝搬されるが、ここでは、特に光ファイバ母材側(上流側)に伝搬していくねじれTW1について注目する。この場合、ねじれTW1は、被覆硬化装置22を経て被覆装置20を通り、さらにその上方の冷却装置18に向けて伝搬される。したがって、光ファイバ裸線16が冷却装置18により固化されてから、その裸線の外周上に被覆装置20により未硬化(液体状態)の硬化性樹脂が被覆され、さらにその被覆樹脂が被覆硬化装置22により硬化されるまでの間(
図1の符号S1の領域付近)において、ねじれが加えられる。ここで、光ファイバ裸線が固化してから加えられるねじれは、外力を解放すれば戻るねじれ、すなわち弾性ねじれ(ツイスト)である。また、被覆樹脂の硬化後にねじれ付与装置26により光ファイバ素線24に加えられたねじれは、当然のことながら光ファイバ裸線部分と一体化された被覆層にも加えられる。一方、被覆装置20において液体状態で被覆されてからその樹脂が硬化するまでの間(
図1の領域S2付近)においては、被覆樹脂は流動し得る状態であるため、弾性的な挙動は示さない。したがって、その間S2においては、被覆層には弾性ねじれが実質的に加えられない。そして液体状態で光ファイバ裸線の外周上に被覆された樹脂が硬化する際に、それまでに加えられた光ファイバ裸線の弾性ねじれ(ツイスト)は、被覆層の樹脂によって固定される(保持される)。
【0053】
ここで、上述のような
図1の装置により製造された光ファイバ素線24の製造過程における、被覆硬化装置22により被覆層が硬化された段階での光ファイバ素線24の一例を、
図4に模式的に示す。
図4において、符号32Aは被覆層の一次被覆層、32Bは二次被覆層であり、また
図4中の光ファイバ裸線16の外周上に描いた太い実線および破線は、付与されたねじれを表わしている。この図では、光ファイバ素線の製造工程における下流側から見て時計方向のねじれが加えられて、光ファイバ裸線16の部分に、下側から見て時計方向のねじれを有する状態を示している。既に述べたように、被覆層32A、32Bは、光ファイバ裸線16の外周上に液体状態で被覆されてから硬化するまでの間は、弾性的な挙動を示さない。したがって、
図4に示す段階では、被覆層32A、32Bには実質的にねじれが与えられていない。但し、
図4に示しているのは、次に説明するように、摩擦などの外力が解放されていない段階での光ファイバ素線である。なおまた、被覆硬化装置22により被覆層が硬化されてからねじれ付与装置26に至る間においても光ファイバ素線にはねじれが加えられ、またねじれ付与装置26の下流側においても光ファイバ素線にねじれが加えられるが、これらの被覆層硬化後に加えられるねじれは、光ファイバ裸線部分および被覆層の両方に全体的に加えられる弾性ねじれである。従って、光ファイバ素線に対する摩擦などの外力が解放されれば、被覆層硬化後に加えられるねじれは解放され、外部的要因によるPMDの増加を抑制する効果を得るための確実な要因ではない。そのため、本発明の課題の解決に寄与しないから、ここではその詳細については説明を省略する。
【0054】
ところで、硬化した被覆樹脂は、光ファイバ裸線部分よりも軟質でその剛性が低いから、前述のように光ファイバ裸線が固化してから被覆樹脂が硬化するまでの間に光ファイバ素線に弾性ねじれを付与しても、付与された弾性ねじれをそのまま完全に被覆樹脂によって固定すること、すなわち外力が解放されたときのねじれの弾性力による戻り(復元)を被覆樹脂によって完全に防止することは困難である。つまり、ねじれを付与した光ファイバ素線について、その後に摩擦力などの外力が解放されれば、光ファイバ素線の内部の光ファイバ裸線部分の弾性戻り力によって樹脂被覆層が光ファイバ裸線部分の戻り方向にねじられ、ファイバ裸線部分の弾性ねじれもある程度戻ることは避けられない。しかしながら、硬化した被覆樹脂も弾性を有しているから、光ファイバ裸線部分のねじれが戻る際に被覆樹脂層に加わる戻り方向のねじれも弾性ねじれとして機能し、被覆樹脂層の弾性ねじれに対する反発力と、光ファイバ裸線部分のねじれの戻りの力(弾性ねじれがねじられる前の状態に戻ろうとする復元力)とが釣り合った状態で、光ファイバ裸線部分のねじれの戻りが停止する。したがって、外力が開放されたときの光ファイバ裸線部分に付与された弾性ねじれは100%なくなるのではなく、被覆樹脂の弾性反発力によって必ずある程度の割合で光ファイバ裸線部分に付与された弾性ねじれは残る。このようにして残留したねじれ分が、被覆樹脂によって保持、固定され、最終使用形態の製品においても弾性ねじれ(ツイスト)として機能する。
【0055】
上述のように光ファイバ素線に対する摩擦などの外力が解放される際の力のバランスとねじれとの関係について、
図5に模式的に示す。また、光ファイバ素線に対する摩擦などの外力が解放された後のフリー状態(光ファイバ素線に外力がかからない状態)の光ファイバ素線のねじれの状況を、
図6(B)に模式的に示す。なお、比較のため、
図6(A)には、被覆層が硬化された直後の段階でのねじれ状況を示す(
図4と実質的に同じ)。この
図6(A)、(B)において太い実線、太い破線は、それぞれねじれの状況を示している。但し、
図5及び
図6(A)、(B)においては、説明の簡略化のため、被覆層が1層(符号32)の場合を示している。
【0056】
図5において、光ファイバ素線に対する外力が解放される直前までは、光ファイバ裸線16の部分に、例えば反時計方向の弾性ねじれTP1が与えられている。一方、外力が解放されてフリー状態となる際には、時計方向に弾性復帰力F1が働き、反時計方向の弾性ねじれTP1が減少する。これは、外力が解放される際に時計方向に光ファイバ裸線16がねじられることを意味する。それに伴って、光ファイバ裸線16に密着している被覆層32も、時計方向にねじられる(ねじれTP2)。このとき、被覆層32も弾性を有しているため、時計方向ねじれTP2に対して反対方向(反時計方向)の弾性反発力F2が発生する。そして被覆層32の反時計方向の弾性反発力F2と、前述の光ファイバ裸線16の時計方向の弾性反発力F1とが釣り合った状態で、光ファイバ裸線16の部分の弾性ねじれTP1が保持される。したがって、光ファイバ素線に対する摩擦などの外力が解放された後のフリー状態の光ファイバ素線においては、
図6(B)に示されるように、光ファイバ裸線16の部分と被覆層32の部分とでは、逆方向のねじれTP1、TP2が存在しており、光ファイバ裸線16の部分に残留しているねじれTP1は、被覆層硬化直後のねじれ(
図6(A)の太い実線、破線)よりも小さい。
【0057】
ここで、硬化した被覆樹脂のヤング率は、一般に光ファイバガラスと比較してかなり低いが、ゼロではない。従って、外力が解放される際、光ファイバ裸線部分のねじれの戻りに伴う樹脂被覆層のねじれによる弾性反発力は必ず発生し、したがって上述のように反発力が釣り合った状態で、光ファイバ裸線部分の弾性ねじれが残留する。
一般的な光ファイバに使用されている2層構造の被覆層では、一次被覆層の樹脂(プライマリ材料)としては常温でのヤング率が0.3〜1.5MPa程度の材料が用いられ、二次被覆層の樹脂(セカンダリ材料)としては常温でのヤング率が300〜1500MPa程度の材料が用いられる。また、光ファイバ裸線部分の径は125μm程度であり、被覆層の外径のうち、一次被覆層(プライマリ層)の外径は170〜210μm程度、二次被覆層(セカンダリ層)の外径は230〜260μm程度である。また、このような光ファイバ素線について、前述のようにして弾性ねじれを光ファイバ素線に付与し、その後光ファイバ素線にかかる外力を解放し、残留する光ファイバ裸線部分の弾性ねじれを調べたところ、光ファイバ素線に付与したねじれの20〜30%程度の弾性ねじれが残ることが確認されている。
【0058】
また、ねじれ付与装置により、一方向に連続して光ファイバ素線にねじれを加えてもよいが、既に述べたように、ねじれ方向を、時計方向、反時計方向に周期的に反転させること、つまり、光ファイバ素線の長手方向における所定長さ毎に、第一ねじれと、前記第一ねじれが生じる方向とは逆方向に生じる第二ねじれが交互に与えられることが、外部的要因によるPMDの増加抑制に対してより有効である。
【0059】
このようにねじれ方向を周期的に反転させる場合、被覆装置で被覆する際の液体状態の被覆樹脂の粘度は、2層被覆の各被覆層を含め、0.1〜3Pa・secの範囲内であることが望ましい。被覆時の液体状態の樹脂の粘度が0.1Pa・sec未満である場合は、粘度が低すぎるため、均一にコーティングして均一な膜厚の被覆層を得ることが困難である。そのため、光ファイバ素線の被覆外径の変動量が±2μmを越えてしまい、光ファイバ素線として不良品となってしまうおそれがある。一方、被覆時の液体状態の樹脂の粘度が3Pa・secを越える場合は、ねじれ付与装置からねじれ付与装置の上流側への光ファイバ裸線におけるねじれの伝搬に対して、被覆樹脂の粘性が抵抗として作用する。その結果、ねじれ付与装置と被覆装置との間でねじれが溜まる現象が顕著となってしまい、それに伴って被覆硬化装置と被覆装置との間へのねじれの伝搬も遅くなる傾向を示す。その場合、ある方向(例えば時計方向)のねじれが被覆硬化装置と被覆装置との間で被覆層によって確実に保持される前に、反対方向(例えば反時計方向)のねじれが伝搬されてきて、時計方向のねじれが戻されてしまう。結果的に、被覆層の硬化後に残るねじれが少なくなってしまうか、またはねじれがほぼ完全に消失するおそれがある。したがって、ねじれ方向を周期的に反転させる場合には、被覆時の液体状態の樹脂の粘度を、上記のような適切な範囲内に調整することが望まれる。
【0060】
また、前述のようにねじれ方向を周期的に反転させる場合、光ファイバ素線の長手方向の距離に対するねじれ角度(もしくは累積ねじれ角度)を、反転ねじれプロファイルとして描くことができる。また、その反転ねじれプロファイルの波形は、一般には正弦波状とすればよいが、その他に、三角波状、あるいは台形波状などでもよく、特に限定されない。正弦波を採用した場合の反転ねじれプロファイルの一例を
図7に示す。
図7において、実線は光ファイバ素線の長手方向の距離に対するねじれ角(単位長さあたりのねじれ角度)の推移を示し、破線は光ファイバ素線の長手方向の距離に対する累積ねじれ角度の推移を示す。
【0061】
ここで、反転ねじれプロファイルにおいて、ねじれの反転周期(ある方向、たとえば時計方向へのねじれが開始されて、前記時計方向でのねじれが付与された後、ねじれ方向が反転されて、反時計方向にねじれが付与され、前記反時計方向のねじれが終了するまでの、光ファイバ素線上での長さ)Tは、5〜30mの範囲内であることが好ましい。ねじれの反転周期Tが5m未満である場合は、時計方向のねじれと反時計方向のねじれが伝搬中に相殺されやすくなる。一方、ねじれの反転周期Tが30mを越える場合、より多くのねじれを加えなければ外部的要因によるPMDの増加の抑制効果が得られなくなるおそれがある。
【0062】
さらに、反転ねじれプロファイルにおいて、累積ねじれ角の最大振幅MA(
図7参照)は、500×T〜4000×T(°)の範囲内であることが望ましい。累積ねじれ角の最大振幅MAが500×T(°)未満である場合は、光ファイバ素線に対する外力を解放した後に残留する光ファイバ裸線部分の弾性ねじれが少なくなって、外部的要因によるPMDの増加を抑制する効果が少なくなる。一方、累積ねじれ角の最大振幅MAが4000×T(°)を越える場合は、光ファイバ素線に対する外力を解放したときに光ファイバ裸線部分から被覆層に加えられる応力が大きすぎて、光ファイバ裸線部分と被覆層との間に剥離が生じたり、被覆層に割れが発生したりするおそれがある。
【0063】
さらに、反転ねじれプロファイルにおいて、光ファイバ裸線部に与えられている弾性ねじれと被覆層に生じる弾性反発力によって保持されている状態の前記光ファイバ裸線部における残留弾性ねじれの反転周期Tは、5〜30mの範囲内であり、かつ、累積ねじれ角の最大振幅MAは、100×T(°)〜1200×T(°)の範囲内であることが望ましい。累積ねじれ角の最大振幅が上記の範囲内であることによって、残留する弾性ねじれが十分な量であるため、外部的要因によるPMDの増加を、確実かつ安定して抑制することができる。
【0064】
図8には、本発明の光ファイバ素線を製造するための装置の別の実施形態を示す。
図8に示す光ファイバ素線製造装置は、2層構造の被覆層を有する光ファイバ素線を製造するために、被覆装置および被覆硬化装置を、それぞれ2箇所に設置した構成を有する。すなわち、紡糸用加熱炉14から引き出された光ファイバ裸線16を冷却、固化させる冷却装置18の直下に一次被覆装置20Aを設置し、さらに、その下流側に一次被覆硬化装置22Aを設置して、先ず一次被覆層の被覆、硬化を行う。さらに、一次被覆硬化装置の下流に二次被覆装置20Bおよび二次被覆硬化装置22Bを20B,22Bの順に設置して、一次被覆層上に二次被覆層の被覆、硬化を行う。そして、二次被覆硬化装置22Bの下流でねじれ付与装置26によりねじれを付与するように構成している。2層構造の被覆層を有する光ファイバ素線を製造する際に、上記のように2箇所で別々に被覆層を被覆、硬化する場合も、ねじれの付与、保持および残留については、
図1に基づいて説明した場合と同様であり、またその望ましい条件についても前記と同様である。
【0065】
以下に、本発明における被覆層によって保持されている弾性ねじれ(ツイスト)角の測定方法を示す。
【0066】
まず、サンプルとして、上述の方法で作製した光ファイバ素線を1m程度採取する。続いて、採取したサンプルの一端を固定し、サンプルを垂直方向に吊るす。続いて、上記固定された側とは反対側のサンプルの他端をクリップに固定し、吊るされたサンプルのねじれが開放された状態で、クリップを固定する。続いて、サンプルの被覆層を1m除去する。続いて、クリップを開放し,クリップが固定された状態から解放された状態のクリップの回転角度を測定する。
上記の方法で測定された回転角度が単位長さあたりの弾性ねじれ角(°/m)である。
さらに、別の光ファイバ素線の弾性ねじれ量を測定する場合は、上記方法を繰り返すことで測定することができる。
【0067】
以下に本発明の実施例を、比較例とともに説明する。なお以下の実施例は、本発明の作用効果を明確化する一例であって、実施例に記載された条件によって本発明の技術的範囲は限定されない。
【実施例】
【0068】
〔実施例1〕
図1に示すような光ファイバ素線製造装置を用い、かつ、その製造装置内におけるねじれ付与装置として
図3に示すような装置を用い、一般的なシングルモードファイバの特性を有する2層被覆構造の石英ガラス系光ファイバ素線に、本発明の上述した方法に従って弾性ねじれ(ツイスト)を付与した光ファイバ素線を製造した。光ファイバ母材からの紡糸速度(線引き速度)は、2000mm/minとした。また被覆装置は、1箇所で2種類の被覆樹脂をコーティングする2層同時コーティング方式(wet on wet方式)を適用した。一次被覆層の樹脂(プライマリ材料)としては、UV硬化型ウレタンアクリレート系樹脂(硬化時のヤング率0.5MPa)を用い、二次被覆層の樹脂(セカンダリ材料)としては、UV硬化型ウレタンアクリレート系樹脂(硬化時のヤング率1000MPa)を用いた。また、上記材料の被覆時の液体樹脂の粘度は、ともに1Pa・secに調整し、被覆装置により塗布後、被覆硬化装置であるUVランプによって硬化させた。ねじれは、被覆硬化装置によって被覆樹脂を硬化する工程の直後に与えた。なお、ねじれ付与装置よりも上流側には、被覆樹脂以外は、光ファイバ素線に物理的に接触しないような状態で線引きした。
【0069】
ここで、ねじれ付与装置により光ファイバ素線に付与するねじれの光ファイバ素線の長手方向におけるプロファイルは、ねじれ方向を周期的に反転させる正弦波であり、また、周期Tが20m、累積ねじれ角の最大振幅MAが10000°となるようにねじれ付与装置の揺動角度、揺動速度を設定した。ねじれ付与装置を通過後の光ファイバ素線は、ガイドプーリを経て引取機によって引き取られ、さらにダンサープーリを経て巻取機により巻き取られ、光ファイバ裸線部に弾性ねじれ(ツイスト)が付与されている光ファイバ素線を得た。なお得られた光ファイバ素線は、裸線の直径が125μmであり、被覆外径のプライマリ径(一次被覆層外径)が200μm、セカンダリ径(二次被覆層外径)が250μmであった。
【0070】
以上のようにして製造されて巻き取られた実施例1の光ファイバ素線について、プーリなど、摩擦抵抗などの外力が加わる部材に接しない距離(フリー長)を30m確保しながら、巻き返し装置により巻き返して、光ファイバ素線に加えられているねじれを解放させ、サンプルを作製した。作製されたサンプルについて、1000mの長さのサンプルを、400mmφの鉄製ボビンに、巻き張力200gfで、ファイバ同士が重ならないように1層で強制的に巻き付けることにより、光ファイバ素線に意図的に側圧を加えた。すなわち、外部的要因によりPMDが生じやすい条件とした。その後、ファイバ温度の安定化のため1時間以上放置してから、PMD測定を実施した。PMD測定には、ヒューレットパッカード製のHP8509B測定器を使用し、JME法(Jones Matrix Eigenanalysis法)により行なった。測定波長は1510〜1600nmとし、2nmステップでスキャンした。その結果、側圧付加時のPMD値(PMD1)として、0.05ps/√kmと、極めて小さい値が得られた。
一方、上記サンプルに用いた素線と同一の素線をフリーコイル状態(側圧除去状態)にして、上記と同様の条件で再度PMDを測定したところ、フリーコイル状態のPMD値(PMD2)は、0.02ps/√kmであった。ここで、PMD1とPMD2との差分(0.03ps/√km)が、側圧付加によるPMD増加分、すなわち外部的要因によるPMD増加分とみなすことができる。
また、実際に被覆層を除去して残留ねじれ量を測定したところ、残留弾性ねじれの反転周期Tが20m、累積ねじれ角の最大振幅MAが3000°であった。
このように側圧付加時(外部的要因)のPMD増加が著しく少ないことは、素線製造過程中で付加したねじれが、前述の巻き返しによってフリー状態(外力解放状態)となった後にも、かなりの割合で被覆層により保持されて弾性ねじれ(ツイスト)として残留し、その残留弾性ねじれによって、側圧付加時(外部的要因)のPMD増加を抑制できたと解される。
【0071】
〔比較例1〕
弾性ねじれ(ツイスト)を付与しないこと以外は、実施例1と同様の方法で光ファイバ素線を製造した。また、実施例1と同様に、意図的に側圧を付与した状態、および側圧を除去したフリーコイル状態のそれぞれの状態におけるPMD値を測定した。その結果、側圧を付与した状態でのPMD値(PMD1)は、0.62ps/√kmと、著しく高い値となった。なお、側圧除去状態(フリーコイル状態)でのPMD値(PMD2)は、実施例1と同様に0.02ps/√kmであった。この場合のPMD1とPMD2との差分、すなわち側圧付加の外部的要因によるPMD増加分は、0.60ps/√kmと大きな値であった。
【0072】
上記のように弾性ねじれを付与した実施例1と、弾性ねじれを付与しない比較例1とを比較すれば、側圧付加時のPMD1は、比較例1の場合よりも実施例1の方が格段に小さく、PMD1とPMD2との差分(側圧付加によるPMD増加分)も、実施例1の方が比較例1よりも格段に小さい。このことから、比較例1では、弾性ねじれを付与しなかったために外部的要因によるPMD増加が大きくなったのに対して、実施例1では、前述のように弾性ねじれを付与して、外力(側圧)解除後も弾性ねじれが保持されることによって、外部的要因によるPMDの増加を、きわめてわずかな量に抑えることができたことが明らかである。
【0073】
〔比較例2〕
図9に示すように、ねじれ付与装置26を引取キャプスタン36の下流に設置して、引取キャプスタン36を通過した後の光ファイバ素線24にねじれを付与した。その他の構成は実施例1と同様である。製造された光ファイバ素線について、実施例1と同様に巻き返して、光ファイバ素線に加えられているねじれを解放させ、サンプルを作製した。作製されたサンプルについて、実施例1の場合と同様に、意図的に側圧を付与した状態、および側圧を除去したフリーコイル状態のそれぞれの状態におけるPMD値を測定した。その結果、側圧を付与した状態でのPMD値(PMD1)は、0.58ps/√kmと、著しく高い値となった。なお、側圧除去状態(フリーコイル状態)でのPMD値(PMD2)は、0.016ps/√kmであった。この場合のPMD1とPMD2との差分、すなわち、側圧付加の外部的要因によるPMD増加分は、約0.56ps/√kmであった。このように比較例2の場合は、PMD1値が比較例1と近い値となり、PMD1とPMD2との差分、すなわち外部的要因によるPMDの増加分も、比較例1に近い大きな値となった。このことは、比較例2による光ファイバ素線では、製造過程でねじれを付加した場合であっても、外部的要因によるPMDの増加の抑制が十分に行なわれなかったことを意味する。これは、引取キャプスタン36の下流側でねじれを付加したため、引取キャプスタン36がねじれの伝搬に対する抵抗となったことが原因である。そのため、付加されたねじれが引取キャプスタン36よりも上流側に十分に伝搬されず、そのため引取キャプスタン36の上流側に位置する被覆装置20から被覆硬化装置22の間付近では光ファイバ裸線にねじれが付与されていないことになる。結果的に光ファイバ素線に残留する弾性ねじれがほぼ零に近くなってしまったためと解される。
また、実際に被覆を除去して残留ねじれ量を測定したところ、規則的な周期を持ったねじれは測定できなかった。
【0074】
〔実施例2〕
図8に示すような光ファイバ素線製造装置を用い、かつ、その製造装置内におけるねじれ付与装置26として
図3に示すような装置を用い、一般的なシングルモードファイバの特性を有する2層被覆構造の石英ガラス系光ファイバ素線に、本発明の上述した方法に従って弾性ねじれ(ツイスト)を付与した光ファイバ素線を製造した。光ファイバ母材からの紡糸速度(線引き速度)は、1500mm/minとした。また、被覆―硬化方式としては、
図8に示しているように、2箇所でそれぞれ別の被覆樹脂をコーティングする方式(wet on dry方式)を適用した。一次被覆層の樹脂(プライマリ材料)としては、UV硬化型ウレタンアクリレート系樹脂(硬化時のヤング率1.0MPa)を用い、二次被覆層の樹脂(セカンダリ材料)としては、UV硬化型ウレタンアクリレート系樹脂(硬化時のヤング率500MPa)を用いた。また上記材料の被覆時の液体樹脂の粘度について、プライマリ材料の粘度は3Pa・sec、セカンダリ材料の粘度は0.1Pa・secに調整し、一次被覆装置20Aにより液体状態のプライマリ材料を被覆した後、一次被覆硬化装置22AであるUVランプによって硬化させた。続いて、二次被覆装置20Bによりセカンダリ材料を被覆して、二次被覆硬化装置22BであるUVランプによって硬化させた。ねじれは、二次被覆硬化装置22Bによってセカンダリ材料を硬化する工程の直後に与えた。なお、ねじれ付与装置26よりも上流側には、被覆樹脂以外は、光ファイバ素線に物理的に接触しないような状態で線引きした。
【0075】
ここで、ねじれ付与装置26により光ファイバ素線24に付与するねじれの光ファイバ素線の長手方向におけるプロファイルは、ねじれ方向を周期的に反転させる三角波であり、周期Tが5m、累積ねじれ角の最大振幅MAが2500°となるように、ねじれ付与装置の揺動角度、揺動速度を設定した。ねじれ付与装置26を通過後の光ファイバ素線24は、ガイドプーリ28を経て図示しない引取機によって引き取られ、さらにダンサープーリを経て巻取機により巻き取られ、光ファイバ裸線部に弾性ねじれ(ツイスト)が付与されている光ファイバ素線を得た。得られた光ファイバ素線は、裸線の直径が125μmであり、被覆外径のプライマリ径(一次被覆層外径)が190μm、セカンダリ径(二次被覆層外径)が240μmであった。
【0076】
以上のようにして製造されて巻き取られた実施例2の光ファイバ素線について、プーリなどの部材に物理的に接しない距離(フリー長)を10m確保しながら、巻き返し装置により巻き返して、光ファイバ素線に加えられているねじれを解放させ、サンプルを作製した。
作製されたサンプルについて、実施例1と同様の条件で光ファイバ素線に意図的に側圧を加えた。すなわち、外部的要因によりPMDが生じやすい条件下で、ファイバ温度の安定化のため1時間以上放置してから、実施例1と同じ方法でPMD測定を実施した。その結果、側圧付加時のPMD値(PMD1)として、0.08ps/√kmと、極めて小さい値が得られた。
一方、上記サンプルに用いた素線と同一の素線をフリーコイル状態(側圧除去状態)にして、上記と同様の条件で再度PMDを測定したところ、フリーコイル状態のPMD値(PMD2)は、0.01ps/√kmであった。ここで、PMD1とPMD2との差分は、0.07ps/√kmときわめて小さい値に抑えることができた。実際に被覆を除去して残留ねじれ量を測定したところ,残留弾性ねじれの反転周期Tが5m、累積ねじれ角の最大振幅MAが750°であった。したがって、2層被覆構造の光ファイバ素線を製造する場合に、2箇所で被覆、硬化を行なっても(一層ずつ被覆、硬化する構成を設けても)、側圧付加、すなわち外部的要因によるPMD増加が著しく少ない光ファイバ素線が得られることが確認された。
【0077】
〔実施例3〕
実施例2と同様にして、弾性ねじれ(ツイスト)を付加しながら、2層被覆構造の光ファイバ素線を製造した。また、被覆樹脂の被覆時(液体状態)の粘度について、実施例2と同じくプライマリ材料の粘度は3Pa・sec、セカンダリ材料の粘度は0.1Pa・secに調整した。ねじれ付与装置により光ファイバ素線に付与するねじれの光ファイバ素線の長手方向におけるプロファイルは、ねじれ方向を周期的に反転させる台形波であり、周期Tが30m、累積ねじれ角の最大ねじれ角MAが120000°となるようにねじれ付与装置の揺動角度、揺動速度を設定した。ねじれ付与装置を通過後の光ファイバ素線は、引取機によって引き取られ、さらにダンサープーリを経て巻取機により巻き取られ、光ファイバ裸線部に弾性ねじれ(ツイスト)が付与されている光ファイバ素線を得た。得られた光ファイバ素線は、裸線の直径125μm、被覆外径のプライマリ径は180μm、セカンダリ径は260μmであった。
【0078】
以上のようにして製造されて巻き取られた実施例3の光ファイバ素線について、プーリなどの部材に物理的に接しない距離(フリー長)を40m確保しながら、巻き返し装置により巻き返して、光ファイバ素線に加えられているねじれを解放させ、サンプルを作製した。
作製されたサンプルについて、実施例1と同様の条件で光ファイバ素線に意図的に側圧を加えた。すなわち、外部的要因によりPMDが生じやすい条件下で、ファイバ温度の安定化のため1時間以上放置してから、実施例1と同じ方法でPMD測定を実施した。その結果、側圧付加時のPMD値(PMD1)として、0.06ps/√kmと、極めて小さい値が得られた。
一方、上記サンプルに用いた素線と同一の素線をフリーコイル状態(側圧除去状態)にして、上記と同様の条件で再度PMDを測定したところ、フリーコイル状態のPMD値(PMD2)は、0.03ps/√kmであった。ここで、PMD1とPMD2との差分は、0.03ps/√kmときわめて小さい値に抑えることができた。実際に被覆を除去して残留ねじれ量を測定したところ、残留弾性ねじれの反転周期Tが30m、累積ねじれ角の最大振幅MAが24000°であった。したがって、この実施例3により得られた光ファイバ素線も、側圧付加、すなわち外部的要因によるPMD増加を著しく小さく抑え得ることが確認された。
【0079】
〔比較例3〕
実施例3と同様にして、弾性ねじれ(ツイスト)を付加しながら、2層被覆構造の光ファイバ素線を製造した。被覆樹脂の被覆時の粘度について、プライマリ材料の粘度は3.5Pa・sec、セカンダリ材料の粘度は0.5Pa・secに調整した。ねじれ付与装置により光ファイバ素線に付与するねじれの光ファイバ素線の長手方向におけるプロファイルは、ねじれ方向を周期的に反転させる三角波であり、周期Tが5m、累積ねじれ角の最大振幅MAが2500°となるように、ねじれ付与装置の揺動角度、揺動速度を設定した。ねじれ付与装置を通過後の光ファイバ素線は、引取機によって引き取られ、さらにダンサープーリを経て巻取機により巻き取られ、光ファイバ裸線部に弾性ねじれ(ツイスト)が付与されている光ファイバ素線を得た。得られた光ファイバ素線は、裸線の直径が125μmであり、被覆層の一次被覆層外径(プライマリ径)が180μm、二次被覆層外径(セカンダリ径)が260μmであった。
【0080】
以上のようにして製造されて巻き取られた比較例3の光ファイバ素線について、プーリなどの部材に物理的に接しない距離(フリー長)を10m確保しながら、巻き返し装置により巻き返して、光ファイバ素線に加えられているねじれを解放させ、サンプルを作製した。
作製されたサンプルについて、実施例1と同様の条件で光ファイバ素線に意図的に側圧を加えた。すなわち、外部的要因によりPMDが生じやすい条件下で、ファイバ温度の安定化のため1時間以上放置してから、実施例1と同じ方法でPMD測定を実施した。その結果、側圧付加時のPMD値(PMD1)は、0.25ps/√kmと、弾性ねじれ(ツイスト)を付加しない場合よりは小さいが、実施例3の場合よりも大きい値となった。なお、上記サンプルに用いた素線と同一の素線をフリーコイル状態(側圧除去状態)にして、上記と同様の条件で再度PMDを測定したところ、フリーコイル状態のPMD値(PMD2)は、0.025ps/√kmであった。ここで、PMD1とPMD2との差分は、約0.22ps/√kmと、比較例1及び比較例2の場合よりは少ないが、実施例3の場合よりは大きい値となった。実際に被覆を除去して残留ねじれ量を測定したところ、残留弾性ねじれの反転周期Tが5m、累積ねじれ角の最大振幅MAが100°であった。これは、一次被覆層の樹脂(プライマリ材料)の被覆時の粘度が高かったため、ねじりの伝搬およびねじれ方向の反転が阻害され、UV照射によるプライマリ材料の硬化前にねじれが相殺され、結果的に被覆後の光ファイバ素線に残留するねじれが少なくなったと解される。
【0081】
〔比較例4〕
実施例3と同様にして、弾性ねじれ(ツイスト)を付加しながら、2層被覆構造の光ファイバ素線を製造した。被覆時における液体状態の樹脂の粘度について、プライマリ材料の粘度は2.0Pa・sec、セカンダリ材料の粘度は0.05Pa・secに調整した。ねじれ付与装置により光ファイバ素線に付与するねじれの光ファイバの長手方向におけるプロファイルは、ねじれ方向を周期的に反転させる三角波であり、周期Tが5m、累積ねじれ角の最大振幅MAが2500°となるように、ねじれ付与装置の揺動角度、揺動速度を設定した。ねじれ付与装置を通過後の光ファイバ素線は、引取機によって引き取られ、さらにダンサープーリを経て巻取機により巻き取られ、光ファイバ裸線部に弾性ねじれ(ツイスト)が付与されている光ファイバ素線を得た。得られた光ファイバ素線は、裸線の直径が125μmであり、被覆層の一次被覆層外径(プライマリ径)が180μm、二次被覆層外径(セカンダリ径)が260μmであったが、二次被覆層の外径(セカンダリ径)の変動が±5μmと著しく大きくなってしまった。
これは、二次被覆層の樹脂(セカンダリ材料)の液体状態での粘度が低いため、コーティングが安定しなかったことが原因である。このような光ファイバ素線は、実用には不適当であるため、PMDの評価は実施しなかった。
【0082】
〔比較例5〕
実施例1と同様にして、弾性ねじれ(ツイスト)を付加しながら、2層被覆構造の光ファイバ素線を製造した。但し、付与するねじれのプロファイルは実施例1とは異ならせた。すなわち、ねじれ付与装置により光ファイバ素線に付与するねじれの光ファイバの長手方向におけるプロファイルは、ねじれ方向を周期的に反転させる正弦波であり、周期Tが3m、累積ねじれ角の最大振幅MAが1500°となるように、ねじれ付与装置の揺動角度、揺動速度を設定した。ねじれ付与装置を通過後の光ファイバ素線は、引取機によって引き取り、さらにダンサープーリを経て巻取機により巻き取られ、光ファイバ裸線部に弾性ねじれ(ツイスト)が付与されている光ファイバ素線を得た。得られた光ファイバ素線は、裸線の直径が125μmであり、被覆層の一次被覆層外径(プライマリ径)は200μm、二次被覆層外径(セカンダリ径)は250μmであった。
【0083】
以上のようにして製造されて巻き取られた比較例5の光ファイバ素線について、プーリなどの部材に物理的に接しない距離(フリー長)を10m確保しながら、巻き返し装置により巻き返して、光ファイバ素線に加えられているねじれを解放させ、サンプルを作製した。
作製されたサンプルについて、実施例1と同様の条件で光ファイバに意図的に側圧を加えた。すなわち、外部的要因によりPMDが生じやすい条件下で、ファイバ温度の安定化のため1時間以上放置してから、実施例1と同じ方法でPMD測定を実施した。その結果、側圧付加時のPMD値(PMD1)は、0.4ps/√kmと、比較例1、比較例2の場合よりは小さいが、比較的大きな値となった。なお、上記サンプルに用いた素線と同一の素線をフリーコイル状態(側圧除去状態)にして、上記と同様の条件で再度PMDを測定したところ、フリーコイル状態のPMD値(PMD2)は、0.02ps/√kmであった。実際に被覆を除去して残留ねじれ量を測定したところ、残留弾性ねじれの反転周期Tが3m、累積ねじれ角の最大振幅MAが200°であった。ここで、側圧付加時のPMD値(PMD1)が比較的大きい値となったのは、光ファイバ素線に付与するツイストの周期が比較的短く、そのため付与したツイストが一部解放されて、残留するねじれが少なくなってしまったためと考えられる。但し、この場合でも、ツイストを全く付加しない場合よりも、側圧付加時のPMD値(PMD1)の増加分が少ないことは明らかである。
【0084】
〔比較例6〕
実施例1と同様にして、弾性ねじれ(ツイスト)を付加しながら、2層被覆構造の光ファイバ素線を製造した。但し、ねじれのプロファイルは実施例1とは異ならせた。すなわち、ねじれ付与装置により光ファイバ素線に付与するねじれの光ファイバの長手方向におけるプロファイルは、ねじれ方向を周期的に反転させる正弦波であり、周期Tを15m、累積ねじれ角の最大振幅MAが65000°となるようにねじれ付与装置の揺動角度、揺動速度を設定した。ねじれ付与装置を通過後の光ファイバ素線は、引取機によって引き取られ、さらにダンサープーリを経て巻取機により巻き取られ、光ファイバ裸線部に弾性ねじれ(ツイスト)が付与されている光ファイバ素線を得た。得られた光ファイバ素線は、裸線の直径が125μm、被覆層の一次被覆層外径(プライマリ径)は200μm、二次被覆層外径(セカンダリ径)は250μmであった。
【0085】
以上のようにして製造されて巻き取られた比較例6の光ファイバ素線について、プーリなどの部材に物理的に接しない距離(フリー長)を30m確保しながら、巻き返し装置により巻き返して、光ファイバ素線に加えられているねじれを解放させ、サンプルを作製した。
作製されたサンプルについて、実施例1と同様の条件で光ファイバに意図的に側圧を加えた。すなわち、外部的要因によりPMDが生じやすい条件下で、ファイバ温度の安定化のため1時間以上放置してから、実施例1と同じ方法でPMD測定を実施した。その結果、側圧付加時のPMD値(PMD1)は、0.04ps/√kmと低い値となった。なお、上記サンプルに用いた素線と同一の素線をフリーコイル状態(側圧除去状態)にして、上記と同様の条件で再度PMDを測定したところ、フリーコイル状態のPMD値(PMD2)は、0.02ps/√kmであった。実際に被覆を除去して残留ねじれ量を測定したところ、残留弾性ねじれの反転周期Tが15m、累積ねじれ角の最大振幅MAが15000°であった。このように、比較例6でも側圧付加時のPMDの低減に有効であった。しかしながら、光ファイバ素線を恒温槽に入れて−40℃〜+80℃のヒートサイクル試験を行なった後、被覆層を観察したところ、被覆層に割れが発生していることが認められた。これは、光ファイバに付与するねじれ量が大きすぎたため、被覆層に加わる応力が過大となり、割れの発生を招いてしまったためと解される。