(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係るトルクセンサ100について説明する。
【0013】
まず、
図1を参照して、トルクセンサ100が適用される電動パワーステアリング装置1について説明する。
【0014】
電動パワーステアリング装置1は、ステアリングシャフト10と出力シャフト12とがステアリングホイールに連係して回転し、出力シャフト12の下端に設けられたピニオンと噛合するラック軸を軸方向に移動させることで車輪を操舵するものである。
【0015】
また、電動パワーステアリング装置1は、操舵トルクを補助的に付与するアシスト機構として、出力シャフト12に連結されたウォームホイールと、ウォームホイールと噛合するウォームと、ウォームを回転駆動する電動モータと、を備える。電動パワーステアリング装置1は、電動モータによって出力シャフト12に操舵補助トルクを付与する。
【0016】
ステアリングシャフト10は、第1シャフトとしての入力シャフト11と、入力シャフト11に連結されたトーションバー21と、から構成されている。入力シャフト11は、転がり軸受37を介してハウジング30に回転自在に支持される。第2シャフトとしての出力シャフト12は、転がり軸受38を介してハウジング41に回転自在に支持される。入力シャフト11の下端側と出力シャフト12の上端側との間には、滑り軸受39が介装される。入力シャフト11と出力シャフト12は、同一軸上で回転自在にハウジング30,41に支持される。
【0017】
入力シャフト11は円筒状に形成されており、入力シャフト11の内部にはトーションバー21が同軸に収められる。トーションバー21の上端部は、ピン28を介して入力シャフト11の上端部に連結される。トーションバー21の下端部は、入力シャフト11の下端開口部より突出しており、セレーション29を介して出力シャフト12に連結される。トーションバー21は、ステアリングホイールを介して入力シャフト11に入力される操舵トルクを出力シャフト12に伝達し、その操舵トルクに応じて回転軸Oを中心にねじれ変形する。
【0018】
電動パワーステアリング装置1には、入力シャフト11と出力シャフト12とを連結するトーションバー21に作用する操舵トルクを検出する非接触式のトルクセンサ100が設けられる。以下では、トルクセンサ100について説明する。
【0019】
図1及び
図2に示すように、トルクセンサ100は、入力シャフト11に固定され入力シャフト11と共に回転する磁気発生部22と、出力シャフト12に固定され出力シャフト12と共に回転する回転磁気回路部25と、ハウジング30に固定された固定磁気回路部31と、トーションバー21のねじれ変形に伴って磁気発生部22から回転磁気回路部25を通じて固定磁気回路部31に導かれる磁束密度を検出する磁気検出器としての第1磁気センサ48及び第2磁気センサ49と、を備える。トルクセンサ100は、トーションバー21に作用する操舵トルクを第1磁気センサ48及び第2磁気センサ49の出力に基づいて検出する。
【0020】
上記構成に代え、磁気発生部22を出力シャフト12と共に回転するように出力シャフト12に固定し、回転磁気回路部25を入力シャフト11と共に回転するように入力シャフト11に固定するようにしてもよい。
【0021】
図1及び
図3に示すように、磁気発生部22は、入力シャフト11に圧入される環状のバックヨーク24と、バックヨーク24の下端面に結合される環状のリング磁石23と、を備える。
【0022】
リング磁石23は、入力シャフト11の回転軸O方向に磁気を発生する環状の永久磁石である。リング磁石23は、回転軸O方向へ向けて硬磁性体を着磁することによって形成される多極磁石であり、周方向に等しい幅で形成される12個の磁極を有する。つまり、リング磁石23の上端面及び下端面には、6個のN極と6個のS極が周方向に交互に配設される。リング磁石23の端面に形成される磁極数は、2個以上の範囲で任意に設定される。
【0023】
バックヨーク24は、その下端面にリング磁石23の上端面である上部磁極面が接着剤を介して固定される。また、バックヨーク24は軟磁性体によって形成されるため、リング磁石23が及ぼす磁界によって磁化され、リング磁石23に吸着する。このように、リング磁石23とバックヨーク24は、接着剤の接着力と磁力とによって結合される。バックヨーク24は、リング磁石23を入力シャフト11に連結する連結部材としての機能と、リング磁石23の隣り合う磁極を結んで磁束を導く継鉄としての機能とを有し、リング磁石23の下端面である下部磁極面に磁力を集中させる。
【0024】
図1,
図2,及び
図4に示すように、回転磁気回路部25は、磁気発生部22のリング磁石23から発生する磁束が導かれる第1軟磁性リング26及び第2軟磁性リング27と、出力シャフト12に取り付けられる取付部材70と、取付部材70に第1軟磁性リング26及び第2軟磁性リング27を固定するモールド樹脂71と、を備える。
【0025】
第1軟磁性リング26は、環状の第1磁路環部26Cと、第1磁路環部26Cから下向きに突出する6個の第1磁路柱部26Bと、各第1磁路柱部26Bの下端からそれぞれ内向きに屈折してリング磁石23の下端面に対峙する第1磁路先端部26Aと、からなる。第2軟磁性リング27は、環状の第2磁路環部27Cと、第2磁路環部27Cから上向きに突出する6個の第2磁路柱部27Bと、各第2磁路柱部27Bの上端からそれぞれ内向きに屈折してリング磁石23の下端面に対峙する第2磁路先端部27Aと、からなる。
【0026】
第1軟磁性リング26及び第2軟磁性リング27は、それぞれプレス加工によって形成される。第1軟磁性リング26及び第2軟磁性リング27は、プレス加工に限らず、鋳造、焼結等によって形成してもよい。
【0027】
第1磁路先端部26A及び第2磁路先端部27Aは平板状に形成される。第1磁路先端部26Aと第2磁路先端部27Aは、トーションバー21の回転軸Oと直交する同一平面上に、回転軸Oを中心として周方向に交互に等間隔を空けて配置される。
【0028】
また、第1磁路先端部26Aと第2磁路先端部27Aは、トーションバー21にトルクが作用していない中立状態で、トーションバー21の径方向に延びるそれぞれの中心線がリング磁石23のN極とS極の境界を指すように配置される。
【0029】
第1磁路柱部26Bと第2磁路柱部27Bは、それぞれ平板状に形成され、回転軸O方向に延設される。第1磁路柱部26Bは、所定の間隙を空けてリング磁石23の外周面を囲むように配置される。第1磁路柱部26Bは、リング磁石23の磁束を短絡しないように設けられる。また、第2磁路柱部27Bは、回転軸Oに沿って第1磁路柱部26Bと反対方向に延設される。
【0030】
第1磁路環部26C及び第2磁路環部27Cは、回転軸Oと直交する平面上に配置され、全周がつながった環状に形成される。第1磁路環部26C及び第2磁路環部27Cは、この形状に限られず、部分的にスリットが形成されたC字形状であってもよい。
【0031】
第1磁路環部26Cはリング磁石23の下端面より上方に配置され、第2磁路環部27Cはリング磁石23より下方に配置される。つまり、リング磁石23は、回転軸O方向について第1磁路環部26Cと第2磁路環部27Cの間に配置される。
【0032】
図1及び
図2に示すように、固定磁気回路部31は、第1軟磁性リング26の第1磁路環部26Cの外周に沿って設けられた第1集磁リング32と、第2軟磁性リング27の第2磁路環部27Cの外周に沿って設けられた第2集磁リング33と、第1集磁リング32に接続された第1集磁ヨーク34と、第2集磁リング33に接続された第2集磁ヨーク35と、を備える。
【0033】
第1集磁リング32及び第2集磁リング33は、部分的にスリットが形成されたC字形状であり、ハウジング30の内周面にかしめ固定される。第1集磁リング32の内周面は第1軟磁性リング26の第1磁路環部26Cに対峙し、第2集磁リング33の内周面は第2軟磁性リング27の第2磁路環部27Cに対峙する。
【0034】
このように、第1集磁リング32及び第2集磁リング33は、回転磁気回路部25の外周に配置され、回転磁気回路部25の回転振れや偏心の影響を緩和して第1磁気センサ48及び第2磁気センサ49側へ磁束を導く機能を有する。
【0035】
第1集磁ヨーク34は第1集磁リング32の外周面に当接する円弧状の内周面34aを有するブロック状に形成され、第2集磁ヨーク35は第2集磁リング33の外周面に当接する円弧状の内周面35aを有するブロック形状に形成される。
【0036】
第1集磁ヨーク34には一対の集磁凸部34bが回転軸O方向に延設され、第2集磁ヨーク35にも一対の集磁凸部35bが回転軸O方向に延設される。第1集磁ヨーク34の一対の集磁凸部34bと第2集磁ヨーク35の一対の集磁凸部35bは、所定の隙間である磁気ギャップをもって互いに対向する。つまり、第1集磁ヨーク34と第2集磁ヨーク35との間には、周方向に並ぶ一対の磁気ギャップが形成される。一対の磁気ギャップ内には、それぞれ第1磁気センサ48及び第2磁気センサ49が設置される。
【0037】
第1集磁ヨーク34及び第2集磁ヨーク35は、回転磁気回路部25からの磁束を第1集磁リング32及び第2集磁リング33を介して第1磁気センサ48及び第2磁気センサ49へ集める機能を有する。
【0038】
第1集磁ヨーク34、第2集磁ヨーク35、第1磁気センサ48、第2磁気センサ49、及び基板47は、モールド樹脂を介してセンサホルダ40に固定される。樹脂製のセンサホルダ40は、円筒部40aがハウジング30の開口部30aに嵌挿されると共に、ボルトを介して金属製のハウジング30に取り付けられる。
【0039】
磁気を検出するための第1磁気センサ48及び第2磁気センサ49にはホール素子が用いられる。ホール素子は、これを通過する磁束密度に応じた電圧を信号として出力するものである。第1磁気センサ48及び第2磁気センサ49は、磁気ギャップの磁場の大きさ及び方向に応じた電圧を、基板47及び端子44を通じて出力する。端子44は、センサホルダ40に接続される配線を介して電動パワーステアリング装置1の駆動を制御するコントローラに接続される。
【0040】
図5及び
図6はそれぞれ第1磁気センサ48及び第2磁気センサ49の出力特性図であり、トーションバー21に作用する操舵トルクと第1及び第2磁気センサ48,49の出力電圧との関係を示す。
【0041】
図5に示すように、第1磁気センサ48の出力電圧は、ステアリングホイールが操舵されておらずトーションバー21に作用する操舵トルクが零の場合には、出力範囲の中間値である2.5Vである。また、ステアリングホイールが中立位置から右切り方向に操舵される場合には、操舵トルクの増大に応じて2.5Vから0Vに減少する一方、ステアリングホイールが中立位置から左切り方向に操舵される場合には、操舵トルクの増大に応じて2.5Vから5Vまで増大する。
【0042】
図6に示すように、第2磁気センサ49の出力電圧は、ステアリングホイールが操舵されておらずトーションバー21に作用する操舵トルクが零の場合には、第1磁気センサ48と同様に出力範囲の中間値である2.5Vである。また、ステアリングホイールが中立位置から右切り方向に操舵される場合には操舵トルクの増大に応じて2.5Vから5.0Vまで増大する一方、ステアリングホイールが中立位置から左切り方向に操舵される場合には操舵トルクの増大に応じて2.5Vから0Vまで減少する。
【0043】
このように、第1磁気センサ48と第2磁気センサ49は、互いに逆特性となる出力特性を有し、トーションバー21に作用する操舵トルクに対して互いに逆特性となる電圧値を出力する。このように、トルクセンサ100に2つの磁気センサが設けられるのは、両者の出力電圧を比較することによってトルクセンサ100の故障を診断するためである。
【0044】
次に、トルクセンサ100によるトーションバー21に作用する操舵トルクの検出方法について説明する。
【0045】
トーションバー21にトルクが作用しない中立状態では、第1軟磁性リング26の第1磁路先端部26Aと第2軟磁性リング27の第2磁路先端部27Aとは、それぞれリング磁石23のN極及びS極に同一の面積で対峙して両者を磁気短絡する。そのため、磁束は回転磁気回路部25と固定磁気回路部31に導かれない。
【0046】
運転者によるステアリングホイールの操作によってトーションバー21に特定の方向のトルクが作用した場合には、このトルクの方向に応じてトーションバー21はねじれ変形する。トーションバー21がねじれ変形すると、第1磁路先端部26AがS極よりN極に大きな面積を持って対峙する一方、第2磁路先端部27AがN極よりS極に大きな面積を持って対峙する。リング磁石23からの磁束は回転磁気回路部25を通じて固定磁気回路部31に導かれる。具体的には、N極から第1軟磁性リング26、第1集磁リング32、第1集磁ヨーク34、第2集磁ヨーク35、第2集磁リング33、第2軟磁性リング27を経由してS極に向かう経路である。第1集磁ヨーク34と第2集磁ヨーク35の間の磁気ギャップに設置された第1磁気センサ48及び第2磁気センサ49は、磁束の大きさ及び方向に応じた電圧値を出力する。
【0047】
一方、運転者によるステアリングホイールの操作によってトーションバー21に上記とは逆方向のトルクが作用した場合には、このトルクの方向に応じてトーションバー21が逆方向にねじれ変形する。トーションバー21がねじれ変形すると、第1磁路先端部26AがN極よりS極に大きな面積を持って対峙する一方、第2磁路先端部27AがS極よりN極に大きな面積を持って対峙する。リング磁石23からの磁束は、回転磁気回路部25を通じて固定磁気回路部31に導かれるが、上記とは逆の経路となる。具体的には、N極から第2軟磁性リング27、第2集磁リング33、第2集磁ヨーク35、第1集磁ヨーク34、第1集磁リング32、第1軟磁性リング26を経由してS極に向かう経路である。第1集磁ヨーク34と第2集磁ヨーク35の間の磁気ギャップに設置された第1磁気センサ48及び第2磁気センサ49は、磁束の大きさ及び方向に応じた電圧値を出力する。
【0048】
第1磁路先端部26Aがリング磁石23のN極とS極に対峙する面積差、及び第2磁路先端部27Aがリング磁石23のN極とS極に対峙する面積差が大きいほど磁気ギャップに誘導される磁束が大きくなり、第1磁気センサ48及び第2磁気センサ49の出力電圧も増大する。したがって、リング磁石23の磁極数を増やすことにより、第1磁気センサ48及び第2磁気センサ49に導かれる磁束密度を高めることができる。
【0049】
ここで、
図7,
図8,及び
図14を参照して、回転磁気回路部25内の漏れ磁束について説明する。
【0050】
図7は、トーションバー21がねじれ変形して、第1軟磁性リング26の第1磁路先端部26AがS極よりN極に大きな面積を持って対峙し、第2軟磁性リング27の第2磁路先端部27AがN極よりS極に大きな面積を持って対峙した場合の磁束の経路を示す図であり、実線矢印が正規の磁束の経路を示し、点線矢印が漏れ磁束の経路を示す。
【0051】
漏れ磁束は、第1軟磁性リング26から第1磁気センサ48及び第2磁気センサ49をバイパスして第2軟磁性リング27へ導かれる。このように、正規の磁束の経路とは別に、回転磁気回路部25内に、第1軟磁性リング26と第2軟磁性リング27を短絡する漏れ磁束の経路(
図14中曲線の矢印で示す経路)が存在する。漏れ磁束の経路は、リング磁石23のN極から第1軟磁性リング26及び第2軟磁性リング27を通じてS極に向かうため、磁極の数の分だけ存在する。本実施形態では、リング磁石23はN極とS極を6対有するため、第1軟磁性リング26と第2軟磁性リング27を短絡する磁束の経路は6つ存在することになる。
【0052】
図8A及び
図8Bは、それぞれ漏れ磁束の影響による第1磁気センサ48及び第2磁気センサ49の検出誤差を示すグラフ図である。
図8A及び
図8Bの横軸は入力シャフト11の回転角度であり、縦軸は第1磁気センサ48及び第2磁気センサ49の出力電圧である。
【0053】
図8A及び
図8Bは、トーションバー21に作用する操舵トルクが一定となるように入力シャフト11を1回転させた場合の第1磁気センサ48及び第2磁気センサ49の出力電圧を示すものである。トーションバー21に作用する操舵トルクが一定であるため、本来なら第1磁気センサ48及び第2磁気センサ49の出力電圧は一定でなければならない。しかし、第1磁気センサ48及び第2磁気センサ49の出力電圧は、
図8A及び
図8Bに示すように、60度周期で変化している。これは、第1軟磁性リング26と第2軟磁性リング27を短絡する漏れ磁束の経路が上述のように6つ存在し、その6つの漏れ磁束が入力シャフト11の回転に伴って濃淡となって検出されたためである。このように、第1磁気センサ48及び第2磁気センサ49は、入力シャフト11の回転角度に依存する漏れ磁束の変化、つまりトーションバー21のねじれ変形とは関係のない漏れ磁束の変化も検出してしまう。
【0054】
第1磁気センサ48及び第2磁気センサ49がトーションバー21のねじれ変形とは関係のない漏れ磁束の変化(誤差成分)を捉えると、第1磁気センサ48及び第2磁気センサ49はトーションバー21のねじれ変形に伴う真の磁束密度にトーションバー21のねじれ変形とは関係のない漏れ磁束の変化が重畳された磁束密度を検出することになり、トルクセンサ100に検出誤差が発生する。トルクセンサ100に検出誤差が発生すると、電動モータによって出力シャフト12に付与される操舵補助トルクに誤差が生じてしまう。したがって、電動パワーステアリング装置1により精度の高い制御が求められる場合には、トーションバー21のねじれ変形とは関係のない漏れ磁束の変化によるトルクセンサ100の検出誤差は防止する必要がある。以下では、その対策について説明する。
【0055】
入力シャフト11の回転に伴う漏れ磁束に起因する第1磁気センサ48と第2磁気センサ49の出力電圧の変化周期が1/2周期ずれるように、第1磁気センサ48と第2磁気センサ49はリング磁石23の周方向に所定の間隔を空けて配置される。本実施形態では、リング磁石23には、6個のN極と6個のS極が周方向に交互に着磁されているため、入力シャフト11の回転に伴う漏れ磁束に起因する第1磁気センサ48と第2磁気センサ49の出力電圧の変化周期は、
図8A及び
図8Bに示すように60度(=360度/6)である。そのため、第1磁気センサ48と第2磁気センサ49は、
図9に示すようにリング磁石23の周方向に30度の間隔を空けて配置される。
【0056】
ここで、リング磁石23にn個のN極とn個のS極が周方向に交互に着磁されている場合について考えると、入力シャフト11の回転に伴う漏れ磁束に起因する第1磁気センサ48と第2磁気センサ49の出力電圧の変化周期が1/2周期ずれるようにするためには、第1磁気センサ48と第2磁気センサ49は、リング磁石23の周方向に360/2n度の間隔を空けて配置される。
【0057】
また、
図10に示すように、トルクセンサ100の基板47(
図1参照)には、第2磁気センサ49の出力電圧を反転させる反転増幅部50と、反転増幅部50の出力電圧と第1磁気センサ48の出力電圧との平均出力電圧(平均値)を演算する平均化部51と、を有する演算回路52が設けられる。演算回路52にて演算された平均出力電圧は電動パワーステアリング装置1のコントローラへ出力される。このように、トルクセンサ100は、演算回路52にて演算された第1磁気センサ48と第2磁気センサ49の平均出力電圧に基づいてトーションバー21に作用する操舵トルクを検出する。
【0058】
図11を参照して、演算回路52による平均化処理について説明する。
図11の横軸は入力シャフト11の回転角度であり、縦軸は出力電圧である。
図11中実線は第1磁気センサ48の出力電圧、点線は第2磁気センサ49の出力電圧を反転させた出力電圧、一点鎖線は平均出力電圧である。
【0059】
図11は、トーションバー21に作用する操舵トルクが入力シャフト11の回転角度に関係なく一定であり、トーションバー21のねじれ変形に伴う真の出力電圧がαVである場合について示す。
【0060】
第1磁気センサ48は入力シャフト11の回転角度に依存する漏れ磁束の変化(60度周期の変化)を検出するため、第1磁気センサ48の出力電圧はαVを中心に60度周期で変化する。
【0061】
第2磁気センサ49は入力シャフト11の回転角度に依存する漏れ磁束の変化(60度周期の変化)を検出し、かつ第2磁気センサ49の出力電圧は第1磁気センサ48の出力電圧と同じになるように反転増幅部50にて反転されるため、第2磁気センサ49の出力電圧は第1磁気センサ48の出力電圧と同様にαVを中心に60度周期で変化する。
【0062】
一方、第1磁気センサ48と第2磁気センサ49はリング磁石23の周方向に30度の間隔を空けて配置されているため、第1磁気センサ48と第2磁気センサ49の出力電圧の正弦波は1/2周期ずれている。
【0063】
このように、第1磁気センサ48と第2磁気センサ49の出力電圧は、αVを中心に60度周期で変化し、かつ1/2周期ずれている。したがって、平均化部51にて演算された第1磁気センサ48の出力電圧と第2磁気センサ49の出力電圧との平均出力電圧は、
図11に一点鎖線で示すように、トーションバー21のねじれ変形に伴う真の出力電圧であるαVとなる。
【0064】
以上のように、演算回路52による平均化処理によって、入力シャフト11の回転角度に依存する漏れ磁束の変化に起因する第1磁気センサ48及び第2磁気センサ49の検出誤差を除去することができ、トーションバー21に作用する操舵トルクの検出精度が高まる。
【0065】
ここで、平均化部51にて演算された平均出力電圧は、トーションバー21のねじれ変形が極小さい場合には、
図11に示すようにトーションバー21のねじれ変形に伴う真の出力電圧(αV)と一致する。しかし、平均化部51にて演算された平均出力電圧は、トーションバー21のねじれ変形が大きくなると、
図12に示すようにトーションバー21のねじれ変形に伴う真の出力電圧(αV)に対してオフセットする傾向を示す。このオフセット値Tは、トーションバー21のねじれ変形に比例して大きくなる漏れ磁束成分の影響によるものである。そこで、平均化部51にて演算された平均出力電圧を、真の出力電圧(αV)と一致するように、トーションバー21のねじれ変形の大きさに比例して大きくなる予め定められた補正係数に基づいて補正するのが望ましい。
【0066】
具体的には、
図13に示すように、演算回路52における平均化部51の後に増幅率調整部53が設けられる。増幅率調整部53では、平均化部51にて演算された平均出力電圧にトーションバー21のねじれ変形の大きさに比例して大きくなる予め定められた補正係数としてのゲイン値が乗算される。これにより、オフセット値Tが除去され、平均化部51にて演算された平均出力電圧が真の出力電圧(αV)と一致する。演算回路52にてオフセット値Tの除去を行う代わりに、第1磁気センサ48及び第2磁気センサ49にてオフセット値Tの除去を行うようにしてもよい。つまり、第1磁気センサ48及び第2磁気センサ49を、オフセット値Tが除去された電圧値が出力されるように構成してもよい。
【0067】
次に、上記実施形態の変形例について説明する。
【0068】
(1)上記実施形態では、第1磁気センサ48と第2磁気センサ49の出力特性が、
図5及び
図6に示すように互いに逆特性である場合について例示した。これに代わり、第1磁気センサ48と第2磁気センサ49の出力特性は同じ特性であってもよい。この場合には、演算回路52において第2磁気センサ49の出力電圧を反転させる必要がなく、第1磁気センサ48の出力電圧と第2磁気センサ49の出力電圧との平均出力電圧を演算するだけでよい。
【0069】
(2)上記実施形態では、基板47に演算回路52を設け、第1磁気センサ48と第2磁気センサ49の出力電圧をアナログ的に平均化処理する場合について説明した。しかし、これに代わり、第1磁気センサ48と第2磁気センサ49の出力電圧を電動パワーステアリング装置1のコントローラに出力し、そのコントローラにてデジタル的に平均化処理するようにしてもよい。
【0070】
以上の実施形態によれば、以下に示す効果を奏する。
【0071】
トーションバー21に作用するトルクを、リング磁石の周方向に360/2n度の間隔を空けて配置された第1磁気センサ48と第2磁気センサ49の出力電圧の平均値に基づいて検出することによって、回転磁気回路部25での漏れ磁束に起因する第1磁気センサ48及び第2磁気センサ49の検出誤差を除去することができる。よって、トルクセンサ100の検出誤差を除去することができ、トーションバー21に作用する操舵トルクの検出精度を高めることができる。
【0072】
また、回転磁気回路部25での漏れ磁束に起因する第1磁気センサ48及び第2磁気センサ49の検出誤差が除去されるため、第1磁気センサ48及び第2磁気センサ49をリング磁石23に近づけて配置することが可能となり、トルクセンサ100を小型化することができる。
【0073】
また、回転磁気回路部25での漏れ磁束に起因する第1磁気センサ48及び第2磁気センサ49の検出誤差の除去は、トルクセンサ100の故障診断のために設けられた2つの磁気センサを利用して行われる。よって、漏れ磁束の対策として新たな構造を付加する必要がないため、低コストで漏れ磁束の対策を行うことができる。
【0074】
また、トルクセンサ100は第1磁気センサ48と第2磁気センサ49の平均出力電圧に基づいてトーションバー21に作用する操舵トルクを検出するため、第1磁気センサ48及び第2磁気センサ49の特性のばらつきが抑制され、操舵トルクの検出精度が向上する。
【0075】
本発明は上記の実施の形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。