特許第5948164号(P5948164)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5948164
(24)【登録日】2016年6月10日
(45)【発行日】2016年7月6日
(54)【発明の名称】複層塗膜形成方法
(51)【国際特許分類】
   B05D 1/36 20060101AFI20160623BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20160623BHJP
【FI】
   B05D1/36 B
   B05D7/24 301C
【請求項の数】5
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2012-145342(P2012-145342)
(22)【出願日】2012年6月28日
(65)【公開番号】特開2014-8434(P2014-8434A)
(43)【公開日】2014年1月20日
【審査請求日】2015年3月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】510144591
【氏名又は名称】BASFジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】宮本 貴正
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 久之
(72)【発明者】
【氏名】森 聡一
【審査官】 細井 龍史
(56)【参考文献】
【文献】 特表2011−506620(JP,A)
【文献】 特開2009−262001(JP,A)
【文献】 特開2009−028576(JP,A)
【文献】 特開2010−167382(JP,A)
【文献】 特開2009−261997(JP,A)
【文献】 特表2013−535311(JP,A)
【文献】 特開2004−358462(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/126107(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/010539(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0107619(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0183796(US,A1)
【文献】 国際公開第10/143032(WO,A1)
【文献】 国際公開第98/031756(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 1/00− 7/26
C09D 1/00− 10/00
C09D 101/00−201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被塗物上に、水性第1ベース塗料(A)を塗装して第1ベース塗膜を形成する工程、未硬化の前記第1ベース塗膜上に水性第2ベース塗料(B)を塗装して第2ベース塗膜を形成する工程、未硬化の前記第2ベース塗膜上にクリヤー塗料(C)を塗装してクリヤー塗膜を形成する工程、前記第1ベース塗膜、前記第2ベース塗膜、前記クリヤー塗膜を同時に加熱硬化する工程を含み、前記水性第1ベース塗料(A)が、架橋剤と反応する官能基を有する樹脂である基体樹脂として、重量平均分子量が10,000〜100,000である水溶性又は水分散性アクリル樹脂(A1)、並びに、重量平均分子量が10,000〜100,000であって、ポリウレタン樹脂である水溶性又は水分散性樹脂(A2)を含有{前記(A1)成分+前記(A2)成分}/(前記水性第1ベース塗料(A)の基体樹脂の総固形分)で表される固形分質量比の値が0.8以上である、複層塗膜形成方法。
【請求項2】
{前記(A1)成分/前記(A2)成分}で表される固形分質量比の値が0.1〜1.0である、請求項1に記載の複層塗膜形成方法。
【請求項3】
前記(A1)成分のガラス転移温度が20〜80℃である、請求項1又は2に記載の複層塗膜形成方法。
【請求項4】
前記(A2)成分のガラス転移温度が−50〜0℃である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の複層塗膜形成方法。
【請求項5】
前記水性第2ベース塗料(B)が、架橋剤と反応する官能基を有する樹脂である基体樹脂として、重量平均分子量が10,000〜100,000である水溶性又は水分散性樹脂を含有する、請求項1〜のいずれか1項に記載の複層塗膜形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、種々の分野、特に自動車塗装の分野において利用可能な、新規な複層塗膜形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、自動車車体を被塗装物とする複層塗膜形成方法は、被塗物に電着塗膜を形成して加熱硬化させた後で、中塗り塗膜、ベース塗膜及びクリヤー塗膜からなる複層塗膜を形成することにより行われている。また、現在では、揮発性有機溶剤(VOC)削減のために、中塗り塗料及びベース塗料として、水性塗料が使用されるようになってきている。
【0003】
そして、近年、省エネルギーの観点から、電着塗膜上に水性中塗り塗料を塗装して中塗り塗膜を形成し、未硬化の中塗り塗膜上に水性ベース塗料を塗装してベース塗膜を形成し、未硬化のベース塗膜上にクリヤー塗料を塗装してクリヤー塗膜を形成し、これら3層の塗膜を同時に加熱硬化させる、いわゆる3コート1ベーク(3C1B)方式による複層塗膜形成方法が採用され始めている。
【0004】
この3C1B方式の複層塗膜形成方法では、未硬化の中塗り塗膜上に、いわゆるウェットオンウェット方式で、水性ベース塗料が塗装されるため、中塗り塗膜とベース塗膜との間で混相が起こりやすく、塗膜外観性が低下することが課題になっている。
【0005】
この課題を解決するための手段として、特許文献1には、水性中塗り塗料に、特定の重量平均分子量を有するアクリルエマルション樹脂を含有させることが開示されている。
また、特許文献2には、水性中塗り塗料に、特定のガラス転移温度、酸価、水酸基価を有するアクリルエマルションと、特定の酸価を有するウレタン樹脂エマルションを含有させることが開示されている。
【0006】
さらに、特許文献3には、水性中塗り塗料を使用せず、水性第1ベース塗料、水性第2ベース塗料、クリヤー塗料を使用する3C1B方式の複層塗膜形成方法において、水性第1ベース塗料にアクリルエマルション樹脂を含有させることが開示されている。
【0007】
しかしながら、特許文献1〜3に記載の複層塗膜形成方法では、充分に良好な外観性の塗膜を得ることが出来ず、また、タレやワキが発生しやすいという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4235391号
【特許文献2】特許第4352399号
【特許文献3】特開2004−066034号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明は、塗膜外観性及び塗装作業性(タレ抵抗性、ワキ抵抗性)に優れた複層塗膜を得ることができる、3C1B方式の複層塗膜形成方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題を解決するべく鋭意研究を重ねた結果、水性第1ベース塗料において、特定の重量平均分子量を有する水溶性又は水分散性アクリル樹脂と、特定の重量平均分子量を有し、水溶性又は水分散性ポリエステル樹脂、水溶性又は水分散性ポリウレタン樹脂、水溶性又は水分散性アクリル−ウレタン樹脂から選ばれる1種類以上の水溶性又は水分散性樹脂とを併用することにより、上記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、被塗物上に、水性第1ベース塗料(A)を塗装して第1ベース塗膜を形成する工程、未硬化の前記第1ベース塗膜上に水性第2ベース塗料(B)を塗装して第2ベース塗膜を形成する工程、未硬化の前記第2ベース塗膜上にクリヤー塗料(C)を塗装してクリヤー塗膜を形成する工程、前記第1ベース塗膜、前記第2ベース塗膜、前記クリヤー塗膜を同時に加熱硬化する工程を含み、前記水性第1ベース塗料(A)が、基体樹脂として、重量平均分子量が10,000〜100,000である水溶性又は水分散性アクリル樹脂(A1)、並びに、重量平均分子量が10,000〜100,000であって、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、及びアクリル−ウレタン樹脂から選ばれる1種以上の水溶性又は水分散性樹脂(A2)を含有する、複層塗膜形成方法に関する。
【0012】
また、本発明は、上記の複層塗膜形成方法において、{前記(A1)成分/前記(A2)成分}で表される固形分質量比の値が0.1〜1.0である、複層塗膜形成方法に関する。
【0013】
また、本発明は、上記の複層塗膜形成方法において、前記(A1)成分のガラス転移温度が20〜80℃である、複層塗膜形成方法に関する。
【0014】
また、本発明は、上記の複層塗膜形成方法において、前記(A2)成分のガラス転移温度が−50〜0℃である、複層塗膜形成方法に関する。
【0015】
また、本発明は、上記の複層塗膜形成方法において、{前記(A1)成分+前記(A2)成分}/(前記水性第1ベース塗料(A)の基体樹脂の総固形分)で表される固形分質量比の値が0.8以上である、複層塗膜形成方法に関する。
【0016】
また、本発明は、上記の複層塗膜形成方法において、水性第2ベース塗料(B)が、基体樹脂として、重量平均分子量が10,000〜100,000である水溶性又は水分散性樹脂を含有する、複層塗膜形成方法に関する。
【0017】
また、本発明は、上記の複層塗膜形成方法により得られた塗膜に関する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の複層塗膜形成方法によって、塗膜外観性及び塗装作業性(タレ抵抗性、耐ワキ性)に優れた複層塗膜を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
水性第1ベース塗料(A)は、基体樹脂として、水溶性又は水分散性アクリル樹脂(A1)及び、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル−ウレタン樹脂から選ばれる1種類以上の水溶性又は水分散性樹脂(A2)を含有する。ここで、本明細書における「基体樹脂」とは、架橋剤と反応する官能基を有する樹脂のことである。
【0020】
水溶性又は水分散性アクリル樹脂(A1)は、ラジカル重合性単量体を原料成分とするラジカル重合反応を利用した、公知の方法により得ることができる。
【0021】
ラジカル重合性単量体として、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸sec−ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、アリルアルコール、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル、スチレン、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸4−tert−ブチルシクロヘキシル、(メタ)アクリロニトリルなどが挙げられる。これらのラジカル重合性単量体は、単独で使用することもでき、2種以上組み合わせて使用することもできる。
【0022】
水溶性又は水分散性アクリル樹脂(A1)の重量平均分子量は10,000〜100,000であり、塗装作業性の点から、10,000〜80,000が好ましく、15,000〜40,000がより好ましい。重量平均分子量が10,000未満では、タレが発生する場合があり、100,000を超えると、塗膜外観性が低下する場合がある。この重量平均分子量は、具体的には例えば10,000、15,000、20,000、25,000、30,000、35,000、40,000、45,000、50,000、55,000、60,000、65,000、70,000、75,000、80,000、85,000、90,000、95,000、100,000であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。なお、本明細書に記載された重量平均分子量の値は、ポリスチレンを標準物質としたゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により得られる値である。
【0023】
水溶性又は水分散性アクリル樹脂(A1)のガラス転移温度は、塗装作業性の点から、20〜80℃が好ましく、25〜65℃がより好ましく、30〜50℃が特に好ましい。本明細書に記載されたガラス転移温度の値は、DSC(示差走査型熱量測定)における転移開始温度の値である。ガラス転移温度の値は、具体的には例えば20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80℃であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0024】
水溶性又は水分散性アクリル樹脂(A1)の水酸基価は、特に限定されないが、例えば20〜120mgKOH/gが好ましい。
【0025】
水溶性又は水分散性樹脂(A2)は、水溶性又は水分散性ポリエステル樹脂、水溶性又は水分散性ポリウレタン樹脂、水溶性又は水分散性アクリル−ウレタン樹脂から選ばれる少なくとも1種類の水溶性又は水分散性樹脂であり、水溶性又は水分散性アクリル樹脂(A1)と併用することにより、3C1B方式の複層塗膜形成方法において、塗膜外観性及び塗装作業性(タレ抵抗性、耐ワキ性)に優れた複層塗膜を得ることができる。水溶性又は水分散性樹脂(A2)としては、塗膜外観性の点から、水溶性又は水分散性ポリウレタン樹脂が好ましい。
【0026】
水溶性又は水分散性樹脂(A2)の重量平均分子量は10,000〜100,000であり、塗装作業性の点から、10,000〜60,000が好ましく、10,000〜30,000がより好ましい。重量平均分子量が10,000未満では、タレが発生する場合があり、100,000を超えると、塗膜外観が低下する場合がある。この重量平均分子量は、具体的には例えば10,000、15,000、20,000、25,000、30,000、35,000、40,000、45,000、50,000、55,000、60,000、65,000、70,000、75,000、80,000、85,000、90,000、95,000、100,000であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0027】
水溶性又は水分散性樹脂(A2)のガラス転移温度は、塗装作業性の点から、−50〜0℃が好ましく、−45〜−10℃がより好ましく、−40〜−25℃が特に好ましい。ガラス転移温度の値は、具体的には例えば−50、−45、−40、−35、−30、−25、−20、−15、−10、−5、0℃であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0028】
水溶性又は水分散性樹脂(A2)の水酸基価は、特に限定されないが、例えば20〜120mgKOH/gが好ましい。
【0029】
水溶性又は水分散性樹脂(A2)として使用できる水溶性又は水分散性ポリエステル樹脂は、多塩基酸と多価アルコールを原料成分とするエステル化反応を利用した、公知の方法により得ることができる。
【0030】
水溶性又は水分散性ポリエステル樹脂の原料成分である多塩基酸として、通常は多価カルボン酸が使用されるが、必要に応じて1価の脂肪酸などを併用することができる。多価カルボン酸として、例えば、フタル酸、イソフタル酸、テトラヒドロフタル酸、テトラヒドロイソフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、トリメリット酸、アジピン酸、セバシン酸、コハク酸、アゼライン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、ピロメリット酸、及びこれらの酸無水物が挙げられる。これらの多塩基酸は、単独で使用することもでき、2種以上組み合わせて使用することもできる。
【0031】
水溶性又は水分散性ポリエステル樹脂の原料成分である多価アルコールとして、グリコール及び3価以上の多価アルコールが挙げられる。グリコールとして、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ヘキシレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、メチルプロパンジオール、シクロヘキサンジメタノール、3,3−ジエチル−1,5−ペンタンジオールなどが挙げられる。また、3価以上の多価アルコールとして、例えば、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトールなどが挙げられる。これらの多価アルコールは、単独で使用することもでき、2種以上組み合わせて使用することもできる。
【0032】
水溶性又は水分散性樹脂(A2)として使用できる水溶性又は水分散性ポリウレタン樹脂は、ポリオール、ポリイソシアネート化合物、ジメチロールアルカン酸、多価アルコールなどを原料成分とする公知の方法で得られる。
【0033】
ポリオールとして、例えば、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオールなどが挙げられるが、ポリエステルポリオールが好ましい。
【0034】
ポリエステルポリオールは、水溶性又は水分散性ポリエステル樹脂と同様、多塩基酸と多価アルコールを原料成分とするエステル化反応を利用した、公知の方法により得ることができる。
【0035】
ポリイソシアネート化合物として、例えば、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4−又は2,6−トリレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、p−又はm−フェニレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4′−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、1,4−シクロヘキシレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネートの水素添加物などの脂環式ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、m−テトラメチルキシリレンジイソシアネートなどが挙げられる。これらのポリイソシアネート化合物は、単独で使用することもでき、2種以上組み合わせて使用することもできる。
【0036】
ジメチロールアルカン酸として、例えば、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸、ジメチロールペンタン酸、ジメチロールヘプタン酸、ジメチロールオクタン酸、ジメチロールノナン酸が挙げられる。これらのジメチロールアルカン酸は、単独で使用することもでき、2種以上組み合わせて使用することもできる。
【0037】
多価アルコールとして、種々のグリコール及び3価以上の多価アルコールが挙げられ、例えば、本明細書に水溶性又は水分散性ポリエステル樹脂の原料成分として例示されている多価アルコールが挙げられる。これらの多価アルコールは、単独で使用することもでき、2種以上組み合わせて使用することもできる。
【0038】
水溶性又は水分散性樹脂(A2)として使用できる水溶性又は水分散性アクリル−ウレタン樹脂は、水溶性又は水分散性ポリウレタン樹脂中でアクリル樹脂を合成することにより得られる。ここで、水溶性又は水分散性ポリウレタン樹脂は親水性基を有し、アクリル樹脂は親水性基を有さない。そのため、ポリウレタン樹脂が乳化剤として作用してミセルの外側に位置してシェル部を形成し、アクリル樹脂がミセルの内側に位置してコア部を形成した、コア/シェル構造を形成する。
【0039】
水溶性又は水分散性アクリル−ウレタン樹脂のシェル部となる水溶性又は水分散性ポリウレタン樹脂は、ポリオール、ポリイソシアネート化合物、ジメチロールアルカン酸、多価アルコールなどを原料成分とする公知の方法で得られる。
【0040】
水溶性又は水分散性アクリル−ウレタン樹脂のコア部となるアクリル樹脂は、ラジカル重合性単量体を原料成分とするラジカル重合反応を利用した、公知の方法により得ることができる。
【0041】
水溶性又は水分散性アクリル樹脂(A1)と水溶性又は水分散性樹脂(A2)の含有比は、塗装作業性の点から、{(A1)成分/(A2)成分}で表される固形分質量比の値が0.1〜1.0が好ましく、0.2〜0.8がより好ましく、0.3〜0.5が特に好ましい。この値は、具体的には例えば0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、0.95、1.0であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0042】
水性第1ベース塗料(A)は、基体樹脂として、水溶性又は水分散性アクリル樹脂(A1)、水溶性又は水分散性樹脂(A2)とともに、公知の水溶性又は水分散性樹脂を含有させてもよい。本発明の水性第1ベース塗料(A)において、{(A1)成分+(A2)成分}/(水性第1ベース塗料(A)の基体樹脂の総固形分)で表される固形分質量比の値は、0.8以上が好ましく、0.85以上がより好ましく、0.9以上が特に好ましい。
【0043】
水性第2ベース塗料(B)の基体樹脂は、水溶性又は水分散性樹脂である限り、特に制限はないが、塗膜外観性の点から、基体樹脂の重量平均分子量は10,000〜100,000が好ましく、10,000〜80,000がより好ましく、15,000〜40,000が特に好ましい。この重量平均分子量は、具体的には例えば10,000、15,000、20,000、25,000、30,000、35,000、40,000、45,000、50,000、55,000、60,000、65,000、70,000、75,000、80,000、85,000、90,000、95,000、100,000であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0044】
また、水性第2ベース塗料(B)において、重量平均分子量が10,000〜100,000である水溶性又は水分散性樹脂の固形分質量含有比率は、塗膜外観性の点から、水性第2ベース塗料(B)の基体樹脂の総固形分質量に対して80質量%以上が好ましく、85質量%以上がより好ましく、90質量%以上が特に好ましい。
【0045】
水性第2ベース塗料(B)の基体樹脂となる水溶性又は水分散性樹脂として、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル−ウレタン樹脂から選ばれる1種以上の水溶性又は水分散性樹脂が好ましく、少なくともアクリル樹脂及びポリウレタン樹脂を水溶性又は水分散性樹脂として含有することがより好ましく、少なくともアクリル樹脂、ポリウレタン樹脂及びポリエステル樹脂を水溶性又は水分散性樹脂として含有することが特に好ましい。
【0046】
水性第1ベース塗料(A)及び水性第2ベース塗料(B)の基体樹脂である水溶性又は水分散性樹脂は、樹脂が有する酸基の少なくとも一部が塩基性物質で中和された状態で使用されることが好ましい。これにより、樹脂が水性塗料中で安定な状態で存在することができる。
【0047】
塩基性物質として、例えば、アンモニア、モルホリン、N−アルキルモルホリン、モノイソプロパノールアミン、メチルエタノールアミン、メチルイソプロパノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、2−エチルヘキシルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリイソプロピルアミン、トリブチルアミンなどが挙げられる。これらの塩基性物質は、1種単独で用いてもよいし、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
水性第1ベース塗料(A)及び水性第2ベース塗料(B)は、基体樹脂の官能基と反応する架橋剤を含有することが好ましい。架橋剤として、例えば、アミノ樹脂、ポリイソシアネート化合物、ブロック化ポリイソシアネート化合物などが挙げられる。これらの架橋剤は、1種単独で用いてもよいし、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
アミノ樹脂は、アミノ基を含有する化合物にホルムアルデヒドを付加し縮合させた樹脂の総称であり、具体的には、例えば、メラミン樹脂、尿素樹脂、グアナミン樹脂などが挙げられるが、メラミン樹脂が好ましい。
【0050】
メラミン樹脂として、例えば、メラミンとホルムアルデヒドとを反応させて得られる部分又は完全メチロール化メラミン樹脂、メチロール化メラミン樹脂のメチロール基をアルコール成分で部分的に又は完全にエーテル化して得られる部分又は完全アルキルエーテル型メラミン樹脂、イミノ基含有型メラミン樹脂、及びこれらの混合型メラミン樹脂が挙げられる。ここで、アルキルエーテル型メラミン樹脂としては、例えば、メチル化メラミン樹脂、ブチル化メラミン樹脂、メチル/ブチル混合アルキル型メラミン樹脂などが挙げられる。
【0051】
アミノ樹脂を架橋剤とする場合、{(基体樹脂)/(アミノ樹脂)}で表される固形分質量比は、耐水性、耐チッピング性の点から、1.5〜6.0が好ましく、1.75〜4.0がより好ましい。
【0052】
ポリイソシアネート化合物として、例えば、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4−又は2,6−トリレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、p−又はm−フェニレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4′−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、1,4−シクロヘキシレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネートの水素添加物などの脂環式ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、m−テトラメチルキシリレンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0053】
ブロック化ポリイソシアネート化合物とは、ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基を、ブロック剤で保護したものである。ブロック剤としては、例えば、ブタノールなどのアルコール類、メチルエチルケトオキシムなどのオキシム類、ε−カプロラクタム類などのラクタム類、アセト酢酸ジエステルなどのジケトン類、イミダゾール、2−エチルイミダゾールなどのイミダゾール類、又はm−クレゾールなどのフェノール類などが挙げられる。
【0054】
ポリイソシアネート化合物又はブロック化ポリイソシアネート化合物を架橋剤とする場合、耐水性、耐チッピング性などの点から、基体樹脂の水酸基に対する架橋剤のイソシアネート基の当量比(NCO/OH)は、0.5〜2.0が好ましく、0.8〜1.5がより好ましい。
【0055】
水性第1ベース塗料(A)及び水性第2ベース塗料(B)には、着色顔料、光輝顔料、体質顔料などの各種顔料を含有させることができる。着色顔料として、例えば、黄鉛、黄色酸化鉄、酸化鉄、カーボンブラック、二酸化チタンなどの無機系顔料、アゾキレート系顔料、不溶性アゾ系顔料、縮合アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、インディゴ顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、ジオキサン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料、金属錯体顔料などの有機系顔料が挙げられる。また、光輝顔料として、例えば、アルミニウムフレーク顔料、アルミナフレーク顔料、マイカ顔料、シリカフレーク顔料、ガラスフレーク顔料などが挙げられる。そして、体質顔料として、例えば、炭酸カルシウム、バライト、沈降性硫酸バリウム、クレー、タルクなどが挙げられる。これらの顔料は、1種単独で用いてもよいし、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0056】
水性第1ベース塗料(A)及び水性第2ベース塗料(B)に顔料を含有させる場合、顔料と基体樹脂の総固形分との質量比(顔料/基体樹脂)は、例えば、0.03〜2.0が好ましい。
【0057】
水性第1ベース塗料(A)及び水性第2ベース塗料(B)には、表面調整剤、消泡剤、界面活性剤、造膜助剤、防腐剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤などの各種添加剤、各種レオロジーコントロール剤、各種有機溶剤などの1種以上を含有させることができる。
【0058】
水性第1ベース塗料(A)及び水性第2ベース塗料(B)は、必要に応じて、水、場合によっては少量の有機溶剤やアミンを使用し、適当な粘度に希釈してから塗装に供される。
【0059】
本発明の複層塗膜形成方法のクリヤー塗料は、特に限定されない。クリヤー塗料の基体樹脂としては、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂などが挙げられ、硬化システムとしては、例えば、メラミン硬化、酸/エポキシ硬化、イソシアネート硬化などが挙げられる。これらの中でも、耐候性、耐酸性の点から、アクリル樹脂を基体樹脂とする酸/エポキシ硬化型のクリヤー塗料が好ましい。
【0060】
本発明の複層塗膜形成方法における各塗料の塗装方法としては、自動車産業において通常用いられている方法、例えばエアースプレー塗装、エアー霧化式静電塗装、ベル回転霧化式静電塗装等が適用できる。
【0061】
本発明の複層塗膜形成方法では、まず、被塗物上に第1水性ベース塗料(A)が塗装される。
【0062】
被塗物としては、表面に電着塗膜が形成された金属素材、この電着塗膜上に中塗り塗膜が形成された金属素材、プラスチックなどが挙げられる。
【0063】
水性第1ベース塗料(A)の塗装時の温湿度条件は、特に限定されないが、例えば、10〜40℃、65〜85%(相対湿度)である。また、水性第1ベース塗料(A)を塗装した第1ベース塗膜の乾燥膜厚は、例えば、10〜40μmであり、耐候性及び耐チッピング性の点から、好ましくは15〜40μmである。
【0064】
本発明の複層塗膜形勢方法において、水性第1ベース塗料(A)の塗装後には、予備乾燥を行ってもよい。なお、予備乾燥を行う場合の条件は、30〜100℃、3〜10分が好ましい。
【0065】
本発明の複層塗膜形成方法においては、未硬化の第1ベース塗膜上に水性第2ベース塗料(B)が塗装される。
【0066】
水性第2ベース塗料(B)の塗装時の温湿度条件は、特に限定されないが、例えば、10〜40℃、65〜85%(相対湿度)である。また、水性第2ベース塗料(B)を塗装した第2ベース塗膜の乾燥膜厚は、例えば、5〜15μmである。
【0067】
本発明の複層塗膜形勢方法において、水性第2ベース塗料(B)の塗装後には、予備乾燥を行ってもよい。なお、予備乾燥を行う場合の条件は、30〜100℃、3〜10分が好ましい。
【0068】
本発明の複層塗膜形成方法では、この第2ベース塗膜上にクリヤー塗料(C)が塗装される。
【0069】
クリヤー塗料(C)を塗装したクリヤー塗膜の乾燥膜厚は、特に限定されないが、例えば、20〜100μmが好ましい。
【0070】
本発明の複層塗膜形成方法では、上記の方法で形成した第1ベース塗膜、第2ベース塗膜、クリヤー塗膜を、同時に加熱硬化させる。
【0071】
本発明の複層塗膜形成方法の加熱硬化工程において、加熱硬化温度・時間は、例えば、120〜170℃、10〜60分が好ましい。
【実施例】
【0072】
以下、本発明について、実施例を挙げて更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、特に断らない限り、各例中の部、%、比は、それぞれ質量部、質量%、質量比を表す。
【0073】
<製造例1−1:水分散性アクリル樹脂AC−1の製造>
還流冷却器、温度計、攪拌装置、窒素ガス導入管及び滴下ロートを備えたフラスコに脱イオン水40部を仕込んで窒素雰囲気下で80℃に昇温させた。次に、滴下成分として、メタクリル酸メチル15部、スチレン10部、n−ブチルメタクリレート37部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート18.5部、ブチルアクリレート9.2部、アクリル酸10.3部からなるラジカル重合性単量体混合物、乳化重合調節剤(商品名「チオカルコール20」、花王(株)製、n−ドデシルメルカプタン)4.0部、反応性アニオン乳化剤(商品名「エレミノールRS−30」、三洋化成工業(株)製、メタクリロイロキシポリオキシアルキレン硫酸エステルナトリウム)2.0部、反応性ノニオン乳化剤(商品名「アデカリアソープNE20」、(株)ADEKA製)1.0部、脱イオン水15部からなる乳化剤溶液、及び過硫酸アンモニウム0.32部、脱イオン水15部からなる重合開始剤溶液を、滴下ロートで3時間かけて滴下した。滴下終了後、1時間攪拌を続けた後で40℃まで冷却し、表1に示す特性値を有する水分散性アクリル樹脂AC−1を得た。
【0074】
<製造例1−2〜1−8:水分散性アクリル樹脂AC−2〜AC−8の製造>
表1に示された配合組成に従って、製造例1−1と同様の方法で、表1に示す特性値を有する水分散性アクリル樹脂AC−2〜AC−8を得た。
【0075】
【表1】
【0076】
表1に示される各種配合成分の詳細を以下に示す。
(注1)乳化重合調節剤(商品名「チオカルコール20」、花王(株)製、n−ドデシルメルカプタン)
(注2)反応性アニオン乳化剤(商品名「エレミノールRS−30」、三洋化成工業(株)製、メタクリロイロキシポリオキシアルキレン硫酸エステルナトリウム)
(注3)反応性ノニオン乳化剤(商品名「アデカリアソープNE20」、(株)ADEKA製)
【0077】
<製造例2−1:水分散性ポリウレタン樹脂PU−1の製造>
<製造例2−1(a):ポリエステルポリオールの製造>
反応水の分離管が付属した還流冷却器、温度計、攪拌装置及び窒素ガス導入管を備えたフラスコに、ダイマー酸(商品名「EMPOL1008」、コグニス社製、炭素数36)54.0部、ネオペンチルグリコール8.0部、イソフタル酸17.8部、1,6−ヘキサンジオール19.4部、トリメチロールプロパン0.8部を仕込み、120℃まで昇温して原料を溶解した後、攪拌しながら160℃まで昇温した。160℃で1時間保持した後、230℃まで5時間かけて昇温した。230℃に保持しながら定期的に酸価を測定し、樹脂酸価が4mgKOH/gになったら、80℃以下まで降温した。最後にメチルエチルケトン31.6部を加え、酸価4mg/KOH/g、水酸基価62mgKOH/g、重量平均分子量7,200のポリエステルポリオールを得た。
【0078】
<製造例2−1(b):水分散性ポリウレタン樹脂PU−1の製造>
温度計、攪拌装置及び窒素ガス導入管を備えたフラスコに、製造例2−1(a)で得られたポリエステルポリオール81.5部、ジメチロールプロピオン酸6.1部、ネオペンチルグリコール1.4部、メチルエチルケトン30部を仕込み、攪拌しながら80℃まで昇温した。80℃になった時点で、イソホロンジイソシアネート25.9部加え、80℃を継続し、イソシアネート価が0.51meq/g(表2において「イソシアネート価(1)」とする)になったところで、トリメチロールプロパン5.8部を加え、80℃を保持した。イソシアネート価(表2において「イソシアネート価(2)」とする)が0.01meq/gになったら、ブチルセロソルブ33.3部を加えてから100℃まで昇温し、減圧条件下でメチルエチルケトンを除去した。最後に、50℃まで降温してからジメチルエタノールアミン3.6部加えて酸基を中和し、脱イオン水196.0部を加え、表2に示す特性値を有するポリウレタン樹脂PU−1を得た。
【0079】
<製造例2−2〜2−4:水分散性ポリウレタン樹脂PU−2〜PU−4製造>
表2に示された配合組成と条件に従って、製造例2−1(b)と同様の方法で、表2に示す特性値を有する水分散性ポリウレタン樹脂PU−2〜PU−4を得た。なお、水分散性ポリウレタン樹脂PU−4を製造する際は、製造例2−1(b)で使用したトリメチロールプロパンの代わりに、ネオペンチルグリコールを使用した。
【0080】
【表2】
【0081】
<製造例3:水分散性アクリル−ウレタン樹脂AUの製造>
<製造例3(a):ポリエステルポリオールの製造>
反応水の分離管が付属した還流冷却器、温度計、攪拌装置及び窒素ガス導入管を備えたフラスコに、ダイマー酸(商品名「EMPOL1008」、コグニス社製、炭素数36)54.0部、ネオペンチルグリコール8.0部、イソフタル酸17.8部、1,6−ヘキサンジオール19.4部、トリメチロールプロパン0.8部を仕込み、120℃まで昇温して原料を溶解した後、攪拌しながら160℃まで昇温した。160℃で1時間保持した後、230℃まで5時間かけて昇温した。230℃のまま反応を継続し、樹脂酸価が4mgKOH/gになったら、80℃以下まで冷却した。最後にメチルエチルケトン31.6部を加えた結果、酸価4mg/KOH/g、水酸基価62mgKOH/g、重量平均分子量7,200のポリエステルポリオールを得た。
【0082】
<製造例3(b):ポリウレタン樹脂の製造>
温度計、攪拌装置及び窒素ガス導入管を備えたフラスコに、製造例3(a)で得られたポリエステルポリオール78.3部、ジメチロールプロピオン酸7.8部、ネオペンチルグリコール1.4部、メチルエチルケトン14.8部を仕込み、攪拌しながら80℃まで昇温した。80℃になった時点で、イソホロンジイソシアネート27.6部加え、80℃を継続し、イソシアネート価が0.43meq/gになったところで、トリメチロールプロパン4.8部を加え、80℃を保持した。イソシアネート価が0.01meq/gになったら、ブチルセロソルブ33.3部を加えてから100℃まで昇温し、減圧条件下でメチルエチルケトンを除去した。最後に、50℃まで降温してからジメチルエタノールアミン4.4部加えて酸性基を中和し、脱イオン水124.6部を加え、その結果、樹脂固形分35%、酸価35mg/KOH/g、水酸基価40mgKOH/g、重量平均分子量24,500のポリウレタン樹脂を得た。
【0083】
<製造例3(c):水分散性アクリル−ウレタン樹脂AUの製造>
温度計、攪拌装置及び窒素ガス導入管を備えたフラスコに、製造例3(b)で得られたポリウレタン樹脂71.5部、脱イオン水19.3部を仕込み、攪拌しながら85℃まで昇温した後、滴下成分として、スチレン2.2部、メチルメタクリレート2.1部、n−ブチルアクリレート1.8部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート1.4部、プロピレングリコールモノメチルエーテル1.5部、重合開始剤であるt−ブチルパーオキシ−2−エチル−エチルヘキサノエート0.1部の均一混合液を、3.5時間かけて滴下ロートを用いて等速滴下した。滴下終了後、85℃で1時間保持した後、追加触媒として、重合開始剤であるt−ブチルパーオキシ−2−エチル−エチルヘキサノエート0.03部をプロピレングリコールモノエチルエーテル0.09部に溶解した重合開始剤溶液を添加し、85℃で1時間保持して、水分散性アクリル−ウレタン樹脂AUを得た。水分散性アクリル−ウレタン樹脂AUの特性値は、重量平均分子量80,000、ガラス転移温度−20℃、酸価27mgKOH/g、水酸基価49mgKOH/g、樹脂固形分32.5%だった。
【0084】
<製造例4:水分散性ポリエステル樹脂PEの製造>
反応水の分離管が付属した還流冷却器、温度計、攪拌装置及び窒素ガス導入管を備えたフラスコに、ダイマー酸(商品名「EMPOL1008」、コグニス社製、炭素数36)15.0部、無水フタル酸30.0部、アジピン酸3.1部、1,6−ヘキサンジオール31.5部、トリメチロールプロパン10.3部を仕込み、120℃まで昇温して原料を溶解した後、攪拌しながら160℃まで昇温した。160℃で1時間保持した後、230℃まで5時間かけて昇温した。230℃で2時間保持した後、180℃まで降温した。無水トリメリット酸10部を加え、180℃に保持しながら定期的に酸価を測定し、酸価が25mgKOH/gになったら、80℃以下まで降温した。ブチルセロソルブ25部を加えた後、ジメチルエタノールアミン3.2部を加えて酸基を中和し、脱イオン水34.1部を加え、水分散性ポリエステル樹脂PEを得た。水分散性ポリエステル樹脂PEの特性値は、重量平均分子量15,000、ガラス転移温度−30℃、酸価25mgKOH/g、水酸基価90mgKOH/g、樹脂固形分60%だった。
【0085】
<実施例1>
以下に示す方法に従って、水性第1ベース塗料及び水性第2ベース塗料を製造し、これらの塗料を用いて複層塗膜を形成し、その物性を評価した。
【0086】
<水性第1ベース塗料の製造>
分散樹脂として水性ポリウレタン樹脂PU−1を使用して、カーボンブラック(商品名「MA−100」、三菱化学社製)1部、二酸化チタン(商品名「タイピュアR760」、デュポン社製)99部をモーターミルで分散し、顔料ペーストを作製した。次に、水分散性アクリル樹脂AC−1を39.3部、水分散性ポリウレタン樹脂PU−1をディソルバーで混合し、そこに、前記顔料ペーストを加えて混合した。最後に、メラミン樹脂(商品名「サイメル327」、サイテック・インダストリーズ社製)33.3部を加えて混合し、第1水性ベース塗料を得た。ここで、第1水性ベース塗料中の水性ポリウレタン樹脂PU−1の含有量は175.0部とした。
【0087】
<水性第2ベース塗料の製造>
分散樹脂として水性ポリウレタン樹脂PU−1を使用して、カーボンブラック(商品名「FW−200」、エボニックデグサジャパン社製)5部をモーターミルで分散し、顔料ペーストを作製した。次に、水分散性アクリル樹脂AC−1を39.3部、水分散性ポリウレタン樹脂PU−1をディソルバーで混合し、そこに、前記顔料ペーストを加えて混合した。最後に、メラミン樹脂(商品名「サイメル327」、サイテック・インダストリーズ社製)33.3部を加えて混合し、第2水性ベース塗料を得た。ここで、第2水性ベース塗料中の水性ポリウレタン樹脂PU−1の含有量は175.0部とした。
【0088】
<塗膜性能評価>
リン酸亜鉛処理軟鋼板に、カチオン電着塗料(商品名「カソガードNo.500」、BASFコーティングス社製)を、乾燥膜厚が20μmとなるように電着塗装を行い、175℃で25分間焼き付けて、本評価に使用する電着塗膜板(以下、「電着板」)とした。
【0089】
製造した水性第1ベース塗料と水性第2ベース塗料を脱イオン水で希釈し、粘度を40秒(フォードカップ#4、20℃)とした。また、回転霧化型ベル塗装機(商品名「メタリックベルG1−COPESベル」、ABB社製)を準備し、塗装条件を25℃、75%(相対湿度)に設定し、以下の方法で複層塗膜形成を行った。
【0090】
電着板に、水性第1ベース塗料を、乾燥膜厚が20μmとなるように塗装した。その後、室温で5分間静置し、水性第2ベース塗料を、乾燥膜厚が12μmとなるように塗装した。塗装後、5分間室温で静置し、80℃で3分間の予備加熱を行った。室温となるまで放冷した後、クリヤー塗料(商品名「ベルコートNo.7300」、BASFコーティングスジャパン(株)製)を乾燥膜厚が30μmとなるように塗装した。塗装後、室温で10分間静置し、140℃で30分間焼き付けて、試験片を得た。
【0091】
(1)塗膜外観性
塗膜表面の平滑性を「Wavescan DOI」(商品名、BYKガードナー社製)により測定して得られたSw値より、試験片の塗膜外観を以下の基準で評価した。
◎:Sw値が10未満
〇:Sw値が10以上、かつ15未満
△:Sw値が15以上、かつ20未満
×:Sw値が20以上
【0092】
(2)塗装作業性(耐ワキ性、タレ抵抗性)
15cm×45cmの電着板の短辺方向の端部から3cmの部分に、長辺方向に沿って、直径1cmのパンチ穴を3cm間隔で14個空けたものを試験被塗物とした。この試験被塗物を、地面に対して垂直に、かつ、パンチ穴が地面に対して平行に並ぶように塗装台に設置して、以下の方法で塗装作業性試験片を作製した。
【0093】
試験被塗物に、水性第1ベース塗料を、試験被塗物の長辺方向に沿って、乾燥膜厚が10μmから40μmへと徐々に増加するように傾斜塗りを行った。塗装後、5分間室温で静置し、水性第2ベース塗料を、乾燥膜厚が12μmとなるように塗装した。塗装後、5分間室温で静置し、80℃で3分間の予備加熱を行った。室温となるまで放冷した後、クリヤー塗料(商品名「ベルコートNo.7300」、BASFコーティングスジャパン(株)製)を乾燥膜厚が30μmとなるように塗装した。塗装後、室温で10分間静置し、140℃で30分間焼き付けて、塗装作業性試験片を得た。
【0094】
(2−1)耐ワキ性
塗装作業性試験片を目視観察し、水性第1ベース塗料の乾燥膜厚の増加に対して、ワキが発生し始める直前の乾燥膜厚を膜厚計(商品名「エルコメーター456」、エルコメーター社製)で測定し、以下の基準で評価した。
◎:35μm以上
〇:30μm以上、かつ35μm未満
△:25μm以上、かつ30μm未満
×:25μm未満
【0095】
(2−2)タレ抵抗性
塗装作業性試験片を目視観察し、水性第1ベース塗料の乾燥膜厚の増加に対して、パンチ穴の下端部からタレの終点までの距離が5mmとなるときの乾燥膜厚を膜厚計(商品名「エルコメーター456」、エルコメーター社製)で測定し、以下の基準で評価した。
◎:35μm以上
〇:30μm以上、かつ35μm未満
△:25μm以上、かつ30μm未満
×:25μm未満
【0096】
上記評価の評価評価結果を表3に示す。
【0097】
<実施例2〜15、比較例1〜6>
表3〜表4で示す水性第1ベース塗料、水性第2ベース塗料を使用し、実施例1と同様の方法で、試験片を作製して塗膜性能評価を行った。評価結果を表3〜表4に示す。
【0098】
【表3】
【0099】
【表4】
【0100】
表3及び表4に示される各種配合成分の詳細を以下に示す。
(注1)メラミン樹脂(商品名「サイメル327」、サイテック・インダストリーズ社製、イミノ基含有型メチル化メラミン樹脂、樹脂固形分90%)
(注2)カーボンブラック(商品名「MA−100」、三菱化学(株)製)
(注3)二酸化チタン(商品名「タイピュアR760」、デュポン社製)
【0101】
<考察>
実施例1〜15では、比較例1〜6に比べて、全ての評価項目において優れた結果が得られた。実施例7,9,11を参照すると、(A1)成分の分子量は、9万より小さいことが好ましく、5万よりも小さいことがさらに好ましいことが分かった。また、実施例8〜10を参照すると、(A1)成分のガラス転移温度は、25℃よりも高いことが好ましいことが分かった。さらに、実施例1,13,15を参照すると、(A1)成分/(A2)成分の固形分質量比は、0.92よりも小さいことが好ましく、0.54よりも小さいことがさらに好ましいことが分かった。
比較例1及び3では、(A1)又は(A2)成分の分子量が大きすぎたため、塗膜の外観及び耐ワキ性が良好でなかった。
比較例2及び4では、(A1)又は(A2)成分の分子量が小さすぎたため、塗膜の外観及びタレ抵抗性が良好でなかった。
比較例5は、(A2)成分を含有していなかったため、外観、耐ワキ性、タレ抵抗性の何れも良好ではなかった。
比較例6は、(A1)成分を含有していなかったため、外観、耐ワキ性、タレ抵抗性の何れも良好ではなかった。