特許第5948210号(P5948210)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5948210
(24)【登録日】2016年6月10日
(45)【発行日】2016年7月6日
(54)【発明の名称】車両に搭載される燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/04858 20160101AFI20160623BHJP
   H01M 8/00 20160101ALI20160623BHJP
   B60L 11/18 20060101ALI20160623BHJP
【FI】
   H01M8/04 P
   H01M8/00 Z
   B60L11/18 G
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-228102(P2012-228102)
(22)【出願日】2012年10月15日
(65)【公開番号】特開2014-82056(P2014-82056A)
(43)【公開日】2014年5月8日
【審査請求日】2015年8月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100147500
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 雅啓
(74)【代理人】
【識別番号】100166235
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100179914
【弁理士】
【氏名又は名称】光永 和宏
(72)【発明者】
【氏名】松浦 章雄
【審査官】 大内 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−149920(JP,A)
【文献】 特開2001−095107(JP,A)
【文献】 特開2011−223870(JP,A)
【文献】 特開2008−017594(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00,8/04−8/0668
B60L 11/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載される燃料電池システムであって、
車両負荷に電気的に接続される燃料電池スタックと、
前記車両負荷と並列に前記燃料電池スタックに電気的に接続されるキャパシタと、
前記キャパシタの開回路電圧に基づいて、前記燃料電池スタックの発電電力を、所定の最低電力、所定の中間電力および所定の最大電力の3段階に切り替える制御手段と
を備え、
前記制御手段は、前記燃料電池スタックが前記所定の中間電力で発電している際に、前記キャパシタの開回路電圧が所定の閾値を下回ると、前記燃料電池スタックの発電電力を前記所定の中間電力から前記所定の最大電力に切り替え、
前記所定の閾値は、前記所定の最大電力、前記所定の中間電力、前記キャパシタの容量、前記キャパシタの許容最低電圧および前記発電電力が前記所定の中間電力から前記所定の最大電力まで上昇する際の電力上昇率に基づいて定められることを特徴とする、車両に搭載される燃料電池システム。
【請求項2】
前記所定の閾値は、該所定の閾値をVTH1、前記所定の最大電力をP、前記所定の中間電力をP、前記キャパシタの容量をC、前記キャパシタの許容最低電圧をVmin、前記電力上昇率をαとすると、
【数1】
によって定められることを特徴とする、請求項1に記載の車両に搭載される燃料電池システム。
【請求項3】
前記所定の中間電力は、前記車両を所定期間に渡って使用することによって算出される該車両の平均消費電力に設定されることを特徴とする、請求項1または2に記載の車両に搭載される燃料電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両に搭載される燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池システムを搭載したフォークリフトや乗用車等の産業車両の実用化が進められている。一般的な燃料電池システムでは、発電電力の変動は燃料電池スタックの劣化の原因となるため、燃料電池スタックの劣化を防ぐためには、発電電力の変動を最大限抑えて一定電力で発電することが好ましい。例えば特許文献1には、燃料電池スタックの発電電力を連続的に変化させずに所定の3段階に制御する燃料電池システムが記載されている。このようなシステムでは、燃料電池スタックに接続される負荷と並列にキャパシタが接続されており、燃料電池スタックの発電電力が負荷の要求電力を上回る場合には、余剰の電力がキャパシタに充電され、発電電力が要求電力を下回る場合には、不足分の電力がキャパシタから放電される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭64−38969号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のように燃料電池スタックの発電電力を3段階に制御するシステムにおいて、例えば燃料電池スタックの発電電力を所定の中間電力から最大電力に切り替える場合、発電電力が中間電力から最大電力まで上昇するのには一定の時間を要する。そのため、負荷に対する安定した電力供給を維持するためには、この間に不足する電力をキャパシタからの放電電力で補わなくてはならない。理想的には、発電電力の切り替え時に不足する電力量とその際にキャパシタから放電可能な最大電力量とが等しければ、キャパシタの容量を最大限有効利用していることになり、キャパシタを小型化することができる。しかしながら、従来そのような技術は存在せず、余裕をもって過度に大容量のキャパシタを選択しているのが現状である。
【0005】
この発明はこのような問題を解決するためになされたものであり、発電電力の切り替え時にキャパシタの容量を最大限有効利用することができる燃料電池システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、この発明に係る車両に搭載される燃料電池システムは、車両負荷に電気的に接続される燃料電池スタックと、車両負荷と並列に燃料電池スタックに電気的に接続されるキャパシタと、キャパシタの開回路電圧に基づいて、燃料電池スタックの発電電力を、所定の最低電力、所定の中間電力および所定の最大電力の3段階に切り替える制御手段とを備え、制御手段は、燃料電池スタックが所定の中間電力で発電している際に、キャパシタの開回路電圧が所定の閾値を下回ると、燃料電池スタックの発電電力を所定の中間電力から所定の最大電力に切り替え、所定の閾値は、所定の最大電力、所定の中間電力、キャパシタの容量、キャパシタの許容最低電圧および発電電力が所定の中間電力から所定の最大電力まで上昇する際の電力上昇率に基づいて定められることを特徴とする。
【0007】
好適には、上記所定の閾値は、当該所定の閾値をVTH1、所定の最大電力をP、所定の中間電力をP、キャパシタの容量をC、キャパシタの許容最低電圧をVmin、電力上昇率をαとすると、
【数1】
によって定められる。
【0008】
所定の中間電力は、車両を所定期間に渡って使用することによって算出される当該車両の平均消費電力に設定することができる。
【発明の効果】
【0009】
この発明に係る車両に搭載される燃料電池システムによれば、発電電力の切り替え時にキャパシタの容量を最大限有効利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】この発明の実施の形態に係る車両に搭載される燃料電池システムの構成を示す図である。
図2】この発明の実施の形態に係る車両に搭載される燃料電池システムにおけるキャパシタの開回路電圧と燃料電池スタックの発電電力の時間遷移を示す図である。
図3】この発明の実施の形態に係る車両に搭載される燃料電池システムにおける発電電力の切り替え時における時間遷移の詳細を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、この発明の実施の形態について添付図面に基づいて説明する。
実施の形態.
この発明の実施の形態に係る産業車両に搭載される燃料電池システム100の構成を図1に示す。
【0012】
燃料電池システム100は、燃料電池スタック1と、水素ガスを供給可能な水素タンク2と、酸素を含む空気を供給可能なコンプレッサ3とを備えており、水素タンク2から供給される水素とコンプレッサ3から供給される空気中の酸素とが燃料電池スタック1内で化学反応を起こすことによって、電気エネルギーが生成される。燃料電池スタック1と水素タンク2との間には、燃料電池スタック1に供給される水素ガス量を調整するための電磁弁4が設けられており、電磁弁4およびコンプレッサ3は後述する電子制御ユニット(ECU)8によって制御される。
【0013】
燃料電池スタック1の出力は、DC/DCコンバータ5を介して車両負荷20に接続されており、燃料電池スタック1で発電された直流電力は、DC/DCコンバータ5によって所定の電圧まで降圧された後、車両負荷20に出力される。
【0014】
車両負荷20は、具体的には産業車両の荷役装置を駆動するための荷役モータや車軸を駆動するための走行モータ等であり、燃料電池システム100から供給される電力によって荷役モータや走行モータが駆動されることによって、車両の荷役動作や走行動作が行われる。
【0015】
また、DC/DCコンバータ5の出力には、車両負荷20と並列にキャパシタ6が接続されている。燃料電池スタック1の発電電力Pが車両負荷20の要求電力Pを上回る場合には、余剰の電力がキャパシタ6に充電され、発電電力Pが要求電力Pを下回る場合には、不足分の電力がキャパシタ6から放電される。また、キャパシタ6には、電圧推定器7が取り付けられている。電圧推定器7は、キャパシタ6に入出力される電流を積算することによってキャパシタ6の充電量を求め、当該充電量に基づいてキャパシタ6の開回路電圧(OCV)を推定する。
【0016】
さらに、燃料電池システム100は、マイクロコンピュータによって構成される電子制御ユニット(ECU)8を備えている。ECU8は、電圧推定器7によって推定されるキャパシタ6の開回路電圧Vに基づいて、電磁弁4の開度とコンプレッサ3の吐出量を制御することによって、燃料電池スタック1に供給される水素と酸素の量を調整し、燃料電池スタック1の発電電力Pを制御する。
【0017】
前述したように、燃料電池スタック1の劣化を防ぐためには、その発電電力Pの変動を最大限抑えて一定電力で発電することが好ましい。そのため、ECU8は、燃料電池スタック1の発電電力Pを、所定の最低電力P、中間電力P、最大電力Pの3段階に制御する。ここで、最大電力Pは、産業車両が最大高負荷で動作する際に車両負荷20が要求する電力の最大値として定義され、最低電力Pは、燃料電池スタック1が劣化を伴うことなく発電可能な電力の最低値として定義され、中間電力Pは、最大電力Pと最低電力Pとの間の所定値として定義される。
【0018】
ECU8は、電圧推定器7によって推定されるキャパシタ6の開回路電圧Vを常時監視し、図2に示されるように、キャパシタ6の開回路電圧Vが所定の第1閾値VTH1と第2閾値VTH2との間にある通常時には、燃料電池スタック1の発電電力Pを中間電力Pに設定する。また、ECU8は、車両負荷20の要求電力Pの増加等に起因してキャパシタ6の充電量が減少し、その開回路電圧Vが所定の第1閾値VTH1を下回ったことを検知すると、発電電力Pを中間電力Pから最大電力Pに切り替え、開回路電圧Vが上昇して第1閾値VTH1を上回ったことを検知すると、発電電力Pを再び中間電力Pに切り替える。また、ECU8は、キャパシタ6の充電量が増加してその開回路電圧Vが所定の第2閾値VTH2を上回ったことを検知すると、発電電力Pを中間電力Pから最低電力Pに切り替え、開回路電圧Vが低下して第2閾値VTH2を下回ったことを検知すると、発電電力Pを再び中間電力Pに切り替える。
【0019】
ここで、上記所定の第1閾値VTH1の定め方について説明する。燃料電池スタック1の発電電力Pを中間電力Pから最大電力Pに切り替える際には、ECU8は、電磁弁4の開度とコンプレッサ3の吐出量を制御することによって、燃料電池スタック1に供給される水素と酸素の量を増加させ、発電電力Pを最大電力Pまで上昇させる。この際、図3に詳細に示されるように、時刻tにおいて切り替えを開始しても、発電電力Pが中間電力Pから最大電力Pまで上昇するのには一定時間τを要する。そのため、車両負荷20の要求電力Pが最大電力Pに等しいクリティカルケースにおいても車両負荷20に対する安定した電力供給を維持するためには、この一定時間τの間に不足する電力量(図中に斜線で示される領域)Wを、キャパシタ6からの放電電力で補わなくてはならない。
【0020】
このとき、上記第1閾値VTH1の定義から、切り替え開始時tにおけるキャパシタ6の開回路電圧はVTH1であり、キャパシタ6の許容最低電圧をVmin、キャパシタ6の容量をCとすると、キャパシタ6が放電可能な電力量W
【0021】
【数2】
【0022】
と表される。この放電可能電力量Wによって不足電力量Wを補うためには、
【0023】
【数3】
【0024】
の関係を満たす必要がある。さらに、背景技術の説明において述べたように、キャパシタ6の容量を最大限有効利用するためには、放電可能電力量Wと不足電力量Wとが等しくなり、
【0025】
【数4】
【0026】
の関係を満たすのが理想的である。
【0027】
この式(3)に式(1)を代入し、VTH1について整理すると、
【0028】
【数5】
【0029】
の関係が得られる。
【0030】
また、図3において、発電電力Pが中間電力Pから最大電力Pまで上昇する際の変化が直線的であると仮定すると、不足電力量W
【0031】
【数6】
【0032】
によって近似することでき、この式(5)を式(4)に代入すると、
【0033】
【数7】
【0034】
の関係が得られる。さらに、発電電力Pが中間電力Pから最大電力Pまで上昇する際の電力上昇率αを
【0035】
【数8】
によって定義して式(6)に代入すると、
【0036】
【数9】
【0037】
の関係が得られる。すなわち、最大電力P、中間電力P、キャパシタ容量C、キャパシタ許容最低電圧Vmin、電力上昇率αが与えられた際に、式(8)に従って第1閾値VTH1を定めることによって、キャパシタ6の容量を最大限有効利用することができる。
【0038】
以上説明したように、この実施の形態に係る産業車両に搭載される燃料電池システム100では、ECU8は、燃料電池スタック1が所定の中間電力Pで発電している際に、キャパシタ6の開回路電圧Vが所定の第1閾値VTH1を下回ると、燃料電池スタック1の発電電力Pを中間電力Pから最大電力Pに切り替える制御を行い、当該所定の第1閾値VTH1は、上記式(8)に従って定められる。これにより、キャパシタ6の容量を最大限有効利用することができ、キャパシタ6を小型化することができる。
【0039】
その他の実施の形態.
上記の実施の形態において、燃料電池スタック1の劣化をさらに防ぐためには、発電電力Pの切り替え回数を最大限少なくすることが好ましい。本願の発明者による研究によれば、産業車両を例えば、1週間や1ヶ月など所定期間に渡って実際の作業に使用してその平均消費電力を算出し、上記所定の中間電力Pを算出された平均消費電力に設定することによって、発電電力Pの切り替え回数を大幅に少なくできることが分かっている。
なお、上記の実施の形態において、荷役装置を有する産業車両として説明したが、上記発明が適用可能である車両であれば特に限定されない。例えば、乗用車やフォークリフト、牽引車であってもよい。
【符号の説明】
【0040】
100 燃料電池システム、1 燃料電池スタック、6 キャパシタ、8 ECU(制御手段)、P 発電電力、P 最大電力、P 中間電力、P 最低電力、V キャパシタの開回路電圧、VTH1 第1閾値(閾値)、Vmin キャパシタの許容最低電圧、C キャパシタの容量、α 電力上昇率。
図1
図2
図3