特許第5948229号(P5948229)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5948229
(24)【登録日】2016年6月10日
(45)【発行日】2016年7月6日
(54)【発明の名称】連続稚貝分離装置
(51)【国際特許分類】
   A01K 61/00 20060101AFI20160623BHJP
【FI】
   A01K61/00 E
【請求項の数】12
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-252809(P2012-252809)
(22)【出願日】2012年11月19日
(65)【公開番号】特開2014-100074(P2014-100074A)
(43)【公開日】2014年6月5日
【審査請求日】2015年7月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】300021002
【氏名又は名称】株式会社森機械製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000316
【氏名又は名称】特許業務法人ピー・エス・ディ
(72)【発明者】
【氏名】森 光典
【審査官】 木村 隆一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−033063(JP,A)
【文献】 実開平06−068438(JP,U)
【文献】 実開昭59−008573(JP,U)
【文献】 実開昭54−076198(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の採苗器に付着した稚貝を採苗器から連続的に分離するための装置であって、
複数の採苗器の各々を取り外し可能に連続的に吊り下げるための採苗器係止手段を有する採苗器移動手段と、
前記複数の採苗器を前記採苗器移動手段に設置するための採苗器設置部であって、前記採苗器移動手段による前記複数の採苗器の移動方向に対して交わる方向からアクセス可能で、且つ、少なくとも前記複数の採苗器の1つの短辺の長さより長い前記採苗器移動手段の一部に対応する位置に設けられた、採苗器設置部と、
前記採苗器移動手段によって移動する前記複数の採苗器に振動を与えることによって付着している稚貝を前記複数の採苗器から分離するための稚貝分離機構を有する稚貝分離部と、
を備えることを特徴とする装置。
【請求項2】
前記採苗器設置部と前記稚貝分離部とは、前記採苗器移動手段による前記複数の採苗器の移動方向に対して交わる方向に並置されていることを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記採苗器係止手段は、一端部が前記採苗器移動手段に取り付けられ、他端部が前記一端部の前記採苗器移動手段への取り付け部分より上方に位置する複数の突起であることを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記複数の突起のうち隣接する一対の突起間の距離は、少なくとも前記採苗器の前記短辺より短いことを特徴とする、請求項3に記載の装置。
【請求項5】
前記稚貝分離機構は、前記複数の採苗器に対して別個の振動を与えるように動力源によって非同期的に駆動する少なくとも2つの加振部を含むことを特徴とする、請求項に記載の装置。
【請求項6】
前記少なくとも2つの加振部の各々は、前記複数の採苗器の2つ以上に振動を与えるように設けられた加振アームを備えることを特徴とする、請求項に記載の装置。
【請求項7】
前記少なくとも2つの加振部の各々は、前記複数の採苗器の長辺方向の複数箇所に別個に振動を与えるように設けられた加振アームを備えることを特徴とする、請求項に記載の装置。
【請求項8】
稚貝が分離された前記複数の採苗器を前記採苗器係止手段から自動的に取り外すための採苗器離脱手段を有する採苗器離脱部をさらに備えることを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項9】
少なくとも前記稚貝分離部において、前記複数の採苗器が前記採苗器係止手段から離脱することを防止するための採苗器離脱防止手段をさらに備えることを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項10】
複数の採苗器に付着した稚貝を採苗器から連続的に分離するための装置において用いられる稚貝分離機構であって、移動する前記複数の採苗器に対して別個の振動を与えるように動力源によって非同期的に駆動する少なくとも2つの加振部を含むことを特徴とする稚貝分離機構。
【請求項11】
前記少なくとも2つの加振部の各々は、前記複数の採苗器の2つ以上に振動を与えるように設けられた加振アームを備えることを特徴とする、請求項10に記載の稚貝分離機構。
【請求項12】
前記少なくとも2つの加振部の各々は、前記複数の採苗器の長辺方向の複数箇所に別個に振動を与えるように設けられた加振アームを備えることを特徴とする、請求項10に記載の稚貝分離機構。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、稚貝が付着した採苗器から稚貝を自動的に分離するための稚貝分離装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ホタテ貝の養殖漁業においては、出荷までに、採苗、中間育成、及び本養殖の作業が行われる。採苗は稚貝を採取する作業であり、採苗のための採苗器が、5〜6月に養殖施設において海中に垂下される。採苗器に付着し、数mmの大きさに成長した稚貝は、7〜8月に採苗器から採取される。採取された稚貝は、ネット状の育成籠に収容されて海中に垂下される。育成篭は、通常、パールネット篭(いわゆる、座布団篭と呼ばれる)又は丸篭が用いられる。育成篭は、通常、複数個が連続的につなげられて用いられる。この作業は9〜10月までに数回行われ、これを中間育成という。中間育成された稚貝は、翌年の3〜6月に本養殖が行われる。本養殖は、貝の耳状部に穴をあけ、その穴に通した紐によってロープに固定し、ロープごと養殖施設において海中に垂下することによって行われる。これは耳づり方式と呼ばれる。本養殖は、丸篭を用いて行われる場合もある。成長した貝は、12〜4月にかけて出荷される。
【0003】
稚貝の採苗に用いられる採苗器は、地域によって異なるが、例えば北海道の一部地域におけるホタテ貝養殖では、目合いの異なる袋(ネトロンネット)を重ねて構成されたものが用いられている。採苗器は、目合いの大きい縦長の袋(中袋)を、中袋より短く目合いが小さい袋(外袋)の中に押し込み、外袋の下端を針金や輪ゴムなどで縛ることによって作成される。採苗器の寸法は、使用する地域によって違いはあるものの、平らになるように広げた状態にしたときに、例えば横(短辺)の長さが約300mm、縦(長辺)の長さが約1,000mmのものが一般的である。作成された採苗器は、その上端部(すなわち、一方の短辺側)がロープに取り付けられる。ロープには複数の採苗器が一定間隔で取り付けられ、一般に、ロープに10〜20個程度の採苗器が取り付けられたものを「一連」と呼ぶ。このようにして作成された「一連」の複数の採苗器は、海中に投入される。投入された採苗器には、海中に一定期間浮遊して成長した稚貝が付着する。採苗器は、一定期間の経過後(例えば、70〜90日後)に引き上げられ、付着した稚貝が採苗器から分離されることになる。
【0004】
採苗器から稚貝を分離する作業は、従来、作業員が採苗器を手に持って揺する方法、回転する一対の叩き棒の間に採苗器を通して落とす装置、又は、スイングするフックに採苗器を吊り下げ、振動を与えて稚貝を落下させる装置などが利用されてきた。
【0005】
また、採苗器から稚貝を分離する作業を機械力によって自動的に行うための装置として、特許文献1に記載の装置が提案されている。特許文献1に記載の装置は、採苗器が、平行して走行する2本の移送ベルトの間に挟み込まれた状態で採苗器揺動機構に送り込まれる。採苗器揺動機構は、採苗器を両側から揺動させる揺動ロッドを有している。採苗器は、揺動ロッドによって押動され、それにより、付着している稚貝が採苗器から落下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−33063
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
作業員が採苗器を手に持って揺動する方法、回転する一対の叩き棒の間に採苗器を通して落とす装置、又は、スイングするフックに採苗器を吊り下げ、振動を与えて稚貝を落下させる装置などの従来技術は、作業者への負担が大きく、作業効率が著しく劣るなどといった欠点がある。
【0008】
また、特許文献1において提案されている装置は、各々が無端移送手段である、平行して走行する2本の移送ベルトの間に、採苗器を挟み込んで移動させるものである。採苗器は、2本の移送ベルトの会合位置(特許文献1においては「前側」として特定される位置)において挟み込まれ、そのまま平行して走行する2本の移送ベルトに沿って直線的に移動する。次いで、採苗器は、採苗器揺動機構において稚貝が分離され、さらに直線的に移動し、2本の移送ベルトの分離位置(特許文献1においては、「後側」として特定される位置)において移送ベルトから離脱する。この装置を使用する場合には、作業者は、広げた採苗器の短辺方向が自らの体の左右方向に対して交わる向きに向くように、採苗器の上端部を持つ。次に、採苗器の上端部の一部を、走行する2本の移送ベルトの会合位置に挟み込み、それと同時に、上端部の一部を持っていた一方の手を採苗器から離す。採苗器が移送ベルトに挟まれながら移動する速度に合わせて、上端部を採苗器の移動方向とは逆方向に引きながら、他方の手を移送ベルトの会合位置まで近づけ、適当なタイミングでその手を採苗器から離す。
【0009】
したがって、この装置においては、採苗器を移送ベルトに挟む込む際に採苗器から手を離すタイミングが遅れると、作業者の手が移送ベルトの間に挟まれるおそれがある。特に、大量の稚貝が付着して重量のある採苗器の落下を防止するために2本の移送ベルトの間に係止ピンを設けた場合には、移送ベルトの間に誤って手が挟まれる危険性がある。また、作業者は、採苗器の挟み込みが完了するまで採苗器から手を離すことができず、手を離すことができたときには採苗器はすでに装置内に進入している。したがって、作業者は、採苗器の曲がりや歪みなどを整えることが難しく、結果として稚貝がスムーズに採苗器から分離及び落下しない可能性がある。
【0010】
また、この装置では、2本の移送ベルトの会合位置において採苗器を挟み込む構造のため、採苗器を挟み込む作業を複数の作業者が同時に行うことは難しく、処理量の増大には限界がある。また、その構造上、採苗器を挟み込む位置と、採苗器から稚貝を分離させるための位置と、採苗器が移送ベルトから離脱する位置とが一直線上に配置されることになるため、処理量を増大させるための装置の大型化が難しい。
【0011】
さらに、この装置では、採苗器をその両側から揺動させるための揺動ロッドが、互いに連動して作動するように構成されている。したがって、採苗器に与えられる揺動は単調になり、稚貝の分離効率を高めることが難しい。
【0012】
本発明は、上述の従来の方法及び装置の欠点を解決するために、作業効率及び空間効率が高く、作業者に対する危険性が低い連続稚貝分離装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、複数の採苗器に付着した稚貝を採苗器から連続的に分離するための装置を提供する。本装置は、複数の採苗器を移動させるための採苗器移動手段と、採苗器を採苗器移動手段に設置するための採苗器設置部と、移動する採苗器に振動を与えることによって採苗器から稚貝を分離するための稚貝分離機構を有する稚貝分離部とを備える。
【0014】
採苗器移動手段は、複数の採苗器の各々を取り外し可能に連続的に吊り下げるための採苗器係止手段を有する。採苗器設置部は、作業者が採苗器を採苗器移動手段に設置するための部分であり、採苗器が採苗器移動手段によって移動する方向に対して交わる方向からアクセス可能となるように設けられる。また、採苗器設置部は、平らに広げたときの採苗器の短辺の長さより長い採苗器移動手段の一部に対応する位置に設けられる。すなわち、採苗器設置部は、少なくとも、平らに広げたときの採苗器の短辺の長さより長い空間として確保される。
【0015】
本発明の一実施形態によれば、本装置においては、採苗器設置部と稚貝分離部とを、採苗器移動手段による採苗器の移動方向に対して交わる方向に並置することができる。
【0016】
本発明の一実施形態によれば、採苗器係止手段は、一端部が採苗器移動手段に取り付けられ、他端部がその一端部の採苗器移動手段への取り付け部分より上方に位置する複数の突起とすることができる。このような突起の例として、一端部から他端部に向かって上向きに曲げられるとともに、一端部から他端部に向かって徐々に細くなるように加工されたフックが挙げられる。この突起は、採苗器移動手段に所定の間隔で複数取り付けられているが、隣接する一対の突起間の間隔は、少なくとも採苗器の短辺より短いことが好ましい。
【0017】
一実施形態によれば、稚貝分離部は、採苗器移動手段によって移動する複数の採苗器に対して不規則な振動を与えるように構成することができる。稚貝分離機構は、採苗器に対して両側から別個の振動を与えるように動力源によって非同期的に駆動する少なくとも2つの加振部を含むものとすることができる。少なくとも2つの加振部の各々は、採苗器に当たって振動を与えるための加振アームを備えるものとすることができる。加振アームは、一実施形態においては、複数の採苗器の2つ以上に振動を与えられるように構成されたものとすることができ、別の実施形態においては、採苗器移動手段に吊り下げられた縦長の採苗器に対して、長辺方向の複数の箇所に別個に振動を与えられるように構成されたものとすることができる。
【0018】
一実施形態によれば、本装置は、稚貝が分離された複数の採苗器を採苗器係止手段から自動的に取り外すための採苗器離脱手段を有する採苗器離脱部をさらに備えるものとすることができる。さらに、本装置は、少なくとも稚貝分離部において、複数の採苗器が採苗器係止手段から離脱することを防止するための採苗器離脱防止手段をさらに備えるものとすることができる。
【0019】
本発明によれば、採苗器を設置する際に作業者の体勢と採苗器の姿勢との関係に無理が生じないため、作業者に危険を及ぼすことなく採苗器の装置への設置が可能となる。また、設置後の採苗器の状態、例えば曲がりや歪みなどを容易に整えることができるため、採苗器からの稚貝の分離及び落下が、効果的に行われる。さらに、採苗器を設置する部分のスペースを広く取ることができるため、複数の作業者による同時作業が可能であり、作業効率が飛躍的に向上する。
【0020】
また、採苗器を設置するための部分と、採苗器から稚貝を分離するための部分との位置関係を、本発明に係る装置のように並置する構成にすることによって、装置の大型化に対応可能であり、結果として処理量の増大を容易に達成することができる。
【0021】
本発明に係る装置の稚貝分離部の構成により、採苗器に対して効果的な振動を与えることが可能であるため、採苗器から稚貝を確実に分離及び落下させることができる。また、採苗器落下防止手段の採用により、採苗器に振動が与えられているときにも採苗器の落下を確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施形態による連続稚貝分離装置の概略的な正面図及び側面図である。
図2】本発明の実施形態による連続稚貝分離装置の概略的な平面図である。
図3】本発明の実施形態による連続稚貝分離装置において、採苗器を採苗器係止手段に吊り下げた状態を示す概略図である。
図4】本発明の実施形態による稚貝分離機構を示す概略的な側面図である。
図5】本発明の実施形態による採苗器離脱防止手段を示す概略図である。
図6】本発明の実施形態による連続稚貝分離装置の使用方法及び動作を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照しながら、本発明の一実施形態について詳細に説明する。
【0024】
[装置の概要]
図1は、本発明の一実施形態に係る連続稚貝分離装置1の正面図(b)及び左側面図(a)であり、図2は、装置1の平面図である。
図1及び図2に示されるように、装置1は、稚貝が付着した網製の複数の採苗器Hを連続的に吊り下げた状態で矢印Mの向きに移動させるための採苗器移動手段20を有する採苗器移動機構10と、採苗器移動手段20によって移動する採苗器Hに振動を与えることによって、付着している稚貝を採苗器Hから分離して落下させるための稚貝分離機構30とを備える。装置1は、さらに、採苗器Hが移動中に採苗器移動手段20から意図せずに離脱することを防止する採苗器離脱防止手段50(図2において一点鎖線で示される位置に設けられる)と、採苗器Hから落下した稚貝を受けるための稚貝受け手段52と、稚貝が分離された採苗器Hを採苗器移動手段20から自動的に取り外すための採苗器離脱手段54とを備えるものとすることができる。装置1においては、上述の機構全体は、例えば鋼材でできた架台60に適宜支持されている。
【0025】
[採苗器移動機構]
本実施形態においては、装置1における採苗器移動機構10の採苗器移動手段20は、無端搬送体とすることができる。無端搬送体は、図1及び図2に示されるように、架台60の適当な位置に支持された2つの支軸16a、16bを回転軸とする2つの回転体18a、18bによって走行させることができ、互いに逆方向に走行する2つの直線走行部と、回転体18a、18bの外縁に沿って走行する曲線走行部とを有する。採苗移動手段20は、限定されるものではないが、チェン又はベルトなどとすることができる。採苗移動手段20がチェンの場合には、回転体18a、18bは歯車とすることが好ましく、採苗移動手段20がベルトの場合には、回転体18a、18bはプーリとすることが好ましい。支軸16の一方(本実施形態においては、支軸16a)は、例えばチェンなどの動力伝達手段14によってモータ12と連結されている。モータ12の動力は、伝達手段14、支軸16a及び回転体18aを介して、採苗器移動手段20を図2の矢印Mの向きに走行させることになる。
【0026】
採苗器移動手段20には、採苗器Hを採苗器移動手段20に取り付けるための採苗器係止手段22が設けられる。採苗器係止手段22は、図1及び図2に示されるように、一端部が採苗器移動手段20に固定され、他端部がその一端部の採苗器移動手段20への固定部分より上方かつ外方に位置する複数の突起とすることができるが、これに限定されるものではなく、採苗器Hを確実に採苗器移動手段20に設置することができるように構成された物であればよい。突起は、一端部が採苗器移動手段20に固定され、一端部から他端部に向かって上向きに曲げられるとともに、一端部から他端部に向かって徐々に細くなるように加工されたフックとすることが好ましい。このようなフックとすることによって、フックが網製の採苗器Hの目に容易に通り、より確実に採苗器Hを吊り下げることができる。採苗器係止手段22は、重量のある採苗器Hを複数個吊り下げても耐えられる強度を有するように設計されることが好ましい。
【0027】
採苗器係止手段22を採苗器移動手段20に設ける間隔は、採苗器Hの短辺をある程度広げた状態で吊り下げることができるように、少なくとも採苗器Hの短辺(例えば、約300mm)より短い間隔とすることが好ましいが、これに限定されるものでない。一実施形態においては、この間隔は、約150mm〜約200mmとすることができる。採苗器係止手段22を設ける間隔を採苗器Hの短辺より短くした場合には、図3に示されるように、1つの採苗器係止手段22に対して2つの採苗器Hを吊り下げることが可能になるため、単位時間あたりの処理量が向上する。短辺付近が採苗器係止手段22に吊り下げられた採苗器Hは、採苗器移動手段20の走行に伴って、図2の矢印Mの向きに移動する。
【0028】
[採苗器設置部]
本発明においては、装置1は、その機能に応じて大きく4つの部分に分けることができ、採苗器移動手段20は、走行に伴ってその4つの部分を順に通過することになる。装置1の第1の部分は、作業者が採苗器Hを採苗器移動手段20に設置する(すなわち、採苗器Hを採苗器係止手段22に吊り下げる)ための部分である。この部分は、図2において記号Aで表される。本明細書においては、第1の部分を採苗器設置部Aという。第2の部分は、採苗器移動手段20に設置された採苗器Hが採苗器移動手段20から離脱しないように保護するための採苗器離脱防止手段50を設けることができる部分である。採苗器離脱防止手段50の詳細は後述する。この部分は、図2において記号Bで表される。本明細書においては、第2の部分を採苗器離脱防止部Bという。第2の部分Bには、採苗器Hから稚貝を分離する部分である稚貝分離部Cを含むことができる。第3の部分は、採苗器Hを採苗器移動手段20から離脱させるための部分であり、この部分には、採苗器離脱手段54を設けることができる。採苗器離脱手段54の詳細は後述する。この部分は、図2において記号Dで表される。本明細書においては、第3の部分を採苗器離脱部Dという。第4の部分は、第1〜第3の部分以外の部分であり、具体的には、第1の部分Aと第3の部分Dとの間である。この部分は、図2において記号Eで表される。
【0029】
装置1の第1の部分である採苗器設置部Aは、作業者が採苗器Hを採苗器移動手段20に取り付けるための部分である。装置1においては、採苗器Hは、採苗器移動手段20に設置されて、矢印Mの向きに移動する。採苗器設置部Aは、採苗器Hの移動方向に対して交わる方向から採苗器移動手段20にアクセスすることができる部分であり、採苗器移動手段20の直線走行部の一方の少なくとも一部に対応する部分である。この直線走行部の一方の少なくとも一部の長さは、平らに広げた状態の少なくとも1つの採苗器Hの短辺の長さより長く、より好ましくは、複数の作業者が横に並んで(すなわち、採苗器移動手段20の直線走行部の一方と平行に並んで)同時に採苗器Hを採苗器移動手段20に設置することができるように、採苗器Hの短辺の長さの2倍より長い。
【0030】
装置1においてこのような構成の採苗器設置部Aを設けたことと、前述の採苗器移動手段20及び採苗器係止手段22を採用したこととの相乗効果によって、作業者は、重量のある採苗器Hを両手で持ち、その短辺をある程度横に広げ、両手で短時間かつ安全に採苗器係止手段22に掛けることができるという利点が得られることになる。また、作業者は、採苗器Hを採苗器係止手段22に掛けた後に両手を採苗器Hから離すことができ、さらに、移動する採苗器Hの歪みや縮みなどを修正しながら採苗器Hを下方向に引き下げることによって、採苗器Hをより確実に採苗器係止手段22に吊り下げることができるという利点も得られる。さらに、複数の作業者が横に並んで同時に採苗器設置作業を行うことができるため、作業効率が向上するという利点もある。
【0031】
採苗器設置部Aには、設置する前の複数の採苗器Hを保持しておくための採苗器載置手段56を設けてもよい。採苗器載置手段56を設けて、そこに一連の複数の採苗器Hを保持しておくことによって、作業者が採苗器Hを採苗器移動手段20に設置する際の作業効率を向上させることができる。
【0032】
[稚貝分離部]
採苗器設置部Aにおいて採苗器移動手段20に設置された1つ又は複数の採苗器Hは、採苗器移動手段20の走行に伴って矢印Mの向きに移動し、稚貝分離機構30が設けられた稚貝分離部Cに移動する。装置1においては、稚貝分離部Cは、採苗器移動手段20の直線走行部の他方に相当する位置に設けられることが好ましい。すなわち、採苗器設置部Aと稚貝分離部Cとは、採苗器移動手段20による採苗器Hの移動方向に対して交わる方向に並置されることが好ましい。採苗器設置部Aと稚貝分離部Cとをこのように配置することによって、空間効率を低下させることなく装置を大型化して、処理能力の向上を達成することができる。
【0033】
稚貝分離機構30は、採苗器移動手段20によって移動する採苗器Hに振動を与えることによって、採苗器Hに付着している稚貝を採苗器Hから落下させるための機構である。本実施形態においては、稚貝分離機構30は、図1図2及び図4に示されるように、採苗器Hに振動を与える加振部36a、36bと、加振部36a、36bを駆動させる動力を発生するモータ32a、32bと、モータ32a、32bの動力を加振部36a、36bに伝達する伝達手段34a、34bとを有する。
【0034】
加振部36a、36bは、加振部を架台60の適当な位置に固定する支持軸37a、37bと、伝達手段34a、34b及び支持軸37a、37bに連結された基部38a、38bと、支持軸37a、37bに連結された加振アーム39a、39bとを有するものとすることができる。架台60に対して支持軸37aが固定される位置と支持軸37bが固定される位置とは、高さ方向に異なることが好ましい。
【0035】
加振アーム39aは、上部加振アーム39a1及び下部加振アーム39a2を有し、同様に、加振アーム39bは、上部加振アーム39b1及び下部加振アーム39b2を有するものとすることができる。加振アーム39a、39bの各々の上部加振アーム及び下部加振アームは、図1(b)に示されるように、それぞれ、一方の端部が支持軸に連結され、支持軸から外方に延びる2つの第1のアームと、これらの第1のアームの他方の端部間を結ぶ第2のアームとを備えるものとすることができる。第2のアームの長さは、限定されるものではないが、少なくとも1つの採苗器Hの短辺の長さより長いことがより好ましい。図4に示されるように、装置1の側方からみたときに、上部加振アームの第1のアームが延びる方向と下部加振アームの第1のアームが延びる方向との間の角度θは、180度より小さいことが好ましい。
【0036】
モータ32a、32bと伝達手段34a、34bとは、クランク機構を介して連結され、伝達手段34a、34bと加振部36a、36bとはその連結部において回転可能に連結されている。また、加振部36a、36bは、架台60に固定された支持軸37a、37bの周りに回転可能に構成されている。したがって、加振部36aの上部加振アーム39a1の第2のアームと下部加振アーム39a2の第2のアームとは、モータ32aの駆動力によって交互に採苗器Hに当たることになる。加振部36bにおいても同様である。加振部36aの動作と加振部36bの動作とは、例えば加振部36aの第2のアームと加振部36bの第2のアームとが同時に採苗器Hに当たらないというように、互いに同期しないように設定されることが好ましい。すなわち、本実施形態においては、採苗器Hに当たる加振アームは4つであり、これらの加振アームは、互いに同時には採苗器Hに当たらないように構成されることが好ましい。
【0037】
稚貝分離機構30をこのような構成とすることによって、採苗器Hの長辺方向の複数箇所に対して別個に不規則で複雑な振動が与えられるとともに、縦に長い採苗器Hの下部にも強力な振動が与えられ、稚貝の分離及び落下がより確実に行われる。これに対して、例えば採苗器Hに対して単調な振動しか与えられない装置の場合には、縦に長い採苗器Hの一部が免震状態となり、稚貝分離効果が低下するおそれがある。また、縦に長い採苗器Hの一部分、例えば上部にしか振動が与えられない装置の場合には、採苗器Hの下部の稚貝が効果的に分離できないおそれがある。
【0038】
本実施形態においては、稚貝分離機構30は、採苗器Hの移動方向に対して両側に加振部を有するが、いずれか一方に加振部を有するようにしてもよい。また、2つの加振部の各々が、上部加振アームのみ若しくは下部加振アームのみを有するようにしてもよく、又は、上部加振アーム及び下部加振アーム以外の加振アームを備えていてもよい。加振アームの形状も図1に示されるものに限定されるものではなく、例えば第2のアームを波形に形成してもよい。また、いずれにしても、縦に長い採苗器Hの全体に、不規則な振動を与えられる稚貝分離機構30が装置1に設けられればよい。
【0039】
[採苗器離脱部]
稚貝分離部Cを通過した採苗器Hは、採苗器移動手段20の走行に伴ってさらに矢印Mの向きに移動し、採苗器離脱部Dに進入する。採苗器離脱部Dには、複数の採苗器Hを連続的に採苗器係止手段22から取り外すための採苗器離脱手段54が設けられる。
【0040】
本実施形態においては、採苗器離脱手段54は、短辺及び長辺を有する2つの板状体から構成することができる。2つの板状体は、各々の板状体の面が同一平面内に位置し、長辺が対向するように鉛直方向に並べた状態で、一方の端部(短辺)が架台60に取り付けられる。また、2つの板状体の他方の端部(短辺)は、採苗器移動手段20に近接した位置に配置される。すなわち、採苗器離脱手段54は、図2に示されるように、採苗器移動手段20の直線走行部に対して斜めに交差する方向に設置される。
【0041】
2つの板状体の対向する長辺の間には、所定の距離の空間が形成されており、この空間に、採苗器移動手段20に設けられた採苗器係止手段22が、採苗器移動手段20の移動に伴って進入することになる。採苗器係止手段Hに吊り下げられた採苗器Hは、詳細は後述される図6に示すように、採苗器係止手段22の空間への進入に伴って採苗器離脱手段54の板状体の面に沿って徐々に採苗器移動手段20から離れる方向に移動し、採苗器係止手段22が採苗器離脱手段54の空間から出るときに、完全に採苗器係止手段22から完全に離脱する。採苗器離脱手段54によって採苗器Hが取り外された採苗器係止手段22は、採苗器移動手段20の曲線走行部を経由して採苗器設置部Aに戻る。
【0042】
採苗器離脱手段54は、2つの板状体によって構成される形態に限定されるものではない。例えば、所定の距離で平行に並べられた2つの棒状体を用い、2つの棒状体を採苗器移動手段20の直線走行部に対して斜めに交差する方向に配置してもよい。また、2つの板状体ではなく、コの字状に形成された板状体を用い、開放された端部を採苗器移動手段20の近傍に配置して、他方の端部(すなわちコの字の縦棒に相当する部分)を架台60に取り付けるようにしてもよい。
【0043】
[採苗器離脱防止手段]
本発明においては、採苗器係止手段22は、上述のように、採苗器Hの重量に十分に耐え且つ採苗器Hが落下しないような強度及び形状で構成される。しかしながら、採苗器Hの落下をより確実に防止するために、採苗器移動手段20の一部に採苗器離脱防止手段50を設けることが好ましい。本実施形態においては、装置1において採苗器離脱防止手段50が配置される部分は、図2に示されるBの部分、すなわち、採苗器設置部Aの終了部分に隣接する位置から、採苗器離脱部Dの開始部分に隣接する位置までの部分とすることができる。しかしながら、採苗器離脱防止手段50が配置される部分は、これに限定されるものではなく、少なくとも稚貝分離部に設けられていればよい。採苗器離脱防止手段50を図2におけるBの部分全体に設けることによって、採苗器移動手段20の曲線走行部においても、より確実に採苗器Hの離脱を防止することができる。
【0044】
本実施形態においては、採苗器離脱防止手段50は、図5に示されるように、断面が略コの字型の筒状部材として形成したものを用いることができるが、採苗器離脱防止手段の形状は、これに限定されるものではなく、採苗器Hが意図せずに採苗器係止手段22から離脱しないように構成されたものであればよい。採苗器離脱防止手段50は、その下側50aの端部が採苗器係止手段22の他端部の下側に近接して配置されることによって、下側50aの端部が採苗器Hを採苗器係止手段22の一端部側(すなわち、採苗器移動手段20の方向)に押し込むように作用する。
【0045】
[稚貝受け手段]
装置1は、採苗器Hから落下する稚貝を受け止めるための稚貝受け手段を有することが好ましい。本実施形態においては、稚貝受け手段52は、図1に示されるように、装置1の下部全体を覆うように設けることができるが、この位置に限定されるものではなく、少なくとも稚貝分離部Cにおいて落下する稚貝を受け止めることができる位置に設けられればよい。稚貝受け手段52を装置1の下部全体を覆うように設けた場合は、稚貝分離部Cだけでなく、採苗器設置部Aにおいて採苗器Hが設置されるときに落下する稚貝や、採苗器移動手段20によって搬送される途中の採苗器Hから落下する稚貝なども、確実に収集することができる。稚貝受け手段52は、内部に水を流すことによって、受け止めた稚貝が自動的に稚貝受け手段52から流出して、別途配置された容器などに収集されるようにしてもよい。
【0046】
[稚貝飛散防止壁]
装置1には、採苗器Hから分離された稚貝をより確実に収集することを目的として、採苗器設置部A以外の位置において装置1の外周を覆うように、稚貝飛散を防止するための壁(図示せず)を設けることが好ましい。稚貝飛散防止壁は、さらに、採苗器設置部Aと稚貝分離部Cとの間にも設けてもよい。
【0047】
[装置の使用方法及び動作]
次に、本発明の一実施形態による装置1の使用方法及び動作について、図6を参照しながら説明する。
まず、装置1のモータ12の電源を投入することによって、装置1の採苗器移動手段20を矢印Mの向きに走行させる。採苗器移動手段20の走行に伴って、採苗器係止手段22も矢印Mの向きに移動することになる。
【0048】
次に、作業者は、一般に縦長になるように採苗器Hの一方の短辺付近を持ち、図6の場合には自分の左側から進んでくる採苗器係止手段22に、採苗器Hを吊り下げる。その際、作業者は、図6に示される採苗器設置部Aにおいて採苗器移動手段20に正対しながら、両手で採苗器Hを短辺方向に広げて、採苗器係止手段22に採苗器Hを吊り下げる。採苗器設置部Aの長さが、複数の作業者が横に並んで作業することができる長さの場合には、短時間あたりより多くの採苗器Hを採苗器係止手段22に吊り下げることができる。採苗器係止手段22の強度を高くしておけば、1人の作業者が複数枚の採苗器Hをもって、一度に採苗器係止手段22に吊り下げることもできる。作業者は、採苗器Hを吊り下げた後に両手を採苗器Hから離し、離したその両手を使って採苗器Hの曲がりや縮みを修正することが好ましい。
【0049】
採苗器係止手段22に吊り下げられた採苗器Hは、採苗器移動手段20の走行に伴って矢印Mの向きに移動し、採苗器設置部Aから採苗器離脱防止部Bに進入する。採苗器離脱防止部Bにおいては、採苗器離脱防止手段50が配置されていることによって、採苗器Hが採苗器係止手段22から離脱しないように構成されている。採苗器離脱防止部Bに進入した採苗器Hは、採苗器移動手段20の曲線走行部を経てさらに矢印Mの向きに移動し、採苗器設置部Aと並置された稚貝分離部Cに進入する。
【0050】
稚貝分離部Cにおいては、採苗器Hに対して、稚貝分離機構30の加振アーム39によって振動が与えられる。加振アームによって採苗器Hに振動が与えられると、採苗器Hに付着していた稚貝は、採苗器Hから分離され、稚貝受け手段52内に落下する。採苗器Hには加振アーム39によって不規則で複雑な振動が与えられるため、稚貝を効果的に採苗器Hから分離及び落下させることができる。稚貝受け手段52に落下した稚貝は、作業者によって収集される。
【0051】
稚貝が分離された採苗器Hは、次に採苗器離脱部Dに移動する。採苗器離脱部Dに入った採苗器Hは、採苗器移動手段20の走行方向に対して斜めに配置された採苗器離脱手段54に案内されて、採苗器移動手段20から離れる方向に移動し、最終的に採苗器係止手段22から外れて落下する。採苗器Hが離脱した採苗器係止手段22は、採苗器移動手段20の曲線走行部を通過し、作業者の待つ採苗器設置部Aに進む。
【符号の説明】
【0052】
1 連続稚貝分離装置
10 採苗器移動機構
12 モータ
14 動力伝達手段
16 支軸
18 回転体
20 採苗器移動手段
22 採苗器係止手段
30 稚貝分離機構
32 モータ
34 伝達手段
36 加振部
37 支持軸
38 基部
39 加振アーム
50 採苗器離脱防止手段
52 稚貝受け手段
54 採苗器離脱手段
60 架台
図1
図2
図3
図4
図5
図6