(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ガス中において電子を増幅させることにより放射線の検出を行う放射線検出器に用いられる基板であって、前記基板主表面に密着する層を有する導電層及び貫通孔が基板に形成された電子増幅器用基板の製造方法において、
前記貫通孔の側壁及び前記基板主表面のうち、前記貫通孔の側壁に、導電層との密着性が低い主表面を上面とした下地層を形成する下地層形成工程と、
前記基板主表面、及び前記下地層が形成された貫通孔の側壁に導電層を形成する導電層形成工程と、
前記貫通孔の側壁に形成された下地層を選択的にエッチングするエッチング工程とを備えること
を特徴とする電子増幅器用基板の製造方法。
前記下地層はクロムからなり、前記主表面を酸化させることで、前記導電層との密着性を低くするとともに前記導電層の基板主表面に密着する層に対するエッチングレートを高くすること
を特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の電子増幅器用基板の製造方法。
放射線を検出する放射線検出器の電子増幅器で用いる電子増幅器用基板であって、感光性ガラスからなる基板に密着する層を有する導電層が形成され、且つ紫外線を照射することで貫通孔が形成された電子増幅器用基板の製造方法において、
前記貫通孔の側壁及び前記基板主表面のうち、前記貫通孔の側壁に、酸化させた主表面を上面とした酸化クロム層からなる下地層を形成する下地層形成工程と、
前記下地層が形成された貫通孔の側壁及び基板主表面にクロム層を成膜後、前記クロム層を覆うように銅層を連続的に成膜し、導電層を形成する導電層形成工程と、
前記貫通孔の側壁に形成された下地層上に形成されている導電層が、前記下地層とともに破断して除去されるまでのエッチング時間でエッチングするエッチング工程とを備え、
前記貫通孔は複数形成され、各々は平面視円形形状を有しており、互いの貫通孔が一定間隔で前記基板上に形成されていること
を特徴とする電子増幅器用基板の製造方法。
【背景技術】
【0002】
従来より、荷電粒子、ガンマ線、X線、紫外光または中性子等の電離放射線を検出するガス電子増幅器(Gas Electron Multiplier 略してGEM )が使用されている。これらの検出装置は、検出対象の放射線がチャンバ内に侵入すると、ガス電子増幅器が電子雪崩効果による電子増幅を行い、放射線を検出する構成となっている。
【0003】
近年、特に中性子を用いた技術が多くの分野において注目されつつある。例えば、物質の構造解析や機能研究、物質の表面・界面や液体・非晶質・ガラス・高温超伝導体等のように物質の状態に応じた構造解析や機能研究、生体高分子の水素・水和構造解析による創薬への貢献、物質中の原子や分子の運動状態と機能研究など、多くの分野で中性子を用いた技術が利用されている。
【0004】
中性子を発生させた後、この中性子を解析対象となる物質に衝突させる必要がある。そのため、中性子発生源とともに、中性子検出器も必要となる。なぜなら、中性子検出器によって、中性子が衝突する位置そしてその中性子の飛行時間を判別することができるためである。この中性子検出器によって判別された所望の位置と飛行時間とに基づき、解析対象となる物質に対し構造解析を行うことになる。
【0005】
ここで用いられる中性子検出器としては、貫通孔が複数形成されたポリイミド等の板状部材(ポリマーフィルム)の両面に銅が被覆されたものを用いた電子増幅器用基板である検出器が知られている(例えば、特許文献1参照)。このタイプの検出器では、装置内のガスに中性子を接触させることにより、ガス中にて電子を雪崩式に増幅させ、この電子を検出することにより、中性子が衝突する位置や飛行時間を判別している。
【0006】
一方、上記以外の検出器としては、中性子をシンチレータに接触させ、それによって発生したシンチレーション光を波長変換ファイバーに伝達する。そして、この伝達された光を、フォトマルチプライアーにより電子に変換し、この電子を検出することにより、中性子が衝突する位置や飛行時間を判別している。(例えば、特許文献2乃至4参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1で開示されているGEMは、X線の検出用として用いられているが、GEMによって中性子を検出するためには、X線を検出する場合と比較して高真空状態にする必要がある。また、効率よく雪崩式に電子を増幅させるためには、ポリイミド等の板状部材を複数枚、所定のギャップを保ちながら配置させる必要がある。しかしながら、ポリイミド等の板状部材は、ポリマーフィルムであるため高真空状態にした場合に歪みが生じてしまうため、ギャップを保つことができず正確に中性子を検出することができないといった問題がある。
【0009】
また、このようなポリマーフィルムといった有機フィルムの場合、アウトガスが電子雪崩を妨げてしまうことから、中性子の検出ができなくなるといった問題もある。
【0010】
また、特許文献2乃至4で開示されているシンチレータと光ファイバーとを組み合わせた中性子の検出器は、装置が高価であるとともに、中性子の検出効率が50%程度と非常に非効率的であるといった問題がある。
【0011】
そこで、本発明は上述した課題を解決するために提案されたものであり、低コストでありながら、高い放射線検出効率を実現することができる電子増幅器用基板の製造方法、電子増幅器の製造方法及び放射線検出器の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の態様は、ガス中において電子を増幅させることにより放射線の検出を行う放射線検出器に用いられる基板であって、前記基板主表面に密着する層を有する導電層及び貫通孔が基板に形成された電子増幅器用基板の製造方法において、前記貫通孔の側壁及び前記基板主表面のうち、前記貫通孔の側壁に、導電層との密着性が低い主表面を上面とした下地層を形成する下地層形成工程と、前記基板主表面、及び前記下地層が形成された貫通孔の側壁に導電層を形成する導電層形成工程と、前記貫通孔の側壁に形成された下地層を選択的にエッチングするエッチング工程とを備えることを特徴とする電子増幅器用基板の製造方法である。
【0013】
本発明の第2の態様は、第1の態様の前記基板が感光性ガラス基板であり、前記貫通孔は紫外線を照射することで形成されることを特徴とする。
【0014】
本発明の第3の態様は、第1の態様又は第2の態様の前記基板が表裏面を有し、前記導電層は前記基板の表裏面に形成されていることを特徴とする。
【0015】
本発明の第4の態様は、第1の態様乃至第3の態様のいずれかの態様の前記貫通孔が複数形成され、各々は平面視円形形状を有しており、互いの貫通孔が一定間隔で前記基板上に形成されていることを特徴とする。
【0016】
本発明の第5の態様は、第1の態様乃至第4の態様のいずれかの態様の前記エッチング工程のエッチング時間を、前記貫通孔の側壁に形成された下地層上に形成されている導電層が、前記下地層とともに破断して除去されるまでとすることを特徴とする。
【0017】
本発明の第6の態様は、第1の態様乃至第5の態様のいずれかの態様の前記下地層がクロムからなり、前記主表面を酸化させることで、前記導電層との密着性を低くするとともに前記導電層の基板主表面に密着する層に対するエッチングレートを高くすることを特徴とする。
【0018】
本発明の第7の態様は、第1の態様乃至第6の態様のいずれかの態様の前記導電層が、前記基板上に密着する密着層と、前記密着層を覆うように形成された金属層と含むことを特徴とする。
【0019】
本発明の第8の態様は、第1の態様乃至第7の態様のいずれかの態様の前記密着層がクロムからなり、前記金属層は銅からなり、前記密着層及び前記金属層は連続的に成膜されることを特徴とする。
【0020】
本発明の第9の態様は、感光性ガラスからなる基板に密着する層を有する導電層が形成され、且つ紫外線を照射することで貫通孔が形成された電子増幅器用基板の製造方法において、前記貫通孔の側壁及び前記基板主表面のうち、前記貫通孔の側壁に、酸化させた主表面を上面とした酸化クロム層からなる下地層を形成する下地層形成工程と、前記下地層が形成された貫通孔の側壁及び基板主表面にクロム層を、そして前記クロム層を覆うように銅層を連続的に成膜し、導電層を形成する導電層形成工程と、前記貫通孔の側壁に形成された下地層上に形成されている導電層が、前記下地層とともに破断して除去されるまでのエッチング時間でエッチングするエッチング工程とを備え、前記貫通孔は複数形成され、各々は平面視円形形状を有しており、互いの貫通孔が一定間隔で前記基板上に形成され
ていることを特徴とする電子増幅器用基板の製造方法である。
【0021】
本発明の第10の態様は、第1の態様乃至第9の態様のいずれかの態様で製造された電子増幅器用基板を用いることを特徴とする電子増幅器の製造方法である。
【0022】
本発明の第11の態様は、第1の態様乃至第9の態様のいずれかの態様で製造された電子増幅器用基板を用いることを特徴とする放射線検出器の製造方法である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、低コストでありながら高い放射線検出効率を実現することを可能とする。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明をする。
本発明は、ガス電子増幅器(以下、単に電子増幅器とも呼ぶ。)による電子雪崩効果による電子増幅を行い、荷電粒子、アルファ線、ベータ線、ガンマ線、X線、紫外光または中性子などの電離放射線、さらに近紫外線、可視光線などの非電離放射線といった放射線を検出する放射線検出器に適用される。また、上述したような問題点を解決すべく、放射線検出器の電子増幅器で用いる電子増幅器用基板の基板としてポリマーフィルムに代えて感光性ガラスを用いる。
【0026】
<感光性ガラスについて>
電子増幅器用基板の基板として用いる感光性ガラスについて説明をする。感光性ガラスは、安価でありながらウェットエッチングによる加工が可能であるなど非常に優れた加工性を有している。また、ポリマーフィルムとは異なり、高真空状態にした場合であっても、歪みを生じることなく、ギャップを保つことができるため、上述した放射線を検出する放射線検出器の電子増幅器に用いる電子増幅器用基板の基板として非常に有効である。
【0027】
<電子増幅器用基板について>
続いて、電子増幅器において、電子雪崩効果による電子増幅を発生させる感光性ガラスを基板として用いた電子増幅器用基板について説明する。電子増幅器において電子雪崩効果による電子増幅を発生させるためには、基板となる感光性ガラスに複数の貫通孔を形成する必要がある。
【0028】
図1に示すように感光性ガラスである基板100に形成する複数の貫通孔101は、基板100を平面視した際に各々が円形形状を有し、互いに一定の間隔で形成されている。
【0029】
次に
図2を用いて、感光性ガラスである基板100に貫通孔を形成するプロセスについて説明をする。まず、
図2(a)に示すように、基板100の一方主面上にフォトマスク200を配置する。このフォトマスク200は、基板100に形成する貫通孔形成部位201のみが開口している。
【0030】
フォトマスク200を配置した後、フォトマスク200側から紫外線を照射すると、貫通孔形成部位201の基板100に選択的に紫外線が照射される。これにより、基板100には、
図2(a)に示すように結晶化されることとなる部分である露光部100aが形成される。
【0031】
続いて、露光部100aが形成された基板100を電気炉などに入れて熱処理を行い露光部100aを結晶化する。この熱処理された基板100は、希フッ化水素酸に浸漬させることで、露光部100aのみをエッチングすることができる。これにより、
図2(b)に示すように、露光部100aのみが選択的に溶解除去されるため、基板100に貫通孔101が形成されることになる。
【0032】
次に、
図3を用いて、感光性ガラスである基板100を用いた電子増幅器用基板の形成プロセスについて説明をする。
図3(a)、(b)は、
図1に示した基板100をX−X線で切断した様子を示した断面図である。
図3(a)に示すように複数の貫通孔101が形成された基板100の表裏面に対して、
図3(b)に示すように、クロム、銅を連続的にスパッタして成膜することでクロム層51、銅層52を形成する。このようにして、
図3(b)に示すような電子増幅器用基板50が形成されることになる。
【0033】
なお、導電層である銅層52は、感光性ガラスである基板100との密着性が低いため、基板100、銅層52とも密着性の高いクロムを用いた密着層であるクロム層51を形成する必要がある。導電層を基板100と密着性の高い金属で形成した場合には、特に密着層を形成しなくともよい。
【0034】
図3(b)に示すように、電子増幅器用基板50の貫通孔101の側壁101aには、スパッタによってクロム層51、銅層52が形成された状態となっている。このような電子増幅器用基板50を用いた電子増幅器により、上述した放射線のうち、例えば、中性子を検出する放射線検出器を形成した場合、
図4に示すように、十分な電子の増幅率にも関わらず所望の中性子を検出することができないことが分かった。
【0035】
発明者らは鋭意検討を重ねた結果、所望の放射線を検出することができない原因として、
図3(b)に示した電子増幅器用基板50の複数の貫通孔101の側壁101aにクロム層51、銅層52が形成されてしまっているのではという結論を得た。
【0036】
そこで、発明者らは、基板100の貫通孔101の側壁101aにクロム層51、銅層52が形成されていない状態の電子増幅器用基板を製造する手法を考案した。以下、その手法について説明をする。
【0037】
<本願発明の電子増幅器用基板の製造方法について>
{第1の実施の形態:下地層の形成、基板表裏面の研磨除去による製造方法}
図5を用いて、本願発明の第1の実施の形態として示す電子増幅器用基板の製造方法について説明をする。
図5(a)〜(g)は、
図1に示した基板100をX−X線で切断した様子を示した断面図である。
【0038】
まず、
図5(a)に示すような、複数の貫通孔101を形成した感光性ガラスからなる基板100を用意する。このときの基板100の厚みは約0.5mm程度である。
【0039】
続いて、
図5(b)に示すように、基板100の表裏面にクロムをスパッタすることでクロム層11を形成する。クロム層11の厚さは約1000Åである。
図5(b)に示すように、貫通孔101の側壁101aにもクロム層11が形成されている。このクロム層11を、下地層と呼ぶ。
【0040】
次に、
図5(c)に示すように、クロム層11が形成されている基板100の表裏面を研磨する。これにより基板100の表裏面に形成されたクロム層11だけが除去されたことになる。
図6に、
図5(c)の領域Aを拡大した様子を示す。
図6に示すように、基板100の貫通孔101の側壁101aに形成されているクロム層11だけが除去されずに残ったままである。研磨により基板100の厚みは約0.34mm程度となった。
【0041】
さらに、
図5(d)に示すように、基板100の表裏面に再びクロムをスパッタすることでクロム層12を形成する。クロム層12の厚さは約500Åである。本実施形態において、このクロム層12を形成する前段において、基板100を酸素雰囲気中に晒すことで、貫通孔101の側壁101aに形成されているクロム層11の表面を酸化させる。これにより、下地層であるクロム層11の主表面は酸化クロム層となる。クロム層11の主表面を酸化させる工程は、クロム層11を形成した後、クロム層12を形成するまでの間において、いつ実施するようにしてもよい。
【0042】
図5(e)に示すように、クロムをスパッタすることでクロム層12を形成した後、基板100の表裏面に連続的に銅をスパッタして銅層13を形成する。銅層13の厚さは600Åである。
図7に、
図5(e)の領域Bを拡大した様子を示す。
図7に示すように、基板100の貫通孔101の側壁101aには、除去されずに残り主表面を酸化させたクロム層11、クロム層12、銅層13が形成されている。クロム層11は、主表面を酸化させていることからクロム層12との密着性が低い。
【0043】
続いて、クロム層12を形成した基板100を、エッチング液(例えば、フェリシアン化カリウム)を用いてウェットエッチングする。これにより、
図5(f)に示すように、貫通孔101の側壁101aに形成されていたクロム層11、クロム層12、銅層13が除去される。
図8に、
図5(f)の領域Cを拡大した様子を示す。
図8に示すように、貫通孔101の側壁101aに形成されていたクロム層11、クロム層12、銅層13は、基板100の表面に形成されたクロム層12、銅層13のみを残すようにして破断されることになる。また、基板100の裏面も全く同様になる。
【0044】
なお、ここではウェットエッチングとしているが、ドライエッチングするようにしても基板100の貫通孔101が最もアタックされ易いため有効である。
【0045】
これは、クロム層12に対して、主表面に酸化クロム層を形成されたクロム層11のエッチングレートが速いことにより、貫通孔101の側壁101aに形成されたクロム層11が選択的にエッチングされたことによって生ずる現象である。また、主表面を酸化クロム層とするクロム層11とクロム層12との密着性は非常に悪いため、エッチング液がクロム層11、クロム層12間へと染み込みやすくなっている。
【0046】
主表面を酸化されたクロム層11が選択的にエッチングされると、クロム層11上に形成されたクロム層12、銅層13は力学的に不安定になるため破断することになる。
【0047】
最後に、
図5(g)に示すように、基板100の表裏面に形成されたクロム層12、銅層13の上に電気銅メッキを施し電気銅メッキ層14を形成することで、本願発明の電子増幅器用基板10が形成されることになる。
【0048】
このようにして形成された電子増幅器用基板10は、電子増幅器に適用し、放射線検出器に利用した場合に良好に放射線を検出することができる。特に、基板100に感光性ガラスを採用したことにより、ポリマーフィルムでは困難であった放射線を安価な材料を用いた電子増幅器用基板10を用いて良好に検出することができる。
【0049】
[実施例]
ここで、
図9、
図10のそれぞれに、感光性ガラスである基板100に対して、本願発明の製造方法を適用せずに作製した電子増幅器用基板50、本願発明の製造方法を適用して作製した電子増幅器用基板10の一部断面図を示す。なお、
図9、
図10は、電気銅メッキ層14を形成する前の段階を示している。
【0050】
図9に示すように電子増幅器用基板50において、貫通孔101の側壁101aには、領域E、Fに示すように金属層であるクロム層12、銅層13が形成されているのが分かる。なお、このときの基板100の厚さは約0.35mm程度、貫通孔101の径は約0.1〜0.12mm程度としている。
【0051】
図10に示すように電子増幅器用基板10において、貫通孔101の側壁101aには、領域G、Hに示すように金属層であるクロム層12、銅層13が形成されておらず綺麗に除去されているのが分かる。なお、このときの基板100の厚さは約0.35mm程度、貫通孔101の径は約0.1〜0.12mm程度としている。
【0052】
また、
図11、
図12のそれぞれに、感光性ガラスである基板100に対して、本願発明の製造方法を適用せずに作製した電子増幅器用基板50、本願発明の製造方法を適用して作製した電子増幅器用基板10の貫通孔101を通過するように切断した断面の一部を走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)で撮影した様子を示す。また、それぞれの貫通孔101の側壁101aに対して、エネルギー分散型X線分析装置(EDS:Energy Dispersive X-ray Spectrometer)を用いて元素分析を行った結果を表1、表2に示す。
【0053】
図11に示すように電子増幅器用基板50において、貫通孔101の側壁101aには、金属層である銅層13がはっきりと形成されたままになっているのが分かる。表1に、EDS分析の結果を示す。なお、EDSの測定パラメータは、以下の通りである。
(測定パラメータ)
加速電圧:15.0kV
照射電流:0.66200nA
経過時間:123.87秒
デッドタイム:19%
有効時間:100.00秒
計数率:3699カウント/秒
プリセット:ライブタイム 100秒
エネルギー範囲:0−20keV
PHAモード:T3
PRZ法 簡易定量分析
フィッティング係数:0.1163
【表1】
表1に示すように、基板100の貫通孔101の側壁101aに付着している銅の原子数は5.58%と非常に高くなっているのが分かる。
【0054】
図12に示すように電子増幅器用基板10において、貫通孔101の側壁101aには、金属層である銅層13がはっきりと除去されているのが分かる。表2に、EDS分析の結果を示す。なお、EDSの測定パラメータは、以下の通りである。
(測定パラメータ)
加速電圧:15.0kV
照射電流:0.66200nA
経過時間:128.58秒
デッドタイム:22%
有効時間:100.00秒
計数率:4598カウント/秒
プリセット:ライブタイム 100秒
エネルギー範囲:0−20keV
PHAモード:T3
PRZ法 簡易定量分析
フィッティング係数:0.1117
【表2】
表2に示すように、基板100の貫通孔101の側壁101aに付着している銅の原子数は1.39%と非常に低くなっているのが分かる。
【0055】
{第2の実施の形態:マスクスパッタによる製造方法}
次に、
図13を用いて、本願発明の第2の実施の形態として示す電子増幅器用基板の製造方法について説明をする。
【0056】
第2の実施の形態では、マスクスパッタを用いて、基板100の貫通孔101の側壁101aだけに直接、下地層を形成してから、その主表面を酸化させて金属層を形成する。そして、ウェットエッチングにより、貫通孔101の側壁101aに形成された下地層と金属層とを除去するようにした製造方法である。
【0057】
まず、
図13(a)に示すような、貫通孔101を形成した感光性ガラスからなる基板100を用意する。
図13(a)に示すように、この感光性ガラスからなる基板100の表裏面には、貫通孔101の位置を開口させた金属製のマスク300、例えばSUS(ステンレス)を配置する。
【0058】
次に、
図13(b)に示すように、基板100の貫通孔101の側壁101aにクロムをスパッタすることでクロム層21を形成する。このクロム層21を、下地層と呼ぶ。
【0059】
次に、
図13(c)に示すように、基板100の表裏面に配置したマスク300を取り外す。これにより、基板100の貫通孔101の側壁101aにのみ下地層としてクロム層21が形成されることになる。
【0060】
このようにして下地層であるクロム層21が形成された基板100を酸素雰囲気中に晒すことで、貫通孔101の側壁101aに形成されているクロム層21の表面を酸化させる。これにより、下地層であるクロム層21の主表面は酸化クロム層となる。
【0061】
図13(d)に示すように、ここでは、金属層として、感光性ガラスである基板100との密着性が高いITO(酸化インジウムスズ)をスパッタすることでITO層22を形成する。ただし、クロム層21は、主表面を酸化させていることからITO層22との密着性が低い。
【0062】
続いて、ITO層22を形成した基板100を、ウェットエッチングする。これにより、
図13(e)に示すように、貫通孔101の側壁101aに形成されていたクロム層21、ITO層22が除去される。このようにして、本願発明の電子増幅器用基板30が形成されることになる。なお、ここではウェットエッチングとしているが、ドライエッチングするようにしても基板100の貫通孔101が最もアタックされ易いため有効である。
【0063】
このようにして形成された電子増幅器用基板30は、電子増幅器に適用し、放射線検出器に利用した場合に良好に放射線を検出することができる。特に、基板100に感光性ガラスを採用したことにより、ポリマーフィルムでは困難であった放射線を安価な材料を用いた電子増幅器用基板30を用いて良好に検出することができる。
【0064】
また、第1の実施の形態にて、電子増幅器用基板を製造する場合には、基板100の表裏面に形成されたクロム層11を研磨する工程を必要とするが、この第2の実施の形態にて電子増幅器用基板を製造する場合には、この研磨工程を省くことができるため製造工程の短縮化を図ることができる。
【0065】
<下地層、金属層として使用できる材料について>
第1の実施の形態では、下地層としてクロムをスパッタしてクロム層11を形成し、導電層として銅をスパッタして銅層13を形成した。この場合には、感光性ガラスと導電層との密着性を考慮してクロム層12を、銅層13を形成する前段に連続的に成膜するようにした。
【0066】
一方、第2の実施の形態では、下地層としてクロムをスパッタしてクロム層21を形成し、導電層として感光性ガラスとの密着性の高いITOをスパッタしてITO層22を形成した。
【0067】
もちろん、第1の実施の形態においても、導電層としてITOをスパッタしてITO層を形成するようにしてもよい。これにより、銅層13を形成する前段にクロム層12を形成する工程を省くことができるため製造工程の短縮化を図ることができる。
【0068】
上述したように、導電層としてITOをスパッタしてITO層を形成する場合、下地層としては、導電層との密着性の低い金属であればよく、クロムをスパッタして形成し酸化させた酸化クロム層以外にも、例えば、ニッケル、タンタル、モリブデンシリコン、アルミ、チッ化クロムなどを利用することができる。
【0069】
また、導電層もITOのように、感光性ガラスである基板100との密着性が高い金属であればどのようなものでもよく、例えば、チタン、タングステン、モリブデン、ニッケル/銅、電気銀メッキ、電気金メッキ、電気銅メッキなどの金属を使用することができる。
【0070】
<下地層を選択的にエッチングする際のエッチング時間について>
基板100の貫通孔101の側壁101aに形成された下地層をエッチングするエッチング時間は、下地層として導電層に対してエッチングレートの高い物質、例えば、第1の実施の形態において、下地層として主表面を酸化クロム層としたクロム層11、導電層として銅層13のようにすることもできるが、下地層と導電層との膜厚を変えることでエッチング時間を調整することもできる。
【0071】
例えば、下地層に対して導電層の膜厚を約2倍とすると、第1の実施の形態、第2の実施の形態における電子増幅器用基板の製造方法のいずれにおいても、下地層の方のエッチングレートが間接的に高くなるため、基板100の貫通孔101の側壁101aに形成された下地層、導電層の力学的な破断を容易に招来することができる。
【0072】
なお、本発明の技術的範囲は上述した実施の形態に限定されるものではなく、発明の構成要件やその組み合わせによって得られる特定の効果を導き出せる範囲において、種々の変更や改良を加えた形態も含む。