(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記応力緩和部は、前記支持枠の前記一端側において前記開口の径を狭めるように設けられるとともに、前記フランジ部に接続されて前記フランジ部を支持する傾斜部である、請求項1に記載の真空容器。
前記フランジ部は、前記支持枠の前記一端側に設けた前記開口において外側に突出するとともに、外縁から内側に折り返されて前記透光窓の外縁を覆う保護部を有する、請求項1に記載の真空容器。
【背景技術】
【0002】
光電撮像装置や光電子増倍管などの光電管は、光電変換用の入力部と、光電変換後の電子を収束させる静電収束系と、収束状態で入射した電子を光に変換して像を形成する出力部とを有する(特許文献1参照)。この光電撮像装置の入力部は、例えばドーム状の外形を有するガラス製の光学窓で形成されており、光学窓の内面には、光電変換物質が塗布されている。
【0003】
光電撮像装置を望遠鏡その他の観察光学系に組み込む用途があり、例えば直径1m弱の比較的大口径の光学窓において0.2mm以下のスポットを形成することができれば、高感度かつ高性能の観察光学系を提供することができる。この場合、0.2mm以下のスポットを形成するためには、光学窓の光学面の形状誤差を0.1mm以下に抑える必要がある。
【0004】
ところで、光電撮像装置は、原理的に電子軌道を用いた静電レンズ系のため、形状精度の高い光学窓と高真空容器とを有し、真空の容器内に静電レンズを配置しなければならない。側面や背面を担う金属容器の加工精度は十分精度よく保てるが、高精度の入力用の光学窓すなわち窓ガラスの製作は困難であった。まず、容器内が真空のため1気圧分の差圧が窓ガラスにかかり、高い光透過率と軽量性を確保するため窓ガラスの厚みをできるだけ薄くしたいという要求と相反することになる。本願発明者がこれまで行ってきた窓ガラスの製作法では、ガラス部材の周縁を熱により垂直近く立てるように変形させることで筒状の部分とし、この筒状部分を熱膨張係数の似た側面を有する金属筒に融着させていた。その際、ガラス部材に対する熱加工による熱ひずみの発生、真空時の応力集中による破砕等の問題があり、大口径になるほど加工精度だけでなく歩留まりも低下していた。
【0005】
なお、光電管に利用される公知の真空容器として、金属製の円筒状バルブと、ガラス製の受光面板とを備えるものが存在する(特許文献2、3等参照)。この真空容器では、円筒状バルブの一端に設けた内向きのフランジと平坦な受光面板の外周とが融着されて、受光面板によって円筒状バルブの一端の開口が塞がれる構造となっているので、高精度の光学性能を確保しつつ受光面板の直径を大きくすることは困難である。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、光学窓の高い精度を確保しつつ開口径を大きくすることができる真空容器及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0008】
上記目的を達成するため、本発明に係る真空容器は、(a)ガラスでドーム状に形成された透光窓と、
(b)金属製で筒状に形成され、一端の開口の縁部に沿って軸方向に垂直に延びるとともに透光窓の外縁を支持するフランジ部を有する支持枠とを備える。
さらに、フランジ部が、透光窓の反対側において軸方向に弾性変形する応力緩和部を介して支持枠に支持されている。
【0009】
本発明の真空容器では、ガラスでドーム状に形成された透光窓を支持枠延いては容器本体で支持するので、透光窓自体の耐圧性を高めフランジ部による透光窓の支持強度を高めることができる。これにより、受光用の透光窓の厚みやフランジ部の厚みの増大等を抑えつつ開口径を大きくすることができ、透光窓を高精度化することができる。
また、応力緩和部の弾性変形によって、フランジ部が軸方向に変位し、その分応力緩和部が例えば直径が増大するように周方向に膨れて、透光窓の外縁を柔軟に支持することができるので、透光窓の歪みや破砕を回避することができる。
【0011】
本発明の別の側面では、応力緩和部が、支持枠の一端側において開口の径を狭めるように設けられるとともに、フランジ部に接続されてフランジ部を支持する傾斜部である。この場合、傾斜部の弾性的変形によって応力を分散させることができ、透光窓の破損を確実に防止できる。なお、傾斜部は、単一の斜面部分に限らず複数の斜面部分で構成することができ、これを構成する板状部材の厚みの調整によってその弾性を調整することができる。
【0012】
本発明のさらに別の側面では、フランジ部と傾斜部との間に挟まれて例えば楔状の断面を有する凹部に充填される補強材部分をさらに有する。補強部材の材質の選定によってその弾性を調整することができる。この場合、補強材部分が傾斜部やフランジ部と一体となって力を吸収するように変形し、透光窓の破損をより確実に防止できる。
【0013】
フランジ部が、支持枠の一端側に設けた開口において外側に突出するとともに、外縁から内側に折り返されて透光窓の外縁を覆う保護部を有する。この場合、フランジ部の強度を高めることができ、フランジ部による透光窓の封止を確実なものとできる。
【0014】
本発明のさらに別の側面では、支持枠が、軸方向に垂直な平
面に沿って突出又は陥没する環状の強化部を有する。この場合、支持枠の外圧に対する強度を相対的に高めることができる。
【0015】
本発明のさらに別の側面では、透光窓の外縁が、フランジ部の支持面に当接する当接面を有し、支持面と当接面とが、透光窓よりも軟化点が低い半田ガラス層を介してシールされている。この場合、透光窓の加熱による変形を抑制しつつ、ガラスで形成された透光窓を金属製で形成された支持枠に固定することができ、接着用の熱加工に伴う変形や強度の低下を防止することができる。
【0016】
本発明に係る真空容器の製造方法は、(a)ガラスでドーム状に形成された透光窓を準備する工程と、(b)金属製で筒状に形成され一端の開口の縁部に沿って軸方向に垂直に延びるフランジ部を有する
とともに、当該フランジ部を軸方向に弾性変形する応力緩和部を介して支持する支持枠を準備する工程と、(c)透光窓の外縁を透光窓よりも軟化点が低い半田ガラスを介してフランジ部に接着することにより、透光窓の外縁をフランジ部に支持させる工程とを備える。
【0017】
本発明の製造方法では、ガラスでドーム状に形成された透光窓を支持枠延いては容器本体で支持するので、透光窓自体の耐圧性を高めフランジ部による透光窓の支持強度を高めることができ、受光面板の厚みの増大等を抑えつつ開口径を大きくすることができる。さらに、透光窓の支持のため透光窓の外縁を透光窓よりも軟化点が低い半田ガラスを介してフランジ部に接着するので、熱加工に伴う透光窓の変形や強度の低下を防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態に係る真空容器を説明するため、かかる真空容器を利用した観察光学系の構造等について説明する。
【0020】
図1に示す観察光学系40は、シュミット型の望遠鏡であり、補正板41と、結像ミラー42と、光電撮像装置43とを備える。補正板41の光入射面41a及び光射出面41bの少なくとも一方は、球面又は非球面となっており、光束LLの光路を補正する。補正板41は、図示のように1枚構成のものに限らず、複数枚の構成とできる。結像ミラー42は、球面又は非球面の反射面42aを有し、補正板41を経た光束LLを集光して観察対象の像を形成する。光電撮像装置43は、本体が真空容器100内に収納された構造を有しており、光電変換用の入力部43aと、光電変換後の電子を収束させる静電収束系43bと、収束状態で入射した電子を光に変換して像を形成する出力部43cとを有する。
【0021】
この光電撮像装置43の入力部43aは、金属製の容器本体70の開放側の一端に固定されている。入力部43aは、球殻状の外形を有するガラス製の光学窓である透光窓10を有しており、透光窓(光学窓)10の内側には所定の特性を有する光電変換物質の蒸着によって光電変換面15が形成されている。静電収束系43bは、容器本体70の側壁内面に支持されている。静電収束系43bは、複数の電子収束用の電極部分51〜55を有している。出力部43cは、容器本体70の底部に固定されている。出力部43cは、例えばファイバーオプティックプレート60で形成され、入射面60aには、所定の特性を有する蛍光体が塗布されている。ファイバーオプティックプレート60の入射面60aは、静電収束系43bの結像面の位置に配置されており、静電収束系43bの結像面と一致するような面形状を有している。
【0022】
図2A及び2Bは、真空容器100の一部であって、入力部43aに相当する部分を説明する平面図及び側方断面図である。図示のように、真空容器100の入力部43aは、ドーム状の透光窓10と、筒状の支持枠20とを備える。このうち、支持枠20は、本体として側壁部21を含み、側壁部21の一端側から拡張した部分で透光窓10を支持し、側壁部21の他端側で
図1の容器本体70に接続されている。透光窓10、支持枠20、及び容器本体70によって形成される真空容器100の内部空間ISは、減圧されて高真空状態に維持されている。
【0023】
透光窓10は、外部に突起する球殻部分であり、円形の外周を有する。透光窓10は、ガラス製で、1気圧の外圧に耐えられる強度を有する。透光窓10のガラス材料としては、例えばコバールガラス等のホウケイ酸ガラスを用いることができる。透光窓10は、観察光の波長域で高い光透過性を示す。透光窓10は、例えば直径570mm程度、厚さ8mm程度のものであり、外面11及び内面12は、曲率半径720mm程度の球面であり、鏡面に加工されている。透光窓10の外縁10aは、透光窓10の軸AXに垂直で外縁10aを含む平面P1に平行な環状の当接面14を有している。なお、透光窓10の内面12上には、入射光を光電子に変換する光電変換層が成膜され、光電変換面15となっている。内面12や外面11の曲率は、透光窓10の強度を維持できる範囲内で適宜調整することができる。真空容器100の前段の光学系(例えば
図1の結像ミラー42)の焦点面が内面12と一致しない場合、透光窓10の内側の内部空間IS中に光電変換層を有する光透過層を別途設けることもできる。
【0024】
図3に示すように、透光窓10の当接面14は、平坦面に加工されており、後述する半田ガラス層30を介して支持枠20の上端に設けた開口APの縁部20aに支持されている。
【0025】
図2B等に戻って、真空容器100を構成する支持枠20の側壁部21は、軸AX方向を軸方向とする円筒部分であり、上端に円形の開口APを有する。側壁部21は、例えば鉄、ニッケル、及びコバルトの合金であるコバール等で形成され、1気圧の外圧に耐えられる強度を有する。本実施形態の場合、側壁部21は、例えば1.5mm程度の厚みを有する管材コバールを加工したものであり、胴まわりに補強のため帯状の凹凸(具体的には後述する突起29)を有している。
【0026】
図3を参照して、側壁部21の上端の凹凸構造について説明する。側壁部21の上端には、これに連接するように、透光窓10の外縁10aを支持するためのフランジ部22が設けられている。フランジ部22は、側壁部21と同一の材料から一体的に形成されたものであり、側壁部21の上端から上下の軸AX(
図2A及び2B参照)に垂直な外方向に延びている。フランジ部22は、透光窓10の当接面14と同様に平面P1に平行な支持面24を有している。フランジ部22の幅は、例えば開口APの直径の1/25程度である。
【0027】
フランジ部22の支持面24と透光窓10の当接面14との間には、薄い半田ガラス層30が存在する。この半田ガラス層30は、透光窓10のガラス材料や側壁部21の金属材料よりも軟化点が低い半田ガラスで形成されており、フランジ部22の支持面24と透光窓10の当接面14とに挟まれた状態で加熱されることによりこれらと溶融し、真空容器100の内外をシールする。半田ガラス層30の材料は、フランジ部22や透光窓10の材料との融着性、融着後の歪みの発生状態等を考慮して選択する。半田ガラス層30は、例えばガラスをベースとして粉末状に作製されたフリットガラスで形成されており、融着後はスペーサーとして数100μmの膜厚を有している。また、その組成はPbO−B
2O
3(COM)又はPbO−B
2O
3−SiO
2等からなっていて、フランジ部22の金属と略同じ線膨張係数をもっている。
【0028】
フランジ部22は、側壁部21の上端に設けた傾斜部25に支持されている。傾斜部25は、湾曲部25aと鉛直部25bとを有する。湾曲部25aは、開口APの径を図面上の先端側で狭めるように傾斜するとともに、外側に凸で内側に凹となるように(つまり外側に出っ張るように)湾曲した状態となっている。鉛直部25bは、下端で湾曲部25aに連結され、上端でフランジ部22に連結されている。つまり、フランジ部22は、傾斜部25の上端を外側に大きく折り返すように形成されて傾斜部25に接続されている。傾斜部25は、上下に延びる軸AX(
図2B参照)の方向に弾性的に撓み変形する応力緩和部として機能する。つまり、フランジ部22は、応力緩和部としての傾斜部25を介して側壁部21に支持されている。これにより、上下に弾性変形する傾斜部(応力緩和部)25に支持されたフランジ部22も軸AX方向に変位し、透光窓10の外縁10aを柔軟に支持することができるようになり、透光窓10の歪みや破砕を回避することができる。このため、傾斜部25やフランジ部22のサイズや厚みは、透光窓10のサイズ等を考慮して設定されている。傾斜部25の横幅は、例えば開口APの直径の1/20程度であり、例えば17mm程度の曲率半径を有している。傾斜部25における肉厚は、透光窓10のサイズ等にもよるが、例えば1.2mm〜1.5mm程度となっている。
【0029】
フランジ部22の外縁には、内側に傾斜した帯状の保護部26が形成されている。保護部26は、フランジ部22の形状を保つ役割を有し、フランジ部22の外縁を内側に大きく折り返したように形成されている。保護部26は、円錐面の一部に相当するものとなっており、保護部26の幅は、例えばフランジ部22の幅の1/80程度であり、上下に延びる軸AX(
図2B参照)に対して例えば45°程度傾斜している。
【0030】
フランジ部22と傾斜部25との間には、断面楔状の凹部又は窪みREが形成されている。この窪みREは、全体としては、側壁部21の周に沿うように、すなわち
図2Bの軸AXの周りに環状に配置されており、補強材で充填されている。窪みREを充填することによって形成された補強材部分27は、フランジ部22に沿ってフランジ部22の直下に形成される環状の部分となっている。補強材部分27は、フランジ部22や傾斜部25と一体となって外力を吸収するように変形し、透光窓10の破損を確実に防止する役割を有している。補強材部分27を形成する補強材としては、真空ベーキングその他の高温処理に耐熱性を有し、かつ、内部空間ISを真空にしたときの応力集中を抑制するものが好適に用いられる。つまり、応力の集中を透光窓10のガラス弾性限界や半田ガラス層30の接合強度限界よりも小さくできるように、補強材部分27の材料として、適度なヤング率を有する補強材が選択される。かかる補強材としては、例えばエポキシパテ等を用いることができる。補強材部分27の材料としては、上記のエポキシパテに限らず、フランジ部22の金属より若干柔らかく低いヤング率を有し窪みREを隙間なく充填可能な充填材であれば、各種の有機、無機、又はこれらの複合材料を用いることができる。
【0031】
側壁部21の下端には、
図1に示す容器本体70と接続されるフランジ部28が設けられている。フランジ部28は、側壁部21の下端から軸AXに垂直な外方向に延びており、全体としては、
図2Bの軸AXの周りに環状に配置されている。フランジ部28は、容器本体70の開口部に溶接等によって接続される。また、側壁部21の中段には、帯状の突起29が形成されており、軸AXに垂直な平面に沿って延びている。この帯状の突起29は、側壁部21の強度を高める強化部としての機能を有している。なお、真空容器100の内部空間ISを高真空に減圧した場合、支持枠20によって透光窓10にかかる大きな荷重を受けることになるが、この際、フランジ部22や傾斜部25が弾性変形するだけでなく、側壁部21が中央で外側に僅かに撓むように変形する。
【0032】
以下、
図2A及び2Bに示す真空容器100の製造方法について説明する。まず、透光窓10を準備する。透光窓10は、板状のコバールガラスその他の光学ガラスを球面に変形させ、その表裏の表面に研削処理、研磨処理等を施すことにより、鏡面の外面11及び内面12を形成したものである。
【0033】
これと並行して、支持枠20を準備する。例えばコバールで形成された管材を準備し、この管材にプレス加工等によって端部を折り曲げたり凹凸を形成したりして、
図3に示すような断面形状の支持枠20を得る。具体的には、傾斜部25を含む側壁部21やフランジ部22が順次形成される。さらに、フランジ部22の外縁が折り曲げられて、保護部26が形成される。
【0034】
次に、支持枠20に設けたフランジ部22の支持面24上に半田ガラスの粉末又はペーストを配置し、透光窓10を側壁部21のフランジ部22上にセットする。これにより、透光窓10の当接面14とフランジ部22の支持面24との間に半田ガラスが保持された状態となる。この状態で、透光窓10を載置した支持枠20を加熱炉内に搬入して加熱する。この際の加熱温度は、半田ガラスの融点以上とし、透光窓10のガラス材料や支持枠20の金属材料の軟化点や融点よりも十分低いものとする。これにより、半田ガラスのみが溶融して半田ガラス層30を形成し、当接面14と支持面24とを接着し、透光窓10と支持枠20とを気密にシールする。
【0035】
半田ガラス層30の形成後は、透光窓10と支持枠20とを徐冷する。これにより、半田ガラス層30等に歪が残ることを防止できる。
【0036】
その後、フランジ部22と傾斜部25との間の窪みREに補強材を充填して補強材部分27を形成する。これにより、入力部43aが完成する。
【0037】
以上の工程で作製された入力部43aは、これに設けたフランジ部28を利用して、
図1に示す容器本体70の開口OPの周囲に形成された縁部に対して溶接によって固定される。これにより、入力部43aと容器本体70とを組み合わせた真空容器100が完成する。
【0038】
最後に、容器本体70等を適度に加熱しつつ容器本体70に設けた不図示の排気部から内部空間ISを減圧し、適度な真空度に達した段階でこの排気部をシールする。これにより、真空容器100の内部が所期の真空度に設定され、真空容器100が真空容器として機能する状態になる。なお、容器本体70には、静電収束系43bや出力部43cが組み付けられており、真空容器100の減圧によって光電撮像装置43の製造が完了する。
【0039】
図4は、実施例の真空容器100に加わる応力変形シミュレーション結果を説明するチャートである。この場合、透光窓10の材料としてコバールガラスを用い、支持枠20の材料としてコバールを用い、半田ガラス層30の材料としてフリットガラスを用いている。
図4は、
図2Bの右半分に対応しており、応力の等高線(単位はPa)を示している。図中点線は、応力の変形前の形状や配置を示しており、縦方向の変形(例えば透光窓10の下側への移動)が100倍に誇張して表示されている。図からも明らかなように、透光窓10の全体に略一様な応力が形成されており、支持枠20においても、フランジ部22、傾斜部25、補強材部分27等に生じる応力は比較的低く抑えられていることが分かる。具体的には、透光窓10の全体で、応力分布は11MPa程度以下に収まっており、外縁10aの最外縁でも、十数MPaを越える部分がない。また、支持枠20における応力は図では分からないが最大で72MPaとなっている。これらの間に設けた半田ガラス層30における応力(主応力及びせん断応力を含む)は最大で2MPa程度となっている。なお、実施形態の真空容器100は、透光窓10に30MPaの応力が加わることを想定しており、支持枠20に500MPaの応力が加わることを想定している。
【0040】
図5は、変形例の真空容器100に加わる応力変形シミュレーション結果を説明するチャートである。この場合、支持枠20から補強材部分27が省略されている。図からも明らかなように、透光窓10の全体に略一様な応力が形成されており、支持枠20等に生じる応力も比較的低く抑えられていることが分かる。具体的には、透光窓10の全体で10MPa程度以下に収まっており、外縁10aの最外縁でも十数MPaを越える部分がない。また、支持枠20における応力は最大で303MPaとなっている。これらの間に設けた半田ガラス層30における応力は−80〜22MPaの範囲となっている。このことから、補強材部分27を省略した場合、透光窓10における応力低減の効果が認められるが、支持枠20や半田ガラス層30では応力が増加する傾向にある。つまり、真空容器100のサイズにもよるが、補強材部分27によって、支持枠20や半田ガラス層30の部分での破砕に対する耐性を簡易に高められることがわかる。
なお、数十年のスケールで真空容器100を用いる場合、真空容器100の耐久性を高める観点で、上記のような補強材部分27を設けることが望ましい。また、運搬や気圧の変化等に起因する圧力変動及び衝撃に対する強度を考えた場合も、上記のような補強材部分27を設けることが望ましい。さらに、真空容器100の製造の歩留まりを高める観点でも、上記のような補強材部分27を設けることが望ましい。つまり、支持枠20の側壁部21等を形成する材料は、価格その他の入手しやすさの観点で採用される場合があるが、このような場合に採用された金属板のみの応力変形ではガラスの破壊限界に関するマージンが小さくなることがある。よって、補強材部分27を用いることで安全係数を高める効果が生じ、真空容器100の製造歩留まりを確実に高めることができる。
【0041】
図6は、比較例の真空容器100に加わる応力変形シミュレーション結果を説明するチャートである。比較例では、透光窓10用のガラス部材の周縁を熱により垂直近く立てるように変形させることで筒状の部分とし、この筒状部分を熱膨張係数の似た側面を有するコバール金属筒220に融着させている。図からも明らかなように、透光窓10の外縁10aの屈曲部では、26MPaに達している。つまり、透光窓10に限界に近い応力が生じていることになり、何らかの衝撃で透光窓10の損傷が生じやすい。
【0042】
以上の説明から明らかなように、本実施形態の真空容器100では、ガラスでドーム状に形成された透光窓10を支持枠20で支持するので、透光窓10自体の耐圧性を高め支持枠20に設けたフランジ部22による透光窓10の支持強度を高めることができる。これにより、透光窓10や側壁部21の厚みの増大等を抑えつつ開口径を大きくすることができる。
【0043】
以上実施形態に即して本発明を説明したが、本発明は、上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0044】
実施形態の真空容器100では、透光窓10の線膨張係数と支持枠20の線膨張係数とを略一致させているが、透光窓10の材料としては、既述のコバールガラスに限らず、ノネックス、モリブデンガラス等を用いることもできる(「ガラス工学ハンドブック」の電子管用ガラス参照)。ノネックスは、タングステン又はその合金等でできた支持枠20と相性のよいホウケイ酸ガラスである。モリブデンガラスは、モリブデン又はその合金等でできた支持枠20と相性のよいホウケイ酸ガラスである。
【0045】
真空容器100の用途により、真空容器100の支持枠20に設けた窪みREに補強材部分27を充填しない態様も可能である。つまり、支持枠20に付随して設ける補強材部分27については、必須のものではなく、支持枠20の金属材料だけである程度の応力分散効果が得られる場合、省略することもできる。また、窪みREの断面形状も、楔に限らずコ字、U字、W字その他とすることができる。
【0046】
実施形態の真空容器100では、支持枠20に補強材部分27を設けた後に容器本体70内を減圧しているが、容器本体70を減圧及びシールによって真空容器した後に支持枠20の周囲の凹所(特に窪みRE)に補強材部分27を充填するように設けることもできる。このように工程の前後を入れ替えることにより、容器本体70内の減圧時における加熱(すなわちベーキング)を高温化でき、真空容器100内の真空度を高めやすい。
【0047】
実施形態の真空容器100では、支持枠20の側壁部21の下端に容器本体70を直接接続しているが、側壁部21の下端に追加の側壁部を接続することもできる。この場合、側壁部21を継ぎ足しによって実質的に延長することができる。また、容器本体70と支持枠20とに分けて連結するのではなく、容器本体70と支持枠20とを当初から一体化して作製することもできる。
【0048】
また、側壁部21のフランジ部22の先端に設けた保護部26と透光窓10の外縁10aとの間に隙間を設けこの隙間に補強材を充填することもできる。
【0049】
透光窓10の厚みについては、これを一様にする必要はなく、透光窓10自体を例えば球面又は非球面のメニスカス等のレンズ状として集光又は発散機能を持たせることもできる。
【0050】
側壁部21の上端に設けた傾斜部25は、例示の形状に限らず、様々な形状とすることができる。たとえば、傾斜部25を複数の斜面部分(具体的には、断面が直線的で光AXに対して傾斜した環状の板状部材、或いは断面が曲線的で軸AXに対して傾斜した環状の板状部材等)で構成することができ、斜面部分を構成する板状部材の厚み等の調整によってその弾性又は撓み変形量を調整することができる。断面が曲線的で軸AXに対して傾斜した環状の板状部材については、外側に出っ張るようなものに限らず、内側に出っ張るようなものとできる。
【0051】
以上で説明した透光窓10や側壁部21の形状や寸法は、単なる例示であり、真空容器100の用途等に応じて適宜変更することができる。例えば透光窓10の輪郭は、楕円等に変更することができ、この場合、側壁部21も楕円断面を有するものとなる。
【0052】
以上で説明した真空容器100は、光電撮像装置や光電子増倍管などの光電管に用いられ、かかる光電管は、微弱光を高速度撮影可能な車載イメージセンシング装置の結像系、レーザー散乱光を用いた大気監視技術、突発事故等の災害や危機の監視技術、医療等のリアルタイム診断観察技術、X線やPETその他の検査診断技術等に応用することができる。