【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、独立行政法人情報通信研究機構、「革新的光ファイバの実用化に向けた研究開発」委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、SMFを用いた既存の伝送技術を超える大容量伝送技術の一つとして、マルチコアファイバ(MCF)が提案されている。MCFとは、1つのクラッドの中に複数のコアを有する構造の光ファイバである。MCFの各コアに信号を伝搬させることで多重度の向上が実現される。SMF同様、MCFにおいても長手方向の分布特性を評価することが要求される。しかし、MCFの特性は、SMFと同様の方法では評価できない。なぜなら、MCFには、クロストーク(XT)と呼ばれる、コアを伝搬する光信号が別のコア(伝搬モード)との間で互いに干渉する現象が生じるため、SMFと同様の方法で評価するとXTが誤差の原因となるからである。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、マルチコアファイバの特性を評価することが可能な光ファイバの特性評価方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題の解決策として、本発明者は、i)双方向から入射した際の後方散乱光強度波形と、ii)XT特性を測定し、それらの結果と従来の双方向理論を発展させた理論を用いることで、MCFの長手方向の特性を評価できることを発明した。
【0007】
前記課題を解決するため、本発明は、異なる2種類の参照ファイバと、マルチコアファイバとを有
し、前記異なる2種類の参照ファイバがそれぞれシングルモードファイバからなる光ファイバ伝送路に波長λのパルス光を入射し、前記光ファイバ伝送路の長手方向の位置zの関数として、前記光ファイバ伝送路の両端からの後方散乱光強度S
1(λ,z)およびS
2(λ,z)(単位:dB)を測定し、前記後方散乱光強度S
1(λ,z)およびS
2(λ,z)と、任意の方法で測定された前記マルチコアファイバのクロストークとから、前記マルチコアファイバの構造成分に依存した損失成分I(λ,z)を評価することを特徴とする、光ファイバの特性評価方法を提供する。
【0008】
また、本発明は、異なる2種類の参照ファイバと、マルチコアファイバとを有
し、前記異なる2種類の参照ファイバがそれぞれシングルモードファイバからなる光ファイバ伝送路に波長λのパルス光を入射し、前記光ファイバ伝送路の長手方向の位置zの関数として、前記光ファイバ伝送路の両端からの後方散乱光強度S
1(λ,z)およびS
2(λ,z)(単位:dB)を測定し、前記後方散乱光強度S
1(λ,z)およびS
2(λ,z)と、任意の方法で測定された前記マルチコアファイバのクロストークとから、前記マルチコアファイバの構造成分に依存した損失成分I(λ,z)を導出し、前記構造成分に依存した損失成分I(λ,z)と、前記異なる2種類の参照ファイバのモードフィールド径および構造成分に依存した損失成分とを用い、前記光ファイバ伝送路の任意の位置zにおけるモードフィールド径、比屈折率差、導波路分散、波長分散から選択される分布特性を評価することを特徴とする、光ファイバの特性評価方法を提供する。
【0009】
また、本発明は、異なる2種類の参照ファイバである第1参照ファイバおよび第2参照ファイバと、マルチコアファイバとを有
し、前記異なる2種類の参照ファイバがそれぞれシングルモードファイバからなる光ファイバ伝送路に波長λのパルス光を入射し、前記光ファイバ伝送路の長手方向の位置zの関数として、前記光ファイバ伝送路の両端からの後方散乱光強度S
1(λ,z)およびS
2(λ,z)(単位:dB)を測定し、前記後方散乱光強度S
1(λ,z)およびS
2(λ,z)と、任意の方法で測定された前記マルチコアファイバのクロストークとから、前記マルチコアファイバの構造成分に依存した損失成分I(λ,z)を導出し、前記構造成分に依存した損失成分I(λ,z)と、前記異なる2種類の参照ファイバのモードフィールド径および構造成分に依存した損失成分とを用い、第1参照ファイバのモードフィールド径を2w(λ,z
0)、第1参照ファイバの構造成分に依存した損失成分をI(λ,z
0)、第2参照ファイバのモードフィールド径を2w(λ,z
1)、第2参照ファイバの構造成分に依存した損失成分をI(λ,z
1)として、前記光ファイバ伝送路の任意の位置zにおけるモードフィールド径の分布を、後述する式(17)により評価することを特徴とする、光ファイバの特性評価方法を提供する。
また、本発明は、前記光ファイバの特性評価方法であって、前記シングルモードファイバが、汎用のシングルモードファイバ、分散シフトファイバまたはノンゼロ分散シフトファイバであることを特徴とする、光ファイバの特性評価方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、マルチコアファイバの特性を評価することが可能な、新規の光ファイバの評価方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
一実施形態として、次の第1〜第3の工程を備える方法について述べる。
第1の工程として、MCFを含む光ファイバ伝送路の両端からそれぞれOTDRで後方散乱光強度を測定する。第2の工程として、MCFを含む光ファイバ伝送路の片端からOTDR測定を行う際、励振されたコアとそのコアに隣接するコアからの後方散乱光をそれぞれ測定して、クロストークを評価する。第3の工程として、第1および第2の工程の結果から、MCFの長手方向の特性を評価する。第1の工程と第2の工程の順序は限定されず、どちらを先に実施してもよい。
【0013】
本明細書において、OTDRとは、オプティカルタイムドメインリフレクトメトリー(OTDR法)またはオプティカルタイムドメインリフレクトメータ(OTDR装置)をいう。
【0014】
光ファイバ(伝送路)の端を特定して、その端からの後方散乱光強度というときは、その端にOTDRを接続して測定される後方散乱光強度を意味する。
両端からの後方散乱光強度というときは、一端からの後方散乱光強度および別の一端からの後方散乱光強度(両者の総称)を意味する。光ファイバ伝送路の両端からの後方散乱光強度とは、光ファイバ伝送路の双方向OTDR測定により得られる2つの後方散乱光強度である。
【0015】
MCFのコアを特定して、そのコアからの後方散乱光強度というときは、そのコアにOTDRの受光器を接続して測定される後方散乱光強度を意味する。この場合、そのコアにOTDRからパルスが入射されるとは限らない。
【0016】
光ファイバ(伝送路)の長手方向に沿った座標上の位置(その位置が端に一致しない場合と端に一致する場合とを含む。)を特定して、その位置における後方散乱光強度というときは、その位置で後方に散乱してOTDRに戻ってきて測定される後方散乱光強度を意味する。
【0017】
まず、MCFにおけるクロストークの理論式について述べる。
MCFの一端を原点として定義された位置zにおける後方散乱光強度をP(z)、損失係数をαとする。また、MCFのコア間における電力結合係数をhとする。2コアのMCFにおける、z=0の端(入射端)からパルス光を入射した場合のコア間における電力(パワー)のやり取りは、次式(1)の電力結合方程式で記述できる。
【0019】
式(1)では、各コアに関するパラメータを区別するため、第1コアに沿った位置zにおける後方散乱光強度をP
1(z)、第1コアの損失係数をα
1、第2コアに沿った位置zにおける後方散乱光強度をP
2(z)、第2コアの損失係数をα
2と表記する。第1コアから第2コアへの結合に関する電力結合係数h
1,2と第2コアから第1コアへの結合に関する電力結合係数h
2,1とは区別せず、h
1,2=h
2,1=hと仮定する。
【0020】
ここで、パルス光が入射されるコアを第1コアと特定するため、z=0でP
1(z)=P
0、P
2(z)=0という境界条件を設定する。この場合、上記の電力結合方程式の解は次式(2)で与えられる。
【0022】
ここで、簡単のために、α
1=α
2=αと仮定すると、式(2)は次式(3)のように簡単になる。
【0024】
したがって、位置zでのクロストークXT(z)は、XT(z)=P
2(z)/P
1(z)により、次式(4)で与えられる。
【0026】
次に、MCFに参照ファイバ(通常のSMF)を接続してOTDR測定した場合について考える。
図1に解析モデルを示す。この解析モデルでは、長さl
0の参照ファイバ11の後に長さLのMCF12が接続された光ファイバ伝送路10が使用される。この光ファイバ伝送路10の長手方向に沿った座標上の位置zの原点(z=0)は、参照ファイバ11の一端に設定されている。参照ファイバ11上の点は0≦z≦l
0の区間内にある。MCF12上の点はl
0≦z≦l
0+Lの区間内にある。参照ファイバ11は単一コアのSMFからなる。z=0の端(
図1の左端)からの後方散乱光強度(単位dB)はS
1(λ,z)であり、z=l
0+Lの端(
図1右端)からの後方散乱光強度(単位dB)はS
2(λ,z)である。
【0027】
詳しくは後述するが、参照ファイバ11は、2種類の参照ファイバ11a,11bを長手方向に続けて接続した構成を有する。2種類の参照ファイバ11a,11bは、長さの合計が既知(ここではl
0)であればよく、内訳(配分)は任意である。MCF12の有する複数のコアのうち、参照ファイバを通じてパルス光が入射するコアを第1コアと定義する。つまり、MCFの第1コアは参照ファイバのコアに接続されている。
【0028】
まず、参照ファイバ側(z=0)の端からパルスを入射する場合を考察する。z≦l
0の場合には、通常のOTDR特性と全く変わらない。しかし、z≧l
0の場合には、MCFにパルスが入射するので、式(1)で示されるような結合特性をしながら前方および後方に散乱が生じる。この物理現象を数式で記述すると次式(5)で表現できる。P
1(λ,z)は、第1コアからの後方散乱光強度である。なお、等号を含む不等号「≧」および「≦」に関して、フォントの都合上、数式中では「>」および「<」の下に置かれる等号の線を一本省略した記号を用いた。
【0030】
ここで、P
0はOTDRからの入射パワー(定数)であり、α
s(z)はファイバの散乱係数、B(λ,z)は捕獲率を表す。
また、第1コアに隣接する第2コアからの後方散乱光強度P
2(λ,z)は、次式(6)のように記述できる。
【0032】
P
1(λ,z)+P
2(λ,z)の和は、z≦l
0およびz≧l
0の両方で、P
0α
s(z)B(λ,z)exp(−2αz)に等しい。
したがって、OTDRで求まる隣り合うコア間のクロストークXT(λ,z)は、XT(λ,z)=P
2(λ,z)/P
1(λ,z)により、次式(7)で与えられる。
【0034】
式(7)を式(4)と比較すると、式(7)の2(z−l
0)が式(4)のzに相当する。この2(z−l
0)は、座標zの位置で後方散乱光が発生した場合に、MCF内で光が往復する距離に等しい。
【0035】
片端からパルスを入射させるOTDRにより、XT(λ,z)の分布をzの関数として測定することが可能である。また、l
0は既知である。したがって、式(7)を用いて電力結合係数hを求めることができる。また、このクロストークを評価する測定系の一つとしては、
図2のような市販のOTDRを改良した構成を例示することができる。このOTDR装置100の特徴は、後方散乱光を受光するポートを複数有することである。これにより、求めたいポートでの後方散乱光を受光するために光スイッチを切り替えることができる。
【0036】
図2のOTDR装置100は、概略次のように動作する。パルス発生器101は、電気パルスを発生し、光源102に出力する。光源102は、電気パルスに対応したパルス光を発生する。パルス光は、方向性結合器103および第1ポート104を経て、光ファイバ伝送路に入射される。第1ポート104は、MCFの第1コアにパルス光を入射可能なように接続される。第1コアから戻ってきた後方散乱光は、第1ポート104および方向性結合器103を経て、光スイッチ106に供給される。
【0037】
第2ポート105は、MCFの第2コアに接続される。第2ポート105とMCFの第2コアとの間は、参照ファイバ以外の光ファイバを介して接続してもよい。
図2では、2つのポートを図示したが、3以上のポートを有するOTDR装置を構成することも可能である。MCFのコア数と同数(またはそれ以上)のポートを設けて、MCFの各コアをそれぞれ別のポートに接続するようにしてもよい。各コアと各ポートとを接続する光ファイバの構成は、参照ファイバと同一でも異なってもよい。MCFの2以上のコアにそれぞれSMFを接続する場合、MCFと各SMFとの間に、コア間隔が長手方向に変化する分岐部材(ファンイン・ファンアウトデバイス)を介在させてもよい。この種の分岐部材として、例えば、SMFに接続される側がそれぞれSMFと同種の複数の光ファイバに分岐され、MCFに接続される側のコア間隔が接合または融合によりテーパ状に縮小している、ファイババンドルが挙げられる。
【0038】
第2コアから戻ってきた後方散乱光は、第2ポート105および方向性結合器103を経て、光スイッチ106に供給される。光スイッチ106は、第1ポート104または第2ポート105のいずれか一方を選択する。光スイッチ106により選択された後方散乱光は、受光器107に受光される。受光器107は、後方散乱光を電気信号(後方散乱光情報)に変換する。
【0039】
得られた後方散乱光情報は、増幅器108により増幅された後、デジタルプロセッシングシステム109に供給される。パルス発生器101で発生した電気パルスは増幅器108にも供給されるので、デジタルプロセッシングシステム109は、電気パルスと後方散乱光情報とが合成された電気信号を受け取る。電気パルスと後方散乱光情報との時間差を距離に換算することにより、後方散乱光強度の分布(距離と後方散乱光強度との関係)を求めることができる。デジタルプロセッシングシステム109は、後方散乱光強度の分布を求めるだけでなく、種々の電算処理を行うことができる。ディスプレイ110は、デジタルプロセッシングシステム109から受け取った処理の結果を表示することができる。
【0040】
クロストークを評価する測定手順においては、MCFに参照ファイバを接続しても、しなくてもよい。参照ファイバを介在させないで直接MCFにパルス光を入射させる場合は、参照ファイバの長さl
0を0とする。参照ファイバを介在させる場合も、2種類の参照ファイバを用いる場合に限られない。電力結合係数hを求めることができれば、OTDRに限定されず、任意の方法が利用可能である。
【0041】
次に、反対側、すなわち
図1のMCF12側(z=l
0+L)の端からパルスを入射してOTDR測定した場合を考察する。この場合に位置zにおける後方散乱光強度P
3(λ,z)は、次式(8)のように記述できる。
【0043】
ここで、P
1はOTDRからの入射パワー(定数)であり、α
s(z)はファイバの散乱係数、B(λ,z)は捕獲率を表す。P
1は式(5)のP
0とは異なる定数であり、P
1(λ,z)とも異なる。
【0044】
次に、S
1(λ,z)=10logP
1(λ,z)、S
2(λ,z)=10logP
3(λ,z)として、S
1(λ,z)およびS
2(λ,z)を定義する。logは常用対数(底が10の対数)である。式(5)および式(8)から、式(9)および式(10)が得られる。
【0047】
ここで、eは、指数関数expまたは自然対数lnの底(ネイピアの数)である。
式(9)および(10)式は、構造不整とクロストークの両方の損失成分を含んでいるので、構造不整(構造成分)に依存した損失成分を考えると、式(9)および式(10)より次の式(11)および式(12)のように変形できる。
【0050】
したがって、構造成分に依存した損失成分I(λ,z)は、次式(13)のように記述できる。
【0052】
式(13)において、hを含む項がクロストーク(XT)によって生成する項である。
式(13)のうち、S
1(λ,z)およびS
2(λ,z)が双方向OTDR(両端からのOTDR)によって求まる値であり、hはXTの測定結果より求まる値である。よって、これらの測定結果よりI(λ,z)を求めることができる。
【0053】
また、規格化された構造成分に依存した損失成分I
n(λ,z)は以下の式(14)で表されることが知られている。
参考文献1:M.S.O′Sullivan,et al.,“Interpretation of SM fiber OTDR signatures,” in Proc.SPIE′86 Optics Testing Metrology,vol.661,pp.171−176 1986.
【0055】
I(λ,z)は、波長λおよび位置zにおける構造成分に依存した損失成分を表す。α
s(z)は位置zにおける光ファイバの散乱係数を表す。n
2(z)は、位置zにおける屈折率の二乗である。w(λ,z)は、波長λおよび位置zにおけるモードフィールド半径(MFDの半分)である。I(λ,z
0)、α
s(z
0)、n
2(z
0)およびw(λ,z
0)は、それぞれ、第1参照ファイバ11a中の位置z=z
0におけるI(λ,z)、α
s(z)、n
2(z)およびw(λ,z)の値を表す。
【0056】
また、式(14)は次式(15)のように記述することもできる。
【0058】
A(λ)およびC(λ)は、それぞれ波長λの関数である。
この式(15)は任意のzに対して成り立つので、第1参照ファイバ11a中の位置z=z
0のとき、および第2参照ファイバ11b中の位置z=z
1のときにも成立する。式(15)にz=z
0を代入することで、C(λ)が決定される。さらに、式(15)にz=z
1を代入することで、A(λ)が決定される。その結果、A(λ)およびC(λ)は以下の式(16)を満たす。
【0060】
したがって、式(15)と式(16)より、位置zにおけるMFD、すなわち、2w(λ,z)は以下の式(17)で記述できる。
【0062】
なお、w(λ,z)は、MFDの半分、すなわち、モードフィールド半径(MFR)を、波長λおよび位置zの関数として表す。式(17)の右辺は、z=z
0のとき2w(λ,z
0)に等しく、z=z
1のとき2w(λ,z
1)に等しい。
【0063】
式(17)より、2本の参照ファイバ11a,11bのMFD、すなわち2w(λ,z
0)および2w(λ,z
1)が既知であれば、MCF12の長手方向のMFDの分布特性、すなわち2w(λ,z)を評価することができる。2種類の参照ファイバ11a,11bは、MFDが互いに異なるため、2w(λ,z
0)≠2w(λ,z
1)である。さらに、式(17)が定義されるためには、I(λ,z
0)≠I(λ,z
1)が必要である。
【0064】
また、SMFと同様、さらに式を展開することで比屈折率差、導波路分散および波長分散の分布特性も評価可能である。
【0065】
まず、比屈折率差の評価方法について説明する。GeO
2が添加されたコアを有する光ファイバのレイリー散乱係数α
sは、純石英ガラスのレイリー散乱係数をR
0、光ファイバの比屈折率差をΔ[%]で表すとき、次式(18)の関係式が実験的に求められている。
参考文献2:K.Tsujikawa,et al.,“Scattering property of F and GeO
2 codoped silica glasses,” Electron. Lett., vol.30,pp.351−532,1994.
【0067】
ここで、kは比例定数であり、GeO
2添加ファイバの場合、k=0.62である。
一般に、光ファイバのコアの屈折率の二乗n
2(z)およびn
2(z
0)は、伝送路中では、次式(19)のように近似できる。
【0069】
式(18)および式(19)を式(14)に代入し、式を展開すると次式(20)が得られる。この際、式(18)のα
sおよびΔは、それぞれ位置zの関数としてα
s(z)およびΔ(z)に置き換える。α
s(z
0)およびΔ(z
0)は、それぞれ、第1参照ファイバ11a中の位置z=z
0におけるα
s(z)およびΔ(z)の値を表す。
【0071】
以上より、比屈折率差の長手方向分布特性Δ(z)は、参照ファイバの比屈折率差Δ(z
0)とMFDの値2w(λ,z
0)、およびMCFを含めた光ファイバ伝送路におけるMFDの分布特性2w(λ,z)を用いることにより評価できる。
【0072】
次に、これらの評価結果を用いた波長分散分布の評価方法について述べる。
一般に、波長分散Dは、式(21)のように、材料分散D
mと導波路分散D
wの和で与えられる。
【0074】
材料分散D
mおよび導波路分散D
wはそれぞれ、次式(22)および(23)で評価できる。
【0077】
ここで、λは真空中の波長、cは真空中の光速、nはコアの屈折率、wはモードフィールド半径(MFR)、πは円周率を表す。材料分散D
mは、光ファイバのドーパント濃度からセルマイヤの関係式を用いて評価できる。なお、セルマイヤの関係式とは、屈折率の波長依存性を表す近似式であり、その係数の値は材料ごとに決定できる。ドーパント濃度は、光ファイバの比屈折率差Δがわかると求めることができる。一方、導波路分散D
wは、式(20)より、MFR wの波長依存性、すなわち、w(λ,z)を知ることによって評価できる。
【0078】
MFRの波長依存性には、次式(24)のような経験式が与えられている。
参考文献3:D.Marcuse,“Loss analysis of single−mode fiber splices,” Bell Syst.Tech.J.,vol.56,pp.703−718,1977.
【0080】
ただし、aはコア半径、λ
cはカットオフ波長、vは規格化周波数を表す。p
0、p
1、p
2、q
0、q
1、q
2はそれぞれ係数である。ここで、q
0=g
0/a、q
1=g
1λ
c1.5/a、q
2=g
2λ
c6/aと置き換えることにより、MFRを、波長λの関数w(λ)として、式(25)で近似する。
【0082】
係数g
0、g
1、g
2は、3波長以上でのMFDを評価することで算出することができる。そして、式(25)を式(23)に代入すると式(26)が得られる。このとき、式(23)のwおよび式(25)のw(λ)は、w(λ,z)に置き換える。
【0084】
したがって、係数g
0、g
1、g
2を求めることにより、w(λ,z)を用いて、位置zでの導波路分散D
wを評価することができる。
以上のように、MCFにおいても後方散乱光強度の長手方向特性(OTDR波形)とXTの長手方向特性を測定することで、MFD、比屈折率差、導波路分散および波長分散の分布特性を評価できる。
【0085】
以上、本発明を好適な実施形態に基づいて説明してきたが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【0086】
例えば、上述の実施形態は、MCFがいくつも接続されている場合にも適用可能である。この場合、各ファイバの比屈折率が異なるために捕獲率も異なる。したがって、光伝搬路中に複数のMCFが接続されている場合には、式(5)〜(13)においてファイバ間の捕獲率の違いも考慮する必要がある。
【0087】
参照ファイバとしては、各種のSMFを用いることができる。SMFとしては、汎用のSMFに限らず、DSF(分散シフトファイバ)、NZDSF(ノンゼロ分散シフトファイバ)等でもよい。参照ファイバは、MCFと同様の材料から製造されることが好ましい。例えば、コアがGe添加石英ガラスからなり、クラッドが純石英ガラス等の石英系ガラスからなる光ファイバが好ましい。
【0088】
MCFにおけるコアの個数、配置等は特に限定されないが、各コアにおいてシングルモード伝搬が可能であることが好ましい。2種類の参照ファイバおよびMCFのコア径は、互いに異なってもよい。各光ファイバの接続は、融着接続が好ましい。OTDR測定に際し、参照ファイバとMCFとの間、2種類の参照ファイバの間、光ファイバ伝送路とOTDR装置との間等には、他の光ファイバを介在させてもよい。
【実施例】
【0089】
以下、実施例をもって本発明を具体的に説明する。
【0090】
〔実施例1〕
7コアのMCFを用いてMCFの特性を評価した。
図3に7コアのMCFの断面構造を示す。このMCFは、長手方向に垂直な断面において、クラッド14の内部に7個のコア13を有する。コア13は、1個の中心コアと、その周囲に略等間隔に配置された6個の外側コアからなる。また、表1および表2にMCFおよび参照ファイバの特性を示す。第1参照ファイバとしてはDSF(分散シフトファイバ)を用いた。第2参照ファイバとしては汎用のSMFを用いた。
【0091】
【表1】
【0092】
【表2】
【0093】
表1に記載したMCFの特性のうち、MFDは両端から数mそれぞれ採取したMCFをFFP(ファーフィールドパターン)法により測定した結果であり、波長分散は、位相シフト法を用いて測定した結果である。
【0094】
以下に測定手順を示す。
(手順1)MCFの被測定コアと隣接するコア間のクロストークを、OTDRを用いて測定する。
(手順2)MCFの長手方向の片側に、参照ファイバとして、異なる2種類のSMF(モードフィールド径、比屈折率差が既知)を接続して光ファイバ伝送路を構成する。この接続時には、参照ファイバのコアをMCFの被測定コアに調心する。
(手順3)参照ファイバが接続された光ファイバ伝送路を用いて、MCFの被測定コアに対して双方向でOTDR測定をする。
(手順4)この双方向OTDRの測定結果とOTDRによるクロストーク測定結果、2種類の参照ファイバの特性を用いて、MCFの被測定コアにおけるモードフィールド径の分布が測定できる。
【0095】
図4および
図5に、OTDRを用いて、MCFの中心コアにパルス光を入射した場合の、中心コアと外側コアの後方散乱光強度分布の測定結果(OTDR波形)を示す。また、
図6に、
図4および
図5の測定結果よりMCFのクロストークの分布特性(波長1.31μmおよび1.55μm)を評価した結果を示す。
【0096】
図7および
図8に、OTDRを用いて両端から測定した波長1.31μm、1.55μmの後方散乱光強度を示す。実線は横軸が0kmの端からの測定値を示し、破線は横軸が約8kmの端からの測定値を示す。また、
図9に、
図6、
図7および
図8に示す測定結果と式(7)および式(13)を用いて算出した構造成分に依存した損失成分I(λ,z)を示す。
【0097】
図10に、
図9に示す測定結果および表2に示す参照ファイバのMFDの結果と式(17)より算出したMFDの長手方向の分布特性を示す。表1に示すMCFのMFDと
図10より読み取れるMFDは、波長1.55μm、1.31μmどちらにおいても非常に良く一致していることがわかる。
【0098】
さらに、
図11に、
図9に示す双方向OTDRから得られた構造成分に依存した損失成分の測定結果と
図10に示すMCFのMFDの測定結果、表2に示す参照ファイバの比屈折率差および式(20)を用いて比屈折率差Δの分布を評価した結果を示す。表1に示すMCFの比屈折率差と
図11より読み取れる比屈折率差の値は、略一致していることがわかる。