(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5948405
(24)【登録日】2016年6月10日
(45)【発行日】2016年7月6日
(54)【発明の名称】導電性金属の駆動方法及び駆動装置
(51)【国際特許分類】
B22D 45/00 20060101AFI20160623BHJP
F27D 3/14 20060101ALI20160623BHJP
F27B 3/04 20060101ALI20160623BHJP
F27D 27/00 20100101ALI20160623BHJP
F16H 49/00 20060101ALI20160623BHJP
B22D 1/00 20060101ALI20160623BHJP
B22D 35/00 20060101ALI20160623BHJP
【FI】
B22D45/00 B
F27D3/14 Z
F27B3/04
F27D27/00
F16H49/00 A
B22D1/00 T
B22D35/00 C
【請求項の数】12
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-266195(P2014-266195)
(22)【出願日】2014年12月26日
【審査請求日】2016年3月16日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】593059223
【氏名又は名称】高橋 謙三
(74)【代理人】
【識別番号】100117787
【弁理士】
【氏名又は名称】勝沼 宏仁
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100103263
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 康
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(72)【発明者】
【氏名】高 橋 謙 三
【審査官】
國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−76537(JP,A)
【文献】
特開2006−349293(JP,A)
【文献】
特開2014−35131(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 1/00
B22D 35/00
B22D 45/00
F16H 49/00
F27B 3/04
F27D 3/14
F27D 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶解炉本体の導電性金属を収納する溶解室の内表面に露呈した状態に設けた第1電極と前記第1電極よりも下方に設けた第2電極間に、前記溶解室に収納した導電性金属の溶湯を介して、縦向きに直流電流を流し、且つ、前記溶解炉の外部から前記溶解室の中心に向かい、あるいは前記溶解室の中心から前記溶解炉の外部に向かい、放射状に、磁場を掛け、前記直流電流と前記磁場との交差に起因する電磁力により前記溶解室中の前記溶湯に縦軸の回りに回転する回転力を与え、前記回転力によって前記溶湯を回転させて、前記溶湯を、前記溶解室と前記溶解室が付設された保持炉との間に設けた仕切板の出口開口から、前記保持炉中に吐出させると共に、前記保持炉中の溶湯を前記仕切板の入口開口から吸引し、
前記第1電極及び前記第2電極を前記溶解炉本体の一部として一体的に構成したものを用い、前記第1電極として、電気抵抗が前記溶湯の電気抵抗よりも大きいものを用い、
前記溶解炉本体の側壁の上端部分を前記第1電極となし、前記第1電極にトレンチ状の低融点合金収納用のプールを形成し、前記プール内に、隙間を残した状態に、前記溶湯よりも溶融温度の低い低融点合金と、前記直流電流を流す電源に接続するための金属製の電極部品とを収納し、前記第1電極と前記電極部品とを、溶融状態にある前記低融点合金を介して電気的に接続可能とした、
ことを特徴とする導電性金属溶湯の駆動方法。
【請求項2】
前記溶解炉本体の底壁を前記第2電極となし、前記第2電極を、前記第2電極の下方への熱膨張を吸収する熱膨張吸収体を介して、前記電源と接続し、前記熱膨張吸収体として、導電性金属製のケースに導電性金属製の複数のボール又は複数の横向きに積み重ねたロール体を収納したものを用いて、前記第2電極を前記電源と電気的に導通させた、ことを特徴とする請求項1に記載の導電性金属溶湯の駆動方法。
【請求項3】
溶解炉本体の導電性金属を収納する溶解室の内表面に露呈した状態に設けた第1電極と前記第1電極よりも下方に設けた第2電極間に、前記溶解室に収納した導電性金属の溶湯を介して、縦向きに直流電流を流し、且つ、前記溶解炉の外部から前記溶解室の中心に向かい、あるいは前記溶解室の中心から前記溶解炉の外部に向かい、放射状に、磁場を掛け、前記直流電流と前記磁場との交差に起因する電磁力により前記溶解室中の前記溶湯に縦軸の回りに回転する回転力を与え、前記回転力によって前記溶湯を回転させて、前記溶湯を、前記溶解室と前記溶解室が付設された保持炉との間に設けた仕切板の出口開口から、前記保持炉中に吐出させると共に、前記保持炉中の溶湯を前記仕切板の入口開口から吸引し、
前記溶解炉本体の底壁を前記第2電極となし、前記第2電極を、前記第2電極の下方への熱膨張を吸収する熱膨張吸収体を介して、前記電源と接続し、前記熱膨張吸収体として、導電性金属製のケースに導電性金属製の複数のボール又は複数の横向きに積み重ねたロール体を収納したものを用いて、前記第2電極を前記電源と電気的に導通させた、
ことを特徴とする導電性金属溶湯の駆動方法。
【請求項4】
前記第1電極及び前記第2電極を前記溶解炉本体の一部として一体的に構成したものを用い、前記第1電極として、電気抵抗が前記溶湯の電気抵抗よりも大きいものを用いた、ことを特徴とする請求項3に記載の導電性金属溶湯の駆動方法。
【請求項5】
前記第1電極及び前記第2電極として前記溶解炉本体と別体に構成したものを用い、前記第1電極として、電気抵抗が前記溶湯の電気抵抗よりも大きいものを用いた、ことを特徴とする請求項3に記載の導電性金属溶湯の駆動方法。
【請求項6】
前記溶解炉本体の側壁の上端部分を前記第1電極となし、前記第1電極にトレンチ状の低融点合金収納用のプールを形成し、前記プール内に、隙間を残した状態に、前記溶湯よりも溶融温度の低い低融点合金と、前記直流電流を流す電源に接続するための金属製の電極部品とを収納し、前記第1電極と前記電極部品とを、溶融状態にある前記低融点合金を介して電気的に接続可能とした、ことを特徴とする請求項4に記載の導電性金属溶湯の駆動方法。
【請求項7】
導電性金属の溶湯を保持する保持炉に付設される溶解炉であって、溶解炉本体と磁場装置とを有し、
前記溶解炉本体は、保持炉と連通する溶解室と、前記溶解室内に設けられた仕切板と、を有し、前記溶解室は前記仕切板の出口開口と入口開口を介して前記保持炉と連通しており、
前記溶解炉本体は、前記溶解室に収納した導電性金属の溶湯を介して、縦向きに直流電流を流す、第1電極と、前記第1電極よりも下方に設けた第2電極と、を有し、
前記磁場装置は永久磁石によって構成され、前記溶解炉の外部周囲から前記溶解室の中心に向かい、あるいは前記溶解室の中心から前記溶解炉の外部に向かい放射状に、磁場を掛けて、前記直流電流と前記磁場との交差に起因する電磁力により前記溶解室中の前記溶湯に縦軸の回りに回転させる回転力を与えて回転させ、前記溶解室中の前記溶湯を前記仕切板の前記出口開口から前記溶解炉が付設された保持炉中に吐出させると共に、前記保持炉中の溶湯を前記仕切板の前記入口開口から前記溶解室に吸引させる、ものとして構成されており、
前記第1電極及び前記第2電極を前記溶解炉本体の一部に一体的に構成し、前記第1電極の電気抵抗よりも電気抵抗の小さい溶湯を溶解するものとして構成し、
前記溶解炉本体の側壁の上端部分を前記第1電極として構成し、前記第1電極にトレンチ状の低融点合金収納用のプールを形成し、前記プール内に、隙間を残した状態に、前記溶湯よりも溶融温度の低い低融点合金と、前記直流電流を流す電源に接続するための金属製の電極部品とを収納し、前記第1電極と前記電極部品とを、溶融状態にある前記低融点合金を介して電気的に接続可能とした、
ことを特徴とする導電性金属溶湯の溶解炉。
【請求項8】
前記溶解炉本体の底壁を前記第2電極とて構成し、前記第2電極を、前記第2電極の下方への熱膨張を吸収する熱膨張吸収体を介して、前記電源と接続し、前記熱膨張吸収体として、導電性金属製のケースに導電性金属製の複数のボール又は複数の横向きに積み重ねたロール体を収納したものを用いて、前記第2電極を前記電源と電気的に導通させた、ことを特徴とする請求項7に記載の導電性金属溶湯の溶解炉。
【請求項9】
導電性金属の溶湯を保持する保持炉に付設される溶解炉であって、溶解炉本体と磁場装置とを有し、
前記溶解炉本体は、保持炉と連通する溶解室と、前記溶解室内に設けられた仕切板と、を有し、前記溶解室は前記仕切板の出口開口と入口開口を介して前記保持炉と連通しており、
前記溶解炉本体は、前記溶解室に収納した導電性金属の溶湯を介して、縦向きに直流電流を流す、第1電極と、前記第1電極よりも下方に設けた第2電極と、を有し、
前記磁場装置は永久磁石によって構成され、前記溶解炉の外部周囲から前記溶解室の中心に向かい、あるいは前記溶解室の中心から前記溶解炉の外部に向かい放射状に、磁場を掛けて、前記直流電流と前記磁場との交差に起因する電磁力により前記溶解室中の前記溶湯に縦軸の回りに回転させる回転力を与えて回転させ、前記溶解室中の前記溶湯を前記仕切板の前記出口開口から前記溶解炉が付設された保持炉中に吐出させると共に、前記保持炉中の溶湯を前記仕切板の前記入口開口から前記溶解室に吸引させる、ものとして構成され、
前記溶解炉本体の底壁を前記第2電極とて構成し、前記第2電極を、前記第2電極の下方への熱膨張を吸収する熱膨張吸収体を介して、前記電源と接続し、前記熱膨張吸収体として、導電性金属製のケースに導電性金属製の複数のボール又は複数の横向きに積み重ねたロール体を収納したものを用いて、前記第2電極を前記電源と電気的に導通させた、
ことを特徴とする導電性金属溶湯の溶解炉。
【請求項10】
前記第1電極及び前記第2電極を前記溶解炉本体の一部に一体的に構成し、前記第1電極の電気抵抗よりも電気抵抗の小さい溶湯を溶解するものとして構成した、ことを特徴とする請求項9に記載の導電性金属溶湯の溶解炉。
【請求項11】
前記第1電極及び前記第2電極を前記溶解炉本体と別体に構成し、前記第1電極の電気抵抗よりも電気抵抗の小さい溶湯を溶解するものとして構成した、ことを特徴とする請求項9に記載の導電性金属溶湯の溶解炉。
【請求項12】
前記溶解炉本体の側壁の上端部分を前記第1電極として構成し、前記第1電極にトレンチ状の低融点合金収納用のプールを形成し、前記プール内に、隙間を残した状態に、前記溶湯よりも溶融温度の低い低融点合金と、前記直流電流を流す電源に接続するための金属製の電極部品とを収納し、前記第1電極と前記電極部品とを、溶融状態にある前記低融点合金を介して電気的に接続可能とした、ことを特徴とする請求項10に記載の導電性金属溶湯の溶解炉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性金属(非鉄金属及び鉄)の駆動方法及び駆動装置に関し、例えば、Al,Cu,Zn又はこれらのうちの少なくとも2つの合金、あるいはMg合金等の伝導体(導電体)等の非鉄金属、あるいは鉄金属等の、導電性金属を溶解する駆動方法及び駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
導電性金属を溶解するものとして、例えば、本発明者は先に特願2013-090729(先願)に示すもの等を提案した。本発明者はこの先願等の発明よりも優れた発明あるいは先願の発明とは異なる構造のより優れた発明等を生み出すべく等日夜思考を重ねている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、上述の本発明者の独自の努力によりなされたもので、その目的は、より優れた導電性金属の駆動方法及び溶解炉を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の実施形態の導電性金属の駆動方法は、溶解炉本体の導電性金属を収納する溶解室の内表面に露呈した状態に設けた第1電極と前記第1電極よりも下方に設けた第2電極間に、前記溶解室に収納した導電性金属の溶湯を介して、縦向きに直流電流を流し、且つ、前記溶解炉の外部から前記溶解室の中心に向かい、あるいは前記溶解室の中心から前記溶解炉の外部に向かい、放射状に、磁場を掛け、前記直流電流と前記磁場との交差に起因する電磁力により前記溶解室中の前記溶湯に縦軸の回りに回転する回転力を与え、前記回転力によって前記溶湯を回転させて、前記溶湯を、前記溶解室と前記溶解室が付設された保持炉との間に設けた仕切板の出口開口から、前記保持炉中に吐出させると共に、前記保持炉中の溶湯を前記仕切板の入口開口から吸引する、ことを特徴とする。
【0005】
本発明の実施形態の導電性金属の溶解炉は、
導電性金属の溶湯を保持する保持炉に付設される溶解炉であって、溶解炉本体と磁場装置とを有し、
前記溶解炉本体は、保持炉と連通する溶解室と、前記溶解室内に設けられた仕切板と、を有し、前記溶解室は前記仕切板の出口開口と入口開口を介して前記保持炉と連通しており、
前記溶解炉本体は、前記溶解室に収納した導電性金属の溶湯を介して、縦向きに直流電流を流す、第1電極と、前記第1電極よりも下方に設けた第2電極と、を有し、
前記磁場装置は永久磁石によって構成され、前記溶解炉の外部周囲から前記溶解室の中心に向かい、あるいは前記溶解室の中心から前記溶解炉の外部に向かい放射状に、磁場を掛けて、前記直流電流と前記磁場との交差に起因する電磁力により前記溶解室中の前記溶湯に縦軸の回りに回転させる回転力を与えて回転させ、前記溶解室中の前記溶湯を前記仕切板の前記出口開口から前記溶解炉が付設された保持炉中に吐出させると共に、前記保持炉中の溶湯を前記仕切板の前記入口開口から前記溶解室に吸引させる、
ものとして構成されていることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】本発明の第1の実施形態の導電性金属の溶解炉の平面説明図。
【
図4】(a)、(b)、(c)は、上部電極部及び下部電極部の概念を示す平面説明図、側面説明図である。
【
図5】(a)、(b)は上部電極部の異なる実施形態の概念を示す平面説明図、側面説明図である。
【
図6】(a)、(b)は下部電極部の異なる実施形態の概念を示す平面説明図、側面説明図である。
【
図9】(a)、(b)、(c)は磁力線、電流、電磁力を説明するための平面説明図、縦断説明図。
【
図10】(a)、(b)は溶解炉本体の異なる実施形態の平面説明図、縦断説明図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
図1は、保持炉(メインバス)2に付設された本発明の第1の実施形態の導電性金属溶解炉(溶解炉)1の横断説明図であり、
図2は縦断説明図である。
図1は
図2のI-I線に沿って切断され、
図2は
図1のII−II線に沿って切断された説明図である。
【0008】
即ち、この実施形態の溶解炉1は、特に
図1から分かるように、保持炉(メインバス)2に付設され、導電性金属(非鉄金属及び鉄金属)を溶解して前記保持炉2に送り込むものとして使用される。つまり、この溶解炉1は、例えば、Al,Cu,Zn又はこれらのうちの少なくとも2つの合金、あるいはMg合金等の伝導体(導電体)等の非鉄金属、あるいは鉄金属等の、導電性金属を溶解し、保持炉2へ送り込むものとして使用可能である。
【0009】
即ち、前記溶解炉1は、特に
図1から分かるように、大容量のメインバス2に連通状態に連結されて使用される。つまり、この溶解炉1は、自己内部の溶湯Mを強制的に例えば
図1中鎖線でしめすように左回りに回転させて、溶湯Mをメインバス2に送り込み(吐出)、これと同時に、溶湯Mをメインバス2から引き込む(吸引)。これらの動作中において、回転中の溶湯M中に外部上方から導電性金属の原料を投入し、回転する溶湯M中に確実に引っ張り込ませて効率良く溶解する。つまり、溶湯Mの前記回転を可及的に強力な渦流とし、この渦流中に投入した導電性金属の原料としての例えばアルミニウムの切粉を(つまり、重量が小さく溶湯中に沈みにくいものであっても)確実に引き込んで、高効率に切粉の溶解がなされるようにしている。
【0010】
上記のように溶湯Mを駆動する力はフレミングの左手の法則による電磁力によるものである。つまり、特に
図2から分かるように、溶湯M中を、
図2中で縦方向に電流Iを流し、横方向に例えば周囲から中心に向かって逆放射状に(あるいはこれとは逆に中心から周囲へ向かって放射状に)磁力線MLを走らせる。これにより、特に
図9(c)から分かるように、電流Iと磁力線MLの交差により発生するフレミングの左手の法則による電磁力F1,F2,・・・が発生し、これらの電磁力F1,F2,・・・FNが合成されて
図1中左回りの1つの合成力RFとなり、溶湯Mを駆動している。なお、後述する磁場装置19の磁化の方向が、
図1とは逆の場合には、前記合成力は、
図1中右回りのものとなる。
【0011】
以下に本発明の実施形態の溶解炉1を詳細に説明する。
【0012】
特に
図1から分かるように、メインバス2に溶解炉1が付設状態に設けられている。メインバス2の内部2Aと溶解炉1の内部(溶解室)1Aとは、メインバス2の側壁2Bに穿けられた開口2Cを介して連通している。
【0013】
より詳しくは、前記側壁2Bに溶解炉1の溶解炉本体5が連通状態に取り付けられている。この溶解炉本体5は、耐火材によって構成され、特に
図1から分かるように横断面がU字状あるいは半円形状をしている。この溶解室1Aの内部に仕切板としての落とし堰7が設けられている。この落とし堰7は、溶解炉本体5の内部に、液密状態に差し込まれたもので、適宜抜き差し可能とされている。つまり、使用により摩耗等した場合には容易に交換可能とされている。この落とし堰7は、
図3から分かるように、2つの切欠を有し、1つは入口7Aであり、もう1つは出口7Bである。これにより、前述のように、メインバス2の内部2Aと溶解炉本体5の内部である前記溶解室1Aとが、メインバス2の開口2Cと落とし堰7の入口7A、出口7Bを介して、互いに連通している。つまり、前記合成力RFにより溶湯Mが回転駆動されるのに伴い、メインバス2中の溶湯Mは落とし堰7の入口7Aから溶解炉本体5の溶解室1Aに流入し(吸引され)、出口7Bからメインバス2に戻る(吐出する)ように流れることになる。
【0014】
前記溶解炉本体5は、側部断熱材9を挟んで、非磁性材金属板製の固定板10によって、前記メインバス2の側壁2Bの外側に固定されている。また、後述するように、前記溶解炉本体5には上部電極部14が設けられている(
図2)。
【0015】
さらに、前記固定板10の周囲には、特に
図1から分かるように、永久磁石装置による磁場装置19が設けられている。この磁場装置19は、溶解炉本体5の溶解室1Aの回りをU字状又は半円状に囲むように構成されている。この磁場装置19は内側をN極、外側をS極に磁化している。これにより、溶湯Mは
図1中左回りに駆動される。磁場装置19の磁化の方向が逆でもよく、この場合には、前述のように、溶湯Mは右回りに駆動される。
【0016】
前記溶解炉本体5、断熱材9、固定板10及び磁場装置19は、それらの下側において、支持部21によって床F上に支持されている。この支持部21は、
図2から分かるように、非磁性材製のケース26を有し、このケース26内には底部断熱材24が収納されている。さらに、この底部断熱材24によって、先に簡単に述べた上部電極部14に対応する下部電極部15が覆われている。前記上部電極部14と前記下部電極部15とは、配線17により、電源16に接続されており、これら電極部14,15間に溶湯Mを通じて電流が流される。この電源16はすくなくとも直流電流を流すことができ、電流値の調節のほか、極性の切り替えも可能にされている。
【0017】
前記上部電極部14及び前記下部電極部15を詳細に説明する。本発明のような溶解炉システムにおいては一般に各部材に高温対策を施す必要がある。例えば、導電性金属としてアルミニウムを溶解する場合には溶解炉本体5はアルミニウムの溶解温度に応じて数百度に達する。このため、本発明の実施形態では、この溶解炉本体5近傍に設ける電極や配線に、本発明に特有の特別の工夫をしている。
【0018】
即ち、先ず、前記電源16に接続される前記上部電極部14及び前記下部電極部15の電極の構造について詳しく説明する。これらの電極は、後述する実施形態のように溶解炉本体5とは別体のものとして設けることもできるが、以下に説明するこの実施形態では、溶解炉本体5を電極が一体に作り込まれた一体構造のものとして構成している。即ち、溶解炉本体5自体の一部、つまり、側壁及び底壁に電極が一体的に作り込まれている。ただし、後述するように、溶解炉本体5を、上部電極本体14aと下部電極本体15aとは、それらの間の中央部分(非導電性耐火物)によって互いに絶縁されている。つまり、溶解炉本体5は、上部電極本体14a(導電性耐火物)、中央部分(非導電性耐火物)、下部電極本体15a(導電性耐火物)が連続して一体的に作られた構造となっている。
【0019】
より詳しくは、
図4(a)、(b)、(c)は、前記上部電極部14及び前記下部電極部15、つまり、溶解炉本体5とそれに作り込まれた電極を示す概念的な平面説明図、平面説明図、縦断説明図である。つまり、
図4(a)は後述の上部電極本体14aの平面形状の把握を容易とするため、上部電極本体14aのみを表示している。また、
図4(b)は同じく後述の下部電極本体15aの平面形状の把握を容易とするため、下部電極本体15aのみを表示している。
図4(c)は(a)のc1−c1線及び(b)のc2−c2線に沿った縦断面に相当する説明図である。この
図4(c)から分かるように、溶解炉本体5の上部に上部電極本体14aが、下部に下部電極本体15aが一体的に作り込まれている。つまり、溶解炉本体5は熱膨張率の非常に小さい非導電性材料の耐火物によって作られているが、その一部が、導電性を帯びた上部電極本体14aと下部電極本体15aとして、作られている。この製造方法としては各種の技術を用いることができるが、例えば、焼結等の技術を用いることができる。なお、上部電極本体44a及び下部電極本体45aの電気抵抗は、溶湯Mの電気抵抗よりも大きいものとしている。ただし、必ずしも、上部電極本体44a及び下部電極本体45aの電気抵抗は、溶湯Mの電気抵抗よりも大きくなくてもよい。この場合には、前記上部電極部14について見れば、電流Iは、後述する
図7のパスではなく、上部電極本体14aの下端の中央部分(非導電性耐火物)と繋がる部分から溶湯M中に流れ込むこととなる。
【0020】
なお、前記上部電極本体14aは、
図4(a)のような平面的にU字状にではなく、
図5(a)、(b)に示すように、溶解炉本体5の内壁の一部を部分的に上下に縦長の線状の電極のものとして一体に作り込むこともでき、あるいは別体の電極を埋め込むこともできる。上部電極本体14aは以上に説明した構成に限るものではなく、要は内部の溶湯Mに電気的に接すれば良く、この趣旨を満足するものであればよく、任意の形状、構成を採ることができる。
【0021】
さらに、前記下部電極本体15aの平面形状は、
図6(a)、(b)にそれぞれ概念をしめすような構成とすることもできる。下部電極本体15aの平面形状は、
図4(b)、
図6(a)、(b)の形状に限るものではなく、要は内部の溶湯Mに電気的に接すれば良く、この趣旨を満足する範囲で任意の形状、構成を採ることができる。
【0022】
前記上部電極部14の詳細は
図7に示される。この
図7は、
図2、
図4(c)の一部を拡大して示す図である。この実施形態は、温度が数百度になった場合でも、熱膨張率の非常に小さい溶解炉本体5と、熱膨張率の大きい接続金具等との、接続状態が的確に保たれて、両者の導通が正確に保たれるようにしたものである。より詳しくは、
図7に示すように、溶解炉本体5の上部電極本体14aの上端部に上方だけが開口した溝状(トレンチ状)の低融点合金のプール14bを形成する。このプール14bに低融点合金22と銅製の電極部品23の下部23aを収納する。この電極部品23は、下部23aと上部23bを有し、縦断面がほぼT字状のものとして構成されている。使用状態の高温時においては、低融点合金22は前記プール14b内で、液体となり上部電極本体14aと前記上部23bとの電気的な導通を的確に保つ。また、非使用状態の低温時には前記低融点合金22は、前記プール14b内において、プール14bと下部23aの間を埋めるように固体化する。前記電極部品23の上部23bの下面と前記上部電極本体14aの上面との間には断熱板25を介在させている。前記上部23bに接続金具28をボルト27で固定し、この接続金具28に前記配線17をボルト29で固定している。
【0023】
この構成によれば、先にも簡単に述べたが、使用時の高温時にあって、溶解炉本体5(上部電極本体14a)がほとんど膨張せずに、電極部品23等だけが膨張しても、両者の電気的な接続状態は溶けた低融点合金22によって良好に保たれ、実際上の使用に何等支障をきたすことはない。
【0024】
次に、下部電極部15について説明する。
図8は
図2、
図4(c)の一部を拡大して示すものである。この実施形態は、温度が数百度になった場合でも、熱膨張率の非常に小さい溶解炉本体5と、熱膨張率の大きい接続金具等との、接続状態が的確に保たれて、両者の導通が正確に保たれるようにしたものである。より詳しくは、
図8に示すように、溶解炉本体5の底部の下部電極本体15aの下面に銅製のケース31が設けられている。このケース31内には多数の導電性材製のボール32、32、・・・が収納されている。このケース31の下部にはケーブル34が接続されている。このケーブル34は電源用の前記配線17に接続されている。これにより、下部電極本体15a、ボール32、ケース31、ケーブル34、配線17、電源16の電気経路が確保される。而して、この構成において、装置の使用時には、多少なりとも熱膨張により溶解炉本体5の底部(下部電極本体15a)の下方への膨らみが避けられない。しかしながら、この膨らみは前記ボール32によって吸収される。このため、下部電極本体15aが下方へ膨らんでも、下部電極本体15aとボール32との電気的な導通状態は確実に保たれる。なお、前記ボール32に代えてこれと同等の機能の物を用いることができる。例えば、ロール体、つまり、前記ボール32の径と同じ径の丸棒を短く切ったものを横向きに複数積み重なることもできる。
【0025】
上述したところから分かるように、耐火材製の前記上部電極本体14a、下部電極本体15aに直接的に接続金具を接続するようにはしていない。つまり、接続金具が非鏡面の上部電極本体14a、下部電極本体15aに互いに直接接することはない。このため、両者間に電流が流れたときにあっても接触部分の電気抵抗による発熱が生じるのを防ぐことができる。また、耐火材製の前記上部電極本体14a、下部電極本体15aに接続金具をボルトで締め付けるようにもしていない。このため、耐火材製の前記上部電極本体14a、下部電極本体15aと接続金具との熱膨張率が大きく異なっていても、ボルトは緩み、電気的な断線が生じるのも確実に防ぐことができる。
【0026】
このように、溶解炉の使用時にあって各接続部、接続部品が膨張しても、電源16と上部電極本体14a、下部電極本体15aとの接続状態は確実に維持され、これらの間に安定的に電流が供給され、前記溶解炉1としての運転を安全に且つ安定的に継続して行うことができる。
【0027】
上記実施形態の動作を説明する。
図2から分かるように、溶解室1A中に溶湯Mが収納されている状態において、電源16からの直流電流Iが
図2中縦に流れる。この溶湯Mの高さは特に
図7にも示されている。より詳しくは、
図7において、配線17からの電流は電極部品23、低融点合金22、上部電極本体44aの図中上部に伝わる。この後、電流Iは、上部電極本体14aから溶湯Mに流れ込み、
図2から分かるように前記下部電極本体45aに流れ込む。この電流Iの流れの様子は
図9(b)に示される。つまり、先にも簡単に述べたが、上部電極本体44a及び下部電極本体45aの電気抵抗を、溶湯Mの電気抵抗よりも大きいものとしている。このため、前記低融点合金22から前記上部電極本体14aに流れ込んだ電流Iは、
図7に示すように、図中少し下に流れ、その後は上部電極本体14aよりも電気抵抗の低い溶湯Mを通る経路にパスするように流れる。このようにして、
図9(b)に示すように、電流Iが図中縦に流れる。而して、この電流Iは、
図9(a)から分かるように、磁場装置19から溶解室1Aの中心に向かう磁力線MLと縦の中心軸の回りの全周において、交差する。これにより、例えば、
図9(c)から分かるように、この実施形態においては、それぞれ左回りの電磁力F1,F2,・・・FNが発生し、これらが全て合成されて前記合成力RFとなり、溶解室1A中の溶湯Mを
図9中左回りに駆動する。この駆動により、溶湯Mは、
図3の前記落とし堰7の図中右側の出口7Bから、前記メインバス2の側壁2Bの開口2Cを介してその内部2Aに吐出され、これと同時に、メインバス2内の溶湯Mが前記開口2C、落とし堰7の入口7Aを介して溶解室1Aに吸い込まれる。而して、前記合成力RFは、
図9(c)から分かるように、各電磁力Fiの合成力として得られるため、極めて大きなものとなり、溶湯Mの回転を強力な渦流とすることができる。これにより、溶解室1Aの上部から、例えばアルミニウムの切粉のように軽くて溶湯M内にはなかなか溶け込まないような原料を投入しても、前記切粉は前記渦流の中心に確実に引き込まれて高速且つ高効率に溶解する。
【0028】
以上に説明した実施形態では、溶解炉本体5を一体型とした例を示したが、
図10(a)、(b)に示すように複数の部品から溶解炉本体35を構成することもできる。即ち、
図10(a)は溶解炉本体35の平面説明図、(b)はそのb−b線断面説明図である。特に
図10(b)からわかるように、耐火材製の側壁部41と、これの内面に嵌め込んだカーボン製等の上部電極本体44aと、これの下面部分に嵌め込んだ同じくカーボン製等の下部電極本体45aとから、溶解炉本体35を構成することができる。下部電極本体45aは溶解炉本体35に着脱可能とし、メンテナンスできるようにしている。この実施形態の場合においても、上部電極本体44a、下部電極本体45aは、前述の実施形態における
図7、
図8と同様にして配線17と接続される。
【0029】
上記各実施形態によれば、下記のような利点が得られる。即ち、既設のメインバス2に取り付け可能である。電磁石ではなく永久磁石を用いているので、消費電力が極めて小さく、電磁石を用いるものに比べて消費電力は1/10、1/20となる。駆動部分を有しないため、渦電流は発生せず、渦電流による障害は生じない。落とし堰(仕切板)は容易に交換可能であるため、メンテナンスが容易である。電源16との接続に当たり配線17と耐火材製の溶解炉本体とが直接締め付け等されていないので、両者間での接触抵抗による発熱を防ぐことができる。
【要約】
【課題】消費電力、発熱が少なく、メンテナンスが容易で、熱の影響の受けにくい導電性金属の溶解方法、溶解炉を提供する。
【解決手段】溶解炉本体の導電性金属を収納する溶解室の内表面に露呈した状態に設けた第1電極と前記第1電極よりも下方に設けた第2電極間に、前記溶解室に収納した導電性金属の溶湯を介して、縦向きに直流電流を流し、且つ、前記溶解炉の外部から前記溶解室の中心に向かい、あるいは前記溶解室の中心から前記溶解炉の外部に向かい、放射状に、磁場を掛け、前記直流電流と前記磁場との交差に起因する電磁力により前記溶解室中の前記溶湯に縦軸の回りに回転する回転力を与え、前記回転力によって前記溶湯を回転させて、前記溶湯を、前記溶解室と前記溶解室が付設された保持炉との間に設けた仕切板の出口開口から、前記保持炉中に吐出させると共に、前記保持炉中の溶湯を前記仕切板の入口開口から吸引する。
【選択図】
図2