特許第5948414号(P5948414)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5948414-遺伝子操作された微生物油誘電性流体 図000010
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5948414
(24)【登録日】2016年6月10日
(45)【発行日】2016年7月6日
(54)【発明の名称】遺伝子操作された微生物油誘電性流体
(51)【国際特許分類】
   H01B 3/20 20060101AFI20160623BHJP
   C10M 169/04 20060101ALI20160623BHJP
   C10M 105/38 20060101ALI20160623BHJP
   C10M 129/10 20060101ALI20160623BHJP
   C10M 133/12 20060101ALI20160623BHJP
   C10M 101/04 20060101ALI20160623BHJP
   C10M 101/02 20060101ALI20160623BHJP
   C10M 107/50 20060101ALI20160623BHJP
   C10M 107/02 20060101ALI20160623BHJP
   C10M 105/32 20060101ALI20160623BHJP
   H01F 27/12 20060101ALI20160623BHJP
   C10N 20/00 20060101ALN20160623BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20160623BHJP
   C10N 40/14 20060101ALN20160623BHJP
   C10N 40/16 20060101ALN20160623BHJP
【FI】
   H01B3/20 N
   C10M169/04
   C10M105/38
   C10M129/10
   C10M133/12
   C10M101/04
   C10M101/02
   C10M107/50
   C10M107/02
   C10M105/32
   H01B3/20 Z
   H01F27/12 Z
   C10N20:00 Z
   C10N30:00 Z
   C10N40:14
   C10N40:16
【請求項の数】5
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2014-518886(P2014-518886)
(86)(22)【出願日】2012年6月25日
(65)【公表番号】特表2014-526118(P2014-526118A)
(43)【公表日】2014年10月2日
(86)【国際出願番号】US2012043973
(87)【国際公開番号】WO2013003268
(87)【国際公開日】20130103
【審査請求日】2015年5月21日
(31)【優先権主張番号】61/501,339
(32)【優先日】2011年6月27日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】502141050
【氏名又は名称】ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】ハン,シュ,ジョーン
(72)【発明者】
【氏名】マウラー,ブライアン,アール.
【審査官】 神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】 特表2008−539316(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/111698(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/063032(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/02−04、105/32−38、107/02、
107/50
C10N 40/14−16
H01B 3/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)遺伝子操作された微生物油(GEMO)であって、
トリグリセリド
0.1ppmから50,000ppmのオリゴ糖、および
0.1重量%から30重量%の小さいグリセリドであって、エステル結合により最大限2つの脂肪酸鎖に共有結合したグリセロール分子を含む前記小さいグリセリド
を含む前記微生物油、ならびに
(ii)酸化防止剤
を含む誘電性流体であって、
前記誘電性流体が、ASTM D 1533に準拠して測定して、90℃で3800ppmから4200ppmの水飽和点を有する、前記誘電性流体
【請求項2】
電気部品と、
前記電気部品と動作的に連通する誘電性流体と
を備えた装置であって、
前記誘電性流体が、
(i)遺伝子操作された微生物油(GEMO)であって、
トリグリセリド、
0.1ppmから50,000ppmのオリゴ糖、および
0.1重量%から30重量%の小さいグリセリドであって、エステル結合により最大限2つの脂肪酸鎖に共有結合したグリセロール分子を含む前記小さいグリセリド
を含む前記微生物油、ならびに
(ii)酸化防止剤
を含み、
前記誘電性流体が、ASTM D 1533に準拠して測定して、90℃で3800ppmから4200ppmの水飽和点を有する、前記装置。
【請求項3】
前記GEMOが、遺伝子操作された微細藻類油である、請求項1に記載の誘電性流体。
【請求項4】
前記小さいグリセリドが、モノグリセリドおよびジグリセリドを含み、
前記GEMOが、
0.01重量%から0.05重量%の前記モノグリセリド、および
0.80重量%から0.85重量%の前記ジグリセリド
を含む、請求項1に記載の誘電性流体。
【請求項5】
前記電気部品は、前記誘電性流体に接触しているセルロース系絶縁材を含む、請求項4に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
誘電体は、様々な用途に用いられる非伝導性の流体である。誘電性流体の絶縁特性および冷却特性は、変圧器、コンデンサ、スイッチギア、伝送部品、配電部品、スイッチ、調整器、回路遮断器、自動リクローザ、流体で満ちた伝送回線、および他の電気器具などの電気部品への使用が見出される。
【0002】
変圧器においては、誘電性流体によって、内部の変圧器部品に、冷却特性および絶縁特性が与えられる。誘電性流体は、変圧器を冷却し、かつ内部の活電部の間の電気絶縁の一部もまた提供する。誘電性流体についての要件は、長い動作寿命(10〜20年)および長期間にわたる高温での安定性である。
【0003】
以前に変圧器において誘電性流体として用いられていたポリ塩化ビフェニル化合物(「PCB」としても知られている)は、それらの毒性および環境への負の影響のために、しだいに使われなくなった。PCBに取って代わった毒性の無い変圧器の油として、シリコーン系またはフッ素化された炭化水素油、鉱油、脂肪酸エステル、植物性油および植物性種油が挙げられる。このような毒性の無い油は、粘度、引火点、燃焼点、流動点、水飽和点、誘電強度および/または他の特性に関して欠点を有し、これらの欠点は、これらの毒性の無い油の誘電性流体としての有用性に限界を設けている。
【発明の概要】
【0004】
したがって、PCB系の誘電性流体と同じか、または実質的に同じ化学的、機械的、および/または物理的特性を有する、電気部品のための毒性の無い、生分解性の、PCBを含まない誘電性流体が必要とされている。
【0005】
本開示は、組成物を提供する。一実施形態では、誘電性流体が提供され、誘電性流体は遺伝子操作された微生物油(GEMO)および酸化防止剤を含む。GEMOは、トリグリセリドおよびある量の小さいグリセリドを含む。さらなる実施形態では、小さいグリセリドの量は、GEMOの重量に基づいて0.1重量%〜30重量%の範囲内である。
【0006】
本開示は、装置を提供する。一実施形態では、装置が提供され、装置は電気部品および上記電気部品と動作的に連関している誘電性流体を含む。誘電性流体は、GEMOおよび酸化防止剤を含む。さらなる実施形態では、GEMOは、トリグリセリドおよびある量の小さいグリセリドを含む。小さいグリセリドの量は、GEMOの重量に基づいて0.1重量%〜30重量%の範囲内である。
【0007】
本開示の利点は、改善された誘電性流体である。
【0008】
本開示の利点は、生分解性である誘電性流体である。
【0009】
本開示の利点は、再生可能であり/持続可能である供給源、すなわち微生物から作られた誘電性流体である。
【0010】
本開示の利点は、遺伝子操作された微生物から産生される油であって、微生物の遺伝的特徴は、誘電性流体としての使用に好適な特性を有する油を産生するように調整されている。
【0011】
本開示の利点は、オレイン酸の量を増加させてリノール酸および/またはリノレン酸の量を減少させるように調整され、かつオリゴ糖を含む遺伝子操作された微生物油である。
【0012】
本開示の利点は、天然の微生物油中に存在する小さいグリセリドの量と比較した場合に増加した量の小さいグリセリドを産生するように調整された遺伝子操作された微生物油である。
【0013】
本開示の利点は、75℃〜100℃で増加した水飽和点を有する遺伝子操作された微生物油である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】従来の油と比較した場合の、本発明のGEMOの水飽和点に対する温度を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
誘電性流体は2つの主な機能を果たす。第一に、誘電性流体は、電気部品中の電気絶縁としての役目を果たす。誘電性流体は、例えば変圧器などの電気部品中に存在する高電圧に耐えることができなければならない。第二に、誘電性流体は、伝熱媒体として機能して、電気部品内に生成した熱を散逸する。誘電性流体は、酸素および水分の腐食効果を低減することもできる。このようにして、誘電性流体は、熱酸化および劣化に同時に耐性を持つ一方で、良い電気特性を持つことを必要としている。
【0016】
誘電性流体は、植物油および種油が持つ自然な特性とは反対のいくつかの基本的特性を必要としている。これらの特性は、酸化安定性、誘電率、低い流動点、スラッジの形成への耐性、および酸の形成への耐性である。
【0017】
本開示は、誘電性流体を提供する。一実施形態では、誘電性流体が提供され、誘電性流体は微生物油および酸化防止剤を含む。微生物油は、誘電性流体についての要件を満たす油を産生するように遺伝子操作された微生物によって産生される油である。さらなる実施形態では、遺伝子操作された微生物油は、トリグリセリドおよびある量の小さいグリセリドおよび/またはある量のオリゴ糖を含む。
【0018】
1.遺伝子操作された微生物油
本発明の誘電性流体は、遺伝子操作された微生物油を含有する。本明細書で用いられる「遺伝子操作された微生物油」または「GEMO」は、1種以上の外来遺伝子を含有する微生物の1種以上の菌株によって産生された油である。微生物は、微細藻類、油性酵母、細菌および/または真菌である。外来遺伝子(複数可)は、微生物の細胞で望ましい脂質および/または脂肪酸を産生する酵素(複数可)をコードする。
【0019】
本明細書で用いられる「外来遺伝子」は、細胞に形質転換された核酸である。形質転換された細胞を、組換え細胞と呼んでもよく、組換え細胞中にさらなる外来遺伝子(複数可)を導入してもよい。外来遺伝子は、形質転換された細胞と比較して異なる種由来(それゆえ非相同のもの)であってよく、または同じ種由来(それゆえ相同のもの)であってもよい。相同な遺伝子の場合は、それは、その遺伝子の内在性コピーと比較して、細胞のゲノム中で異なる位置を占める。外来遺伝子は、細胞中に2つ以上のコピーとして存在してもよい。外来遺伝子は、細胞中にゲノムの中への挿入としてまたはエピソーム分子として維持されてもよい。
【0020】
外来遺伝子(複数可)は、望ましい酵素をコードするように選択される。酵素はそれに応じて、望ましい成分(脂肪酸)および/または望ましい特性(望ましい炭素鎖長、最終油中の望ましい量の飽和/不飽和を産生する。発現される外来遺伝子の望ましい組み合わせを選択することによって、微生物によって生成される生成物を調整することができる。このようにして、微生物は、誘電性流体に好適な組成プロファイルを有する油を産生するように遺伝的に調整される。微生物は、望ましい脂質および/もしくは脂肪酸の含有量、および/または望ましい程度の飽和/不飽和、および/または望ましい量の小さいグリセリドおよび/またはオリゴ糖を有する油を産生するように遺伝子操作されるかまたはさもなければ調整されてもよい。
【0021】
例えば、微生物を、脂肪酸を合成するように操作することができ、微生物はさらなる酵素による処理により望ましい炭素の長さに切断される。脂肪酸は、それから望ましい飽和または不飽和度まで酵素的にさらに処理されてもよい。微生物の代謝もまた、望ましい量のオリゴ糖を産生するように酵素的に処理されてもよい。
【0022】
一実施形態では、微生物は微細藻類である。微細藻類は、脂肪酸の合成のための細胞代謝を増大させるように操作される。微細藻類は、1種以上の外来遺伝子を含有し、下の表1に述べる限定されない酵素のうちの1種以上をコードする。
【0023】
【表1】
【0024】
微細藻類は、下の表2に述べるような炭化水素修飾酵素をコードする1種以上の遺伝子を有する形質転換細胞を含んでもよい。
【0025】
【表2】
【0026】
表2に示す酵素は、特異的な数の炭素原子を含む基質に作用する特異性を有している。例えば、脂肪酸アシル−ACPチオエステラーゼは、ACPから望ましい炭素の長さを有する脂肪酸を切断するための特異性を有してもよい。あるいは、ACPおよび長さ特異的チオエステラーゼは互いに親和性を有することができ、この親和性は組み合わせた場合にそれらを特に有用にする(すなわち、外来ACPおよびチオエステラーゼ遺伝子は、それらが由来している特定の組織または生物で天然に同時発現することができる)。このようにして、微細藻類は、基質に含有される炭素原子の数に関して、ACPからの脂肪酸の切断を触媒する特異性を有するタンパク質をコードする外来遺伝子を含有することができる。酵素の特異性は、8個、または10個、または14個〜16個、または18個、または20個、または22個、または24個の炭素原子、あるいはそれらの任意の組み合わせを有する基質に対するものでありうる。さらなる実施形態では、特異性は16個〜20個の炭素原子を有する基質に対するものである。その上のさらなる実施形態では、特異性は18個の炭素原子を有する基質に対するものである。
【0027】
一実施形態では、微生物は、官能性を持たせた脂肪酸を産生するように遺伝子操作される。脂肪酸上に酵素的に処理される官能基の非限定的な例として、エポキシ、ヒドロキシル、アミン、カルボキシル、ケトン、アルデヒド、アルケニル、アリール、アリル、スクアレン、およびアルキル基が挙げられる。
【0028】
一実施形態では、微細藻類は、クロレラ属(Chorella)に由来するものである。クロレラ(Chlorella)は、単細胞の緑藻類の属であり、緑藻植物門(the phylum Chlorophyta)に属する。クロレラは球状の形状をしており、直径約2〜10μmであり、鞭毛を持たない。クロレラ(Chlorella)のうちのいくつかの種は、天然では従属栄養である。クロレラ(Chlorella)の好適な種の非限定的な例として、クロレラ・プロトテコイデス(Chlorella protothecoides)、クロレラ・ミヌティッシマ(Chlorella minutissima)、クロレラ・ソロキニアナ(Chlorella sorokiniana)、クロレラ・エリプソイデア(Chlorella ellipsoidea)、クロレラ属種(Chlorella sp.)、およびクロレラ・エメルソニイ(Chlorella emersonii)が挙げられる。
【0029】
一実施形態では、微細藻類は、クロレラ・プロトテコイデス(Chlorella protothecoides)である。クロレラ・プロトテコイデス(Chlorella protothecoides)は、特にそれが持つ脂質の高組成と長鎖脂質のために、誘電性流体の産生に特に適していることがわかった。
【0030】
一実施形態では、微細藻類は、クロレラ属(Chlorella)に由来するものであり、従属栄養的に成長する。炭素源は、果糖、ショ糖、ガラクトース、キシロース、マンノース、ラムノース、N−アセチルグルコサミン、グリセロール、フロリドシド(floridoside)、グルクロン酸、およびそれらの任意の組み合わせから選択される。従属栄養的成長条件を、誘電性流体に好適な脂質の収量を増加させるように調節することができる。例えば、酢酸は微細藻類のための供給原料に用いることができる。酢酸は、脂肪酸の合成(すなわちアセチル−CoA)を始める代謝点に直接供給される。このようにして、培養に酢酸を供給することによって、脂肪酸の産生を増加させることができる。一般に、細菌は、十分な量の酢酸の存在下に培養され、特に、酢酸が存在しない場合の微生物脂質(例えば、脂肪酸)の収量を上回るように微生物脂質の収量および/または微生物脂肪酸の収量を増加させる。
【0031】
発酵槽を、従属栄養成長培地として用いることができる。培地を、発酵中に撹拌しかつ/またはかき回して、通気を促進することができる。発酵が終了すると直ちに、遠心分離、濾過、沈降、抽出、溶解、およびそれらの任意の組み合わせにより、回収を行うことができる。得られた油を、さらなる精製、漂白および/または乾燥により純化することができる。
【0032】
一実施形態では、従属栄養的に成長した微細藻類は、炭素源を酵素的に処理して小さいグリセリドを産生するように遺伝子操作されている。本明細書で用いられる「小さいグリセリド」は、エステル結合により、最大限2つの脂肪酸鎖に共有結合したグリセロール分子である。言い換えれば、小さいグリセリドは、1つの脂肪酸または2つの脂肪酸でエステル化され、モノグリセリド、ジグリセリド、およびモノグリセリドとジグリセリドとの組み合わせを形成するグリセロール分子である。小さいグリセリドの脂肪酸部分は、C〜C24の炭素鎖を含有し、飽和または不飽和であってよい。小さいグリセリドは、トリグリセリド、すなわち3つの脂肪酸によってエステル化されたグリセロールを除外している。
【0033】
一実施形態では、GEMOは、小さいグリセリドを0.1重量%以上、または1.0重量%以上、または5重量%以上、または10重量%以上、20重量%以上、または30重量%、またはそれより多く含有している。小さいグリセリドは、モノグリセリド、ジグリセリド、またはそれらの組み合わせであってよい。重量パーセントは、GEMOの全重量に基づいている。
【0034】
一実施形態では、小さいグリセリドは、GEMOの0.5重量%〜1.0重量%の量で存在する。小さいグリセリドは、0.01重量%〜0.1重量%のモノグリセリドおよび0.99重量%〜0.9重量%のジグリセリドを含む。さらなる実施形態では、小さいグリセリドは、0.01重量%〜0.05重量%のモノグリセリドおよび0.8重量%〜0.85重量%のジグリセリドを含み、小さいグリセリドは、GEMOの0.81重量%〜0.90重量%である。いかなる特定の理論にも拘束されるわけではないが、小さいグリセリドの量が増加するにつれて、GEMOの水飽和点がそれに応じて増加すると考えられている。
【0035】
例えば天然の藻類などの天然の微生物は、約100ppm(0.01重量%)までの小さいグリセリドを有する油を産生することができる。本発明のGEMOは天然の(すなわち遺伝子操作されていない)微生物によって産生される小さいグリセリドよりも多くの小さいグリセリドを産生するように操作されているので、本発明のGEMOは有利である。
【0036】
本発明のGEMO中に小さいグリセリドを供給することにはさらなる利点がある。小さいグリセリドは、トリグリセリドよりも低い分子量を有する。通例、グリセリドの分子量が減少するにつれて、同じように粘度も減少する。したがって、小さいグリセリドは、GEMOの粘度全体を低減することができる。冷却と熱散逸は対流に基づいているため、油の粘度が低いほど、(例えば、変圧器の動作におけるような)伝熱のための油はより効率的になる。このようにして、小さいグリセリドは、GEMO/誘電性流体において粘度低減剤として作用することができる。
【0037】
第二に、小さいグリセリド(すなわちモノグリセリドおよび/またはジグリセリド)は、水を同時に引きつけかつはじく界面活性分子である。この同時に親水性/疎水性である特性によって、小さいグリセリドは、誘電性流体中に存在するいかなる不純物をも捕える優れた乳化剤になる。小さいグリセリドは、水素結合の形成の調節も行う(すなわちジグリセリドの−OH基は、水の−OH基に引きつけられる)。小さいグリセリドは、例えば、油の中のいかなる水分および/または変圧器の中のセルロース紙絶縁システムによって生じたいかなる水分をも吸収する脱水剤としての働きをすることができる。
【0038】
一実施形態では、従属栄養的に成長した微細藻類は、炭素源を酵素的に処理し1種以上のオリゴ糖を産生するように遺伝子操作されている。本明細書で用いられる「オリゴ糖」は、グリコシド結合によって互いに共有結合された2個以上の単糖から成る分子である。一実施形態では、オリゴ糖は、2個、または3個、または4個、または5個、または6個、または7個、または8個〜10個またはそれ以上の単糖を含有する。さらなる実施形態では、従属栄養の微細藻類は、0.1ppm、または1ppm、または5ppm〜10ppm、または100ppm、または1000ppm、または10,000ppm、または50,000ppmまでのオリゴ糖を有する最終油を産生するように遺伝子操作されている。
【0039】
オリゴ糖は、下記の構造(I)を有する。
【0040】
【化1】
【0041】
本発明のGEMO中にオリゴ糖を供給することにはいくつかの利点がある。第一に、オリゴ糖は、脱水剤である。オリゴ糖は、変圧器の中の誘電性流体中のいかなる水分をも吸収する能力を有する。オリゴ糖は、セルロース紙絶縁を含む電気部品から誘電性流体の中に移るいかなる水分をも吸収することもまたできる。オリゴ糖は、急速に水分を吸収する。いかなる特定の理論にも拘束されるわけではないが、オリゴ糖のヒドロキシル基が水と水素結合して、それにより誘電性流体を脱水すると考えられている。一実施形態では、オリゴ糖(またはその誘導体)は、陰イオンの形態で、オリゴ糖自体の重量の100、または200倍〜300倍までの水を吸収することができる。
【0042】
第二に、オリゴ糖は、流動点降下剤としてもまた有利に機能する。いかなる特定の理論にも拘束されるわけではないが、油の中にオリゴ糖が存在することによって、油が核形成および結晶の成長ならびに結晶転移温度のための臨界サイズ以上に形成されないように誘導される。このようにして、オリゴ糖は、低い温度での大きな結晶の形成を阻害し、かつ誘電性流体の流動点を低下させる。
【0043】
一実施形態では、微細藻類は、少なくとも60重量%の、または少なくとも60重量%、もしくは65重量%、もしくは70重量%、もしくは75重量%、もしくは80重量%、もしくは85重量%〜90重量%、もしくは95重量%、もしくは99重量%までのオレイン酸;15重量%未満の、または0.5重量%、もしくは1重量%、もしくは2重量%、もしくは3重量%〜5重量%、もしくは10重量%、もしくは15重量%未満のリノール酸;および5重量%未満の、または0重量%、もしくは0.25重量%、もしくは0.5重量%、もしくは1重量%、もしくは2重量%〜3重量%、もしくは4重量%まで、もしくは5重量%未満までのリノレン酸を含有する最終油を産生するように遺伝子操作されている。GEMOは、オレイン酸、リノール酸、およびリノレン酸を上に述べられた重量パーセントの任意の組み合わせで含有することができる。重量パーセントは、GEMOの全重量に基づいている。
【0044】
一実施形態では、GEMOは、65重量%超のオレイン酸、15重量%未満のリノール酸、および5重量%未満のリノレン酸を含有する。重量パーセントは、GEMOの全重量に基づいている。
【0045】
一実施形態では、GEMOは、80重量%超のオレイン酸、または80重量%超〜85重量%のオレイン酸、10重量%未満の、または5重量%〜10重量%のリノール酸、および1重量%未満の、または0重量%、または0重量%よりも多い、または0.1重量%〜0.3重量%のリノール酸を含有する。
【0046】
一実施形態では、微細藻類は、少なくとも60重量%から、または少なくとも60重量%、もしくは65重量%、もしくは70重量%、もしくは75重量%、もしくは80重量%、もしくは85重量%〜90重量%、もしくは95重量%、もしくは99重量%の一価不飽和脂肪酸含有量および15重量%未満の、または0重量%、もしくは0.5重量%、もしくは1重量%、もしくは2重量%、もしくは3重量%〜5重量%、もしくは10重量%、もしくは15重量%未満の多価不飽和脂肪酸含有量を有するGEMOを産生するように遺伝子操作されている。重量パーセントは、GEMOの全重量に基づいている。
【0047】
一実施形態では、GEMOは、85%、または90%〜95%、または96%、または97%、または98%、または99%、または99.9%のトリグリセリド含有量を有する。小さいグリセリドは、0.1重量%、または1.0重量%、または5重量%〜10重量%、または20重量%、または30重量%存在している。重量パーセントは、GEMOの全重量に基づいている。
【0048】
一実施形態では、微生物は、1種以上の不均一なトリグリセリドを産生するように遺伝子操作されている。本明細書で用いられる「不均一なトリグリセリド」は、下記の構造(II)を有するトリグリセリドである。
【0049】
【化2】
【0050】
式中、R、R、およびRは、同じかまたは異なっている。R、R、Rの各々は、8個の炭素原子〜24個の炭素原子の炭素鎖長を有する。R、R、Rのうちの少なくとも2つまたは少なくとも3つは、異なる数の炭素原子、または異なる分岐、または異なる程度の飽和/不飽和を有する。
【0051】
一実施形態では、構造(II)の不均一なトリグリセリドのR、R、Rのうちの少なくとも1つが、16個の炭素原子の炭素鎖を有する(すなわちR〜Rのうちの少なくとも1つが、C16炭素鎖を持った脂肪酸部分を有する)。R、R、Rの他の2つは、8個の炭素原子〜24個の炭素原子の鎖長を有し、残りの2つのR基のうちの少なくとも1つは、16個の炭素原子の炭素鎖を有さない。
【0052】
一実施形態では、構造(II)のR、R、Rのうちの少なくとも1つが18個の炭素原子を持った炭素鎖を有する。R、R、Rの他の2つは各々が異なる数の炭素原子を持った鎖長を有する。本発明のGEMOは、微生物を遺伝子操作することを可能にし、誘電性流体としての使用に好適な不均一なトリグリセリドで構成される油を産生する。このようにして、R〜Rの各々は、異なる長さを有することができ、R〜Rのうちの少なくとも1つがC18炭素鎖を有する。
【0053】
一実施形態では、GEMOは、85%、または90%〜95%、または96%、または97%、または98%、または99%、または99.9%の不均一なトリグリセリド含有量を有する。重量パーセントは、GEMOの全重量に基づいている。
【0054】
出願人は、驚くべきことに、GEMO中の小さいグリセリドの存在により、本発明の誘電性流体に対する水飽和点が増加することを発見した。図1に示すように、温度が60℃〜75℃〜100℃(従来の変圧器の動作温度)まで変化するにつれて、本発明の誘電性流体の水飽和能力は、4倍〜5倍増加する。図1のGEMOは、実施例部分のGEMO2を表し、0.84重量%の小さいグリセリド含有量(0.01重量%のモノグリセリドおよび0.83重量%のジグリセリド)を有する。図1の水飽和点は、ASTM D 1533に準拠して決定されている。従来の油(鉱油、高オレインヒマワリ油、高オレインキャノーラ油、ダイズ油)の水飽和点と比較した場合に、本発明のGEMOの100℃での水飽和能力が指数関数的に増加するのは、驚くべきことでありかつ予期されないことである。
【0055】
いかなる特定の理論にも拘束されるわけではないが、誘電性流体中のGEMOが劣化するにつれて、GEMO中に存在する小さいグリセリドおよび/またはオリゴ糖が水分を吸収して、それにより水が誘電性流体外に凝縮することを妨げると考えられている。このようにして、小さいグリセリドおよび/またはオリゴ糖は脱水剤であり、それにより、本発明の誘電性流体の水飽和能力を増加させる。
【0056】
一実施形態では、本発明の誘電性流体は、60℃で1400ppm〜1600ppmの水飽和を有する。さらなる実施形態では、水飽和の範囲が60℃で1400〜1600ppmの誘電性流体中で、小さいグリセリドの量は、0.1重量%〜1.0重量%である。
【0057】
一実施形態では、本発明の誘電性流体は、70℃で2000ppm〜2200ppmの水飽和を有する。さらなる実施形態では、水飽和の範囲が70℃で2000〜2200ppmの誘電性流体中で、小さいグリセリドの量は、0.1重量%〜1.0重量%である。
【0058】
一実施形態では、本発明の誘電性流体は、80℃で2800ppm〜3000ppmの水飽和を有する。さらなる実施形態では、水飽和の範囲が80℃で2800〜3000ppmの誘電性流体中で、小さいグリセリドの量は、0.1重量%〜1.0重量%である。
【0059】
一実施形態では、本発明の誘電性流体は、90℃で3800ppm〜4200ppmの水飽和を有する。さらなる実施形態では、水飽和の範囲が90℃で3800〜4200ppmの誘電性流体中で、小さいグリセリドの量は、0.1重量%〜1.0重量%である。
【0060】
一実施形態では、本発明の誘電性流体は、100℃で4800ppm〜5600ppmの水飽和を有する。さらなる実施形態では、水飽和の範囲が100℃で5000〜5600ppmの誘電性流体中で、小さいグリセリドの量は、0.1重量%〜1.0重量%である。
【0061】
本発明の誘電性流体は、それぞれの温度で、前述の水飽和点のうちの1つ、いくつか、または全てを有してもよい。
【0062】
2.酸化防止剤
本発明の誘電性流体は、酸化防止剤を含有している。酸化防止剤は、誘電性流体の酸化安定度を改善する。一実施形態では、酸化防止剤は、フェノール系酸化防止剤またはアミン系酸化防止剤である。好適なフェノール系酸化防止剤の非限定的な例として、IRGANOX L109、IRGANOX L64、IRGANOX L94、およびIRGANOX L−57として市販され、CIBA SPECIALTY CHEMICALS,Inc.(Tarrytown、N.Y.)から入手できるアルキル化ジフェニルアミン、IRGANOX L−109として市販され、またCIBA SPECIALTY CHEMICALS、VANOX MBPCからの、ビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシヒドロシンナメート、ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノールの誘導体などの高分子量のフェノール系酸化防止剤、R.T.Vanderbilt Companyから商業的に入手可能な2,2’−メチレン−ビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、IRGANOX L−109、ビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシヒドロシンナメート、ジ−tert−ブチル−パラ−クレゾール、2,6−ジ−tert−ブチル−メチルフェノール、2,4−ジメチル−6−tert−ブチルフェノール、およびそれらの任意の組み合わせが挙げられる。
【0063】
アミン系酸化防止剤の非限定的な例として、置換されたジフェニルアミン系酸化防止剤N,N’ジオクチルジフェニルアミン、ジ−β−ナフチル−パラ−フェニレンジアミン、n−フェニルベンゼンアミンと2,4,4−トリメチルペンタン(IRGANOX L−57)の反応生成物、ノニル化ジフェニルアミン(Naugalube 438L)、ブチルオクチルジフェニルアミン、ジアルキルジフェニルアミン(IRGANOX L−74)、およびジクミルジフェニルアミン、N,N’−ジ−イソプロピル−パラ−フェニレンジアミン、N,N’−ビス−(1,4−ジメチルフェニル)−パラ−フェニレンジアミン、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0064】
他の好適な酸化防止剤のさらなる非限定的な例として、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)、モノ−第三ブチルヒドロキノン(TBHQ)、およびそれらの任意の組み合わせが挙げられる。誘電性流体に対する酸化安定度テストは、誘電性流体の使用に基づいて変化する。例えば、密閉変圧器システム、コンサベータ、およびフリーブリージング装置は各々、異なる酸化安定度テストをすることができる。一般的なテストの一つは、酸素安定度指標方法(AOCS公定法Cd 12b−92)である。この方法では、純化された空気の流れが、油の試料を通り、油の試料は熱槽の中に保持される。油試料からの流出空気は、それから脱イオン水を入れてある容器を通って泡立たされる。水の伝導性は継続してモニターされる。油試料からのいかなる揮発性有機酸も流出空気によって押し流される。流出空気中に揮発性有機酸が存在すると、酸化が進行するにつれて水の伝導性が増加する。油安定度指標は、酸化の速度の最大変化点として定義される。
【0065】
他の好適な酸化防止剤のさらなる非限定的な例として、2,2−ジ(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、フェノールチアジン、フェノールチザジンカルボン酸エステル(phenolthizazine carboxylic esters)、重合トリメチルジヒドロキノリン、フェニル−α−ナフチルアミン、N,N’ジオクチルジフェニルアミン、N,N’−ジイソプロピル−p−フェニルジアミン、ジブチルクレゾール、ブチル化ヒドロキシアニソール、アントラキノン、キノリン、ピロカテコール、ジ−β−ナフチル−パラ−フェニレンジアミン、没食子酸プロピル、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、亜リン酸トリス(2,4−ジtert−ブチルフェニル)、セバシン酸ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)、テトラキス[メチレン(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシヒドロシンナメート)]メタン、チオジエチレン(thiodiethylene)ビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシヒドロシンナメート、4,4’−チオビス(6−tert−ブチル−m−クレゾール)、2,2’−チオビス(6−t−ブチル−4−メチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、ベンゼンアミン、4−(1−メチル−1−フェニルエチル)−N−4[4−(1−メチル−1−フェニルエチル)フェニル]−、タキシル酸(taxilic acid)、クエン酸、および前記のものの任意の組み合わせが挙げられる。一実施形態では、本発明の誘電性流体は0.1重量%〜1.0重量%、または1.5重量%の酸化防止剤を含有する。重量パーセントは、誘電性流体の全重量に基づいている。
【0066】
3.添加剤
本発明の誘電性流体は、以下の添加剤:酸化抑制剤、腐食抑制剤、金属不活性化剤、流動点降下剤、およびそれらの任意の組み合わせのうちの1種以上を含むことができる。
【0067】
一実施形態では、誘電性流体は、金属不活性化剤を含む。金属不活性化剤は、誘電性流体の酸化安定度を改善する。好適な金属不活性化剤の非限定的な例として、銅不活性化剤およびアルミニウム不活性化剤が挙げられる。銅は、油の酸化において、触媒効果を有する。酸化防止剤は、遊離の酸素と反応し、酸素が油を攻撃するのを妨げる。ベンゾトリアゾールの誘導体などの銅不活性化剤は、誘電性流体中の銅の触媒活性を低減する。一実施形態では、誘電性流体は、銅不活性化剤を1重量%未満含有している。IRGAMET−30は、CIBA SPECIALTY CHEMICALSから商業的に入手可能な金属不活性化剤であり、トリアゾールの誘導体、N,N−ビス(2−エチルヘキシル)−1H−1,2,4−トリアゾール−1メタンアミンである。
【0068】
他の好適な金属不活性化剤の非限定的な例として、2’,3−ビス[[3−[3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル]プロピオニル]]プロポニオヒドラジン(proponiohydrazine)、ベンゾ−トリアゾール脂肪族アミン塩、1−(ジ−イソオクチルアミノメチル)−1,2,4−トリアゾール、1−(2−メトキシプロパ−2−イル)トリルトリアゾール、1−(1−シクロへキシルオキシプロピル)トリルトリアゾール、1−(1−シクロヘキシルオキシヘプチル)トリルトリアゾール、1−(1−シクロヘキシルオキシブチル)トリルトリアゾール、1−[ビス(2−エチルヘキシル)アミノメチル−4−メチルベンゾトリアゾール、ホウ酸トリエチル、ホウ酸トリプロピル、ホウ酸トリイソプロピル、ホウ酸トリブチル、ホウ酸トリペンチル、ホウ酸トリヘキシル、ホウ酸トリシクロヘキシル、ホウ酸トリオクチル、ホウ酸トリイソオクチル、およびN,N−ビス(2−エチルヘキシル)−アル−メチル−1H−ベンゾトリアゾール−1−メタンアミンが挙げられる。一実施形態では、本発明の誘電性流体は、0.1重量%〜0.7%未満の、または1.0重量%未満の金属不活性化剤(誘電性流体の全重量に基づく)を含む。
【0069】
遺伝子操作された微細藻類によって産生されたオリゴ糖は、先に論じられたように流動点降下剤として機能する。本発明の誘電性流体の流動点は、別の流動点降下剤を誘電性流体組成物に加えること、および/または誘電性流体組成物を脱蝋することのいずれかによってさらに改善することが可能である。一実施形態では、流動点降下剤は、分岐したポリメタクリレートである。ポリメタクリレートは、流動点降下剤の分子を誘電性流体中のGEMOの成長する結晶に含めるのを促進する骨格を有する。ワックス結晶成長のパターンに干渉することによって、流動点降下剤は、本発明の誘電性流体組成物の動作範囲を増大させ、そうして誘電性流体組成物はさらに低い温度でも流体のままである。好適な流動点降下剤の非限定的な例として、メタクリル酸エステル、メタクリル酸ポリアルキル、脂肪酸由来の脂肪酸アルキルエステル、酢酸ポリビニルオリゴマー、アクリルオリゴマー、VISCOPLEX 10−310、VISCOPLEX 10−930、およびVISCOPLEX 10−950が挙げられる。一実施形態では、流動点降下剤は、ポリメタクリレート(PMA)である。
【0070】
一実施形態では、誘電性流体を脱蝋することによって、流動点をさらに低下させることができる。「脱蝋」は、低い温度でGEMO中に現れる沈殿物を取り除くプロセスである。沈殿は、油の粘度の減少を伴う。脱蝋は、数時間にわたって5℃、0℃、および−12℃へと温度を連続的に低下させかつ珪藻土を伴う固形物を濾過することによって行うことができる。
【0071】
一実施形態では、誘電性流体は、GEMO、ブレンド成分、および酸化防止剤を含むことができる。ブレンド成分は、植物油、種油、鉱油、シリコーン流体、合成エステル、ポリアルファオレフィン、およびそれらの組み合わせの1種以上であってよい。
【0072】
4.特性
本発明のGEMOは、それを誘電性流体としての使用のために好適なものとする特異的な物理的特性を有している。
【0073】
GEMOを含有する本発明の誘電性流体の誘電強度は、ASTM D 1816に準拠して測定した場合に少なくとも20kV/mm(1mmの間隙)、または少なくとも35kV(2.5mmの間隙)または少なくとも40KV/100mil(2.5mm)の間隙である。
【0074】
GEMOを含有する本発明の誘電性流体の散逸率は、ASTM D 924に準拠して測定した場合に、25℃で0.5%未満、0.2%未満、または0.1%未満である。
【0075】
GEMOを含有する本発明の誘電性流体の酸性度は、ASTM D 974に準拠して測定し田場合に、0.06mgKOH/g未満、または0.03mgKOH/g未満、または0.02mgKOH/g未満である。
【0076】
GEMOを含有する本発明の誘電性流体の電気伝導率は、ASTM D 2624に準拠して測定した場合に、25℃で1pS/m未満または0.25pS/m未満である。
【0077】
GEMOを含有する本発明の誘電性流体の引火点は、ASTM D 92に準拠して測定した場合に、少なくとも145℃、または少なくとも200℃、または少なくとも250℃、または少なくとも300℃である。
【0078】
GEMOを含有する本発明の誘電性流体の燃焼点温度は、ASTM D 92に準拠して測定した場合に、少なくとも300℃である。
【0079】
GEMOを含有する本発明の誘電性流体の流動点は、ASTM D 97に準拠して測定した場合に、−10℃未満、または−15℃未満、または−20℃未満または−30℃未満である。
【0080】
本発明の誘電性流体の初期水含有量は、ASTM D 1533に準拠して測定して、200ppm未満、または0ppm、もしくは10ppm〜100ppm、もしくは200pp未満である。
【0081】
本発明の誘電性流体は、PCBを含まず、PCBに欠け、またはさもなければPCBが全くない。言い換えれば、誘電性流体中に存在するPCB(もしあれば)の量は、ASTM D 4059によっては検出できない。
【0082】
一実施形態では、本発明の誘電性流体の粘度は、ASTM D 445(Brookfield)に準拠して測定した場合に、40℃で約50cSt未満でかつ100℃で15cSt未満である。
【0083】
本発明の誘電性流体は、前記の特性の任意の組み合わせを有することができる。
【0084】
5.装置
本開示は、装置を提供する。装置は、電気部品を含み、本発明の誘電性流体は、電気部品と動作的に連関している。本発明の誘電性流体は、トリグリセリドを伴う(任意に、小さいグリセリドおよび/またはオリゴ糖を伴う)GEMOおよび酸化防止剤を含む。好適な電気部品の非限定的な例として、変圧器、コンデンサ、スイッチギア、伝送部品、配電部品、スイッチ、調整器、回路遮断器、自動リクローザ、または同様な部品、流体で満ちた伝送回線、および/またはそれらの組み合わせが挙げられる。
【0085】
誘電性流体は、電気部品と動作的に連関している。本明細書で用いられる「動作的に連関」は、誘電性流体が電気部品を冷却および/または絶縁することを可能にする構成および/または空間的な関係である。動作的な連関は、それにより誘電性流体と電気部品との以下の構成による直接的および/または間接的な接触を含む:電気部品の中の、上の、周りの、隣接した、接触した、それを通じて(全体的にまたは部分的に)囲繞した、および/または近接した誘電性流体;および誘電性流体に(全体的にまたは部分的に)浸した電気部品。
【0086】
一実施形態では、誘電性流体は、電気部品と動作的に連関し、GEMOは0.1重量%〜30重量%の小さいグリセリドを含んでいる。
【0087】
一実施形態では、誘電性流体は、電気部品と動作的に連関し、GEMOは、0.1重量%〜1.0重量%の小さいグリセリドを含み、誘電性流体は、ASTM D 1533に準拠して測定した場合に、90℃で3800ppm〜4200ppmの水飽和点を有する。
【0088】
一実施形態では、誘電性流体は、電気部品と動作的に連関し、GEMOは、0.1重量%〜1.0重量%の小さいグリセリドを含み、誘電性流体は、100℃で4800ppm〜5600ppmの水飽和を有する。
【0089】
一実施形態では、誘電性流体は、電気部品と動作的に連関し、GEMOは、0.1ppm〜50,000ppmのオリゴ糖を含む。さらなる実施形態では、誘電性流体は、ブレンド成分を含む。
【0090】
一実施形態では、誘電性流体は、電気部品と動作的に連関し、GEMOは、0.1重量%〜30重量%の小さいグリセリドおよび0.1ppm〜50,000ppmのオリゴ糖を含む。
【0091】
一実施形態では、電気部品は、セルロース系絶縁材を含む。好適なセルロース系絶縁材の非限定的な例として、クラフト紙および/またはプレスボードが挙げられる。
【0092】
誘電性流体中に存在する水が、セルロース系絶縁材を劣化することが知られている。誘電性流体の飽和点に達すると、セルロース系絶縁材に接触している残余の水がセルロース繊維を加水分解して絶縁材を劣化させる。GEMO中に存在する小さいグリセリドが水分を吸収して、それによりセルロース系絶縁材の劣化を低減する。このようにして、小さいグリセリドの存在により、GEMOおよびセルロース系絶縁材両方の寿命が増加し、それに応じて装置の耐用年数が増加する。
【0093】
一実施形態では、装置は、セルロース系絶縁材に接触している誘電性流体を含む。誘電性流体は、先に開示されたように、60℃、70℃、80℃、90℃、および100℃のそれぞれの温度で、水飽和点を有する。さらなる実施形態では、セルロース系絶縁材に接触している誘電性流体は、100℃で4800ppm〜5600ppmの水飽和点を有する。
【0094】
一実施形態では、電気部品は変圧器である。GEMOから成る本発明の誘電性流体は、変圧器と動作的に連関している。変圧器では、本発明の誘電性流体は、(1)変圧器の動作によって生成された熱エネルギーを散逸する液体冷却剤および/または(2)電気部品が変圧器に接触するまたは変圧器の上に電弧を成すのを防止する、内部の活電部の間の絶縁器を提供する。誘電性流体は、電気部品を絶縁するのに効果的な量で存在する。誘電性流体はまた、セルロース系絶縁材から作られた絶縁紙の劣化も遅らせる。変圧器の寿命は、通常、絶縁紙の耐用期間によって決定される。脱水剤中に存在する小さいグリセリドおよび/またはオリゴ糖は、絶縁紙の水分ならびに誘電性流体中の水分を調節する。絶縁紙を保存することによって、本発明の誘電性流体は、有利に変圧器の寿命を増加させる。
【0095】
一実施形態では、変圧器は配電変圧器である。配電変圧器は、ハウジングまたはタンク中に一次および二次のコイルまたは巻線を、ならびにタンク中に巻線と動作的に連関している誘電性流体を含んでいる。巻線は、誘電性流体を介して互いに絶縁され、かつ鉄または鋼鉄などの磁気的に好適な材料から成る共通のコアの周りに巻きつく。コアおよび/または巻線は、さらに絶縁し熱を吸収するラミネーション、絶縁被膜または絶縁紙材料を有することもできる。コアと巻線は誘電性流体中に浸され、流体の自由な循環を可能にする。誘電性流体は、コアおよび巻線を覆いかつ囲む。誘電性流体は、絶縁体中およびハウジング内の他の場所の全ての小さな空隙を完全に満たす。変圧器のハウジングは、タンクの周りに気密および液密シールを設け、たまって最終的には変圧器の故障を起こす空気および/または汚染物質の潜入を防止する。配電変圧器は、通常、36kV以下の範囲のシステム電圧を有する。
【0096】
一実施形態では、電気部品は、電力変圧器である。電力変圧器は、通常、36kV以上の範囲のシステム電圧を有する。
【0097】
コアおよびコイルアセンブリからの伝熱率を改善するために、変圧器は、冷却を増加させるための追加の構造を含むことができ、例えば冷却するために利用できる表面積を増加するために設けられたタンク上のフィン、またはタンクの上端にまで上がった熱い流体がチューブを通って循環してタンクの底部に戻るときに冷却できるように設けられた、タンクに取り付けられたラジエータまたはチューブなどである。これらのチューブ、フィンまたはラジエータにより、タンク壁のみによって設けられたものより多くの追加の冷却表面が設けられる。ファンもまた、熱い誘電性流体と熱したタンクからの熱を周囲の空気により良く移動させるために、熱した変圧器封入容器にわたってまたはラジエータもしくはチューブにわたって空気の流れを強制的に送風させるために設けられる。また、変圧器のいくつかは、強制的油冷却システムを含み、そのシステムは誘電性流体をタンクの底部からパイプもしくはラジエータを通ってタンクの上端に循環させる(またはタンクから別の離れた冷却装置まで循環させそれから変圧器に戻す)ポンプを含む。
【0098】
他の実施形態もまた可能であり、変圧器での使用に限定されない。
【0099】
本発明の誘電性流体は、生分解性でありかつ毒性が無い。生分解性により本発明の誘電性流体の廃棄が容易になり、誘電性流体が地面か変圧器の位置付近の表面にこぼれた場合の危険性が無くなる。
【0100】
一実施形態では、本開示は、本発明の誘電性流体を電気部品と動作的に連関するように置くことを含むプロセスを提供する。誘電性流体は、トリグリセリドを伴う(任意に、小さいグリセリドおよび/またはオリゴ糖を含む)GEMO、酸化防止剤、および任意にブレンド成分を含有する本発明の誘電性流体である。上記プロセスは、さらに電気部品を本発明の誘電性流体で冷却することを含む。電気部品は、変圧器、コンデンサ、スイッチギア、電源ケーブル、(油で満ちた配電ケーブルなどの)配電部品、スイッチ、調整器、回路遮断器、自動リクローザ、流体で満ちた伝送回路、および/またはそれらの組み合わせのいずれか一つを含むことができる。
【0101】
一実施形態では、本開示は、誘電性流体を電気部品と動作的に連関するように置くことを含むプロセスを提供する。誘電性流体は、(任意にオリゴ糖を含む)GEMOおよび任意にブレンド成分を有する本発明の誘電性流体である。上記プロセスは、誘電性流体を有する電気部品を絶縁することをさらに含む。電気部品は、変圧器、コンデンサ、スイッチギア、電源ケーブル、(油で満ちた配電ケーブルなどの)配電部品、スイッチ、調整器、回路遮断器、自動リクローザ、流体で満ちた伝送回路、および/またはそれらの組み合わせのいずれか一つを含むことができる。
【0102】
定義
この開示中の数値の範囲は概算のものであって、したがってそうでないと示さないかぎり範囲外の値も含むことができる。数値の範囲は、任意の低い値と任意の高い値との間が少なくとも二単位離れているという条件において、一単位きざみで、下限値および上限値を含む、下限値および上限値からの全ての値を含む。一例として、もし組成的特性、物理的特性、または他の特性が100〜1,000ならば、100、101、102等の全ての個々の値、および100〜144、155〜170、197〜200等の部分的な範囲が明確に数えられていることが意図されている。1よりも小さい値を含有するまたは1よりも大きい小数(例えば1.1、1.5等)を含有する範囲については、一単位は、適宜、0.0001、0.001、0.01、または0.1であるとみなされている。10より小さい一桁の数(例えば1〜5)を含有する範囲については、一単位は、通常0.1であるとみなされている。これらは、具体的に意図されたものの例に過ぎず、数えられた最も低い値と最も高い値との間の数値の全ての可能な組み合わせが、この開示において明確に述べられているものとみなされるべきである。
【0103】
そうでないと特に示さないかぎり、化学化合物に対して用いられる単数は全ての異性体型を含み、逆もまた同様である(例えば、「ヘキサン」は、個々にまたは集合的に、ヘキサンの全ての異性体を含む。)。「化合物」および「錯体」という用語は交換可能に用いられていて、有機化合物、無機化合物、および有機金属化合物を指す。
【0104】
「酸性度」は、油の既知の体積をアルコールKOH溶液で中和点まで滴定することによって測定される。KOH1mgにつきグラムでの油の重量は、酸性度数または中和度数と交換可能に呼ばれている。酸性度は、ASTMテスト法D 974を用いて決定される。
【0105】
「酸化防止剤」は、他の分子の酸化を遅らせるかまたは妨げることができる分子である。
【0106】
「ブレンド」、「流体ブレンド」および同様の用語は、2つ以上の流体のブレンド、ならびに様々な添加剤を含む流体のブレンドである。そのようなブレンドは、混和性であってもなくてもよい。そのようなブレンドは、相分離していてもしていなくてもよい。そのようなブレンドは、光散乱および当技術分野で知られている任意の他の方法から決定される1種以上のドメイン構成を含有してもしなくてもよい。
【0107】
「組成物」および同様の用語は、2つ以上の成分の混合またはブレンドである。
【0108】
用語「含む(comprising)」、「含む(including)」、「有する」およびそれらの派生語は、任意の追加の成分、ステップまたは手順が存在することを、同じものが明確に開示されていてもいなくても、排除することを意図してはいない。いかなる疑いをも避けるために、「含む(comprising)」という用語の使用により特許請求された全ての組成物は、反対のことが述べられていないかぎり、任意の追加の添加剤、アジュバント、またはポリマーであろうとなかろうと化合物を含むことができる。対照的に、用語「から本質的に成る」は、任意の他の成分、ステップ、または手順を、運用性に本質的でないものを除いては、任意の続く列挙の範囲から排除する。用語「から成る」は、明確に叙述されていないまたは列挙されていないいかなる成分、ステップ、または手順をも排除する。用語「または」は、そうでないと述べられていないかぎり個々に列挙されたならびに任意の組み合わせの要素を指す。
【0109】
「誘電破壊電圧」は、破壊されることなく電気的ストレスに耐える液体の能力を測定したものである。誘電破壊電圧は、液体中の水、汚れ、セルロース繊維、または伝導性粒子などの汚染するものの存在を示すことに役立ち、それらのうちの1種以上は低い破壊電圧が得られる場合に有意な濃度で存在することができる。しかしながら、高い誘電破壊電圧は、必ずしも全ての汚染物質が存在しないことを示しているのではない。高い誘電破壊電圧は単に、電極間の液体中に存在する汚染物質の濃度が、液体の平均破壊電圧に有害であるように影響を及ぼすのに十分なほど大きくはないことを示している。誘電破壊電圧は、ASTM D 1816に準拠して測定されている。
【0110】
「誘電性流体」は、ASTM D 1816(VDE電極、1mmの間隙)に準拠して測定した場合に20kVよりも大きい誘電破壊を有するか、またはASTM D 924(60Hz、25℃)に準拠して測定した場合に0.2%未満、100℃で4未満の(ASTM D 924、60Hz)散逸率を有する非伝導性流体である。誘電性流体は、電気部品と動作的に連関するように置かれた場合冷却または誘電性特性をもたらす。
【0111】
「誘電強度」または「誘電破壊」(MV/mまたはkV/mmで)は、誘電性流体が破壊されることなく本来耐えることのできる最大電界強度である。誘電強度は、100〜150mlの油試料をテスト電池中に取り、特定の間隙によって離されたテスト電極間に電圧を印加することによって測定する。破壊電圧は、1ミリメートル当たりのボルトで記される。テストを、好ましくは5回行い、平均値を計算する。誘電強度は、ASTM D 1816またはASTM D 877を用いて決定される。
【0112】
「散逸率」は、伝導性の種による電気的損失を測定したものであり、キャパシタンスブリッジを用いてテスト電池中の流体のキャパシタンスを測定することによってテストされる。散逸率は、ASTM D 924を用いて決定される。
【0113】
「電気伝導率」は、Emceeメータ(Emcee meter)などの電気伝導率計を用いて測定される。電気伝導率は、ASTM D 2624に準拠して決定される。
【0114】
「引火点」は、空気および発火源にさらされた場合に、流体の蒸気の点火をもたらす流体の温度である。引火点は、ASTM D 92に準拠して、流体試料を引火点テスターの中に置き、流体試料が点火する温度を決定することによって決定される。
【0115】
「燃焼点」は、空気および発火源にさらされた場合に、持続した燃焼が生じる流体の温度である。燃焼点は、ASTM D 92に準拠して決定される。
【0116】
「脂質」は、非極性溶媒(エーテルやクロロホルムなど)に溶ける炭化水素の1種であり、比較的または完全に水に溶けない。脂質分子がこれらの特性を有するのは、脂質分子が主に性質として疎水性の長い炭化水素尾部から成るからである。脂質の例として、(飽和および不飽和の)脂肪酸;グリセリドまたはグリセロ脂質(モノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリドまたは中性脂肪、およびホスホグリセリドまたはグリセロリン脂質など);非グリセリド(スフィンゴ脂質、コレステロールおよびステロイドホルモンを含むステロール脂質、テルペノイドを含むプレノール脂質、脂肪アルコール、ワックス、およびポリケタイド);複合脂質誘導体(糖結合脂質、または糖脂質、およびタンパク質結合脂質)が挙げられる。「脂肪」は「トリアシルグリセリド」と呼ばれる脂質のサブグループである。
【0117】
「酸化」は、電子を物質から酸化剤に移動させる化学反応である。酸化反応は、反応性のあるフリーラジカルを産生することができ、フリーラジカルは組成物を劣化させ得る。酸化防止剤はフリーラジカルを終結させることができる。
【0118】
「流動点」は、液体が所定の条件下で注ぎまたは流れる最低温度である。流動点は、油試料をドライアイス/アセトンで冷却し、液体が半固体になる温度を決定することによって決定される。流動点は、ASTM D 97を用いて決定される。
【0119】
「粘度」は、流体が流れることへの抵抗性の測定値である。粘度は、ASTM D 445に準拠して、Brookfield−Viscometerで測定される。
【0120】
「水飽和点」は、誘電性流体中の水の飽和のパーセンテージである。水飽和点は、誘電性流体の温度と化学構造の関数である。水飽和点が増加するにつれて、誘電強度は一般に減少する。水飽和点は、テストされる試料を、攪拌機を備えた密封テスト容器の中に置いて液体に熱を加えることによって決定される。相対的飽和(%RS)および温度を測定することができる油中水分センサーをテスト容器の中に挿入する。テストは所与の温度で行われる。それぞれの温度で、実際の温度および相対的飽和値が油中水分センサーから直接記録され、カール・フィッシャー滴定によって流体の全水含有量を決定するために試料を取り除きASTM方法D 1533に準拠して測定される。水の単位測定は百万分率(ppm)においてなされる。
【0121】
本開示のいくつかの実施形態が、次の実施例において、これから詳細に記載される。
【実施例】
【0122】
1.GEMOの調製
GEMO1およびGEMO2の各々のために、遺伝子操作された微生物油が、発酵プロセスにより産生される。遺伝子操作された微生物はクロレラ属(Chlorella)由来の従属栄養の微細藻類である。炭素源はショ糖である。
【0123】
2.誘電性流体の調製
誘電性流体1(GEMO1を有する)および誘電性流体2(GEMO2を有する)を調製するために以下の手順を用いる。
【0124】
GEMOを、70℃の定常の水浴でガラス製セットアップ中で熱する。GEMOに、フェノール系酸化防止安定剤を加える。GEMO組成物を磁気バーで撹拌し、70℃で酸化防止剤を溶解し、水分を取り除くために1時間の間、真空圧力を加える。室温に冷却した後、GEMO組成物を、濾過器を用いて1ミクロンの濾過紙で濾し、いかなる微粒子、外来性不純物および蝋様の成分をも取り除く。結果として生じるGEMOおよび酸化防止剤を含有する誘電性流体は、IEEE C57.147に準拠する変圧器流体に対する要件を満たす。GEMOの成分および誘電性流体の特性は下の表3〜6に定められている。
【0125】
表3は、GEMO1の成分を示す。
【0126】
【表3】
【0127】
下の表4は、誘電性流体1(GEMO1を有する)が、IEEE C57.147に準拠する変圧器流体としての化学的、物理的、および電気的特性の基準に合格することを示す。
【0128】
【表4】
【0129】
表5および6は、GEMO2の成分および誘電性流体2(GEMO2を有する)の特性を示す。
【0130】
【表5】
【0131】
*AOCS Cd 11d−96(米国油化学会):高圧液体クロモタグラフィー(chromotagraphy)蒸発性光散乱検出器(HPLC−ELSD)によって決定されるモノグリセリドおよびジグリセリドの量。
【0132】
下の表6は、誘電性流体2(GEMO2を有する)が、IEEE C57.147に準拠する変圧器流体としての化学的、物理的および電気的特性の基準に合格することを示す。
【0133】
【表6】
【0134】
本開示は、本明細書に含まれる実施形態および例示に限定されるものではなく、実施形態の部分および以下の特許請求の範囲内に収まる異なる実施形態の要素の組み合わせを含むそれらの実施形態の修正された形態を含むことが特に意図されている。
なお、本発明には、以下の態様も含まれる。
[1]
トリグリセリドおよびある量の小さいグリセリドを含む遺伝子操作された微生物油(GEMO)と、
酸化防止剤と
を含む誘電性流体。
[2]
小さいグリセリドの量が、GEMOの重量に基づいて0.1重量%〜30重量%の範囲内である、[1]に記載の誘電性流体。
[3]
前記GEMOが、GEMOの重量に基づいて0.01ppm〜50,000ppmの範囲内の量のオリゴ糖をさらに含む、[1]に記載の誘電性流体。
[4]
前記GEMOが、少なくとも60重量%のオレイン酸を含む、[1]に記載の誘電性流体。
[5]
前記GEMOが、65重量%超のオレイン酸および15重量%未満のリノール酸を含む、[1]に記載の誘電性流体。
[6]
不均一なトリグリセリドを含む、[1]に記載の誘電性流体。
[7]
前記酸化防止剤が、フェノール系酸化防止剤およびアミン系酸化防止剤から成る群から選択される、[1]に記載の誘電性流体。
[8]
酸化抑制剤、腐食抑制剤、金属不活性化剤、流動点降下剤およびそれらの組み合わせから成る群から選択される添加剤を含む、[1]に記載の誘電性流体。
[9]
前記誘電性流体は、ASTM D 1533に準拠して測定した場合に、90℃で3800ppm〜4200ppmの水飽和点を有する、[1]〜[8]のいずれかに記載の誘電性流体。
[10]
前記誘電性流体は、ASTM D 1533に準拠して測定した場合に、100℃で4800ppm〜5600ppmの水飽和点を有する、[1]〜[9]のいずれかに記載の誘電性流体。
[11]
電気部品と、
前記電気部品と動作的に連関した誘電性流体であって、遺伝子操作された微生物油(GEMO)および酸化防止剤を含む誘電性流体と
を含む装置。
[12]
前記誘電性流体が、ASTM D 1533に準拠して測定した場合に、90℃で3800ppm〜4200ppmの水飽和点を有する、[11]に記載の装置。
[13]
前記GEMOが、トリグリセリド、およびGEMOの重量に基づいて0.1重量%〜30重量%の範囲内のある量の小さいグリセリドを含む、[11]に記載の装置。
[14]
前記GEMOが、GEMOの重量に基づいて0.1ppm〜50,000ppmの範囲内の量のオリゴ糖をさらに含む、[11]に記載の装置。
[15]
前記誘電性流体が、植物油、種油、鉱油、シリコーン流体、合成エステル、ポリアルファオレフィン、およびそれらの組み合わせから成る群から選択されるブレンド成分をさらに含む、[11]に記載の装置。
[16]
前記電気部品が、前記誘電性流体に接触しているセルロース系絶縁材を含む、[11]に記載の装置。
[17]
前記誘電性流体が、ASTM D 1533に準拠して測定した場合に、100℃で4800ppm〜5600ppmの水飽和点を有する、[16]に記載の装置。
[18]
前記電気部品が、変圧器、コンデンサ、スイッチ、調整器、回路遮断器、リクローザ、流体で満ちた伝送回線、およびそれらの組み合わせから成る群から選択される、[11]に記載の装置。
[19]
前記電気部品が変圧器であり、前記誘電性流体が前記変圧器の中にある、[11]に記載の装置。
図1