(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5948422
(24)【登録日】2016年6月10日
(45)【発行日】2016年7月6日
(54)【発明の名称】エポキシ樹脂のエポキシ化を目的とした振動棚段カラム反応器
(51)【国際特許分類】
C08G 59/06 20060101AFI20160623BHJP
【FI】
C08G59/06
【請求項の数】16
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-531843(P2014-531843)
(86)(22)【出願日】2012年8月31日
(65)【公表番号】特表2014-530268(P2014-530268A)
(43)【公表日】2014年11月17日
(86)【国際出願番号】US2012053287
(87)【国際公開番号】WO2013048668
(87)【国際公開日】20130404
【審査請求日】2015年8月7日
(31)【優先権主張番号】61/539,618
(32)【優先日】2011年9月27日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/602,159
(32)【優先日】2012年2月23日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】515160552
【氏名又は名称】ブルー キューブ アイピー エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100128484
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 司
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】トーマス・シー・ヤング
(72)【発明者】
【氏名】ウィリアム・ジー・ウォーリー
(72)【発明者】
【氏名】ロバート・エム・ドレイク
【審査官】
前田 孝泰
(56)【参考文献】
【文献】
欧州特許出願公開第0028810(EP,A2)
【文献】
国際公開第2009/120685(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/00−59/72
CAplus(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)触媒の存在下で、ビスハロヒドリンエーテルと溶媒とを含む有機原料を生成する反応条件の下、多価フェノールとエピハロヒドリンとを接触させる工程と、
b)振動棚段カラム反応器内で、分散水相と有機生成物とを生成する反応条件の下、前記有機原料と、無機水酸化物を含む水性原料と、を接触させる工程と、
c)エポキシ樹脂を含む前記有機生成物を回収する工程と、を含む方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、
前記フェノールは、ビスフェノールA、ビスフェノールF、フェノール−ホルムアルデヒドノボラック、クレゾール−ホルムアルデヒドノボラック、ビスフェノールA−ホルムアルデヒドノボラック、トリスフェノール、ビフェノール、ジフェノール、ヒドロキノン、及びこれらの組み合わせからなる群から選択され、
前記エピハロヒドリンは、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン、メチルエピクロロヒドリン、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法であって、工程a)における前記触媒が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法であって、工程a)において過剰のエピハロヒドリンが用いられる、方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法であって、工程b)の前記無機水酸化物は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法であって、工程a)は、イソプロパノール、1−メトキシ−2−プロパノール、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される共溶媒の存在下で行われる、方法。
【請求項7】
請求項1に記載の方法であって、工程a)は、トルエン、キシレン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される希釈溶媒の存在下で行われる、方法。
【請求項8】
請求項1に記載の方法であって、工程b)は、トルエン、キシレン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される希釈溶媒の存在下で行われる、方法。
【請求項9】
請求項1に記載の方法であって、前記有機原料の前記溶媒は、エピハロヒドリン、共溶媒、希釈溶媒、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、方法。
【請求項10】
請求項1に記載の方法であって、工程b)は、イソプロパノール、1−メトキシ−2−プロパノール、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される共溶媒の存在下で行われる、方法。
【請求項11】
請求項1に記載の方法であって、工程b)は、相間移動剤の存在下で行われる、方法。
【請求項12】
請求項11に記載の方法であって、前記相間移動剤は第四級アミンである、方法。
【請求項13】
請求項1に記載の方法であって、工程c)における前記回収は、
i)前記有機生成物を水で洗浄する工程と、
ii)前記有機生成物を脱揮して前記エポキシ樹脂を生成する工程と、を含む、方法。
【請求項14】
請求項1に記載の方法であって、
工程a)における前記反応条件は10℃〜100℃の範囲内の第1の反応温度を含み、
工程b)における前記反応条件は0℃〜100℃の範囲内の第2の反応温度を含む、方法。
【請求項15】
請求項1に記載の方法であって、工程a)における前記エピハロヒドリンの前記フェノールに対するモル比は、1:1〜50:1の範囲内である、方法。
【請求項16】
請求項1に記載の方法であって、前記振動カラム反応器は、0.2cm〜10cmの範囲内のストローク長さと、約0.1Hz〜約10Hzの範囲内の撹拌振動数と、約0.3cm〜約30cmの範囲内の棚段間隔を有する、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の参照
本出願は、2011年9月27日に出願された米国仮出願第61/539,618号及び2012年2月23日に出願された米国仮出願第61/602,159号に基づき優先権を主張する。
【0002】
本明細書で開示される実施形態は、概して、多価フェノールをエピハロヒドリンに接触させてクロロヒドリン中間体を生成し、その後該クロロヒドリン中間体を無機水酸化物に接触させることによりエポキシ樹脂を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
多価フェノールとエピハロヒドリンとからエポキシ樹脂を製造するには、フェノールとエピハロヒドリンとのエーテル化(カップリング)、及び、水性無機水酸化物を用いた、カップリングされたクロロヒドリン中間体の脱ハロゲン化水素反応(エポキシ化)が必要である。カップリングされたクロロヒドリン中間体のエポキシ化に関しては、有機相への溶解性をほとんど有さない無機水酸化物を、水相への溶解性をほとんど有さないクロロヒドリン中間体に接触させて、エピハロヒドリンの過度の加水分解を起こすことなく、クロロヒドリン含有率が非常に低いエポキシ樹脂を生成することが課題である。
【0004】
振動棚段カラム(Karrカラム等)は、液液抽出で用いられることが周知であり、1以上の共通軸によって取り付けられた一連の穴あき棚段を含む垂直カラムによって構成される。モーターが軸を駆動し、軸は上下に往復動して撹拌を提供し、分散層を小さな液滴へと分割する。重液相はカラムを下降し、軽液相はカラムを上昇する。このようにして、2つの不溶な相が接触させられ、二相間での強化物質移動が可能となる。抽出用としては、振動棚段カラムは、回転式攪拌機を有するカラムよりも均一なせん断パターンを有し、これは、より均一な滴径分布、より大きな容積、そしてより高いターンダウン能力につながるとされている。本発明において振動棚段カラムを用いることで、エピクロロヒドリンの歩留まり損失の低い、完全なエポキシ化が達成可能となる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一の実施形態において、a)触媒の存在下で、ビスハロヒドリンエーテルと溶媒とを含む有機原料を生成する反応条件の下、多価フェノールとエピハロヒドリンとを接触させる工程と、b)振動棚段カラム反応器内で、分散水相と有機生成物とを生成する反応条件の下、前記有機原料と、無機水酸化物を含む水性原料と、を接触させる工程と、c)エポキシ樹脂を含む前記有機生成物を回収する工程と、を含む、から成る、又は主にこれらから成る方法が開示される。
【0006】
本発明の説明を目的として、本発明の、現在好ましい一形態を図示する。ただし、本発明は、図示される厳密な配置や機器類に限定されるものではないと理解されるべきである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の一の実施形態において、a)触媒の存在下で、ビスハロヒドリンエーテルと溶媒とを含む有機原料を生成する反応条件の下、フェノールとエピハロヒドリンとを接触させる工程と、b)振動棚段カラム反応器内で、分散水相と、エポキシ樹脂を含む有機生成物とを生成する反応条件の下、前記有機原料と、無機水酸化物を含む水性原料と、を接触させる工程と、c)前記有機生成物を回収する工程と、を含む、から成る、又は主にこれらから成る方法が開示される。
【0009】
工程(a)
一の実施形態において、工程a)は、触媒の存在下で、ビスハロヒドリンエーテルと溶媒とを含む有機原料を生成する反応条件の下、フェノールとエピハロヒドリンとを接触させることを含む。
【0010】
一の実施形態において、上記フェノールは多価フェノールである。本発明における使用に適したフェノールとしては、ビスフェノールA、ビスフェノールF、フェノール−ホルムアルデヒドノボラック、クレゾール−ホルムアルデヒドノボラック、ビスフェノールA−ホルムアルデヒドノボラック、トリスフェノール、ビフェノール、ジフェノール、ヒドロキノン、レゾルシノール、カテコール、ポリシクロペンタジエンポリフェノール、及びその他の様々な材料が挙げられるが、これらに限定されない。
【0011】
本発明において有用なフェノールのその他の例が、参照により本明細書に援用される米国特許第4,499,255号に記載されている。
【0012】
一の実施形態においては、ビスフェノールAが用いられる。
【0013】
本発明における使用に適したエピハロヒドリンとしては、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン、メチルエピクロロヒドリン、又は公知の任意のエピハロヒドリンが挙げられるが、これらに限定されない。一の実施形態においては、エピハロヒドリンはエピクロロヒドリンである。
【0014】
工程a)においては、公知の任意のエーテル化触媒が利用可能である。エーテル化触媒は、無機水酸化物であってよい。無機水酸化物は、アルカリ金属水酸化物又はアルカリ土類水酸化物であることが好ましい。例としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、及び水酸化カルシウムが挙げられるが、これらに限定されない。一の実施形態においては、水酸化ナトリウムが用いられる。本発明において有用なその他の陰イオン性エーテル化触媒としては、ベンジルトリメチルアンモニウムクロリド、ベンジルトリエチルアンモニウムクロリド、テトラエチルアンモニウムクロリド、テトラメチルアンモニウムクロリド、テトラエタノールアンモニウムクロリド、テトラエタノールアンモニウムヒドロキシド等の第四級アンモニウムハロゲン化物の触媒が挙げられる。有用なその他のエーテル化触媒としては、第四級ホスホニウム化合物、スルホニウム化合物等が挙げられる。適切な第四級ホスホニウム化合物としては、ヨウ化エチルトリフェニルホスホニウム、重炭酸エチルトリフェニルホスホニウム、ベンジルトリフェニルホスホニウムクロリド、テトラブチルホスホニウムクロリド等が挙げられる。適切なスルホニウム触媒としては、テトラメチルチオ尿素、N,N’−ジフェニルチオ尿素等のチオ尿素触媒が挙げられる。ダウ・ケミカル・カンパニー(ミッドランド、ミシガン州)から入手可能なDOWEX(商標)MSA−1等の塩基性イオン交換樹脂もまた有用な触媒である。その他のエーテル化触媒は、いずれも参照により本明細書に援用される米国特許第4,624,975号及び米国特許第5,245,057号に記載されている。
【0015】
工程a)における反応条件は約10℃〜約100℃の範囲内の第1の反応温度を含み得る。一の実施形態において、反応温度は約20℃〜約80℃の範囲内であり、別の実施形態において、反応温度は約30℃〜約60℃の範囲内である。
【0016】
エーテル化反応は、好ましくは過剰のエピハロヒドリンを用いて行われ、より好ましくは、フェノール性ヒドロキシル(OH)部分のモル当量当たり1モル超〜20モルのエピハロヒドリンを用いて行われ、最も好ましくはフェノール性OH部分のモル当量当たり2モル〜10モルのエピハロヒドリンを用いて行われる。
【0017】
エーテル化触媒として無機水酸化物が用いられる場合、工程a)において、フェノール性OH基の大部分をエーテル化するのに十分な無機水酸化物のみが用いられることが好ましい。好ましくは、水酸化物のモル当量対フェノール性OH基のモル当量の比は、0.1:1〜0.95:1である。より好ましくは、無機水酸化物のモル当量対フェノール性OH基のモル当量の比は、0.25:1〜0.85:1である。最も好ましくは、無機水酸化物のモル当量対フェノール性OH基のモル当量の比は、0.5:1〜0.75:1である。無機水酸化物は、固形、もしくは水性溶液であってよい。好ましくは、無機水酸化物は5〜50重量%の水溶液を含む。より好ましくは、無機水酸化物は10〜25重量%の水溶液を含む。一部の実施形態において、水性溶液の濃度は、反応中、副生成物の無機ハロゲン化物が沈殿しないように選択されることが好ましい。
【0018】
反応は、共溶媒の存在下で行われてよい。一般的に、アルコール官能性を有する任意の共溶媒を用いることができる。適切な脂肪族アルコールの例としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、2−プロパノール、n−ブタノール、2−ブタノール、t−ブタノール、2−メチル−2−ブタノール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、2−メチル−1−ペンタノール、2−メチル−2−ペンタノール、及び4−メチル−2−ペンタノールが挙げられるが、これらに限定されない。エーテル官能性を有する適切なアルコールの例としては、1−メトキシ−2−エタノール、1−エトキシ−2−エタノール、1−ブトキシ−2−エタノール、1−メトキシ−2−プロパノール、1−エトキシ−2−プロパノール、1−イソブトキシ−2−プロパノール、1−フェノキシ−2−プロパノール、1−メトキシ−2−ブタノール、3−メトキシ−1−ブタノール、3−メトキシ−3−メチルブタノール、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、及びエチレングリコールモノ−tert−ブチルエーテルが挙げられる。
【0019】
エピハロヒドリンとの反応性を限定するためには、第二級又は第三級アルコール官能性を有するアルコールが好ましい。一の実施形態において、用いられるアルコールの例はイソプロパノール及び1−メトキシ−2−プロパノールである。用いられる反応共溶媒の重量は、好ましくは、用いられるエピハロヒドリンの重量の0.2〜10倍、より好ましくは、用いられるエピハロヒドリンの重量の0.5〜5倍である。
【0020】
エーテル化反応は、有機希釈溶媒の存在下で行われてもよい。希釈溶媒は、エポキシ樹脂の有機相への可溶性を向上させる任意の溶媒であってよい。用いられる場合、希釈溶媒は、多価フェノール、エピハロヒドリン、アルカリ金属又はアルカリ土類の水酸化物、水、と容易に反応する官能性を有さないことが好ましい。塩水分離及び水洗浄を容易にするために、希釈溶媒は限定された水への可溶性を有することが好ましい。適切な希釈溶媒の例としては、芳香族炭化水素、ハロゲン化炭化水素、ケトン、及びエーテルが挙げられる。特に適切な希釈溶媒としては、トルエン、キシレン、メチルエチルケトン、及びメチルイソブチルケトンが挙げられるが、これらに限定されない。これらの溶媒のうち1以上の混合物も用いることができる。用いられる希釈溶媒の量は、好ましくは、用いられるエピハロヒドリンの重量の0.2〜10倍、より好ましくは、用いられるエピハロヒドリンの重量の0.5〜5倍である。
【0021】
ビスハロヒドリンエーテル生成物
エーテル化反応の反応粗製物は、多価フェノールとエピハロヒドリンとの反応による、フェノール性OH基の大部分がエピハロヒドリンによりエーテル化されたビスハロヒドリンエーテル生成物を含む。50%以上のフェノール性OH基がエーテル化されていることが好ましい。80%以上のフェノール性OH基がエーテル化されていることがより好ましい。95%以上のフェノール性OH基がエーテル化されていることが最も好ましい。エーテル化されたフェノール性OH基は、ハロヒドリンエーテル末端基とグリシジルエーテル末端基との両方を含む。ビスハロヒドリンエーテルは、典型的には、過剰のエピハロヒドリン、任意の共溶媒、及び/又は任意の希釈溶媒を含有する有機原料溶液に溶解する。
【0022】
エーテル化反応の粗製物は、未反応の無機水酸化物を含有する水相を含んでもよい。該水相は、エーテル化反応においてエーテル化触媒として無機水酸化物を用いた場合の副生成物であり得る無機ハロゲン化物を含有してもよい。該水相の全体又は一部は、工程b)に先立って、ビスハロヒドリンエーテルを含む有機原料溶液から分離されてよい。好ましくは、該水相の大部分が、工程b)に先立って有機溶液から分離される。
【0023】
エピハロヒドリン、任意の共溶媒、及び/又は任意の希釈溶媒の大部分は、工程b)に先立って反応組成物混合物から除去されないことが好ましい。別法として、工程b)に先立って、過剰のエピハロヒドリン,任意の共溶媒、任意の希釈溶媒、及び/又はエーテル化触媒の全て又は大部分が、該混合物から除去され、他の溶媒によって置換されてよい。置換溶媒は、反応共溶媒又は希釈溶媒と同じであってもよく、溶媒の混合物であってもよい。好ましくは、工程b)への有機原料は、10重量%以上の含有量の溶媒を含み、該溶媒含有量は、存在し得る何らかのエピハロヒドリン、任意の共溶媒、任意の希釈溶媒、及び/又は置換溶媒を含む。より好ましくは、工程b)への有機原料は、30重量%以上の溶媒を含む。最も好ましくは、工程b)への有機原料は、50重量%以上の溶媒を含む。
【0024】
工程(b)
一の実施形態において、工程b)は、振動棚段カラム反応器内で、分散水相と、エポキシ樹脂とハロゲン化物を含む水性副生成物とを含む有機生成物と、を生成する反応条件の下、前記有機原料と、無機水酸化物を含む水性原料と、を接触させることを含む。
【0025】
一の実施形態において、水酸化物は無機水酸化物である。これは、上述の工程a)で記載されたエーテル化触媒と同じ成分であってよい。好ましくは、該水酸化物は、反応中に副生成物の無機ハロゲン化物の沈殿を防ぐよう適合された水性成分を含む。好ましくは、無機水酸化物の5〜50重量%水溶液が用いられる。より好ましくは、無機水酸化物の10〜25重量%水溶液が用いられる。工程b)において用いられる無機水酸化物の量は、生成物のエポキシ樹脂における加水分解性のハロゲン化物の含有量を低くするために十分な量である必要がある。これは典型的に、いくらかの過剰の水酸化物を含み、水性の無機ハロゲン化物副生成物もまた、いくらかの未反応無機水酸化物を含む。好ましくは、工程b)で用いられる無機水酸化物のモル当量対工程a)で用いられるフェノール性OHのモル当量の比は、エポキシ樹脂生成物における加水分解性の塩化物の含有量を低くし、かつ、水性の無機ハロゲン化物における無機水酸化物の含有率を低くするよう適合される。好ましくは、工程a)及びb)で用いられる水酸化物のモル当量の合計量対工程a)で用いられるフェノール性OHのモル当量の比は、0.9:1〜1.8:1である。より好ましくは、工程a)及びb)で用いられる水酸化物のモル当量の合計量対工程b)で用いられるフェノール性OHのモル当量の比は、0.95:1〜1.4:1である。最も好ましくは、工程a)及びb)で用いられる水酸化物のモル当量の合計量対工程a)で用いられるフェノール性OHのモル当量の比は、0.98:1〜1.25:1である。
【0026】
工程a)においてと同様に、反応共溶媒が用いられてよい。この共溶媒は、上述の工程a)に記載されている。工程b)のエポキシ樹脂生成物との反応性を制限するために、第二級又は第三級アルコール官能性を有するアルコールが好ましい。反応共溶媒は、好ましくは、溶媒の蒸発に際して、エポキシ樹脂からの分離を容易にする充分に高い揮発性か、洗浄に際して、エポキシ樹脂反応生成物と任意の希釈溶媒とを含む混合物からの抽出を容易にする充分に高い分配係数か、のいずれかを有することが好ましい。エポキシ樹脂から反応共溶媒が蒸発によって除去される場合、大気圧における沸点は200℃よりも低いことが好ましく、150℃よりも低いことがより好ましい。反応共溶媒はまた、塩水又は水からの蒸発、蒸留、又は逆抽出による除去を容易にする十分に高い揮発性を有することが好ましい。より好ましくは、反応共溶媒は、水の沸点よりも低い温度で沸騰する水との共沸混合物を形成する。用いられる反応共溶媒の重量は、好ましくは用いられるエピハロヒドリンの重量の0.2〜10倍であり、より好ましくは用いられるエピハロヒドリンの重量の0.5〜5倍である。
【0027】
工程a)においてと同様に、希釈溶媒が用いられてよい。この希釈溶媒は、上述の工程a)に記載されている。希釈溶媒は、エポキシ樹脂の有機相における可溶性を向上させるいかなる溶媒であってもよい。用いられる場合、希釈溶媒は、多価フェノール、エピハロヒドリン、アルカリ金属又はアルカリ土類の水酸化物、又は水、と容易に反応する官能性を有さないことが好ましい。塩水分離及び水洗浄を容易にするために、希釈溶媒は限定された水への可溶性を有することが好ましい。用いられる希釈溶媒の量は、好ましくは、用いられるエピハロヒドリンの重量の0.2〜10倍、より好ましくは、用いられるエピハロヒドリンの重量の0.5〜5倍である。
【0028】
工程b)において、任意で相間移動触媒が用いられてよい。無機水酸化物とビスハロヒドリンエーテルとの間の二層反応を容易にするいかなる公知の相間移動触媒が用いられてもよい。公知の相間移動触媒の例としては、ベンジルトリメチルアンモニウムクロリド、ベンジルトリエチルアンモニウムクロリド、テトラエチルアンモニウムクロリド、テトラメチルアンモニウムクロリド、テトラエタノールアンモニウムクロリド等の第四級アンモニウムハロゲン化物触媒が挙げられる。その他の有用な相間移動触媒としては、第四級アンモニウム水酸化物、第四級ホスホニウム化合物、スルホニウム化合物等が挙げられる。適切な第四級ホスホニウム化合物としては、ヨウ化エチルトリフェニルホスホニウム、重炭酸エチルトリフェニルホスホニウム、ベンジルトリフェニルホスホニウムクロリド、テトラブチルホスホニウムクロリド等が挙げられる。適切なスルホニウム化合物としては、テトラメチルチオ尿素、N,N’−ジフェニルチオ尿素等のチオ尿素触媒が挙げられる。相間移動触媒は、エーテル化触媒と同じであってよい。
【0029】
脱ハロゲン化水素反応の反応条件は、約0℃〜約100℃、好ましくは約10℃〜約70℃の、より好ましくは約15℃〜約50℃の反応温度を含み得る。
【0030】
振動棚段カラム反応器の説明
液液抽出に用いる振動カラムは、参照により本明細書に援用される米国特許第2,011,186号(1935年)に最初に記載された。以来、カラムの設計、主に棚段の設計、に変形が加えられてきた。
【0031】
図1は振動棚段カラム全体の模式図である。あらゆる向流抽出カラムと同様に、重液相がカラム上部に送られ、軽液相がカラム下部に送られる。棚段を支持する中心軸は、カラム上部の撹拌(往復駆動)機構に接続される。
【0032】
図1を参照すると、振動棚段カラム反応器10が図示されている。断面22で示される通り、カラムの高さはさまざまであってよい。撹拌軸16は、複数の穴あき棚段18を動かす。撹拌軸16は往復撹拌駆動機構21を用いて、モーター20によって制御される。工程(a)からの有機原料は、軽液連続相流入口12を経由して反応器に入る。有機原料はカラム内をゆっくりと上昇する。水性原料は重液分散相注入口14を経由して反応器に入る。水性原料は、撹拌棚段18の往復動を通して、小さな液滴としてカラム内に分散される。理論に束縛されるものではないが、小さな液滴が最も良い反応材料を形成すると考えられている。有機原料は、軽液連続相流入口12を経由してカラムに流入する連続した有機原料によって、カラム内を更に浄化部24まで押し上げられる。有機原料はその後、軽液連続相流出口26を経由してカラムから流出する。水性原料の液滴はチャンバ28に流入し、ここで融合して相界面30(上部は軽液連続相流入口12を経由して流入する有機原料)の下の重液相となり、重液流出口32を経由してカラムから流出する。
【0033】
カラムは逆に機能してもよく、つまり、重液相ではなく軽液相が分散相となり、界面が下部ではなく上部で制御される。有機原料と水性原料の組成に依存して、有機は軽液相または重液相のいずれであってもよい。
【0034】
一般に、ストローク長さ(棚段の上下位置間の距離)とストローク振動数は調整可能である。棚段の間隔は、適切な混合の強さを得られるよう調整可能である。
【0035】
撹拌振動数は、一般に約0.1Hz〜約10Hzの範囲である。一の実施形態において、撹拌振動数は約0.5Hz〜約7Hzの範囲であり、更に別の実施形態においては約1Hz〜約5Hzの範囲である。
【0036】
ストローク長さは、一般に約0.2cm〜約10cmの範囲である。一の実施形態において、ストローク長さは約0.5cm〜約7cmの範囲であり、更に別の実施形態においては約1cm〜約5cmの範囲である。
【0037】
棚段の間隔は、一般に約0.3cm〜約30cmの範囲である。一の実施形態において、棚段の間隔は、約1cm〜約15cmの範囲であり、更に別の実施形態においては約2cm〜約8cmの範囲である。
【0038】
本発明において、いかなる棚段の設計も用いることができる。様々な棚板の設計についての情報は、参照により本明細書に援用されるGodfrey,J.C.、Slater,M.J.編「Liquid−Liquid Extraction Equipment」(Wiley、1994年)の第11章において、Baird,M.H.I.、Rama Rao,N.V.、Prochazka,J.、Sovova,Hによって「Reciprocating−Plate Columns」と題されたものが見られる。
【0039】
上記文献においてKarrカラムと呼ばれる一の実施形態においては、棚板に直径10〜16mmの穴が開けられ、開口面積が棚板の断面積の50〜60%である。上記文献においてProchazkaカラムと呼ばれる別の実施形態においては、開口面積が棚板の断面積の4〜30%であり、開口面積が10〜25%である下降板が用いられる。下降板の配置は、連続相が軽液相であるか重液相であるかによって、棚板の下でも上でもよい。上記文献においてTojo/Miyanami振動棚板カラムと呼ばれる別の実施形態においては、カラムよりも直径の小さなソリッドディスク棚板が撹拌軸に取り付けられ、ドーナツ状のバッフルが各ディスク棚板の間の壁に取り付けられる。これらのカラムは
図2に図示される。別法として、振動棚板カラムの代わりに穴あきの棚板を含む脈動カラムを脱ハロゲン化水素反応に用いてもよい。
【0040】
任意の工程
脱ハロゲン化水素化されたエポキシ樹脂を含む、工程b)の反応粗製物には、精製されたエポキシ樹脂を得るために、前処理反応、抽出、及び/又はその他の精製工程を含む追加の処理が行われてよい。該組成物は、1回以上水で洗浄され、イオン成分及び/又は水溶性成分が除去される。
【0041】
該組成物を含有する洗浄された溶液は、過剰のエピハロヒドリン等の揮発性成分、及び/又は反応溶媒を除去して精製されたエポキシ樹脂を得るために蒸留されてよい。
【0042】
最終用途
エポキシ樹脂は、被覆材、鋳物、複合体、工具、床材、及び接着剤の製造に用いられる。エポキシレジンの用途についての更なる情報は、参照により本明細書に援用される、Kirk−Othmer Encyclopedia of Chemical Technology、vol.10(John Wiley and Sons、2004)中のPham,H.Q.、Marks,M.J.「Epoxy Resins」を参照のこと。
【実施例】
【0043】
以下の実施例で用いられる様々な用語及び記号を以下に説明する。特に明示がない限り、部及び%は重量によるものである。ppmは百万分率を示す。全ての温度は摂氏である。本明細書内で特に明示がない限り、「室温」及び「周囲温度」は公称で25℃である。
【0044】
実施例において、以下の標準的な分析装置及び方法が用いられる。フェノール性ヒドロキシル含量は、アルカリ性条件下でのフェノールの長波長ピークの公知の深色シフトに基づいた、定量的な紫外線吸収分析によって測定される(例えば、Wexler,A.S.、Analytical Chemistry,35(12),1936−1943,1963を参照)。粘度は、恒温槽内の目盛付のキャノン・フェンスケ管を用いて測定される。エポキシ当量、加水分解性塩化物の含量、及びイオン性塩化物の含量は、エポキシ樹脂向けに公知の滴定法によって測定される。水性混合物及び有機混合物内の揮発性有機物の含量は、水素炎イオン化検出器を用いて、ガスクロマトグラフィー(GC)によって測定される。有機溶液内の水含量は、カール・フィッシャー滴定によって測定される。有機溶液内のエポキシ樹脂の種類は、ダイオードアレイ紫外線検出器(DAD)を用いた高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって分析され得る。樹脂中の加水分解性塩化物の含量は、HPLCの結果から推測し得る。全有機体炭素(TOC)は、島津製作所社製等のTOC分析器を用いて分析される。
【0045】
実施例1:カップリングされたクロロヒドリン中間体混合物の調製
34.2ポンドの量のビスフェノールA(95%純p,p’−ビスフェノールA)と、97.0ポンドのエピハロヒドリンと、43.6ポンドのイソプロパノールと、13.2ポンドの脱イオン化水、とを、攪拌機を備えたジャケット付ステンレス反応装置に投入し、ビスフェノールAが溶解するまで混合した。反応装置の内容物を40℃に加熱した。腐食剤の追加が完了した後、腐食剤が完全に反応するよう撹拌しながら、反応混合物は40℃に維持された。その後攪拌機を停止し、二相混合物を30分間静置して2つの液相を分離させた。49.7ポンドの量の水性塩水と、カップリングされたクロロヒドリン中間体混合物を含む171.0ポンドの有機相とが、反応装置から排水された。有機相はガスクロマトグラフィーとカール・フィッシャー滴定によって分析され、イソプロパノール24.8%と、エピクロロヒドリン41.5%と、1,3−ジクロロ−2−プロパノール0.5%と、グリシドール0.1%と、水5.4%と、を含み、残りがカップリングされたクロロヒドリン中間体であることが判明した。紫外分光分析により、OH含量が687ppmであることが判明した。
【0046】
実施例2:カップリングされたクロロヒドリン中間体混合物のエポキシ化
上述のカップリングされたクロロヒドリン中間体をエポキシ化するために、実験室規模の振動棚段カラムが用いられた。反応カラムは、高さ10フィート、内径1インチの垂直ガラスカラムから構成された。カラムは、カラム頂部と底部に原料導入用のポートと、攪拌機と、温度調節のための循環する加熱/冷却流体を含むジャケットと、カラム底部に撹拌されない相分離容器と、カラム頂部に撹拌されない浄化部と、温度監視用の熱電対と、を備えた。攪拌機は、穴あきのテフロン板が1インチの間隔で取り付けられた、カラムの中心に位置するセグメント化された軸から構成された。板は、4つの9/16インチの開口と、板の縁に4つの部分的な開口と、を有した。攪拌機は、攪拌機を上下に往復動させるモーター駆動機構に取り付けられた。攪拌機のストローク速度とストローク長さは調整可能であった。このような、実験室規模の振動棚段カラムは、Koch Modular Process Systems,Inc.から、Karr(商標)カラムの商標名で入手可能である。
【0047】
実施例1で得られた、カップリングされたクロロヒドリン中間体を含有する有機混合物は、流量15g/分でカラム底部の供給ポートに供給され、腐食剤の20%水性混合物が、流量4.5g/分で頂部の供給ポートに供給された。加熱/冷却流体の温度は、カラムの動作温度が40℃になるよう調整された。攪拌機の駆動は、200ストローク毎分に設定され、ストローク長さは0.75インチであった。分散水相はカラム内を下降し、底部の相分離容器に蓄積した。収集された水相は、手動のニードル弁を通じて、底部の容器からゆっくりと除去され、該バルブは、容器内の界面が一定高さを維持するよう調整された。有機相は、カラム頂部の撹拌されない浄化部から、有機生成物容器へとあふれ出た。カラムは7.5時間にわたり一定の方法で操作され、カラムは安定状態に達した。水性及び有機の、原料と生成物との試料を回収した。有機生成物は高速液体クロマトグラフィー(HPLC)とガスクロマトグラフィー(GC)によって分析された。水性生成物はGC、TOC分析、及び腐食剤滴定によって分析された。有機相内のエポキシ樹脂における加水分解性塩化物の含量は、HPLC分析から、樹脂の重量に対して100ppm未満と推定された。水相は、イソプロパノール2.2%、グリシドール0.5%、TOC24000ppmを含有することが判明した。エピハロヒドリンの歩留まり損失は、イソプロパノール含量の補正後のTOC含量から推定された。エピハロヒドリンの歩留まり損失は、有機相内のエポキシ樹脂製造に用いられたエピクロロヒドリンの6.6%と推定された。この実施例は、エピクロロヒドリン歩留まり損失の低い、エポキシ樹脂の完全なエポキシ化が、振動棚段カラムを用いて達成可能であることを実証している。
【0048】
実施例3:カップリングされたクロロヒドリン中間体混合物のエポキシ化
振動棚段カラムにおける撹拌領域の上部5フィートでは1インチの棚段間隔、下部5フィートでは2インチの棚段間隔を採用したことを除いて、実施例2が繰り返された。カップリングされたクロロヒドリン中間体の有機混合物が、流量7.4g/分で底部の供給ポートに供給され、腐食剤の20%水性混合物が、流量1.5g/分で頂部の供給ポートに供給された。加熱/冷却流体の温度は、カラムの動作温度が30℃になるよう調整された。攪拌機の駆動は、240ストローク毎分に設定され、ストローク長さは0.75インチであった。カラムは22時間にわたり一定の方法で操作され、カラムは安定状態に達した。水性及び有機の、原料と生成物との試料を回収した。有機生成物は高速液体クロマトグラフィー(HPLC)とガスクロマトグラフィー(GC)によって分析された。水性生成物はGC、TOC分析、及び腐食剤滴定によって分析された。有機相内のエポキシ樹脂における加水分解性塩化物の含量は、HPLC分析から、樹脂の重量に対して100ppm未満と推定された。水相は、イソプロパノール3%、グリシドール0.6%、TOC24000ppmを含有することが判明した。エピハロヒドリンの歩留まり損失は、イソプロパノール含量の補正後のTOC含量から推定された。エピハロヒドリンの歩留まり損失は、有機相内のエポキシ樹脂製造に用いられたエピクロロヒドリンの2.5%と推定された。