(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5948438
(24)【登録日】2016年6月10日
(45)【発行日】2016年7月6日
(54)【発明の名称】希薄水性流からのカルボン酸の抽出
(51)【国際特許分類】
C07C 59/08 20060101AFI20160623BHJP
C07C 55/10 20060101ALI20160623BHJP
C07C 51/48 20060101ALI20160623BHJP
【FI】
C07C59/08
C07C55/10
C07C51/48
【請求項の数】8
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-553270(P2014-553270)
(86)(22)【出願日】2013年1月17日
(65)【公表番号】特表2015-505324(P2015-505324A)
(43)【公表日】2015年2月19日
(86)【国際出願番号】NL2013050022
(87)【国際公開番号】WO2013109143
(87)【国際公開日】20130725
【審査請求日】2014年9月3日
(31)【優先権主張番号】12151590.2
(32)【優先日】2012年1月18日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】504421730
【氏名又は名称】ピュラック バイオケム ビー. ブイ.
(74)【代理人】
【識別番号】100085545
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 光夫
(74)【代理人】
【識別番号】100118599
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 博司
(72)【発明者】
【氏名】デ ハーン,アンドレ バニアー
(72)【発明者】
【氏名】クルジイザニアク,アフニエスズカ
(72)【発明者】
【氏名】スウール,ボエロ
【審査官】
土橋 敬介
(56)【参考文献】
【文献】
特表2010−539911(JP,A)
【文献】
特表2003−511360(JP,A)
【文献】
Krzyzaniak, A et al.,Extractant screening for liquid?liquid extraction in environmentally benign production routes,CHEMICAL ENGINEERING TRANSACTIONS,2011年,24,709-714
【文献】
Janet A. Tamada et al.,Extraction of carboxylic acids with amine extractants. 1. Equilibria and law of mass action modeling,INDUSTRIAL & ENGINEERING CHEMISTRY RESEARCH,1990年,29 (7),1319-1326
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 59/08
C07C 51/48
C07C 55/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1重量%未満の質量割合の遊離カルボン酸を含む水性溶液から該遊離カルボン酸を除去する方法であって、下記の工程:
(a)上記水性溶液を、有機溶媒中にポリアミン抽出剤を含む劣化溶媒と接触させて、遊離カルボン酸を豊富にされた抽出物と減少された遊離カルボン酸含有量を有するラフィネートとを得ること、および
(b)該ラフィネートを該抽出物から分離すること
を含む方法において、該ポリアミン抽出剤が、少なくとも2の窒素原子を有し、かつ窒素原子と炭素原子との間の二重結合を少なくともひとつ有する化合物であり、該カルボン酸が、バイオマスの発酵によって製造されたものである、前記方法。
【請求項2】
該カルボン酸がモノカルボン酸、ヒドロキシカルボン酸、またはジカルボン酸である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
該ポリアミン抽出剤がグアニジンR5N:C(NR1R2)(NR3R4)を含み、ここでR1〜R5が、Hおよび、2〜25の炭素原子を有する脂肪族基の群から選択される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
該ポリアミン抽出剤がジアルキルアミノピリジンを含み、ここで該アルキル基が、1〜15の炭素原子を有する脂肪族基である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
該ポリアミン抽出剤がアルキル−トリアザビシクロデセンを含み、ここで該アルキル基が、10〜20の炭素原子を有する脂肪族基および、該アルキル基の末端における5〜10の炭素原子の2つの第二のアルキル基を有する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項6】
該溶媒が有機溶媒をさらに含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
該有機溶媒が、オクタノール、2−オクチル−1−ドデカノール、ヘプタンまたはそれらの混合物である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
該カルボン酸が乳酸またはコハク酸である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希薄水性流からカルボン酸を除去する方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
発酵化学物質の大規模製造、特にカルボン酸、例えば乳酸およびコハク酸、の製造、における関心が高まっている。そのような酸は、適切なバイオマスの発酵によって製造され得る。バイオマスの醗酵において、発酵が起こるところの水性環境のpHは、予め決められたレベルに維持されなければならない重量な変数である。発酵プロセスにおいて使用される細菌は、1重量%超の遊離カルボン酸の濃度に耐えられないだろう。
【0003】
Kryzaniakらの論文「環境的に優しい製造法における液体−液体抽出のための抽出剤スクリーニング(Extractant screening for liquid−liquid extraction in environmentally benign production routes)」、Chemical Enginnering Transactions、24巻、2011、第709〜714頁には、水性溶液から乳酸を除去するための抽出法が記載されている。上記論文に記載されている例における乳酸濃度は0.13Mであった。これは1.2重量%に相当する。使用された抽出剤は、トリオクチルアミン(TOA),N,N,N’,N’−テトラメチル−1,8−ナフタレンジアミン、N,N-ジエチル−m−トルアミド、LIX7950(LIX7950は、Cognis社によって供給されるN,N’−ビス(シクロヘキシル)−N”−イソトリデシルグアニジンである)およびテトラドデシル−ビス−N−オキシドであった。上記論文によれば、抽出剤スクリーニングによって、トリオクチルアミンが、水性溶液からの乳酸の除去のために最も適する抽出剤であることが結果された。ここで、乳酸は1.2重量%の濃度で存在する。
【0004】
発酵プロセスにおいて使用されるバイオマス中の細菌は、低下するpHによって悪影響を受け、これは、水性溶液中の遊離カルボン酸の増加する濃度に比例する。したがって、カルボン酸を、1重量%未満の、適切には0.5重量%未満の低濃度ですら、除去する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Kryzaniakらの論文「環境的に優しい製造法における液体−液体抽出のための抽出剤スクリーニング(Extractant screening for liquid−liquid extraction in environmentally benign production routes)」、Chemical Enginnering Transactions、24巻、2011、第709〜714頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、1重量%未満の質量割合の遊離カルボン酸を含む水性溶液から遊離カルボン酸を除去する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このために、本発明に従う、1重量%未満の質量割合の遊離カルボン酸を含む水性溶液から上記遊離カルボン酸を除去する方法は、下記工程:
(a)上記水性溶液を、ポリアミン抽出剤を含む劣化(depleted)溶媒と接触させて、遊離カルボン酸を豊富にされた抽出物と減少された遊離カルボン酸含有量を有するラフィネートとを得ること、および
(b)上記ラフィネートを上記抽出物から分離すること、
を含み、ここで該ポリアミン抽出剤が、少なくとも2の窒素原子を有し、かつ窒素原子と炭素原子との間の二重結合を少なくともひとつ有する化合物であ
り、該カルボン酸が、バイオマスの発酵によって製造されたものである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明に従う方法によって除去され得るカルボン酸の例は、モノカルボン酸、例えば酢酸およびプロピオン酸、ヒドロキシカルボン酸、例えば3−ヒドロキシプロピオン酸、乳酸またはヒドロキシ酪酸、およびジカルボン酸、例えばコハク酸、イタコン酸およびフマル酸である。
【0009】
適切には、ポリアミン抽出剤が、グアニジンR
5N:C(NR
1R
2)(NR
3R
4)、ジアルキルアミノピリジン(DAAP)、アルキル−トリアザビシクロデセン(アルキル−TBD)またはそれらの混合物である。
【0010】
グアニジンR
5N:C(NR
1R
2)(NR
3R
4)において、基R
1〜R
5は、適切には、米国特許第4,992,200号明細書に記載されているように、Hおよび、2〜25の炭素原子を有する脂肪族基の群から選択される。上記明細書は、引用することにより本明細書に組み入れられる。
【0011】
DAAPはジアルキルアミノピリジンであり、ここでアルキル基は適切には、1〜15の炭素原子を有する脂肪族基である。
【0012】
適切には、アルキル−トリアザビシクロデセンのアルキル基が、10〜20の炭素原子を有する脂肪族基および、上記アルキル基の末端における5〜10の炭素原子の2つの第二のアルキル基を有する。
【0013】
ラフィネート中の遊離カルボン酸の含量は、ラフィネートが、精製された水性流として発酵性バイオマスに戻され得るような量である。
【0014】
驚いたことに、トリオクチルアミン(TOA)は、カルボン酸が低濃度で存在するところの水性流から上記カルボン酸を除去するとき、十分に成し遂げないこと、およびLIX7950は、期待され得るよりも良好に成し遂げることが分かった。
【0015】
完全にするために、L.A.Tungらの論文「pH>pKa1での乳酸およびコハク酸の収着および抽出(Sorption and extraction of lactic and succinic acids at pH>pKa1)」、Industrial & Engineering Chemistry Research、33巻、No.12、01−12−1994、第3217〜3223頁およびK.L.Wasewarらの論文「反応性抽出と結合された、グルコースの乳酸への発酵:レビュー(Fermentation of glucose to lactic acid coupled with reactive extraction: a review)」、Industrial & Engineering Chemistry Research、43巻、No.19、15−09−2004、第5969〜5982頁が参照される。これらの文献は、本発明に関係ない。なぜならば、それらは、本発明に従う方法において使用されるポリアミンとは異なる型の脂肪族アミンを使用して水性溶液からカルボン酸を除去することを開示しているからである。さらに、国際公開第93/16173号パンフレットは、抽出剤、例えばグアニジン、を使用して発酵ブロスを脱色および脱臭することに関する。この文献は、本発明に関係しない。なぜならば、それは、6〜10の比較的高いpH、好ましくは約7〜10のpHで発酵ブロスを脱色および脱臭することに関するからである。
【0016】
遊離カルボン酸(すなわち解離していないカルボン酸)、例えば乳酸またはコハク酸、を、1重量%未満の質量割合の上記遊離カルボン酸を含む水性溶液から除去する方法が、2の工程を含む。
【0017】
第一の工程では、上記水性溶液が、有機溶媒中にポリアミン抽出剤を含む劣化溶媒と接触されて、遊離カルボン酸を豊富にされた抽出物と減少された遊離カルボン酸含有量を有するラフィネートとを得る。
【0018】
第二の工程では、上記ラフィネートが上記抽出物から分離される。ラフィネートは、低下された濃度の遊離カルボン酸を含み、そして発酵プロセスに戻され得る。
【0019】
抽出物はさらに処理されて、当該抽出物からカルボン酸を回収することができる。カルボン酸が抽出物から回収され得る方法の例が、K.L.Wasewarらの論文「反応性抽出と結合された、グルコースの乳酸への発酵:レビュー(Fermentation of glucose to lactic acid coupled with reactive extraction: a review)」、Ind.Eng.Chem.Res.、2004、53、第5969〜5982頁のセクション12(乳酸の逆抽出)に記載されている。上記文献は、引用することにより本明細書に組み入れられる。酸が除去された抽出物は、本発明に従う方法の第一の工程における溶媒として使用され得る。
【実施例】
【0020】
本発明は、実施例を参照してより詳細に記載される。実施例1および2は乳酸の抽出に関し、実施例3はコハク酸の抽出に関する。
【0021】
実施例で使用された抽出剤は、トリオクチルアミン(本発明に従わない;Sigma Aldrichから得られる);DAAP12:ジアルキルアミノピリジン(ここで、アルキル基は、12の炭素原子を有する脂肪族基である)(要求に応じて合成される);LIX7950:Cognis社から提供されるN,N’−ビス(シクロヘキシル)−N”−イソトリデシルグアニジン;およびアルキル−トリアザビシクロデセン(TBD)(ここで、アルキル基は、15の炭素原子を有する脂肪族基および上記アルキル基の端部における1のヘキシル基および1のオクチル基の形態の2つの第二のアルキル基を有する)(要求に応じて合成される)である。
【0022】
実施例1:10重量%の抽出溶液を用いる、水性供給物からの乳酸の抽出
実施例1では、乳酸が、乳酸の水性供給物(水中に0.12重量%の乳酸、pH=2.9)から55℃の抽出温度で抽出された。抽出法は、上記水性供給物の0.005kgを、1−オクタノール中に溶解された10重量%の抽出剤からなる0.005kgの劣化溶媒と、インキュベータ中で17時間接触させて、乳酸を豊富にされた抽出物および減少された乳酸含有量を有するラフィネートを得ることを含んだ。
【0023】
その後、相が2時間静置され、ラフィネートのサンプルが取り出され、そして乳酸濃度がHPLC(Varian Prostarポンプ、オートサンプラーおよびUV検出器、Bio−Rad Aminex HPS−87Hカラム、移動相としての0.005Mの硫酸溶液、0.6ml/分の流速)によって決定された。抽出物中の乳酸濃度は、質量バランスから計算された。種々の抽出剤を比較するために、乳酸の分配係数(DLA)が、抽出物中の乳酸の濃度(重量%)をラフィネート中の乳酸濃度(重量%)で割ることにより計算された。結果を表1に示す。
【0024】
【表1】
【0025】
上記結果は、10重量%の抽出剤濃度において、ポリアミン抽出剤は全て、参照の抽出剤であるトリオクチルアミンと比較して有意に高い乳酸分配係数をもたらすことを示す。ポリアミン抽出剤は、参照の抽出剤であるトリオクチルアミンと比較して有意に高い乳酸抽出効率を与えるであろうと結論され得、これは、カルボン酸を水性流からより高い濃度で除去するために好ましい。
【0026】
実施例2:種々の抽出温度において20重量%の抽出剤溶液を用いる、水性供給物からの乳酸の抽出
実施例2では、乳酸が、乳酸の水性供給物(水中に0.12重量%の乳酸、pH=2.9)から25℃および55℃の抽出温度で抽出された。抽出法は、上記水性供給物の0.005kgを、1−オクタノール中に溶解された20重量%の抽出剤からなる0.005kgの劣化溶媒と、インキュベータ中で17時間接触させて、乳酸を豊富にされた抽出物および減少された乳酸含有量を有するラフィネートを得ることを含んだ。
【0027】
その後、相が2時間静置され、ラフィネートのサンプルが取り出され、そして乳酸濃度がHPLC(Varian Prostarポンプ、オートサンプラーおよびUV検出器、Bio−Rad Aminex HPS−87Hカラム、移動相としての0.005Mの硫酸溶液、0.6ml/分の流速)によって決定された。抽出物中の乳酸濃度は、質量バランスから計算された。乳酸の分配係数(DLA)が、抽出物中の乳酸の濃度(重量%)をラフィネート中の乳酸濃度(重量%)で割ることにより計算された。結果を表2に示す。
【0028】
【表2】
【0029】
上記結果は、20重量%の抽出剤濃度において、ポリアミン抽出剤が、参照の抽出剤であるトリオクチルアミンと比較してどちらの抽出温度でも有意に高い乳酸分配係数をもたらすことを示す。ポリアミン抽出剤は、参照の抽出剤であるトリオクチルアミンと比較して有意に高い乳酸抽出効率を与えるであろうと結論され得る。
【0030】
実施例3:種々の抽出温度において20重量%の抽出剤溶液を用いる、水性供給物からのコハク酸の抽出
実施例3では、コハク酸が、コハク酸の水性供給物(水中に0.15重量%のコハク酸、pH=3.05)から25℃および55℃の抽出温度で抽出された。抽出法は、上記水性供給物の0.005kgを、1−オクタノール中に溶解された20重量%の抽出剤からなる0.005kgの劣化溶媒と、インキュベータ中で17時間接触させて、コハク酸を豊富にされた抽出物および減少されたコハク酸含有量を有するラフィネートを得ることを含んだ。
【0031】
その後、相が2時間静置され、ラフィネートのサンプルが取り出され、そしてコハク酸濃度がHPLC(Varian Prostarポンプ、オートサンプラーおよびUV検出器、Bio−Rad Aminex HPS−87Hカラム、移動相としての0.005Mの硫酸溶液、0.6ml/分の流速)によって決定された。抽出物中のコハク濃度は、質量バランスから計算された。コハク酸の分配係数(DSA)が、抽出物中のコハク酸の濃度(重量%)をラフィネート中のコハク酸濃度(重量%)で割ることにより計算された。結果を表3に示す。
【0032】
【表3】
【0033】
上記結果は、ポリアミン抽出剤が、参照の抽出剤であるトリオクチルアミンと比較してどちらの抽出温度でも有意に高いコハク酸分配係数をもたらすことを示す。ポリアミン抽出剤は、参照の抽出剤であるトリオクチルアミンと比較して有意に高いコハク酸抽出効率を与えるであろうと結論され得る。
【0034】
ポリアミン抽出剤を含む溶媒は、適切には、有機溶媒を更に含み、ここで、上記有機溶媒は適切には、オクタノール、2−オクチル−1−ドデカノール、ヘプタンまたはそれらの混合物である。