(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
免震建物構造において、建物の固有周期を長くして地震入力を低減させ、地震時に建物が受ける力を小さくするものとして知られている。このような免震建物構造としては、基礎構造と上部構造とを分離し、その間に免震装置を設置し、これらによって地震エネルギーを吸収するようにしたものである。一般的に免震装置は大きく分けてアイソレータとダンパーという2つの装置で構成されている。アイソレータは建物の固有周期を長くする役割を持つと同時に、建物重量を支えるように、積層ゴム系のものとすべり系の2種類ある。また、アイソレータの中にはダンパー機能を兼ね備えているものもある。ダンパーは地震時の建物の揺れ幅を抑えたり揺れを早く留める役割をする装置であり、建物の重量を支えるものではないのである。すべり系はすべり支承と転がり支承があり、摩擦係数が非常に小さいため、地盤の揺れを上部建物に伝達しにくいという特徴を持っている。しかしながら、依然として免震建物構造の免震装置として積層ゴムがよく用いられているが、この種の免震装置は、薄いゴム板と鋼板とを交互に積層して接着したものであり、水平方向には柔軟で、変形しても元の位置に戻る免震機能を有するものであるが、上下方向には硬くて上部構造の荷重を十分支持できるようになっているため、大きな引張力には対応できないのである。地震時にロッキング現象によって上部構造と下部構造との間に大きな引張力が生じた場合には、免震装置は破損され、上部構造が基礎構造から分離してしまうという問題点があった。
【0003】
上記の問題点を解決するために、従来技術として複数の発明が開示されている。例えば、第1の従来技術として、基礎構造と縁切りした上部構造との間に免震装置が設置されるとともに、前記基礎構造と上部構造とにわたって所定の方向に傾斜したPC鋼材が設けられ、該PC鋼材は、1端部が基礎構造のフーチングに固定され、他端部が、柱に接合された一方の梁の端部と他方の梁の端部とにわたって取り付けた火打ち板に固定された免震建物構造である(特許文献1参照)。
【0004】
この免震構造物によれば、基礎構造と上部構造とをPC鋼材で繋ぎ合わせたので、地震による垂直荷重により上部構造が基礎構造から分離するのを妨げる。また、地震による水平荷重を免震アイソレータで減衰して上部構造の水平方向の揺れを少なくする。さらに、地震による水平荷重または地震による垂直荷重をPC鋼材と免震装置とで減衰することができるとともに、これらの荷重に抵抗することができる、というものである。
【0005】
また、公知に係る第2の従来技術としては、鋼管杭と縁切りした基礎との間に免震装置が設置され、該免震装置が杭頭部の周囲に形成された根巻コンクリートの上に設置され、該根巻コンクリートは鋼管に充填されたコンクリートが溢れ出て地面から突出した杭頭部を覆うように形成され、前記免震装置を貫通して鋼管杭と基礎とにわたって引張材が設けられた免震構造物である(特許文献2参照)。
【0006】
この免震構造物によれば、大地震に対して免震装置の薄ゴム板の降伏を避けることができるので、免震装置を交換する必要がない。また長周期地盤振動の可能性がある地盤に建つ建物に対しても巨大地震の発生による共振を避けて制震作用が働くので、免震装置の薄ゴム板が降伏して建物が元の位置に戻らないということがなくなる。また、免震装置の上下端は、直下型地震動による上下方向衝撃波の増幅を防止することができるので、免震装置における薄ゴム板の劣化と降伏とを防ぐことができる、というものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前記第1および第2の従来技術においては、いずれも交換できない構成になっているため、設計上想定以上の極大地震に遭遇してPC鋼材が降伏または破断した場合には、地震後に復元することができないという問題点があり、また、免震装置の高さによって上部構造と基礎構造との間に掛けられたPC鋼材が比較的短い場合は、引張荷重を受ける際にPC鋼材の伸びが小さいので、地震の衝撃力によって急激に破断し免震装置が損傷される虞がある。さらに、第2の従来技術においては、引張材が免震装置を貫通して設けられているため、免震装置として量産品が採用できず特注品となるので、非常に高価なものとなり、免震装置の使用選択肢が大幅に減少するという問題点がある。
【0009】
また、前記したように、積層ゴム系のものとすべり系の特徴を活用して、最近では、積層ゴム支承とすべり支承を併用して免震建物を構築し、コストを低減することが図られるようになってきている。
【0010】
しかしながら、耐震設計は、建築基準法に基づいて行うこととしているが、近年の傾向では、建築基準法に定められた地震震度(5強〜6弱)を超える巨大地震が発生することが増えてきている。設計上想定以上の巨大地震が発生した場合には、前記積層ゴム支承とすべり支承を併用して免震建物を構築しても、すべり支承が建物の水平変位を抑制できないため、積層ゴム支承が許容水平変形を超えた過大変形が発生して破損するばかりでなく、建物が滑り過ぎて転倒する危険性も生ずる。そのために、積層ゴム支承や制震ダンパーを多く増やして設置することが必要となり、反ってコスト高になるという問題点を有することになる。
【0011】
また、既存の免震建物においては,当時の設計上想定した地震が現在の巨大地震より低いため、免震装置の過大変形によって免震装置自体が破損するばかりでなく、建物の揺れが止まらないで過大変位するため、補強しないと使用不能となったとの報告もある。
【0012】
そこで、本発明は、設計上想定以上の巨大地震に遭遇しても、過剰な地震エネルギー部分を免震装置本体の代わりに吸収し、免震装置の過大変形を抑制して免震装置本体が破損しないようにすると共に、安価でかつ地震後にも簡単に交換できる変形制御装置を備えた免震建物構造とすることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記目的を達成するための具体的手段として、本発明に係る第1の発明は、基礎構造と上部構造との間に免震装置を介在させてある免震建物構造であって、前記免震建物構造の外周部立ち上がり壁と免震建物の上部構造躯体との間にクリアランスが形成されると共に、前記基礎構造と上部構造との間にピットが形成され、前記クリアランスの所要個所に、所要の遊間距離をもって設置されるエネルギー吸収部材と変形ストッパー部材とからなる変形制御装置が設けられ、前記所要の遊間距離を、前記免震装置の
変形限界許容値の70〜80%に合わせて前記変形ストッパー部材が前記エネルギー吸収部材に当接して弾性変形制御し始めるように設定し、前記エネルギー吸収部材が弾性変形して地震エネルギーを吸収し、
免震装置の変形限界許容値を超えないようにしてあることを特徴とする免震建物構造を提供するものである。
【0014】
また、本発明に係る第2の発明は、基礎構造と上部構造との間に免震装置を介在させてある免震建物構造であって、前記免震建物構造の外周部立ち上がり壁と免震建物の上部構造躯体との間にクリアランスが形成されると共に、前記基礎構造と上部構造との間にピットが形成され、該ピットの所要個所に、所要の遊間距離をもって設置されるエネルギー吸収部材と変形ストッパー部材とからなる変形制御装置が設けられ、前記所要の遊間距離を、前記免震装置の
変形限界許容値の70〜80%に合わせて前記変形ストッパー部材が前記エネルギー吸収部材に当接して弾性変形制御し始めるように設定し、前記エネルギー吸収部材が弾性変形して地震エネルギーを吸収し、免震装置の
変形限界許容値を超えないようにしてあることを特徴とする免震建物構造を提供するものである。
【0015】
前記第1および第2の発明においては、前記変形制御装置は、所要の遊間距離をもって設置されるエネルギー吸収部材と変形ストッパー部材とからなり、該エネルギー吸収部材は多段構造にし、各段に弾性体または粘弾性体とプレートとで構成されていること;前記各段における弾性体のバネ係数を異なるものとし、表面から取付部までの順に大きくし、その大きさの順は、下記の関係
K2=α2・K1、
K3=α3・K2、・・・
Kn=αn・K(n−1)
K1、K2、K3、・・・・Kn :表面からの順に各段の弾性体のバネ係数
α2、α3、・・・αn :各段の割増し係数
1<α2、α3、・・・・αn<10
n :段数
とすること;および前記弾性体のバネ係数の特性は、線形バネまたは非線形バネのいずれかとすること、を付加的な要件として含むものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の
前記第1および第2の発明に係る免震建物構造によれば、
免震建物構造の外周部立ち上がり壁と免震建物の上部構造躯体との間に形成されたクリアランス、または基礎構造と上部構造との間に形成されたピットの所要個所に、所要の遊間距離をもって設置されるエネルギー吸収部材と変形ストッパー部材とからなる変形制御装置が設けられ、前記所要の遊間距離を、前記免震装置の変形限界許容値の70〜80%に合わせて前記変形ストッパー部材が前記エネルギー吸収部材に当接して弾性変形制御し始めるように設定し、前記エネルギー吸収部材が弾性変形して地震エネルギーを吸収し、免震装置の変形限界許容値を超えないようにしてあることにより以下に示す通りの効果を奏する。
1.免震装置と共に変形制御装置を
所要の遊間距離をもって設置し、その所要の遊間距離は
免震装置の変形限界許容値の70〜80%に合わせて変形ストッパー部材がエネルギー吸収部材に当接して弾性変形制御し始めるように設定し、その変形限界許容値を超えないようにしたことにより、設計上想定以上の巨大地震に遭遇しても、免震装置本体の代わりに過剰の地震エネルギーを吸収し、免震装置の過大変形を抑制して免震装置本体の破損を防止すると共に、免震建物構造全体の安全性を大幅に高めることができる。
2.
免震装置の変形限界許容値の70〜80%に合わせ、その変形限界許容値を超えないように変形制御装置を設置したことにより、高価な制震ダンパーを増やさずに、積層ゴム支承とすべり支承とを併用することができ、安価で安全性の高い免震建物構造を構築することができる。
3.設置した変形制御装置は、簡単に交換可能な構成であるため、巨大地震に遭遇して変形制御装置を構成する弾性体がエネルギーを吸収して押し潰された状態になっても、免震装置本体の破損を回避でき、地震後に安価で簡単に取り換えることができる。
4.変形制御装置は、既存の免震建物の補強にも簡単に設置して使用することができる。
5.変位制御効果と共に、制震(振)効果が得られ、制震(振)ダンパーとして利用することができ、従来の高価な制震(振)ダンパーより安価であり、コトスダウンが図れる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の第1の実施の形態に係る免震建物構造の要部を略示的に示した断面図である。
【
図2】同実施の形態に係る免震建物構造における巨大地震を受けた時に変形制御装置が作用した状態を略示的に示した断面図である。
【
図3】同実施の形態に係る免震建物構造における変形制御装置のエネルギー吸収部材の断面を拡大して示すもので、(a)は巨大地震エネルギーを受ける前の断面図であり、(b)は巨大地震エネルギーを受けた状態を示す断面図である。
【
図4】同実施の形態に係る免震建物構造における変形制御装置を構成する弾性体のバネ特性を示すもので、(a)は弾性体の線形バネを示すグラフ、(b)は粘弾性体の非線形バネを示すグラフである。
【
図5】同実施の形態に係る免震建物構造における実施例として、変形制御装置を保護する構成を略示的に示した断面図である。
【
図6】同実施の形態に係る免震建物構造における実施例において、巨大地震エネルギーを受けた状態を示す断面図である。
【
図7】本発明の第2の実施の形態に係る免震建物構造の要部を略示的に示した断面図である。
【
図8】同実施の形態に係る免震建物構造における巨大地震を受けた時に変形制御装置が作用した状態を略示的に示した断面図である。
【
図9】同実施の形態に係る免震建物構造における実施例として、変形制御装置を保護する構成を略示的に示した断面図である。
【
図10】同実施の形態に係る免震建物構造における実施例において、巨大地震エネルギーを受けた状態を示す断面図である。
【
図11】本発明の第3の実施の形態に係る免震建物構造における免震装置と変形制御装置とを取り付けた状態の要部のみを略示的に示した平面図である。
【
図12】同実施の形態に係る免震建物構造における変形制御装置を取り付けた状態の要部のみを略示的に示した側面図である。
【
図13】同実施の形態に係る免震建物構造における免震装置を取り付けた状態の要部のみを略示的に示した側面図である。
【
図14】同実施の形態に係る免震建物構造における免震装置を取り付けた状態で、巨大地震を受けた時に変形制御装置が作用した状態を略示的に示した側面図である。
【
図15】同実施の形態に係る免震建物構造における変形制御装置を構成する変形ストッパー部材を拡大して示した側面図である。
【
図16】同実施の形態に係る免震建物構造における変形制御装置を取り付けた状態の要部のみを拡大して略示的に示した側面図である。
【
図17】同実施の形態に係る免震建物構造における他の実施例を拡大して略示的に示した側面図である。
【
図18】本発明の第4の実施の形態に係る免震建物構造における免震装置と変形制御装置とを取り付けた状態の要部のみを略示的に示した側面図である。
【
図19】同実施の形態に係る免震建物構造における免震装置と変形制御装置とを取り付けた状態で、巨大地震を受けた時に変形制御装置が作用した状態を略示的に示した側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明を図示の複数の実施の形態に基づいて詳しく説明する。まず、
図1〜4に示した第1の実施の形態に係る免震建物構造について説明する。
図1において、免震建物構造は、基本的に基礎構造1と上部構造2との間に免震装置3が配置され、基礎構造1は地盤4に打ち込んだ杭5の頭部にラップル基礎6を設けると共に、杭5の頭部周辺と地盤4の上面を覆うマットスラブ7が形成され、該マットスラブ7に連結させて基礎部分の外周を囲う立ち上がり壁8が設けられている。上部構造2は、建物の各柱9を支えるフーチング10がそれぞれ設けられると共に、該各フーチング10間をつなぐ大梁(地中梁)11が設けられ、該大梁11の上面にスラブ12が形成されている。そして、免震装置3は杭頭部のラップル基礎6とフーチング10との間に設置されている。また、前記立ち上がり壁8と免震建物の上部構造躯体2(
図1ではフーチング10)との間にクリアランスAが形成されている。
【0019】
本発明に係る第1の発明においては、前記クリアランスAに変形制御装置13を設けた構成に特徴がある。即ち、変形制御装置13は、エネルギー吸収部材14と変形ストッパー部材15とからなるものであって、立ち上がり壁8に所要の箱抜き凹部16を設けて一方のエネルギー吸収部材14を配設し、他方の変形ストッパー部材15はエネルギー吸収部材14に対向させてフーチング10側に取り付けるのである。この場合に重要なことは、エネルギー吸収部材14と変形ストッパー部材15との間に所要の遊間距離aをもって設置することである。
【0020】
そして、
図2に示したように、地震が発生した時に、基礎構造1からの地震エネルギーは免震装置3によって吸収され、揺れを上部構造2に伝わらないようにするが、免震装置3の限界(許容変形能力)を超えるような地震が生じた場合に、その限界を超える前に、変形制御装置13によって地震エネルギーを吸収し、揺れによる変形を制御するのである。つまり、設計通りの地震範囲内では、免震装置3によって地震エネルギーを充分吸収できるのであるが、それを超える地震が生じた時に、免震装置3の限界を超える前に、変形ストッパー部材15がエネルギー吸収部材14に当接し、エネルギー吸収部材14の弾性変形により地震エネルギーを吸収し、免震装置3の限界を超えないようにしているのである。地震後、免震装置3と共に変形制御装置13が元の状態に復元する。更に、設計上想定以上の巨大地震が生じた場合に、変形ストッパー部材15がエネルギー吸収部材14に押圧し、エネルギー吸収部材14が押し潰されることにより地震エネルギーを吸収し、免震装置3が過大変形および破損しないようにしているのである。なお、立ち上がり壁8を含めて外周部は蓋部材19によって全面的にカバーされている。
【0021】
変形制御装置13におけるエネルギー吸収部材14は、
図3(a)に示したように、プレート17と弾性体または粘弾性体18とで2段以上の多段構造としたものであり、プレート17は金属であり、弾性体は、例えば、天然ゴム、合成ゴムや高減衰ゴム、または低反発弾性ゴム等から適宜選んで使用するものであり、また、粘弾性体としては、例えば、低反発材やシリコーン樹脂等から適宜選択して使用するものであって、特に限定されるものではない。各段の弾性体または粘弾性体は、全て同一材料とすることができる。また、弾性体と粘弾性体を両方使用することもできる。例えば、4段とする場合は、第1段目を粘弾性体とし、第2段目以後に弾性体とすることができる。
【0022】
さらに、各段の弾性体を異なる材料とし、弾性体のバネ係数を異なるように1段目をK1、2段目以降をそれぞれK2、K3、・・・Knとし、表面側から裏面側、即ち、取付部まで順に大きくし、その大きさの順は、下記の関係とすることが好ましい。
K2=α2・K1、
K3=α3・K2、・・・
Kn=αn・K(n−1)
K1、K2、K3、・・・・Kn :表面からの順に各段の弾性体のバネ係数
α2、α3、・・・αn :各段の割増し係数
1<α2、α3、・・・・αn<10
n :段数
【0023】
ようするに、各段の弾性体の硬さを変えて、表面から取付部までの順に弾性体の変形量を調整することによって、地震エネルギーを十分に吸収して地震力の衝撃を和らげることが好ましい。例えば、4段とする場合には、第1段に最も柔らかいもの、例えば、低反発弾性ゴムとし、先に変形してエネルギーを吸収して地震力の衝撃を和らげ、変形能力が殆ど尽してから第2段の柔らかい弾性ゴムが続けて変形して同様にエネルギーを吸収する、以後、第3段と第4段の順に硬くして変形し難くなり、
図3(b)に示したように、最大変形時の各段の変形量がδ1>δ2>δ3>δ4となり、免震装置の過大変形を防ぐことができる。
なお、上記の各段の割増し係数α2、α3・・・αnは、免震装置の使用種類、配置方法や建物の規模、重量、地盤状況によって適切に設定することができる。例えば、4段とする場合は、α2:α3:α4=1:2:3とする場合もあるし、α2:α3:α4=2:2:2とする場合もある。さらに、α2:α3:α4=1:3:8とする可能性もある。なお、矢印Pは、地震揺れに基づき変形ストッパー部材15による押圧力を示すものである。
【0024】
遊間距離aは、予め免震装置3の許容変形能力(最大許容変形値)に合せて設定することができるものである。例えば、免震装置3における積層ゴム支承の許容最大変形角が45度であるとする場合は、遊間距離aを積層ゴム支承の変形角が35度〜40度になった時の変形量に合せて設定することが望ましい。つまり、免震装置3の許容変形能力(最大許容変形値)の70%〜80%に合せて所要の遊間距離aを設定することが好ましい。例えば、許容変形能力の70%に達した時点から、変形ストッパー部材15がエネルギー吸収部材14に接触して変形制御し始め、表面の第1段目の弾性材とする弾性ゴム18が最も大きく変形してエネルギーを吸収しながら地震力の衝撃を和らげ、次の2段目から弾性ゴム18の変形量が順次に小さくなる。免震装置3の変形が大きくなってくると、次の各段の弾性体とも順次に変形が大きくなりエネルギーを吸収し免震装置3の変形を制御する。地震後、免震装置3と共に変形制御装置13が元の状態に復元する。設計上想定した以上の巨大地震が発生した場合には、免震装置3の最大許容変形値である変形角が45度になると、変形制御装置の変形も最大となり、免震装置3がそれ以上の変形しないように、免震装置3の代わりに弾性ゴム18を順次押し潰してエネルギー吸収をして変形を抑制する。つまり、免震装置本体は破損することなく、免震装置3が最大許容変形値以上の変形を抑制するように変形制御装置13で対応して免震建物全体の変位を制御する構造仕組みである。なお、巨大地震によって変形制御装置13が塑性変形して潰された場合には、地震後、変形制御装置13は簡単に取替できるため、免震建物構造を速やかに復元することができる。
【0025】
また、弾性体のバネ特性として、
図4(a)(b)に示したように、線形バネまたは非線形バネのいずれかとすることができる。ようするに、弾性体を最も一般的な完全弾性ゴムとすることはいうまでもないである。その他には、降伏点荷重Qまで第1剛性として荷重が上がり、降伏点に達してから、荷重が上がらず変形のみ進行し、一定の変形を経て再び第2剛性として荷重が上がる。第1剛性に比べ第2剛性が高くなりゴムが硬くなる特性を持つ非線形弾性ゴムとすることによって、降伏までの第1剛性の段階では、主にエネルギー吸収段階として作用し、降伏後の第2剛性の段階では、主に変位制御段階として作用するのである。
【0026】
変形ストッパー部材15は、例えば、軽量かつ高強度の鉄骨製とすることが好ましいが、これに限ることなく、表面と裏面に鋼板を打込んだコンクリートブロックとしてもよい。その形状は、円形や正方形または多角形としてもよい。その表面の大きさは、エネルギー吸収部材14の表面より小さくし、免震建物の揺れによって上下にずれが生じても、確実にエネルギー吸収部材14の表面内に接することが確保されるのである。
【0027】
また、前記第1の実施の形態に係る他の実施例として、
図5,6に示したように、クリアランスAに設置された変形制御装置13内に、例えば、外部から石ころや泥などの落下物、およびネズミなど小動物が入り込まないように、樹脂製の蛇腹状カバー20を取り付けて変形制御装置13を保護することが望ましい。このようにカバーを取り付けることにより、変形制御装置13がどのような場合でも常に正常に機能するようになる。
【0028】
次に、第2の実施の形態に係る免震建物構造について
図7〜
図8について説明する。
この免震建物構造は、前記第1実施例の免震建物構造と、異なる点は、変形制御装置13の一部構造と取り付け位置とが異なるのみで、他の構成部分は実質的に同一であるので、同一符号を付してその詳細についての説明は重複するので省略する。
即ち、
図7に示したように、外周を囲う立ち上がり壁8とフーチング10との間に形成されたクリアランスAに変形制御装置13が設置される。即ち、変形制御装置13は、エネルギー吸収部材14と変形ストッパー部材15とからなるものであって、エネルギー吸収部材14は、フーチング10側に取り付けられ、変形ストッパー部材15は、立ち上がり壁8側に取り付けられるのである。そして、エネルギー吸収部材14と変形ストッパー部材15との間に遊間距離aを設けること、およびエネルギー吸収部材14の構成については前記第1の実施の形態と同一である。そこで、立ち上がり壁8側に取り付けられる変形ストッパー部材15は平板状を呈するものであり、支圧板として受ける衝撃力を均等にコンクリート製立ち上がり壁8に伝達してコンクリート壁を破損しないようにするものであり、そして、立ち上がり壁8に凹部を形成しないで取り付けることができる点で相違する。この実施の形態により、コンクリート製立ち上がり壁8を厚くする必要はないため、従来通りの壁にも適用でき、特に、既存の免震建物の補強に簡単に対応できるのである。
【0029】
しかしながら、
図8に示したように、変形制御装置13の作用については、設計通りの地震範囲内では、免震装置3によって地震エネルギーを充分吸収できるのであるが、それを超える地震が生じた時に、免震装置3の限界を超える前に、変形ストッパー部材15がエネルギー吸収部材14に当接し、エネルギー吸収部材14の弾性変形により地震エネルギーを吸収し、免震装置3の限界を超えないようにしているのである。地震後、免震装置3と共に変形制御装置13が元の状態に復元する。さらに、設計上想定以上の巨大地震が生じた場合に、変形ストッパー部材15がエネルギー吸収部材14を押圧し、エネルギー吸収部材14が押し潰されることにより地震エネルギーを吸収し、免震装置3が過大変形および破損しないようにする点では前記第1の実施の形態と同じであり、それによって、免震装置3の代わりにエネルギー吸収部材14の弾性ゴム18を順次押し潰してエネルギー吸収をして変形を抑制し、免震装置3の破損を防止する点でも同じである。
【0030】
また、この第2の実施の形態でも、
図9と
図10に他の実施例を示してある。この実施例においても、前記第1の実施の形態に係る他の実施例と同様に、クリアランスAに設置された変形制御装置13内に、例えば、外部から石ころや泥などの落下物、およびネズミなど小動物が入り込まないように、樹脂製の蛇腹状カバー20を取り付けて変形制御装置13を保護することが望ましい。このようにカバーを取り付けることにより、変形制御装置13がどのような場合でも常に正常に機能するようになる点でも同じである。
【0031】
さらに、第3の実施の形態に係る免震建物構造について
図11〜
図12について説明する。
この免震建物構造は、前記第1と第2の実施の形態に係る免震建物構造と異なる点は、免震装置として積層ゴム系の免震装置3とすべり系の免震装置3aとを併用した免震建物であって、使用される変形制御装置としても前記第1と第2の実施の形態で説明した免震建物の外周面のクリアランスAに設置される変形制御装置13と、免震建物の上部構造2の大梁(地中梁)11と基礎構造1のマットスラブ7との間に形成されたビットBに設置される変形制御装置13aとを併用した点で異なるのみで、他の構成部分は実質的に同一であるので、同一符号を付してその詳細についての説明は重複するので省略する。
【0032】
免震建物構造21は、
図11、
図12に示したように、一例として柱9と大梁11とで建造物が構成され、基礎部分(基礎構造1)と建造物(上部構造2)とは、杭5の頭部に設けたラップル基礎6と柱9が取り付けられるフーチング10との間に免震装置3が取り付けられるものである。そして、この実施例では、建造物の外側部に位置する杭頭部のラップル基礎6とフーチング10との間に配設される免震装置3は積層ゴム系のもの、例えば、鉛プラグ入り積層ゴムアイソレータ(黒丸表示)であり、建造物の外側部から内側に位置する杭頭部のラップル基礎6とフーチング10との間にすべり系の免震装置3a、例えば、剛すべり支承(白丸表示)を設置して、要するに、積層ゴム系の免震装置3とすべり系の免震装置3aとを所要のパターンで併用して設置した免震建物構造21である。但し、上記の免震装置3、3aの配列パターンは、あくまでも一例であって、積層ゴム系の免震装置3とすべり系の免震装置3aとの配列パターンは、これに限定されるものではなく、必要に応じて所要個所に増減して配置してもよい。
【0033】
このように、免震装置3とすべり系の免震装置3aとを併用することにより、すべり系の免震装置3aによるすべり支承が建物の水平変位を抑制できないため、免震装置3の積層ゴム支承が許容水平変形を超えた過大変形が発生して破損するばかりでなく、建物が滑り過ぎて転倒する危険性も生ずる。そのために、免震建物の外周面におけるクリアランスAに設置される変形制御装置13と、免震建物の上部構造2の大梁(地中梁)11と基礎構造1のマットスラブ7との間に形成されたビットBに設置される変形制御装置13aとを併用するのであり、その変形制御装置13aの設置については、外周部より内側で、例えば、建物の長辺方向においては、内側の大梁11に対して一つ置きに取り付け、短辺方向においては、隣接状態で取り付けるようにする。なお、図示は省略するが、本発明に係る第1の発明は、建造物の外周部におけるクリアランスAにのみ変形制御装置13を設置するものであり、第2の発明は、免震建物の内側のビットBにのみ変形制御装置13aを設置するものである。
従って、変形制御装置13および13aの配置は、免震建物の形状や高さ、構造形式および免震装置の種類等に合わせて適切に対応することが望ましい。例えば、一般の免震建物の場合には、主に第1の発明のように外周面にのみ変形制御装置13を配置して対応することが可能である。既存の免震建物を補強する場合においては、外周面の既存クリアランスAに制約があって、変形制御装置13の設置が困難である場合には、第2発明の様に免震建物の内部にのみ変形制御装置13aを設置して対応することができる。さらに、大規模な免震建物の場合には、やはり
図11,12に示すように、第1発明と第2発明とを併用して対応させることが好ましい。
【0034】
次に、大梁11に取り付けられる変形制御装置13aの具体的な構成について説明する。
図13に示したように、変形制御装置13aは、上部構造2の大梁(地中梁)11と基礎構造1のマットスラブ7との間に形成されたビットBに設置されるものであり、該変形制御装置13aは、2個のエネルギー吸収部材14aと1個の変形ストッパー部材15aとからなるものであって、該変形ストッパー部材15aは、前記エネルギー吸収部材14aと当接する当接部15bとを鋼管に溶接して両側に備えた、概ね金槌形状を呈するものであって、アーム部15cと一体に形成された取付用プレート15dを介して大梁11の略中央部に取り付けられ、該変形ストッパー部材15aの両側、即ち、当接部15b側にそれぞれ所要の間隔をもってエネルギー吸収部材14aが支持部材14bを介してマットスラブ7に複数のボルトナット22により取り付けて配設されるものである。
【0035】
そして、
図14に示したように、設計通りの地震範囲内では、免震装置3によって地震エネルギーを充分吸収できるのであるが、それを超える地震が生じた時に、免震装置3の限界を超える前に、エネルギー吸収部材14aの一方が変形ストッパー部材15aの一方に当接し、免震装置3の限界を超えないようにしているのである。地震後、免震装置3と共に変形制御装置13aが元の状態に復元する。さらに、設計上想定以上の巨大地震が生じた場合に、変形ストッパー部材15aがエネルギー吸収部材14aを押圧し、エネルギー吸収部材14aが押し潰されることにより地震エネルギーを吸収し、免震装置3が過大変形および破損しないようにする点では同じであり、それによって、免震装置3の代わりにエネルギー吸収部材14aを構成する弾性ゴムを押し潰してエネルギー吸収をして変形を抑制し、免震装置3の破損を防止する点でも同じである。
【0036】
この場合の変形ストッパー部材15aは、
図15に示したように、概ね金槌状を呈するものであって、その両側の当接部15bは、鋼管の両端に円形状のプレートが溶接されて取り付けられているが、四角形状または多角形状のプレートであってもよいのである。また、アーム部15cとしては、剛性のプレートで形成され、該アーム部15cに取付用プレート15dが溶接手段等により一体的に取り付けられ、該取付用プレート15dを介して複数のボルトナット23等により強固に取り付けられる。
【0037】
さらに、
図16に示したように、エネルギー吸収部材14aは、前記第1の実施の形態と同様に、プレート17と弾性体18とで2段以上の多段構造としたものであり、プレート17は金属であり、弾性体は、例えば、天然ゴム、合成ゴムや高減衰ゴム、または低反発弾性ゴム等から適宜選んで使用するものであり、また、弾性体に代わって粘弾性体も使用でき、該粘弾性体としては、例えば、低反発材やシリコーン樹脂等から適宜選択して使用するものであって、特に限定されるものではないのであり、実質的に前記第1の実施の形態と同一のものが使用できるのである。そして、その弾性体または粘弾性体の性能についても同じであって、その説明は重複するので省略する。なお、変形ストッパー部材15aに対して所要の間隔をもってエネルギー吸収部材14a配設されるとする、所要間隔というのは、前記第1の実施の形態で説明した遊間距離aをもって設置することである。
また、
図17に示したように、エネルギー吸収部材14aと変形ストッパー部材15aとの間に、前記第1の実施の形態と同様に、樹脂製の蛇腹状カバー20を取り付けて変形制御装置13aを保護することが望ましい。
【0038】
前記第3の実施の形態に係る変形制御装置13aは、2個のエネルギー吸収部材14aと1個の変形ストッパー部材15aとからなるものであるが、第4の実施の形態として、
図18と
図19に示した、2個のエネルギー吸収部材14aと、該エネルギー吸収部材14aとそれぞれ対をなす2個の変形ストッパー部材15aとからなる2対1組の変形制御装置13aについて説明する。
【0039】
まず、
図18に示したように、2対1組の変形制御装置13aは、上部構造2の大梁(地中梁)11と基礎構造1のマットスラブ7との間に形成されたビットBに設置されるものであって、各1対を成すエネルギー吸収部材14aと変形ストッパー部材15aの構成は、前記第3の実施の形態のものと実質的に同じである。そして、取り付けに関しては、大梁11の両端部寄りにそれぞれ1組つづ取り付けられる。つまり、変形ストッパー部材15aは、取付用プレート15dを介して大梁11の両端部近傍にボルトナット23により取り付けられ、該ストッパー部材15aの当接部15bと所要の遊間距離aをもってエネルギー吸収部材14aが支持部材14bを介してマットスラブ7にボルトナット22等によりそれぞれ取り付けて配設される。この場合に、取り付けられるエネルギー吸収部材14aはいずれもラップル基礎6寄りであって、双方が向かい合う方向で取り付けられるのである。
【0040】
このように取り付けられた2対1組の変形制御装置13aは、
図19に示したように、設計通りの地震範囲内では、免震装置3によって地震エネルギーを充分吸収できるのであるが、それを超える巨大地震が発生した時に、一方のエネルギー吸収部材14aが一方の変形ストッパー部材15aの当接部15bに当接し、エネルギー吸収部材14aが押し潰されることにより地震エネルギーを吸収し、免震装置3の限界を超えないようする点では同じであり、それによって、免震装置3の代わりにエネルギー吸収部材14aを構成する弾性ゴムを押し潰してエネルギー吸収させ、免震装置3の過大変形を抑制して破損を防止する点でも同じである。
【0041】
また、本発明の変形制御装置13、13aは、変位制御効果と共に、制震(振)効果が得られるため、制震(振)ダンパーとしても利用することができる。例えば、エネルギー吸収部材に粘弾性材を用いて、段数nを増やすことによって遊間距離aを小さくすることができるし、遊間距離aを免震装置の許容変形能力(最大許容変形値)の70%以内に設定することによって、変形制御装置の制震(振)効果を高めることができる。さらに、弾(粘)性体18の使用材料と段数nとを適切に調整して組み合わせをし、遊間距離aをゼロとすることによって、変形制御装置を制震(振)ダンパーとして利用することが可能になるので、従来の高価な制震(振)ダンパーより安価であって、コストダウンが図れる。なお、制震(振)ダンパーを兼ねるとして利用する場合には、遊間距離aを免震装置の許容変形能力(最大許容変形値)の10〜70%の範囲内に設定することが最も好ましい。
基礎構造1について、実施例では杭基礎5として示してあるが、これに限定することなく、独立基礎や布基礎等としてもよい。
上部構造2としては、特に限定することなく、RC造、PC造、S造またはSRC造の何れかとしてもよい。
以上説明した実施の形態は、本発明の構成要件(主旨)を限定するものではなく、本発明の主旨に逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【課題】巨大地震に遭遇しても、過剰な地震エネルギー部分を免震装置本体の代わりに吸収し、免震装置の過大変形を抑制して免震装置本体が破損しないようにし、安価でかつ地震後にも簡単に交換できる変形制御装置を備えた免震建物構造を提供する。
【解決手段】免震建物構造の立ち上がり壁8と免震建物構造躯体との間にクリアランスAが形成され、基礎構造1と上部構造2との間にピットが形成され、前記クリアランスAの所要個所に変形制御装置13が設けられている。該変形制御装置13は、エネルギー吸収部材14と変形ストッパー部材15とからなる。地震後に、免震装置と共に変形制御装置13が元の状態に復元する。さらに、巨大地震が生じた場合に、変形ストッパー部材15がエネルギー吸収部材14に当接して押圧し、エネルギー吸収部材14が押し潰され地震エネルギーを吸収し、免震装置が過大変形および破損しないように作用する。