特許第5948491号(P5948491)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5948491自動変速機の潤滑流量制御装置及び潤滑流量制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5948491
(24)【登録日】2016年6月10日
(45)【発行日】2016年7月6日
(54)【発明の名称】自動変速機の潤滑流量制御装置及び潤滑流量制御方法
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/02 20060101AFI20160623BHJP
   F16H 59/08 20060101ALI20160623BHJP
   F16H 59/44 20060101ALI20160623BHJP
   F16H 59/38 20060101ALI20160623BHJP
【FI】
   F16H61/02
   F16H59/08
   F16H59/44
   F16H59/38
【請求項の数】12
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-506563(P2015-506563)
(86)(22)【出願日】2013年12月27日
(86)【国際出願番号】JP2013085188
(87)【国際公開番号】WO2014147920
(87)【国際公開日】20140925
【審査請求日】2015年7月29日
(31)【優先権主張番号】特願2013-56889(P2013-56889)
(32)【優先日】2013年3月19日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075513
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 政喜
(74)【代理人】
【識別番号】100120260
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】小辻 弘一
(72)【発明者】
【氏名】杉村 晃
(72)【発明者】
【氏名】前田 篤志
【審査官】 上谷 公治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−149458(JP,A)
【文献】 特開2000−193073(JP,A)
【文献】 特開平02−256960(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 61/02
F16H 59/08
F16H 59/38
F16H 59/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前進用ポジション選択時に締結される前進用摩擦要素及び後進用ポジション選択時に締結される後進用摩擦要素を駆動源と駆動輪との間に備えた自動変速機に供給される潤滑流量を制御する潤滑流量制御装置であって、
選択されたポジションに対応する摩擦要素における回転速度差に基づき前記選択されたポジションに対応する摩擦要素を潤滑するのに必要な必要潤滑流量を演算する必要潤滑流量演算手段と、
前記必要潤滑流量を前記選択されたポジションに対応する摩擦要素に供給する潤滑流量制御手段と、
を備え、
前記潤滑流量制御手段は、前記前進用ポジションと前記後進用ポジションとの間で切り換えが行われた直後は、前記選択されたポジションに対応する摩擦要素に供給される潤滑流量を増大し、前記必要潤滑流量よりも多い潤滑流量を前記選択されたポジションに対応する摩擦要素に供給する、
潤滑流量制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の潤滑流量制御装置であって、
前記駆動源によって駆動される第1オイルポンプと、
前記駆動源とは異なる駆動源によって駆動される第2オイルポンプと、
をさらに備え、
前記潤滑流量制御手段は、前記前進用ポジションと前記後進用ポジションとの間で切り換えが行われた直後は、前記第2オイルポンプを駆動することによって前記選択されたポジションに対応する摩擦要素に供給される潤滑流量を増大する、
潤滑流量制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の潤滑流量制御装置であって、
前記潤滑流量制御手段は、前記前進用ポジションと前記後進用ポジションとの間で切り換えが行われた直後は、前記第2オイルポンプを吐出流量が最大になるように駆動することによって前記選択されたポジションに対応する摩擦要素に供給される潤滑流量を増大する、
潤滑流量制御装置。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の潤滑流量制御装置であって、
前記第2オイルポンプは、バッテリによって駆動される電動オイルポンプである、
潤滑流量制御装置。
【請求項5】
請求項1に記載の潤滑流量制御装置であって、
前記駆動源によって駆動されるオイルポンプをさらに備え、
前記潤滑流量制御手段は、前記前進用ポジションと前記後進用ポジションとの間で切り換えが行われた直後は、前記オイルポンプの吐出流量を増大させることによって前記選択されたポジションに対応する摩擦要素に供給される潤滑流量を増大する、
潤滑流量制御装置。
【請求項6】
請求項1に記載の潤滑流量制御装置であって、
前記駆動源によって駆動されるオイルポンプをさらに備え、
前記潤滑流量制御手段は、前記前進用ポジションと前記後進用ポジションとの間で切り換えが行われた直後は、前記オイルポンプの吐出流量のうち前記選択されたポジションに対応する摩擦要素に供給される割合を増大させることによって前記選択されたポジションに対応する摩擦要素に供給される潤滑流量を増大する、
潤滑流量制御装置。
【請求項7】
請求項1に記載の潤滑流量制御装置であって、
前記必要潤滑流量演算手段は、前記前進用ポジションと前記後進用ポジションとの間で切り換えが行われた直後は、前記選択されたポジションに対応する摩擦要素の前記切り換えが行われる直前の出力回転速度をホールドし、前記ホールドした出力回転速度に基づき前記必要潤滑流量を演算し、
前記潤滑流量制御手段は、前記ホールドした出力回転速度に基づき演算される前記必要潤滑流量を前記選択されたポジションに対応する摩擦要素に供給することで、前記選択されたポジションに対応する摩擦要素に供給される潤滑流量を増大する、
潤滑流量制御装置。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載の潤滑流量制御装置であって、
前記潤滑流量制御手段は、前記選択されたポジションに対応する摩擦要素に供給される潤滑流量の増大を、少なくとも前記選択されたポジションに対応する摩擦要素の出力回転速度を検出するセンサの検出値がゼロになるまで継続し、その後は前記必要潤滑流量を前記選択されたポジションに対応する摩擦要素に供給する、
潤滑流量制御装置。
【請求項9】
請求項1から7のいずれかに記載の潤滑流量制御装置であって、
前記潤滑流量制御手段は、前記選択されたポジションに対応する摩擦要素に供給される潤滑流量の増大を所定時間継続し、その後は前記必要潤滑流量を前記選択されたポジションに対応する摩擦要素に供給する、
潤滑流量制御装置。
【請求項10】
請求項1から7のいずれかに記載の潤滑流量制御装置であって、
前記潤滑流量制御手段は、前記選択されたポジションに対応する摩擦要素に供給される潤滑流量の増大を前記選択されたポジションに対応する摩擦要素の締結が完了するまで継続し、その後は前記必要潤滑流量を前記選択されたポジションに対応する摩擦要素に供給する、
潤滑流量制御装置。
【請求項11】
請求項1から10のいずれかに記載の潤滑流量制御装置であって、
前記潤滑流量制御手段は、前記前進用ポジションと前記後進用ポジションとの間で切り換えが行われた直後、かつ、車速が所定車速以上の時に、前記選択されたポジションに対応する摩擦要素に供給される潤滑流量を増大する、
潤滑流量制御装置。
【請求項12】
前進用ポジション選択時に締結される前進用摩擦要素及び後進用ポジション選択時に締結される後進用摩擦要素を駆動源と駆動輪との間に備えた自動変速機に供給される潤滑流量を制御する潤滑流量制御方法であって、
選択されたポジションに対応する摩擦要素における回転速度差に基づき前記選択されたポジションに対応する摩擦要素を潤滑するのに必要な必要潤滑流量を演算し、
前記前進用ポジションと前記後進用ポジションとの間で切り換えが行われた直後は、前記選択されたポジションに対応する摩擦要素に供給される潤滑流量を増大し、前記必要潤滑流量よりも多い潤滑流量を前記選択されたポジションに対応する摩擦要素に供給する、
潤滑流量制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動変速機に供給される潤滑流量を制御する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
自動変速機の変速機構部は、ブレーキ、クラッチ等の摩擦要素を含んで構成される。摩擦要素が過熱することによる摩擦要素の耐久性の低下を防止するには、摩擦要素の発熱量に応じた潤滑流量を摩擦要素に供給することが重要である。
【0003】
JP10−141480Aに開示される自動変速機では、摩擦要素の入力側要素と出力側要素との回転速度差に基づき発熱量を演算し、演算された発熱量に応じた潤滑流量を摩擦要素に供給するようにしている。
【発明の概要】
【0004】
ところで、摩擦要素における回転速度差の演算には回転速度センサの検出値が用いられる。回転速度センサは、通常、回転速度を検出したい回転体の外周に凸部を設けておき、この凸部がセンサ近傍を通過した時にパルスを発生するパルス発生装置で構成される。そして、このような回転速度センサでは、回転方向を検出することができないため、変速機のセレクトポジション(前進、後進、ニュートラル及びパーキングを切り替えるセレクトレバー又はセレクトスイッチの状態)を参照し、検出された回転速度の回転方向を判断することが行われている。
【0005】
しかしながら、車両が停車する前(車速がゼロになる前)に変速機のセレクトポジションが後進用ポジション(R)から前進用ポジション(D、L、2、1等)に切り換えられた場合、摩擦要素の出力側要素はすぐには正回転(前進方向の回転)にはならず逆回転(後進方向の回転)のままである。このため、上記セレクトポジションを参照して回転方向を判断する方法では、摩擦要素の出力側要素が正回転していると誤って判断してしまう。
【0006】
そして、上記誤判断が起こると、摩擦要素における回転速度差が実際の回転速度差よりも小さく演算されてしまい、これに応じた潤滑油量を摩擦要素に供給する構成では、摩擦要素の潤滑流量が不足し、摩擦要素が過熱することによる摩擦要素の耐久性の低下を招いてしまう。
【0007】
変速機のセレクトポジションが前進用ポジションから後進用ポジションに切り換えられた場合も同様である。
【0008】
本発明の目的は、セレクトポジションが後進用ポジションと前進用ポジションとの間で切り換えられ、摩擦要素における回転速度差を正確に演算することができない状況であっても、摩擦要素に十分な潤滑流量を供給し、潤滑流量不足で摩擦要素が過熱することによる摩擦要素の耐久性の低下を防止することである。
【0009】
本発明のある態様によれば、前進用ポジション選択時に締結される前進用摩擦要素及び後進用ポジション選択時に締結される後進用摩擦要素を駆動源と駆動輪との間に備えた自動変速機に供給される潤滑流量を制御する潤滑流量制御装置であって、選択されたポジションに対応する摩擦要素における回転速度差に基づき前記選択されたポジションに対応する摩擦要素を潤滑するのに必要な必要潤滑流量を演算する必要潤滑流量演算手段と、前記必要潤滑流量を前記選択されたポジションに対応する摩擦要素に供給する潤滑流量制御手段と、を備え、前記潤滑流量制御手段は、前記前進用ポジションと前記後進用ポジションとの間で切り換えが行われた直後は、前記選択されたポジションに対応する摩擦要素に供給される潤滑流量を増大し、前記必要潤滑流量よりも多い潤滑流量を前記選択されたポジションに対応する摩擦要素に供給する、潤滑流量制御装置が提供される。
【0010】
また、これに対応する潤滑流量制御方法が提供される。
【0011】
これらの態様によれば、セレクトポジションが後進用ポジションと前進用ポジションとの間で切り換えられた直後は、演算される必要潤滑流量よりも多い潤滑流量が摩擦要素に供給されるので、潤滑流量不足で摩擦要素が過熱することによる摩擦要素の耐久性の低下を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、ハイブリッド車両の全体構成図である。
図2図2は、前後進切換機構の概略構成図である。
図3図3は、潤滑流量制御のメインルーチンの内容を示したフローチャートである。
図4図4は、潤滑流量制御のサブルーチンの内容を示したフローチャートである。
図5図5は、R−Dセレクト操作直後の様子を示したタイムチャートである(比較例)。
図6図6は、R−Dセレクト操作直後の様子を示したタイムチャートである(本実施形態)。
図7図7は、潤滑流量制御のメインルーチンの内容を示したフローチャートである。(変形例)。
図8図8は、R−Dセレクト操作直後の様子を示したタイムチャートである(変形例)。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0014】
図1は、ハイブリッド車両(以下、車両という。)100の全体構成図である。車両100は、エンジン1と、モード切換クラッチ2と、モータジェネレータ(以下、MGという。)3と、第1オイルポンプ4と、第2オイルポンプ5と、前後進切換機構6と、無段変速機(以下、CVTという。)7と、駆動輪8と、統合コントローラ50とを備える。
【0015】
エンジン1は、ガソリン、ディーゼル等を燃料とする内燃機関であり、統合コントローラ50からのエンジン制御指令に基づいて、回転速度、トルク等が制御される。
【0016】
モード切換クラッチ2は、エンジン1とMG3との間に介装されたノーマルオープンの油圧駆動式クラッチである。モード切換クラッチ2は、統合コントローラ50からのモード切換指令に基づき油圧コントロールバルブユニット71により作り出された制御油圧によって、締結・解放状態が制御される。モード切換クラッチ2としては、例えば、乾式多板クラッチが用いられる。
【0017】
MG3は、ロータに永久磁石を埋設しステータにステータコイルが巻き付けられた同期型回転電動機である。MG3は、統合コントローラ50からのMG制御指令に基づいて、インバータ9により作り出された三相交流を印加することにより制御される。MG3は、バッテリ10からの電力の供給を受けて回転駆動する電動機として動作することができる。また、MG3は、ロータがエンジン1や駆動輪8から回転エネルギーを受ける場合には、ステータコイルの両端に起電力を生じさせる発電機として機能し、バッテリ10を充電することができる。
【0018】
第1オイルポンプ4は、エンジン1又はMG3によって駆動されるベーンポンプである。第1オイルポンプ4は、CVT7のオイルパン72に貯留される作動油を吸い上げ、油圧コントロールバルブユニット71に油圧を供給する。
【0019】
第2オイルポンプ5は、バッテリ10から電力の供給を受けて動作する電動オイルポンプである。第2オイルポンプ5は、統合コントローラ50からの指令に基づき、第1オイルポンプ4のみでは油量が不足する場合に駆動され、第1オイルポンプ4と同様にCVT7のオイルパン72に貯留される作動油を吸い上げ、油圧コントロールバルブユニット71に油圧を供給する。
【0020】
前後進切換機構6は、MG3とCVT7との間に介装される。前後進切換機構6は、図2に示すように、遊星歯車61と、フォワードクラッチ62及びリバースブレーキ63とで構成される。遊星歯車61は、サンギア61S、ピニオンギア61P、リングギア61R及びキャリア61Cで構成され、リングギア61Rの回転軸がCVT7に接続され、サンギア61Sの回転軸がMG3に接続されている。
【0021】
フォワードクラッチ62は、締結することでサンギア61Sとキャリア61Cとを連結するクラッチである。リバースブレーキ63は、締結することでキャリア61Cを変速機ケースに対して相対回転不能に連結するブレーキである。フォワードクラッチ62を締結し、リバースブレーキ63を解放すれば、エンジン1及びMG3の回転がそのままCVT7に伝達される前進状態が実現される。逆に、フォワードクラッチ62を解放し、リバースブレーキ63を締結すれば、エンジン1及びMG3の回転が減速かつ逆転されてCVT7に伝達される後進状態が実現される。
【0022】
フォワードクラッチ62及びリバースブレーキ63は、統合コントローラ50からの前後進切換指令に基づき、油圧コントロールバルブユニット71により作り出された制御油圧により、締結・解放が制御される。フォワードクラッチ62及びリバースブレーキ63としては、例えば、ノーマルオープンの湿式多板クラッチが用いられる。
【0023】
図1に戻り、CVT7は、MG3の下流に配置され、車速やアクセル開度等に応じて変速比を無段階に変更することができる。CVT7は、プライマリプーリと、セカンダリプーリと、両プーリに掛け渡されたベルトとを備える。第1オイルポンプ4及び第2オイルポンプ5からの吐出圧を元圧とし、プライマリプーリ圧とセカンダリプーリ圧を作り出し、プーリ圧によりプライマリプーリの可動プーリとセカンダリプーリの可動プーリとを軸方向に動かし、ベルトのプーリ接触半径を変化させることで、変速比を無段階に変更する。
【0024】
CVT7の出力軸には、図示しない終減速ギヤ機構を介してディファレンシャル12が接続され、ディファレンシャル12には、ドライブシャフト13を介して駆動輪8が接続される。
【0025】
統合コントローラ50には、エンジン1の回転速度を検出する回転速度センサ51、前後進切換機構6の出力回転速度(=CVT7の入力回転速度)を検出する回転速度センサ52、アクセル開度を検出するアクセル開度センサ53、CVT7のセレクトポジション(前進、後進、ニュートラル及びパーキングを切り替えるセレクトレバー又はセレクトスイッチの状態)を検出するインヒビタスイッチ54、車速を検出する車速センサ55等からの信号が入力され、統合コントローラ50は、これらに基づき、エンジン1、MG3(インバータ9)、CVT7に対する各種制御を行う。
【0026】
なお、回転速度センサ52は、回転速度を検出する回転体の外周に設けられた凸部がセンサ近傍を通過した時にパルスを発生するパルス発生装置で構成される。回転速度センサ52は、回転速度のみ検出可能で、回転方向は検出することができないため、回転方向はインヒビタスイッチ54で検出されるCVT7のセレクトポジションに基づき判断する。すなわち、セレクトポジションが前進用ポジション(D、L、2、1等)である場合は、回転方向が正転方向であると判断し、後進用ポジション(R)である場合は、回転方向が逆転方向であると判断する。
【0027】
また、統合コントローラ50は、車両100の運転モードとして、EVモードとHEVモードとを切り換える。
【0028】
EVモードは、モード切換クラッチ2を解放状態とし、MG3のみを駆動源として走行するモードである。EVモードは、要求駆動力が低く、バッテリ10の充電量が十分な時に選択される。
【0029】
HEVモードは、モード切換クラッチ2を締結状態とし、エンジン1とMG3とを駆動源として走行するモードである。HEVモードは、要求駆動力が高い時、あるいは、バッテリ10の充電量が不足する時に選択される。
【0030】
ところで、車両100は、従来の自動変速機搭載車両のようにトルクコンバータを備えていない。このため、発進時はフォワードクラッチ62又はリバースブレーキ63をスリップさせながら発進する。
【0031】
したがって、トルクコンバータを備えた場合と比較して、フォワードクラッチ62又はリバースブレーキ63をスリップさせる運転領域が多く存在するため、摩擦要素の発熱量に見合った潤滑流量を供給することが重要となる。
【0032】
そこで、統合コントローラ50は、以下に説明するように、セレクトポジションに対応する摩擦要素(前進用ポジションであればフォワードクラッチ62、後進用ポジションであればリバースブレーキ63)における回転速度差を監視し、回転速度差に応じた発熱量、さらには必要潤滑流量を演算する。そして、統合コントローラ50は、演算された必要潤滑流量を第1オイルポンプ4のみでセレクトポジションに対応する摩擦要素に供給可能な潤滑流量と比較し、第1オイルポンプ4のみでは必要潤滑流量を確保できない状況では第2オイルポンプ5を駆動し、セレクトポジションに対応する摩擦要素に供給される潤滑流量が不足しないようにする(通常流量制御)。
【0033】
さらに、車両が停車する前(車速がゼロになる前)にCVT7のセレクトポジションが前進用ポジションと後進用ポジションとの間で切り換えられると、その直後は、前進用セレクトポジションであるにもかかわらず車両100が後進している状態、逆に、後進用ポジションであるにもかかわらず車両100が前進している状態となり、回転方向を判別できない回転速度センサ52の検出値では、セレクトポジションに対応する摩擦要素における回転速度差を正しく演算することができない。このため、統合コントローラ50は、このような状況においても第2オイルポンプ5を駆動し、潤滑流量が不足しないようにする(特定セレクト操作時流量制御)。
【0034】
以下、統合コントローラ50が行う潤滑流量制御(通常流量制御及び特定セレクト操作時流量制御)の内容について説明する。
【0035】
図3は、統合コントローラ50による潤滑流量制御のメインルーチンの内容を示したフローチャートである。
【0036】
S1では、統合コントローラ50は、インヒビタスイッチ54からの信号に基づき、特定セレクト操作が行われたか判断する。特定セレクト操作は、後進用ポジションから前進用ポジションへの操作、又は、前進用ポジションから後進用ポジションへの操作である。
【0037】
特定セレクト操作が行われたと判断された場合は、処理がS2に進み、そうでない場合は処理がS6に進む。
【0038】
S2では、統合コントローラ50は、車速が閾値よりも高いか判断する。閾値は、セレクトポジションに対応する摩擦要素に供給される潤滑流量が不足した場合に、潤滑流量の不足による当該摩擦要素の過熱が問題になりうる車速の最低値(所定の低車速)に設定される。
【0039】
S3〜S5では、統合コントローラ50は、特定セレクト操作時流量制御を行う。具体的には、統合コントローラ50は、第2オイルポンプ5を最大吐出流量となるように駆動し、セレクトポジションに対応する摩擦要素に供給される潤滑流量を増大する(S3)。
【0040】
統合コントローラ50は、第2オイルポンプ5を駆動することによるセレクトポジションに対応する摩擦要素に供給される潤滑流量の増大を、少なくとも回転速度センサ52の検出値がゼロになったと判断されるまで継続する。これは、回転速度センサ52の検出値がゼロになった後は、回転速度センサ52で検出される回転速度の回転方向が車両100の進行方向と一致するので、回転速度差の誤検出がなくなり、後述する通常流量制御に移行しても当該摩擦要素における潤滑流量の不足が起こらなくなるからである。
【0041】
本実施形態では、回転速度センサ52の検出値がゼロになったかを、特定セレクト操作が行われてからの経過時間が所定時間に達したか否かに基づき判断している(S4)。所定時間は、例えば、特定セレクト操作が行われてから回転速度センサ52の検出値がゼロになるまでの時間を実験等により予め求めておき、これに余裕時間を加えた値に設定される。
【0042】
統合コントローラ50は、回転速度センサ52の検出値がゼロになった(特定セレクト操作が行われてからの経過時間が所定時間に達した)と判断したら、第2オイルポンプ5を停止し、セレクトポジションに対応する摩擦要素に供給される潤滑流量の増大を終了する(S5)。
【0043】
S6では、統合コントローラ50は、通常流量制御を行う。通常流量制御は、図4に示すフローチャートに従って行われる。
【0044】
図4は、統合コントローラ50による潤滑流量制御のサブルーチン(通常流量制御)の内容を示したフローチャートである。
【0045】
S11では、統合コントローラ50は、セレクトポジションに対応する摩擦要素における回転速度差を演算する。回転速度差は、MG制御指令から求まるMG3の回転速度と回転速度センサ52の検出値とに基づき演算することができる。
【0046】
S12では、統合コントローラ50は、セレクトポジションに対応する摩擦要素における伝達トルクを演算する。伝達トルクは、エンジン1のトルクとMG3のトルクの合計値として演算することができる。
【0047】
S13では、統合コントローラ50は、回転速度差と伝達トルクとを掛けた値に基づきセレクトポジションに対応する摩擦要素における発熱量を演算し、演算した発熱量を冷却するのに必要な潤滑流量(必要潤滑流量)を演算する。
【0048】
S14では、統合コントローラ50は、第1オイルポンプ4のみを駆動した場合にセレクトポジションに対応する摩擦要素に供給される潤滑流量と必要潤滑流量とを比較する。前者が後者よりも多い場合、すなわち、第1オイルポンプ4のみを駆動すればセレクトポジションに対応する摩擦要素に必要潤滑流量を供給できる場合は、第2オイルポンプ5を駆動しない(S15)。これに対し、前者が後者よりも少ない場合、すなわち、第1オイルポンプ4のみを駆動するだけではセレクトポジションに対応する摩擦要素に必要潤滑流量を供給できない場合は、不足分が第2オイルポンプ5から供給されるように第2オイルポンプ5を駆動する(S16)。
【0049】
続いて、上記潤滑流量制御を行うことによる作用効果について説明する。
【0050】
図5は、特定セレクト操作時流量制御を行わず、通常流量制御のみを行う場合に、CVT7のセレクトポジションがRポジションからDポジションに切り換えられた直後の様子を示したタイムチャートである(比較例)。
【0051】
時刻t11にセレクトポジションがRポジションからDポジションに切り換えられているが、車両100の進行方向は直ちに前進に切り替わらないため、セレクトポジションに対応する進行方向と実際の車両100の進行方向とが逆になる。このため、回転速度センサ52で検出される回転速度(摩擦要素の出力側回転速度)の回転方向が逆方向に判断されてしまい、演算されるフォワードクラッチ62における回転速度差が実際の回転速度差よりも低くなり、演算される必要潤滑流量も少なくなる。
【0052】
この結果、時刻t11〜時刻t12の間は、フォワードクラッチ62に供給される潤滑流量が実際に必要とされる潤滑流量よりも少なくなり(図中ハッチング部分)、フォワードクラッチ62の潤滑不良が生じることになる。
【0053】
これに対し、図6は、通常流量制御に加え、特定セレクト操作時流量制御を行う場合に、CVT7のセレクトポジションがRポジションからDポジションに切り換えられた直後の様子を示したタイムチャートである(本実施形態)。
【0054】
時刻t21にセレクトポジションがRポジションからDポジションに切り換えられると、第2オイルポンプ5の駆動が開始される。
【0055】
セレクトポジションが切り換えられた直後は、図5の比較例と同じく、回転速度センサ52で検出される回転速度(摩擦要素の出力側回転速度)の回転方向が逆方向に判断されてしまい、演算されるフォワードクラッチ62における回転速度差が実際の回転速度差よりも小さくなり、演算される必要潤滑流量も少なくなる。
【0056】
しかしながら、本実施形態によれば、セレクトポジションがRポジションからDポジションに切り換えられてから所定時間(時刻t21〜t22)の間、第2オイルポンプ5が駆動され、フォワードクラッチ62に供給される潤滑流量が増大されるので、フォワードクラッチ62に供給される潤滑流量は実際に必要とされる潤滑流量を常に上回り、フォワードクラッチ62の潤滑不良が生じることはない。
【0057】
また、特定セレクト操作時から所定時間が経過し、回転速度センサ52の検出値がゼロになったと判断された後(時刻t22〜)は、通常流量制御に移行し、以後、第2オイルポンプ5は第1オイルポンプ4の吐出流量のみでは潤滑流量が不足する状況でのみ駆動されるようになる。これにより、第2オイルポンプ5が不必要に駆動されることによる燃費の悪化を防止することができる。
【0058】
さらに、図6に示した例では、車速が閾値よりも高いため上記特定セレクト操作時流量制御を行っているが、車速が閾値よりも低い場合はフォワードクラッチ62における回転速度差が小さくフォワードクラッチ62への潤滑流量が不足してもフォワードクラッチ62が過熱によって劣化しないので、このような場合は上記特定セレクト操作時流量制御は行われない(図3のS2→S6)。これによっても、第2オイルポンプ5が不必要に駆動されることによる燃費の悪化を防止することができる。
【0059】
続いて、本実施形態の一部変形例について説明する。
【0060】
上記実施形態の特定セレクト操作時流量制御では、特定セレクト操作直後かつ車速が閾値よりも高い場合に第2オイルポンプ5を駆動することでセレクトポジションに対応する摩擦要素に供給される潤滑油量の不足を防止しているが、特定セレクト操作直前の回転速度センサ52の検出値をホールド(記憶)しておき、ホールドされている検出値に基づき通常流量制御を行うようにしてもよい。
【0061】
図7はこの場合に統合コントローラ50が行う潤滑流量制御のメインルーチンの内容を示したフローチャートである。図7のフローチャートでは、図3に示したフローチャートと比較して、S3〜S5の処理がS21〜26の処理に置き換えられている。
【0062】
これによると、特定セレクト操作が行われた直後、かつ、車速が閾値よりも高い場合は、直近の回転速度センサ52の検出値、すなわち、特定セレクト操作直前の回転速度センサ52の検出値がホールドされ(S21)、これに基づき通常流量制御が行われる(S22)。特定セレクト操作直前の回転速度センサ52の検出値が回転速度差の演算に用いられるので、通常流量制御では、セレクトポジションに対応する摩擦要素における回転速度差が実際の回転速度差、及び、その時点の回転速度センサ52の検出値に基づき演算される回転速度差よりも高く演算される。
【0063】
この結果、セレクトポジションに対応する摩擦要素には、実際に必要とされる潤滑流量や回転速度センサ52の検出値に基づき演算される回転速度差に応じた潤滑流量よりも多い潤滑流量が供給される。
【0064】
セレクトポジションに対応する摩擦要素への潤滑流量の増大は、回転速度センサ52の検出値がゼロになったと判断されるまで継続され(S23)、回転速度センサ52の検出値がゼロになったと判断された後は回転速度センサ52の検出値のホールドを終了し、通常流量制御に復帰する(S24、S6)。
【0065】
図8は、変形例において、CVT7のセレクトポジションがRポジションからDポジションに切り換えられた直後の様子を示したタイムチャートである。
【0066】
変形例では、特定セレクト操作がされてから所定時間(時刻t31〜t32)、特定セレクト操作直前の回転速度センサ52の検出値を回転速度差の演算に用いるようにしたことによって、演算される回転速度差が実際の回転速度差やその時点の回転速度センサ52の検出値に基づき演算される回転速度差よりも高くなり、演算される必要潤滑流量もその分多くなる。
【0067】
そして、演算される必要潤滑流量が第1オイルポンプ4のみで供給可能な潤滑流量を超える場合は、第2オイルポンプ5が駆動されてフォワードクラッチ62に供給される潤滑流量が増大されるので、フォワードクラッチ62に供給される潤滑流量は実際に必要とされる潤滑流量を常に上回り、フォワードクラッチ62の潤滑不良が生じることはない。
【0068】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したものに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0069】
例えば、第2オイルポンプ5を駆動することによるセレクトポジションに対応する摩擦要素に供給される潤滑流量の増大を、回転速度センサ52の検出値がゼロになったと判断されるまで継続するようにしているが、セレクトポジションに対応する摩擦要素の締結が完了するまで継続するようにしてもよい。
【0070】
セレクトポジションに対応する摩擦要素回転速度がゼロ近傍であると、回転速度センサ52の分解能によっては、パルスの検出周期が長くなって回転速度がゼロになったか否かの判定が難しくなる。そして、回転速度がゼロになる前に回転速度がゼロになったと誤判定してしまうとセレクトポジションに対応する摩擦要素に供給される潤滑流量の増大が早期に終了し、必要潤滑流量が供給されない可能性がある。
【0071】
しかしながら、セレクトポジションに対応する摩擦要素の締結が完了するまで継続するようにすれば、回転速度センサ52の分解能に起因するこのような不具合を防止することができる。なお、セレクトポジションに対応する摩擦要素の締結が完了したかは、当該摩擦要素の回転速度が締結後の回転速度になったかで判断することができる。
【0072】
また、特定セレクト操作時に第2オイルポンプ5を駆動する際、第2オイルポンプ5の吐出流量が最大になるように第2オイルポンプ5を駆動するようにしているが、第2オイルポンプ5の吐出流量をセレクトポジションに対応する摩擦要素における発熱量に応じた値にするようにしてもよい。例えば、特定セレクト操作時の車速、路面勾配、アクセル開度が大きいほど、発熱量が多くなるので、第2オイルポンプ5の吐出流量を多くなるように第2オイルポンプ5を駆動するようにしてもよい。
【0073】
また、第2オイルポンプ5に代えてアキュムレータを設け、アキュムレータに潤滑油を蓄えておき、特定セレクト操作時にアキュムレータに蓄えられている潤滑油をセレクトポジションに対応する摩擦要素に供給することによって、セレクトポジションに対応する摩擦要素に供給される潤滑流量を増やすようにしてもよい。
【0074】
また、第1オイルポンプ4を吐出流量を変更可能なポンプとし、第2オイルポンプ5を駆動することに代えて、第1オイルポンプ4の吐出流量を増大することによってセレクトポジションに対応する摩擦要素に供給される潤滑流量を増やすようにしてもよい。この構成によれば、第2オイルポンプ5を設けなくとも上記特定セレクト操作時流量制御を行うことが可能である。
【0075】
また、油圧コントロールバルブユニット71によってセレクトポジションに対応する摩擦要素に供給される潤滑流量を変更することができる場合は、第2オイルポンプ5を駆動することに代えて、第1オイルポンプ4の吐出流量のうち摩擦要素に供給される潤滑流量が占める割合を増やすことによって、セレクトポジションに対応する摩擦要素に供給される潤滑流量を増やすようにしてもよい。この構成によっても、第2オイルポンプ5を設けなくとも上記特定セレクト操作時流量制御を行うことが可能である。
【0076】
また、後進用ポジションから前進用ポジションに切り換えられた直後と前進用ポジションから後進用ポジションに切り換えられた直後とでセレクトポジションに対応する摩擦要素に供給される潤滑流量の増大量を変えるようにしてもよい。例えば、フォワードクラッチ62の方がリバースブレーキ63よりもフェーシング面積が小さい場合、後進用ポジションから前進用ポジションに切り換えられた直後の潤滑流量の増大量を前進用ポジションから後進用ポジションに切り換えられた直後の潤滑油量の増大量よりも大きくする。
【0077】
本願は日本国特許庁に2013年3月19日に出願された特願2013−56889号に基づく優先権を主張し、この出願の全ての内容は参照により本明細書に組み込まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8