特許第5948537号(P5948537)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5948537-柔軟性のある長繊維不織布 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5948537
(24)【登録日】2016年6月17日
(45)【発行日】2016年7月6日
(54)【発明の名称】柔軟性のある長繊維不織布
(51)【国際特許分類】
   D04H 3/00 20120101AFI20160623BHJP
   D04H 1/4209 20120101ALI20160623BHJP
   A61F 13/49 20060101ALI20160623BHJP
   A61F 13/511 20060101ALI20160623BHJP
   A61F 13/15 20060101ALI20160623BHJP
   A61F 13/514 20060101ALI20160623BHJP
【FI】
   D04H3/00
   D04H1/4209
   A41B13/02 E
   A61F13/18 310
   A41B13/02 F
   A61F13/18 320
【請求項の数】9
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2011-110448(P2011-110448)
(22)【出願日】2011年5月17日
(65)【公開番号】特開2012-72535(P2012-72535A)
(43)【公開日】2012年4月12日
【審査請求日】2014年5月1日
(31)【優先権主張番号】特願2010-192631(P2010-192631)
(32)【優先日】2010年8月30日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】税所 一哉
(72)【発明者】
【氏名】上野 郁雄
(72)【発明者】
【氏名】小川 達也
【審査官】 加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−138311(JP,A)
【文献】 特表2009−538394(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/064583(WO,A1)
【文献】 国際公開第2007/009144(WO,A1)
【文献】 特開2002−069820(JP,A)
【文献】 特開2000−160463(JP,A)
【文献】 特開2004−238775(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 6/46
D04H 1/00−18/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均単糸繊度が0.7dtex以上3.0dtex以下のポリオレフィン系繊維からなる長繊維不織布であって、融点が70℃以上であるエステル化合物を繊維重量に対し1.25wt%以上5.0wt%以下で含有し、更にMFRが70g/10分以下で融点が105℃以下であるポリオレフィン系樹脂を繊維重量に対し10wt%以上30wt%以下で含有し、タテ方向とヨコ方向の曲げ柔軟度の平均値が53mm以下であり、そして結晶化度が55%以下であることを特徴とする前記長繊維不織布。
【請求項2】
前記エステル化合物が3〜6価のポリオールとモノカルボン酸とのエステル化合物である、請求項1に記載の長繊維不織布。
【請求項3】
前記ポリオレフィン系樹脂がポリプロピレン系樹脂である、請求項1又は2に記載の長繊維不織布。
【請求項4】
前記ポリオレフィン系繊維がポリプロピレン系繊維である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の長繊維不織布。
【請求項5】
前記長繊維不織布の目付が10g/m以上40g/m以下である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の長繊維不織布。
【請求項6】
前記長繊維不織布の摩擦係数が0.50以下である、請求項1〜のいずれか一項に記載の長繊維不織布。
【請求項7】
前記長繊維不織布に凹凸の賦型加工がなされている、請求項1〜のいずれか一項に記載の長繊維不織布。
【請求項8】
請求項1〜のいずれか一項に記載の長繊維不織布を用いてなる吸収性物品。
【請求項9】
前記吸収性物品が使い捨てオムツ、生理用ナプキンまたは失禁パットのいずれかである、請求項に記載の吸収性物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオレフィン系長繊維不織布に関し、柔軟性および肌触りが良好な、使い捨てオムツ等の衛生材料に用いられる吸収性物品に適した長繊維不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、使い捨てオムツに対する要求性能が高まっており、特に肌と触れるトップシート、触り心地の良さが要求されるバックシートおよび皮膚に刺激を与えやすいギャザー部などに、よりソフトなシートが要求されるようになってきた。
【0003】
衛生材料用シートの柔らかさは、主に3つの要素に分類される。ひとつは、シートの曲げ柔らかさで表現される「剛軟度が小さいこと」、二つめはすべすべ感に代表される「摩擦係数が小さいこと」、そして三つめにはふわふわ感に代表される「圧縮率が大きいこと」があげられる。これら柔らかさの要素のうち、オムツの風合いに最も関係があるのがシートの曲げや柔らかさ「剛軟度が小さいこと」である。
【0004】
長繊維不織布においても、主としてポリプロピレン系樹脂を用いた不織布を柔軟化する検討が行われてきた。後加工による方法や熱エンボスロールでの圧着を弱める方法があるが、前者の方法では生産性や経済性に劣り、後者の方法では柔軟性は得られるが耐毛羽性が低下する。また柔軟性を得るために目付を小さくすることも考えられるが、強度が低下し、オムツ等の製品設計が限定されるおそれがある。
長繊維不織布シートの平均単糸繊度を小さくして柔軟性を得ることも試みられてきた。平均単糸繊度を小さくすることはMD方向の曲げ柔らかさを向上させるには有効であるが、平均単糸繊度を細くしていくには限界がある。
【0005】
特許文献1では、脂肪酸アミド類の滑材をポリオレフィン樹脂に含有させるスパンボンド不織布を製造する方法が開示されている。この場合、柔軟性のうちすべすべ感に代表される「摩擦係数が小さいこと」は改善するものの、シートの曲げ柔らかさは改善しない。
特許文献2では、分割型複合繊維を分割して得られた繊度1デニール以下の極細繊維の複合成分の1成分に親水性化合物としてエステル化合物の一種である脂肪酸グリセリド等の界面活性剤を練りこみ添加する方法が開示されている。しかし、親水性向上効果を出すためには、親水性の高い脂肪酸グリセリドを用いる必要があり、脂肪酸の分子量が小さいか、水酸基の存在が重要であり、このような親水性の高い界面活性剤の添加は、不織布の親水性を高め、透水性能の向上には有効であるが、曲げ柔らかさを向上させる効果は得られない。
特許文献3には、エステル化合物を含有させた柔軟性のある長繊維不織布を得る方法が開示されているが、摩擦係数は小さくなるが、繊維の結晶性が高く、シートの曲げ柔らかさは大きくは改善しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−69820号公報
【特許文献2】特許第3550882号公報
【特許文献3】特開2009−138311号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上記の課題を解決して、衛生材料に用いられる吸収性物品の肌と触れるトップシート、触り心地の良さが要求されるバックシートおよび皮膚に刺激を与えやすいギャザー部用等に適した、曲げ柔軟性に優れた長繊維不織布を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意検討した結果、ポリオレフィン系長繊維不織布において、繊維径を特定範囲とし、特定温度の融点を有するエステル化合物と特定温度の融点および特定MFRを有するポリオレフィン系樹脂とを特定量含有させることで、曲げ柔軟性が改良されることを見出し、本発明を成すにいたった。即ち、本発明は下記のとおりである。
【0009】
(1)平均単糸繊度が0.7dtex以上3dtex以下のポリオレフィン系繊維からなる長繊維不織布であって、融点が70℃以上であるエステル化合物を繊維重量に対し1.25wt%以上5wt%以下で含有し、更にMFRが70g/10分以下で融点が105℃以下であるポリオレフィン系樹脂を繊維重量に対し10wt%以上30wt%以下で含有し、タテ方向とヨコ方向の曲げ柔軟度の平均値が53mm以下であり、そして結晶化度が55%以下であることを特徴とする前記長繊維不織布。
(2)前記エステル化合物が3〜6価のポリオールとモノカルボン酸とのエステル化合物である、前記(1)に記載の長繊維不織布。
(3)前記ポリオレフィン系樹脂がポリプロピレン系樹脂である、前記(1)又は(2)に記載の長繊維不織布。
(4)前記ポリオレフィン系繊維がポリプロピレン系繊維である、前記(1)〜(3)のいずれかに記載の長繊維不織布。
(5)前記長繊維不織布の目付が10g/m以上40g/m以下である、前記(1)〜(4)のいずれかに記載の長繊維不織布。
)前記長繊維不織布の摩擦係数が0.50以下である、前記(1)〜()のいずれかに記載の長繊維不織布。
)前記長繊維不織布に凹凸の賦型加工がなされている、前記(1)〜()のいずれかに記載の長繊維不織布。
)前記(1)〜()のいずれかに記載の長繊維不織布を用いてなる吸収性物品。
)前記吸収性物品が使い捨てオムツ、生理用ナプキンまたは失禁パットのいずれかである、前記()に記載の吸収性物品。
【発明の効果】
【0010】
本発明の長繊維不織布(以下、単に不織布ともいう)はポリオレフィン系長繊維不織布であり、平均単糸繊度を0.7dtex以上3.0dtex以下の範囲と細くし、70℃以上の融点を有するエステル化合物を0.3wt%以上5.0wt%以下で含有させ、更に、120℃以下の融点を有し、70g/10分以下のMFRを有するポリオレフィン系樹脂(以下、単に低融点ポリオレフィン系樹脂ともいう)を5wt%以上30wt%含有させることで、曲げ柔軟性および摩擦抵抗性が改良される。
特に、70℃以上の融点を有するエステル化合物は親油性に優れ、不織布の摩擦係数を小さくすることにより、不織布表面のすべすべ感を発現させる。また、親油性が高いためポリオレフィン系繊維の非晶部に入り込み、繊維の結晶化を阻害して非晶領域を増加させるため、不織布の曲げ柔軟度を小さくさせる効果が得られる。エステル化合物の融点は、より好ましくは80℃以上150℃以下である。
【0011】
更に、120℃以下の融点を有し、70g/10分以下のMFRを有する低融点ポリオレフィン系樹脂には、ポリオレフィン繊維の紡糸時の延伸配向結晶化を抑制し、繊維構造を柔軟にする効果がある。
即ち本発明の長繊維不織布は、繊維径を特定範囲とし、特定温度の融点を有するエステル化合物により摩擦係数を小さくすることで不織布表面のすべすべ感が発現され、更に、特定温度の融点を有し特定MFRを有する低融点ポリオレフィン系樹脂によりポリオレフィン系繊維の結晶化を抑制することで繊維自体の柔らかさを発現させる。更に、低融点ポリオレフィン系樹脂によって増加した非晶領域にエステル化合物が更に入り込みやすくなるという相乗効果によって、曲げ柔らかさを高めた、柔軟性、風合いおよび肌触り性に優れたポリオレフィン系長繊維不織布を得ることができ、特に吸収性物品の肌に触れる部分に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】曲げ柔軟度の測定方法を説明した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下本発明について詳述する。
本発明の長繊維不織布を構成するポリオレフィン系繊維としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレンおよびそれらのモノマーと他のα−オレフィンとの共重合体などの樹脂から成る繊維があげられる。ポリプロピレンは、一般的なチーグラナッタ触媒により合成されるポリマーでも良いし、またメタロセンに代表されるシングルサイト活性触媒により合成されたポリマーであっても良い。他のα−オレフィンとしては、炭素数3〜10のものであり、具体的にはプロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキサン、4−メチル−1−ペンテンおよび1−オクテンなどが挙げられる。これらは1種類単独でも2種類以上を組み合わせても良い。あるいはポリオレフィン系樹脂を表面層とする芯鞘繊維などが挙げられるが、強度が強く使用時において破断しにくく、且つ衛生材料の生産時における寸法安定性に優れることからポリプロピレン繊維を用いることが好ましい。また、その繊維形状も通常の円形繊維のみでなく、捲縮繊維および異形繊維などの特殊形態の繊維も含まれる。
【0014】
長繊維を接合して不織布となす場合の接合手段としては、部分熱圧着点(ポイントボンディング)法、熱風法、溶融成分での接合(ホットメルト剤)法、その他各種の方法が挙げられるが、部分熱圧着されたものが好ましい。
【0015】
また、本発明の長繊維不織布を構成する繊維の平均単糸繊度は0.7dtex以上3dtex以下が好ましく、さらに好ましくは0.7dtex以上1.4dtex以下である。紡糸安定性の観点から0.7dtex以上であることが好ましく、衛生材料に使用される不織布の強力の観点から3.0dtex以下であることが重要である。更に不織布の曲げ柔軟度は、本発明において重要な因子であり、不織布を構成する繊維の平均単糸繊度が細いほど柔軟化する傾向である。
【0016】
本発明の長繊維不織布の目付は10g/m2以上40g/m2以下が好ましく、さらに好ましくは10g/m2以上30g/m2以下、特に好ましくは10g/m2以上25g/m2以下である。10g/m2以上であれば衛生材料に使用される不織布としては強力を満足し、40g/m2以下であれば本願の目的である衛生材料に使用される不織布の柔軟性を満足し、外観的に厚ぼったい印象を与えない。
【0017】
本発明の長繊維不織布の部分熱圧着における熱圧着面積率は、強度保持および柔軟性の点から、5%以上40%以下が好ましく、さらに好ましくは5%以上15%以下である。
本発明において、ポリオレフィン系長繊維不織布の曲げ柔らかさの効果は、部分熱圧着面積率が少ないほど、その柔軟化効果が発揮されやすい。
【0018】
本発明の長繊維不織布は良好な柔軟性を得るために凹凸の賦型加工をすることができる。賦型加工の形状としては直線、曲線、角、丸、梨地状、その他の連続的あるいは非連続のものが考えられるが、柔軟性効果の点から、凹あるいは凸部の深さは0.2mm以上5.0mm以下が好ましく、さらに好ましくは0.3mm以上3.0mm以下であり、凹凸の深いものほど効果が大である。
凹凸の押付部の面積率は、良好な柔軟性および繊維触感を得る上で、5%以上40%以下が好ましく、さらに好ましくは5%以上25%以下である。
【0019】
本発明に使用されるエステル化合物は、3〜6価のポリオールとモノカルボン酸とのエステル化合物が好ましく用いられる。
3〜6価のポリオールとしては例えばグリセリン、トリメチロールプロパン等の3価のポリオール、ペンタエリスリトール、グルコース、ソルビタン、ジグリセリン、エチレングリコールジグリセリルエーテル等の4価のポリオール、トリグリセリン、トリメチロールプロパンジグリセリルエーテル等の5価のポリオール、ソルビトール、テトラグリセリン、ジペンタエリスリトール等の6価のポリオール等が挙げられる。
【0020】
モノカルボン酸としては例えばオクタン酸、ドデカン酸、テトラデカン酸、オクタデカン酸、ドコサン酸、ヘキサコサン酸、オクタデセン酸、ドコセン酸、イソオクタデカン酸等のモノカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸等の脂環式モノカルボン酸、安息香酸、メチルベンゼンカルボン酸等の芳香族モノカルボン酸、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシオクタデカン酸、ヒドロキシオクタデセン酸等のヒドロキシ脂肪族モノカルボン酸、アルキルチオプロピオン酸等の含イオウ脂肪族モノカルボン酸等が挙げられる。
【0021】
本発明で使用されるエステル化合物は特に単一成分である必要は無く、2種以上の混合物でもよい。天然物由来の油脂類を使用してもよい。ただし、不飽和脂肪酸を含むエステル化合物は酸化されやすく紡糸時に酸化劣化しやすいため、好ましくは飽和の脂肪族モノカルボン酸または芳香族モノカルボン酸が好ましい。天然物由来の油脂類を使用する場合は原料油に比べて、無臭で安定なため、水素添加したエステル化合物が好ましく用いられる。
【0022】
本発明に使用されるエステル化合物はモノカルボン酸の分子量が比較的大きく、親油性が高いことが重要である。親油性が高いことにより、ポリオレフィン系繊維の非晶部に入り込み結晶化を阻害して非晶領域が増加するため、曲げ柔軟度が小さくなる効果を得ることができる。
この効果を得るためには、エステル化合物の融点は70℃以上であることが好ましい。更に好ましくは、80℃以上150℃以下である。エステル化合物の融点がブロードで、範囲を有する場合は、平均の融点を意味する。また、本願エステル化合物は効果を阻害しない範囲で他の組成物、たとえば融点が70℃未満のエステル化合物やその他の有機化合物が混合されていても良い。
【0023】
本発明に使用されるエステル化合物の含有率はポリオレフィン系繊維に対し、0.3wt%以上5.0wt%以下が好ましい。実施例にも示しているが比較的少量の添加でも曲げ柔軟度や滑りやすさが著しく向上し、含有量を増やしても含有量に見合った性能向上は見られない。このことから、紡糸性および発煙性を加味し、5.0wt%以下が適切であり、さらに好ましくは0.5wt%以上3.5wt%以下、特に好ましくは0.5wt%以上2.0wt%以下である。
【0024】
本発明に使用される低融点ポリオレフィン系樹脂は、ポリオレフィン系繊維の結晶性を抑制するために融点が120℃以下であることが好ましく、さらに好ましくは50℃以上110℃以下、特に好ましくは60℃以上105℃以下である。融点がこの範囲であればランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体であっても良く、ポリオレフィンの立体規則性を抑制した樹脂であっても良い。更に、ポリオレフィン系のエラストマーでも良く、相溶性の観点からポリプロピレン系樹脂であることが好ましい。
【0025】
本発明に使用される低融点ポリオレフィン系樹脂のMFRは70g/10分以下であることが好ましく、さらに好ましくは5g/10分以上60g/10分以下、特に好ましくは10g/10分以上40g/10分以下である。MFRがこの範囲内にあると糸切れなどが非常に少なく紡糸性が優れる。
【0026】
本発明に使用される低融点ポリオレフィン系樹脂の含有率は5wt%以上30wt%以下であることが好ましく、さらに好ましくは10wt%以上20wt%以下である。低融点ポリオレフィン系樹脂の含有率がこの範囲にあると、不織布の曲げ柔軟度や滑りやすさが著しく向上する。
【0027】
本発明で用いられるエステル化合物および低融点ポリオレフィン系樹脂の付与方法は、ポリオレフィン系繊維の結晶化抑制作用を生じやすいポリマーブレンド法であることが好ましい。
【0028】
また、本発明のエステル化合物と低融点ポリオレフィン系樹脂は長繊維不織布の圧着温度を下げる効果もあり、熱圧着に伴うフィルム化により生じる不織布の硬化現象も緩和することができる。部分熱圧着処理は、超音波法により、または加熱エンボスロール間にウェブを通すことにより行うことができ、これにより、表裏一体化され、例えばピンポイント状、楕円形状、ダイヤ形状、矩形状等の浮沈模様が不織布全面に散点する。生産性の観点から加熱エンボスロールを用いることが好ましい。
【0029】
本発明の長繊維不織布の結晶化度は55%以下であることが好ましく、55%以下であれば、熱圧着性が良く、かつ、吸収性物品として風合いが良く柔軟性の効果を得ることができる。結晶化度は強度など他の特性との兼ね合いから、40%以上であることが好ましい。
【0030】
本発明の長繊維不織布の曲げ柔軟度は、表裏のタテ方向とヨコ方向の平均値が60mm以下であることが好ましく、60mm以下であれば、吸収性物品として風合いが良く柔軟性の効果を得ることができる。曲げ柔軟度は小さければ小さいほどよいが、他の特性およびコスト等との兼ね合いから、例えば20mm以上が好ましい。曲げ柔軟度の測定方法については後述する。
【0031】
本発明の長繊維不織布の摩擦係数は0.50以下であることが好ましく、0.50以下であれば、吸収性物品としてすべすべ感を得ることができ、触り心地の良い風合いを得ることができる。摩擦係数も小さければ小さいほどよいが、他の特性およびコスト等との兼ね合いから、例えば0.20以上が好ましい。
【0032】
本発明において吸収性物品とは、漏れた尿や飛散した液体等を吸収させる衛生材料である。本発明の長繊維不織布は、触り心地の良い風合いを有しているので、人体に装着される吸収性物品に好ましく用いられ、これらの例としては使い捨てオムツ、生理用ナプキンおよび失禁パット等が挙げられる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例および比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例のみに限定されるものではない。なお、各特性の評価方法は下記のとおりである。
1.平均単糸繊度(dtex)
生産された不織布の両端10cmを除き、幅方向にほぼ5等分して1cm角の試験片をサンプリングし、顕微鏡で繊維の直径を各20点ずつ測定し、その平均値から繊度を算出した。
【0034】
2.目付(g/m2
JIS−L1906に準じ、タテ20cm×ヨコ5cmの試験片を任意に5枚採取して質量を測定し、その平均値を単位面積あたりの重量に換算して求めた。
【0035】
3.MFR(g/10分)
メルトインデクサー(東洋精機社製:MELT INDEXER S−101)溶融流量装置を用い、オリフィス径2.095mm、オリフィス長0.8mm、荷重2160g、測定温度230℃の条件で一定体積分を吐出するのに要する時間から10分間当たりの溶融ポリマー吐出量(g)を算出して求めた。
【0036】
4.曲げ柔軟度(mm)
図1は曲げ柔軟度の測定方法を説明した図である。
製品から幅10cm、長さ30cmの試験片を任意に5枚採取し(タテ方向を測定する場合はタテ方向が30cm)、図1の(1)に示したように、平らな台の上に置き、試験片の中央部に長手方向に直交するようにステンレス製の定規をのせる。定規は幅2.5cm、測定目盛30cmのものが好ましい。次いで、図1の(2)に示したように、試験片の一方の端を持ち上げてステンレス製の定規を境にした反対側の試験片の上に折り目をつけず、ループを形成させた状態でゆっくりと重ねる。次に、図1の(3)に示したように、ステンレス製の定規を折り重ねて生じたループの方向へ、長手方向に直交した状態でゆっくりとスライドさせ、図1の(4)に示したように、試料の反発力でループが伸びて折り重ねが無くなったときの状態を終点とし、試験片の端と定規間の距離(L)をスケールで読む。表裏タテ方向、ヨコ方向のn=5の平均値で表す。短いものほど柔軟であることを示す。
【0037】
5.結晶化度(%)
TAインスツルメント社製の示差走査熱量計DSC2920を用い、昇温速度を10℃/分で、30℃から200℃に昇温して結晶融解熱量ΔHm(J/g)を測定した。結晶化度(%)は下記式により求める。
結晶化度(%)=ΔHm/164.9(J/g)×100
(式中の164.9(J/g)はポリプロピレンの完全結晶の融解熱量である。)
【0038】
6.摩擦係数
JIS−K7125に準じ、タテ(MD方向)20cm×ヨコ(CD方向)8cmに切り取った試料に、摩擦子に共布を摩擦方向がタテになるようにセットした接触面積40cm2(一辺の長さ63mm)の正方形で質量200gのすべり片を乗せ、速度100mm/分で引っ張ったときの動摩擦力を測定した。タテ(MD)方向を3回測定し、下記式から算出した平均値を摩擦係数とした。数値が小さい方が、摩擦抵抗が少ないことを意味する。
摩擦係数=動摩擦力(N)/滑り片の質量によって生じる法線力(=1.96N)
【0039】
〔実施例1〕
MFRが33g/10分のポリプロピレン樹脂、MFRが33g/10分ポリプロピレン樹脂と融点が86〜90℃(平均融点88℃)のオクタデカン酸のグリセリド(水添動植物油脂)とからなるマスターバッチおよび融点が104℃でMFRが18g/10分の低融点ポリプロピレン樹脂(Exxon mobil社製 Vistamaxx6202)を低融点ポリプロピレン樹脂が20wt%となるように混合し、スパンボンド法により、吐出量0.56g/分・Hole、紡糸温度255℃で、フィラメント群を移動捕集面に向けて押し出し、長繊維ウェブを調整した(紡糸速度5000m/分、平均単糸繊度1.1dtex)。
次いで、得られたウェブを、フラットロールとエンボスロール(パターン仕様:直径0.425mm円形、千鳥配列、横ピッチ2.1mm、縦ピッチ1.1mm、圧着率6.3%)の間に通して熱と圧力を温度と線圧で調整して繊維同士を接着し、オクタデカン酸のグリセリドを1.25wt%含有した目付17g/m2の長繊維不織布を得た。
得られた長繊維不織布の物性を表1に示す。
【0040】
〔実施例2〕
低融点ポリプロピレン樹脂の含有率を10wt%としたことを除いて実施例1と同様にして、平均単糸繊度1.5dtex、目付18g/m2の長繊維不織布を得た。得られた長繊維不織布の物性を表1に示す。
【0041】
〔実施例3〕
オクタデカン酸のグリセリドの含有率を3.5wt%としたことを除いて実施例1と同様にして、平均単糸繊度1.2dtex、目付17g/m2の長繊維不織布を得た。得られた長繊維不織布の物性を表1に示す。
【0042】
〔実施例4〕
低融点ポリプロピレン樹脂の含有率を10wt%としたこと以外は実施例3と同様にして、平均単糸繊度1.0dtex、目付20g/m2の長繊維不織布を得た。得られた長繊維不織布の物性を表1に示す。
【0043】
〔実施例5〕
実施例1で得た長繊維不織布を、1辺0.9mm、線幅0.1mmの連続線状ハニカム形状柄(亀甲凹柄)(押付面積率:12.5%、柄ピッチ:タテ2.8mm、ヨコ3.2mm、深さ:0.7mm)のエンボスロール(80℃)と表面硬度60度(JIA−A硬度)のゴムロールとの間に通し、2kg/cm2の圧力で柄を押し付けた。亀甲周辺が押し付けられ高密度域を持ち、中央部が盛り上がった柔軟な長繊維不織布を得た。得られた長繊維不織布の物性を表1に示す。
【0044】
〔実施例6〕
融点84℃でMFRが25g/10分の低融点ポリプロピレン樹脂(Dow Chemical社製 DP 4200.02)としたこと以外は実施例1と同様にして、平均単糸繊度1.1dtex、目付17g/m2の長繊維不織布を得た。得られた長繊維不織布の物性を表1に示す。
【0045】
〔実施例7〕
低融点ポリプロピレン樹脂の含有率を10wt%としたこと以外は実施例6と同様にして、平均単糸繊度1.5dtex、目付18g/m2の長繊維不織布を得た。得られた長繊維不織布の物性を表1に示す。
【0046】
〔実施例8〕
オクタデカン酸のグリセリドの含有率を3.5wt%としたこと以外は実施例6と同様にして、平均単糸繊度1.2dtex、目付17g/m2の長繊維不織布を得た。得られた長繊維不織布の物性を表1に示す。
【0047】
〔実施例9〕
低融点ポリプロピレン樹脂の含有率を10wt%としたこと以外は実施例8と同様にして、平均単糸繊度1.0dtex、目付20g/m2の長繊維不織布を得た。得られた長繊維不織布の物性を表1に示す。
【0048】
〔実施例10〕
実施例6で得た長繊維不織布を用いたこと以外は実施例5と同様にして、長繊維不織布を得た。得られた長繊維不織布の物性を表1に示す。
【0049】
〔比較例1〕
オクタデカン酸のグリセリドと低融点ポリプロピレン樹脂を添加しなかったこと以外は実施例1と同様の方法で、平均単糸繊度1.1dtex、目付17g/m2の長繊維不織布を得た。得られた長繊維不織布の物性を表1に示す。
【0050】
〔比較例2〕
オクタデカン酸のグリセリドを添加しなかったこと以外は実施例1と同様の方法で、平均単糸繊度1.1dtex、目付17g/m2の長繊維不織布を得た。
【0051】
〔比較例3〕
オクタデカン酸のグリセリドを添加しなかった以外は実施例6と同様の方法で、平均単糸繊度1.1dtex、目付17g/m2の長繊維不織布を得た。得られた長繊維不織布の物性を表1に示す。
【0052】
〔比較例4〕
低融点ポリプロピレン樹脂を添加しなかったこと以外は実施例1と同様の方法で、平均単糸繊度1.1dtex、目付17g/m2の長繊維不織布を得た。得られた長繊維不織布の物性を表1に示す。
【0053】
〔比較例5〕
低融点ポリプロピレン樹脂の含有率を3wt%としたこと以外は実施例1と同様の方法で、平均単糸繊度1.1dtex、目付17g/m2の長繊維不織布を得た。得られた長繊維不織布の物性を表1に示す。
【0054】
〔比較例6〕
低融点ポリプロピレン樹脂の含有率を3wt%としたこと以外は実施例6と同様の方法で、平均単糸繊度1.1dtex、目付17g/m2の長繊維不織布を得た。得られた長繊維不織布の物性を表1に示す。
【0055】
〔比較例7〕
オクタデカン酸のグリセリドと低融点ポリプロピレン樹脂を添加しなかったこと以外は実施例5と同様の方法で、平均単糸繊度1.1dtex、目付17g/m2の長繊維不織布を得た。得られた長繊維不織布の物性を表1に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
表1から以下のことがわかる。
本発明の長繊維不織布は、繊維径を特定範囲とし、特定温度の融点を有するエステル化合物により摩擦係数を小さくすることで不織布表面のすべすべ感を発現し、更に特定温度の融点を有し特定MFRを有するポリオレフィン系熱可塑性樹脂によりポリオレフィン系繊維の結晶化を抑制することで繊維自体の柔らかさを発現させる。更にこれら相乗効果によってポリオレフィン系繊維によって増加した非晶領域にエステル化合物が更に入り込みやすくなり、曲げ柔らかさを高めた、柔軟性、風合い、肌触り性に優れるポリオレフィン系長繊維不織布を得ることができ、特に吸収性物品の肌に触れる部分に好適に用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は肌触りや風合いが良く、柔軟性に優れた不織布を提供し、衛生材料に用いられる吸収性物品のトップシート、バックシート、サイドギャザーなどに好適に使用することができる。
図1