(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
対応波長範囲が異なる複数の不等間隔溝回折格子を具備し、所望出力光の波長に対応して前記複数の不等間隔溝回折格子のうちから一つの不等間隔溝回折格子が選択され、当該一つの不等間隔溝回折格子に光源から発した入射光が入射し、回折された回折光が出力光として全ての前記不等間隔溝回折格子に共通とされた結像面に照射される設定とされ、前記一つの不等間隔溝回折格子を選択し前記入射光を入射させる位置に設置させる切換手段を具備する分光装置であって、
前記切換手段は、前記複数の不等間隔溝回折格子の中から前記一つの不等間隔溝回折格子を選択するに際して、各不等間隔溝回折格子の格子面の中心を通る法線を共通とし、前記光源が前記格子面の上側にある場合に、対応波長範囲の短い順に前記格子面が高い位置に設定されるように、前記一つの不等間隔溝回折格子を選択し設置させることを特徴とする分光装置。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態に係る分光装置について説明する。この分光装置においては、3種類の不等間隔溝凹面回折格子が切り替えられて使用されるものとする。
図1は、単一の不等間隔溝凹面回折格子10が分光装置中において使用される際の形態を示す図である。ここでは光源20、入射光100、回折光200を含む、格子面11に垂直な断面が示されている。この不等間隔溝凹面回折格子10は、光源(点光源)20が発した単色でない光(軟X線)を回折・分光して像面30においてエネルギー(波長)毎に結像するものとする。すなわち、像面30において所望波長をもつ単色の出力光が得られる。(x、y、z)軸の座標原点をOとするが、ここでは、Oは格子面11の中心(回折格子中心)に等しいものとする。x軸は原点Oから
図1中の格子面11に垂直に上側に向かう方向とし、この方向は回折格子中心における格子面11の法線方向となる。y軸はx軸と入射光100、回折光200を含む平面(
図1における紙面)内で原点Oからx軸と垂直に光源20の存在する側に向かうものとする。図示されていないが、z軸は、原点Oを通り紙面と垂直に紙面の向こう側から手前に向かうものとする(右手系)。すなわち、z軸の方向は格子面11に向かう入射光100とその回折光200を含む平面と垂直な方向となる。
【0015】
rは原点Oから光源20までの距離(入射光100の光路長)、r’は不等間隔溝凹面回折格子10の焦点距離であり、回折光200の光路長と等しいものとする。入射角αは入射光100とx軸のなす角度、回折角(出射角)βは、回折光200とx軸のなす角度として定義し、α、βともに反時計回りを正にとる。また、光源20からx軸に平行に延びた直線(y軸への垂線)とy軸との交点をP、像面30からx軸に平行に延びる直線(y軸への垂線)とy軸との交点をQとする。
【0016】
不等間隔溝凹面回折格子10の設計において用いられるパラメータについて説明する。入射角α、回折角β、光源20までの距離r、焦点距離r’は光源20、像面30とこの不等間隔溝凹面回折格子10との位置関係によって定まる。凹面の曲率半径(曲率中心は
図1中の上側にあるものとする)をR、回折光の波長をλ、回折次数をm、有効格子定数をσ(回折格子中心における格子定数)とし、特許文献1に記載のように、n番目の格子溝のy軸上への射影座標をwとした場合、展開係数n
20、n
30、n
40を用いて溝関数n(w)とσの積を(1)式のように記載すると、(2)〜(4)式が成立する。
【0021】
(3)式、(4)式より、rとr’は、波長λの関数となる。従って、光学的位置関係を規定するパラメータであるα、β、r、r’を一定として対応する全てのλで上記の関係が成立させるようにRとn
20を設定することは現実には不可能であることは明らかである。このため、実際には、対象とする波長範囲内において、これらのパラメータがいずれも狭い範囲内に収まるようにσ、n(w)、R等を設定することになる。なお、上記の位置関係は、(1)式の係数のうちのn
20によって定まる。n
30、n
40等は焦点(上記の位置関係)には大きな影響を与えず、コマ収差に大きく影響を与えるが、この点については後述し、ここではn
30、n
40については無視する。
【0022】
ここで、対応する波長範囲が広いほど上記の設定が困難になることは明らかである。このため、ここでは複数の不等間隔溝凹面回折格子(G
1〜G
n)を用い、各々が異なる対応波長範囲(G
1:波長λ
12〜λ
11、G
2:λ
22〜λ
21、・・・ G
n:λ
n2〜λ
n1、λ
11>λ
12、λ
21>λ
22、・・・、λ
n1>λ
n2であり、各々の中心波長においては、(λ
11+λ
12)/2>(λ
21+λ
22)/2>・・・>(λ
n1+λ
n2)/2とする)をもつものとする。すなわち、G
kにおいては、kが大きい順に高いエネルギー(短い波長)に対応している。この場合には、Rとn
20の設定は、G
1〜G
nで独立に行うこともできる。この場合には、単一の不等間隔溝凹面回折格子を用いる場合よりもその設計が容易となることは明らかである。各不等間隔溝凹面回折格子においては、各々の対応する波長範囲においてのみ上記の関係が成立するように設計されればよい。
【0023】
G
1〜G
nを切り替えて使用する場合には、その光学的位置関係(α、β、r、r’)を共通とすることにより、切換作業が特に容易、かつ信頼性が高くなる。このため、α、β、r、r’はG
1〜G
nの全てにおいて共通とすることが望ましい。しかしながら、実際にはこれも困難である。これは、特に軟X線領域での反射率は入射角が90°に近い狭い範囲でのみ高く、かつ波長が短い(エネルギーが高い)場合においては反射率の低下が著しいためである。不等間隔溝凹面回折格子の回折効率は、その格子面を構成する材料の反射率に大きく依存する。すなわち、回折効率もこの反射率と同様の傾向を示す。
【0024】
また、分光装置から得られる出力(出力光の強度)は、実際には単なる回折効率(反射率)の大小だけで決まらない。上記の例では、光源20を点光源とし、単純化のために回折格子中心における回折のみについて記載したが、実際には光源20から発した光は回折格子の格子面のほぼ全面に照射され、回折される。特に不等間隔溝凹面回折格子の場合には、この光が像面30で集光するように設定される。このため、像面30上で得られる光の強度は、光源20からこの不等間隔溝凹面回折格子を見た見込角が大きい場合に高くなる。
図1の構成において、見込角は、α=0°で最大、α=90°で零となり、cosαに比例する。以上より、高強度の出力光を得るための指数としては、反射率と見込角の積を採用することができる。
【0025】
図2は、不等間隔溝凹面回折格子の表面を構成する材料として使用される金の反射率と見込角の積(スループットと定義)のエネルギー依存性を、3種類の反射角度(
図1中のαに対応:86.00°、87.07°、88.65°)について計算した結果である。この結果より、αが小さい(90°から離れた)場合には、低エネルギー(長波長)で高いスループットが得られるものの、高エネルギー(短波長)側でのスループットの低下が著しい。一方、αが90°に近い場合には、スループットのエネルギー依存性は小さくなるものの、全体的にスループットは低い。ただし、高エネルギー側だけに限れば、αが小さい場合よりもスループットは大きく向上する。
【0026】
この結果より、複数の不等間隔溝凹面回折格子G
1〜G
nを切り替えて使用する場合には、低エネルギー用の不等間隔溝凹面回折格子G
1においてαを小さく、高エネルギー用の不等間隔溝凹面回折格子G
nにおいてαを90°に近くすることが、スループットを高くするためには有効である。すなわち、G
1〜G
nに対応するαをα
1〜α
nとすると、αを一定とするよりも、α
1≦α
2≦・・・≦α
n<90°となるようにαを変えた構成が好ましい。
【0027】
このように、不等間隔溝凹面回折格子毎にαが異なるため、
図1における光源20、像面30を固定した場合には、不等間隔溝凹面回折格子毎に設置位置を変えることが必要となる。前記のα
1〜α
nの大小関係より、G
1において回折格子中心をx=0の位置(原点O)に設定した場合には、G
2以降で回折格子中心を順次x>0の方向に移動させることが有効である。すなわち、G
kに対応する入射角α
kとなる回折格子中心のx座標をΔ
kとすると、α
1≦α
2≦・・・≦α
k≦・・・≦α
nであることからΔ
1≦Δ
2≦・・・≦Δ
k≦・・・≦Δ
nとなり、光源20、像面30が固定であっても、最適な入射角に設定されたG
1〜G
nによって広い波長範囲に渡り高出力、高分解能で単色光を取り出すことのできる分光装置を得ることができる。
【0028】
以下に、本発明の実施の形態となる分光装置の具体的構成について説明する。ここでは3種類(n=3)の不等間隔溝凹面回折格子G
1〜G
3が使用され、G
1の対応エネルギー範囲は50〜200eV(波長λ
11=24.7nm、λ
12=6.2nm)、G
2の対応エネルギー範囲は155〜350eV(λ
21=8.0nm、λ
22=3.54nm)、G
3のエネルギー範囲は300〜2200eV(λ
31=4.133nm、λ
32=0.564nm)とする。G
1〜G
3について各々の波長範囲で上記の回折条件が満たされるように設計された仕様を表1に示す。ここで、前記の通り、G
1〜G
3をそれぞれの波長域で高出力、高分解能とするために、回折格子の法線方向から計ったG
1〜G
3の入射角α
1〜α
3は、α
1<α
2<α
3としている。また、PO=239.69mm、OQ=233.50mmとしている。α
1〜α
3に対応して、Δについては、Δ
1<Δ
2<Δ
3とされ、例えば表1に示されたように設定される。
【0030】
G
1〜G
3における光源20、入射光100、回折光200、像面30の状況を
図3に示す。
図4は、
図3における光源20の位置が一致するようにΔ
1〜Δ
3を考慮して重ね合わせた構成を示す図である。この時、G
1の回折光子中心が最も低い位置に設定され、G
3の回折格子中心が最も高い位置に設定される(Δ
1<Δ
2<Δ
3)。こうすることで、比較的簡便にG
1〜G
3から1つの回折格子を適宜選択でき、広い波長帯域をカバーする分光装置を構成できるようになる。すなわち、本発明の実施の形態に係る分光装置において、G
1〜G
3を切り替える際にΔ
1〜Δ
3によってG
1〜G
3に対応する入射角を切り替えることができるように配置される。
【0031】
前記の通り、
図4の構成を用いた場合においても、回折光200の焦点が完全に1点に収束することは実際にはない。
図5は、
図4と同一の方向から見たこの焦点の分布を算出した結果である。y=−233.5mmが像面である。しかしながら、この結果より、G
1〜G
3を用いた
図4の構成により、50〜2200eVのエネルギー(波長24.7nm〜0.564nm)の広い範囲において、焦点は結像特性に係わるy軸方向(分散方向)で5mm程度に収まっていることが確認できる。x軸方向は市販の二次元検出器の受光面の長さ程度(約25mm)である。したがって、広いエネルギー帯域をカバーするために複数の不等間隔溝凹面回折格子を用いたとしても、高い結像特性を持つ分光装置を得ることができる。
【0032】
上記の例では、(1)式における係数n
20のみが考慮され、焦点の位置の分布について示された。(1)式における係数のうち、n
20は焦点位置に関連するパラメータであり、上記の構成によって焦点位置を略一定に保つことができることが示された。これに対して、n
30、n
40は、収差に関連するパラメータである。一方、上記の不等間隔溝凹面回折格子における不等間隔溝を形成するに際しては、例えば非球面ホログラフィック露光法が用いられる。この場合には、光の干渉を利用して格子溝が形成されるため、n
20、n
30、n
40を独立に設定することは不可能である。このため、実際にはn
20が所定の値となるように設定され、この条件下において可能な限りn
30、n
40が適切となるように設定される。従って、実際には収差の影響も含めた評価が重要となる。
【0033】
以降では、実際に非球面ホログラフィック露光法を用いて上記のG
1〜G
3を製造した場合の結果について説明する。非球面ホログラフィック露光法は、例えば特公平6−64207号公報に記載されている。この製造方法においては、2つの点光源から発せられる単色の球面波が球面鏡で反射されて基板上に塗布されたフォトレジスト上で干渉し、干渉縞を形成する。この干渉縞のパターンが所望の格子定数、溝パターン(不等間隔溝)となるように、光源や球面鏡の構成、配置を調整する。露光後、フォトレジストを現像してパターニングし、基板をエッチングすることによって、基板表面に所望の溝形状を形成する。エッチング加工後の基板自体に溝が刻線された回折格子はマスタ回折格子と呼ばれ、これと同じ溝間隔、溝形状を持つレプリカ回折格子が製造される。
【0034】
図6、7は、非球面ホログラフィック露光法を行なう際の2種類の構成を示す図であり、C、Dは点光源、M
1、M
2は球面鏡(曲率半径がそれぞれR
1、R
2)、Gはここで干渉縞がパターニングされる対象(フォトレジストが表面に塗布された、不等間隔溝凹面回折格子となる基板)である。
【0035】
光源C、Dの発する単色光の波長を441.6nmとし、
図6、7におけるパラメータを表2の通りとして、G
1〜G
3を製造した。G
1を製造するに際しては、
図6の構成、G
2、G
3を製造するに際しては、
図7の構成を用いた。
【0037】
図8は、G
2の結像特性を5種類の中心波長(3.50nm、4.63nm、5.75nm、6.88nm、8.00nm)について調べた結果を示す。回折格子面の大きさはy軸方向に50mm、z軸方向に30mmとした。
図8において、上側は上記の各中心波長λに対応して、λ
±=λ±λ/100(分解能λ/Δλ=100に対応)の範囲内の波長の回折光のスポットダイアグラムであり、下側は強度分布である。この結果より、収差によって各波長のスペクトル像はz軸方向に60mm程度広がる。ただし、市販されているCCDのような二次元検出器で実用的に受光、検出できるのは10mm程度である。この点を踏まえ、検出範囲を±5mm(高さ10mm)に制限したとすると、得られる分解能λ/Δλは、285(λ=3.50nm)、1463(λ=4.63nm)、1182(5.75nm)、982(λ=6.88nm)、1132(λ=8.00nm)となる。
【0038】
なお、λ=3.50nmにおける分解能(λ/Δλ=285)は充分に高く、実用的であるが、他の波長に比して悪いのは、
図5においてG
2(λ
22:3.54nm)の結像位置が結像面(y=−233.5mm)からわずかに外れていることに起因する。一方、当該波長域ではG
2と対応波長が一部重複するG
3を使用することもできる。その場合、G
3を使用する方がG
2より高分解能となる。しかしながら、
図2に示したように、G
3のスループットはG
2より小さくなる。したがって、スループットが必要な場合にはG
2を、分解能が必要な場合にはG
3を、それぞれ用途に応じて適宜切り替えて使い分ければよい。このように、G
1〜G
nの対応波長範囲を部分的に重複させることにより、目的に応じて不等間隔溝凹面回折格子を選択する構成とすることもできる。
【0039】
以上の結果より、実際に製造される不等間隔溝凹面回折格子において残留する収差を考慮した場合においても、上記の分光装置によって、広い波長範囲にわたり高出力、高分解能で単色光を取り出すことが可能となることがわかる。
【0040】
次に、実際にG
1〜G
3を切り替えて使用する分光装置の構成について説明する。この分光装置においては、複数の不等間隔溝凹面回折格子の中から一つの不等間隔溝回折格子を選択し、入射光が照射され、回折光(出射光)が取り出される位置に設置する切換手段が用いられる。この際、各不等間隔溝回折格子の格子面の中心を通る法線(
図1におけるx軸)は共通とされる。ただし、各不等間隔溝回折格子の格子面の中心のx軸方向の高さは異なる。この高さは、長波長に対応する不等間隔溝凹面回折格子ほど低く、短波長に対応する不等間隔溝凹面回折格子ほど高く設定される。
【0041】
図9は、第1の例として、G
1〜G
3をy軸方向に並進移動させることによって切換を行う分光装置500の構成を示す図である。
図9における上側はG
1が選択された場合の構成を示し、下側はG
2が選択された場合の構成を示す。光源20は図中の左側の図示されない箇所、像面30は図中の右側の図示されない箇所に存在するものとする。また、座標軸(x、y、z)は右手系とする。
【0042】
この分光装置500においては、不等間隔溝凹面回折格子G
1〜G
3が、移動台(切換手段)510上に水平方向(
図1におけるy軸方向)に配列して設置される。入射光100は光源20から回折格子へ向かい、回折光200は回折格子から像面30へ向かう。移動台510が水平方向(
図1におけるy軸方向)に移動することによって、G
1〜G
3が切り替えられる。この設定においては、最も右側の位置が、使用される不等間隔溝凹面回折格子の位置とされる。使用する不等間隔溝凹面回折格子がこの位置に移動される際、G
1〜G
3の回折格子中心における格子面の法線が共通となるように設定される。ただし、回折格子中心のこの法線方向(x軸方向)における位置はG
1〜G
3で異なり、G
1でΔ
1(=0)、G
2でΔ
2(Δ
2>Δ
1)、G
3でΔ
3(Δ
3>Δ
2)とされる。上述したように、G
1〜G
3の切り替えに伴ってΔ
1〜Δ
3が変化し、結果的に入射角が切り替わる。
【0043】
図9の構成においては、G
1〜G
3を
図1におけるy軸方向に配列、移動したが、
図10に示されるように、これと直角な方向(z軸方向)にG
1〜G
3を並進移動させることもできる(第1の例の変形例)。ここでは、
図1における出射側(右側)から入射側(左側)を見た構成が示されており、入射光、回折光は示されていないが、これらの光は紙面の向こう側から手前側に向かう。
図10においては、上側にG
1が選択された場合、下側にG
2が選択された場合の構成を示している。
【0044】
この構成の場合には、G
1〜G
3のうち選択されたもの以外は光路周辺に存在しないため、G
1〜G
3の並進移動に必要となる治具の影響や、隣接する不等間隔溝凹面回折格子からの迷光を抑制することがより容易となる。そのため、移動台510の移動機構も小型で単純にすることができる。
【0045】
図11は、第2の例として、G
1〜G
3を鉛直方向(x軸方向)に移動させることによって切換を行う分光装置600の構成を示す図である。この分光装置600においては、不等間隔溝凹面回折格子G
1〜G
3が、これらの側面において移動台(切換手段)610に鉛直方向に配列して設置される。
図11における左側はG
1が選択された場合の構成を示し、右側はG
2が選択された場合の構成を示す。入射光100は光源20から回折格子へ向かい、回折光200は回折格子から像面30へ向かう。移動台610がx軸方向に移動することによって、G
1〜G
3が切り替えられる。この際、G
1〜G
3の回折格子中心における格子面の法線が共通となるように設定され、回折格子中心の法線方向における位置は、G
1でΔ
1(=0)、G
2でΔ
2(Δ
2>Δ
1)、G
3でΔ
3(Δ
3>Δ
2)とされる。上述したように、G
1〜G
3の切り替えに伴ってΔ
1〜Δ
3が変化し、結果的に入射角が切り替わる。
【0046】
入射光100及び回折光200が、選択された不等間隔溝凹面回折格子(
図11中左側ではG
1、右側ではG
2)の直上に存在する不等間隔溝凹面回折格子によって遮られる可能性を低減する構成とするためには、入射角αが最も小さな(90°から離れている)G
1を最上段に、入射角αが最も大きな(90°に近い)G
3を最下段とすることが好ましい。この場合、G
3の上面とG
2の下面との間隔D
23は、G
2の上面とG
1の下面との間隔D
12よりも小さくすることができ、結果的に移動台610を小型化できる。
【0047】
また、
図11の構成において、x軸方向の並進移動の誤差は入射光100の入射角の誤差に直結するため、G
1〜G
3を切り替える際には、選択されたG
1〜G
3をストッパで正確に所定の位置に固定する必要がある。その例として、
図11においてはG
1〜G
3の右端部に段差が設けられており、この段差における低い部分をストッパで係止させることによって、G
1〜G
3の各々をΔが考慮された所定の位置に固定できるようにしている。
【0048】
使用する不等間隔溝凹面回折格子の数が上記よりも多い場合に同様の構成を用いる場合には、各回折格子の格子面の中心を通る法線が共通となり、全ての回折面は一様に上方向を向くように移動台610を用いて積層して固定する。この際、移動台610はこの法線方向に移動するように設定する。また、この積層構造において、対応波長範囲は上方向に向かって長くなるように設定し、かつ隣接する2つの回折格子間の上下方向に沿った間隔が、上方向に向かって長くなるようにすれば、より多くの回折格子を積層したとしても移動台610を小型化できる。
【0049】
図12は、第3の例として、G
1〜G
3を回転中心Rを中心に回転させて切換を行う分光装置700の構成を示す図である。この分光装置700においては、G
1〜G
3が、回転中心Rを通り
図1におけるz軸に平行な回転軸を中心にした回転をする回転台(切換手段)710の円周上の異なる位置に配列して設置される。
図12における上側はG
1が選択された場合の構成を示し、下側はG
2が選択された場合の構成を示す。入射光100は光源20から回折格子へ向かい、回折光200は回折格子から像面30へ向かう。回転台710が回転することによって、G
1〜G
3が切り替えられる。この際、G
1〜G
3の回折格子中心における格子面の法線が共通となるように設定され、回折格子中心のこの法線方向における位置は、G
1でΔ
1(=0)、G
2でΔ
2(Δ
2>Δ
1)、G
3でΔ
3(Δ
3>Δ
2)とされ、G
1〜G
3の切り替えに付随して対応する入射角に切り替わる。
【0050】
図12の構成に対して、
図13の構成は、回転軸を
図1におけるy軸に平行な構成とし、その周囲にG
1〜G
3を配列した構成である(第3の例の変形例)。この場合、G
1〜G
3は
図13において回転中心Rの回りにy軸方向を回転軸として回転移動する。
図12の構成の場合においては、回転の角度の設定に誤差が存在する場合、その誤差が入射光100の入射角の誤差に直結するのに対し、
図13の構成の場合には、その誤差が入射角に対して与える影響は極めて小さくなる。また、円周上に配列された不等間隔溝凹面回折格子の数が多い場合には、
図12の構成においては、光路(入射光や回折光)が、選択された回折格子と隣接する回折格子の影響を受ける場合もあるが、
図13の構成においては、
図10の構成と同様にこの影響も低減される。
【0051】
第1の例の変形例(
図10)、第3の例の変形例(
図13)においては、切換手段は、入射光100と回折光200を含む平面内と垂直な方向にG
1〜G
3を移動させることによってそのうちの一つが選択される。この際、第1の例の変形例においてはこの移動は並進移動であり、第3の例の変形例においてはこの移動は回転移動となる。これらの構成においては、前記の通り、選択された不等間隔溝凹面回折格子と隣接する不等間隔溝凹面回折格子の光路に与える影響を低減することができる。
【0052】
一方、入射光100と回折光200を含む平面内でG
1〜G
3を移動させる第1の例(
図9)、第3の例(
図12)においては、光路に垂直な方向における分光装置のサイズを小さくすることができる。
【0053】
上記の例では、3種類の不等間隔溝凹面回折格子を用いた場合につき説明したが、この数は任意である。また、上記においては不等間隔溝凹面回折格子が用いられたが、平面形状の不等間隔溝回折格子を用いた場合(表1におけるR=∞の場合)についても、同様の効果を奏することは明らかである。
【0054】
また、切換手段として、水平方向(y軸方向またはz軸方向)の移動機構、鉛直方向(x軸方向)の移動機構、y軸またはz軸に平行な回転中心Rを回転軸とする回転機構を用いたものについて説明したが、これらを適宜組み合わせる、あるいはこれらと異なる機構を用いた場合であっても、上記と同様の位置関係を各々の不等間隔溝回折格子において実現できる限りにおいて、切換手段の構成は任意である。
【0055】
図2に示したように、上記の分光装置は、不等間隔回折格子が用いられる限りにおいて、波長によらず有効である。しかしながら、入射角αが90°に近い領域で用いられる軟X線領域(0.5〜25nmの波長)用の分光装置として特に有効である。
【0056】
また、軟X線領域で使用する不等間隔溝回折格子の格子面(回折格子表面)を構成する材料は目的に応じて任意である。例えば、高い反射率を示す金、プラチナ、ニッケル等の単層の蒸着膜が有効である。また、特定の波長範囲において特に高い反射率をもつ多層膜構造を用いることもできる。その場合、0.56nmより短波長側(2200eVより高エネルギー側)をカバーできる分光装置も得ることができる。