【実施例】
【0032】
次に、本発明の実施例について説明する。
【0033】
1.塗膜原料
1.1 ポリエステル樹脂水分散体
ポリエステル樹脂水分散体としては、スルホン酸ナトリウム基含有飽和ポリエステル水分散体を用いた。スルホン酸ナトリウム基含有飽和ポリエステル水分散体としては、ペスレジンA(高松油脂株式会社製)、バイロナールMD(東洋紡績株式会社製)、ポリエスターWR(日本合成化学工業株式会社製)、プラスコートZ(互応化学工業株式会社製)およびポリエチレンナフタレート(PEN)骨格ポリエステル水分散体を用いた。
【0034】
1.2 芳香族アミン
芳香族アミンとしては、
キノリン(以後、適宜、「Q」と称する)、
イソキノリン(以後、適宜、「IQ」と称する)、
2−メチルキノリン(以後、適宜、「MQ」と称する)、
ベンゾ[h]キノリン(以後、適宜、「BQ」と称する)、
6−キノリンカルボン酸メチル(以後、適宜、「MQC」と称する)、
4−(3−フェニルプロピル)ピリジン(以後、適宜、「PPP」と称する)、
4−フェノキシピリジン(以後、適宜、「PoP」と称する)、
4−ベンゾイルピリジン(以後、適宜、「BP」と称する)、
ニコチン酸フェニル(以後、適宜、「PN」と称する)、
2,2’−ビピリジン(以後、適宜、「bpy」と称する)、
4,4’−ビピリジル(以後、適宜、「4bpy」と称する)、
1,10−フェナントロリン一水和物(以後、適宜、「PhT」と称する)、
1,3−ジ(4−ピリジル)プロパン(以後、適宜、「DPP」と称する)、
ニコチン酸メチル(以後、適宜、「MN」と称する)、
イソニコチン酸エチル(以後、適宜、「EIN」と称する)、
2−フェニルイミダゾール(以後、適宜、「PI」と称する)、
ベンゾイミダゾール(以後、適宜、「BI」と称する)、
1−フェニルピペラジン(以後、適宜、「PhP」と称する)、および
1,2−フェニレンジアミン(以後、適宜、「PhDA」と称する)を用いた。
【0035】
また、比較として、非芳香族アミンに属する
トリエチルアミン(以後、適宜、「TEA」と称する)、
N,N’−ジメチルピペラジン(以後、適宜、「DMP」と称する)、
1−エチルピペラジン(以後、適宜、「EP」と称する)、
ピペラジン無水物(以後、適宜、「PA」と称する)、
1−ピペラジンエタノール(以後、適宜、「PE」と称する)、
N−エチルモルホリン(以後、適宜、「EM」と称する)、および
アセチルアセトン(以後、適宜、「AA」と称する)を用いた。
【0036】
1.3 有機溶剤
有機溶剤には、安息香酸メチルの他、ベンジルアルコールと1−プロパノールの混合有機溶剤も用いた。
【0037】
1.4 水
水には、蒸留水を用いた。
【0038】
2.評価方法
2.1 透明性
目視にて、透明度の高い順に、「透明」、「半透明」および「不透明」の3段階の評価を行った。
2.2 膜厚
膜厚は、マイクロメータ(株式会社ミツトヨ製)を用いて測定した。
2.3 硬度評価
JIS K5600に準拠し、鉛筆硬度試験により塗膜の硬度を評価した。
2.4 平滑性
目視にて、平滑性の高い順に、「光沢有」および「光沢なし」の2段階の評価を行った。
2.5 密着性評価
JIS K5600に準拠し、碁盤目試験(クロスカット法)により、塗膜の密着性を評価した。
2.6 被膜状態評価
Mg合金(AZ31)、Al、Ti、Fe、Ni、Cu、Mo、Ag、Sn、Cr、Pt、AuおよびZnの各種基板から選択された1以上の基板に成膜後、被膜の状態を目視にて観察し、水性溶解しやすいかどうか、透明性、色、ピンホールの有無および多少、クラックの有無、剥離の有無、気泡の有無および多少などを評価した。
2.7 耐温水性
製膜試料を、60℃の温水に24時間浸漬後、膜の外観が変化するか否かを調べた。
【0039】
3.実験1
上記19種の芳香族アミン、上記7種の非芳香族アミンをそれぞれ用いて水性電析材料を作製し、製膜の可否と製膜後の評価とを行った。また、芳香族アミンおよび非芳香族アミンなどの配位子を全く加えずに作製した水性電析材料も作製し、製膜および評価に用いた(実施例1〜19、比較例1〜7)。
【0040】
3.1 水性電析材料の作製条件
ポリエステル樹脂水分散体中の樹脂固形分が水性電析材料に対して21〜23wt%となる量のペスレジンAと、水性電析材料に対して0〜3.8wt%の芳香族アミン若しくは非芳香族アミンと、水性電析材料に対して2.6〜3.4wt%の安息香酸メチルと、残部を占める水とを混合して、各種の水性電析材料を作製した。
【0041】
3.2 製膜条件
各水性電析材料を水槽に入れて、そこに陽極と陰極を挿入して所定印加電圧の下、製膜を実施した。陽極の材料には、アルミニウム(Al)および銅(Cu)の2種類の金属を用いた。陰極の材料には、各実施例および各比較例ともに、SUS304を用いた。陽極と陰極間の印加電圧(CV)は30Vとした。製膜は、液温を25℃に保持し、攪拌しながら、1分間行った。電析終了後、陽極を水槽から引き上げ、陽極を80℃または100℃にて30分間乾燥した。
【0042】
3.3 結果
表1に、実験1の製膜条件および被膜の評価を示す。表中、被膜状態の項目におけるカッコ内の数値は、膜厚(単位:μm)を示し、以後の表においても同様である。また、表中、配位子の項目におけるバー(−)は、配合していないことを意味する。
【0043】
【表1】
【0044】
表1に示すように、芳香族アミンを用いて作製した水性電析材料(実施例1〜19)は、AlまたはCuの少なくともいずれか1種の陽極にて、透明性および硬度に優れる(H以上)被膜を形成した。一方、非芳香族アミンを用いて作製した水性電析材料(比較例2〜7)と、芳香族アミンも非芳香族アミンも用いないで作製した水性電析材料(比較例1)は、AlおよびCuのいずれを陽極とした場合でも透明な被膜を形成せず、かつ硬度の評価が可能なサンプルであっても低硬度(B、および6B以下)であった。
【0045】
4.実験2
ペスレジンAの固形分濃度を実験1の条件よりも低くするとともに、有機溶媒の種類を実験1から変更した。芳香族アミンとして2,2’−ビピリジン、1,2−フェニレンジアミンおよびベンゾイミダゾールをそれぞれ用いて水性電析材料を作製するとともに、非芳香族アミンとしてアセチルアセトンを用いて水性電析材料を作製し、製膜の可否と製膜後の評価とを行った。また、配位子を全く用いないで作製した水性電析材料も作製し、製膜および評価に用いた(実施例20〜22、比較例8,9)。
【0046】
4.1 水性電析材料の作製条件
ポリエステル樹脂水分散体中の樹脂固形分が水性電析材料に対して10wt%となる量のペスレジンAと、水性電析材料に対して2.8wt%の芳香族アミン若しくは非芳香族アミンと、水性電析材料に対して2.1wt%のベンジルアルコールと6.9wt%の1−プロパノールの混合溶媒と、残部を占める水とを混合して、各種の水性電析材料を作製した。
【0047】
4.2 製膜条件
各水性電析材料を水槽に入れて、そこに陽極と陰極を挿入して所定印加電圧の下、製膜を実施した。陽極の材料には、アルミニウム(Al)、銅(Cu)および鉄(Fe)の3種類の金属を用いた。陰極の材料には、各実施例および各比較例ともに、SUS304を用いた。陽極と陰極間の印加電圧(CV)は30Vとした。製膜は、液温を25℃に保持し、攪拌しながら、1分間行った。電析終了後、陽極を水槽から引き上げ、陽極を80℃または100℃にて30分間乾燥した。
【0048】
4.3 結果
表2に、実験2の製膜条件および被膜の評価を示す。表中、平滑性、表面硬度および密着性の各項目におけるカッコ内の文字は、各評価に供した陽極の種類を意味し、以後の表においても同様である。また、表中、配位子の項目におけるバー(−)は配合していないことを、平滑性、表面硬度および密着性の各項目におけるバー(−)は評価不可であることを、それぞれ意味する。
【0049】
【表2】
【0050】
表2に示すように、ポリエステル樹脂水分散体中の樹脂固形分が低くても、芳香族アミンを用いて作製した水性電析材料(実施例20〜22)は、Al、CuおよびFeのいずれの陽極においても、透明性に優れる被膜を形成した。また、被膜は、光沢性に優れており、鉛筆硬度がH以上の硬度を有していた。さらに、膜と陽極との密着性も、クロスカット法にて分類0に属するほどに良好であった。一方、非芳香族アミンを用いて作製した水性電析材料(比較例9)と、芳香族アミンも非芳香族アミンも用いないで作製した水性電析材料(比較例8)は、Al、CuおよびFeのいずれを陽極とした場合でも透明な被膜を形成しなかった。また、被膜状態が悪く、その結果、比較例8,9において、膜の評価はできなかった。
【0051】
5.実験3
ペスレジンAの固形分濃度を実験2と同一とし、芳香族アミンに2,2’−ビピリジンを用いて、加温工程における乾燥温度を変化させたときの膜の特性を調べた(実施例23〜27)。
【0052】
5.1 水性電析材料の作製条件
ポリエステル樹脂水分散体中の樹脂固形分が水性電析材料に対して10wt%となる量のペスレジンAと、水性電析材料に対して2.8wt%の2,2’−ビピリジンと、水性電析材料に対して2.1wt%のベンジルアルコールと6.9wt%の1−プロパノールの混合溶媒と、残部を占める水とを混合して、各種の水性電析材料を作製した。
【0053】
5.2 製膜条件
各水性電析材料を水槽に入れて、そこに陽極と陰極を挿入して所定印加電圧の下、製膜を実施した。陽極の材料には、銅(Cu)を用いた。陰極の材料にはSUS304を用いた。陽極と陰極間の印加電圧(CV)は30Vとした。製膜は、液温を25℃に保持し、攪拌しながら、1分間行った。電析終了後、各条件で製膜した陽極を水槽から引き上げ、各陽極を40〜180℃の範囲にて30分間乾燥した。
【0054】
5.3 結果
表3に、実験3の製膜条件および被膜の評価を示す。
【0055】
【表3】
【0056】
表3に示すように、40〜180℃の範囲のいずれの温度でも、透明性に優れる被膜が得られた。膜の硬度は、乾燥温度が40℃では比較的低いものの(硬度:F)、乾燥温度が60℃以上になると、十分に高い硬度(硬度:2H以上)を持つ膜が得られた。
【0057】
6.実験4
ポリエステル樹脂水分散体の種類を変え、その固形分濃度を実験2と同一とし、芳香族アミンに2,2’−ビピリジンを用いて、乾燥温度を80℃若しくは100℃としたときの膜の特性を調べた(実施例28〜32)。
【0058】
6.1 水性電析材料の作製条件
ポリエステル樹脂水分散体中の樹脂固形分が水性電析材料に対して10wt%となる量のペスレジンA、バイロナールMD、プラスコートZ、ポリエスターWRおよびPEN骨格ポリエステル水分散体それぞれに、水性電析材料に対して2.8wt%の2,2’−ビピリジン、水性電析材料に対して2.1wt%のベンジルアルコールと6.9wt%の1−プロパノールの混合溶媒、残部を占める水を混合して、各種の水性電析材料を作製した。
【0059】
6.2 製膜条件
各水性電析材料を水槽に入れて、そこに陽極と陰極を挿入して所定印加電圧の下、製膜を実施した。陽極の材料には、アルミニウム(Al)を用いた。陰極の材料にはSUS304を用いた。陽極と陰極間の印加電圧(CV)は30Vとした。製膜は、液温を25℃に保持し、攪拌しながら、1分間行った。電析終了後、各条件で製膜した陽極を水槽から引き上げ、各陽極を80℃または100℃にて30分間乾燥した。
【0060】
6.3 結果
表4に、実験4の製膜条件および被膜の評価を示す。
【0061】
【表4】
【0062】
表4に示すように、いずれのポリエステル樹脂水分散体を用いても、透明性、平滑性、硬度および密着性に優れる膜が得られた。特に、ポリエステル樹脂水分散体として、ペスレジンAおよびPEN骨格ポリエステル水分散体を用いると、耐温水性により優れた膜が得られた。
【0063】
7.実験5
塗膜の被着体である基板の種類を増やして、各塗膜の透明性および平滑性を評価した(実施例33〜42、比較例10〜22)。
【0064】
7.1 水性電析材料の作製条件
ポリエステル樹脂水分散体、芳香族アミン、有機溶媒および水を、実験3と同じ条件とした。比較として、非芳香族アミンであるトリエチルアミン2.1wt%を用いて製膜および評価を行った。
【0065】
7.2 製膜条件
上記水性電析材料を水槽に入れて、そこに陽極と陰極を挿入して所定印加電圧の下、製膜を実施した。陽極の材料には、Mg合金AZ31、アルミニウム(Al)、チタニウム(Ti)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、モリブデン(Mo)、銀(Ag)、スズ(Sn)、クロミウム(Cr)、白金(Pt)および金(Au)を用いた。陰極の材料にはSUS304を用いた。陽極と陰極間の印加電圧(CV)は30Vまたは10Vとし、通電時間を1分間とした。製膜は、液温を25℃に保持し、攪拌しながら、1分間行った。電析終了後、各条件で製膜した陽極を水槽から引き上げ、各陽極を80℃にて30分間乾燥した。
【0066】
7.3 結果
表5に、実験5の製膜条件および被膜の評価を示す。比較として、実施例20も示す。
【0067】
【表5】
【0068】
表5に示すように、2,2’−ビピリジンを用いた実施例では、用いた全ての基板に対して透明で、かつ光沢のある塗膜が得られた。これに対して、トリエチルアミンを用いた比較例では、用いた全ての基板に対して、被膜状態が悪く、かつ光沢のない塗膜しか得られなかった。