(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
六フッ化硫黄と酸素との混合ガスの代わりに、四フッ化炭素またはトリフルオロメタンと酸素との混合ガスを使用する請求項1から4のいずれかに記載の成形型の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1は、本発明の一実施形態による成形型の製造方法を示す流れ図である。本製造方法においては、最初に反応性イオンエッチングによって基材の表面に微細凹凸構造を形成し、次に上記のように形成した微細凹凸構造をイオンビームエッチングによってさらに加工する。
図1の流れ図は、反射防止構造用の成形型を製造する場合を説明するものである。
【0024】
図1のステップS1010において、反応性イオンエッチングの加工条件を定める。反応性イオンエッチングの加工条件については後で詳細に説明する。
【0025】
図1のステップS1020において、基材に反応性イオンエッチングを実施する。
【0026】
図2は、表面に微細凹凸構造を備えた成形型の製造に使用される反応性イオンエッチング装置200の構成を示す図である。反応性イオンエッチング装置200は、容器201を有する。真空排気された容器201には、ガス供給口207からガスが供給される。さらに、容器201には、ガス排気口209が設けられ、ガス排気口209には、図示しないバルブが取り付けられている。バルブを操作することにより、容器201内のガス圧力を所望の圧力値とすることができる。容器201には、上部電極203及び下部電極205が備わり、両電極間に高周波電源211により高周波電圧をかけてプラズマを発生させることができる。下部電極205には、基材の基板101が配置される。下部電極205は、冷却装置213によって所望の温度に冷却することができる。冷却装置213は、たとえば、冷却に水冷式チラーを使用するものである。下部電極205を冷却するのは、基板101の温度を所望の温度とすることによりエッチング反応を制御するためである。
【0027】
図2を使用して説明した反応性イオンエッチング装置は、容量結合型イオンエッチング装置であるが、他のタイプのイオンエッチング装置、たとえば、誘導結合型イオンエッチング装置を使用してもよい。
【0028】
ここで、容器201に供給されるガスは、六フッ化硫黄と酸素との混合ガスである。また、基材は、六フッ化硫黄と反応する半導体または金属である。
【0029】
図3は、反応性イオンエッチング装置200内における、反応性イオンエッチングによる微細凹凸構造の形成を説明するための流れ図である。
【0030】
図3のステップS2010において、プラズマドライエッチングを実施するように、高周波電圧をかけることにより、混合ガスがプラズマ化される。
【0031】
図3のステップS2020において、プラズマ中の酸素イオンと、フッ素系ガス(六フッ化硫黄)に反応した基材の金属または半導体イオンとが結合し、酸化物として基材表面のランダムな位置に付着する。上記の酸化物は、六フッ化硫黄でほとんどエッチングされず、エッチング防止マスクとして機能する。
【0032】
図3のステップS2030において、基材表面に付着した上記の酸化物をエッチング防止マスクとして六フッ化硫黄によって基材表面の酸化物に覆われていない部分のエッチングが進行する。この結果、基材表面に微細凹凸構造が形成される。
【0033】
使用するガスは、上述のように、六フッ化硫黄(SF
6)と酸素との混合ガスである。
【0034】
基材は、六フッ化硫黄と反応する、半導体、金属である。具体的には、シリコン、チタン、タングステン、タンタル、チタンに他の元素を添加したチタン合金、タングステンに他の元素を添加したタングステン合金などである。
【0035】
図4は、平面に微細凹凸構造を備えた成形型を製造する方法を説明するための図である。
【0036】
図4(a)は、エッチング前の基材からなる基板の断面を示す図である。基材は、一例としてシリコンである。
【0037】
図4(b)は、基材からなる基板の表面に反応性イオンエッチング装置を使用して微細凹凸構造を形成したものの断面を示す図である。なお、
図4(b)において、わかりやすくするために、基板の寸法と比較して微細凹凸構造の寸法を拡大して記載している。
【0038】
図4(c)及び
図4(d)については後で説明する。
【0039】
図5は、曲面に微細凹凸構造を備えた成形型を製造する方法を説明するための図である。
【0040】
図5(a)は、曲面を形成した成形型のコアを示す図である。コアの材料は、一例としてステンレス鋼である。
【0041】
図5(b)は、コアの曲面に基材からなる膜を形成したものを示す図である。基材は、一例としてシリコンである。
【0042】
図5(c)は、膜の表面に反応性イオンエッチング装置を使用して微細凹凸構造を形成したものの断面を示す図である。なお、
図5(c)において、わかりやすくするために、膜の寸法と比較して微細凹凸構造の寸法を拡大して記載している。
【0044】
図1のステップS1030において、表面に微細凹凸構造を備えた対象物の反射率及び微細凹凸構造の形状を評価する。形状の評価は、たとえば、走査型電子顕微鏡を使用して行う。
【0045】
図1のステップS1040において、反射率及び形状が適切であるかどうか判断する。適切であれば、ステップS1050に進む。適切でなければ、ステップS1045に進む。
【0046】
図1のステップS1045において、反応性イオンエッチングの加工条件を修正する。
【0047】
図1のステップS1050において、イオンビームエッチングの加工条件を定める。イオンビームエッチングの加工条件については後で詳細に説明する。
【0048】
図1のステップS1060において、微細凹凸構造を備えた対象物にイオンビームエッチングを実施する。
【0049】
図6は、表面に微細凹凸構造を備えた成形型の製造に使用されるイオンビームエッチング装置300の構成を示す図である。イオンビームエッチング装置300は、容器301を有する。真空排気された容器301には、ガス供給口303からガスが供給される。さらに、容器301には、ガス排気口304が設けられ、ガス排気口304には、図示しないバルブが取り付けられている。バルブを操作することにより、容器301内のガス圧力を所望の圧力値とすることができる。なお、高周波電源211の周波数は、2.45ギガヘルツ(GHz)の高周波電源305によって容器301内のガスに電力を供給することによりプラズマを発生させる。プラズマのイオンの密度が適切な値となるように、ガス流量、ガス圧力及び高周波電力を調整する。容器301のある部分の外側にはマグネットコイル307が備わる。マグネットコイル307によって磁場を生成させてプラズマ分布を制御し、イオン密度及びイオン分布(均一度)を調整する。加速電極板309は、正の電位を与えられ、プラズマ内のイオンを、ステージ313に取り付けられた加工対象物101に向けて移動させるように機能する。エクストラクター電極板311は、負の電位を与えられ、プラズマ内への電子の流入を抑制するように機能する。このようにしてイオンビームがステージ313に取り付けられた加工対象物101に向けられる。
【0050】
図7は、加工対象物101を取り付けるステージ313の動作を説明するための図である。ステージ313は、加工対象物101を取り付ける面に垂直な軸の周りに回転するように構成されている。また、該軸は、
図6に示すイオンビームの方向に対して可変の角度θで傾斜させることができるように構成されている。
【0051】
図7(a)は、該軸とイオンビームの方向が一致している場合、すなわち、角度θが0である場合を示す図である。
【0052】
図7(b)は、該軸が、イオンビームの方向に対して、0ではない角度θで傾斜している場合を示す図である。
【0053】
図8は、微細凹凸構造の凸部の長手方向とイオンビームの方向が一致している場合のイオンビームの微細凹凸構造の凸部に対する作用を説明するための図である。
図1のステップS1020に示す反応性イオンエッチングプロセスにおいて、微細凹凸構造の凸部は基板または膜の面にほぼ垂直に形成される。したがって、
図8の場合は、ステージの軸とイオンビームの方向が一致している
図7(a)の場合に対応する。
【0054】
図8(a)は、イオンビームによる加工を開始した際の微細凹凸構造の凸部の形状を示す図であり、
図8(b)は、イオンビームによる加工を終了した後の微細凹凸構造の凸部の形状を示す図である。基板または膜の面に衝突したイオンにより、スパッタが生じ基材の粒子が、凸部の側面に付着する。したがって、微細凹凸構造の凸部がイオンビームを受ける時間にしたがって、凸部の径は大きくなる。また、凸部の下部の方が上部よりも多くの粒子を受けるので凸部の下部の径が凸部の上部の径よりも大きくなる。イオンビームエッチングにおいて、微細凹凸構造の凸部のエッチングレイトは、凹部のエッチングレイトより大きいので、格子深さはわずかに浅くなる。
【0055】
図9は、イオンビームの方向が微細凹凸構造の凸部の長手方向に対して角度θを有する場合のイオンビームの微細凹凸構造の凸部に対する作用を説明するための図である。
図9の場合は、ステージの軸が、イオンビームの方向に対して、θの角度で傾斜している
図7(b)の場合に対応する。
【0056】
図9(a)は、イオンビームによる加工を開始した際の微細凹凸構造の凸部の形状を示す図であり、
図9(b)は、イオンビームによる加工を終了した後の微細凹凸構造の凸部の形状を示す図である。イオンビームの方向が微細凹凸構造の凸部の長手方向に対して角度θを有するので、イオンビームによって凸部の先端が削られて凸部の先端は錘状、または尖った形状となる。
図8の場合と同様に、基板または膜の面に衝突したイオンによるスパッタも生じるが、イオンビームの方向が微細凹凸構造の凸部の長手方向に対して角度θを有するので、
図8の場合と比較して、凸部の側面に付着する機材の粒子の量は少ない。したがって、凸部の径の増加は、
図8の場合と比較して小さい。
【0057】
このように、イオンビームエッチングの加工条件として、イオンビームを照射する時間及びイオンビームの角度θを変化させることにより、微細凹凸構造の凸部の形状を変化させることができる。微細凹凸構造の凸部の形状は反射率に影響を与えるので、適切なイオンビームエッチングの加工条件を選択して、微細凹凸構造にイオンビームを照射することによって、反射率を低下させるように微細凹凸構造の凸部の形状を変化させることができる。
【0058】
図6を使用して説明したイオンビームエッチング装置は、電子サイクロトロン共鳴(ECR)イオンビームエッチング装置である。代替的に、容量結合型イオンエッチング装置や誘導結合型イオンエッチング装置において、アルゴンなどの不活性ガスを使用してイオンビームを生成させてもよい。
【0059】
図4(c)は、基材からなる基板の表面に形成した、
図4(b)に示す微細凹凸構造にイオンビームを照射して凸部の形状を変化させたものの断面を示す図である。
【0060】
図4(d)は、
図4(c)に示す微細凹凸構造を電鋳により再生した微細凹凸構造の断面を示す図である。
【0061】
図4(c)に示す微細凹凸構造を成形型として使用してもよい。あるいは、
図4(d)に示す微細凹凸構造を成形型として使用してもよい。
【0062】
図5(d)は、膜の表面に形成した微細凹凸構造にイオンビームを照射して凸部の形状を変化させたものの断面を示す図である。
図5(d)に示す微細凹凸構造を成形型として使用する。
【0063】
図1のステップS1070において、表面に微細凹凸構造を備えた成形型の反射率及び微細凹凸構造の形状を評価する。形状の評価は、たとえば、走査型電子顕微鏡を使用して行う。
【0064】
図1のステップS1080において、反射率及び形状が適切であるかどうか判断する。適切であれば、処理を終了する。適切でなければ、ステップS1085に進む。
【0065】
図1のステップS1085において、イオンビームエッチングの加工条件を修正する。
【0066】
図1に示した製造方法において、後で説明するように、微細凹凸構造のピッチ及び深さは、ステップS1020の反応性イオンエッチングの加工条件によって実質的に定まる。
【0067】
ここで、微細凹凸構造のピッチは、原子間力顕微鏡などによって得られた微細凹凸構造の断面における、隣接する凸部間または隣接する凹部間の基材面に平行な方向の距離の平均値である。微細凹凸構造の断面のフーリエ解析により求めてもよい。
【0068】
ここで、微細凹凸構造の深さは、原子間力顕微鏡などによって得られた微細凹凸構造の断面における、隣接する凸部及び凹部間の基材面に垂直な方向の距離の平均値である。
【0069】
さらに、微細凹凸構造の凸部の形状は、上述したように、ステップS1060のイオンビームエッチングの加工条件によって実質的に定まる。
【0070】
反応性イオンエッチングにおいて、微細凹凸構造のピッチ及び深さをどのように変化させるかについて以下に説明する。
【0071】
表1は、反応性イオンエッチング装置200の容器201内のガス圧力(処理圧力)、六フッ化硫黄(SF
6)及び酸素(O
2)の供給量(SF
6、O
2混合比)、高周波電源211の電力(RF電力)及び基板101の冷却温度を含む反応性イオンエッチングの加工条件の一例を示す表である。なお、高周波電源211の周波数は、13.56MHzである。基板101の材料はシリコンである。
【表1】
【0072】
図10は、表1に示した条件における反応性イオンエッチングの処理時間と微細凹凸構造のピッチとの関係を示す図である。
図10の横軸は、反応性イオンエッチングの処理時間を示し、
図10の縦軸は、微細凹凸構造のピッチを示す。時間の単位は秒であり、ピッチの単位はマイクロメータである。
【0073】
図11は、表1に示した条件における反応性イオンエッチングの処理時間と微細凹凸構造の深さとの関係を示す図である。
図11の横軸は、反応性イオンエッチングの処理時間を示し、
図11の縦軸は、微細凹凸構造の深さを示す。時間の単位は秒であり、深さの単位はマイクロメータである。
【0074】
図10及び
図11によれば、微細凹凸構造のピッチ及び深さは、反応性イオンエッチングの処理時間にしたがって増加する。
【0075】
表2は、反応性イオンエッチング装置200の容器201内のガス圧力(処理圧力)、六フッ化硫黄(SF
6)及び酸素(O
2)の供給量(SF
6、O
2混合比)、及び基板101の冷却温度を含む反応性イオンエッチングの加工条件の他の例を示す表である。基板101の材料はシリコンである。
【表2】
【0076】
図12は、表2のエッチング条件を維持して、高周波電源211の電力を100ワット及び200ワットとした場合の反応性イオンエッチングの処理時間と微細凹凸構造のピッチとの関係を示す図である。
図12の横軸は、反応性イオンエッチングの処理時間を表し、
図12の縦軸は微細凹凸構造のピッチを表す。時間の単位は分であり、ピッチの単位はマイクロメータである。
【0077】
図13は、表2のエッチング条件を維持して、高周波電源211の電力を100ワット及び200ワットとした場合の反応性イオンエッチングの処理時間と微細凹凸構造の深さとの関係を示す図である。
図13の横軸は、反応性イオンエッチングの処理時間を表し、
図13の縦軸は微細凹凸構造の深さを表す。時間の単位は分であり、深さの単位はマイクロメータである。
【0078】
図12及び
図13によれば、微細凹凸構造のピッチ及び深さは、反応性イオンエッチングの処理時間にしたがって増加し、高周波電源211の電力にしたがって増加する。
【0079】
図10乃至
図13によれば、反応性イオンエッチングの処理時間及び高周波電源211の電力を適切に定めることにより、0.08マイクロメータから3マイクロメータのピッチ、及び0.1マイクロメータから2.8マイクロメータの深さの微細凹凸構造を製造することができる。
【0080】
表3は、反応性イオンエッチング装置200の容器201内のガス圧力(処理圧力)、六フッ化硫黄(SF
6)及び酸素(O
2)の供給量(SF
6、O
2混合比)、及び基板101の冷却温度の他の例を示す表である。基板101の材料はシリコンである。
【表3】
【0081】
表3の加工条件によって得られた微細凹凸構造3のピッチは、18.0マイクロメータであり、深さは6.0マイクロメータである。
【0082】
図14は、異なる角度のイオンビームのイオンビームエッチングによって得られた微細凹凸構造の形状を示す写真である。イオンビームの角度θは、
図7を使用して説明した角度である。イオンビームエッチングの処理時間は10分である。
【0083】
図14(a)は、角度θが0度の場合を示す走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【0084】
図14(b)は、角度θが10度の場合を示すSEM写真である。
【0085】
図14(c)は、角度θが15度の場合を示すSEM写真である。
【0086】
図14(d)は、角度θが20度の場合を示すSEM写真である。上記において、角度θが0度から20度の場合について記載したが、所望の形状によっては、角度θとして45度までの値を採用してもよい。
【0087】
図15は、イオンビームの角度θを15度として、異なるイオンビームエッチングの処理時間によって得られた微細凹凸構造の形状を示すSEM写真である。
【0088】
図15(a)は、イオンビームエッチングの処理時間が10分の場合を示すSEM写真である。
【0089】
図15(b)は、イオンビームエッチングの処理時間が15分の場合を示すSEM写真である。
【0090】
表4は、
図14及び
図15に示した微細凹凸構造の反応性イオンエッチングの加工条件を示す表である。
【表4】
【0091】
表5は、
図14及び
図15に示す微細凹凸構造を形成した際の、イオンビームエッチングの、イオンビームの角度及び処理時間以外の加工条件を示す表である。なお、高周波電源305の周波数は、2.45ギガヘルツ(GHz)である。
【表5】
【0092】
図14及び
図15に示した微細凹凸構造の反射率及び形状を評価し、イオンビームエッチングの処理時間を10分、イオンビームの角度θを15度と定めた。
【0093】
表6は、このようにして定めたイオンビームエッチングの加工条件を示す表である。
【表6】
【0094】
図16は、表4に示した条件で反応性イオンエッチングを実施して得られた微細凹凸構造、及び該微細凹凸構造に、表6示した条件でイオンビームエッチングを実施して得られた微細凹凸構造を示すSEM写真である。
【0095】
図16(a)は、表4に示した条件で反応性イオンエッチングを実施して得られた微細凹凸構造を示すSEM写真である。
図16(a)に示す微細凹凸構造のピッチは、0.12マイクロメータであり、深さは、0.270マイクロメータである。
【0096】
図16(b)は、
図16(a)に示した微細凹凸構造に、表6に示した条件でイオンビームエッチングを実施して得られた微細凹凸構造を示すSEM写真である。
図16(b)に示す微細凹凸構造のピッチは、0.12マイクロメータであり、深さは、0.265マイクロメータである。
【0097】
図17は、成形型の波長と反射率との関係を示す図である。
図17の横軸は、成形型に入射させる電磁波の波長を示し、
図17の縦軸は、該電磁波の反射率を示す。電磁波は、成形型の面に垂直に入射させた。
図17は、表面に微細構造を備えていない成形型の反射率(
図17において「加工なし」で示す)、反応性イオンエッチングを実施して得られた微細凹凸構造を備えた、
図16(a)に示した成形型の反射率(
図17において「RI」で示す)、
図16(a)に示した成形型にイオンビームエッチングを実施して得られた、
図16(b)に示した成形型の反射率(
図17において「RI+IB」で示す)を示す。400ナノメータから800ナノメータの電磁波に対して、「加工なし」の成形型の反射率は、約33パーセントから約49パーセントであり、「RI」の成形型の反射率は、約9パーセントから約19パーセントであり、「RI+IB」の成形型の反射率は、4パーセント以下である。このように、反応性イオンエッチングを実施して得られた微細凹凸構造は、反射率を低下させ、反応性イオンエッチングを実施して得られた微細凹凸構造にさらにイオンビームエッチングを実施して得られた微細構造は、さらに反射率を低下させる。反応性イオンエッチングを実施して得られた微細凹凸構造にさらにイオンビームエッチングを実施することによって反射率が低下するのは、微細構造の凸部の形状が、柱状から錘状に変化したためと考えられる。このように、本発明の方法によれば、適切な加工条件を設定してイオンビームエッチングを実施することによって、微細構造の凸部を好ましい形状、たとえば錘状に変化させることができる。したがって、本発明の方法は、反応性イオンエッチングのみを実施する方法と比較して有利である。
【0098】
図18は、同一の基板上に形成した「加工なし」の成形型、「RI」の成形型、及び「RI+IB」の成形型の外観を示す写真である。
図18の写真において、「RI+IB」の成形型の部分が最も暗く、反射率が最も低いことがわかる。
【0099】
つぎに、
図16(b)に示した成形型の微細凹凸構造を、ニッケル電鋳により再生して成形型を製造し、射出成形によってポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)の複製品を製造した。
【0100】
図19は、ニッケル電鋳により再生した微細凹凸構造を示すSEM写真である。
【0101】
図20は、
図19に示す成形型による複製品の微細凹凸構造を示すSEM写真である。
【0102】
図21は、複製品の波長と反射率との関係を示す図である。
図21の横軸は、複製品に入射させる電磁波の波長を示し、
図21の縦軸は、該電磁波の反射率を示す。電磁波は、複製品の面に垂直に入射させた。
図21は、表面に微細構造を備えていない成形型を使用した複製品の反射率(
図21において「加工なし」で示す)、反応性イオンエッチングを実施して得られた微細凹凸構造を備えた、
図16(a)に示した成形型を使用した複製品の反射率(
図21において「RI」で示す)、
図19に示した成形型を使用した複製品の反射率(
図21において「RI+IB」で示す)を示す。350ナノメータから1050ナノメータの電磁波に対して、「加工なし」の複製品の反射率は、約3.8パーセントから約4.3パーセントであり、「RI」の複製品の反射率は、約1.4パーセントから約2.9パーセントであり、「RI+IB」の成形型の反射率は、1.5パーセント以下である。このように、複製品においても、反応性イオンエッチングを実施して得られた微細凹凸構造は、反射率を低下させ、反応性イオンエッチングを実施して得られた微細凹凸構造にさらにイオンビームエッチングを実施して得られた微細構造は、さらに反射率を低下させる。
【0103】
上述の実施形態においては、反応性イオンエッチングプロセスにおいて、六フッ化硫黄と酸素の混合ガスを使用した。他の実施形態において、六フッ化硫黄の代わりに四フッ化炭素またはトリフルオロメタンなどのフッ素系ガスを使用することもできる。
【0104】
上述のように本発明の成形型は、可視光以下の波長領域及び赤外域を含む広い波長範囲の光の反射防止用の光学素子の製造に使用することができる。
【0105】
図22は、反射率を低下させたい光の波長と、反射率を低下させる微細凹凸微細構造のピッチとの関係の一例を示す図である。
図22の横軸は、反射率を低下させたい光の波長を表し、
図22の縦軸は、反射率を低下させる微細凹凸微細構造のピッチを表す。
【0106】
たとえば、表3の加工条件によって製造した微細凹凸構造のピッチは、可視光の波長よりも十分に大きい。他方、該微細凹凸構造の隣接する凸部または凹部間の基材面に平行な方向の距離は一定ではなく所定の範囲に分布している。したがって、該微細凹凸構造によって、種々の波長の種々の次数の回折光が生じる。すなわち、表面に該微細凹凸構造を備えた基板は、可視光を拡散させる。このように、本発明の成形型は、光の拡散用の素子の製造に使用することができる。
【0107】
また、本発明の成形型は、反射防止と同様の原理により「艶消し」の目的で使用することができる。
【0108】
また、本発明の成形型によって形成される微細凹凸構造のピッチは一定ではないので、反射回折波が干渉により強めあうことがない。したがって、本発明の成形型によって形成される微細凹凸構造は、反射を少なくするとともに「ソフトな色合い」を生成するために使用することができる。
【0109】
さらに、本発明の成形型は、接着性を有する面を形成するために使用することができる。特に、錘状の凸部の微細凹凸構造を面上に形成することにより、接着剤が付着しやすくなり面の接着性が向上する。
【0110】
さらに、たとえば、切削加工などにより曲面に加工したシリコンの表面に、
図1及び
図4に示す手順で反応性イオンエッチング及びイオンビームエッチングを実施することによって微細凹凸構造を形成し、赤外域用の光学素子を製造することができる。
広い領域のピッチの微細凹凸構造の形状を十分に満足できる程度に調整することのできる成形型の製造方法を提供する。成形型の製造方法であって、反応性イオンエッチング装置内に、六フッ化硫黄と反応する半導体または金属の基材を配置し、六フッ化硫黄と酸素との混合ガスを導入し、プラズマドライエッチングプロセスにおいて、該基材の表面に酸化物を点在させ、該酸化物をエッチング防止マスクとして、六フッ化硫黄によって該基材の表面にエッチングを進行させることにより該基材の表面に、微細凹凸構造を形成し、その後、該微細凹凸構造の凸部の形状を調整するように該微細凹凸構造にイオンビームを照射する。