(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記の特許文献1に記載された技術は、気筒内に既燃ガスを残留させ、それによって圧縮端温度を高めることで、シリンダ壁面を通じての放熱量を増大させようとするものの、冷却水の温度上昇をさらに促進させる上で改良の余地がある。
【0005】
ここに開示する技術は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、特に低中負荷で低回転の運転領域における、エンジン冷却水の昇温をさらに促進させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ここに開示する自動車用エンジンの制御装置は、気筒を有するエンジンと、前記気筒につながる排気ポートの周囲に設けられた冷却水通路と、前記冷却水通路を通過することで受熱をした後の冷却水が供給される車室暖房用のヒーターと、
前記排気ポート下流の排気通路に配置されたタービンと吸気通路に配置されたコンプレッサとを含むターボ過給機と、前記気筒内に燃料を直接噴射するよう構成された燃料噴射弁と、前記気筒と前記排気ポートとの開口に設けられた排気弁を、排気行程及び吸気行程のそれぞれにおいて開弁させる排気の二度開きを行うよう構成された排気二度開き手段と、前記燃料噴射弁及び排気二度開き手段の制御を通じて前記エンジンを運転するよう構成された制御器と、を備える。
【0007】
そして、前記制御器は、前記エンジンの運転状態が、低回転側の運転領域にあるときであって、前記冷却水の温度が所定温度以下のときには、低負荷側
でかつ、前記低回転側の運転領域における所定回転数よりも高回転側の第1領域では、主燃焼に続いて、膨張行程中の後段燃焼が生起するように、主噴射後に後段噴射を実行するよう前記燃料噴射弁を制御すると共に、前記排気二度開き手段によって排気の二度開きを行い、前記第1領域に対して高負荷側に隣接する
領域と、前記低負荷側で前記第1領域に対して低回転側に隣接する、前記所定回転数以下の領域とからなる第2領域では、前記主噴射後に前記後段噴射を実行するよう前記燃料噴射弁を制御すると共に、前記排気二度開き手段による排気の二度開きを停止する。
【0008】
この構成によると、エンジンの運転状態が、低回転側の運転領域であって、低負荷側の第1領域にあるとき、言い換えると冷却水の温度が上がりにくい運転領域において、冷却水の温度が所定温度以下のときには、主噴射の後に後段噴射を実行すると共に、排気の二度開きを実行する。この「所定温度」は、例えば、前記ヒーターを用いて車室内の暖房を行うときに要求される温度としてもよく、具体的には60℃、又は、60℃辺りとしてもよい。後段噴射の実行は、主燃焼に続き、膨張行程において後段燃焼が生起するため、排気ポートから排出される既燃ガスの温度が高くなる。こうして、排気ポートを通過する既燃ガスの温度と、排気ポートの周囲に設けられた冷却水通路を流れる冷却水との温度差が大きくなるため、ここにおいて効率的に熱交換が行われて、冷却水の温度上昇に有利になる。
【0009】
また、エンジンの運転状態が第1領域にあるときには、排気の二度開きを行うことによって、排気ポートに一旦排出された既燃ガスが、再び気筒内に戻される。既燃ガスが戻るときにもまた、排気ポートの周囲に設けられた冷却水通路において熱交換が行われるため、冷却水の温度上昇にさらに有利になる。特に、排気弁のスロート部は、流速が最も高まるため熱交換効率が高くなるが、排気の二度開きによって既燃ガスは、このスロート部を2回通過することになるため、冷却水の温度上昇に極めて有利である。
【0010】
さらに、排気の二度開きによって既燃ガスを気筒内に導入することに伴い、吸気量がその分、減少することになる。このことにより、気筒内の作動ガス量が少なくなるから、燃焼後のガスの温度が、より一層高まる。このこともまた、冷却水の温度上昇に有利になる。
【0011】
前記制御装置は、前記エンジンの排気通路に配置されたタービンと吸気通路に配置されたコンプレッサとを含むターボ過給機をさらに有している。
【0012】
排気の二度開きを実行しているときには、排気エネルギがその分低下するから、ターボ過給機による過給圧は低くなる。このことは、排気の二度開きを実行する第1領域において吸気量を減らすことになるから、前述したように、既燃ガスの温度を高める上で有利になり、冷却水の温度上昇がさらに促進される。
【0013】
一方、第1領域よりもエンジン負荷の高い第2領域においては、燃料噴射量が増大するため、前述の通り排気の二度開きによって吸気量(つまり、新気量)を減少させていたのでは、空気が不足して排気エミッション性能が低下する虞がある。そこで、第2領域においては、主噴射及び後段噴射を実行するものの、排気の二度開きは停止する。このことにより、後段燃焼によって、排気ポートに排出される既燃ガスの温度を高めて冷却水の温度上昇を促進する一方で、排気の二度開きを停止することによって排気エミッション性能が低下することが回避される。
【0014】
こうして、低回転側の領域でかつ、冷却水温度が所定温度以下のときには、冷却水の温度上昇が効果的に促進され、その結果、車室内の暖房要求があったときには、それを早期に満足させることが可能になる。
【0015】
前記エンジンのシリンダヘッド内には、複数の前記気筒の排気ポートを集合させる排気マニホールド部が形成されており、前記冷却水通路は、前記排気マニホールド部の周囲にも設けられている、としてもよい。
【0016】
こうすることで、冷却水は、エンジンの排気側において、既燃ガスの熱をさらに受熱することが可能になるから、前述した後段噴射及び後段燃焼の実行や、排気の二度開きの実行による冷却水の昇温が、さらに促進される。
【0017】
前記排気二度開き手段は、前記エンジンの駆動力によって昇圧される油圧で駆動するよう構成され、前記第1領域において前記排気二度開き手段を作動させるときには、前記油圧が高く設定される一方、前記第2領域において前記排気二度開き手段を停止させるときには、前記油圧が低く設定される、としてもよい。
【0018】
排気二度開き手段の作動時には、油圧を高めるためにエンジンの駆動力を高めなければならず、エンジン負荷の増大に伴い既燃ガスの温度が高まる。このことは、エンジンの運転状態が第1領域にあるときに、冷却水の温度を上昇させる上でさらに有利になる。
【0019】
前記エンジンは、幾何学的圧縮比が16未満に設定された圧縮自己着火エンジンである、としてもよい。
【0020】
幾何学的圧縮比が低く設定された圧縮自己着火エンジンは、そもそも燃焼温度が比較的低く、冷却水の昇温には不利になる。従って、低回転側の第1領域や第2領域における車室内の暖房性能は不利になるところ、前述したように、後段噴射及び後段燃焼の実行や排気の二度開きの実行によって冷却水の昇温を促進することで、車室内の暖房性能が向上する。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、前記の自動車用エンジンの制御装置によると、エンジンの運転状態が低回転低負荷の第1領域にあるときには、後段噴射及び後段燃焼の実行と排気の二度開きとを組み合わせることで、冷却水の温度を効果的に高めることができる。また、第1領域よりも負荷の高い第2領域にあるときには、後段噴射及び後段燃焼の実行を行いつつ、排気の二度開きは停止することで、排気エミッション性能の低下を回避しながら、冷却水の温度を効果的に高めることができる。その結果、車室内の暖房要求があったときには、それを速やかに満足させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、実施形態に係るディーゼルエンジンを図面に基づいて説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎない。
図1,2は、実施形態に係るエンジン(エンジン本体)1の概略構成を示す。このエンジン1は、車両に搭載されると共に、軽油を主成分とした燃料が供給されるディーゼルエンジンである。
【0024】
エンジン1は、複数の気筒11a(1つのみ図示)が設けられたシリンダブロック11と、このシリンダブロック11上に配設されたシリンダヘッド12と、シリンダブロック11の下側に配設され、潤滑油が貯溜されたオイルパン13とを有している。このエンジン1の各気筒11a内には、ピストン14が往復動可能にそれぞれ嵌挿されていて、このピストン14の頂面にはリエントラント形燃焼室14aを区画するキャビティが形成されている。このピストン14は、コンロッド14bを介してクランクシャフト15と連結されている。
【0025】
前記シリンダヘッド12には、各気筒11a毎に吸気ポート16及び排気ポート17が形成されているとともに、これら吸気ポート16及び排気ポート17の燃焼室14a側の開口を開閉する吸気弁21及び排気弁22がそれぞれ配設されている。
【0026】
これら吸排気弁21,22をそれぞれ駆動する動弁系において、排気弁側には、当該排気弁22の作動モードを通常モードと特殊モードとに切り替える油圧作動式の可変機構(
図2参照。以下、VVM(Variable Valve Motion)と称する)が設けられている。このVVM71は、その構成の詳細な図示は省略するが、カム山を1つ有する第1カムとカム山を2つ有する第2カムとの、カムプロファイルの異なる2種類のカム、及び、その第1及び第2カムのいずれか一方のカムの作動状態を選択的に排気弁22に伝達するロストモーション機構を含んで構成されており、第1カムの作動状態を排気弁22に伝達しているときには、排気弁22は、排気行程中において一度だけ開弁される通常モードで作動するのに対し、第2カムの作動状態を排気弁22に伝達しているときには、排気弁22が、排気行程中において開弁すると共に、吸気行程中においても開弁するような、いわゆる排気の二度開きを行う特殊モードで作動する。
【0027】
VVM71の通常モードと特殊モードとの切り替えは、エンジン駆動の油圧ポンプ(図示省略)から供給される油圧によって行われ、特殊モードは、内部EGRに係る制御の際に利用される。尚、こうした通常モードと特殊モードとの切り替えを可能にする上で、排気弁22を電磁アクチュエータによって駆動する電磁駆動式の動弁系を採用してもよい。尚、VVM71による内部EGR制御は、主に燃料の着火性が低いエンジン1の冷間時に行われる。
【0028】
前記シリンダヘッド12には、燃料を噴射するインジェクタ18と、エンジン1の冷間時に各気筒11a内の吸入空気を暖めて燃料の着火性を高めるためのグロープラグ19とが設けられている。前記インジェクタ18は、その燃料噴射口が燃焼室14aの天井面から該燃焼室14aに臨むように配設されていて、基本的には圧縮行程上死点付近で、燃焼室14aに燃料を直接噴射供給するようになっている。
【0029】
前記エンジン1の一側面には、各気筒11aの吸気ポート16に連通するように吸気通路30が接続されている。一方、前記エンジン1の他側面には、各気筒11aの燃焼室14aからの既燃ガス(つまり、排気ガス)を排出する排気通路40が接続されている。これら吸気通路30及び排気通路40には、詳しくは後述するが、吸入空気の過給を行う大型ターボ過給機61と小型ターボ過給機62とが配設されている。
【0030】
吸気通路30の上流端部には、吸入空気を濾過するエアクリーナ31が配設されている。一方、吸気通路30における下流端近傍には、サージタンク33が配設されている。このサージタンク33よりも下流側の吸気通路30は、各気筒11a毎に分岐する独立通路とされ、これら各独立通路の下流端が各気筒11aの吸気ポート16にそれぞれ接続されている。
【0031】
吸気通路30におけるエアクリーナ31とサージタンク33との間には、大型及び小型ターボ過給機61、62のコンプレッサ61a,62aと、該コンプレッサ61a,62aにより圧縮された空気を冷却するインタークーラ35と、前記各気筒11aの燃焼室14aへの吸入空気量を調節するスロットル弁36とが配設されている。このスロットル弁36は、基本的には全開状態とされるが、エンジン1の停止時には、ショックが生じないように全閉状態とされる。
【0032】
前記排気通路40の上流側の部分は、各気筒11a毎に分岐して排気ポート17の外側端に接続された独立通路と該各独立通路が集合する集合部とを有する排気マニホールドによって構成されている。このエンジン1において排気マニホールド37は、
図3に示すように、シリンダヘッド12内に形成されている。また、
図3にはその一部のみを示すが、シリンダヘッド12における排気ポートの周囲及び排気マニホールド37の周囲には、冷却水が流れるウォータジャケット371が形成されている。つまり、このエンジン1は、水冷排気マニホールド構造を採用している。尚、排気マニホールド37をシリンダヘッド12内に形成しなくても、シリンダヘッド12に外付けする構成であってもよく、その外付けの排気マニホールドに冷却水通路を設けてもよい。
【0033】
この排気通路40における排気マニホールド37よりも下流側には、上流側から順に、小型ターボ過給機62のタービン62b、大型ターボ過給機61のタービン61bと、排気ガス中の有害成分を浄化する排気浄化装置41と、サイレンサ42とが配設されている。
【0034】
この排気浄化装置41は、酸化触媒41aと、ディーゼルパティキュレートフィルタ(以下、フィルタという)41bとを有しており、上流側から、この順に並んでいる。酸化触媒41a及びフィルタ41bは1つのケース内に収容されている。前記酸化触媒41aは、白金又は白金にパラジウムを加えたもの等を担持した酸化触媒を有していて、排気ガス中のCO及びHCが酸化されてCO
2及びH
2Oが生成する反応を促すものである。また、前記フィルタ41bは、エンジン1の排気ガス中に含まれる煤等の微粒子を捕集するものである。尚、フィルタ41bに酸化触媒をコーティングしてもよい。このエンジン1は、後述するように、低圧縮比化によってRawNOxの生成を大幅に低減乃至無くしており、NOx処理用の触媒を省略している。
【0035】
前記吸気通路30における前記サージタンク33とスロットル弁36との間の部分(つまり小型ターボ過給機62の小型コンプレッサ62aよりも下流側部分)と、前記排気通路40における前記排気マニホールド37と小型ターボ過給機62の小型タービン62bとの間の部分(つまり小型ターボ過給機62の小型タービン62bよりも上流側部分)とは、排気ガスの一部を吸気通路30に還流するための排気ガス還流通路51によって接続されている。この排気ガス還流通路51には、排気ガスの吸気通路30への還流量を調整するための排気ガス還流弁51a及び排気ガスをエンジン冷却水によって冷却するためのEGRクーラ52とが配設されている。
【0036】
大型ターボ過給機61は、吸気通路30に配設された大型コンプレッサ61aと、排気通路40に配設された大型タービン61bとを有している。大型コンプレッサ61aは、吸気通路30におけるエアクリーナ31とインタークーラ35との間に配設されている。一方、大型タービン61bは、排気通路40における排気マニホールドと酸化触媒41aとの間に配設されている。
【0037】
小型ターボ過給機62は、吸気通路30に配設された小型コンプレッサ62aと、排気通路40に配設された小型タービン62bとを有している。小型コンプレッサ62aは、吸気通路30における大型コンプレッサ61aの下流側に配設されている。一方、小型タービン62bは、排気通路40における大型タービン61bの上流側に配設されている。
【0038】
すなわち、吸気通路30においては、上流側から順に大型コンプレッサ61aと小型コンプレッサ62aとが直列に配設され、排気通路40においては、上流側から順に小型タービン62bと大型タービン61bとが直列に配設されている。これら大型及び小型タービン61b,62bが排気ガス流により回転し、これら大型及び小型タービン61b,62bの回転により、該大型及び小型タービン61b,62bとそれぞれ連結された前記大型及び小型コンプレッサ61a,62aがそれぞれ作動する。
【0039】
小型ターボ過給機62は、相対的に小型のものであり、大型ターボ過給機61は、相対的に大型のものである。すなわち、大型ターボ過給機61の大型タービン61bの方が小型ターボ過給機62の小型タービン62bよりもイナーシャが大きい。
【0040】
吸気通路30には、小型コンプレッサ62aをバイパスする小型吸気バイパス通路63が接続されている。この小型吸気バイパス通路63には、該小型吸気バイパス通路63へ流れる空気量を調整するための小型吸気バイパス弁63aが配設されている。この小型吸気バイパス弁63aは、無通電時には全閉状態(つまり、ノーマルクローズ)となるように構成されている。
【0041】
一方、排気通路40には、小型タービン62bをバイパスする小型排気バイパス通路64と、大型タービン61bをバイパスする大型排気バイパス通路65とが接続されている。小型排気バイパス通路64には、該小型排気バイパス通路64へ流れる排気量を調整するためのレギュレートバルブ64aが配設され、大型排気バイパス通路65には、該大型排気バイパス通路65へ流れる排気量を調整するためのウエストゲートバルブ65aが配設されている。レギュレートバルブ64a及びウエストゲートバルブ65aは共に、無通電時には全開状態(つまり、ノーマルオープン)となるように構成されている。
【0042】
これら大型ターボ過給機61と小型ターボ過給機62は、それらが配設された吸気通路30及び排気通路40の部分も含めて、一体的にユニット化されて、過給機ユニット60を構成している。この過給機ユニット60がエンジン1に取り付けられている。
【0043】
また詳細な構成図は省略するが、
図1に示すように、このエンジン1の冷却水の循環回路上には、エンジン1を通過した(前述したエンジン1の排気側に設けられたウォータジャケット371を通過した)冷却水の一部が供給されるヒーター8が設けられている。このヒーター8は、車室内の暖房を行うための熱交換器であり、ヒーター8において空気との熱交換を行った後の冷却水は、エンジン1に戻るように構成されている。
【0044】
このように構成されたディーゼルエンジン1は、パワートレイン・コントロール・モジュール(以下、PCMという)10によって制御される。PCM10は、CPU、メモリ、カウンタタイマ群、インターフェース及びこれらのユニットを接続するパスを有するマイクロプロセッサで構成されている。このPCM10が制御器を構成する。PCM10には、
図2に示すように、エンジン冷却水の温度を検出する水温センサSW1、サージタンク33に取り付けられて、燃焼室14aに供給される空気の圧力を検出する過給圧センサSW2、吸入空気の温度を検出する吸気温度センサSW3、クランクシャフト15の回転角を検出するクランク角センサSW4、車両のアクセルペダル(図示省略)の操作量に対応したアクセル開度を検出するアクセル開度センサSW5、排気中の酸素濃度を検出するO
2センサSW6、及び、小型タービン62bよりも上流側における排気圧力を検出する排気圧力センサSW7の検出信号が入力され、これらの検出信号に基づいて種々の演算を行うことによってエンジン1や車両の状態を判定し、これに応じてインジェクタ18、グロープラグ19,動弁系のVVM71、各種の弁36、51aのアクチュエータへ制御信号を出力する。
【0045】
また、PCM10は、エンジンの運転状態において大型及び小型ターボ過給機61、62の動作を制御している。具体的には、PCM10は、小型吸気バイパス弁63a、レギュレートバルブ64a及びウエストゲートバルブ65aの各開度を、エンジン1の運転状態に応じて設定された目標過給圧となるように制御する。詳しくは、低回転側の領域では、小型吸気バイパス弁63a及びレギュレートバルブ64aを全開以外の開度とし、ウエストゲートバルブ65aを全閉状態とすることによって、小型ターボ過給機62のみ、又は、大型及び小型ターボ過給機61、62の両方を作動させる。一方、高回転側の領域では、小型ターボ過給機62が過回転になると共に、排気抵抗になるため、小型吸気バイパス弁63a及びレギュレートバルブ64aを全開状態とし、ウエストゲートバルブ65aを全閉状態に近い開度にすることによって、小型ターボ過給機62をバイパスさせて大型ターボ過給機61のみを作動させる。尚、ウエストゲートバルブ65aは、大型ターボ過給機61の過回転を防止するために少し開き気味に設定している。
【0046】
そうして、このエンジン1は、その幾何学的圧縮比を12以上16未満(例えば14)とした、比較的低圧縮比となるように構成されており、これによって排気エミッション性能の向上及び熱効率の向上を図るようにしている。
【0047】
(エンジンの燃焼制御の概要)
前記PCM10によるエンジン1の基本的な制御は、主にアクセル開度に基づいて目標トルク(言い換えると目標となる負荷)を決定し、これに対応する燃料の噴射量や噴射時期等をインジェクタ18の作動制御によって実現するものである。目標トルクは、アクセル開度が大きくなるほど、またエンジン回転数が高くなるほど、大きくなるように設定され、目標トルクとエンジン回転数とに基づいて燃料の噴射量が設定される。噴射量は、目標トルクが高くなるほど、また、エンジン回転数が高くなるほど大きくなるように設定される。また、スロットル弁36、及び排気ガス還流弁51aの開度の制御(つまり、外部EGR制御)や、VVM71の制御(つまり、内部EGR制御)によって、気筒11a内への排気の還流割合を制御する。
【0048】
また、PCM10は、定常時には、エンジン1の運転状態に応じて目標過給圧を設定し、その目標過給圧が達成されるように、レギュレートバルブ64a及びウエストゲートバルブ65aの開度調整を行うと共に、小型吸気バイパス弁63aの開閉を制御する過給圧フィードバック制御を行う。
【0049】
そしてこのエンジン1では、RawNOxの生成を無くす又は抑制するため、基本的に空気過剰率λ≧2.4以上となるようなリーンで運転するように構成されている。
【0050】
(冷却水昇温促進制御)
前述の通り、このエンジン1は、幾何学的圧縮比が低く設定されていると共に、空気過剰率λ≧2.4以上のリーンに設定されているため、燃焼温度が比較的低くかつ、冷却損失が比較的少ない。このことは、冷却水の温度が低いときに、その温度を上昇させる上では不利な構成である。特に、外気温度が低く(例えば0℃以下)でかつ、エンジン水温が低い(例えば60℃以下)のような条件下で、しかもエンジン1の運転状態が、低回転低負荷の領域にあるようなときには、冷却水の温度がますます上昇し難くなる。このことはヒーター8に低温の冷却水が供給されることを意味し、車室内の暖房性能を低下させるという問題がある。
【0051】
そこで、このエンジンシステムでは、エンジン冷間時でかつ、その運転状態が低回転低負荷の運転領域にあるときに、冷却水の温度上昇を促進させる冷却水昇温促進制御を実行する。
【0052】
先ず
図4は、エンジン1の冷間時における運転マップの一例を示している。同図における領域(A)は、低回転側の領域、言い換えると、エンジンの回転数領域を高回転側と低回転側との2つに区分した場合の、概ね低回転側に相当する領域であると共に、低負荷の領域、言い換えるとエンジンの負荷領域を高負荷、中負荷及び低負荷の3つに区分した場合の、概ね低負荷に相当する領域である。但し、領域(A)は、所定回転数よりも高回転側の領域である(第1領域に相当)。
【0053】
これに対し、領域(B)は、領域(A)に対し高負荷側に隣接する領域である。従って、領域(B)は、エンジンの回転数領域においては、低回転側であると共に、負荷領域においては、低負荷乃至中負荷の一部を含む。また、領域(B)は、前記の所定回転数以下の低負荷領域も含む(第2領域に相当)。
【0054】
この領域(A)及び(B)の双方において、PCM10は、インジェクタ18に対し、前段噴射と、主噴射と、後段噴射とを実行させる。
図5は、領域(A)及び(B)における燃料噴射態様の一例を示している。つまり、圧縮行程中において、複数回の(図例では3回の)前段噴射を行う。前段噴射は、図示は省略するが、圧縮上死点付近において前段燃焼を生起させ、これが気筒18a内の温度及び圧力を高め、後の主噴射による主燃料の着火性を高める。尚、前段噴射の回数に特に制限はなく、1回以上を行えばよい。また、前段噴射を省略してもよい。
【0055】
主噴射は、図例では圧縮上死点移行に実行される。この主噴射の実行により、主燃焼が生起する。そしてこの主噴射後の膨張行程中において、後段噴射を実行する。図例では2回の後段噴射を行っているが、後段噴射の回数もまた、特に制限はない。後段噴射の実行により、図示は省略するが、膨張行程中において後段燃焼が生起する。この後段燃焼は、気筒18a内から排出する既燃ガスの温度を高める。
【0056】
そうして、領域(A)においては、この後段噴射の実行と共に、VVM71の作動による排気の二度開きを実行する。これにより、吸気行程中に排気弁22が再び開いて、既燃ガスが気筒18a内に導入される。こうして領域(A)においては、先ず後段噴射の実行、及びそれに伴う後段燃焼の生起によって、気筒18a内から排出する既燃ガスの温度が高くなるから、エンジン1の排気側において、既燃ガスと冷却水との温度差が大きくなり、冷却水の昇温に有利になる。また、このエンジン1においては、排気ポートの周囲のみならず、排気マニホールド37の周囲にもウォータジャケット371を設けているため、既燃ガスからの受熱量をさらに増やすことが可能になる。
【0057】
また、排出する既燃ガスの温度を高くすることに、排気の二度開きを組み合わせることによって、気筒19a内から一旦、排出した高温の既燃ガスを再び気筒内に戻すため、エンジン1の排気側における熱交換効率が高まり、冷却水の昇温にさらに有利になる。特に、排気弁22のスロート部は、ガス流速が最も高まる箇所であるため、既燃ガスと冷却水との熱効率効率は、この箇所において最も高くなる。排気の二度開きを行うことは、既燃ガスをこのスロートに二回通過させることになるから、冷却水の温度は、より一層早期に高まり得る。
【0058】
また、排気の二度開きを行うことによって、下流側の小型タービン62aに供給される排気エネルギは低下するから、小型ターボ過給機62による過給圧も低下する。このことは、気筒18a内に導入させる新気量を減少させるから、燃焼後のガスの温度が高くなる。このこともまた、冷却水の昇温に有利になる。
【0059】
また、排気の二度開きを行うVVM71は、前述の通りエンジン駆動の油圧によって作動をするため、VVM71を作動させて排気の二度開きを行うときには、エンジン1の負荷が高まることになる。これは、燃料噴射量を増大し排気温度を高めるから、このこともまた、冷却水の昇温に有利になる。
【0060】
これに対し、領域(B)は、領域(A)に対し負荷の高い領域であるため、燃料噴射量がその分増大する。このときに排気の二度開きを行い、新気量を減少させてしまったのでは、新気が不足して、例えばスモークの発生を招く虞がある。そこで、領域(B)では、排気の二度開きは停止して、前述の後段噴射及び後段燃焼のみを実行する。こうすることで、排気エミッション性能の低下を回避しながら、冷却水の昇温に不利な領域(B)においても、冷却水の昇温を促進することが可能になる。
【0061】
尚、エンジン1の冷却水の温度が低くて、冷却水の昇温が要求されるようなときには、エンジン1の回転数が高められるため、エンジン1の運転状態は自動的に領域(A)となり、排気の二度開きが実行されることになる。
【0062】
次に、
図6を参照しながら、前述した領域(A)(B)の付近における冷却水昇温促進制御について、さらに説明する。同図(a)は外気温の変化の一例を示しており、冷却水昇温促進制御は、外気温が所定温度(同図の破線を参照)以下のときに実行される。所定温度は、例えば0℃に設定してもよい。また、同図(b)は冷却水温の変化の一例を示しており、同図におけるT1は制御の下限温度、T2は制御の上限温度を示している。つまり下限温度T1よりも水温が低いときには、例えば油圧が立ち上がらなくて、VVM71を作動させることができないため、冷却水昇温促進制御を行わない。また、上限温度T2よりも水温が高いときには、冷却水昇温促進制御がそもそも不要である。上限温度T2は、例えば60℃に設定してもよい。図例では、時刻2において水温がT1を超え、冷却水昇温促進制御の実行の条件の一つが満たされることになる。
【0063】
同図(c)はエンジン回転数の変化の一例を示している。同図におけるN1は、制御の下限回転数、N2は制御の上限回転数を示している。下限回転数N1よりも回転数が低いときには冷却水昇温促進制御を行わない。前述の通り、冷却水温度が低く、冷却水の昇温促進が必要なときには、エンジン1の回転数はN1よりも高められる。一方、上限回転数N2よりも回転数が高いときには、単位時間当たりの放熱量が増えるため、冷却水昇温促進制御は不要である(
図4における領域(A)及び(B)を高回転側に外れる)。図例では、時刻1においてエンジン回転数がN1を超え、冷却水昇温促進制御の実行の条件の一つが満たされることになる。
【0064】
こうして水温及びエンジン回転数の条件がそれぞれ満足することで、時刻2において冷却水昇温促進制御が開始する。つまり、同図(f)に示すように、油圧が、VVM71を作動させるために、ロー(低圧)からハイ(高圧)に切り替えられ、同図(e)に示すように、VVM71が作動をする。また、同図(g)に示すように、後段噴射の実行フラグもオンにされて、主噴射の後に後段噴射が実行される。こうして、前述の通り、気筒18a内から排出される既燃ガスの温度を上昇させると共に、その高温の既燃ガスを排気の二度開きにより再び気筒18a内に導入することにより、冷却水を効率的に昇温させる。その結果、同図(b)に示すように、エンジン水温が速やかに上昇する。そうして、エンジン水温が上限温度T2以上となれば、冷却水昇温促進制御は中止される(時刻5参照)。つまり、後段噴射を行わず(同図(g)参照)、VVM71を停止する(同図(e)参照)。VVM71の停止に伴い、油圧もローに変更される(同図(f)参照)。尚、エンジン水温が上限温度T2未満であっても、エンジン回転数が上限回転数N2を超えたときには、冷却水昇温促進制御は中止(中断)される(時刻3〜時刻4参照)。これは、エンジン1の運転状態が、
図4に示す領域(A)及び領域(B)を、高回転側に外れたことに対応する。
【0065】
冷却水温度が、一旦、上限温度T2以上となっても、その後、冷却水温度が低下すれば、冷却水昇温促進制御が再び開始される(時刻6参照)。つまり、油圧がハイに切り替えられかつ、VVM71が作動すると共に、後段噴射が実行される(同図(e)(f)(g)参照)。そうして、冷却水温度が再び上限温度T2以上となれば、冷却水昇温促進制御は中止する(時刻7参照)。
【0066】
また、時刻8において冷却水昇温促進制御が再び開始したときに、同図(d)に示すように、エンジン負荷が上限負荷を超えたようなときには(時刻9及び10)、エンジン1の運転状態が領域(B)に入ったとして、VVM71を停止し、それに伴い油圧もローにする(同図(e)(f)参照)。これにより、スモークの発生を抑制する。尚、後段噴射はそのまま継続する(同図(g)参照)。これによって、冷却水の昇温はそのまま継続される。
【0067】
そうして、同図(a)に示すように、外気温が所定温度(例えば0℃)を超えたようなときには(時刻11)、冷却水昇温促進制御は終了する(同図(e)(f)(g)参照)。
【0068】
尚、ここに開示する技術は、火花点火式エンジン(ガソリンエンジン)に適用することも可能である。