【文献】
野口昭治, 畔柳雄太 ,玉軸受の転動体公転挙動に及ぼすラジアル荷重の影響,日本機械学会論文集 C編 ,2007年11月25日,Vol.73,No.735,p.3063−3068
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載の計測装置は、円筒状のころからなる転動体の挙動を計測するためのものであり、玉軸受の玉の挙動を計測するには適していない。
ところで、保持器に対する玉の進み/遅れを把握するために、周方向に関する玉と保持器との相対位置を把握することが望まれている。このような相対位置の把握は、玉軸受の最適設計に大きく寄与する。
【0005】
本願発明者らは、玉軸受において回転中(公転中)の玉の位置を計測する玉位置計測方法(特願2010−246542号)を検討している。この玉位置計測方法を用いて回転中における玉の位置を計測すれば、さらに保持器の位置を検出するとともに、検出された保持器の位置と計測された玉の位置とを比較することにより、玉と保持器との相対位置を把握することも可能である。
【0006】
しかしながら、回転中の保持器は偏心したり変形したりしている。そのため、玉の位置と保持器の1箇所の位置とを比較して相対位置を求めると、径方向に関する玉と保持器との位置変化を含んでしまう。そのため、周方向に関する保持器と玉との相対位置を精度良く検出することができない。
そこで、この発明の目的は、玉軸受における、周方向に関する保持器と玉との相対位置を精度良く検出することができる玉挙動計測方法および玉挙動計測装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成するための請求項1記載の発明は、軌道輪(11,12)、玉(13)および保持器(14)を有する玉軸受(10)
であって、前記保持器の表面における互いの異なる所定位置に第1および第2マーカ(P1,P2)が付された玉軸受の玉の挙動を計測するための玉挙動計測方法であって、前記軌道輪の軌道面(11A,12A)の中心軸線(O)上に中心を有するリング照明(18)によって、前記玉軸受を照明するリング照明ステップと、前記中心軸線上に配置された撮像レンズ(20)を有する撮像手段(17)が、
前記玉が公転状態にある前記玉軸受
の端面全体の像であって前記玉ならびに前記第1および第2マーカを含む像を撮像する撮像ステップと、撮像画像に含まれる、玉表面における前記リング照明の反射
光と、撮像画像に含まれ
る前記第1マーカの位置と、撮像画像に含まれ
る前記第2マーカの位置とに基づいて、
周方向に関する前記玉と
前記保持器との相対位置を算出する相対位置算出ステップ(S
3〜S8)とを含む、玉挙動計測方法である。
【0008】
なお、括弧内の英数字は、後述する実施形態における対応構成要素等を表すが、特許請求の範囲を実施形態に限定する趣旨ではない。以下、この項において同じ。
この発明の方法によれば、玉が公転状態にある玉軸受を撮像する。そして、撮像画像に含まれる、玉表面におけるリング照明の反射光に基づいて玉の位置を算出する。軌道面の中心軸線上に撮像レンズおよびリング照明の中心が配置されているので、玉が周方向のどの位置にあっても、玉の所定位置でリング照明からの照明光が反射する。そのため、撮像レンズによる撮像画像に基づいて玉の正確な周方向位置を特定することができる。
【0009】
また、保持器の表面の所定位置には第1マーカが付されており、保持器の表面における第1マーカとは異なる所定位置には第2マーカが付されている。撮像画像に含まれる第1および第2マーカの位
置と、玉の算出位置とに基づいて、玉と保持器との相対位置を算出する。
このように、玉の位置と保持器の少なくとも2箇所の位置とを比較して相対位置を求めるので、回転中に保持器に偏心や変形が生じた結果径方向に関して玉と保持器との位置変化があっても、周方向に関する保持器と玉との相対位置だけを精度良く検出することができる。
【0010】
請求項2に記載のように、前記第1マーカは、前記保持器の表面における、前記玉の前方でかつ当該玉と隣接する位置に付されており、前記第2マーカは、前記保持器の表面における、前記玉の後方でかつ当該玉と隣接する位置に付されていてもよい。
この発明の方法によれば、保持器における、玉に隣接する前後少なくとも2箇所の位置と玉の位置とを比較するので、玉と、保持器における当該玉の隣接部分との相対位置を求めることができ、これにより、玉と保持器との接触のタイミングや頻度を把握することが可能である。
【0011】
請求項3記載の発明は、前記相対位置算出ステップは
、前記玉の(中心)位置
と前記第1マーカの位置との間の距離を算出する第1距離算出ステップ(S5)と
、前記玉の(中心)位置
と算出された前記第2マーカの位置との間の距離を算出する第2距離算出ステップ(S6)と、前記第1距離算出手段による算出距離と、前記第2距離算出手段による算出距離とに基づいて、前記相対位置を算出するステップ(S7,S8)とを含む、請求項2記載の玉挙動計測方法である。
【0012】
この発明の方法によれば
、玉の位置と第1マーカの位置との間の距離、およ
び玉の位置と第2マーカの位置との間の距離に基づいて、玉と保持器との相対位置を算出する。これにより、比較的簡単な方法で、玉と保持器との相対位置の算出を実現することができる。
請求項4記載の発明は、軌道輪(11,12)、玉(13)および保持器(14)を有する玉軸受(10)の玉の挙動を計測するための玉挙動計測装置であって、
前記保持器の表面における互いの異なる所定位置に第1および第2マーカ(P1,P2)が付されており、前記軌道輪(11A,12A)の軌道面(11A,12A)の中心軸線(O)上に中心を有し、前記玉軸受を照明するリング照明(18)と、前記中心軸線上に配置された撮像レンズ(20)を有し、
前記玉が公転状態にある前記玉軸受
の端面全体の像であって前記玉ならびに前記第1および第2マーカを含む像を撮像する撮像手段(17)と、撮像画像に含まれる、玉表面における前記リング照明の反射
光と、撮像画像に含まれ
る前記第1マーカの位置と、撮像画像に含まれ
る前記第2マーカの位置とに基づいて、
周方向に関する前記玉と
前記保持器との相対位置を算出する相対位置算出手段(22
,24)とを含む、玉挙動計測装置である。
【0013】
この構成によれば、請求項1に関して説明した作用効果と同等の作用効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下では、この発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る玉挙動計測装置1の概略構成を示す斜視図である。玉挙動計測装置1は、計測対象である玉軸受10における玉13の挙動を計測するための装置である。
玉挙動計測装置1は、玉軸受10を鉛直姿勢に保持しつつ、その内輪(軌道輪)11および外輪(軌道輪)12の一方を回転させる回転保持機構(図示しない)と、回転保持機構に保持された玉軸受10に対して光を照射するためのリング照明18と、回転保持機構に保持された玉軸受10を撮像するためのカメラ(撮像手段)17と、カメラ17による撮像画像を処理するための画像処理部22とを備えている。
【0016】
回転保持機構は、玉軸受10の内輪11を支持するための内輪支持ベース(図示しない)と、玉軸受10の外輪12を支持するための外輪保持ベース(図示しない)と、内輪保持ベースを、水平方向に延びる回転軸線Oまわりに回転駆動させるためのモータ(図示しない)とを備えている。回転保持機構に玉軸受10をセットした状態では、玉軸受10の中心軸線(後述する内輪軌道面11Aおよび外輪軌道面12Aの中心軸線)と回転保持機構による回転軸線Oとが一致している。そのため、外輪支持ベースを回転軸線Oまわりに回転させることにより、外輪12を、その中心軸線まわりに回転させることができる。一方で、内輪支持ベースにはモータ等の回転駆動機構が結合されていないので、外輪12の回転にかかわらず、内輪11は静止状態にある。
【0017】
なお、この実施形態では、外輪12を回転させるとともに内輪11を静止させているが、モータの回転駆動力を、外輪保持ベースではなく内輪保持ベースに付与することにより、内輪11を回転させるとともに外輪12を静止させるようにしてもよい。
リング照明18は、回転保持機構による回転軸線O上に中心を有する円環状をなしている。リング照明18は、回転保持機構側(すなわち
図1で示す右奥側)に向く背面視(
図1に示す右奥側から見た)円形の照射面(図示しない)を有し、この照射面からは、回転保持機構に対して均一に光が照射される。この照射面は、回転軸線Oに直交する同一平面に含まれている。リング照明18は、回転保持機構による保持対象の玉軸受10の外輪12(より詳しくは軌道面11A,12A)よりも大径であり、そのため、回転保持機構に保持された玉軸受10の全体に光を照射することができるようになっている。
【0018】
カメラ17は、たとえばCCDカメラであり、時間的に連続する複数枚の画像からなる動画像を撮像するためのカメラである。このカメラ17として、30(fp)以上のフレームレートで動画を撮像するカメラを採用することができるが、100(fp)以上のフレームレートで動画を撮像可能な高速度カメラを採用することがより一層望ましい。カメラ17の撮像レンズ20は、その光輪が、回転保持機構による回転軸線O上に配置されている。玉軸受10を回転保持機構にセットした状態で、玉軸受10の端面(背面側(
図1で示す左手前側)の面)の全体が、カメラ17の撮像範囲に含まれる。
【0019】
画像処理部22には、カメラ17による撮像画像が入力されるようになっている。この画像処理部22は、CPU(図示しない)、メモリおよび各種のインターフェイス等を含む構成のコンピュータにより構成されている。
この画像処理部22は、入力された撮像画像に対して所定の画像処理を施す処理部であり、後述するように、反射光認識部23および玉中心演算部(玉位置算出手段)24としてそれぞれ機能する。
【0020】
図2は、玉挙動計測装置1の計測対象である玉軸受10の一部破断斜視図である。
玉軸受10は、内輪11と、内輪11と同心に配置された外輪12と、内輪11および外輪12間に介装された複数の転動体としての玉13と、複数の玉13を周方向に間隔を空けて保持するための保持器14とを備えた深溝玉軸受である。内輪11と外輪12とがそれらの中心軸線まわりに相対回転可能である。玉13は、内輪11の深溝型の内輪軌道面(軌道面)11Aと外輪12の深溝型の外輪軌道面(軌道面)12Aとの間に介在されている。
【0021】
なお、玉軸受10は深溝玉軸受でなく、玉13と内輪軌道面11Aとの接触面および玉13と外輪軌道面12Aとの接触面とを結ぶ直線が、内輪11や外輪12の径方向に対して所定角度傾斜するアンギュラ型の玉軸受であってもよい。さらにその他のラジアル玉軸受を適用することもできる。
図3は、
図2に示す保持器14の要部構成を示す斜視図である。
【0022】
保持器14は、いわゆる冠型の保持器である。保持器14により、玉13が脱落したり、隣接する前後の玉13が互いに衝突したりするのを防止することができるようになっている。保持器14は、ラジアル方向の壁厚が玉13の直径よりも小さい環状部15を備えている。環状部15の一端部(
図3に示す左手前側の端部)には、環状部15をラジアル方向に貫通するとともに、アキシャル方向の一端側(
図3に示す左手前側)に開放するポケット16が形成されている。ポケット16の内面は、玉13の外周面に対応する球面状をなしている。ポケット16は、周方向の全周にわたって所定間隔を空けて複数形成されており、玉13を、その一部が露出した状態で収容保持する。
【0023】
各ポケット16の周方向の両端には、環状部15のアキシャル方向の一端側(
図3に示す左手前側)に、玉13の脱離を防止するための爪部31がそれぞれ形成されている。隣接するポケット16の互いに隣接する爪部31の間には、潤滑油を保持するための略平坦な端面からなる窪み部32が形成されている。
各窪み部32の表面には、その周方向の中央位置にマーカP(
図4参照)が施されている。換言すると、玉13が収容される全てのポケット16に関し、隣り合うポケット16間(の窪み部32)にマーカPが施される。さらに換言すると、玉軸受10の全ての玉13に関し、隣り合う玉13間にマーカPが施される。各マーカPは、
図6では矩形で表されているが、たとえば円形や矩形をなしており、たとえば茶色である保持器14に対し白色を有している。マーカPの内外の境界部分が、たとえば太い黒ラインで形成されている。マーカPは、塗料やシール等を用いて形成されることが多いが、刻印などで形成されていてもよい。
【0024】
図4および
図5は、玉挙動計測装置1に玉軸受10をセットした状態を示す正面図および側面図である。
図6は、玉13の表面におけるリング照明18の反射光を示す図である。
玉軸受10は、
図2に示す右奥側の面を正面に向けて、回転保持機構(図示しない)にセットされる。回転保持機構に玉軸受10がセットされた状態で、モータ(図示しないお)が回転駆動されると、外輪ベース部(図示しない)が外輪12ごと回転軸線Oまわりに回転するようになっている。
【0025】
玉挙動計測装置1による計測時には、回転保持機構にセットされた玉軸受10の外輪12が回転される。この外輪12の回転に伴って、玉13および保持器14も、内輪軌道面11Aおよび外輪軌道面12A上を周方向に公転(回転)する。
また、外輪12の回転に際して、リング照明18からの光が玉軸受10に向けて照射されるとともに、カメラ17による撮像が実行される。
【0026】
次に、カメラ17による撮像画像における、玉13の表面の反射光について説明する。
カメラ17の撮像レンズ20には、各玉13の表面で反射されたリング照明18の反射光が入射される。
たとえばリング照明18のA点(
図4および
図5参照)から照射された光は、玉13の表面上におけるa点(
図4および
図5参照)で反射してカメラ17に入射する。同様に、リング照明18のB点(
図4参照)、C点(
図4および
図5参照)およびD(
図4参照)点から照射された光は、それぞれ玉13の表面上におけるb点(
図4参照)、c点(
図4および
図5参照)およびd点(
図4参照)で反射してカメラ17に入射する。これにより、
図4および
図6に示すように、玉13の表面での反射光27は環状の形態で撮像される。
【0027】
また、カメラ17の撮像レンズ20が、玉軸受10の中心軸線と合致する回転軸線O上に配置されているので、各玉13の表面に写る反射光27は、各玉13の平面中心よりもやや回転軸線O寄りに位置している。
また、カメラ17によって、各窪み部32のマーカPも撮像される。
この実施形態では、玉挙動計測装置1を用いて、外輪12の回転中における玉13と保持器14との間の相対位置を求める。具体的には、内輪11と外輪12とが通常の使用条件下での相対回転速度になるように外輪12を回転させるとともに、カメラ17により、玉軸受10を連続的に複数回撮像する。このカメラ17による撮像回数は、たとえば1秒間に約5000回であり、換言すると、玉13が1公転する間に約280〜300回撮像されることになる。そして、計測対象の1つの玉13を特定し、その特定された玉13の各周方向位置における、玉13と保持器14との相対位置を連続的に求める。
【0028】
図7は、画像処理部22による処理内容を示すフローチャートである。
以下、一連の計測作業で撮像された個々の撮像画像の処理について説明する。
まず、画像処理部22は、カメラ17によって撮像画像の入力を受け付け、メモリに記憶する(S1:画像記憶)。
次いで、画像処理部22は、各玉13の表面の反射光27を認識する(S2:反射光認識。反射光認識部23(
図1参照)の機能を実現)。また、画像処理部22はマーカPも認識する。反射光27の認識のための処理は、たとえば、撮像画像における玉13に対し、所定の輝度値を闇値とする2値化処理を施すことにより、反射光27を抽出する。換言すると、反射光27は、その周囲の玉13の表面よりも輝度が高くなるため、輝度が高い部分と低い部分とを2階調に変換することによって反射光27を抽出することができる。そして、抽出された反射光27を認識する。
【0029】
なお、リング照明18からの照度は、2値化処理によって反射光27が適切に抽出されるように予め適切な照度に調整される。また、特定の玉13の表面での反射光27が、内輪11の影等に重なって途切れた状態になる場合には、画像処理部22は、反射光27に対して公知のクロージング処理を行うことによって形状を補正し、環状の反射光27を抽出する。
【0030】
次いで、画像処理部22は、認識した各玉13での反射光27に基づいて、玉13の中心位置(重心位置)の位置座標(x
g,y
g)を算出する(ステップS3。玉中心演算部24(
図1参照)の機能を実現)。認識した玉13の中心位置は、たとえば環状の反射光27に含まれる画素の座標値の総和を当該画素の数で割ることによって求めることができる。なぜなら、玉軸受10の中心軸線と合致する回転軸線O上に、撮像レンズ20およびリング照明18の中心が配置されている。そのため、玉13が周方向のどの位置にあっても、玉13の表面の中心近傍でリング照明からの照明光が反射し、しかも、その反射光27は、玉13の中心位置を中心とする環状をなすようになるからである。したがって、前述のように求められた反射光27の中心位置は、各玉13の中心位置とみなすことができる。
【0031】
なお、この際、画素の輝度値によって重み付けを行った上で反射光27の中心を求めれば、より正確な中心位置を算出することができる。また、全ての玉13の中心位置の位置座標ではなく、次に述べる計測対象として特定された玉13の中心位置の位置座標を求めるようにしてもよい。
また、画像処理部22は、認識したマーカPのうち、計測対象として特定された玉13の進行方向側に隣接する第1マーカP1(
図6参照)の位置座標(x
m1,y
m1)、およびその玉13の進行方向と反対側に隣接する第2マーカP2(
図6参照)の位置座標(x
m2,y
m2)をそれぞれ取得(算出)する(ステップS4)。
【0032】
その後、画像処理部22は、次式(1)のように、計測対象の玉13の中心位置と第1マーカP1との間の距離d
1を算出する(ステップS5)。
d
1={(x
g−x
m1)
2+(y
g−y
m1)
2}
1/2 ・・・(1)
また、画像処理部22は、次式(1)のように、計測対象の玉13の中心位置と第2マーカP2との間の距離d
2を算出する(ステップS6)。
d
2={(x
g−x
m2)
2+(y
g−y
m2)
2}
1/2 ・・・(2)
次いで、距離d
1および距離d
2に基づいて、画像処理部22は、玉13と第1マーカP1との間の相対位置d
1´、および玉13と第2マーカP2との間の相対位置d
2´を求める(ステップS7)。具体的には、全ての距離d
1(一連の計測作業で撮像された全撮像画像の各距離d
1)の中央値max(d
1)を基準に(当該中央値がゼロになるように)、今回の撮像画像に含まれる距離d
1を、式(3)を用いて変換し、相対位置d
1´を算出する。
d
1´=d
1−(max(d
1)+min(d
1))/2 ・・・(3)
また、画像処理部22は、全ての距離d
2(一連の計測作業で撮像された全撮像画像の各距離d
2)の中央値max(d
2)を基準に(当該中央値がゼロになるように)、今回の撮像画像に含まれる距離d
2を、式(4)を用いて変換し、相対位置d
2´を算出する。
d
2´=d
2−(max(d
2)+min(d
2))/2 ・・・(4)
次いで、画像処理部22は、これら2つの相対位置d
1´,d
2´に基づいて、次式(5)のように、平均の相対位置を算出し、この相対位置を、今回の撮像画像における、計測対象の玉13と保持器14との相対位置dとする(ステップS8)。
d´=(d
1´+d
2´)/2 ・・・(5)
図8は、玉挙動計測装置1による計測結果の一例を示す図である。
【0033】
横軸には、基準周方向位置からの玉13の公転角(周方向位置)(°)を示し、縦軸には、基準位置(中央値)からの相対位置d´(mm)を示す。
図8に示すように、各周方向位置における玉13と保持器14との相対位置d´を連続的に求めることにより、その相対位置変化を把握することができる。相対位置d´が正の値である場合には、計測対象の玉13が回転方向に関して、保持器14に対し相対的に前方に位置することを示し、相対位置d´が負の値である場合には、計測対象の玉13が回転方向に関して、保持器14に対し相対的に後方に位置することを示す。
【0034】
以上により、この実施形態によれば、玉13が公転状態にある玉軸受10を撮像する。そして、撮像画像に含まれる、計測対象の玉13の表面におけるリング照明18の反射光27に基づいて玉13の位置座標(x
g,y
g)を算出する。玉軸受10の中心軸線(軌道面11A,12Aの中心軸線)と合致する回転軸線O上に、カメラ17の撮像レンズ20およびリング照明18の中心が配置されているので、玉13が周方向のどの位置にあっても、玉の所定位置(中心近傍)でリング照明18からの照明光が反射する。そのため、カメラ17による撮像画像に基づいて玉13の正確な周方向位置を特定することができる。
【0035】
また、保持器14における、計測対象の玉13に隣接する前後2箇所に付された各マーカP1,P2の位置座標(x
m1,y
m1)(x
m2,y
m2)とその玉13の位置座標(x
g,y
g)とを比較するので、玉13と、保持器14における当該玉13の隣接部分との相対位置d´を求めることができる。これにより、玉13と保持器14との接触のタイミングや頻度を把握することが可能である。
【0036】
さらに、計測対象の玉13の位置と第1マーカP1の位置との相対位置d
1´と、その玉13の位置と第2マーカP2の位置との相対位置d
2´との平均値を相対位置d´とするので、回転中に保持器14に偏心や変形が生じた結果径方向に関して玉13と保持器14との位置変化があっても、周方向に関する保持器14と玉13との相対位置d´だけを精度良く検出することができる。
【0037】
以上、この発明の一実施形態について説明したが、この発明は他の形態でも実施することができる。
たとえば、ステップS7において、玉13と第1マーカP1との相対位置d
1´を、全ての距離d
1の中央値max(d
1)を基準に算出したが、全ての距離d
1(一連の計測作業で撮像された全撮像画像の各距離d
1)の平均値を基準に算出してもよい。同様に、玉13と第2マーカP2との相対位置d
2´を、全ての距離d
2(一連の計測作業で撮像された全撮像画像の各距離d
2)の平均値を基準に算出してもよい。
【0038】
また、たとえばステップS7における計測距離の相対位置への変換を、ステップS8の平均相対位置の算出の後に行うようにしてもよい。
また、前述の実施形態では、計測対象の玉13に対し、隣接する前後に配置されるマーカP1,P2に基づいて玉13と保持器14との相対位置を求めたが、たとえば、当該玉と隣接しないマーカPの位置座標に基づいて相対位置を求めてもよい。
【0039】
さらに、マーカP1,P2と玉13との2つの相対位置を平均した値を、相対位置変化する場合を例に挙げて説明したが、他の1つ(または複数)のマーカPと玉13との相対位置を含めた3つ(または4つ以上)の相対位置を平均した値を相対位置としてもよい。
次に玉挙動計測装置1を用いて、外輪12の回転中における保持器のポケット16に発生する応力を求めることを検討する。この場合も、前述の場合と同様、内輪11と外輪12とが通常の使用条件下での相対回転速度になるように外輪12を回転させるとともに、カメラ17により、玉軸受10を連続的に複数回撮像する。このカメラ17による撮像回数は、たとえば1秒間に約5000回であり、換言すると、玉13が1公転する間に約280〜300回撮像されることになる。そして、計測対象の1つの玉13を特定し、その特定された玉13の各周方向位置における、特定のポケット16に発生する応力を連続的に求める。
【0040】
図9は、玉挙動計測装置1の計測対象である玉軸受の保持器114の要部構成を示す斜視図である。
玉軸受110が
図2に示す玉軸受10と相違する点は、
図3に示す保持器14に代えて保持器114を備えた点である。
図9において、
図3に示す各部に対応する部分には、
図3と同一の参照符号を付して示し説明を省略する。保持器114は冠型の保持器であり、
図3に示す保持器14と同様、ポケット16、爪部31および窪み部32を備えている。保持器114が、
図3に示す保持器14と相違する点は、各マーカQ1,Q2は、たとえば円形や矩形をなしており、たとえば茶色である保持器114に対し白色を有している。マーカQ1,Q2の内外の境界部分が、たとえば太い黒ラインで形成されている。マーカQ1,Q2は、塗料やシール等を用いて形成されることが多いが、刻印など形成されていてもよい。この場合、カメラ17(
図1参照)による玉軸受110の撮像によって、各爪部31のマーカQも撮像される。
【0041】
図10は、ポケット16に発生する応力の検出に関する、画像処理部22による処理内容を示すフローチャートである。
以下、一連の計測作業で撮像された個々の撮像画像の処理について説明する。
まず、画像処理部22は、カメラ17によって撮像画像の入力を受け付け、メモリに記憶する(S11:画像記憶)。
【0042】
次いで、画像処理部22は、各玉13の表面の反射光27を認識する(S12:反射光認識。反射光認識部23(
図1参照)の機能を実現)。このステップS12は前述のステップS2と同等の処理である。また、画像処理部22はマーカQ1,Q2も認識する。
次いで、画像処理部22は、認識した各玉13での反射光27に基づいて、ポケット16の位置座標を取得する。具体的には、ポケット16に収容されている玉13の中心位置の位置座標(x
g,y
g)を算出する(ステップS13)。このステップS13は前述のステップS3と同等の処理である。
【0043】
また、画像処理部22は、認識したマーカQ1,Q2のうち、計測対象として特定されたポケット16の進行方向側の爪部31のマーカQ1の位置座標、およびそのポケット16の進行方向と反対側のマーカQ2の位置座標をそれぞれ取得(算出)し(ステップS14)、画像処理部22は、マーカQ1,Q2間の距離を算出する(ステップS15)。
画像処理部22のメモリには、無負荷時における計測対象のポケット16の前後の爪部31の間隔(無負荷時におけるマーカQ1,Q2間の距離)が記憶されており、算出されたマーカQ1,Q2間の距離を、この記憶されている間隔と比較して、ポケット16の両側の爪部31の間隔変化量(ポケット変形量)を算出する(ステップS16)。
【0044】
また、画像処理部22のメモリには、ポケット16における間隔変化量と、当該ポケット16に収容されている玉13により当該ポケット16に生じる応力との関係式が記憶されている。画像処理部22は、ステップS16によって得られた間隔変化量と、この関係式とに基づいて、当該ポケット16に発生する推定応力を算出する(ステップS19)。
【0045】
なお、この場合、次に述べるように、ポケット16に発生する推定応力の算出は、ポケット16の開放部の開き度合いに基づいて算出されるようになっていてもよい。
すなわち、画像処理部22は、ステップS16によって算出した爪部31の間隔変化量に基づいて、全ての間隔変化量(一連の計測作業で撮像された全撮像画像の各間隔変化量)の中央値を基準に(当該中央値がゼロになるように)今回の撮像画像に基づいて算出される間隔変化量を変換して、前記の開き度合いを算出してもよい(
図10に破線で示すステップS17)。このとき、画像処理部22のメモリには、ポケット16における前記の開き度合いと、当該ポケット16に収容されている玉13により当該ポケット16に生じる応力との関係式が記憶されている。画像処理部22は、ステップS16によって得られた前記の開き度合いと、この関係式とに基づいて、当該ポケット16に発生する推定応力を算出する(ステップS19)。
【0046】
なお、この場合、全てのマーカQ1,Q2間の距離(一連の計測作業で撮像された全撮像画像の各マーカQ1,Q2間の距離)の中央値を基準に(当該中央値がゼロになるように)今回の撮像画像に基づいて算出されるマーカQ1,Q2間の距離を変換し、これに基づいて、間隔変化量を求めるとともに、前記の開き度合いを算出するようにしてもよい。
図11は、玉挙動計測装置1による計測結果の一例を示す図である。
【0047】
横軸には、基準周方向位置からの玉13の公転角(周方向位置)(°)を示し、縦軸には、ポケット16の開放部の開き度合いを示す。
図11に示すように、各周方向位置におけるポケット16の開き度合いを連続的に求めることができる。これにより、ポケット16に発生する推定応力を把握することができる。ポケット16の開き度合いが正の値である場合は、ポケット16が相対的に開いていることを示し、ポケット16の開き度合いが負の値である場合は、ポケット16が相対的に閉じていることを示す。
【0048】
たとえば、ステップS17において、ポケット16の開放部の開き度合いを、全ての間隔変化量の中央を基準に算出したが、全ての間隔変化量の平均値を基準に算出してもよい。
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。