特許第5948892号(P5948892)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5948892
(24)【登録日】2016年6月17日
(45)【発行日】2016年7月6日
(54)【発明の名称】遠心圧縮機
(51)【国際特許分類】
   F04D 29/44 20060101AFI20160623BHJP
   F04D 29/66 20060101ALI20160623BHJP
【FI】
   F04D29/44 Y
   F04D29/44 P
   F04D29/66 H
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-10788(P2012-10788)
(22)【出願日】2012年1月23日
(65)【公開番号】特開2013-148053(P2013-148053A)
(43)【公開日】2013年8月1日
【審査請求日】2014年11月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100083563
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 祥二
(72)【発明者】
【氏名】玉木 秀明
【審査官】 松浦 久夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−080401(JP,A)
【文献】 特開2004−144029(JP,A)
【文献】 特開2003−106299(JP,A)
【文献】 特開2012−154200(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0269308(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 29/44
F04D 29/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インペラと、該インペラを収納するケーシングとを具備し、該ケーシングが、吸入口と、インペラの周囲に形成される環洞流路と、該環洞流路に連通する吐出口とを有し、前記吸入口の周囲に環状空間が形成され、該環状空間の下流側端部が下流溝によってインペラ収納部に連通され、前記環状空間の上流端部が上流溝によって前記吸入口に連通する遠心圧縮機であって、前記下流溝はインペラ内部に局部的に発生する高圧部に対応した範囲に設けられる一方でその他の範囲には設けられておらず、前記上流溝は前記吸入口全周に亘って設けられており、前記ケーシングは前記吐出口と前記環洞流路の境界に形成される舌部を有し、前記下流溝が設けられる前記範囲は、前記インペラの回転中心と前記舌部を結ぶ基準半径に対して上流に向って45゜、下流に向って75゜の範囲である、遠心圧縮機。
【請求項2】
インペラと、前記インペラを収納し、前記インペラの上流端に隣接する壁面に設けられた溝を介して流体の再循環流を発生させる経路を有するケーシングと、を有する遠心圧縮機であって、前記ケーシングの前記壁面の円周方向に於いては、前記溝が設けられている範囲と設けられていない範囲があり、前記溝が設けられている範囲は、前記インペラの回転中心を座標中心とし、前記流体の吐出口の中心軸心と平行で前記インペラの回転中心を通過する軸をX軸とし、前記インペラの回転中心を通り前記X軸に直交する軸をY軸とし、前記吐出口の出口側のX軸を0°とする座標系に於いて、105°〜−15°の範囲である、遠心圧縮機。
【請求項3】
前記溝が設けられていない範囲は前記溝が設けられている範囲よりも広範囲である、請求項2に記載の遠心圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮性流体を昇圧する遠心圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
圧縮性流体を昇圧する遠心圧縮機の作動域を制限するものとして、低流量時に於ける流体の逆流によるサージングの発生がある。サージングが発生すると遠心圧縮機の運転が不能になるので、サージングの発生を抑制することが遠心圧縮機の作動域拡大につながる。
【0003】
サージングの発生を抑制する手段の1つとして特許文献1に示されるケーシングトリートメントがある。
【0004】
遠心圧縮機は、高速で回転するインペラと、インペラを収納し、インペラの周囲にスクロール流路を形成するケーシングを有している。特許文献1に示すケーシングトリートメントでは、インペラの上流端に臨接するケーシングの壁面に全周に亘る溝を形成し、該溝をインペラより上流側の流路に連通させ、低流量時にインペラ内部に局部的に発生する高圧部からインペラの上流側に流体を逆流させ、部分的に再循環させることでサージングの発生を抑制している。
【0005】
斯かるケーシングトリートメントにより、サージング抑制の効果は得られているが、一方で、下流側の流体を上流側に再循環させることから、小流量時での圧力比が減少するという現象も生じている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−332734号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は斯かる実情に鑑み、サージングを抑制し、小流量時での吐出圧力、吐出流量を低減させることのないケーシングトリートメントを行い、遠心圧縮機の作動域拡大を図るものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、インペラと、該インペラを収納するケーシングとを具備し、該ケーシングが、吸入口と、インペラの周囲に形成される環洞流路と、該環洞流路に連通する吐出口とを有し、前記吸入口の周囲に環状空間が形成され、該環状空間の下流側端部が下流溝によってインペラ収納部に連通され、前記環状空間の上流端部が上流溝によって前記吸入口に連通する遠心圧縮機であって、前記下流溝はインペラ内部に局部的に発生する高圧部に連通する様円周方向所定の範囲で設けられ、前記上流溝は前記吸入口全周に亘って設けられた遠心圧縮機に係るものである。
【0009】
又本発明は、前記ケーシングは前記吐出口と環洞流路の境界に形成される舌部を有し、前記下流溝は、インペラ回転中心と前記舌部を結ぶ基準半径に対して上流に向って45゜、下流に向って75゜の範囲に含まれる様形成された遠心圧縮機に係るものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、インペラと、該インペラを収納するケーシングとを具備し、該ケーシングが、吸入口と、インペラの周囲に形成される環洞流路と、該環洞流路に連通する吐出口とを有し、前記吸入口の周囲に環状空間が形成され、該環状空間の下流側端部が下流溝によってインペラ収納部に連通され、前記環状空間の上流端部が上流溝によって前記吸入口に連通する遠心圧縮機であって、前記下流溝はインペラ内部に局部的に発生する高圧部に連通する様円周方向所定の範囲で設けられ、前記上流溝は前記吸入口全周に亘って設けられたので、インペラ内部に局部的に発生する高圧部に対してのみ再循環流が形成され、サージングの発生が抑制され、更に周方向の一部に限って再循環流が形成されるので、再循環流量は低く抑えられ、再循環に起因する吐出圧力低下、最大吐出流量の低下が抑制できるという優れた効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明が実施される遠心圧縮機の一例を示す断面図である。
図2】本実施例のケーシングトリートメントの溝の形成状態を説明するグラフである。
図3】ケーシングトリートメントが実施されない場合のインペラ出口の静圧分布曲線である。
図4】本実施例に係る下流溝が設けられる位置、範囲とケーシングとの関係を示す説明図である。
図5】ケーシングトリートメントと遠心圧縮機の作動特性との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施例を説明する。
【0013】
先ず、図1に於いて本発明が実施される遠心圧縮機について概略を説明する。
【0014】
図1中、1は遠心圧縮機、2はケーシング、3は該ケーシング2に収納されるインペラを示している。
【0015】
軸受ハウジング(図示せず)に回転自在に支持された回転軸4の一端部に前記インペラ3が固着されている。尚、前記回転軸4の他端部には例えばタービン(図示せず)が連結されている。
【0016】
前記ケーシング2は前記インペラ3の周囲に環洞流路5を形成し、該環洞流路5の所要位置には昇圧された圧縮性流体、例えば圧縮空気を吐出する吐出口9が連通されている。前記ケーシング2の中央には前記インペラ3に臨み該インペラ3と同心の吸入口6が形成されている。
【0017】
前記インペラ3の周囲には前記環洞流路5に連通するディフューザ部7が形成されている。
【0018】
該ディフューザ部7は前記ケーシング2の前記インペラ3を収納する部屋と前記環洞流路5とを連通するリング状の空間であり、前記環洞流路5と前記ディフューザ部7との間には境界壁部8が形成されている。
【0019】
エンジン(図示せず)からの排気ガスによりタービンが回転され、前記回転軸4を介して前記インペラ3が回転され、タービンと同軸に設けられた、前記インペラ3が回転され、前記吸入口6より燃焼用空気が吸入され、吸入された燃焼用空気は前記インペラ3の回転及び前記ディフューザ部7を通過することで圧縮され、前記環洞流路5に流入する。圧縮された空気は該環洞流路5から前記吐出口9を経て吐出される。
【0020】
次に、ケーシングトリートメントについて説明する。
【0021】
前記ケーシング2の内部に、前記吸入口6と同心に環状空間11が形成される。該環状空間11は前記吸入口6の軸心と平行に延在し、上流端(図1中右端)は前記吸入口6の前記インペラ3上流端より更に上流側に位置し、下流端は前記インペラ3の上流端より更に下流側に位置している。
【0022】
前記環状空間11の上流部は、上流溝12によって前記吸入口6と連通している。前記上流溝12は全周に亘って設けられ、該上流溝12は連続したリング状の溝、或はリング状の溝で所定間隔でリブが設けられたものであってもよく、或は円周方向に長い長孔が所定間隔で穿設されたものでもよく、或は円孔が所定ピッチで穿設されたものであってもよい。
【0023】
前記環状空間11の下流部は、下流溝13によって前記インペラ3の上流端部に臨接する壁面に連通している。前記下流溝13は円周方向に所定の範囲で設けられている。
【0024】
前記環状空間11は前記上流溝12、前記下流溝13が連通する所要の断面形状を有し、例えば図示される様に軸心方向に長い長円断面とする。
【0025】
前記ケーシング2の特に、前記環洞流路5の形状は、非軸対称となっている。従って、前記環洞流路5の全周で圧力は一定ではなく、周方向に圧力分布を持っている。更に、前記インペラ3の周縁も同様に圧力分布を有し、前記環洞流路5の圧力分布は、前記ディフューザ部7を通して前記インペラ3の内部にも伝播している。この為、前記インペラ3内部で局部的に発生する高圧部も、周方向で圧力分布を有していると考えられる。
【0026】
前記下流溝13が設けられる範囲は、前記インペラ3内部で局部的に高圧となる範囲である。
【0027】
更に、前記下流溝13について詳述する。
【0028】
図2図3により、前記下流溝13の円周方向の位置(設けられる範囲)について説明する。
【0029】
尚、図2では、インペラ3の回転中心を座標中心とし、前記吐出口9の中心軸心と平行で前記インペラ3の回転中心を通過する軸をX軸とし、前記インペラ3の回転中心を通り、前記X軸に直交する軸をY軸とし、図2中、右側に延出するX軸を0°としている。又、図2中、15は前記吐出口9と前記環洞流路5の境界部を形成する舌部を示している。
【0030】
図示の例では、該舌部15は60°の位置にあり、該舌部15より45°上流(図では反時計回り)の位置から、時計方向に120゜の範囲(図示では105°〜−15°の範囲)に前記下流溝13が開口(連通)すると、サージング抑制効果が得られる。
【0031】
尚、該下流溝13が設けられる範囲は、前記インペラ3の周縁の圧力分布(即ち、局部的な高圧部が発生する状態)に対応して決定されるものであり、圧力分布はインペラ3の形状、インペラ3の特性等で変化するものであり、必ずしも前記下流溝13の一端が前記舌部15より45°に位置するとは限らない。
【0032】
然し乍ら、一般的には前記舌部15の近傍で、例えば舌部15を中心として±45゜の範囲内で、局部的な高圧部が発生する。従って、前記下流溝13が設けられる範囲は、前記舌部15と前記インペラ3とを結ぶ直線(基準半径:図2では60゜の半径)を中心として、45゜〜−75゜好ましくは、±45゜の範囲で設定される。
【0033】
図3は本実施例の対象となる遠心圧縮機1に於いて、ケーシングトリートメントを実施しない場合のインペラ3出口の圧力分布を示している。尚、図3は0°の位置が舌部15の位置、即ち図2の60°の位置に相当している。この圧力分布では、舌部15下流の60゜(即ち図2の0°の位置)の近傍で圧力比(インペラ3の流体出口圧力Po/流体入口圧力Pi)が最小となっている。通常では、舌部15の下流位置(図2では0゜)が圧力比最小となるが、ケーシング2の形状等によって圧力伝播の経路が異なるので、前記舌部15下流位置を特定することはできない。但し、舌部15の位置と圧力比最小とは関連性があるので、舌部15の位置に対して圧力比最小の位置は+0°から下流に+75°の範囲(図2では+60°〜−15°)に存在することが多い。
【0034】
次に、図4は、上流溝12と下流溝13との関係を示しており、本実施例では前記上流溝12は全周に設けられ、前記下流溝13については0°の位置から90゜の範囲(図2参照)で設けられていることを示す。図3のインペラ3出口の圧力分布と前記下流溝13が設けられる範囲を対比させると、出口の圧力分布が低下する範囲に前記下流溝13が設けられる。経験的にインペラ3で局部的に発生する高圧部は、インペラ3出口の圧力分布が低下する位置の下流に存在する傾向が見られ、下流溝13が必要とされる範囲は、その位置(図2では+60°〜−15°)を含み、舌部15より45°上流(図2で105°)の範囲にある。即ち舌部15上流に向って45°、舌部15下流に向って75°の範囲である。又、下流溝13の周方向幅は60°以上90°以下である。
【0035】
前記上流溝12、前記環状空間11、前記下流溝13を介して、前記インペラ3の上流端部と前記吸入口6とが連通しているので、低流量時にインペラ3内部に局部的に発生した高圧部から前記環状空間11を通してインペラ3の上流側に流体が逆流し、上流溝12より流出する部分的な再循環流が発生し、サージングの発生が抑制される。
【0036】
更に、前記下流溝13が設けられる位置は、インペラ3内部に局部的に発生した高圧部に対応した範囲に限定されて設けられるので、再循環流量が少なく、小流量時でのインペラ3出口の圧力低減が抑えられる。
【0037】
図5は、ケーシングトリートメントと遠心圧縮機の作動特性の関係を示すグラフであり、横軸は吐出流量(Q)を示し、縦軸は圧力比(Po/Pi:Poは流体出口圧力、Piは流体入口圧力)を示している。
【0038】
図5に於いて、各曲線の左側がサージングを起して作動不能となることを示している。即ち、各曲線がサージング限界値を示している。又、図5中、△のプロットはケーシングトリートメント(CT)がされていないもの、即ち環状空間11、上流溝12、下流溝13がないもの(図1参照)であり、◇のプロットは従来のケーシングトリートメントが実施されたもの、即ち上流溝12、下流溝13共に全周に亘って設けられているもの、○のプロットは本実施例の下流溝13が実施されたものである。
【0039】
図5より、従来のケーシングトリートメントを実施した遠心圧縮機と同等のサージング抑制効果が得られている。又、小流量時でのインペラ3出口の圧力では、本実施例は従来のケーシングトリートメントをしたもの、ケーシングトリートメントしていないものに比べ、圧力比が増大している。即ち、本実施例はより高圧力比での運転が可能となっている。
【0040】
而して、本実施例では、小流量側での吐出圧力、吐出流量を低減させることなく、サージング抑制効果を奏している。
【0041】
尚、下流溝13の中心の位置を、舌部15の位置を中心として±45゜の範囲に設定することで、従来のケーシングトリートメントに対し、サージング抑制効果を低下させることなく吐出圧力、吐出流量の増大を得るが、前記±45゜の範囲で更に最適な位置を設定するには、前記ケーシング2の形状、前記インペラ3の特性、遠心圧縮機1の容量等を考慮し、計算により求めるのが好ましい。
【符号の説明】
【0042】
1 遠心圧縮機
2 ケーシング
3 インペラ
4 回転軸
5 環洞流路
6 吸入口
7 ディフューザ部
8 境界壁部
9 吐出口
11 環状空間
12 上流溝
13 下流溝
15 舌部
図1
図2
図3
図4
図5