【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の圧縮機用逆止弁は、流体が通過する弁孔が形成された弁座と、前記弁座に対して下流側に位置し、上流側と下流側との圧力差に応じて前記弁座に対して着座又は離座することにより、前記弁孔を開閉する弁体とを備え、
前記弁座は、磁性材料からなり、前記弁孔回りに弁座座面が形成された弁座本体を有し、
前記弁体は、磁性材料からなり、前記弁座座面と着座又は離座する弁体座面が形成された弁体本体を有し、
前記弁座及び前記弁体の一方には、前記弁座本体と前記弁体本体とを吸引力により互いに接近するように付勢する永久磁石が設けられた圧縮機用逆止弁であって、
前記弁体が前記弁座に着座している時に前記永久磁石によって形成される前記弁座本体及び前記弁体本体の一方を含む磁気回路の磁束密度が飽和磁束密度の90%以上であるように形成され、
前記弁座本体及び前記弁体本体の一方における磁束線が通る部分の断面積は、前記永久磁石
における磁束線が通る部分の断面積に対し、小さくされていることを特徴とする。
【0011】
本発明の圧縮機用
逆止弁は、弁座と弁体とを吸引力により互いに接近するように付勢する永久磁石を採用していることから、弁体が弁座から離れるほど永久磁石の吸引力が弱くなり、バネによる
逆止弁と比較して、弁孔の開放時に弁体が弁座から離れ易い。このため、この
逆止弁は、圧力差が小さくても、弁孔を確実に開放でき、流体が上流側から弁孔を介して下流側に流れる際の圧力損失を低減できる。
【0012】
ところで、発明者らの確認によれば、バネのみによって弁体を弁座に付勢する
逆止弁においては、
図13に符号Sの許容範囲で示すように、バネの取付寸法、バネ荷重の差によって開弁圧にばらつきは生じるが、開弁圧のばらつきに温度はほとんど影響を与えていない。温度変化によってバネの取付寸法やバネの弾性係数が僅かに変化するだけであり、温度差による開弁圧のばらつきは無視できる程度である。
【0013】
一方、発明者らの確認によれば、永久磁石は、寸法公差等の体格の差の他、温度により、磁束密度が変化する。すなわち、磁束密度に対する温度係数は、例えば、ネオジム磁石が−0.1%/°C程度、サマコバ磁石が−0.05%/°C程度、フェライト磁石が−0.2%/°C程度である。
【0014】
また、吸引力をF(N)、吸引面の磁束密度をB(T)、吸引面の面積をS(m
2)、真空透磁率をμ
0(4×π×10
-7H/m)、吸引面の磁界の強さをH(A/m)とすると、
F=B
2S/2μ
0
B=μ
0H
が成立する。ここで、吸引面とは、弁座座面又は弁体座面のうち、磁束線が通過する面である。
【0015】
このため、永久磁石と磁性材料とを用いた
逆止弁においては、永久磁石の取付寸法によって開弁圧にばらつきを生じる他、温度差によって開弁圧にばらつきを生じる。取付寸法による開弁圧のばらつきよりも、温度差による開弁圧のばらつきの方が大きな変動幅を有し、温度差による開弁圧のばらつきは無視できない。
【0016】
この点、本発明の
逆止弁では、永久磁石を弁座及び弁体の一方に設けつつ、弁体が弁座に着座している時に永久磁石によって形成される弁座本体及び弁体本体の一方を含む磁気回路の磁束密度が
飽和磁束密度の90%以上であるように形成されている。
飽和磁束密度の90%以上である状態とは、磁束密度が飽和磁束密度又は飽和磁束密度と近似できる状態
である。発明者らの確認によれば、磁束密度が
飽和磁束密度の90%以上であれば、磁束密度の変化率が無視できる程度に小さい。このため、弁座本体及び弁体本体の一方は、永久磁石によって磁界が上昇しても、磁束密度がほとんど変化しない磁気特性を発揮する。このため、弁座座面及び弁体座面を通過する磁束線の量の増加は僅かであり、弁座本体と弁体本体との間に作用する吸着力の増加は少なく、開弁圧の上昇が抑制される。なお、磁束密度が
飽和磁束密度の90%以上であるか否かはシミュレーションによって確認できる。
【0017】
したがって、本発明の圧縮機用
逆止弁は、圧力損失を低減できるとともに、開弁圧のばらつきを小さくすることが可能である。
【0018】
弁座は弁座本体を有する。弁座本体は磁性材料からなる。また、弁座本体は、弁孔回りに弁座座面が形成されている。また、弁体は弁体本体を有する。弁体本体は磁性材料からなる。また、弁体本体は、弁座座面と着座又は離座する弁体座面が形成されている。磁性材料としては、S45C等の高炭素鋼、SCM435及びSCM440等のクロムモリブデン鋼等の鉄系材料、磁性を持つマルテンサイト系ステンレス鋼等を採用することができる。弁座が弁座本体そのものでもよく、弁体が弁体本体そのものでもよい。弁座本体や弁体本体が摺動性等のために樹脂によって包まれることにより、弁座や弁体とされてもよい。
【0019】
磁気回路の磁束密度が
飽和磁束密度の90%以上である
逆止弁とするためには、以下の手段を採用することができる。
(1)永久磁石の残留磁束密度を上げる。永久磁石の材質としては、例えば、ネオジム磁石、サマコバ磁石、フェライト磁石の順で先のものの方が後のものよりも残留磁束密度が高い。永久磁石が同一の材質であれば、保磁力の低い永久磁石ほど磁束密度が高い。但し、保磁力が低い永久磁石は高温不可逆減磁を起こしやすい。
(2)永久磁石の体格を大きくする。
(3)磁気回路中の磁束密度が最も高い部分(磁束線が集中している部分)の断面積を小さくする。
すなわち、永久磁石の材質、永久磁石の体積及び磁気回路の断面積を設定することにより、磁束密度が
飽和磁束密度の90%以上である
逆止弁を得ることができる。
【0020】
本発明の圧縮機用
逆止弁では、より具体的には、磁気回路の磁束密度が飽和磁束密度の90%以上であるように形成され
ている。磁束密度を飽和磁束密度にすることは製造上困難な場合があるためである。すなわち、磁束密度を飽和磁束密度とするには、(1)永久磁石自身をより体格の大きいものにする、(2)より磁束密度の高い永久磁石を採用する、(3)磁気回路の断面積をより小さくする、等の手段が考えられる。しかし、(1)の手段は
逆止弁内により大きなスペースが必要となる。また、(2)の手段は永久磁石が高額となる。さらに、(3)の手段は断面積を通過する磁束の量(磁束密度×断面積)が減り、必要な吸着力が確保できなくなる場合がある。このため、磁気回路の磁束密度が飽和磁束密度の90%であるように
逆止弁を形成すれば、その
逆止弁は、安価であり、さほどのスペースを必要とせず、必要な吸着力を確保できるので、圧縮機への搭載に適するものとなる。
【0021】
本発明の圧縮機用
逆止弁では、磁気回路の磁束密度が飽和磁束密度であるように形成されていることが好まし
い。磁束密度が飽和磁束密度であれば、圧縮機での温度変化の影響を受けない
逆止弁とすることができる。
【0022】
弁座本体及び弁体本体の一方における磁束線が通る部分の断面積は、永久磁石の断面積に対し、小さくされてい
る。この場合、上記(3)の手段により、その部分の磁束密度が確実に飽和磁束密度の90%以上になる。また、その部分が弁座座面又は弁体座面を構成し易いことから、開弁圧が安定し易い。
【0023】
永久磁石は弁座及び弁体の一方に設けられる。弁座及び弁体の他方には永久磁石を設けない。例えば、弁座に永久磁石を設ければ、弁座本体は永久磁石と磁気回路を構成する。弁座に弁体が着座すれば、弁体本体はその磁気回路に含まれる。
【0024】
具体的には、永久磁石は弁孔と同心の環状であり得る。そして、弁座本体は、先端が弁座座面とされて筒状に形成され、外周又は内周に永久磁石が固定される切欠きが形成され得る。この場合、弁体本体は、先端が弁体座面とされて筒状に形成される凸部を有し得る。弁座本体が永久磁石を保持すれば、弁体の重量を軽くできるので、上流側と下流側との圧力差の変動に対する弁体の作動性が向上する。
【0025】
また、永久磁石は弁孔と同心の環状であり得る。そして、弁体本体は、先端が弁体座面とされて凸状に形成され、外周又は内周に永久磁石が固定される切欠きが形成され得る。この場合、弁座本体は、先端が弁座座面とされて筒状に形成される凸部を有し得る。永久磁石が弁体本体に固定されている場合、永久磁石の重量によって弁体を付勢することができる。
【0026】
さらに、永久磁石は弁孔と同心の柱状であり得る。そして、弁体本体は、先端が弁体座面とされて筒状に形成され、内部に永久磁石が固定される切欠きが形成され得る。この場合、弁体本体は、先端が弁体座面とされて筒状に形成される凸部を有し得る。永久磁石が弁体本体に固定されている場合、永久磁石の重量によって弁体を付勢することができる。この場合、弁体本体は筒状に形成されていてもよい。
【0027】
本発明の圧縮機用
逆止弁は、弁座に固定され、弁体を案内する非磁性材料からなる案内部材を備えていることが好まし
い。この場合、永久磁石の磁束線が案内部材に向かって流れ難くなる。このため、弁座本体と弁体本体との間の磁束密度が高くなるので、開弁圧が安定する。非磁性材料としては、樹脂、アルミニウム系材料等を採用することができる。
【0028】
本発明の圧縮機用
逆止弁は、弁体を弁座に向かって付勢するバネを備えていることができる。永久磁石の吸引力は弁体が弁座から離れるほど弱くなる。このため、バネによって弁体を弁座に向かって付勢すれば、弁体が弁座から大きく離反しても、弁体を確実に弁座に着座させることができる。バネは、SUS316、樹脂又はFRP等の非磁性材料からなることが好ましい。
【0029】
本発明の圧縮機用
逆止弁は、弁体を弁座に向かって付勢するバネを備えていなくてもよい。この場合、弁体は、永久磁石と磁性材料との間に作用する吸引力のみによって弁座に向かって付勢される。このため、この
逆止弁は、バネが不要となるので、部品点数の削減及び組み付け作業の簡素化を実現できる。
【0030】
永久磁石は接着剤を用いて弁座本体及び弁体本体の一方に設けられ得る。また、永久磁石を圧入や嵌合によって弁座本体及び弁体本体の一方に設けてもよい。圧入や嵌合によって永久磁石を設ければ、永久磁石を接着剤で設けるよりも、組み付け作業の簡素化を実現できる。また、永久磁石が接着剤を用いて設けられる場合には、接着剤が高温により劣化して永久磁石が剥がれるおそれがあるのに対し、圧入や嵌合によって設ければ、永久磁石が高温の影響を受け難く、耐久性を向上させることができる。
【0031】
永久磁石としては、(1)バリウムフェライト磁石、ストロンチウムフェライト磁石等のフェライト磁石、(2)アルニコ磁石や希土類磁石である金属磁石、(3)ゴム磁石やプラスチック磁石であるボンド磁石等を採用することが可能である。希土類磁石としては、1−5系磁石や1−17磁石等のサマリウム−コバルト磁石の他、ネオジム磁石を採用することができる。ゴム磁石としては、フェライトゴム磁石、ネオジムゴム磁石を採用することができる。プラスチック磁石としては、フェライトプラスチック磁石、ネオジムプラスチック磁石を採用することができる。サマリウム−コバルト磁石は、ネオジム磁石と比べて磁力はやや低下するが、磁力の温度変化率(温度低下率)がネオジム磁石より小さく、温度特性に優れているとともに、錆びにくい。
【0032】
本発明の圧縮機用
逆止弁は、着座時に流体の逆流を防止する逆止弁として具体化できる他、着座時に弁座と弁体との間に一定の隙間を確保して圧力差を制御するものとして具体化することもできる。
【0033】
本発明の容量可変型斜板式圧縮機は、圧縮室、クランク室、吸入室及び吐出室を形成するハウジングと、前記ハウジングに回転可能に支持された駆動軸と、前記駆動軸の回転によって前記クランク室内で揺動可能に設けられた斜板と、前記斜板の揺動によって前記圧縮室に容積変化を生じしめるピストンとを備え、前記圧縮室の容積変化によって前記吸入室内の流体を前記圧縮室に吸入した後、圧縮し、前記吐出室に吐出するとともに、前記クランク室の圧力であるクランク圧を変更することによって前記斜板の傾斜角が変化して吐出容量が変更可能に構成された容量可変型斜板式圧縮機であって、
前記吐出室又は前記吐出室に連通する吐出通路に上記圧縮機用
逆止弁を備え、
前記圧縮機用
逆止弁は、圧縮機の温度変化にかかわらず、前記斜板が最小傾斜角から復帰する時に開くように設定されていることを特徴とす
る。
【0034】
本発明の容量可変型斜板式圧縮機では、吐出室又は吐出通路における上流側と下流側との圧力差に応じて、圧縮機用
逆止弁が弁孔を開閉する。具体的には、クランク圧が最大となり、斜板が最小傾斜角となれば、上流側と下流側との圧力差は設定された開弁圧より小さく、
逆止弁が弁孔を閉鎖する。その結果、吐出通路から吐出室又は吐出室から圧縮室への流体の逆流が防止される
。このため、容量可変型斜板式圧縮機はいわゆるオフ運転を継続する。ここで、オフ運転とは、圧縮機への冷媒の吸入と、圧縮機からの冷媒の吐出が行われない状態をいう。圧縮機に電磁クラッチが取り付けられない場合、駆動軸が回転することにより斜板は揺動するが、実質的な圧縮を行わず、内部で極少量の冷媒が循環する状態がオフ運転である。また、圧縮機に電磁クラッチが取り付けられる場合、電磁クラッチがOFFされることにより駆動軸が回転されない状態もオフ運転である。
【0035】
一方、クランク圧が小さくなり、斜板が最小傾斜角から復帰すれば、上流側と下流側との圧力差は設定された開弁圧より大きくなり、
逆止弁が弁孔を開放する。その結果、圧縮室から吐出された流体が吐出室から吐出通路へと流れる。このため、容量可変型斜板式圧縮機はいわゆるオフ運転から復帰する。
【0036】
この際、この容量可変型斜板式圧縮機は、圧縮機の温度変化にかかわらず、本発明の圧縮機用
逆止弁が圧力損失を低減できるとともに、開弁圧のばらつきを小さくできるため、起動時や低容量運転時に安定した起動及び動力低減を実現することができる。