特許第5948928号(P5948928)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5948928-ガスバリア性積層フィルム 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5948928
(24)【登録日】2016年6月17日
(45)【発行日】2016年7月6日
(54)【発明の名称】ガスバリア性積層フィルム
(51)【国際特許分類】
   B32B 9/00 20060101AFI20160623BHJP
   C23C 16/42 20060101ALN20160623BHJP
【FI】
   B32B9/00 A
   !C23C16/42
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-26954(P2012-26954)
(22)【出願日】2012年2月10日
(65)【公開番号】特開2013-163296(P2013-163296A)
(43)【公開日】2013年8月22日
【審査請求日】2015年1月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089875
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 茂
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 菜穂
【審査官】 増田 亮子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−208029(JP,A)
【文献】 特開2008−068460(JP,A)
【文献】 特開2005−289041(JP,A)
【文献】 特開2011−079219(JP,A)
【文献】 特開2011−178064(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチックフィルムからなる基材層の一方の面に、第1のアンカー層と、酸化珪素からなる第1のガスバリア層と、第2のアンカー層と、酸化珪素からなる第2のガスバリア層と、オーバーコート層とをこの順で形成したガスバリア性積層フィルムにおいて、
前記第1のガスバリア層側の前記第1のアンカー層の表面および前記第2のガスバリア層側の第2のアンカー層の表面の算術平均粗さ(Ra)がいずれも5nm以下であり、前記基材層の他方の面の算術平均粗さ(Ra)が100nm以上であり、かつ、前記オーバーコート層の厚さが100nm以上2000nm以下であり、鉛筆硬度がH以上であり、
前記基材層の他方の面に、無機フィラーを含むコーティング層が形成され、
前記無機フィラーの粒子径が50nm以上300nm以下である
ことを特徴とするガスバリア性積層フィルム。
【請求項2】
前記第1および第2のアンカー層の厚さが、それぞれ20nm以上1000nm以下であることを特徴とする、請求項に記載のガスバリア性積層フィルム。
【請求項3】
前記前記第1のガスバリア層側の前記第1のアンカー層の表面および前記第2のガスバリア層側の第2のアンカー層の表面の算術平均粗さ(Ra)は、いずれも3nm以下であることを特徴とする、請求項1または2に記載のガスバリア性積層フィルム。
【請求項4】
前記第1および第2のガスバリア層の厚さが、それぞれ10nm以上100nm以下である、請求項1〜のいずれか1項に記載のガスバリア性積層フィルム。
【請求項5】
400nm〜1000nmにおける分光透過率が85%以上であることを特徴とする、請求項1〜のいずれか1項に記載のガスバリア性積層フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品、日用品、医薬品などの包装分野、および電子機器関連部材などの分野において、特に高いガスバリア性が必要とされる場合に、好適に用いられるガスバリア性積層フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
食品、日用品、医薬品などの包装に用いられる包装材料や電子機器関連部材などに用いられる包装材料は、収容物の変質を抑制して、その機能や性質を包装中においても保持できるようにするため、包装材料を透過する酸素、水蒸気など、収容物を変質させる気体による影響を防止する必要があり、これらの気体を遮断するガスバリア性を備えていることが求められている。
【0003】
通常のガスバリア性を有する包装材料としては、比較的ガスバリア性に優れている塩化ビニリデン樹脂フィルムまたは塩化ビニリデン樹脂をコーティングしたフィルムなどがよく用いられてきたが、これらの包装材料は、高度なガスバリア性が要求される包装に用いることはできない。従って高度なガスバリア性が要求される場合には、アルミニウムなどの金属箔をガスバリア層として積層した包装材料を用いざるを得なかった。
【0004】
アルミニウムなどの金属箔を積層した包装材料は、温度や湿度の影響が殆どなく、高度なガスバリア性を有している。しかし、こうした包装材料では、それを透視して収容物を確認することができない、使用後に不燃物として廃棄処理しなければならない、収容物の検査に金属探知器が使用できない、などの多くの欠点を有していた。
【0005】
これらの欠点を克服した包装材料として、特許文献1には、透明なプラスチックフィルムからなる基材層に、透明な酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウムなどの無機酸化物の蒸着薄膜層をガスバリア層とし、その上に適宜のガスバリア性被膜層とを積層してなる積層フィルムが開示されている。
【0006】
また近年、次世代のFPD(フラットパネルディスプレイ)として期待される電子ペーパー、有機ELディスプレイなどの開発が進むなかで、これらFPDのフレキシブル化を達成するため、ガラス基板をプラスチックフィルムに置き換えたいという要求が高まっている。
ガラス基板は環境由来の酸素や水蒸気による内部素子の劣化を抑制するため必要とされるガスバリア性が備わっている。しかし、上述した包装材料用のガスバリアフィルムはそのバリアレベルには達しておらず、プラスチックフィルムが適用され得る電子ペーパー、有機ELディスプレイなどでは、食品包材用バリアフィルムの100倍から1万倍のガスバリア性が必要とも言われている。
このような高いガスバリア性を有するプラスチックフィルムを実現するために、電子ビーム蒸着や誘導加熱蒸着を用いた反応性蒸着法、スパッタリング法、プラズマ化学蒸着(CVD)法などのドライコーティング法により成膜された無機酸化物薄膜は、高いガスバリア性の発現が期待できるものとして検討されている。
【0007】
しかしながら、上記ドライコーティング法を用いたとしても、高いガスバリア性を目指すために緻密な膜を得ようとすると、高温プロセスが必要であったり、緻密であるために膜中の応力が大きくなる傾向がある。そのため、プラスチックフィルムの使用可能な温度範囲では緻密な膜を得ることが困難であったり、プラスチックフィルムと無機酸化物薄膜との熱膨張係数の差が大きいため密着不良やクラックが発生したりする問題が生じ、高いガスバリア性の発現は容易ではない。
【0008】
その中で、有機シラン化合物を用いたプラズマCVD法による酸化珪素薄膜は、高いガスバリア性を発現するバリア層として検討されており、特許文献2には炭素濃度および、酸化珪素薄膜の組成を制御することで、密着性と透明性が改善するとの報告がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平7−164591号公報
【特許文献2】特開平11−322981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献2に記載された酸化珪素薄膜は、水蒸気バリア性は若干劣ると記載されており、特に高いガスバリア性を必要とする電子ペーパーやLCD(液晶ディスプレイ)、有機ELディスプレイなどのFPD向けとしては、ガスバリア性が不十分である。
本発明の目的は、食品、日用品、医薬品などの包装分野や電子機器関連部材などの分野において、特に高いガスバリア性が必要とされる場合に好適に用いることができ、また巻取り(Roll to Roll)方式でガスバリア性積層フィルムを製造する場合に、ブロッキングの発生が防止され、高い生産性が得られるガスバリア性積層フィルムを提供することにある。
さらに本発明の目的は、上述した電子ペーパーやLCD、有機ELディスプレイなどのFPD向けとして、ガスバリア性が不十分である問題を解決するものであり、水蒸気バリア性に優れた、透明なガスバリア性積層フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に記載の発明は、 プラスチックフィルムからなる基材層の一方の面に、第1のアンカー層と、酸化珪素からなる第1のガスバリア層と、第2のアンカー層と、酸化珪素からなる第2のガスバリア層と、オーバーコート層とをこの順で形成したガスバリア性積層フィルムにおいて、 前記第1のガスバリア層側の前記第1のアンカー層の表面および前記第2のガスバリア層側の第2のアンカー層の表面の算術平均粗さ(Ra)がいずれも5nm以下であり、前記基材層の他方の面の算術平均粗さ(Ra)が100nm以上であり、かつ、前記オーバーコート層の厚さが100nm以上2000nm以下であり、鉛筆硬度がH以上であり、前記基材層の他方の面に、無機フィラーを含むコーティング層が形成され、前記無機フィラーの粒子径が50nm以上300nm以下であることを特徴とするガスバリア性積層フィルムである。上記本発明の層構成によれば、単層のガスバリア層における微小な欠陥を補完するとともに、オーバーコート層によってガスバリア層を保護し、上記のFPD用途にも適合し得る高度なガスバリア性を有するガスバリア性積層フィルムを得たものである。この時、アンカー層の表面の算術平均粗さ(Ra)を5nm以下とし、基材層の他方の面の算術平均粗さ(Ra)を100nm以上とすることにより、優れたガスバリア性を安定して発揮するガスバリア性積層フィルムを得ることができ、かつ途中工程において複数枚のフィルムを同じ向きに積み重ねたときのブロッキングを防止し、安定的に製造することができる。また、前記オーバーコート層の厚さが100nm以上2000nm以下であり、鉛筆硬度がH以上であるので、ガスバリア層を途中工程の摩擦などから守り、優れたガスバリア性を安定して発揮することができる。
また、途中工程においてフィルムの表裏面がブロッキングすることを防止することができる。
請求項に記載の発明は、前記第1および第2のアンカー層の厚さが、それぞれ20nm以上1000nm以下であることを特徴とする、請求項に記載のガスバリア性積層フィルムである。この構成によれば、アンカー層の塗工面のRaを安定的に小さくすることを担保できるとともに、過剰な膜厚に起因する密着性の低下を防止する効果がある。
請求項に記載の発明は、前記前記第1のガスバリア層側の前記第1のアンカー層の表面および前記第2のガスバリア層側の第2のアンカー層の表面の算術平均粗さ(Ra)は、いずれも3nm以下であることを特徴とする、請求項1または2に記載のガスバリア性積層フィルムである。この構成によれば、ガスバリア層のガスバリア性をさらに向上せしめる効果がある
請求項に記載の発明は、前記第1および第2のガスバリア層の厚さが、それぞれ10nm以上100nm以下である、請求項1〜のいずれか1項に記載のガスバリア性積層フィルムである。この構成によれば、優れたガスバリア性が安定して発揮される。
請求項に記載の発明は、400nm〜1000nmにおける分光透過率が85%以上であることを特徴とする、請求項1〜のいずれか1項に記載のガスバリア性積層フィルムである。この構成によれば、可視光の透過性が良好であり、透明性が必要とされる用途にもガスバリア性積層フィルムを用いることができる。
【発明の効果】
【0012】
このように本発明によれば、食品、日用品、医薬品などの包装分野や電子機器関連部材などの分野において、特に高いガスバリア性が必要とされる場合に好適に用いることができ、また巻取り(Roll to Roll)方式でガスバリア性積層フィルムを製造する場合に、ブロッキングの発生が防止され、高い生産性が得られるガスバリア性積層フィルムを提供することができる。また、本発明は、上述した電子ペーパーやLCD、有機ELディスプレイなどのFPD向けとして、ガスバリア性が不十分である問題を解決するものであり、水蒸気バリア性に優れた、透明なガスバリア性積層フィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係るガスバリア性積層フィルムの一実施態様における断面構成を示した断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係るガスバリア性積層フィルムについて、図面を参照しながらさらに説明する。図1は、本発明に係るガスバリア性積層フィルムの一実施態様における断面構成を示した断面模式図である。本発明のガスバリア性積層フィルム(7)は、基材層(1)の一方の面に、第1のアンカー層(2)と酸化珪素からなる第1のガスバリア層(3)と、第2のアンカー層(4)と、第2のガスバリア層(5)と、オーバーコート層(6)とがこの順で積層されている。
【0015】
本発明のガスバリア性積層フィルム(7)において、基材層(1)は透明なプラスチックフィルムからなるものが好ましく、透明なプラスチックフィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)などのポリエステルフィルム、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィンフィルム、ポリエーテルスルフォン(PES)、ポリスチレンフィルム、ポリアミドフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリアクリルニトリルフィルム、ポリイミドフィルム、ポリ乳酸などの生分解性プラスチックフィルム、などが用いられる。
これらの透明なプラスチックフィルムは、延伸、未延伸のどちらでもよいが、機械的強度や寸法安定性などが優れたものが好ましい。特に、耐熱性や寸法安定性などの面から、包装材料には二軸方向に延伸したポリエチレンテレフタレートが好ましく用いられる。
さらに高度な耐熱性や寸法安定性が求められるLCDや有機ELディスプレイなどのFPD向けにはポリエチレンナフタレートやポリエーテルスルフォン、ポリカーボネートなどが好ましく用いられる。
また、透明なプラスチックフィルムは、帯電防止剤、紫外線防止剤、可塑剤、滑剤等などの添加剤を含有してもよい。さらに、透明なプラスチックフィルムにおいて、他の層を積層する側の表面には、密着性をよくするために、コロナ処理、低温プラズマ処理、イオンボンバード処理、薬品処理、溶剤処理などを施してもよい。
【0016】
これらの透明なプラスチックフィルムからなる基材層(1)の厚さは、特に制限を受けるものではないが、包装材料としての適性や他の層を積層する場合の加工適性などを考慮すると、実用的には3μm以上200μm以下の範囲、特に6μm以上30μm以下の範囲であることが好ましく、太陽電池、電子ペーパーや有機ELディスプレイなどのFPD向けとしては、加工適正などを考慮すると、実用的には25μm以上200μm以下の範囲であることが好ましい。
【0017】
本発明のガスバリア性積層フィルム(7)において、特に巻取り(Roll to Roll)方式で作製する場合、表面の算術平均粗さ(Ra)が小さい平滑面同士が接触すると、ブロッキングが起こり傷や膜はがれなどによるガスバリア性劣化の可能性がある。ブロッキングを防ぐため、後述するアンカー層と接触する基材層表面(ガスバリア層が形成されない側の基材層の表面)のRaは100nm以上であることが好ましい。基材表面のRaは、無機フィラーを含むコーティング層を形成し、例えば無機フィラーの粒径や含量を調整すること等により調節することができる。無機フィラーは、粒子径が50nm以上300nm以下であることが好ましい。粒子径が50nmより小さいと、アンカー層と接触する基材層表面のRaを100nm以上に調整することが困難であるため、ブロッキングを防ぐ効果が小さくなり、また300nmより大きいと、基材層の透明性が損なわれる可能性がある。また無機フィラーは、コーティング層に対して0.5〜10wt%の割合で含まれていることが好ましい。0.5wt%より少なく含まれる場合、基材層表面のRaを100nm以上に調整することが困難であるため、ブロッキングを防ぐ効果が小さくなり、10wt%より多く含まれる場合、基材層の透明性が損なわれる可能性がある。無機フィラーは、酸化珪素、酸化アルミ、酸化カルシウム、炭化カルシウムなどが好ましく用いられる。
【0018】
本発明のガスバリア性積層フィルム(7)における第1のアンカー層(2)の役割は、基材層(1)の表面を平滑化することにより、第1のアンカー層(2)上に形成する第1のガスバリア層(3)が優れたガスバリア性を発現するものである。また第2のアンカー層(4)の役割は、第1のガスバリア層(3)の表面を平滑化することにより、第2のアンカー層(4)上に形成する第2のガスバリア層(5)が優れたガスバリア性を発現するものである。
第1のガスバリア層(3)側の第1のアンカー層(2)の表面および第2のガスバリア層(5)側の第2のアンカー層(4)の表面のRaが5nmより大きく、平滑でない表面にガスバリア層を形成した場合、均一な膜形成ができず、十分なガスバリア性が発現しない。そのため、第1のアンカー層(2)および第2のアンカー層(4)によって基材層(1)および第1のガスバリア層(3)の表面を平滑化する場合、Raを5nm以下、好ましくは3nm以下にする必要がある。
【0019】
なお、優れたガスバリア性の発現に寄与するのは微小領域の表面平滑性であり、上述のRaは、数μm〜数百μmの領域で測定することが好ましく、例えば走査プローブ顕微鏡を用い、タッピングモードで測定することができる。
【0020】
第1のアンカー層(2)および第2のアンカー層(4)の膜厚は、いずれも20nm以上1000nm以下であることが好ましい。膜厚が20nm未満であると均一な膜形成が難しく十分な平滑化機能が発揮できない。また膜厚が1000nmを超えるとガスバリア性積層体の光学特性を制御することが困難となる他、アンカー層硬化時の内部応力が過度に働き、密着性が低下する恐れがある。
【0021】
第1のアンカー層(2)および第2のアンカー層(4)は、周知のコーティング方法、例えばディッピング法、ロールコート法、グラビアコート法、エアナイフコート法、コンマコート法などを用いて基材層(1)または第1のガスバリア層(3)にコーティングし、その後溶媒などを除去し、コーティング膜を乾燥・硬化させることで得ることができる。効率的で生産コストの低減が可能であるため巻取り(Roll to Roll)方式で作製することが好ましい。
【0022】
本発明のガスバリア性積層フィルム(7)において、第1のアンカー層(2)および第2のアンカー層(4)は、ポリオール類とイソシアネート化合物を任意の配合比で混合した混合液を調製し、混合液を基材層(1)または第1のガスバリア層(3)にコーティングして形成するのがよい。混合液は溶媒を加え、任意の濃度に希釈してもよい。
【0023】
本発明のガスバリア性積層フィルム(7)において、第1のガスバリア層(3)および第2のガスバリア層(5)の膜厚は、それぞれ10nm以上100nm以下であることが好ましい。膜厚が10nm未満であるとガスバリア材としての機能を十分に果たすことができず、また100nmを超えるとガスバリア層にクラックが生じやすくなる他、ガスバリア性積層体の光学特性を制御することが困難となる。
【0024】
本発明のガスバリア性積層フィルム(7)において、第1のガスバリア層(3)および第2のガスバリア層(5)の形成方法は、特に限定されるものではないが、基材層(1)の表面に、酸化珪素からなるガスバリア層を真空中において成膜して、高いガスバリア性を発現させるためには、現時点ではプラズマ化学蒸着(CVD)法が好ましく、上記プラスチックフィルムからなる基材層の一方の面に成膜することができる。また、プラスチック基材の特徴を活かした巻取(Roll to Roll)方式による連続蒸着を行うことができ、巻取式の真空蒸着成膜装置を用いることが好ましい。また、プラズマ発生装置としては、直流(DC)プラズマ、低周波プラズマ、高周波プラズマ、パルス波プラズマ、3極構造プラズマ、マイクロ波プラズマなどの低温プラズマ発生装置が用いられる。
【0025】
プラズマCVD法により積層される第1のガスバリア層(3)および第2のガスバリア層(5)は、分子内に炭素を有するシラン化合物と酸素ガスを原料として成膜することができ、この原料に不活性ガスを加えて成膜することもできる。分子内に炭素を有するシラン化合物としては、テトラエトキシシラン(TEOS)、テトラメトキシシラン(TMOS)、テトラメチルシラン(TMS)、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)、テトラメチルジシロキサン、メチルトリメトキシシランなどの比較的低分子量のシラン化合物を選択し、これらシラン化合物の1つまたは、複数を選択しても良い。
プラズマCVD法による成膜では、上記シラン化合物を気化させ酸素ガスと混合したものを電極間に導入し、低温プラズマ発生装置にて電力を印加してプラズマ化し、上記アンカー層2に積層することができる。また、プラズマCVD法では、酸化珪素からなるガスバリア層の膜質を様々な方法で変えることが可能であり、ガスバリア層の酸素成分や炭素成分の組成比を増減させることが比較的容易にでき、例えば、シラン化合物やガス種の変更、シラン化合物と酸素ガスの混合比や、印加電力の増減などがその有効な手法となる。
【0026】
本発明のガスバリア性積層フィルム(7)におけるオーバーコート層(6)は、第2のガスバリア層(5)上に形成されるものであり、酸化珪素からなる第2のガスバリア層(5)を保護し、ガスバリア性劣化を防ぐものである。前記オーバーコート層(6)の膜厚は100nm以上2000nm以下であることが好ましい。膜厚が100nm未満であると第2のガスバリア層(5)を保護する機能が十分に発揮できず、また2000nmを超えるとオーバーコート層硬化時の内部応力が過度に働き、密着性が低下する恐れがある。
またオーバーコート層(6)の鉛筆硬度はH以上であることが好ましい。H未満であると、途中工程の摩擦などから第2のガスバリア層(5)を保護する機能が十分に発揮できず、またオーバーコート層(6)自身が傷つき、光学特性が悪化する恐れがある。第2のガスバリア層(5)を途中工程の摩擦などから守り、優れたガスバリア性を安定して発揮するためには、オーバーコート層の膜厚が300nm以上、鉛筆硬度は2H以上であることがより好ましい。
オーバーコート層(6)は、少なくともポリオール類とイソシアネート化合物を任意の配合比で混合した混合液を調製し、混合液をコーティングして形成するものであることが好ましい。ポリオール類にはアクリルポリオール、ポリエステルポリオールなどが好ましく用いられ、またイソシアネート化合物には前記ポリオール類とウレタン結合を形成するTDI(トリレンジイソシアネート)系、HDI(ヘキサメチレンジイソシアネート)系などが好ましく用いられる。オーバーコート層(6)の鉛筆硬度をH以上にするためには、ポリオール類とイソシアネート化合物の混合比や、コーティング膜の硬化・乾燥温度を制御する方法が有効である。また前記ポリオール類とイソシアネート化合物の混合液に、シランカップリング剤、分散剤、安定剤などを添加してもよい。
オーバーコート層(6)は周知のコーティング方法、例えばディッピング法、ロールコート法、グラビアコート法、エアナイフコート法、コンマコート法などを用いて第2のガスバリア層(5)上にコーティングし、その後溶媒などを除去し、コーティング膜を乾燥・硬化させることで得ることができる。効率的で生産コストの低減が可能であるため巻取り(Roll to Roll)方式で作製することが好ましい。
【0027】
本発明のガスバリア性積層フィルム(7)を太陽電池モジュールの表面保護シートやFPD向けに用いる場合、高い光透過性が求められるため、ガスバリア性積層フィルムの400nm〜1000nmにおける分光透過率は85%以上であることが好ましく、また90%以上であることがより好ましい。
【実施例】
【0028】
以下、本発明に係るガスバリア性積層フィルムについて、実施例および比較例によりさらに説明するが、本発明は下記例に制限されるものではない。
【実施例1】
【0029】
基材層(1)として、片面に粒子径150nmの酸化珪素からなる無機フィラーが1.2wt%含まれるコーティング剤を塗布し、反対面は未処理である厚さ100μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを用意した。このとき、コーティングがなされている面の算術平均粗さ(Ra)は700nmであった。フィルムの未処理面にアクリルポリオールとヘキサメチレンジイソシアネートからなる混合液をグラビアコート法によりコーティングし、乾燥・硬化させ厚さ50nmの第1のアンカー層(2)を形成した。このとき、第1のアンカー層(2)のRa(後述の第1のガスバリア層(3)側)は3nmであった。
続いてプラズマCVD法を用い、ヘキサメチレンジシロキサン(HMDSO)/酸素=10/100sccmの混合ガスを電極間に導入し、電力を0.5kW印加してプラズマ化し、第1のアンカー層上(2)に酸化珪素からなる厚さ60nmの第1のガスバリア層(3)を形成した。次に、第1のアンカー層(2)と同様に厚さ50nmの第2のアンカー層(4)を形成した。このとき第2のアンカー層(4)のRa(後述の第2のガスバリア層(5)側)は4nmであった。続いて第1のガスバリア層(3)と同様にして厚さ60nmの第2のガスバリア層(5)を形成した。最後に、第2のガスバリア層(5)上に、ポリエステルポリオールとトリレンジイソシアネートからなる混合液をグラビアコート法によりコーティングし、乾燥・硬化させ厚さ150nmのオーバーコート層(6)を形成した。このとき、オーバーコート層(6)の鉛筆硬度はHであった。なお、第1のアンカー層(2)からオーバーコート層(6)に到るまで、巻取り(Roll to Roll)方式で積層した。こうして、実施例1のガスバリア性積層フィルムを作製した。
【実施例2】
【0030】
実施例1のガスバリア性積層フィルムにおいて、第1のアンカー層(2)のRaを1nm、第2のアンカー層(4)のRaを2nmとした以外は、実施例1と同様にして実施例2のガスバリア性積層フィルムを作製した。
【実施例3】
【0031】
実施例1のガスバリア性積層フィルムにおいて、オーバーコート層(6)の膜厚を300nm、鉛筆硬度を2Hとした以外は、実施例1と同様にして実施例3のガスバリア性積層フィルムを作製した。
【実施例4】
【0032】
実施例1のガスバリア性積層フィルムにおいて、第1のガスバリア層(3)および第2のガスバリア層(5)の膜厚を100nmとした以外は、実施例1と同様にして実施例4のガスバリア性積層フィルムを作製した。
【0033】
<比較例1>
実施例1のガスバリア性積層フィルムにおいて、基材層(1)として片面にコーティングがなされ、反対面は未処理であるポリエチレンナフタレート(PEN)フィルムを基材に用いた以外は、実施例1と同様にして比較例1のガスバリア性積層フィルムを作製した。このとき、基材層のコーティング面のRaは20nmであった。
【0034】
<比較例2>
比較例1のガスバリア性積層フィルムにおいて、基材層(1)のコーティング面のRaが5nmであるポリエチレンナフタレート(PEN)フィルムを基材に用いた以外は、比較例1と同様にして比較例2のガスバリア性積層フィルムを作製した。
【0035】
<比較例3>
実施例1のガスバリア性積層フィルムにおいて、第1のアンカー層(2)および第2のアンカー層(4)のRaを10nmとした以外は、実施例1と同様にして比較例3のガスバリア性積層フィルムを作製した。
【0036】
<比較例4>
実施例1のガスバリア性積層フィルムにおいて、オーバーコート層(6)の鉛筆硬度をHBとした以外は、実施例1と同様にして比較例4のガスバリア性積層フィルムを作製した。
【0037】
<比較例5>
実施例4のガスバリア性積層フィルムにおいて、第2のガスバリア層(5)上にオーバーコートを積層しなかった以外は、実施例4と同様にして比較例5のガスバリア性積層フィルムを作製した。
【0038】
<比較評価>
実施例1、2および比較例1、2、3、4のガスバリア性積層フィルムについて、モダンコントロール社製の水蒸気透過率計(MOCON PERMATRAN−W 3/31)により、40℃−90%RH雰囲気下での水蒸気透過率(g/m/24h)を測定した。この測定結果を表1に示す。
【0039】
【表1】
【0040】
表1からわかるように、実施例1、2、3、4のガスバリア性積層フィルムは、低い水蒸気透過率であった。一方、比較例1、2、3、4のガスバリア性積層フィルムは、実施例1、2と比べて水蒸気透過率が高かった。比較例1、2に関しては、ガスバリア性積層フィルムを光学顕微鏡で観察したところ、表裏面のブロッキングが原因と思われるガスバリア層のはがれが確認された。また比較例4および比較例5のガスバリア性積層フィルム表面には、途中工程でついたと思われる傷が目視で確認された。
【符号の説明】
【0041】
1 基材層
2 第1のアンカー層
3 第1のガスバリア層
4 第2のアンカー層
5 第2のガスバリア層
6 オーバーコート層
7 ガスバリア性積層フィルム
図1