特許第5948931号(P5948931)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 凸版印刷株式会社の特許一覧

<>
  • 特許5948931-表示体 図000002
  • 特許5948931-表示体 図000003
  • 特許5948931-表示体 図000004
  • 特許5948931-表示体 図000005
  • 特許5948931-表示体 図000006
  • 特許5948931-表示体 図000007
  • 特許5948931-表示体 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5948931
(24)【登録日】2016年6月17日
(45)【発行日】2016年7月6日
(54)【発明の名称】表示体
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/18 20060101AFI20160623BHJP
   G09F 19/12 20060101ALI20160623BHJP
   G09F 19/14 20060101ALI20160623BHJP
   B42D 25/328 20140101ALI20160623BHJP
【FI】
   G02B5/18
   G09F19/12 Z
   G09F19/14
   B42D15/10 328
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-31659(P2012-31659)
(22)【出願日】2012年2月16日
(65)【公開番号】特開2013-167796(P2013-167796A)
(43)【公開日】2013年8月29日
【審査請求日】2015年1月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】塚原 俊之
(72)【発明者】
【氏名】戸田 敏貴
【審査官】 大竹 秀紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−118034(JP,A)
【文献】 特開2008−077042(JP,A)
【文献】 特開2004−239952(JP,A)
【文献】 特開2011−164180(JP,A)
【文献】 特開2009−012411(JP,A)
【文献】 特開2005−301066(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/18
B42D 25/328
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の面を有する多面体が単位画素の集合体である複数の単位画素群により表示される表示体であって、前記単位画素が複数の光反射面を有し、前記多面体を観察する観察者に対して光の射出方向が前記多面体の面ごとに異なるように前記光反射面が前記単位画素を単位として一様な方向に傾斜して微小凹凸を形成しており、
前記微小凹凸の断面が鋸歯形状であり、
前記微小凹凸の繰り返しピッチが10μm以上であることを特徴とする表示体。
【請求項2】
前記微小凹凸の種類が少なくとも2種類以上であることを特徴とする請求項1に記載の表示体。
【請求項3】
前記微小凹凸の深さ又は高さが一定であることを特徴とする請求項1または2に記載の表示体。
【請求項4】
前記微小凹凸の繰り返しピッチが一定であることを特徴とする請求項1〜のいずれか一項に記載の表示体。
【請求項5】
前記微小凹凸が平面視で直線状の格子構造であることを特徴とする請求項1〜のいずれか一項に記載の表示体。
【請求項6】
前記単位画素の縦方向寸法と横方向寸法が300μm以下であることを特徴とする請求項1〜のいずれか一項に記載の表示体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表示体に関する。
【背景技術】
【0002】
キャッシュカード、クレジットカード及びパスポートなどの認証物品並びに商品券及び株券などの有価証券には、偽造が困難であることが望まれる。そのため、従来から、そのような物品には、その偽造を抑止すべく、偽造又は模造が困難であると共に、偽造品や模造品との区別が容易なラベルが貼り付けられている。
ホログラムは優れた意匠性を持ち、カラー複写機においても複製できない偽造・変造の困難性から数多く利用されてきた。しかし、近年ではホログラムにも巧妙な偽造品が出現し、一見すると真偽の判定が困難な事例も見られるようになってきた。
【0003】
偽造防止の困難さや意匠性を向上させる為の方法のひとつとして、ブレーズド格子を応用した潜像入り回折格子表示体などが提案されている(特許文献1)。
また、特許文献2に示されるような、回折構造(ブレーズド)を用いた表示体も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4179534号
【特許文献2】特開2011−123266号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の回折格子やブレーズド格子を用いた表示体では、潜像を観察可能な角度が限定的であるため、真偽判定が必ずしも容易ではないことや、表示体を180°大きく回転させなくては、真偽判定ができず、煩雑さが伴う。また、潜像を入れることで必ずしも意匠性が上がっているとは言い難い表示体が多かった。
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、観察者が擬似的な立体感を得られるような新たな意匠性を持った表示体を提供することにある。また、複製が困難で偽造防止効果の高い表示体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、請求項1の発明は、複数の面を有する多面体が単位画素の集合体である複数の単位画素群により表示される表示体であって、前記単位画素が複数の光反射面を有し、前記多面体を観察する観察者に対して光の射出方向が前記多面体の面ごとに異なるように前記光反射面が前記単位画素を単位として一様な方向に傾斜して微小凹凸を形成しており、前記微小凹凸の断面が鋸歯形状であり、前記微小凹凸の繰り返しピッチが10μm以上であることを特徴とする。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1に記載の表示体において、前記微小凹凸の種類が少なくとも2種類以上であることを特徴とする
請求項の発明は、請求項1または2に記載の表示体において、前記微小凹凸の深さ又は高さが一定であることを特徴とする。
【0008】
請求項の発明は、請求項1〜のいずれか一項に記載の表示体において、前記微小凹凸の繰り返しピッチが一定であることを特徴とする
請求項の発明は、請求項1〜のいずれか一項に記載の表示体において、前記微小凹凸が平面視で直線状の格子構造であることを特徴とする。
請求項の発明は、請求項1〜のいずれか一項に記載の表示体において、前記単位画素の縦方向寸法と横方向寸法が300μm以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、微小凹凸で反射した光が多面体の面ごとに異なるように単位画素から射出することになるので、多面体を立体的に表示することができ、これにより、多面体を観察する観察者に対して擬似的な立体感を与えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係る表示体を示す平面図である。
図2】本発明の一実施形態に係る表示体の単位画素群を構成する単位画素の例を示す平面図である。
図3図2のX−X'断面を示す図である。
図4】本発明に係る表示体に表示された多面体の観察例を示す図である。
図5図3の微細凹凸を形成する斜面の向きと光源との位置的関係を示す図である。
図6】光源から微細凹凸に入射する光の入射角度と回折光の射出角度との関係を模式的に示す図である。
図7】本発明の他の実施形態に係る表示体を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態を説明する。尚、以下に述べる実施形態は、本発明の好適な具体例であり、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの形態に限られない。
図1は本発明の一実施形態に係る表示体を示す平面図であり、本実施形態では、例えば6面体を形成する6つの面のうち3つの面2A,2B,2Cが表示体1によって表示された場合を示している。
【0012】
面2A,2B,2Cを表示する部分は、それぞれ複数の単位画素3からなる単位画素群で構成されている。つまり、図1に示される面2A,2B,2Cは表示体1の単位画素群と同義である。
表示体1の単位画素群は、図1に示すように、外形形状が矩形形状の単位画素3から構成されても良いし、外形形状が図7に示すような単位画素3から構成されても良い。
表示したい多面体の形状と表現したい面2に合わせて単位画素3の形状を区切り易いように決定すれば良く、単位画素3の形状によって、後述する本発明の効果の有効性が失われることはまったく無い。
【0013】
単位画素3の3つの例を図2に示すと共に、単位画素3の断面を図3に示す。図2に示されるように、単位画素3は一様な方向に傾斜した複数の斜面(光反射面)4を有し、これらの斜面4は図3に示すような微小凹凸5を形成している。
微小凹凸5は鋸歯状の断面形状をしており、入射してきた光を強く一方向に射出する機能を持っている。以下に、具体的な効果を述べる。
単位画素3は、上方向および下方向からの入射光Iに対して、それぞれ図3(A)および図3(B)のように振る舞う。すなわち、上方向からの入射光Iに対しては、図3(A)に示すように、正面方向に光を射出する。一方、下方向からの入射光Iに対しては、図3(B)に示すように、正反射角度の方向へ光を射出させている。
【0014】
例えば、表示体1に表示されている面2A〜2Cを図4に示す位置関係で観察者20が観察した場合を考える。面2Aが図3に示すような断面形状の微小凹凸5によって表示される場合、観察者20は微小凹凸5から射出する光を観察することが可能となり、面2Aを明るい面として視認することが可能となる。
本発明においては、表示したいそれぞれの面2に対応させて、微小凹凸5の斜面(光反射面)4の方向を決定している。図1に示す表示体1では、面2Aを表示する部分の微小凹凸5の斜面4が正面方向を向くように傾斜しており、面2Bを表示する部分の微小凹凸5の斜面4が上方向を向くように傾斜し、面2Cを表示する部分の微小凹凸5の斜面4が右方向を向くように傾斜している。
【0015】
表示体1の各単位画素群により表示される面の形状に対応させて斜面4の向きを決定することで、面2A,2B,2Cに対応した微小凹凸5から射出する光の方向を制御でき、観察者20に対して面ごとに明るさの異なる光を射出することが可能となる。
光の入射方向、表示体1の向き、観察者20の方向が相対的に変化した際に、多面形状が立体として存在する時と同様の反射光変化が起きる。その為、表示体1により多面形状に陰影がついたような印象を観察者20に与えることができ、擬似的な立体感を得ることが可能となる。
【0016】
上記の様な機能を実現するための微小凹凸5として、図3に示したような断面構造、すなわち微小凹凸5の断面が鋸歯状の格子がある(図3に示すような断面の格子を鋸歯格子と呼ぶ)。鋸歯格子を用いれば、単位画素毎の回折光強度を変化させることで、単位画素3から射出される光強度を変調することができるので、面内で光の明暗を作ることができ、より意匠性の高い表示体を提供できるようになる。
【0017】
鋸歯格子の射出光強度を変化させる方法としては、鋸歯格子の高さD(図3参照)を変えることにより容易に実現できる。高さ(または深さ)Dとは、微小凹凸5のひとつの凸部から凹部までの距離である。
高さDが一定であれば、微小凹凸5を作製し易く、また高さDの精度も高くすることが容易になる利点がある。また、鋸歯格子の高さDを一定にすることで、単位画素群から射出される光にムラが無くなり、ノイズの少ない高品位な表示が可能となる。
【0018】
また、図2に示す微小凹凸5として、断面が図3に示すような鋸歯状の格子などを用いた場合、凸部と凸部または凹部と凹部の繰り返しピッチPが一定であれば、一方向に光を強く射出する機能の精度が向上する。また、ピッチPが一定であれば、微小凹凸5を形成する際に、ピッチが揃った精度の高い構造を作製し易くなる利点もある。
繰り返しピッチPが10μm以上であれば、周期的な構造を用いた際に想定される回折光の影響を受けにくくなり、白色を呈するような見やすい表示とすることが可能となる。以下に、その理由を述べる。
【0019】
繰り返しピッチPが一定の微小凹凸5に入射する光の入射角度と微小凹凸5の斜面4で反射する光(回折光)の射出角度との関係を図6に示す。図6に示される入射光Iの波長をλ、入射光Iの入射角度をα、1次回折光(射出光O)の射出角度をβとしたとき、それぞれの関係は
P=λ/(sinα−sinβ)
で表される。
【0020】
たとえば、微小凹凸5の繰り返しピッチPがP=10μm、入射光Iの入射角度αがα=45°、入射光Iの波長λがλ=450nm(青色を呈する光)である場合、1次回折光の射出角度βはβ=41.5°と計算できる。また、P=10μm、α=45°の条件でλ=514nm(緑色を呈する光)の光を微小凹凸5に入射させた場合は、1次回折光の射出角度βがβ=41.5°となる。そして、上記と同じ条件でλ=633nm(赤色を呈する光)の光を微小凹凸5に入射させた場合は、1次回折光の射出角度βがβ=40.1°となる。
【0021】
上記の結果を見ると、どの波長でもほぼ同じ角度で回折光が射出されていることが分かる。また、正反射角度である45度に近い角度であることも分かる。
通常、表示体を観察する場合、赤(R),緑(G),青(B)の光が混ざり合った白色光源を用いる。この時、上記の様な回折の原理を考えると、ピッチP=10μm以上の微小凹凸5から射出される赤(R)、緑(G)、青(B)の回折光はそれぞれ正反射角度に近い角度で射出される。
【0022】
そのため、観察者はRGBが分光した、所謂七色の光を認識することができず、RGBが混ざり合った白色を呈した色を観察できることになる。
微小凹凸5の繰り返しピッチPを10μm以上とした単位画素3を用いて単位画素群を構成すれば、従来の回折格子などの周期構造を用いた際に観察される虹色の回折光とは異なる白色光を表示体1から射出することができ、表示体1の意匠性を向上させることが可能となる。
【0023】
微小凹凸5として鋸歯格子を用いると、微小凹凸5を平面視した場合、図5に示すような直線状の格子構造となるので、斜面4の方向を変える場合に、鋸歯格子の方向を任意の方向に回転させればよい。
微小凹凸5のピッチP、高さDが一定の直線状の鋸歯形状(平面図は図3、断面図は図5に示したような形状)の格子である単位画素3を用いて単位画素群を構成すれば、ピッチPや高さDの精度が高い微小凹凸を作製し易くなる。
【0024】
また、単位画素群から射出される光のムラが無く強度は一定であり、ノイズが少なく、反射光変化のコントラストが高い、高品位な表示を容易に可能とする。さらに、多面体のそれぞれの面に対応して斜面4の向きを設定する際も格子の方向を回転させればよく、多面体のそれぞれの面に対応して斜面4の向きを設定することも容易になる。
図5に示したように、微小凹凸5として鋸歯格子(断面か鋸歯形状の格子)を用いた場合、鋸歯格子の配向方向を変化させることで、斜面4の向きを制御できる。斜面4の向きを変えることは、微小凹凸5から正面方向に光を射出させる場合、光の入射角度が変化することに繋がる。
【0025】
図5(A)は光源21が微小凹凸5の上方向にある場合に光源21からの光を正面方向に射出する例を示し、図5(B)は光源21が微小凹凸5の斜め上方向にある場合に光源21からの光を正面方向に射出する例を示している。また、図5(C)は光源21が微小凹凸5の横方向にある場合に光源21からの光を正面方向に射出する例を示している。
つまり、図4に示すような位置に光源21を固定した状態で観察した場合、表示体1の単位画素群は観察者20に向けて光を射出する。この場合、面2Aのみが明るく見えることによって、それ以外の面2B,2Cは陰影が付いたように視認でき、観察者20は表示体1を擬似的な立体像として観察できる。
【0026】
光源21が固定されていても表示体1を動かすことで、相対的な位置関係が変化するので、面2Bや面2Cが最も明るく見える場所も存在する。その場合、明るく見える面以外の面は、上記と同じ様に陰影がついたように視認される為、表示体1が擬似的な立体感を損なうことは無い。
もちろん、同一面内区分(面2A〜面2C)内で、微小凹凸5の斜面4が複数の方向であってもよい。そうすることで、細かな光源入射角度の変化や、表示体の傾け方によって、観察者が明るく見える範囲を細分化することができ、意匠性の向上やデザイン性の幅が広がる効果も考えられる。
【0027】
微小凹凸5に鋸歯格子のような非対称な斜面を持った構造を用いると、極めて模造が困難であり、更に光学的複製も不可能である。なぜなら光学的にホログラム技術により複製したものは正弦波状もしくは矩形状の断面形状を有する構造になり、偽の立体像も同時に表示する表示体となり、本発明の立体像表示体とは全く異なるものとなるからである。このため、模造・偽造・複製物の識別に対して高い効果を有する。
表示体1として、観察者に十分な解像度を有する観察像を提供するためには、見た目の画素の大きさを、観察者の視力(目の分解能)による識別能力を上回る微細化を行えば十分である。通常の観察条件を考慮すると、単位画素3の縦方向の寸法H,横方向の寸法Wは共に300μm以下であることが望ましい。
【符号の説明】
【0028】
1…表示体
2A,2B,2C…面(単位画素群)
3…単位画素
4…斜面(光反射面)
5…微小凹凸
20…観察者
21…光源
I…入射光
O…射出光
H…縦寸法
W…横寸法
P…ピッチ
D…高さ(または深さ)
α…入射角度
β…射出角度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7