【実施例1】
【0017】
[トルク伝達装置の構成]
図1は、実施例1に係るクラッチ装置を適用したトルク伝達装置の断面図、
図2は、
図1のトルク伝達装置の矢印II方向から見た正面図である。なお、
図2では、
図1のベアリング41の記載を省略している。
【0018】
トルク伝達装置1は、
図1及び
図2のように、外側部材としての出力リング3と、内側部材としての入力軸5と、係合片であるスプラグ7とを備えている。
【0019】
出力リング3は、金属等の導電部材からなる中空円筒状に形成されている。出力リング3の外周には、軸方向一端側に周回状のフランジ部9が形成されている。
【0020】
フランジ部9は、他の部材に接続されて、他の部材に対するトルクの入出力が行われる。出力リング3の内周には、軸方向他端側のベアリング11を介して入力軸5が相対回転自在に支持されている。
【0021】
入力軸5は、金属等からなる中実円柱状に形成されている。入力軸5には、他の部材に接続されて、他の部材に対するトルクの入出力が行われる。入力軸5の先端は、出力リング3の内周を挿通して一端側から軸方向に突出している。出力リング3から突出する部分には、第1小径部13及びこの第1小径部13よりも小径の第2小径部15が形成されている。この入力軸5と出力リング3との間には、スプラグ7が設けられている。
【0022】
図3は、スプラグを示す正面図である。
【0023】
スプラグ7は、
図1〜
図3のように、出力リング3と入力軸5との間で、待機位置に対する揺動により変位して、トルク伝達を行わせるものである。本実施例のスプラグ7は、ベアリング11に隣接して設けられ、出力リング3の軸方向一端側内周とこれに対向する入力軸5の外周との隙間に配置されている。なお、隙間内には、周方向所定間隔毎に複数のスプラグ7が設けられている。
【0024】
スプラグ7の内外周には、相互に対向する角部に係合面7a,7bが形成さている。これにより、スプラグ7は、
図2の矢印A方向に所定角度傾くと(一方向に揺動すると)、係合面7a,7bが出力リング3及び入力軸5に係合して両者間をロックする。
【0025】
このスプラグ7は、支持部であるマウントプレート17を介して入力軸5側に支持されている。なお、支持部は、マウントプレート17に代えて、入力軸5に一体のフランジ部として形成することも可能である。
【0026】
図4は、マウントプレートを示す正面図、
図5は、
図4のV−V線矢視に係る断面図である。
【0027】
マウントプレート17は、
図1、
図2、及び
図4のように、金属等からなる周回状に形成されて、内周が入力軸5の第1小径部13の外周に嵌合している。このマウントプレート17の内周側は、入力軸5に対し、軸方向で突き当てられると共にボルト等の締結具19により締結固定されている。これにより、マウントプレート17は、後述する絶縁プレート21、クラッチプレート23、及び摩擦摺動材25の内周側に位置するようになっている。
【0028】
マウントプレート17の外周側は、入力軸5から径方向に突出してスプラグ7に軸方向で対向している。このマウントプレート17の外周側には、支持孔27がスプラグ7に対応して所定間隔毎に複数設けられている。
【0029】
支持孔27には、スプラグ7の内周側を貫通するマウントピン29が支持されている。このマウントピン29を中心にスプラグ7が揺動自在(変位自在)となっている。
【0030】
また、マウントプレート17の外周側には、スプラグ7に対する付勢部材としてのリターンスプリング31が支持されている。リターンスプリング31は、例えば板ばねからなり、スプラグ7に対して
図2の矢印A方向の前方に位置している。
【0031】
リターンスプリング31の一端部は、マウントプレート17の突起部33に係合して支持されている。このリターンスプリング31は、他端部がスプラグ7の側面に当接することで、スプラグ7を待機位置に付勢している。なお、突起部33は、マウントプレート17の外周縁部を板厚方向に立ち上げて形成されている(
図5参照)。
【0032】
上記のようにリターンスプリング31は、マウントプレート17とスプラグ7との間に設けたが、マウントプレート17とトリガープレート37との間に設けることも可能である。
【0033】
マウントプレート17の外周縁部には、凹部35がスプラグ7に対応して所定間隔毎に複数設けられている。凹部35は、スプラグ7の外周側を軸方向外側に露出させている。露出したスプラグ7の外周側には、駆動部材及び駆動プレートとしてのトリガープレート37が連結されている。
【0034】
トリガープレート37は、
図1及び
図2のように、金属等からなる周回状に形成され、マウントプレート17に対して軸方向外側に隣接配置されている。トリガープレート37の内周側には、ボス部39が設けられ、ボス部39は、ベアリング41を介して入力軸5の第2小径部15外周に回転自在に支持されている。すなわち、トリガープレート37は、その内周側で入力軸5に相対回転自在に支持された構成となっている。
【0035】
なお、トリガープレート37は、ボス部39を省略して内周側を入力軸5に対して離間させた構成とすることも可能である。
【0036】
トリガープレート37の中間部は、マウントプレート17の凹部35を介してスプラグ7の外周側に軸方向で対向している。このトリガープレート37の中間部には、スプラグ7の外周側を貫通するトリガーピン43が支持されている。これにより、トリガープレート37は、入力軸5に対する相対回転により、スプラグ7をリターンスプリング31の付勢力に抗して揺動させるようになっている。
【0037】
トリガープレート37の外周側には、絶縁部材としての絶縁プレート21を介してクラッチプレート23が軸方向で支持されている。従って、トリガープレート37とクラッチプレート23との間に絶縁プレート21が介設された構成となっている。
【0038】
クラッチプレート23は、金属等の導電部材からなる周回状に形成されている。このクラッチプレート23は、トリガープレート37から外周側に向けて延設され、出力リング3のフランジ部9に対向している。クラッチプレート23とフランジ部9との間には、摩擦係数を変化させる摩擦摺動材25が設けられている。
【0039】
図6は、摩擦摺動材の摩擦係数の変化を示す概念図である。
【0040】
摩擦摺動材25は、
図6のように、電流が印加可能な粒子45(例えば、有機無機複合型のER粒子(Electro-rheological))を含有分散させたエラストマ47(例えば、シリコンゲル)からなる。摩擦摺動材25は、電力(電場)が印加されることによって表面の粘着性が高速かつ可逆的に変化する。この特性は、電気粘着効果(Electro-adhesive effect)と称されている。
【0041】
この摩擦摺動材25は、
図1のように、クラッチプレート23及び出力リング3のフランジ部9間で一方に固定され他方に摺動しながらクラッチプレート23及びフランジ部9を介して通電制御される。
【0042】
本実施例の摩擦摺動材25は、例えばフランジ部9に固定された周回状に形成され、クラッチプレート23に摺動する。そして、摩擦摺動材25は、トリガープレート37と出力リング3との間を通電制御に応じた摩擦係数の変化によって断続させる。
【0043】
具体的には、
図6(a)のように、無電地場において摩擦摺動材25の表面に分散した低摩擦で滑り特性の良い粒子45がクラッチプレート23を支持する。従って、摺動摩擦材25は、低抵抗によってクラッチプレート23の摺動を許容する。
【0044】
一方、電場が印加されると、
図6(b)のように、粒子45の沈み込み作用で粘着性の高いエラストマ47が変形して粒子45の周囲に集まり、高抵抗によってクラッチプレート23を粘着する(摺動を防止する)。
【0045】
なお、摩擦摺動材25の外周部及び内周部は、
図1のように、クラッチプレート23及びフランジ部9の他方(本実施例ではクラッチプレート23)の外周部及び内周部よりも径方向外側に突出している。これにより、クラッチプレート23及びフランジ部9間の絶縁性が確保されている。
【0046】
摩擦摺動材25への通電は、クラッチプレート23及び出力リング3のフランジ部9に接続された電源49から行われる。その通電制御は、例えば、図示しない制御ユニットやリハビリ器具等の利用者の指示に応じて行われる。
[トルク伝達装置の動作]
以下、本実施例のトルク伝達装置1の動作について、
図1及び
図2を参照して説明する。
【0047】
トルク伝達装置1では、摩擦摺動材25の通電制御を通じて、入力軸5及び出力リング3間でのスプラグ7によるトルク伝達を断続制御する。
【0048】
具体的には、摩擦摺動材25を通電すると、摩擦摺動材25がクラッチプレート23に粘着して出力リング3のフランジ部9に接続される。このため、トリガープレート37は、絶縁プレート21、クラッチプレート23、摩擦摺動材25、及びフランジ部9を介して出力リング3に対して接続される。
【0049】
この状態で、出力リング3が入力軸5に対して
図2の矢印A方向に相対回転すると、トリガープレート37も同様に入力軸5に対して相対回転することになる。
【0050】
このため、トリガープレート37は、スプラグ7の外周側を周方向に移動させて、スプラグ7をリターンスプリング31の付勢力に抗して揺動させる。
【0051】
揺動したスプラグ7は、出力リング3の内周と入力軸5の外周とに係合し、両者間をロックする。このロック状態では、出力リング3と入力軸5とが一体回転してトルク伝達を行わせることができる。
【0052】
一方、摩擦摺動材25の通電が解除されると、摩擦摺動材25がクラッチプレート23を非粘着状態で摺動支持し、クラッチプレート23が出力リング3のフランジ部9から切り離される。結果として、トリガープレート37が出力リング3から切り離されることになる。
【0053】
この状態では、スプラグ7がリターンスプリング31の付勢力によって待機位置に保持され、出力リング3及び入力軸5間を相対回転自在なフリーとする。
【0054】
従って、フリー状態では、出力リング3及び入力軸5間を自由に相対回転させてトルク伝達を遮断することができる。
[実施例1の効果]
本実施例では、相対回転可能な出力リング3及び入力軸5間で、入力軸5側に揺動自在に支持され待機位置に対する揺動によりトルク伝達を行わせるスプラグ7と、スプラグ7を待機位置に付勢するリターンスプリング31と、スプラグ7に連結され入力軸5に対する相対回転によりスプラグ7をリターンスプリング31による付勢に抗して揺動させるトリガープレート37と、トリガープレート37と出力リング3との間を、一方に固定され他方に摺動しながら通電制御に応じた摩擦係数の変化により断続する摩擦摺動材25とを備えている。
【0055】
従って、本実施例では、摩擦摺動材25の通電制御により出力リング3及び入力軸5間でスプラグ7の揺動によるトルク伝達の断続制御を行わせることができ、スプラグ7によるトルク伝達の断続制御を可能としながら装置の小型化をも実現することができる。
【0056】
さらに、本実施例においては、出力リング3の外周に設けられた周回状のフランジ部9と、トリガープレート37から延設されてフランジ部9に対向する周回状のクラッチプレート23とを備え、摩擦摺動材25が、クラッチプレート23及びフランジ部9間で一方に固定され他方に摺動しながらクラッチプレート23及びフランジ部9を介して通電制御される。
【0057】
このため、摩擦摺動材25の摩擦摺動面を大きく確保して、クラッチプレート23に対する粘着力を大きくすることができる。結果として、より容易且つ確実にトリガープレート37と出力リング3との間を断続することができ、装置の性能の安定化を図ることもできる。
【0058】
同時に、通電対象となる部分を大きくすることになり、設計の自由度をも向上することができる。
【0059】
しかも、上記構成では、クラッチプレート23と摩擦摺動材25との摩擦摺動面を外周側に位置させることができ、両者間の接続に要求される摩擦摺動材25の粘着力を小さくすることができる。
【0060】
このため、本実施例では、より容易且つ確実にトリガープレート37と出力リング3との間を断続することができ、より確実に装置の性能の安定化を図ることができる。
【0061】
さらに、本実施例では、摩擦摺動材25への通電制御に、他の部材に対する接続等のためのフランジ部9を利用することができ、より確実に装置の簡素化や小型化を図ることができる。
【0062】
また、本実施例の摩擦摺動材25は、その外周部及び内周部が、クラッチプレート23及びフランジ部9の他方(本実施例ではクラッチプレート23)の外周部及び内周部よりも外側に突出している。
【0063】
従って、クラッチプレート23及びフランジ部9間での絶縁性を確保し、短絡による誤作動等を防止できる。
【0064】
しかも、クラッチプレート23とトリガープレート37との間には、絶縁プレート21が介設されているので、金属系の材料によって剛性を確保しても短絡による誤作動等を確実に防止できる。
【0065】
また、本実施例では、トリガープレート37が絶縁プレート21を介してクラッチプレート23を軸方向に支持し、マウントプレート17が絶縁プレート21、クラッチプレート23、及び摩擦摺動材25の内周側にスプラグ7を揺動自在に支持するマウントプレート17を備えている。
【0066】
従って、絶縁プレート21、クラッチプレート23、及び摩擦摺動材25の内周側のスペースを利用してマウントプレート17を設けることができ、より確実に装置の小型化を図ることができる。
【0067】
本実施例のトリガープレート37は、内周側で入力軸5に相対回転自在に支持された周回状に形成されているので、安定した支持によって安定した動作を行うことができる。結果として、より確実に装置全体としての性能の安定化を図ることができる。