(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記フックは、車両上方視でL字状の板状体で形成されており、前記フックの一方の面は、前記ドアインナパネルの内側パネル面に接合され、前記フックの他方の面は、前記ドアインナパネルの中間パネル面に接合され、前記ドアインナパネルの中間パネル面の近傍における前記フックカバーの内側面の車両前後方向の位置は、車両上方視で、前記センタピラーの後端から4mm以上後方に離れた箇所から前記フックの一方の面の後端までの間に配設されていることを特徴とする請求項1に記載の車両用スライドドアの補強構造。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した従来の車両用スライドドアの構造にあっては、リヤスライドドアを構成するドアインナパネルの前部に設けたフックの取付部分の周辺が、適正な大きさ及び形状を有し、かつ適正な位置に配設した補強部品によって十分な剛性を具備していないので、車室内側から車室外側への荷重がリヤスライドドアの前側に掛かると、ドアインナパネルのフランジ部が大きく変形し、入力荷重点がドアインナパネルのフック取付剛性部分から外れるおそれがあった。特に、ドアインナパネルには、フック等の設置やドアへの部品取付時に必要であるサービスホール(作業穴)が設けられ、多くの場合、フックに隣接して設けられているので、サービスホール周辺の剛性が低く、荷重の入力方向がズレ易いという問題があった。
さらに、入力荷重点が車両後方へ位置ズレすることでサービスホール内にズレ込むと、サービスホールの角部に荷重応力が集中してしまい、ドアインナパネルに亀裂が発生するという問題を有していた。そして、ドアインナパネルの破断まで進むと、ドアインナパネルの剛性が更に低下し、変形が大きくなるおそれがあった。
【0006】
また、従来の車両用スライドドアの構造では、車室内側から車室外側への荷重によってフック及びドアインナパネル全体が押圧されて、フックが回動する変形が起こる可能性があった。具体的には、フック全体の回動やフックの角度が開くなどの変形である。このような変形が起こる場合は、フックとストライカとの係合が外れる方向に変形することになるので、両者の係合が緩んだり(位置ズレによるフックの固定点の移動)、あるいは両者の係合が解除されるという懸念があった。フックの変形を低減させるには、補強部品の設置によるドアインナパネルの大幅な剛性向上が必要となるので、重量増大及びコスト高を回避することは難しかった。
【0007】
本発明はこのような実状に鑑みてなされたものであって、その目的は、車両上方視でL字状のドアインナパネルとフックカバーとで高剛性の断面部分を形成し、当該高剛性断面部分が車室内側から車室外側への荷重を受けることによってフック及びドアインナパネルの局所変形を抑えてフックの車室外側への並進変形を促進し、フックとストライカとの係合を維持することで、リヤスライドドアの車幅方向外側への移動を規制することが可能な車両用スライドドアの補強構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記従来技術の有する課題を解決するために、本発明は、車両前後方向に沿って摺動することにより、車体側面のドア開口部を開閉するリヤスライドドアは、ドアインナパネルとドアアウタパネルとにより構成され、前記ドアインナパネルの前部にはフックが設けられ、前記ドア開口部に臨むセンタピラーの縦壁面にはストライカが設けられ、車室内側から車室外側への荷重が前記リヤスライドドアに掛かるとき、前記リヤスライドドアの前側は、前記センタピラーのストライカに前記フックが係合することにより保持されるようになっている車両用スライドドアの補強構造において、前記ドアインナパネルの前部には、前記ストライカを挿通配置する挿通孔が設けられ、前記挿通孔の周囲に位置する前記ドアインナパネルの前部は、車両前後方向へ延びる内側パネル面と車両幅方向へ延びる中間パネル面とによって車両上方視でL字状の面に形成され、前記挿通孔の開口部は、前記ドアインナパネルの内側パネル面と中間パネル面とに接合される車両上方視でL字状のフックカバーによって覆われ、前記ドアインナパネルと前記フックカバーとを合わせた前記リヤスライドドアの前側は、前記挿通孔の開口部を有する車両上方視で四角形状に形成され
、前記フックカバーは、フックカバー本体とフックカバーサポートの2部品から構成されており、前記フックカバーサポートは、前記フックカバー本体の車両幅方向へ延びる面に接する上下方向辺部分を有し、少なくとも前記フックカバー本体の車両幅方向へ延びる面と、前記フックカバー本体の上面もしくは下面の2面で接して前記フックカバー本体と接合され、前記フックカバーの前記ドアインナパネルへの接合フランジは、前記フックカバー本体及び前記フックカバーサポートに形成されている。
【0009】
本発明において、前記フックは、車両上方視でL字状の板状体で形成されており、前記フックの一方の面は、前記ドアインナパネルの内側パネル面に接合され、前記フックの他方の面は、前記ドアインナパネルの中間パネル面に接合され、前記ドアインナパネルの中間パネル面の近傍における前記フックカバーの内側面の車両前後方向の位置は、車両上方視で、前記センタピラーの後端から4mm以上後方に離れた箇所から前記フックの
一方の面の後端までの間に配設されている。
【0011】
さらに、本発明において、前記挿通孔の開口部を囲む前記ドアインナパネルの前部には、リンフォース部材が設けられ、前記リンフォース部材は、前記ドアインナパネルの車両上方視でL字状の面に沿って配置されており、前記ドアインナパネル、前記フックカバー及び前記リンフォース部材は、車両前後方向へ延びる面及び車両幅方向へ延びる面において、3枚合わせでそれぞれ接合されている。
【発明の効果】
【0012】
上述の如く、本発明に係る車両用スライドドアの補強構造は、車両前後方向に沿って摺動することにより、車体側面のドア開口部を開閉するリヤスライドドアは、ドアインナパネルとドアアウタパネルとにより構成され、前記ドアインナパネルの前部にはフックが設けられ、前記ドア開口部に臨むセンタピラーの縦壁面にはストライカが設けられ、車室内側から車室外側への荷重が前記リヤスライドドアに掛かるとき、前記リヤスライドドアの前側は、前記センタピラーのストライカに前記フックが係合することにより保持されるようになっており、前記ドアインナパネルの前部には、前記ストライカを挿通配置する挿通孔が設けられ、前記挿通孔の周囲に位置する前記ドアインナパネルの前部は、車両前後方向へ延びる内側パネル面と車両幅方向へ延びる中間パネル面とによって車両上方視でL字状の面に形成され、前記挿通孔の開口部は、前記ドアインナパネルの内側パネル面と中間パネル面とに接合される車両上方視でL字状のフックカバーによって覆われ、前記ドアインナパネルと前記フックカバーとを合わせた前記リヤスライドドアの前側は、前記挿通孔の開口部を有する車両上方視で四角形状に形成され
、前記フックカバーは、フックカバー本体とフックカバーサポートの2部品から構成されており、前記フックカバーサポートは、前記フックカバー本体の車両幅方向へ延びる面に接する上下方向辺部分を有し、少なくとも前記フックカバー本体の車両幅方向へ延びる面と、前記フックカバー本体の上面もしくは下面の2面で接して前記フックカバー本体と接合され、前記フックカバーの前記ドアインナパネルへの接合フランジは、前記フックカバー本体及び前記フックカバーサポートに形成されている。
【0013】
したがって、本発明の補強構造においては、車両上方視でL字状のドアインナパネルと車両上方視でL字状のフックカバーとを合わせることにより、リヤスライドドアの前側が車両上方視で四角形状の断面に形成されて剛性が高くなっており、車室内側から車室外側へ向かってリヤスライドドアに掛かる荷重をフック周辺の四角形断面部分が受けることになるので、当該荷重によるフック及びドアインナパネルの局所変形を抑え、形状を保持することができるとともに、当該荷重を四角形断面部分に掛け続けることができる。しかも、この四角形断面部分は、主として車室外側へ向かって移動することになるので、フック周辺の変形、特に荷重点の位置ズレを防ぎ、フック取付基部の回動量を低減することができる。その結果、本発明の補強構造では、フックとストライカとの係合を維持することが可能となり、リヤスライドドアの車幅方向外側への移動を規制することができ、リヤスライドドアと車体側面との間に生じる隙間を低減できる。
しかも、本発明の補強構造においては、フックの取付基部の剛性を確保することができ、室内側から車室外側へ向かう荷重によってフックが回動しないようにすることができる。
【0014】
また、本発明の補強構造において、前記フックは、車両上方視でL字状の板状体で形成されており、前記フックの一方の面は、前記ドアインナパネルの内側パネル面に接合され、前記フックの他方の面は、前記ドアインナパネルの中間パネル面に接合され、前記ドアインナパネルの中間パネル面の近傍における前記フックカバーの内側面の車両前後方向の位置は、車両上方視で、前記センタピラーの後端から4mm以上後方に離れた箇所から前記フックの
一方の面の後端までの間に配設されているので、車室内側から車室外側へ向かってリヤスライドドアの前側に掛かる荷重をドアインナパネル及びフックカバーの四角形断面部分で確実に受けることができ、四角形断面部分の剛性に寄与するフックの取付基部の回動を低減して四角形断面部分全体の車室外側への移動を促進させることができる。
【0016】
また、本発明の補強構造において、前記挿通孔の開口部を囲む前記ドアインナパネルの前部には、リンフォース部材が設けられ、前記リンフォース部材は、前記ドアインナパネルの車両上方視でL字状の面に沿って配置されており、前記ドアインナパネル、前記フックカバー及び前記リンフォース部材は、車両前後方向へ延びる面及び車両幅方向へ延びる面において、3枚合わせでそれぞれ接合されているので、挿通孔の周辺部の剛性を高めることができるとともに、接合剛性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を図示の実施の形態に基づいて詳細に説明する。
図1〜
図4は本発明の実施形態に係る車両用スライドドアの補強構造を示すものである。なお、
図2及び
図4において、矢印F方向は車両前方を示し、矢印I方向は車両室内側の方向を示し、矢印O方向は車両室外側の方向を示し、矢印R方向は車両後方を示している。
【0019】
図1、
図2及び
図4に示すように、本発明の実施形態に係る補強構造が適用される車両1の車体側面11には、車両前後方向に沿って摺動することにより、車両後方側のドア開口部10を開閉するリヤスライドドア2が設けられており、当該リヤスライドドア2は、車両後方側が回動するフロントドア3の後方側に配置されている。
本実施形態のリヤスライドドア2は、車両前後方向に延在する上下ガイドレール(図示せず)に嵌合配置される上下ローラ(図示せず)などにより、車体側面11に対して摺動可能に支持されている。また、リヤスライドドア2は、ドアインナパネル21とドアアウタパネル22とによって構成されており、これらドアインナパネル21及びドアアウタパネル22の周縁部を互いに重ね合わせて接合することによって、閉断面構造に形成されている。
【0020】
ドアインナパネル21には、
図1、
図2及び
図4に示すように、窓用開口23の下側に位置し、かつ車両前後方向へ沿って延在するメンバ部24が設けられている。また、ドアインナパネル21の前部は、水平断面で略クランク形状に屈曲形成され、内外側パネル面21a,21bが車両前後方向に延び、かつ中間パネル面21cが車両幅方向に延びており、中間パネル面21cには、リヤスライドドア2を閉めた状態で後述のストライカを挿通配置することが可能な大きさ及び形状を有する挿通孔26が当該ストライカと対応する位置に穿設されている。このため、挿通孔26の周囲に位置するドアインナパネル21の前部は、内側パネル面21aと中間パネル面21cとによって、車両上方視でL字状の面に形成されている。
【0021】
さらに、ドアインナパネル21の前部の内側パネル面21a及び中間パネル面21cには、
図4に示すように、これらパネル面21a,21cに沿って配置される水平断面L字状のフック27が接合されており、当該フック27の外側先端部は、挿通孔26の内側周縁部まで突設されている。
すなわち、フック27は、車両上方視でL字状の板状体で形成されており、フック27の一方の面27aは、ドアインナパネル21の内側パネル面21aに接合され、フック27の他方の面27bは、ドアインナパネル21の中間パネル面21cに接合されている。そして、このフック27に隣接した位置のドアインナパネル21には、フック等の設置やリヤスライドドア2などへの部品取付時に必要なサービスホール(作業穴)28が設けられている。
【0022】
一方、車両後方側のドア開口部10に臨むセンタピラー(Bピラー)4の縦壁面4aには、
図4に示すように、ドア開口部10へ向かって突出するストライカ41が設けられている。ストライカ41は、車体側面11の側方から見て開口が車両前方側に位置するコ字状に形成されており、コ字状の先端部41aは、リヤスライドドア2を閉めた状態で、挿通孔26を介してリヤスライドドア2の内部に位置し、ストライカ41の開口がフック27の外側先端部と対向するように配置されている。
したがって、本実施形態のリヤスライドドア2の前側は、試験治具Gによって車室内側から車室外側へ向かう荷重がリヤスライドドア2に掛かるとき、ドアインナパネル21の前部及びフック27が車室外側へ向かって移動し、ドアインナパネル21の挿通孔26の縁端部、下側リンフォース部材の貫通孔の縁端部(後述する)及びフック27の外側先端部がセンタピラー4側のストライカ41に係合することによって、センタピラー4を含む車体側面11に保持されるようになっている。
【0023】
本実施形態のリヤスライドドア2において、フック27の周辺には、
図1〜
図3に示すように、ドアインナパネル21の前部の内外側パネル面21a,21b及び中間パネル面21cに接合する上側リンフォース部材5及び下側リンフォース部材(リンフォース部材)6が車両上下方向に沿って設けられており、これら上側リンフォース部材5及び下側リンフォース部材6によって、ドアインナパネル21よりも高剛性の部分が構成されている。
上側リンフォース部材5及び下側リンフォース部材6は、縦長のパネル材を用いて、ドアインナパネル21の前部と対応する水平断面で略クランク形状に屈曲形成され、内外側壁部5a,6a,5b,6b及び中間壁部5c,6cをそれぞれ有しており、当該前部に位置する内側パネル面21a、中間パネル面21c及び外側パネル面21bに沿って配置されている。したがって、下側リンフォース部材6は、ドアインナパネル21の車両上方視でL字状の内側パネル面21a及び中間パネル面21cに沿って配置されている。なお、下側リンフォース部材6の中間壁部6cには、ドアインナパネル21の挿通孔26と対応して、ストライカ41の先端部41aが通る貫通孔60が穿設されている。
【0024】
また、本実施形態の上側リンフォース部材5の下部と下側リンフォース部材6の上部とは、
図2及び
図4に示すように、互いに重なり合って配置されており、本実施形態では、下側リンフォース部材6の上部に上側リンフォース部材5の下部を載せて重ね合わせ、重複した状態で接合されている。そして、上側リンフォース部材5の下部と下側リンフォース部材6の上部とが重複した接合部分Wの上下方向の位置は、車両前方視でドアインナパネル21のメンバ部24と同じ高さに配置されている。このような上側リンフォース部材5及び下側リンフォース部材6の配置関係及び接合状態によって、リヤスライドドア2の前部に位置するフック27の周辺が補強された構造となっている。
しかも、上側リンフォース部材5の下部と下側リンフォース部材6の上部とが重複した接合部分Wは、フック27が設けられたドアインナパネル21の前部の内外側パネル面21a,21b及び中間パネル面21cで、水平方向に延びて配置されており、上側リンフォース部材5及び下側リンフォース部材6の少なくとも一方、本実施形態では下側リンフォース部材6が、
図2に示すように、重複した接合部分Wの水平方向内側(車室内側)において、ドアインナパネル21のメンバ部24と接合されている。これによって、車室内側からの試験治具Gの荷重をドアインナパネル21の構造部分が受け、上側リンフォース部材5及び下側リンフォース部材6の重複した高剛性の接合部分Wが当該荷重を吸収しながら、フック27の外側への並進変形を促進するようになっている。
【0025】
さらに、本実施形態の上側リンフォース部材5もしくは下側リンフォース部材6、本実施形態では下側リンフォース部材6とドアインナパネル21のメンバ部24との水平方向接合部分Wと、上側リンフォース部材5もしくは下側リンフォース部材6、本実施形態では下側リンフォース部材6の内側壁部6aの上下方向辺部分とが、ドアインナパネル21のサービスホール28の角部28aに沿って配置されている。しかも、上側リンフォース部材5もしくは下側リンフォース部材6、本実施形態では下側リンフォース部材6の内側壁部6aの上下方向辺部分は、
図2及び
図4に示すように、ドアインナパネル21のサービスホール28の上下辺であるフランジ部28bに沿って配置されている。これによって、サービスホール28の周辺部の剛性を向上させ、車室内側からの試験治具Gによる荷重応力がサービスホール28の角部28aに集中したとしても、ドアインナパネル21の外側へ伝達及び吸収し、角部28aの亀裂発生を減らすとともに、フック27の周辺の変形を並進変形とし、荷重点のズレによるフック27の回動を低減させるように構成されている。
【0026】
また、本実施形態のドアインナパネル21のサービスホール28の角部28a付近に位置する上側リンフォース部材5もしくは下側リンフォース部材6、本実施形態では下側リンフォース部材6の内側壁部6aには、
図2に示すように、外方へ突出するビード部7がサービスホール28の角部28aと対向した位置で、延在して設けられている。すなわち、ビード部7は、車両前後方向に沿って延び、車両前方側へ向かって下り傾斜に配置されている。このビード部7の存在によって、ビード部7の周辺部分の剛性を高め、車室内側からの試験治具Gの荷重によるビード部7の周辺部分の変形を抑え、サービスホール28の角部28aに発生した亀裂の進展を止めるような構造となっている。
【0027】
さらに、本実施形態の補強構造において、貫通孔60の周囲に位置する下側リンフォース部材6の内側壁部6a及び中間壁部6cには、
図2、
図3(a)及び
図4に示すように、フック27及びストライカ41の先端部41aを覆い、かつ挿通孔26及び貫通孔60の開口部を覆うドアフロントフックカバー8が取付けられている。このため、ドアフロントフックカバー8は、ドアインナパネル21の内側パネル面21a及び中間パネル面21cと、下側リンフォース部材6の内側壁部6a及び中間壁部6cに対応して、車両上方視でL字状に形成されている。すなわち、ドアフロントフックカバー8は、取付面側に開口部を有するボックス状に形成されており、必要な剛性が確保された形状に形成されている。このような形状によりドアフロントフックカバー8が必要な剛性を有していると、試験治具Gが車室内側からドアインナパネル21を押し込んだ場合に、全体の変形、特に変形が進んだ時のフック27の周辺部の形状を保持する効果が得られることになる。また、ドアインナパネル21、下側リンフォース部材6及びドアフロントフックカバー8は、車両前後方向へ延びる面(内側パネル面21a、内側壁部6a及びフランジ片)及び車両幅方向へ延びる面(中間パネル面21c、中間壁部6c及びフランジ片)において、3枚合わせに重ねた状態でそれぞれ接合されており、挿通孔26及び貫通孔60の周辺部の剛性を高め、接合剛性を向上させている。これにより、後述の距離や形状などの条件を満たしていないドアフロントフックカバー8であっても、フック27の周辺断面部の剛性を確保することが可能となっている。
したがって、本実施形態の補強構造では、
図4に示すように、ドアインナパネル21及び下側リンフォース部材6とドアフロントフックカバー8とを合わせたリヤスライドドア2の前側が、挿通孔26及び貫通孔60の開口部を有する車両上方視で四角形状に形成されて剛性が高くなっており、リヤスライドドア2の前側に掛かる車室内側からの試験治具Gの荷重を四角形断面部分で受けるように構成されている。
【0028】
本実施形態のドアフロントフックカバー8は、
図2及び
図3(a)に示すように、フックカバー本体81とフックカバーサポート82の2部品から構成されている。フックカバー本体81は、取付面側が開口した状態で外方へ膨らみ、外部から見えないようにフック27及びストライカ41の先端部41aを内部に配置するボックス部81aと、周辺部に張り出して形成され、下側リンフォース部材6の内側壁部6a及び中間壁部6cに取付けられる接合フランジ81bとを備えている。フックカバーサポート82は、フックカバー本体81のボックス部81aに載置されるサポート部82aと、フックカバー本体81の車両
幅方向へ延びる面に接する上下方向辺部分の接合フランジ82bを有し、少なくともフックカバー本体81の車両
幅方向へ延びる面と、
フックカバー本体81の上面もしくは下面の2面で接してフックカバー本体81と接合されており、フックカバー本体81とフックカバーサポート82とが一体化されている。ドアフロントフックカバー8の下側リンフォース部材6への接合フランジ81b,82bは、フックカバー本体81及びフックカバーサポート82に形成されている。
【0029】
また、ドアインナパネル21の中間パネル面21cの近傍であって、ドアフロントフックカバー8を構成するフックカバー本体81及びフックカバーサポート82の内側面である接合フランジ81b,82bの車両前後方向の位置は、
図4に示すように、車両上方視で、センタピラー4の後端4bから距離S1(4mm以上)にて後方に離れた箇所からフック27の一方の面27aの後端までの距離S2(12.5mm)の間(4mm〜16.5mm)に配設されている。ドアフロントフックカバー8の内側面をフック27の一方の面27aの後端までとした理由は、ドアインナパネル21及びドアフロントフックカバー8の四角形断面部分の剛性にフック27が寄与しており、フック27が設けられていない車両後方までドアフロントフックカバー8を延ばしても当該四角形断面部分の剛性が分散して効率が低下するからである。
このような周辺部品の距離及び配置関係によって、車室内側から車室外側へ向かう試験治具Gの荷重は、ドアインナパネル21及びドアフロントフックカバー8の四角形断面部分において確実に受けられるようになっている。
【0030】
次に、本発明の実施形態に係る車両用スライドドアの補強構造において、試験治具Gによって車室内側から車室外側へ向かう荷重がリヤスライドドア2の前側に掛かったときの作用について説明する。
図4に示す状態から、試験治具Gがリヤスライドドア2の前側を矢印方向へ押し込むと、ドアインナパネル21の前部が車室外側へ押し出され、特にドアインナパネル21及びドアフロントフックカバー8からなる四角形断面部分がその断面形状を維持しながら車室外側へ押し出され、ドアインナパネル21の前部及びフック27が車室外側へ向かって移動し、ドアインナパネル21の挿通孔26の縁端部、下側リンフォース部材6の貫通孔60の縁端部及びフック27の外側先端部がセンタピラー4側のストライカ41に係合し、リヤスライドドア2の前側は、センタピラー4を含む車体側面11に保持され、車室外側への移動変形が規制されることになる。
【0031】
そして、この状態で、試験治具Gがドアインナパネル21の前部を更に車室外側へ押し出そうとすると、試験治具Gによる車室外側への荷重をフック27の周辺部に位置するドアインナパネル21の前部及びメンバ部24、上側リンフォース部材5、下側リンフォース部材6、これらのリンフォース部材5,6の重複させた高剛性の接合部分W、及びドアインナパネル21とドアフロントフックカバー8とからなる四角形断面部分が受けることになり、フック27の周辺に位置するドアインナパネル21の局所変形が抑えられ、荷重点の位置ズレやフック取付基部の回動が防止されるとともに、フック27の車室外側への並進変形を促進することが可能となる。
また、試験治具Gがドアインナパネル21のサービスホール28に滑り落ちた場合でも、応力集中する角部28aの付近は下側リンフォース部材6及びドアインナパネル21のメンバ部24の水平方向接合部分Wや下側リンフォース部材6の上下方向辺部分によって覆われていることから、当該角部28aに亀裂や破断が発生することがなく、仮に亀裂や破断が発生しても、リンフォース部材5,6の重複した接合部分Wと、下側リンフォース部材6に追加したビード部7の存在でその進展及び拡大を抑制することが可能となる。
【0032】
このように、本発明の実施形態に係る車両用スライドドアの補強構造では、リヤスライドドア2を構成するドアインナパネル21の前部にフック27が設けられ、センタピラー4の縦壁面4aにストライカ41が設けられ、挿通孔26及び貫通孔60の周囲に位置するドアインナパネル21の前部及び下側リンフォース部材6が、車両前後方向へ延びる内側パネル面21a及び内側壁部6aと車両幅方向へ延びる中間パネル面21c及び中間壁部6cとによって車両上方視でL字状の面に形成され、挿通孔26及び貫通孔60の開口部が、ドアインナパネル21及び下側リンフォース部材6の内側パネル面21a及び内側壁部6aと中間パネル面21c及び中間壁部6cとに接合される車両上方視でL字状のドアフロントフックカバー8によって覆われ、ドアインナパネル21とドアフロントフックカバー8とを合わせたリヤスライドドア2の前側が、挿通孔26及び貫通孔60の開口部を有する車両上方視で四角形状に形成されているため、試験治具Gによる車室内側から車室外側への荷重を受けるフック27の周辺部分、特に四角形断面部分を有するドアインナパネル21の剛性向上を図ることができ、荷重を受ける四角形断面部分の断面形状を維持できるとともに、荷重によるフック27及びドアインナパネル27の局所変形を抑えてフック27の車室外側への並進変形を促進でき、フック27周りの回動を低減させ、フック27とストライカ41との係合を維持することができ、リヤスライドドア2の車幅方向外側への移動を規制してリヤスライドドア2と車体側面11との間に生じる隙間を低減できる。
また、本実施形態の補強構造においては、フック27の周辺に、ドアインナパネル21の前部のパネル面21a,21b,21cに接合する上側リンフォース部材5及び下側リンフォース部材6が車両上下方向に沿って設けられ、上側リンフォース部材5の下部と下側リンフォース部材6の上部とが重複した状態で接合され、上側リンフォース部材5の下部と下側リンフォース部材6の上部とが重複した接合部分Wの上下方向の位置が、車両前方視でドアインナパネル21のメンバ部24と同じ高さに配置されているため、試験治具Gによる車室内側から車室外側への荷重を受けるフック27の周辺部分のドアインナパネル21の剛性をより一層向上させることができる。
【0033】
以上、本発明の実施の形態につき述べたが、本発明は既述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて各種の変形及び変更が可能である。
例えば、既述の実施の形態では、上側リンフォース部材5及び下側リンフォース部材6がドアインナパネル21の前部に設けられているが、ドアフロントフックカバー8によって必要な剛性が確保されていることから、少なくとも下側リンフォース部材6は設けられていなくとも良い。この場合、ドアフロントフックカバー8は、挿通孔26の開口部を覆った状態で、ドアインナパネル21の前部の内側パネル面21a及び中間パネル面21cに取付けられている。また、ドアフロントフックカバー8は、フックカバー本体81及びフックカバーサポート82の2部品から構成されているが、1部品から構成されていても良い。