特許第5949135号(P5949135)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5949135
(24)【登録日】2016年6月17日
(45)【発行日】2016年7月6日
(54)【発明の名称】異常診断方法及び異常診断装置
(51)【国際特許分類】
   G05B 23/02 20060101AFI20160623BHJP
【FI】
   G05B23/02 302W
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-114179(P2012-114179)
(22)【出願日】2012年5月18日
(65)【公開番号】特開2013-242637(P2013-242637A)
(43)【公開日】2013年12月5日
【審査請求日】2015年2月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100100712
【弁理士】
【氏名又は名称】岩▲崎▼ 幸邦
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】袖子田 志保
(72)【発明者】
【氏名】坂野 肇
(72)【発明者】
【氏名】中村 恵子
(72)【発明者】
【氏名】米田 信一郎
【審査官】 川東 孝至
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−072047(JP,A)
【文献】 特開2006−073602(JP,A)
【文献】 特開昭61−282903(JP,A)
【文献】 永田 靖 YASUSHI NAGATA,統計的品質管理 −ステップアップのためのガイドブック− 初版,株式会社朝倉書店 朝倉 邦造,2010年 4月15日,第1版,第177頁−第178頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 23/00−23/02
G05B 19/418
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
MT法を利用して異常を診断する異常診断方法であって、
診断対象である複数のパラメータの値を入力するステップと、
入力された複数のパラメータにおいて相関係数が所定の値以上のパラメータの組を強相関のパラメータの組として抽出する抽出ステップと、
抽出された強相関のパラメータの組を構成する各パラメータの値が正常時に取り得る範囲を予測する予測ステップと、
強相関のパラメータの組から何れか一方のパラメータを選択する選択ステップと、
選択された一方のパラメータと、強相関のパラメータの組として抽出されていないパラメータとを使用パラメータとして決定する決定ステップと、
決定された使用パラメータの基準値に基づいて予め生成された単位空間を利用して、入力した各使用パラメータの値についてマハラノビス距離を算出する算出ステップと、
算出された各マハラノビス距離が、予め定める閾値の範囲内であるか否かによって診断対象が正常か異常かを判定する第1の判定ステップと、
入力した各パラメータのうち、予め相関が強いと定められる強相関のパラメータの値が、前記予測ステップで予測される範囲内であるか否かによって診断対象が正常か異常かを判定する第2の判定ステップと、
前記第1の判定ステップ及び前記第2の判定ステップの双方で正常と判定されたときに前記診断対象は正常であると診断し、前記第1の判定ステップ及び前記第2の判定ステップの少なくともいずれかで異常と判定されたときに前記診断対象は異常であると診断する診断ステップと、
を備えることを特徴とする異常診断方法。
【請求項2】
診断対象である複数のパラメータの値を入力し、MT法を利用して異常を診断する異常診断装置であって、
診断対象である全てのパラメータから相関係数が所定の値以上のパラメータの組を強相関のパラメータの組として抽出する抽出部と、
強相関のパラメータの値が正常時にとりうる予測の範囲に関するデータを生成する生成部と、
強相関であるパラメータの組から選択された一方のパラメータと、強相関のパラメータとして抽出されていないパラメータとを使用パラメータとして決定し、使用パラメータの基準値を利用して単位空間を生成する単位空間生成部と、
生成された単位空間を利用して、入力した各使用パラメータの値についてマハラノビス距離を算出し、算出された各マハラノビス距離が、予め定める閾値の範囲内であるか否かによって診断対象が正常か異常かを判定する第1演算部と、
入力した各パラメータのうち、予め相関が強いと定められる強相関のパラメータの値が、予測の範囲内であるか否かによって診断対象が正常か異常かを判定する第2演算部と、
前記第1演算部及び前記第2演算部の双方で正常と判定されたときに前記診断対象は正常であると診断し、前記第1演算部又は前記第2演算部の少なくともいずれかで異常と判定されたときに前記診断対象は異常であると診断する診断部と、
を備えることを特徴とする異常診断装置。
【請求項3】
前記生成部は、強相関のパラメータの値の関係を表わす予測式を生成し、
前記第2演算部は、入力した強相関のパラメータの値が前記生成部が生成した予測式で予測される範囲内であるか否かを判定する
ことを特徴とする請求項2記載の異常診断装置。
【請求項4】
前記生成部は、強相関のパラメータについて予測の範囲を特定する閾値データを生成し、
前記第2演算部は、入力した強相関のパラメータの値が前記生成部が生成した閾値データで規定される範囲内であるか否かを判定する
ことを特徴とする請求項2記載の異常診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MT法を利用して異常を診断する異常診断方法及び異常診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プラント等、複数の機器を有するシステムは、複数の機器に対してそれぞれ条件を指令値として設定して運転される。また、このようなシステムでは、各指令値による運転状態が複数のセンサで応答値として計測されている。
【0003】
このようなシステムの異常は、これら複数の指令値や複数の応答値等のパラメータの値を利用して検出することができる。例えば、各機器に対応するセンサの応答値が各センサの応答値毎に求められる上下限値を超えたときに異常と診断する方法がある。しかしながら、各センサの応答値毎に上下限値を設定する場合、使用する機器が増えると、上下限値の数も増えることとなり、異常検出用の値の管理、異常検出の処理が煩雑になる問題がある。
【0004】
これに対し、MT法(マハラノビス・タグチメソッド)を用いた異常診断も提案されている(例えば、特許文献1及び2参照)。MT法を利用する場合、現在の状態を特定する値(指令値や応答値)を、基準とする単位空間の値と比較することで、容易に異常を診断することができる。
【0005】
しかしながら、MT法を用いた異常診断では、多重共線性がある問題がある。すなわち、利用するパラメータの中には、相関が強いパラメータがあり、このようなパラメータを利用すると、MT法を用いた異常診断は信頼性が低くなる。したがって、従来は、相関が強いパラメータがある場合、一方のパラメータを選択し、他方のパラメータの値は異常診断には使用していなかった。
【0006】
しかしながら、このように相関が強いパラメータの値が異常検出に重要なこともある。例えば、ある指令値と、この指令値に対する応答値には相関が強いことも多く、MT法を用いた場合、このような指令値と応答値とからは一方の値のみが異常診断に利用されるが、指令値に対する応答値の変化に異常が生じた場合には他方の値を除くことによって検出できなくなるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4413915号公報
【特許文献2】特開2009−76772号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、従来のMT法を利用した異常診断の場合、相関があるパラメータについて異常を診断することが困難であることから、多重共線性により、異常の検出精度が低下するおそれがあった。
【0009】
上記課題に鑑み、本発明は、MT法を利用した異常診断における、異常の検出精度を向上する異常診断方法及び異常診断装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明に係る異常診断方法は、MT法を利用して異常を診断する異常診断方法であって、診断対象である複数のパラメータの値を入力するステップと、入力された複数のパラメータにおいて相関係数が所定の値以上のパラメータの組を強相関のパラメータの組として抽出する抽出ステップと、抽出された強相関のパラメータの組を構成する各パラメータの値が正常時に取り得る範囲を予測する予測ステップと、強相関のパラメータの組から何れか一方のパラメータを選択する選択ステップと、選択された一方のパラメータと、強相関のパラメータの組として抽出されていないパラメータとを使用パラメータとして決定する決定ステップと、決定された使用パラメータの基準値に基づいて予め生成された単位空間を利用して、入力した各使用パラメータの値についてマハラノビス距離を算出する算出ステップと、算出された各マハラノビス距離が、予め定める閾値の範囲内であるか否かによって診断対象が正常か異常かを判定する第1の判定ステップと、入力した各パラメータのうち、予め相関が強いと定められる強相関のパラメータの値が、前記予測ステップで予測される範囲内であるか否かによって診断対象が正常か異常かを判定する第2の判定ステップと、前記第1の判定ステップ及び前記第2の判定ステップの双方で正常と判定されたときに前記診断対象は正常であると診断し、前記第1の判定ステップ及び前記第2の判定ステップの少なくともいずれかで異常と判定されたときに前記診断対象は異常であると診断する診断ステップとを備える。
【0012】
本発明に係る異常診断装置は、診断対象である複数のパラメータの値を入力し、MT法を利用して異常を診断する異常診断装置であって、診断対象である全てのパラメータから相関係数が所定の値以上のパラメータの組を強相関のパラメータの組として抽出する抽出部と、強相関のパラメータの値が正常時にとりうる予測の範囲に関するデータを生成する生成部と、強相関であるパラメータの組から選択された一方のパラメータと、強相関のパラメータとして抽出されていないパラメータとを使用パラメータとして決定し、使用パラメータの基準値を利用して単位空間を生成する単位空間生成部と、生成された単位空間を利用して、入力した各使用パラメータの値についてマハラノビス距離を算出し、算出された各マハラノビス距離が、予め定める閾値の範囲内であるか否かによって診断対象が正常か異常かを判定する第1演算部と、入力した各パラメータのうち、予め相関が強いと定められる強相関のパラメータの値が、予測の範囲内であるか否かによって診断対象が正常か異常かを判定する第2演算部と、前記第1演算部及び前記第2演算部の双方で正常と判定されたときに前記診断対象は正常であると診断し、前記第1演算部又は前記第2演算部の少なくともいずれかで異常と判定されたときに前記診断対象は異常であると診断する診断部とを備える。
【0014】
本発明に係る異常診断装置において、前記生成部は、強相関のパラメータの値の関係を表わす予測式を生成し、前記第2演算部は、入力した強相関のパラメータの値が前記生成部が生成した予測式で予測される範囲内であるか否かを判定する。
【0015】
本発明に係る異常診断装置において、前記生成部は、強相関のパラメータについて予測の範囲を特定する閾値データを生成し、前記第2演算部は、入力した強相関のパラメータの値が前記生成部が生成した閾値データで規定される範囲内であるか否かを判定する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、MT法を利用した異常診断における、異常の検出精度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施形態に係る異常診断装置の構成を説明するブロック図である。
図2】異常診断装置が診断するプラントにおける指令値と応答値の関係の一例を説明するグラフである。
図3】異常診断で利用する予測式の一例を説明するグラフである。
図4】異常診断の前の前処理について説明するフローチャートである。
図5】異常診断処理について説明するフローチャートである。
図6】本発明の変形例に係る異常診断装置の構成を説明するブロック図である。
図7】異常診断で利用する閾値の一例を説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図面を参照して、本発明に係る異常診断方法及び異常診断装置について説明する。以下では、本発明に係る異常診断方法及び異常診断装置は、複数の機器を有するプラントの異常を検出するものとして説明する。
【0019】
例えば、異常診断で対象とするプラントは、発電プラントである。発電プラントは、複数の機器(バルブ、ポンプ等)を備えており、これらの機器を制御する値が「指令値」として設定されている。この指令値は、例えば、ポンプの圧力、バルブの開閉等を操作する値である。また、発電プラントでは、複数のセンサを備えており、各センサで温度、圧力、発電量等の「応答値」が計測されている。
【0020】
MT法による異常診断では、基準となる指令値や応答値等のパラメータの値によって予め単位空間を生成し、診断時のパラメータの値をこの基準の単位空間の値と比較して異常診断を行う。この、MT法は、「いつもと同じ」状態であるかどうかを診断するものであり、予め生成したいつもと同じ状態を表す単位空間であるマハラノビス空間を基準として、求めた診断対象のマハラノビス距離が、このマハラノビス空間より遠くなるときに異常と診断する方法である。
【0021】
図1に示すように、実施形態に係る異常診断装置1aは、異常診断の前処理を実行するため、抽出部101、予測式生成部102及び単位空間生成部103を備えている。また、異常診断装置1aは、異常診断を実行するため、第1演算部104、第2演算部105、診断部106及び出力部107を備えている。
【0022】
異常診断装置1aは、例えば、中央処理装置(CPU)10や記憶装置20を備える情報処理装置であって、記憶装置20に記憶される異常診断プログラムPが読みだされて実行されることで、図1に示すように、CPU10に抽出部101、予測式生成部102、単位空間生成部103、第1演算部104、第2演算部105、診断部106及び出力部107が実装される。
【0023】
異常診断装置1aの記憶装置20は、異常診断プログラムPの他、サンプルデータD1、強相関データD2、予測式データD3及び単位空間データD4を記憶している。
【0024】
さらに、異常診断装置1aは、入力装置2及び出力装置3と接続されている。入力装置2は、キーボードや操作ボタン等であって、操作信号や選択信号を入力して異常診断装置1aに送信する。また、出力装置3は、ディスプレイ等であって、異常診断装置1aから診断結果や処理結果を受信して出力する。
【0025】
サンプルデータD1は、異常診断の対象のプラントの特徴量に関するデータであって、単位空間の生成に用いる正常な場合の各パラメータの値を関連づけている。例えば、サンプルデータD1は、異常診断の対象であるプラントが有する機器を操作する「指令値」や、プラントが理想的な状態の場合に操作された機器の状態をセンサ等で測定した「応答値」等のパラメータ値を関連付けるデータである。
【0026】
強相関データD2は、サンプルデータに含まれる複数のパラメータの中で、強相関のパラメータの組み合わせに関するデータである。図2に示すグラフを用いて、相関が強いパラメータの一例を説明する。図2では、横軸を時間、縦軸をパラメータの値とするグラフである。例えば、ある機器の操作に使用する「指令値x」と、この指令値によって操作された機器の状態をセンサで測定した「応答値y」があるとする。プラントが正常に運転されている場合、図2に示すように「応答値y」は「指令値x」の値に応じて変化する値であり、「応答値y」は「指令値x」とは相関が強い。強相関データD2では、「指令値x」と「応答値y」のように相関が強いパラメータを関連づけている。強相関のパラメータの組み合わせが複数ある場合には、強相関データD2では、複数のパラメータの組み合わせを有している。なお、図2に示すように、異常が発生した場合、「応答値y」は、「指令値x」から予測できない値となる。
【0027】
予測式データD3は、相関が強いパラメータの異常の特定に利用する予測式を有するデータである。例えば、「指令値x」と「応答値y」とが強相関であると定められ、この強相関のパラメータxとyとの関係が、式(1)の予測式として求められている場合、予測式データD3はこの予測式を含むデータである。なお、式(1)中のa及びbは定数である。
y=ax+b ・・・(1)
【0028】
単位空間データD4は、異常診断で使用する単位空間を表わすデータである。具体的には、単位空間データD4は、単位空間であるマハラノビス空間の生成に使用した複数のパラメータの値と、各平均値と、各パラメータの標準偏差と、各パラメータについての相関行列の逆行列とに、マハラノビス空間に設定された閾値を関連付けたデータである。この単位空間データD4に含まれるパラメータの値は、サンプルデータD1に含まれるパラメータの値から、使用パラメータとして選択されたパラメータの値である。
【0029】
抽出部101は、異常診断装置1aが前処理をするタイミングで、記憶装置20からサンプルデータD1を読み出し、読み出したサンプルデータD1の各パラメータの値を利用して、MT法で一般的に実行される手順で相関行列を生成する。続いて、抽出部101は、生成した相関行列に含まれる相関係数の値を利用して、強相関となるパラメータの組み合わせを抽出する。また、抽出部101は、抽出した強相関のパラメータの組み合わせを、強相関データD2として記憶装置20に記憶させる。ここで、異常診断装置1aで前処理をするタイミングとは、例えば、定期的なタイミングや入力装置2を介して前処理の開始の操作信号を入力するタイミングである。
【0030】
具体的には、抽出部101は、基準値である各パラメータの値について、平均値及び標準偏差を求め、各パラメータ値、平均値及び標準偏差から規準化値を求め、この規準化値から相関行列を生成する。また、抽出部101は、相関係数が所定の値(例えば、0.8)以上となるパラメータの組み合わせを強相関であるとして抽出する。このとき、抽出部101は、強相関であるパラメータの組み合わせが複数ある場合には、強相関となるパラメータの組み合わせを全て抽出し、複数の組み合わせを含む強相関データD2を生成する。
【0031】
予測式生成部102は、抽出部101によって強相関となるパラメータの組み合わせが抽出されると、相関が強いパラメータの関係を表す予測式を生成する。また、予測式生成部102は、生成した予測式を含むデータを、予測式データD3として記憶装置20に記憶させる。例えば、「指令値x」と「応答値y」とが強相関であるとして抽出されたとき、予測式生成部102は、回帰分析等の手法を利用して、「指令値x」と「応答値y」との関係を表す予測式を生成する。
【0032】
単位空間生成部103は、抽出部101によって強相関となるパラメータの組み合わせが抽出されると、強相関のパラメータの組み合わせのうち、1のパラメータのみを異常診断で使用する使用パラメータとして決定する。また、単位空間生成部103は、強相関として抽出されていない全てのパラメータも使用パラメータとして決定する。その後、単位空間生成部103は、使用パラメータとして決定した各パラメータを用いてマハラノビス空間を生成する。さらに、単位空間生成部103は、生成したマハラノビス空間とともにこのマハラノビス空間に設定される閾値を単位空間データD4として記憶装置20に記憶させる。ここで、相関の強い2のパラメータのうち、いずれのパラメータを選択してマハラノビス空間の生成に利用するかについては、限定されない。
【0033】
具体的には、単位空間生成部103は、使用パラメータの値について、平均値及び標準偏差を求め、各パラメータの値、平均値及び標準偏差から規準化値を求め、相関行列を生成する。その後、単位空間生成部103は、生成した相関行列の逆行列を求めて、マハラノビス空間とする。また、単位空間データD4に含まれる各パラメータの閾値は、例えば入力装置2を介して入力される。
【0034】
第1演算部104は、異常診断処理時に、プラントから新たに各パラメータの値を入力すると、入力した値のうち使用パラメータの値、及び単位空間データD4として記憶されるマハラノビス空間を利用して、各使用パラメータの値についてそれぞれマハラノビス距離を演算する。
【0035】
また、第1演算部104は、演算したマハラノビス距離が、単位空間データD4で予め定められる閾値の範囲内であるか否かに応じて異常を判定し、判定結果を診断部106に出力する。例えば、あるパラメータの値について求めたマハラノビス距離が閾値の範囲内であれば、第1演算部104は、このパラメータは正常であると判定する。また、あるパラメータの値について求めたマハラノビス距離が閾値の範囲外であれば、第1演算部104は、このパラメータは異常であると判定する。
【0036】
第2演算部105は、異常診断処理時に、入力した各パラメータの値うち、強相関データD2で相関が強いとされているパラメータの組み合わせの値を利用して、予測式データD3の予測式を演算する。
【0037】
また、第2演算部105は、演算結果を利用して、相関が強いパラメータの値の関係が予測の範囲内であるか否かに応じて異常を判定し、判定結果を診断部106に出力する。例えば、「指令値x」と「応答値y」との関係に上述した式(1)の予測式y=ax+bが規定されているとする。ここで、図3に示すように、「指令値x」が「x1」、「x2」及び「x3」であって、「応答値y」がそれぞれ「y1」、「y2」及び「y3」であるとき、第2演算部105は、指令値xと応答値yとの関係は予測の範囲内であって正常であると判定する。一方、図3に示すように、「指令値x」が「x4」であって「応答値y」が「y4」であるとき、第2演算部105は、指令値xと応答値yとの関係は予測の範囲外であって異常であると判定する。なお、予測式に対してどの程度の誤差を予測範囲とするかについては、例えば、予め定めて予測式データD3に記憶しておく。
【0038】
診断部106は、第1演算部104においてマハラノビス距離を用いて判定された判定結果と、第2演算部105において予測式の演算結果を用いて判定された判定結果とを合わせて、プラントの運転状態が正常であるか異常であるかを診断し、診断結果を出力装置3に出力する。具体的には、診断部106は、第1演算部104と第2演算部105の双方で正常と判定されたときにはプラントは正常と診断し、第1演算部104又は第2演算部105の少なくともいずれか一方で異常と判定されたときにはプラントは異常と診断する。
【0039】
出力部107は、診断部106の診断結果を出力装置3に出力する。
【0040】
《前処理》
図4に示すフローチャートを用いて、異常診断装置1aにおける前処理について説明する。前処理では、抽出部101が、相関行列を生成する(S11)。また、抽出部101が、ステップS11で生成された相関行列から強相関のパラメータの組み合わせを抽出し、強相関データD2として記憶装置20に記憶する(S12)。
【0041】
抽出部101が強相関のパラメータを抽出すると、予測式生成部102は、各パラメータについて強相関のパラメータがあるか否かを判定し(S13,S14でYES)、強相関のパラメータの組み合わせについては予測式を生成する(S15)。その後、予測式生成部102は、ステップS15で生成した全ての予測式を利用して予測式データD3を生成して記憶装置20に記憶する(S16)。
【0042】
また、単位空間生成部103が、単位空間の生成に利用する利用パラメータを決定する(S17)。続いて、単位空間生成部103は、決定した利用パラメータを利用して単位空間を生成し、単位空間データD4として記憶装置20に記憶する(S18)。
【0043】
なお、図4に示すフローチャートでは、予測式生成部102における予測式の生成及び予測式データの生成の後に、単位空間生成部103における単位空間の生成を実行しているが、これに限られない。すなわち、異常診断装置1aにおける、予測式の生成及び単位空間の生成の順序は逆でもよく、または、同時に行なわれてもよい。
【0044】
《異常診断処理》
続いて、図5に示すフローチャートを用いて、異常診断装置1aにおける異常診断処理について説明する。異常診断処理では、第1演算部104は、プラントから入力した新たな使用パラメータの値、単位空間データD4に記憶されるマハラノビス空間を利用して、マハラノビス距離を求める(S21)。その後、第1演算部104は、求めたマハラノビス距離が、単位空間データD4で定められる閾値の範囲内であるか否かにより異常を判定し、判定結果を診断部106に出力する(S22)。
【0045】
その後、第2演算部105は、入力した新たなパラメータ値のうち、強相関データD2において強相関である各パラメータの値について(S23)、予測式データD3に含まれる予測式を演算する(S24)。また、第2演算部105は、演算結果に応じて異常を判定し、判定結果を診断部106に出力する(S25)。
【0046】
第1演算部104及び第2演算部105から判定結果を入力した診断部106は、入力した判定結果を合わせて異常を診断する(S26)。その後、出力部107は、診断結果を出力装置3に出力する(S27)。
【0047】
なお、図5に示すフローチャートでは、第1演算部104における演算及び判定の後に、第2演算部における演算及び判定を実行しているが、これに限られない。すなわち、第1演算部104及び第2演算部105における処理の順序は逆でもよく、または、同時に行なわれてもよい。
【0048】
上述したように、本発明に係る異常診断方法及び異常診断装置1aでは、MT法を利用した異常判定に加えて、強相関のパラメータについては予測式を利用して異常を判定し、MT法を利用する異常判定と強相関のパラメータについての異常判定との結果から、異常を判定する。これにより、強相関のパラメータで異常が発生した場合であっても、強相関のパラメータについても異常の発生を検出することが可能となり、多重共線性の問題を解決して異常診断の精度を向上させることができる。
【0049】
〈変形例〉
図6に示すブロック図及び図7に示すグラフを用いて、本発明の変形例に係る異常診断装置1bについて説明する。異常診断装置1bの説明において、上述した異常診断装置1aと同一の構成については、図1と同一の符号を用いて説明を省略する。変形例に係る異常診断装置1bは、図1を用いて上述した実施形態に係る異常診断装置1aと比較して、予測式生成部102に代えて閾値登録部108を備え、予測式データD3に代えて閾値データD5を記憶している点で異なる。
【0050】
閾値登録部108は、抽出部101が強相関のパラメータの組み合わせを抽出すると、一方のパラメータについて異常を診断する閾値を設定し、閾値データD5として記憶装置20に記憶する。例えば、抽出部101によって「指令値x」と「応答値y」が強相関であると抽出されると、閾値登録部108は、「指令値x」または「応答値y」のいずれか一方のパラメータを選択し、選択したパラメータに閾値を登録する。ここで、抽出部101で複数のパラメータの組が抽出された場合、抽出された各パラメータの組から一方のパラメータを選択して閾値を登録する。相関の強い2のパラメータのうち、いずれのパレメータを選択して閾値を設定するかについては、限定されない。なお、一方のパラメータだけでなく、両方のパラメータに対して閾値を設定してもよい。また、例えば、登録する閾値には、例えば、入力装置2を介して入力する値を利用する。
【0051】
第2演算部105は、異常診断の処理時には、入力するパラメータの値のうち、強相関のパラメータとして強相関データD2に登録され、閾値が閾値データD5で登録されているパラメータを抽出する。また、第2演算部105は、抽出したパラメータの値が閾値の範囲内か否かによって異常か否かを判定し、判定結果を診断部106に出力する。
【0052】
例えば、閾値登録部108が「応答値y」を選択し、図7に示すように閾値に「α」が設定されてこの閾値α以上の値となったときに異常と判定すると登録したとする。図7において、横軸は時間を示し、縦軸は入力するパラメータの値(応答値y)を示している。ここで、時間t1に入力した値y1、時間t2に入力した値y2および時間t3に入力した値y3は、閾値「α」以下であり、第2演算部105は、応答値yは正常であると判定する。これに対し、時間t4に入力した値y4は、閾値「α」以上であり、第2演算部105は、応答値yは異常であると判定する。
【0053】
診断部106は、第1演算部104においてマハラノビス距離を用いて判定された判定結果と、第2演算部105において閾値を用いて判定された判定結果とを利用して異常を診断する。
【0054】
上述したように、変形例に係る異常診断方法及び異常診断装置1bでは、MT法を利用した異常判定に加えて、強相関のパラメータについては閾値を利用して異常を判定し、MT法を利用する異常判定と強相関のパラメータについての異常判定との結果から、異常を判定する。これにより、強相関のパラメータで異常が発生した場合であっても、強相関のパラメータについても異常の発生を検出することが可能となり、多重共線性の問題を解決して異常診断の精度を向上させることができる。
【0055】
以上、実施形態を用いて本発明を詳細に説明したが、本発明は本明細書中に説明した実施形態に限定されるものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載及び特許請求の範囲の記載と均等の範囲により決定されるものである。
【符号の説明】
【0056】
1a,1b…異常診断装置
10…CPU
101…抽出部
102…予測式生成部(生成部)
103…単位空間生成部
104…第1演算部
105…第2演算部
106…診断部
107…出力部
108…閾値登録部(生成部)
20…記憶装置
P…異常診断プログラム
D1…サンプルデータ
D2…強相関データ
D3…予測式データ
D4…単位空間データ
D5…閾値データ
2…入力装置
3…出力装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7