特許第5949147号(P5949147)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5949147電池状態判定方法、電池制御装置、及び電池パック
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5949147
(24)【登録日】2016年6月17日
(45)【発行日】2016年7月6日
(54)【発明の名称】電池状態判定方法、電池制御装置、及び電池パック
(51)【国際特許分類】
   H02J 7/00 20060101AFI20160623BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20160623BHJP
   G01R 31/36 20060101ALI20160623BHJP
   H02J 7/02 20160101ALI20160623BHJP
   H02H 7/18 20060101ALI20160623BHJP
【FI】
   H02J7/00 Q
   H01M10/48 P
   G01R31/36 A
   H02J7/02 H
   H02J7/00 S
   H02H7/18
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-116497(P2012-116497)
(22)【出願日】2012年5月22日
(65)【公開番号】特開2013-243881(P2013-243881A)
(43)【公開日】2013年12月5日
【審査請求日】2014年10月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100074099
【弁理士】
【氏名又は名称】大菅 義之
(72)【発明者】
【氏名】野村 博之
(72)【発明者】
【氏名】倉石 守
(72)【発明者】
【氏名】吉澤 宏昌
(72)【発明者】
【氏名】都竹 隆広
(72)【発明者】
【氏名】松井 正清
【審査官】 稲葉 崇
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−135657(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R31/36,
H01M10/42−10/48,
H02H7/00,
H02H7/10−7/20,
H02J7/00−7/12,
H02J7/34−7/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
充放電が行われる電池の状態をコンピュータにより判定するための方法であって、
前記電池の端子間の電圧値を検出し、
該検出した電圧値を用いて、該電圧値の時間微分値を演算し、
該演算により得られた時間微分値の絶対値が予め定めた閾値より大きい場合、前記電池の状態として、該電池に搭載された電流遮断機構が作動解除したと判定する、
ことを特徴とする電池状態判定方法。
【請求項2】
前記電流遮断機構が作動解除したか否かの判定は、前記時間微分値の他に、前記検出した電圧値を用いて行う、
ことを特徴とする請求項1記載の電池状態判定方法。
【請求項3】
充放電される電池セルが複数、接続された電池を制御する電池制御装置において、
電流遮断機構を備えた電池セルである第1の電池セル毎に、該第1の電池セルの端子間の電圧値を取得する電圧値取得手段と、
前記電圧値取得手段が取得した電圧値を用いて、該電圧値の時間微分値を演算する演算手段と、
前記演算手段が演算した時間微分値の絶対値が予め定めた閾値より大きい場合、前記第1の電池セルの前記電流遮断機構が作動解除したと判定する状態判定手段と、
を具備することを特徴とする電池制御装置。
【請求項4】
前記状態判定手段は、前記時間微分値、及び前記電圧値取得手段が取得した電圧値を用いて、前記電流遮断機構が作動解除したか否かを判定する、
ことを特徴とする請求項3記載の電池制御装置。
【請求項5】
充放電される電池セルが複数、接続された電池を備えた電池パックにおいて、
電流遮断機構を備えた電池セルである第1の電池セル毎に、該第1の電池セルの端子間の電圧値を検出する電圧値検出手段と、
前記電圧値検出手段が検出した電圧値を用いて、該電圧値の時間微分値を演算する演算手段と、
前記演算手段が演算した時間微分値の絶対値が予め定めた閾値より大きい場合、前記第1の電池セルの前記電流遮断機構が作動解除したと判定する状態判定手段と、
を具備することを特徴とする電池パック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電流遮断機構を搭載した電池(電池セル)を用いるための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
充電可能な電池(二次電池)は現在、広く用いられている。1つの電池の端子間に得られる電圧は、比較的に小さいのが実情である。このため、より高い電圧を発生させる必要のある電池では、構成要素となる電池である電池セルを複数、直列に接続した構成が採用される。
【0003】
二次電池では、過放電、過充電により特性の劣化が大きくなる。電池セル間の電池容量のアンバランス化は、電池全体の電池容量の低下を招く。このこともあり、電池セルを直列に接続した構成の電池を用いる装置では、電池セル毎に、電圧監視を行い、監視結果を放電、及び充電の各制御に反映させることにより、過放電、或いは過充電による特性の劣化を抑えるようになっている。
【0004】
電圧監視による放電、及び充電の制御を行っても、何らかの理由によってその制御を適切に行えない可能性が考えられる。このことから、電池セルには、電流遮断機構(CID:Current Interrupt Device)が搭載されることが多くなっている。
【0005】
電流遮断機構は、例えば、電池セル内部の圧力上昇等によって作動する安全装置であり、内圧上昇等によって電流を遮断する。そのため、内圧が上昇する高温時、例えば過充電時、或いは過電流発生時には、電流遮断機構により、電池セルへの電流の供給、及び電池セルからの電流の供給を遮断することができる。それにより、電流遮断機構を搭載した電池セルを用いた場合、より高い安全性を確保することができる。
【0006】
電圧監視による充電制御は、電流遮断機構が作動しないように、つまり電流が遮断されないように行われるのが普通である。このため、電流遮断機能の作動には、充電制御が適切に行えない状態となっている可能性が考えられる。それにより、電池を搭載した装置では、電流遮断機構が作動した場合、電池からの放電、及び電池への充電に用いられる経路の接続を切断するようにしているのが普通である。
作動した電流遮断機構は、例えば、内圧の下降等により、自動的に作動解除する。その作動解除により、電池は電流が流れることが可能な状態に復帰し、使用可能となる。電池を搭載した装置では、電流遮断機構の作動による制限(例えば装置を使用できないようにするといった制限)を解除が可能となる。このことから、電流遮断機構の作動解除を高精度に検出することが重要と思われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−191544号公報
【特許文献2】特開平10−270091号公報
【特許文献3】特開2011−200071号公報
【特許文献4】特開2000−236247号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、電池セルに搭載された電流遮断機構の作動解除を高精度に検出(判定)するための技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の1態様は、充放電が行われる電池の状態をコンピュータにより判定するための方法であり、コンピュータは、前記電池の端子間の電圧値を検出し、該検出した電圧値を用いて、該電圧値の時間微分値を演算し、該演算により得られた時間微分値を基に、前記電池の状態として、該電池に搭載された電流遮断機構が作動解除したか否かを判定する。
【0010】
本発明の他の1態様は、充放電される電池セルが複数、接続された電池を制御する電池制御装置であり、電流遮断機構を備えた電池セルである第1の電池セル毎に、該第1の電池セルの端子間の電圧値を取得する電圧値取得手段と、前記電圧値取得手段が取得した電圧値を用いて、該電圧値の時間微分値を演算する演算手段と、前記演算手段が演算した時間微分値に基づいて、前記第1の電池セルの前記電流遮断機構が作動解除したか否かを判定する状態判定手段と、を具備する。
【0011】
本発明の更に他の1態様は、充放電される電池セルが複数、接続された電池を備えた電池パックであり、電流遮断機構を備えた電池セルである第1の電池セル毎に、該第1の電池セルの端子間の電圧値を検出する電圧値検出手段と、前記電圧値検出手段が検出した電圧値を用いて、該電圧値の時間微分値を演算する演算手段と、前記演算手段が演算した時間微分値に基づいて、前記第1の電池セルの前記電流遮断機構が作動解除したか否かを判定する状態判定手段と、を具備する。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、電池、或いは電池セルに搭載された電流遮断機構の作動解除を高精度に検出(判定)することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施形態による電池パックの構成例を説明する図である。
図2】電流遮断機構の作動、及び作動解除に伴う電圧値、及び電流値の時間変化を説明する図である。
図3】CID作動解除判定処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態による電池パックの構成例を説明する図である。
この電池パック1は、例えば電気自動車(EV)、或いはプラグインハイブリッド自動車(PHV)等の車両に搭載されることを想定したものである。図1に示すように、電池パック1は、電池制御ECU(Electronic Control Unit)11、電池セル120が複数、直列に接続された電池12、SMR(System Main Relay)13、電流センサ14、及び温度センサ15を備えている。
【0015】
電池パック1が搭載される車両には、車両システム全体を制御するECU(図1中「HV/PHV ECU」と表記。ここでは以降「車両ECU」と呼ぶことにする)2が備えられている。電池パック1が車両に搭載された場合、その電池パック1の電池制御ECU11は車両ECU2と通信可能な状態となり、その電池制御ECU11には、例えば車両本体の電源3から電力が供給される。その電力供給によって、電池制御ECU11は動作可能となり、車両ECU2からの指示に従った動作を行う。なお、電池制御ECU11への電力供給は、電源3以外の1つ以上のものから行えるようになっていても良い。電池制御ECU11に電力を供給する電源の種類やその数は特に限定されない。
【0016】
上記電池制御ECU11は、例えばCPU(Central Processing Unit)、メモリ、CPUが実行するプログラム(ファームウェア)が格納された記録媒体、及び複数のインターフェースを備えたコンピュータ(データ処理装置)である。本実施形態による電池制御装置は、この電池制御ECU11に搭載される形で実現されている。本実施形態による電池状態判定方法も、この電池制御ECU11によって実行される。
【0017】
電池12を構成する各電池セル120は、図1に表すように、電池セル本体121と、電流遮断機構(CID)122とを備える。電流遮断機構122は、例えば、電池セル本体121の内圧上昇により、電気的な接続を強制的に切断する安全装置である。内圧は、温度の上昇に伴い上昇する。温度は、発熱体からの熱伝達による加熱、過充電、過放電、或いは過電流発生(例えば短絡)等が原因となって上昇する。電流遮断機構122は、そのような原因による安全性の低下を抑える。
【0018】
各電池セル120には、その端子間の電圧値を検出するための電圧センサ16が設けられている。この電圧センサ16は、各電池セル120の端子間の電圧値を検出するための電圧値検出手段であり、電流遮断機構122の作動解除の判定の他に、過放電、及び過充電の防止、更には電池セル120間における電池容量のバランス化といった用途にも用いられる。
【0019】
なお、本実施形態では、電池12は、電流遮断機構122を備えた電池セル120を複数、直列に接続した構成となっているが、それとは異なる構成であっても良い。つまり電池12は、例えば電流遮断機構122を備えた電池セル120を複数、直列に接続した電池モジュールを複数、並列に接続した構成であっても良い。特性の劣化がし難い電池セル120の配置等が予め判明しているような場合、電池セル120として、電流遮断機構122を備えていない電池セル120を用いても良い。このようなことから、電池パック1に搭載させる電池12は、図1に表すようなものに限定されない。
【0020】
電池12は、不図示のモータへの電力供給に用いられる。電池12の定格電圧は、そのモータの定格電圧よりも低い。このことから、電池12からの放電による電力は、SMR13を介して、不図示の昇圧コンバータに供給されるようになっている。
【0021】
モータは、充電時には電力を発生する発電機となる。そのモータが発生した電力は、例えば昇圧コンバータにより降圧され、SMR13を介して電池12に充電用に供給される。それにより、SMR13は、電池12からの放電、及び電池12への充電のための経路上に設けられた電流のオン/オフを行うことが可能なリレー手段として機能する。電池制御ECU11は、必要に応じてSMR13における電流のオン/オフの切り換えを行う制御手段として機能する。
【0022】
電流センサ14は、電池12に供給される電流値、或いは電池12から供給される電流値を検出するための電流値検出手段である。温度センサ15は、電池パック1内の温度を検出するための温度検出手段である。電流センサ14が検出した電流値、温度センサ15が検出した温度は、各電池セル120の電圧センサ16が検出した電圧値と同様に、電池制御ECU11に入力され、処理される。それにより、電池制御ECU11は、電流センサ14が検出した電流値を取得する電流値取得手段、及び各電圧センサ16が検出した電圧値を取得する電圧値取得手段として機能する。
【0023】
電池12に流れる電流の向きは、放電時と充電時とで異なる。それにより、電流センサ14が検出する電流値の符号は、その電流の向きによって変化する。電流遮断機構122の作動時は、電池12に電流は流れなくなることから、電流センサ14によって検出される電流値は0か、或いは0近傍の値となる。電流遮断機構122を作動させる電池セル本体121の内圧の上昇は、何らかの発熱体からの熱伝達による加熱でない限り、その電池セル本体121に流れる電流によって生じるのが普通である。電池制御ECU11は、車両ECU2からの通知、或いは指示により、電池12に電流が流れる状況を認識することができる。このことから、電池制御ECU11は、電池12に電流が流れる状況時に、電流センサ14が検出する電流値が0、或いは0近傍の値となった場合に、電流遮断機構122が作動したと判定し、SMR13をオフ、つまりSMR13による接続を遮断させ、その判定結果を車両ECU2に通知する。
【0024】
SMR13をオフさせた場合、電流遮断機構122が作動解除しても電池12に電流は流れない。また、電流遮断機構122の作動を通知された車両ECU2は、電池12に電流が流れないように制御を行うことが可能である。このようなことから、本実施形態では、電池セル120毎に設けられた電圧センサ16が検出する電圧値を用いて、電流遮断機構122の作動解除の判定を行うようにしている。それにより、電池制御ECU11は、電池12(電池セル120)の電流遮断機構122の作動解除を判定する状態判定手段として機能する。電流遮断機構122の作動解除の判定方法について、図2を参照して具体的に説明する。
【0025】
図2は、電流遮断機構の作動、及び作動解除に伴う電圧値、及び電流値の時間変化を説明する図である。図2(a)は、電流遮断機構(CID)122が作動した電池セル120の電圧センサ16によって検出された電圧値の時間変化の例を表し、図2(b)は、電流センサ14によって検出された電流値の時間変化の例を表している。電流遮断機構122が作動したのは時刻t1であり、作動解除したのは時刻t2である。電流遮断機構122の作動解除は「CID再導通」と表記している。
【0026】
電圧センサ16によって検出される電圧値は、電流遮断機構122の作動に伴う電流の流れの停止に伴い、時刻t1以降、不定となる。つまり信頼できない値となる。一方、電流センサ14によって検出される電流値は、電流遮断機構122の作動に伴う電流の流れの停止に伴い、それまでの値から0に急激に低下する。
【0027】
電流遮断機構122の作動が外部からの熱伝達により発生していない場合、電流の遮断によってジュール熱の発生は停止し、電流遮断機構122が作動した電池セル本体121の内圧は下降する。それにより、作動した電流遮断機構122は、時刻t2に作動解除する。
【0028】
電流遮断機構122が作動解除しても、SMR13はオフされていることから、電流センサ14が検出する電流値は0を維持する。しかし、電圧センサ16が検出する電圧値は、電流遮断機構122の作動解除に伴い、電池セル120の端子間に電圧が発生するため、その端子間の電圧を表す値となる。このため、電流遮断機構122の作動に伴う電流の流れの停止によって電圧センサ16の検出する電圧値がそれまで信頼できない値であったとしても、電流遮断機構122の作動解除の直前に電圧センサ16の検出する電圧値が適切な値でない限り、電流遮断機構122の作動解除の前後に電圧センサ16が検出する電圧値には比較的に大きな差が発生することになる。本実施形態は、このことに着目し、電流遮断機構122の作動解除を判定する。
【0029】
電池制御ECU11は、電流遮断機構122の作動解除を判定するために、電圧センサ16が検出した電圧値の時間微分値、例えば電圧センサ16が前回、検出した電圧値と今回、検出した電圧値の差分値を計算する。それにより、電池制御ECU11は、時間微分値を計算する演算手段として機能する。
【0030】
電池制御ECU11は、計算した差分値の絶対値を予め定めた閾値と比較し、その絶対値がその閾値より大きい場合、電流遮断機構122が作動解除した可能性があると見なす。絶対値を閾値と比較するのは、電流遮断機構122の作動に伴い電流の流れが停止した場合、電圧センサ16によって検出される電圧値は不定となるからである。図2(a)では、電圧値が不定の部分を実線から破線に変えて表しているが、その破線で表す電圧値の変化は1例であり、不定となっている期間、検出される電圧値が下降傾向にあるとは限らない。それにより、差分値の符号は正負の何れも有り得ることになる。差分値(時間微分値)は以降「電圧変化値」と表記する。
【0031】
電流遮断機構122が作動した電池セル120の温度センサ16が検出する電圧値は不定となることに着目し、電流遮断機構122が作動した電池セル120を特定することができる。その特定は、電圧センサ16が検出する電圧値が不自然に変化する電池セル120を抽出することで行うことができる。これは、電池12に電流が流れていない状況では、電流遮断機構122が作動している電池セル120以外に、検出される電圧値が比較的に大きく変化するとは考え難いからである。このことから、電流遮断機構122の作動解除の判定は、特定した電池セル120、つまり電流遮断機構122が作動している可能性が考えられる電池セル120のみを対象に行えば良い。このように電流遮断機構122が作動している可能性が考えられる電池セル120を特定できることから、電流遮断機構122の作動解除の判定を行うべき電池セル120は判明していると想定する。
【0032】
本実施形態では、電流遮断機構122の作動解除をより高精度に判定するために、電圧変化値の絶対値が上記閾値より大きい場合、検出された電圧値が所定の範囲内か否かの確認を行うようにしている。この範囲とは、例えば電池セル120の放電を停止させる電圧値(以降「正常下限閾値」と表記)から電池セル120の定格電圧値(以降「正常上限閾値」と表記)までの範囲である。それにより、電流遮断機構122の作動解除の判定は、電圧変化値の絶対値が上記閾値より大きく、且つ、検出された電圧値がその範囲内であった場合に行われる。
【0033】
このようにして本実施形態では、2段階の比較を通して、電流遮断機構122の作動解除の判定を行う。それにより、電圧センサ16が検出する電圧値が一時的に比較的に大きく変動したとしても、電流遮断機構122が作動解除したと誤って判定するのを抑えることができる。このため、電流遮断機構122の作動解除はより高精度に判定することができる。電流遮断機構122の作動解除判定に電圧変化値を用いているため、その判定も迅速に行うことができる。
【0034】
電流遮断機構122の作動解除を高精度に判定(検出)することで、安全性を確保しつつ、使用可能な状態となった電池12の使用をタイムリに再開させることができる。電池制御ECU11は、SMR13をオフからオンに切り換えることにより、電池12からの放電、或いは電池12への充電を行える状態に移行させることができる。車両ECU2は、電池制御ECU11からの電流遮断機構122の作動の通知により警告、或いは速度制限等を行っていた場合、電池制御ECU11からの電流遮断機構122の作動解除の通知により、それらを解除させることができる。このようなことから、ユーザにとっては、安全性が確保されつつ、車両をより快適に利用できることとなる。
【0035】
なお、電流遮断機構122の作動解除の判定には、検出された電圧値を必ず用いる必要はない。例えば電池12に電流が流れていない状況では、電流遮断機構122が作動した電池セル120の電圧値は、温度センサ15が検出する温度が上昇していない限り、その電流遮断機構122の作動解除時に上昇しているとは考えにくい。これは、温度センサ15が検出する温度が上昇していないのであれば、電池セル本体121の内圧は温度低下により下降したと考えられるからである。温度が低下していれば、電池セル120の端子間の電圧値も小さくなっているのが普通である。また、電流の遮断時に電圧センサ16が検出する電圧値も、不定であっても上昇する方向に急激に変化することは起こりにくい。このようなことから、電圧センサ16が検出する電圧値が変化する方向、及びその変化量を考慮し、その電圧値が上昇する方向に比較的に大きく変化した場合、電流遮断機構122の作動解除と判定しても良い。つまり2つの閾値を用意し、電圧変化値が大きい方の閾値よりも大きいことが確認できた時点で電流遮断機構122が作動解除と判定しても良い。電圧変化値が大きい方の閾値以下であり、且つ小さい方の閾値より大きければ、検出された電圧値を用いて更に電流遮断機構122が作動解除しているか否かを判定するようにすれば良い。
【0036】
図3は、CID作動解除判定処理のフローチャートである。この判定処理は、電池制御ECU11が、電池セル120で作動した電流遮断機構122の作動解除を検出するための処理であり、例えば電圧センサ16が電圧値をサンプリングするサンプリング時間から定められた一定時間が経過する度に実行される。次に図3を参照し、上記のように電流遮断機構122の作動解除を判定するために電池制御ECU11が実行する処理について、詳細に説明する。
【0037】
上記のように、電流遮断機構122の作動解除の判定を行うべき電池セル120は予め特定することができる。特定される電池セル120の数は1つであるとは限らない。しかし、図3では便宜的に、特定される電池セル120の数は1つのみと想定し、処理の流れを表している。
【0038】
先ず、S1では、電池制御ECU11は、何れかの電池セル120の電流遮断機構122が作動しているか否か判定する。電池制御ECU11は、電流遮断機構122が作動したと判定した場合、そのことを履歴として不図示のメモリに保存すると共に、電流遮断機構122が作動している可能性が考えられる電池セル120を特定して、特定した電池セル120を表す識別情報をそのメモリに保存する。電流遮断機構122が作動解除した旨のメモリへの記録は、保存された識別情報が表す電池セル120の全てで電流遮断機構122の作動解除が確認された場合に行われる。このことから、直前に保存された電流遮断機構122の作動した旨の記録の後、電流遮断機構122の作動解除した旨の記録が行われていない場合、S1の判定はY(Yes)となってS2に移行する。その電流遮断機構122の作動解除した旨の記録が行われていた場合、S1の判定はN(No)となる。その場合、電流遮断機構122の作動解除の判定を行う必要はないことから、ここでCID作動解除判定処理が終了する。
【0039】
S2では、電池制御ECU11は、各電圧センサ16から電圧値を取り込み、識別番号が保存された電池セル120毎に、電圧変化値を算出する。この電圧変化値の算出は、今回、取り込んだ電圧値から、前回、取り込んだ電圧値を減算することで行われる。図3では、電圧変化値の算出式として「電圧変化値=d(電圧値)dt」と表記している。
【0040】
S2に続くS3では、電池制御ECU11は、電圧変化値の絶対値が閾値(図3中「CID再導通閾値」と表記)より大きいか否か判定する。電圧変化値がその閾値より大きい場合、S3の判定はYとなってS4に移行する。電圧変化値がその閾値以下であった場合、S3の判定はNとなり、ここでCID作動解除判定処理が終了する。
【0041】
S4では、電池制御ECU11は、今回、取り込んだ電圧値が、正常下限閾値と正常上限閾値とによって制限される範囲内か否か判定する。取り込んだ電圧値が、正常下限閾値以下、或いは正常上限閾値以上であった場合、S4の判定はNとなり、ここでCID作動解除判定処理が終了する。一方、取り込んだ電圧値が、正常下限閾値より大きく、且つ正常上限閾値未満であった場合、S4の判定はYとなり、S5に移行する。
【0042】
S5では、電池制御ECU11は、作動していた電流遮断機構122が作動解除したとして、その旨を履歴としてメモリに記録すると共に、その判定結果の車両ECU2への通知等を行う。その後、CID作動解除判定処理を終了する。
【0043】
上記のように、車両ECU2は、電池制御ECU11からの電流遮断機構122の作動の通知により警告、或いは速度制限等を行っていた場合、電池制御ECU11からの電流遮断機構122の作動解除の通知により、それらを解除させる。それにより、ユーザにとっては、安全性が確保されつつ、車両をより快適に利用することができる。
【0044】
なお、本実施形態では、電池パック1内の電池制御ECU11に電池制御装置を搭載させているが、その電池制御装置は、電池パック1外のデータ処理装置上に搭載させても良い。電池パック1は、車両に搭載されることを想定しているが、電池パック1は車両以外の装置に搭載されるものであっても良い。このようなこともあり、様々な変形を行うことができる。
【符号の説明】
【0045】
1 電池パック
11 電池制御ECU
12 電池
13 SMR
14 電流センサ
15 温度センサ
16 電圧センサ
120 電池セル
121 電池セル本体
122 電流遮断機構(CID)
図1
図2
図3